戦姫絶唱シンフォギアIF 〜陰る陽だまり〜   作:ボーイS

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仕事のため遅れました。許してクレメンス_(:3」z)_

今回は奏さん頑張りますよ!そりゃもう命を燃やし尽くすくらいに……

皆さんの期待を良い意味で裏切りたいと思いながらもそう上手くいかないだろうなーと思う作者であります_(:3」z)_

それでは、どうぞ!


十四話

「────────!!!」

 

 辺りを黒く染め、近くにいるだけで身震いして身体が勝手に逃げ出そうとしまうほどの圧倒的な威圧。その中心で小日向未来はまるで獣の咆哮のような、声にならないほど泣き叫ぶ。

 

「はっはっはっはあ!!!最高だぞ!小日向未来!」

 

 自身もその威圧を全身で受けているはずのフィーネは、それでも歓喜していた。

 

「くそ!小日向に何をしやがった!?」

「くく、私は何もしていない」

「嘘をつくな!」

 

 未来に一番近い位置にいる奏は悲しみや殺意といった負の感情が混ざった威圧を受け後退りするがまだ意識を失っておらず、不敵に笑い続けるフィーネが何かをやったと思い睨みつける。だがそんな目を受けてもフィーネの表情は変わらない。

 泣き叫ぶ未来に目をやりながら睨みつけてくる奏に向かって口を開く。

 

「壊れた人の心なぞ、そう簡単に元に戻るものではない。クリスがやった事はせいぜい(いびつ)ながらも形だけ似せて応急処置をしたようなもの。少しの事で簡単に壊れてしまう程度の、な」

 

 未来の心は完全に修復されたわけではない。紆余曲折あったとはいえクリスという依存出来る相手がいたからこそ精神が安定していた。だが弦十郎が懸念していた通り、依存していたクリスが倒れた事により安定していた精神は簡単に崩れてしまったのだ。

 

「どうやって心を破壊しようか迷っていたが、クリスを始めから狙っていればよかったか。無駄に時間がかかってしまったが、まぁよい」

 

 血溜まりの中で倒れているクリスを笑みを浮かべたままの顔で眺めてポツリと呟く。

 クリスが倒れてから絶え間なく笑みを見せているフィーネに奏は苛々を抑える事が出来なかったが、今の言葉に疑問を抱いた。

 

「なんで小日向なんだ!小日向に何があるって言うんだよ!」

 

 三人の連携でもネフシュタンの鎧を纏ったフィーネは対応してみせていた。どれほど本気を出していたか奏には想像出来ないが、もしもっと力を秘めているのなら簡単に一人で奏たち三人を一蹴出来ていただろう。

 であれば未来に真実を言い、心を壊す必要性は皆無。勝ちを確信して慢心やただの趣味だったとしても暴走した時の未来の強さを知っているフィーネなら面倒な事は避けるはず。

 

「──ダインスレイフだ」

 

 奏の疑問に上機嫌のフィーネは叫び続ける未来、そして自分の後ろにそびえ立つカ・ディンギルに目をやりながら軽くなった口を開く。

 

「月を破壊するために必要なエネルギーがカ・ディンギルに溜まるのに、私の計算だと早くてもあと二十年は必要だった。だが輸送作戦の折、小日向未来がダインスレイフを一瞬とはいえ覚醒させた事によって発せられたエネルギーは想像を絶するほどだった。現に一割も溜まっていなかったエネルギーがこの僅かな間に三割を超えているほどに。私はそれに目をつけ、ダインスレイフを再覚醒させるために小日向未来の心をもう一度壊そうと思ったのだ」

 

 月を破壊するほどのエネルギーを溜める事は現科学力を持ってしても不可能。月の核を破壊する事も可能だが、その場合高い確率で邪魔が入る。風鳴弦十郎のような存在がいる以上失敗する可能性の方が高いだろう。

 それをフィーネは聖遺物を使う事で月を破壊するエネルギーを溜める事にした。その中で一番エネルギーの生成効率が良かったのがダインスレイフだったのだ。

 既に建設されていた二課本部をカ・ディンギルとして改造し、エネルギーを生成し始めても休眠状態のダインスレイフでは必要なエネルギーを溜めるのは長い時間を要していた。

 

