再三言ってきたように原作に沿って(略)るのでもう流れは分かり切っているとは思いますが最後までお付き合いお願いします!
それでは、どうぞ!
────数分前
リディアン地下に建設された避難所にて、弦十郎たちニ課職員と避難してきた一般市民である安藤創世、寺島詩織、板場弓美の三名はノートパソコンに映し出されている光景に絶句していた。
シンフォギアを纏った奏とクリスの二名によるまだまだ荒はあるが息の合ったコンビネーションでも金色のネフシュタンの鎧を纏ったフィーネには太刀打ち出来ず、遅れてやって来た未来も協力して辛くも撃破した。そう思った瞬間、クリスが立ち込める砂煙の中から放たれた鞭から未来を守り、代わりに切り裂かれ血を流して崩れた。
そして始まる怒りと殺意に呑まれた黒い獣の覚醒。その荒々しくて禍々しい姿にその場にいた全員が息を呑んだ。
(やはりクリスが引き金となってしまったか!)
映像越しからでも伝わる激しい怒りと殺意と悲しみに、見ていた弦十郎は拳を強く握りしめる。
未来とクリスは互いに依存していた。だが目の前で親友を失って心が壊れた未来にとってクリスは新たに出来た友人だけでなく、壊れた心を治した恩人でもあり、心の拠り所となっていた。正気に戻った分、得られたものが失われる事への恐怖は人一倍強い。
それ故にかつての親友のように自分を守って血を流すクリスに正気を保てなかった。
(彼女たちが戦う以上こうなる可能性は十分あった。それがまさかこんな形で現実になるとは!)
前から危惧していた弦十郎にとって最悪な流れであった。
クリスは倒れ、奏はLiNKERが切れて戦える状態ではない。そんな状況で誰が未来を止めることができるだろうか?
十全の状態の弦十郎なら対応出来たであろうが、フィーネから受けた傷によりそれは難しい。暴走していない状態の未来に本気を出していなかったとはいえ敗北しかけた事を考えれば今出ても無駄に命を落とす可能性の方が高い。なんとか未来を正気に戻したとしても無傷ではいかないだろう。そうなればネフシュタンの鎧により無限の再生能力を得ているフィーネの勝利は確定だ。
焦りを隠せずに眉を寄せる弦十郎を他所に戦況はどんどん変わる。
正気を失った未来は獣のように縦横無尽に動き回り、嵐のように通った場所を破壊しながら三人がかりでも苦戦していたフィーネを追い詰めていく。
一撃一撃がまさに必殺というように容赦が全く無い猛攻。弦十郎はそのあまりの獣のような荒々しさにもし自分が対峙した時、未来を無傷で止める自信を感じる事が出来なかった。
「もう……終わりだよ……」
獣のように狂う未来を見ていた板場弓美が呟く。そしてその瞳を潤ませて涙を流して泣き崩れた。
「学園も滅茶苦茶になって、小日向もおかしくなって……」
「板場さん……」
寺島詩織、安藤創世も泣き崩れる弓美を心配そうに見るが、今の未来を見れば弓美と同じ感想しか出てこず、かける言葉を部屋にいる全員が持っていなかった。
沈鬱な空気に呑まれながらも戦況は変化していく。
未来はフィーネが繰り出した鞭を何十にも重ねたバリアを易々と砕き、そしてフィーネの腹部から上を縦に切り裂いた。
まともな人間なら絶対やらない倒し方に戦場を見慣れていない弓美たち三人は顔を背け、弦十郎は複雑な表情で映像を見続けていた。
櫻井了子は偽者だったとしても弦十郎にとっては今まで共に成し遂げてきた日々は嘘では無い。裏切られてもそこには何かやらなければならない何かがあるとここまで来ても信じるのを辞めることは出来なかった。
フィーネを切り裂いた未来は次の標的を二人の戦いを傍観するしか出来なかった奏に移し、そして雄叫びと共に襲う。
LiNKERが切れている奏は生存本能によってなのか、未来の嵐のような猛攻をギリギリで回避し反撃する。だが本来のガングニールの性能を引き出せていない一撃は全く未来に通っていなかった。
そして死んだかと思われたフィーネがネフシュタンの鎧により復活。それは弦十郎から見ても異様な光景だった。
(そこまで堕ちたのか、了子君!)
ボロボロの奏と暴れ狂う未来の戦いを高みの見物をする完全に傷が癒えたフィーネ。戦況は最悪な形へと変わってしまっていた。
まさに絶望的な状況。それを変えたのは、奏の命懸けの覚悟。
暴走する未来を抱きしめる奏。何かを未来に伝えた後抱きしめていた腕を解きフィーネの元にゆっくりと歩む。その姿は戦いに挑む勇者のようであり、そして死を覚悟した戦士のようだった。
笑みを浮かべながらおもむろに取り出したLiNKERを奏は自分の首に刺す。LiNKERを隠し持っていた事に驚く弦十郎ではあったが、絶望的な状況で戦う意思を失っていない事よりも、その笑みに嫌な予感を感じた。
そして奏は間髪入れずに二本目のLiNKERを投与し、そしてあまりの反動の強さに吐血する。そしてフィーネと言葉を交わした後、シンフォギアごと身体が赤く燃え上がった。
「これは……ガングニールのフォニックゲインが急上昇しています!」
「何!?」
LiNKERを投与した事を加味したとしてもあり得ないほどのフォニックゲインの高まりに、研究者や技術者でない弦十郎や友里あおいと藤尭朔也でもその異様さを感じ取っていた。
暴走した未来と同等の強さを発揮する奏に勝利を確信していたフィーネが追い詰められていく。そして炎の竜巻がフィーネを飲み込み、壁にめり込んだ。ガラ空きになった腹部に空かさず槍を投げつけて拘束する姿に、弦十郎と二課職員以外の一般人は歓喜する。
血を吐き、その身に纏う炎に己の身体を焼かれながらも戦う奏の姿に、大人である自分たちが何も出来ない事に腹が立ちながら弦十郎は悔しさで拳を握る。
そしてカ・ディンギルに向けてガングニールと共に自分も槍となった決死の特攻。
カ・ディンギルは大きな爆発に飲み込まれて目の痛くなるような色彩を放っていた塔はその半分が破壊され色彩を失った。それによりフィーネの野望は阻止されたのだ。多くの犠牲を払って。
「ガングニール……反応途絶……」
助かったと歓喜する一般市民を他所に沈んだ顔で報告する朔夜とそこ隣に立っていたあおいは瞳に涙を浮かべて顔を背ける。勝利したとしても、失われたものはあまりにも多い。
「身命を賭してカ・ディンギルを止めたか奏……お前の歌、世界に届いたぞ……世界を、守ったぞ……ッ!」
握りすぎて血が滲み、骨に響くがそれでも弦十郎は強く拳を握る。
世界のために、明日のために、そしていまだ眠りについている翼のために命を燃やして奏はカ・ディンギルを止めた。それでも、自分より若い少女にそんな覚悟を決めさせてしまった自分に憤りを隠す事は出来るはずがない。
「分からないよ……なんでみんな痛い思いをして、怖い思いをして戦ってるの!?死ぬために戦ってるの!?」
弓美は奏の命懸けの覚悟を理解することが出来ず、涙を流す。
戦場を経験したことの無い弓美に戦場で戦う奏の覚悟を全て理解出来るはずが無いため仕方ない事だ。それは創世や詩織も同じようなもの。全てでなくとも理解出来るのは奏の戦いを、生き様を見てきた者達だけだろう。
世界は救われたという空気は消え去り、再び部屋の中が沈鬱な空気に飲まれていく。だが、まだ戦いは終わってはいない。
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奏の命を賭して特攻。それにより月は一部欠ける事になったものの完全破壊は免れ、カ・ディンギルは半壊。
次弾を撃つ事は不可能。というよりダインスレイフとのエネルギー補給ラインが完全に破壊されたためエネルギーを貯める事すら不可能。規模からして、修理にはフィーネ一人では何年かかるか分からない上にそこからまたエネルギーを溜めようとするなら発射可能まで溜まる前に肉体の限界が来るだろう。
悲願であった月の破壊が完遂されると思っていた。
月を破壊するための発射台とそれを放つためのエネルギー。その両方が揃い、射程や射角も十分に計算し、完璧に破壊する事が出来るはずだった。
「なのに!」
悲願の達成を目の前にして止められた事にフィーネは怒りに任せて鞭を近くにあった瓦礫に叩きつけた。
「何処までも忌々しい!!!