 そんな時だった。ダインスレイフ輸送中に未来はネフシュタンを纏ったクリスと戦闘し、その異常なほどの怒りと殺意によりダインスレイフが覚醒。その時に生成されたエネルギーは現代に置いてあり得ないレベルの量だった。

 

 戦闘後、再び休眠状態に入ったダインスレイフをもう一度覚醒させようとしたフィーネだったが、この時既に二課はフィーネという存在を警戒していたため、櫻井了子であっても未来に一対一で近づく事は困難であった。そして一番の障害である風鳴弦十郎の存在が邪魔だったため更に難易度は向上していた。

 

 そこで現れたのがフィーネが子飼いしていたクリスの存在だった。

 

 予想外にもクリスは未来の壊れた心を癒し、問題はあるものの正気に戻す事に成功した。

 故に、フィーネは再びダインスレイフを覚醒させるチャンスを得たのだ。

 

「狂っている小日向未来とダインスレイフは恐ろしいほど相性が良い。離れていても互いに呼び合い、影響を及ぼすほどにな」

 

 未来が外を歩いていた時に感じていた何かに呼ばれる感覚。それはノイズが現れた事により負の感情が強くなった未来に呼応したダインスレイフを感じ取ったからだ。シンフォギアを纏う前の僅かな感情の動きにすらダインスレイフが反応してしまうほど、未来とダインスレイフの繋がりは深いものとなってしまっていた。

 

「役立たずと思ったが、まさかここまで最高の仕事をするとは思わなかった。お礼を言いたいくらいだ。くくく」

 

 倒れ伏すクリスに目を向けて隠しきれない笑いが漏れる。

 歪に修復された未来の心を破壊するには心を修復した本人であり、自分を保つために依存しているクリスを亡き者にする事。それがシンプルであり、なによりも今の未来に最も大きなダメージを与える方法だった。

 

「アンタは人間をなんだと、ぐうっ」

 

 ずっと笑っているフィーネに言いたい事は山ほどあるのに、既にボロボロの身体である奏は口を動かすのすら気怠さを感じるほど限界が来ていた。気を抜けば膝から崩れ落ちてしまうだろう。

 

「さて、私の最大の理解者が獣に変わる瞬間を共に見ようじゃないか」

「な、に?」

 

 フィーネの言葉に意味が分からない奏は眉を潜める。その直後だった。

 未来を覆っていた黒い煙のようなものが少しずつ晴れていく。そして完全に晴れると、そこには脱力したように手をだらりと下げて俯いた未来の姿があった。

 

「……小日向?」

 

 奏は明らかに雰囲気がおかしい未来に恐る恐る話しかける。

 俯いた未来が静かに、ゆっくりと空を見上げて、そして殺意に呑まれた獣は覚醒する。

 

「ッオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!

 

 鼓膜が破れるかと思うほどの大きな獣のような咆哮。

 心臓中心に纏っている天羽々斬のシンフォギアを侵食する様に全身を黒く染め上げ、手足や背中といった装甲のあった各所に青いラインが走る。

 そして血のように真っ赤な瞳がフィーネを捉える。

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 言葉すら忘れてしまったかのような獣のような叫びを上げ、未来は四肢を地面につけて深く屈み、そして離れた場所にいるフィーネに向かって一直線に、地面を陥没させるほど強く踏み込み跳んだ。

 

 まるで弾丸のような速さで肉薄する未来にフィーネは目を見開くがすぐさま鞭を剣状に迎え撃とうと構え、そして獣の爪のように振り下ろされる刀を受け止めた。

 黒い刀と鞭がぶつかり合い、その際に生まれた風圧が強い衝撃へと変わり辺りの瓦礫を粉々に砕いた。

 

「なッ!?」

 

 衝撃だけでフィーネの纏うネフシュタンの鎧は弦十郎の拳の風圧を受けた時と同レベルの大きなヒビが入る。

 すぐさまネフシュタンは自己修復しようとするが、暴走した未来はそれを許さない。

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 技も何もない、ただ力任せに振るわれる素早い連続の斬撃。

 空を切るだけでも鋭い斬撃がかまいたちのように瓦礫を切り裂き、地面に当たれば地雷が爆発したかのような大きな爆発と共に地面が陥没する。

 

 今までの半暴走状態の未来よりも動きは荒々しく、防御すらさせない、あるいはその上から破壊しようという比喩無く本物の獣のように未来はフィーネに襲いかかる。

 

「はっはっは!!!もっとだ、もっと私を憎め!貴様のその殺意が!私の夢を叶えてくれる!」

 

 ネフシュタンの治癒力を上回り始め、回復しきれず身体のあちこちに傷ができ始める。だが未来の怒りと殺意が高まれば高まるほどダインスレイフを通じてカ・ディンギルへのエネルギー供給量が増え、月を破壊するほどのエネルギーがどんどん溜まっていく。その事に身体が傷だらけになっても笑いが止められないでいた。

 

 反撃のために鞭を振るう。その鞭が防御を捨てた未来に直撃し大きく後ろに吹き飛ばすが、まるでダメージを受けていないかのように未来は地面に着地後すぐさまフィーネの元に駆け出す。

 ネフシュタンを取り込んだ事により向上した身体能力を持つフィーネでも、自身の身体の限界を無視して更に動きが速く、強くなっていく未来に追いつけなくなっていく。

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 空高く飛び、降下しながら暴走した未来は握っている黒い刀を身体を捻らせながらフィーネに向かって力任せに振り下ろす。

 フィーネはすぐさま鞭をバリアのように何重にも交差させて未来の斬撃を防ごうとする。だが僅かに防ぐ事は出来ても完全には防ぐ事は出来なかった。

 黒い刀とバリア状の鞭がぶつかった場所から完全聖遺物であるネフシュタンの鎧の鞭は容易に断ち切られていく。そして。

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 獣のような咆哮と共にバリアを突破。そしてそのまま勢いで剣状に固定化した鞭を横にして止めようとしたフィーネの左の肩から下の腕をネフシュタンと同等の硬さがあるはずの鞭ごと切り落とした。

 

 刀を振り下ろした体勢のまま着地した未来は着地後の勢いで悲鳴を上げる身体を無視して無理な体勢から身体を捻り、フィーネの背中に向かって持っている刀を突き刺した。

 

「ぐふっ」

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 吐血し、腹から食い破るように突き出る刀に目をやるフィーネ。

 未来は突き刺した刀をそのまま空すら切り裂く勢いで切り上げ、フィーネの腹から上の身体を真っ二つに切り裂く。

 普通であれば死ぬはずの容赦ない一撃にフィーネは空を見上げるような姿勢で膝をついた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 再び大気を震わせるように吠える未来。そのあまりの禍々しく、そして三人がかりですら勝てなかったフィーネを圧倒したその力に、間近で見ていた奏は立ち尽くすしかなかった。

 

「これが……小日向の力だって言うのかよ……ッ!?」

 

 黒く染まった未来がゆっくりと首を動かしその真っ赤になった瞳が次の獲物を見つけたかのように奏を捉える。

 逃げなければいけない状況で、その真っ赤な瞳に見つめられた奏は身体の奥底から湧き上がる恐怖に身体が硬直してしまう。そしてそんな奏を見逃すほど、今の未来はまともじゃない。

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

「くうっ!?」

 

 未来は奏に向かって跳躍し、黒い刀を振り下ろす。奏はそれを持っていた大槍で防ごうとするが刀が槍に当たる直前に嫌な予感がし、槍を手放して自分だけ回避する。その予感は当たり、残った大槍はまるで紙でも切ったかのようにあっさりと真っ二つにされ、更に振り下ろされた刀の衝撃が地面を大きくえぐった。

 

(一撃でも受けたら今のあたしじゃ耐えられない……だけど!)