月の破壊はバラルの呪詛を解くのと同時に、重力崩壊を引き起こす。惑星規模の天変地異に人類は恐怖しうろたえ!そして聖遺物を振るう私の元に帰順するはずであった!
痛みだけが!人と人をつなぐ絆!たった一つの真実なのに!それを、それをお前は、お前達は!!!」
怒りに燃える瞳が半壊したカ・ディンギルに目を向けてシンフォギアが解除され力無く地面に座り込み、涙を流す小日向未来に向けられる。
カ・ディンギルとダインスレイフを繋ぐラインが破壊された事により強制的に覚醒していたダインスレイフは再び眠りについた。それに伴いダインスレイフと未来を繋いでいたラインも切られた事によりダインスレイフからもたらされた怒りや殺意といった負の感情を増幅させる呪いは断ち切られ、未来は正気に戻っていた。
それ故に、自分がしてしまった事への後悔が遅れてやってくる。
(私が……私がもっと気をつけていれば……私がもっと強かったら……クリスも奏さんも……)
自分の不注意によってクリスが傷つき、それを見て自分が狂い、そして奏を追い詰めてしまった。自分が傷つけた傷がなければ奏はあんな事にならなかったかもしれない。
そんな後悔の念が未来の心を押し潰し、寄り添う柱が無くなった心を無慈悲にも傷つけてひび割れさせていく。
涙を流す未来の脇腹にネフシュタンを纏ったフィーネの強烈な蹴りが刺さる。生身の身体ではいくら天羽々斬と融合していたとしてもそのダメージは低いものではない。
蹴り飛ばされて宙に浮いた身体が重力に従って地面に叩きつけられて倒れる未来にゆっくりと近づいたフィーネは未来の頭を掴み、地面に強く押さえつける。
「はぁ、はぁ……だがまぁそれでも貴様は役に立ったよ。生態と聖遺物の初の融合症例。お前という先例がいたからこそ、私は己が身をネフシュタンの鎧と同化させる事が出来たのだからな」
クリスが弦十郎にアジトの場所を教えた前日に、フィーネは米国の兵士の襲撃により深傷を追っていた。
いくら普通の人間よりも異質な力を持っていようとも身体はただの人間。銃弾一発で致命傷となってしまう。
脇腹を撃たれて痛みに悶えていたフィーネは即座にネフシュタンの鎧と融合。それにより無限の治癒力を得る事によってその場を切り抜けたのだ。弦十郎が見た死体は、その時フィーネを襲った兵士のものだった。
小日向未来という前例がいたからこそ、聖遺物との融合という一見頭のおかしい方法をとる事が出来、そして命が救われた。その部分だけはフィーネも感謝していた。
未来の後頭部を握ったまま片手でそのまま持ち上げ、そして近くの地面に向けて叩きつけるように放り投げる。
「かはっ!」
背中を強く地面に叩きつけられ血が混じった唾液が口から飛び散る。
叩きつけられた痛みなのかそれとも別の要因なのか、死神がすぐそばまで寄ってきているというのに未来は立ち上がる事が出来ず、仰向けになったままただ空を呆然と死んだ魚のような生気が失われた目で見上げた。
……クリスも……奏さんも……もういない。
大切だったものも……何も残ってない。
守りたいものなんて……私には無い
私が生きる意味も……ない。
私は……なんのために……戦ってたんだっけ……
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力無く仰向けに倒れる未来にフィーネは容赦なく殴り、蹴る。
そのあまりの一方的で、フェアではない状況に弦十郎はすぐにでも動こうとするが貫かれた腹の痛みはそう簡単に癒えるものではない。
立ち上がろうとする弦十郎をあおいは止めようとするが、彼女は今の凄惨な光景に耐える事が出来ないため弦十郎を止めるという行為により逃げているだけだった。それを誰が非難しようものか。
天羽々斬と融合した事による身体の変化でも完全聖遺物という格上の存在の容赦なき殴りに耐えられるものではない。いや、むしろ融合したからこそ、ネフシュタンにより増強された殴りや蹴りを受けて生きていると言えるのだろうか。