 

 LiNKERが切れて本来のシンフォギアの性能を引き出せない奏。それでも今戦えるのは自分しかいないと自身を奮い立たせて立ち上がり、新たな槍を造りだして構える。

 

「ガルルルルル……」

 

 未来は獣のような唸り声を出しながら黒く染まった身体から妖しく光る真っ赤な瞳が奏を捉える。同じ人間とは思えないほどの、禍々しさすら感じるその瞳に大槍を持つ手が震えだすが、それでも奏は真っ直ぐ未来を見つめる。

 

 始まるボロボロの激槍と壊れた神剣の戦いを、上半身を真っ二つにされたフィーネはその瞳を動かしてニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 ──────────────────

 

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

「くっ!?」

 

 耳を塞ぎたくなる咆哮と共に地面を砕くほど踏み込み、弾丸のような速さで真っ直ぐ奏に向かって走り出す未来。それを見て奏は焦りながらも全神経を集中させて未来の挙動を見逃さないように目に焼き付ける。

 

 地面を陥没させるほどの勢いが乗った刀を寸前で身体を傾けて回避する。その時に生まれた風圧で身体が吹き飛ばされそうになるがなんとか足を踏ん張り耐える。そして始まる未来の止まらない猛攻。

 

 ただひたすら力任せに振るう刀は振るうたびに風の刃が発生し、近くの瓦礫を破壊する。風の刃でなくとも生まれた衝撃で瓦礫がバラバラに破壊される。どの道身体の近くで振るわれれば命の保証がない。それほどの殺意を込めた斬撃がボロボロの奏を容赦無く襲う。

 

「こ、んのお!」

 

 LiNKERが切れて上手くシンフォギアを扱えない身体になろうとも持っている大槍で必至に応戦するが、防御を捨てた未来は奏の攻撃が当たろうがただの突きでは暴れる獣を止める事は出来ない。

 

 気を抜けばあっさりと死ぬ戦いに、未来の心配をする余裕のない奏は幾度と無く大槍を未来の身体に当てる。だがその全てがまるで効いていないかのように動きは止まらない。

 

「ッこれでえええぇぇぇ!」

 

 未来の斬撃を回避した奏は言うことを聞かなくなってきた身体を無理矢理動かして大槍を野球のバットのように構え、そして振り抜く。

 腹部に直撃した未来は真っ直ぐに近くの瓦礫に向かって飛ばされて砂煙を巻き上げる。それでも未来はまだ止まっていないだろう。

 

 肩で息をし、目眩まで襲ってきた奏は大槍を杖にして倒れないように耐える。少しでも気を緩めればそのまま気絶すると自分で分かっていた。

 

「くくく。どうした?その程度ではあの獣は止まらんぞ?」

「なっ!?」

 

 するはずの無い声に奏は声が聞こえた方に目をやる。そこには上半身から上を真っ二つに切り裂かれた身体がまるで時間が戻っているかのように元通りにくっついていくフィーネの姿があった。

 

「この身とネフシュタンが完全に融合した私を倒せると思っていたか?」

「とうとう人間を辞めちまったってかッ!」

 

 切り飛ばされた左腕も元通りになり、完全に回復したフィーネが瓦礫の上から奏を見下ろす。その回復速度も治癒力もクリスが使っていた時とは段違いの高さに奏は絶望しそうになる。

 

(フィーネは倒せねぇし、カ・ディンギルは発射直前。あたしの身体ももう限界、それに)

「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 突然離れた場所の瓦礫が吹き飛ぶ。舞い散る砂煙から姿を現すのは刀を片手に黒い獣と化した未来だった。

 

 暴走状態の未来でもフィーネを完全に滅する事は困難。

 カ・ディンギルもその光方からしてエネルギーも相当量溜まっているだろう。

 奏の身体は限界を既に超えている。

 そして何より、フィーネを倒せる可能性がある未来は完全に暴走していた。

 

 完全に詰んでいた。

 全てを相手出来るほど奏は強くもなく、そして戦える状態では無い。

 味方である未来は暴走し、クリスは血溜まりに沈んでいる。そして最高の相棒はいまだ眠りの中。勝てる見込みなぞ全くない絶望的な状況。弦十郎並の者でない限りここで奏が諦めても誰も文句は言えないだろう。

 

「……それでも、あたしがやらなくちゃな」

 

 絶望的な状況を目の前にして奏は覚悟を決め、強い意志を込めた瞳で未来を真っ直ぐに見つめる。その気迫に未来はほんの僅かに気合い負けして後ずさった。

 

「グルルル……カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

 自分より弱い者に気圧された事に暴走した未来は獣のように怒り狂い、なりふり構わず奏に向かって走り出す。そしてありったけの殺意を込めた黒い刀の突きが奏の身体を捉えた。

 

 愚直にも真っ直ぐにガラ空きの奏の胸元を狙った渾身であり必殺の突きを奏は回避せず、むしろ未来を迎え入れるように微笑みながら大きく腕を広げた。

 

 そして飛び散る鮮血とシンフォギアの装甲。その光景を見てフィーネはニヤリと笑みを浮かべる。だが。

 

「……信じてたよ。小日向」

「────」

 

 未来は奏の胸元に埋めるように身体を密着させ、その未来を奏は優しく抱きしめる。

 奏を狙った突きは直前まで確実に心臓を捉えていた。だが当たる寸前に未来は方向を変え、右の脇腹に決して浅くない傷をつける結果となった。楽観視出来る傷ではないが、それでも確実に殺す気であった事を考えれば良い方だろう。

 

「ガ、ア……ウ」

 

 真っ赤な瞳から一雫の涙が頬を伝う。その涙を見て奏は強く抱きしめる。

 負の感情に支配され、怒りと殺意に塗れても完全には人の心が消えてはいない。そして何より、クリスによって一度は癒され、今は亡き親友が好きでいた未来の残っていた良心の欠片が傷つく奏に手をかける事を拒んだ結果だった。

 

「アンタの事はあんまし知らないけどさ、凄く優しくて純粋だって事は分かる。たった一人の親友の為に狂っちまうほど、そいつが好きだったって事も」

 

 今は眠っている翼が、もし二年前の事件で死んでいたら今頃自分はどうなってるだろうか。

 腕の中の未来のように狂っているのか、ただノイズを葬るだけの鬼となっているのか。それとも何もかも諦めてその日を生きるだけの抜け殻になっているのだろうか。

 

「アンタとは比じゃないだろうけど、あたしも翼が死んだら狂ってた。それくらいあたしは翼の事が大切だ。あたしは翼が目覚めるまで翼に誇れるよう生きようと思ってたんだ。だからアンタにも分かるだろう?」

 

 

 ──今のアンタを見たら、アンタの親友はどう思うのか──

 

 

 小声で、しかし未来に聞こえるようはっきりとした声で言い、その言葉に未来は赤い瞳を大きく見開いた。

 

 風鳴翼が目覚めた時、隣にいたはずの片翼が知らない人になったかのように変貌していたらどう思うのか。

 恐怖か、それとも嫌悪かは人によって異なるだろうがそれを自分に置き変えたらその答えは明白である。

 そしてその答えは既に未来も出ていたはずの答えだった。

 

「緒川さんより拘束力弱いし時間も短いけど、見ててくれ」

 

 奏は動きの止まった未来の背後に伸びる影に持っていた大槍を突き刺す。

 二年の間に緒川慎次から教わった相手の影に武器を刺す事で動きを封じる、まだ未完成の『影縫い』。今の未来であればものの数秒で抜け出す事も出来るはずだが、未来はピクリとも動かなかった。

 そして未来が身体を動かせなくなった事を確認すると腕を解いて未来の頭を一撫でして、フィーネの方に向き直る。

 

「あたしの生き様を」

 

 ゆっくり傍観していたフィーネに悠然とした歩みで一歩ずつ近く。対するフィーネは奏と未来との戦闘を愉快そうに見ていたというのに今は歩いてくる奏を訝しげな目で見下ろしていた。

 

「そんなボロボロの身体でまだ私の前に立つか」

「当たり前さ。なんせお前を倒さなきゃみんな無事じゃなさそうだしな」

 

 月が破壊されれば重力崩壊が起こり、二年前のライブ事件すら霞むほどの大災害が起こるだろう。そうなれば翼の命は無い。詳しくなくともその程度は理解出来ていた。

 

 奏は背中に手を回し、シンフォギアの装甲の間からLiNKERの入った拳銃型の注射器を取り出すと首元に針を刺し引き金を引く。

 途端に身体を襲う激痛と激しい目眩に身体がふらつくが気合で倒れない。

 色が薄くなったシンフォギアの装甲の色が元の明るい色に戻る。未来との戦闘の時の身体の重さも軽くなり始めた。

 

「LiNKERを隠し持っていたか」

「ああ。さっきは打つひまなかったけどな」

「それで?LiNKERを打って戦闘可能になった程度でこの状況をなんとか出来るとでも?」

 