それでも未来の身体は弦十郎のように鍛え上げた肉体ではない。そのためその幼い身体に見るに耐えない傷が増えていく。それをジッと眺める事が出来る者も助けにいける者も、ここにはいない。
重くなる空気の中、シェルターの外の通路から沢山の足音が弦十郎達の耳に入ってくる。そして顔を出したのは他の生存者を探して部屋を出た緒川慎次とその他の生存者達だった。
「司令!周辺区画のシェルターにて、生存者を発見しました!」
「そうか!良かった!」
人命が救われた事に弦十郎を笑みを見せる。だがすぐに今の絶望的な状況を思い出し、その笑みも陰る。
弦十郎の反応を見て慎次あまりよろしく無い状況なのだと理解したが自分より強いはずの弦十郎が何もしない、または何も出来ないと分かると眉を潜めた。
「あー!怖いおねぇちゃんだ!」
僅かな沈黙を破ったのは慎次が連れてきた一般人の中にいた幼い少女の声だった。
少女は朔也が見ていたノートパソコンに近づき、そこに映し出されていた未来を見て悲しそうな顔をした。
「ねぇ、怖いおねえちゃんを助けられないの?」
未来のボロボロの姿を見てまだ幼い少女も今が大変な状況だと分かったのだろう。瞳に涙を溜めて弦十郎に訴えかけていた。
「貴女は……確かあの時一緒にいた」
詩織は少女の顔に見覚えがあった。
名前までは知らないが、未来が天羽々斬のシンフォギア装者として目覚め、そして力を手に入れた事によりノイズに対する復讐心が溢れた日に一緒に逃げていた少女だとすぐに思い出す。
「……キミはヒナが、あのおねぇちゃんが怖くないの?」
創世が抱いたほんの僅かな疑問。
目の前の少女はあの時普通に生きていては感じる事のない恐怖を自分のたちと共に味わったはず。なのに何故涙を流してまで未来を助けられないのか聞くのが、創世にも詩織や弓美にも理解出来なった。
「ううん。怖いよ?でもね……泣いてたの」
「泣いてた?」
「うん。この前も怖かったけど、でも泣いてたの。今も泣いてるの」
パソコンの映像に映る未来は力無く倒れているが涙の一つも流していない。それに少女と未来が初めて出会った時、未来は周りに恐怖を植え付けるような強い怒りと殺意に呑まれていた。
近くで見ていた創世たちも目の前に悪魔が現れたと思うほど心の底から恐怖した。だというのに、目の前の少女は未来が泣いていたと言う。
「それに怖いおねえちゃん、私を助けてくれたの!だからね、ありがとうって言いたいの!」
怖いおねえちゃん、と言いながらも仲の良い親戚の話をしているかのように嬉しそうに話している少女に、弦十郎は今までの未来の叫びを思い出した。
(ああ、そうか。未来君は最初から泣いていたのだったな)
身震いするほどの怒りや殺意といった負の感情。弦十郎たちはそんな未来の
ネフシュタンを纏ったクリスとの初戦闘で弦十郎は未来の悲しい
「……あの、ここから小日向さんに声を届ける事は出来ますか?」
「すまん。既にここのメインのコンピューターは恐らくカ・ディンギル、あの塔に全て持っていかれてしまっている。ここから出来る事は何も……」
真剣な眼差しで話しかけてきた詩織に弦十郎は悔しそうに眉を寄せる。
現在ニ課本部だった場所はカ・ディンギルとして改造され地表に出ている。そして弦十郎たちがいるのはそんなニ課から少し離れた場所にあるシェルター。施設のほとんどをフィーネが掌握している以上、この場所から出来る事は何も無い。電気や空調が生きているだけでも御の字だろう。
「……学校の施設が生きていれば、ここからリンクして外に声を届ける事が出来るかもしれません」
パソコンをいじっていた朔也の言葉に詩織たちは顔色を変える。
泣いていた弓美もまだ自分たちに出来る事があると、戦えな自分たちでも助ける事ができると分かり、すぐさま行動に移した。