 未来を止める事は出来てもカ・ディンギルとフィーネが残っている。

 LiNKERを打って元の戦闘力に戻っただけであり、それに加えて既に限界を超えた身体の上に今は仲間がおらず奏一人。この選択はただ自分が苦しむ時間が長くなっただけだ。

 それでも奏はニヤリと笑みを浮かべてもう一度背中に手を回した。

 

「確かに、あたし一人じゃ全部はなんとか出来ないよ。だけど……一つくらいはなんとか出来るさ」

 

 そう言って隠し持っていたもう一つのLiNKERが入った拳銃型の注射器を首に当てて引き金を引いた。

 

「ッ!?ごふっ!」

 

 先程とは比にならない激痛。まるで身体中の血管に熱々に熱した鉄を流し込まれたかのような痛みと頭を殴られたかのような頭痛、目眩というレベルで済ませられないようなふらつき。息が出来ないほどの激しい動悸。そして身体の内側から自分を作り変えられるような違和感。

 思わず吐血してしまうほどの激痛に大槍を杖代わりにしても膝から崩れ落ちてしまう。

 

「馬鹿め。今日だけで既に二つも使用していたというのに間髪入れずに更に二つも投与するとは」

 

 長く戦闘が出来ない身体だというのに東京タワーでの戦いで一つ、リディアンに到着して一つと既に二つLiNKERを使用していた奏の身体は当に限界が来ていた。そんな身体での三つ目と間髪入れずの四つ目。

 奏の許容量を大幅に超えた過剰投与により、いつ心臓が止まってもおかしくない。

 だが、奏は決して倒れない。

 

「……カ・ディンギルはもう停止不可能。私はネフシュタンにより死ぬ事はない。勝利なぞあり得ない。なのに何故諦めない?」

 

 吐血しながら槍を杖代わりにして全身の骨が砕かれたような痛みが走る身体を立ち上がらせる奏にフィーネは眉をひそめる。

 既に絶望的で凡人なら諦めるような状況で、それでも立ち上がる奏にフィーネは何処か恐れを感じていた。

 

「かはッ!……あ、あたしだって、もう、眠りたいさ。身体はいてぇし、目眩まで、するんだから、な……でも」

 

 痛む身体に喝を入れて二本の足で堂々と立ち上がる。そしてまだ勝利を諦めていない真っ直ぐな瞳がフィーネを射抜いた。

 

「あたしが!死ぬ気で戦わなくちゃ!みんなを、翼を守れないなら!この命、全部燃やし尽くしてやらあああぁぁぁ!!!」

 

 奏を中心に周辺の瓦礫を吹き飛ばすほどの衝撃と目を覆いたくなるほどの橙色の光が辺りを照らす。そして奏の纏うガングニールのシンフォギアが炎のように橙色に染め上がり、装甲の合間からも橙色の光が眩しく漏れる。

 

「うらああああぁぁぁ!!!」

 

 炎のような橙色の光を纏いながら紅く輝く大槍を手にフィーネに向かって駆け出す。その速さは暴走した未来と差異はほとんどない。

 

「こけおどしを……ッ!?」

 

 奏を止めようと鞭を振るう。それを奏は持っていた大槍で弾き返すように払うと槍が当たった箇所から鞭が粉々に砕けた。

 絶え間なく襲ってくる鞭を大槍で次々と破壊する奏に、フィーネから余裕の笑みが消え、ネフシュタンにより死ぬ事は無いはずと分かっていても強い畏怖を感じた。

 

「小日向未来と同等のパワー、いや、火力だけなら超えているのか!?」

 

 あり得ない、と驚愕しながらもフィーネは必死に命を燃やしてる奏の攻撃を回避していく。

 未来のような止まらないでいて、そして何処か美しさを感じられる炎を纏った連続の突きとなぎ払い、見た目に反してその一撃一撃がネフシュタンの鎧の防御能力を超える威力を秘めており、フィーネが反撃として振るう鞭が大槍の攻撃に耐えられず次々と粉々になっていく。