そして人知れず、奏の魂のこもった叫びに眠っていた歌姫の鼓動が動き出す。
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赤く染まりそして欠けた月が空に浮かび、朝日が顔を出し始める。
ボロボロになり身体のあちこちに怪我を負っている未来を置いて、いまだ赤々と光る月をフィーネは地上から見上げていた。
「……もうずっと遠い昔、あのお方に仕える巫女だった私は、いつからかあのお方を、創造主を愛するようになっていた」
未来からは顔の見えない位置でフィーネは一人黄昏ながら語り出す。
「だが、この胸の内を告げる事が出来なかった。その前に私から、人類から言葉が奪われたッ!月にあるバラルの呪詛によって!唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたのだ!私は数千年に渡りたった一人、バラルの呪詛を解き放つため、抗ってきた……。
いつの日か、統一言語にて、胸の内の想いを届けるために」
フィーネは身体を震わせ噛みしめるように、そして数千年の間自分の中に溜まっていた悲しみを吐き出す。
大切な人の為に再び会う為だけにたった一人で、沢山の命を犠牲にして今日まで戦ってきた。そんなフィーネに未来は自分の姿が重なって見えた。
「……その気持ち、分かりますよ」
「ッ僅か十数年しか生きていない小娘が!私の数千年の想いを「分かる」と
未来の髪を掴み、力任せに近くの瓦礫に投げ飛ばす。普通の人間なら潰れてその命をあっさりと奪うほどの衝撃。それでも未来と融合している天羽々斬は気絶すらさせない。
「……研究者としてまだ貴様で実験したい事は山ほどあったがもういい。聖遺物を扱う者は私一人で十分だ」
止めを刺すつもりで鞭を剣状に固定化させてゆっくりと倒れる未来に歩み寄る。その目には一切の躊躇も迷いもない。
もうじき来る自分の死を前に、未来は身動きせずにただその時間を待った。
(ああ、やっと終われる)
何度目の安堵、いや諦めだろうか。
親友を亡くし、周りの人間が未来を何度も追い込んだが家族は自分を立ち上がらせた。
ノイズが襲ってきた来た時、生きる事を諦めたというのに自分の中に眠っていた天羽々斬が未来に力を与え、復讐という形で己の心を殺し、復讐の鬼と化してノイズを屠るだけのために生きた。
何度も苦しみ、泣き、死ぬ事を願った。だがそれは叶わなかった。
しかし目の前の存在はそんな自分をやっと殺してくれるのだと思うといままで生きるために張り詰めていた何かがゆっくりと解かれていき、気が楽になっていく。
(私は頑張った。頑張って生きた。響が死んじゃってから痛くて辛くて悲しくて、それでも頑張った。でももう、疲れちゃった)
振り上げた剣状の鞭を振り上げるフィーネを前に、未来は全てを諦め、重くなる目蓋に逆らわずにそっと目を閉じた。
──────────────────────
「──く!未来!」
「!」
懐かしい声に未来は目が覚める。
そして周囲を見渡せば太陽は沈みかけて人はいないが、そこは天羽々斬を纏ってから行かなくなっていたリディアンの教室だった。
「どうしたの?未来が居眠りなんて珍しいね。それにうなされてたし……何か悪い夢でも見たの?」
「えっ」
机に突っ伏していた未来の前にはいるはずのない存在が、死んだはずの親友が心配そうな目を向ける姿があった。
何が起こったか分からない未来は混乱していると教室の扉をガラガラと開ける音がして音のした方向に目を向ける。そこには見覚えのある顔が並んでいた。
「おーい帰るぞ!未来、響!」
「あ、クリスちゃん!」
「ちゃん付けするなって言ってるだろうが!?」
「あ痛!?」
「まぁいいじゃないさ。親しくされるのは案外気分がいいものだぞ、クリス?」
「貴女も先輩なのだからもっと余裕を持ちなさい、雪音」
「あたしの味方はいねぇのかよ!?」
教室に入ってきたリディアンの制服姿のクリスが飛びついてきた響を殴り、奏と翼が荒れるクリスととても楽しそうに親しげに話し合っていた。そして三人の首元には赤いペンダントの姿はない。
(ああ、これは夢だ)
目の前のあまりにもあり得ない光景に、未来はこれが都合の良い夢なのだと理解する。だが夢と分かっていてもその心地良さが傷ついた心を癒しているの分かった。
(みんなが笑って、みんなが生きていて、ノイズとかシンフォギアとか関係無い、そんな
自分が望んでいた光景が、どれだけ願っても手に入る事が出来なかった光景が目の前に広がっている。そして自分の中にあった黒くて醜い感情も無い、普通の女の子として生きている。天羽々斬を手に入れてから消えた幸せが目の前にある。
クリスに殴られた頭を押さえて涙目になる響がゆっくりと椅子に座る未来の目の前に立ち、笑顔を作って手を差し出す。
「帰ろう、未来」
「……うん!」
自分の中にある響と同じ笑顔に未来の心はあっさりとその夢を受け入れ伸ばされた手を掴もうと自分の手を動かす。
もう苦しむ必要も戦う必要もない。そして大切な親友が生きている。夢だとしても、ここには未来が欲しかったものがある。それだけで辛い現実なぞに後悔はない。
「──本当に?」
「えっ?」
背後から聞こえる
「本当に、そっちに行っちゃうの?」
「ッ!」
願った世界の響の手を取ろうとした未来を、ライブ会場に立つ響は悲しそうに見ている。
「未来は全部諦めて、都合の良い夢に行っちゃうの?」
「ッだって仕方ないでしょ!」
荒れ果てたライブ会場に一人寂しく立つ響に向けて未来は涙を流して悲痛な声を上げる。
「クリスのおかげでやっと、やっと前に進めると思ったのに全部が壊れちゃった!呪われてるのは響じゃなくて、私だった!私が生きてるから響は死んでクリスや奏さんもいなくなった!私がいなければみんな幸せになれたのに、私が生きてたからみんないなくなった!!!」
ツヴァイウィングのライブで自分が会場に行かなければ響は死ななかったかもしれない。むしろ誘わなかったら死んでいなかった。
クリスは自分と出会わなければ誰か別の人が助けて今でも元気だったかもしれない。
奏と翼も大きな怪我をせずにアーティストとしてもっと高く羽ばたいていたかもしれない。
想像でしかないのだが、今の未来はノイズが現れた事も含めて全て自分が生きていたから起こってしまった事なのだと頑なに信じてしまっていた。
「もういいでしょ?もう楽になってもいいよね?私頑張ったんだもん、それくらいのわがまま、言ってもいいよね?」
楽になりたかった。
辛い事も悲しい事も全て忘れて都合の良い夢に逃れて何もかも忘れたい。そんな想いのこもった叫びをライブ会場に立つ響は静かに聞いていた。
「……そっか。それが未来の本当に思ってる事なら、仕方ないよね」
否定でも励ますのでもなく、響は辛そうな笑みを未来に向けた。その瞬間、突如無数のノイズが響を囲むように現れた。その光景は未来が何度も夢の中で見て、そして初めて天羽々斬を纏った時に見た悪夢に似ていた。
「ッ響!早く逃げて!」
「ダメ。未来がそっちに行くなら私は邪魔になっちゃう。未来が幸せになりたいなら、私は消えなきゃダメなの」
はっきりとした口調で否定した響をノイズが徐々に距離を詰めていく。ノイズと響の距離はあまりにも近く、今走ったところで未来の脚でも間に合うものではない。
一歩一歩確実に近づいてくる死の化身を目の前にして響は、それでも涙を流す未来に笑顔を向けた。
「バイバイ、未来」
手を振って別れを言う響に未来はただ呆然と次の瞬間には来るであろう悲惨な光景を幻視する。だが助けにいかなければならないと思っていても、身体はピクリとも動かない。
(誰か、誰か響を助けて!お願いだから響を!)