 それだけでは収まらず、フィーネの防御を掻い潜った大槍の一つ突きがネフシュタンの鎧の一部を穿ち、その下の生身の肉体と中の骨を砕く。

 規格外の力を発揮するガングニールの圧倒的な火力と性能にものを言わせた猛攻に徐々にネフシュタンでは対処しきれなくなる。だがそれに伴い奏の身体は蝕まれていく。

 

 大槍を振るえば振るうほど、奏の身体は死に近づいていく。

 口からは絶えず血が流れ、纏う炎はその身を焼き、槍を振るえば骨が折れるような感覚に身体は悲鳴を上げ続けていた。

 それでも奏は止まらない。

 止まれば文字通り死ぬと理解して、()()()()()()()()大槍を振るい続ける。

 

「何故だ!何故貴様はそこまで戦える!?自分の死が怖く無いとでも言うのか!?」

「そんなわけないだろ!」

 

 炎を纏った大槍と鞭が鍔迫り合い合う中、フィーネの言葉に奏は吐血しながら叫ぶ。

 

「死ぬのは怖い!それは今でも変わらない。だけど!」

 

 奏の身に纏うシンフォギアから発せられる炎のような光が輝きを増す。まるで命を全て燃やそうとしているかのように。

 

「あたし一人の命でみんな救えるなら、小日向やクリスが笑える日を取り戻せるなら、翼が歌を歌える日を守れるのなら!あたしの死が無駄にならないなら!あたしは、全力で戦えるんだあああぁぁぁ!!!」

「ぐううぅっ!」

 

 苛烈さを増す奏の猛攻にフィーネは耐えきれずバランス崩して体勢が乱れる。その隙を感覚が鋭敏になっている奏は見逃さない。

 悪足掻きに放たれた鞭を払い退けて一気に踏み込み、至近距離でフィーネの腹部に向かって槍の先端を構えた。

 

LAST∞METEOR BURST

 

「ぐおおおおぉぉぉ!?」

 

 槍の先端から発せられる横向きの炎と竜巻が合わさった火炎の嵐にフィーネは耐えきれずに飲み込まれる。そして炎の竜巻は地面を大きくえぐり、溶かしながら離れた位置にある廃虚と化しているリディアンの壁面にフィーネを叩きつけ、壁にめり込ませた。だが、まだ終わらない。

 

 奏は空高く飛び上がり、壁にめり込むフィーネに向かって大槍を投擲する構えを取ると槍の先に光が集まっていく。

 

「いけええええぇぇぇ!!!」

 

PROMINENCE∞ARROW

 

 叫びと共に炎を纏った大槍を投擲する。

 投擲された大槍は高速で回転し、纏っている炎が渦を作りだしてまるで赤いドリルのようになりながらいまだ動かないフィーネに向かって真っ直ぐに直進する。

 フィーネは壁にめり込んだまま鞭を振るい迎撃しようとするが、槍が纏う炎の熱さと回転によって鞭は全て弾かれ無駄に終わる。そしてその剥き出しの腹部に炎を纏った大槍が突きさり壁に大きなヒビを作らせながらフィーネを壁面に縫い合わせた。

 

 圧倒され、腹部に大槍を刺されて身動きが取れなくなる。だがそんな状況でフィーネは笑みを作った。

 

「くっくっく。どうやってやったか知らんが、今の貴様は小日向未来に迫る強さはあるようだ。だが、その程度では私を倒せんと言っただろう?」

 

 その言葉の通り、傷ついたネフシュタンの鎧が再生していき、それと同時に今の戦闘で受けた肉体へのダメージも消えていく。あと数秒あれば傷は完治してしまうだろう。

 余裕の笑みを浮かべるフィーネに、奏も同じく笑みを作った。

 

「確かに、あたしじゃお前を倒せない。命を賭けてもあたしの命だけじゃネフシュタンを倒せない。そんなの分かってたさ。だからあたしの目的は最初から一つだけ」

「何を言って……まさか!?」

 

 動けない、いや()()()()()()()()()()状態の自身の現状を見てフィーネはある考えが過ぎる。そしてその考えが正解だと言うように奏はフィーネから目を離してある一点を見つめた。

 その先にあるのは……カ・ディンギル。

 

「お前を倒せるなら一番だけど、それが出来ないのはよく分かってる。だけど、お前の目的を潰す事は出来るさ」

 