しかしこの場には弦十郎も慎次もいない。荒れ果てたライブ会場にいるのは未来と響と無数のノイズだけ。
届かないと分かっていてもあの日のように響の手を取ろうと手を伸ばす。あの日握れなかった手を求めるように。
今すぐにでも背後の教室でクリスたちもいる夢の響の手を取れば今感じている悲しさや絶望は綺麗に消えるだろう。逆に目の前の響がノイズに襲われる光景を目の当たりにしたらきっと戻ってこれない。どうしようもないくらい心がバラバラに砕けてしまう。そう分かっていても目が離せない。
「ダメ、ダメええぇぇぇぇ!!!」
押さえつけていた鎖が千切れたかのように、思わず夢の響を置いて駆け出す。
走ったところで絶対間に合わない。走るだけ無駄だと頭では分かっていても未来は走る。
何をしても呪われている自分では不幸を呼んでしまう。そう思っていても目の前で響が死ぬ姿を心が砕けると分かっていても、ただ黙って見る事は出来なかった。
届けと思いを込めて手を伸ばす。それでもまだ遠い。
足がもつれながらも決して倒れず、最速で、最短で、まっすぐ一直線に走る。だがまだ届かない。
痛いくらいに鼓動する心臓にここで止まっても構わないと言い聞かせ、身体の限界を超えて目の前の大切な人に向かって涙を流しながら、それでも走る。しかし後一歩足りない。
(届け届け届け!あと少し、あともう少しなの!もう少しで響を!)
諦めていたはずなのに、もう辛い事は嫌だと逃げ出したはずなのに、それでも諦める事が出来ない。
目の前に響がいるのなら、未来はどれだけ辛い現実でも諦める事は出来なかった。
「響いいいぃぃぃ!!!」
未来の叫びに呼応するように身体が青く発光し、一瞬光に呑み込まれる。そして光から出てきた未来は青と黒のインナーに機械的な装甲を纏った天羽々斬のシンフォギアを身に纏い、右手には黒い刀を持っていた。
今まで届かなかったあと一歩を力強く踏み込む。
想いを乗せた研ぎ澄まされた一閃が響を囲む全てのノイズを切り裂く。灰化したノイズは風圧によって灰ごとこの世から消え去った。
静かさを取り戻す夕暮れのライブ会場に未来と響が残った。
「ありがとう」
肩で息をする未来を響は後から優しく抱きしめる。その暖かい抱擁が今まで未来を縛っていた何かがゆっくりと解き放たれ、未来の心と身体が軽くなっていく。
「やっと
「……うん。今までごめんね、響」
助けたいと思っていても足りなかったあと一歩。それはどれだけやっても響を助けられない、響を殺したのは自分だからという勝手な思い込みから生まれた諦めに踏み出せなかった一歩。それを未来はとうとう踏み出せたのだ。
未来は決して後ろを振り向かずに響の言葉に耳を傾ける。
今振り向けばきっとここから離れられなくなってしまう。そうなれば響が望まない自分になってしまう。そんな予感がして振り返りたい気持ちを必至に抑えつけた。
「私のために頑張ってくれてありがとう。私のために沢山傷ついてくれてありがとう。私のために生きてくれてありがとう。でも、もう好きに生きていいんだよ」
「うん……でも、やっぱり私は自分の事が許せない。クリスの言ってた通り大好きな響を呪いにして沢山の人に迷惑かけちゃった。響が許してくれても、きっと私が私を許さないと思う」
抱きしめる響の手に自分の手を重ね茜色に染まった空を見上げる。
今まで未来は沢山の人間に恐怖だけでなく、消えない傷を残してきた。それは響が好きな優しい未来だからこそ決して許す事が出来ない事。どれだけ響が許すと言っても、仮に怪我を負った本人に許されても未来本人は決して自分を許さない。
だからこそ、響はそんな未来に笑顔を向けた。
「知ってる。だからこれからいっぱい辛くて痛くて悲しい思いをして、それでいっぱい笑って楽しんで幸せに生きて?それが私からの罰だよ」
未来の好きだった太陽のような明るい笑顔。嫌な事を忘れさせ、周りも笑顔にしてくれそうな優しくて眩しい笑顔。
顔を見ていないというのに響が自分に向かって大好きだった笑顔を見せていると未来は感じ暖かい涙を流す。
「もう、響は昔から無茶な事を言うね」
「えへへ。それが私でこざいますからね!」
いつまでも続いて欲しいと思ういつぶりかの心が暖かくなる時間。これが最後になるかもしれない大好きな人との暖かい時間。
その時間を未来は自分から手放した。
「それじゃ、もう行くね」
「うん!頑張ってね、未来!」
振り返りたい気持ちを抑えて未来は決して振り向かず、名残惜しむようにゆっくりと腕を解いた響から離れて目の前に現れた目を覆いたくなるような
「行ってきます」
「いってらっしゃい!」
もう聞く事がないと思っていた親友の声を背に、未来は生きる覚悟を持って光の中に入っていく。
その手に白紫に輝く刀を携えて。
──────────────────────
力無く倒れる未来に止めを刺そうと剣状の鞭を振り下ろすフィーネ。
だが鞭が未来の心臓を貫く事はなく、直前で止めた。
『〜〜♪〜〜〜♪』
「……なんだ?この耳障りな音は?」
何処からか聞こえてくる何かの〝音〟に眉を寄せ、気分が害されてイライラする。そして耳をすませばそれが〝歌〟だと気付いた。
「何処から聞こえてくるのだ、この不快な歌……歌!?」
フィーネは気付かないだろう。この歌が創世たちが力を合わせてリディアンの施設機能を復活させ、生き残ったスピーカーを通じて発せられる未来への応援の気持ちを込めた歌である事を。
そしてフィーネは知らないだろう。この優しい歌が生きる事を諦めた少女が生きる覚悟を決め、そして再び現実に向かって戻ってくるための道標になっている事を。
「────ありがとう、みんな。こんな私を信じてくれて」
「ッ!?」
不意に感じる嫌な予感にフィーネはその方向に目を向ける。その視線の先には倒れる未来がいたがその姿を視認した瞬間、未来は眩しい光に包まれフィーネは弾き飛ばされた。
そして未来はゆっくりと身体を起き上がらせて立ち上がる。
「まだ戦えるだと!?もうお前には支えるものが何もないはず!何を想って力に変える!?何故立ち上がれる!?」
あり得ないはずの光景にフィーネは思わず後ずさる。その間にも未来を覆う光は強くなり天を貫くほどの眩しい紫色の光となる。そしてそれに呼応するように離れた場所にある瓦礫と半壊したカ・ディンギルの頂上からも同じような眩しい真紅と橙色の光が空に向かって伸びた。
「お前の纏っているそれはなんだ?心は完全に砕いたはず!なのに、何を纏っている!?それは私が作ったものか?お前が、お前たちが纏っているそれはなんだ!?なんなのだ!?」
光は未来の身体に絡みついていき、そしてその中から現れるのは怒りと殺意に染まった黒ではなく、どれだけ苦しくても生きる覚悟を決めた純粋な白と、完全に装者と結びつき、その魂の色へと変化した紫による白と紫のインナーに同じく白と紫の機械的な装甲を身に纏い、首には薄い紫のマフラーをして片手には白い刀身に紫色のラインが入った白紫の刀を持った一人の少女。
ゆっくり閉じた瞳を開ける。そして背中の装甲から紫色に光り輝く翼が生えて空高く飛び上がり、それを追うように真紅と橙色の光も宙を舞い、暗雲を消し飛ばす勢いで白紫の刀を空に掲げた。
「これが私の、私たちのシンフォギアだああああぁぁぁ!!!」
元は翼さんの借り物であった天羽々斬が未来さん色に染まる事で完全に自分の物へと昇華させ新たなステージへ!紫色の天羽々斬とかカッコよくないですかね!?未来さん色のガングニールもあるんだし許されますよね!?
原作で言えばG編終盤で響がマリアさんからガングニールを奪って?自分のものにした時のシーンに近いですね。ここでこれをするという事は……神獣鏡未来さん……いいよね。
ふと思いましたが創世さんの人の呼び方ってビッキーとヒナとキネクリ先輩以外のキャラでありましたっけね?本編は時間があれば一から観れますがXDのメックヴァラヌス、仕事のゴタゴタでまともに出来て無いので分からぬ……ストーリーチケットをやってないイベ見るために最初の方から使ってるのが仇となったか_(:3」z)_
次回! 陰る陽だまりはそれでも前へ