 それだけ言うと奏は大槍を両手に持ち、その先端を照準を合わせるようにカ・ディンギルに狙いを定める。その瞬間、シンフォギアの装甲の合間から漏れ出していた炎のような光がすべて構えている槍に収束していく、そして大槍は真っ赤に燃えているような眩い光に辺りを昼のように照らした。

 

「やめろ……やめろおおおぉぉぉ!!!」

 

 全てを悟ったフィーネは急いで奏を止めようと腹部に刺さった槍を引き抜こうとするが、槍は奏の意思に応えるようにフィーネを貫いたまま壁面から抜けようとしない。

 その間にも光は強まっていき、まるで目の前に太陽があるかのような輝きと熱さを放つ。

 

「いっっけええええぇぇぇぇ!!!」

 

STRIKE∞NOVA

 

 地面を砕くほど強く踏み込む。各部のギアの装甲が開き、奏の意思に呼応したかのように炎がブースタとなってカ・ディンギルに向かって奏は自身も槍となって飛ぶ。

 

 離れているフィーネでさえ熱風を感じるほどの熱さを纏う奏は自身の身体も焼かれながらも一直線にカ・ディンギルに近づく。

 それを止めようとフィーネは腹部に大槍が刺さったまま鞭を振るう。だがその判断はあまりにも遅く、すでに手遅れだった。

 

 気を失いそうになりながらもカ・ディンギルから目を離さない奏の脳裏にはこれまで人生が映し出されていた。

 

 ノイズに両親を殺されて仇を打つために手に入れた力。

 当時の奏は出会う前の未来と同じノイズに強い怒りと殺意があった。ツヴァイウィングとして歌う事もノイズを殲滅させるために必要な手段として見ていた。そこに楽しいという気待ちはなかった。

 その中で、シンフォギアを纏ったまま救助活動をしていた時にかけられたお礼の言葉。その言葉が奏の見ている世界を変えた。

 恨みを込めていたはずの歌が、自分の心を躍らせる歌に変わっていき、いつしか相棒である翼と歌う事が奏にとって生きる証となっていった。

 

 楽しくて、嬉しくて、辛い事もあったが忘れられない大切な思い出。それを守るために、奏は命を燃やし続ける。

 

「翼あああああぁぁぁぁ!!!」

 

 自分の夢も全て眠り続けている風鳴翼に届けと血を吐きながら叫ぶ。その奏のすべての想いを乗せた叫びが暴走する未来の心を刺激し、静かに涙が溢れさせた。

 

 エネルギーが溜まり発射直前だったカ・ディンギルの砲塔に奏の命を賭けた捨て身の一撃が命中する。それにより巨大な塔であるカ・ディンギルはその衝撃で僅かに傾き、直後に発射された月を破壊するはずのエネルギー波は月の中心を大きく外れておよそ五分の一ほどと大きくではあるが一部を破壊するだけに留まった。

 

 そしてエネルギーの開放先が無くなったカ・ディンギルは奏が突撃した塔の頂上辺りを中心に周辺を巻き込むほどの大きな爆発がリディアンを呑み込むのだった。

 




よくよく考えたらずっと血流したままのクリスって絶対出血死しますよねー。まぁこれも思いつてしまった事への伏線なんですがね。今は気にしないでくだせぇ(ニッコリ)

奏さんのシンフォギアの変化のなんとなくのイメージはパズドラのエルダー・ヨトゥンのような、初期型のシンフォギアの装甲の合間から炎のような光が漏れてる感じですかね。あくまで私のイメージですが。
命を燃やしてる分、瞬間的な火力は暴走未来さん超えてるかも?まあエクスドライブより性能面では一段劣りはしますが。

オリジナルの技や形態等の説明とかもその内別枠で作ろうかな?作者の語彙力ではイメージしにくいのもあるでしょうし_(:3」z)_

ビッキーや393さん、個人的な好きなシンフォギアキャラのランキング上位なのに結構扱い酷いなー(誰のせいだ)。特にビッキー。原作主人公が既に死んでいるって……ねぇ?

それと奏さん、槍は突くものであって野球のバットみたいに振るもんじゃありまry(腹部に直撃)。

次回! 太陽はいつもそばに
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