今回はよくあるアニメ一話のOPの背景で主人公やメインキャラの悲惨な過去を映し出してるやつ的なあれです。新たな戦いの幕開け、というのを予感させるための結構短い話なので気楽にしてくだせぇ。
プロローグ
──炎が揺らめいている。
少女の目の前には広かった研究用の実験室は瓦礫に埋まり、実験に使う機材は既に残骸となって落ちてきた瓦礫に潰されている。その中には人だった物が赤い血を流している姿も混ざっていた。
燃え盛る炎が何もかも燃やす悲惨な光景が広がる中、広い部屋の中央には巨大で色白く、人型に近いが決して人ではない化物が前屈みのような状態で暴れ回っていた。
そして、そんな巨大な化物の前には騎士をイメージしたドレスアーマーのような白い鎧を纏った一人の少女が立っている。化物と年端の行かない少女では体格差も何もかもが違い、化物が腕を一振りすれば少女は肉塊へと変わるだろう。それほどまでに生物としての差が大きい。それでもその白い鎧の少女は臆せずに化物の前に立っていた。
化物と対峙する白い鎧の少女に向かって崩れた瓦礫を境にした反対側にいた少女は涙を流しながら白い鎧の少女の名前を呼んで止めようと瓦礫を登る。化物と対峙しているのは彼女のたった一人の家族だ。
化物と対峙する白い鎧の少女はこの世界にたった一人だけの家族。いつも少女を優しく包んでくれた大切な家族。
それがまさに今、自分たちの事しか考えない身勝手な大人のせいでその命を散らそうとしていた。
例え今喉が潰れても良いと必死に白い鎧の少女の名前を叫び続ける。だが白い鎧の少女は振り向かず、帰ってきたのは禁忌の歌だった。
──Gatrandis babel ziggurat edenal──
何処か暖かさを感じる優しい歌声が瓦礫だらけの研究室に響き渡る。だがその優しい歌声とは裏腹に白い鎧の少女を中心として異様なほどフォニックゲインが上昇して行く。
──Emustolronzen fine el baral zizzl─
怪物は何かを察して逃走を図ろうとするが、既に遅かった。
白い鎧の少女の身体が輝くと同時に目を覆いたくなるほどの眩い光が辺りを照らし、その直後現在の化物をモニターしていた少し高い場所にあるガラス越しの部屋すら巻き込む程の強い衝撃が生まれた。
一瞬あとには更に崩壊した研究室と機材に引火して更に広範囲に広がる炎の海。だがそこにはあの白い巨大な化物の姿はない。
化物の前にいた白い鎧を纏っていた少女の身体から鎧が粒子となって消える。その手には無機物の何かが握られている。
白い鎧を纏っていた少女の名前を呼んでいた少女は瓦礫を登り切り、そして瓦礫と炎の中で立つ片割れの名前を叫ぶ。そして鎧を纏っていたその片割れの少女はゆっくりと振り向いた。
綺麗だったその顔は絶唱のバックファイアにより目や口から血を流し、正気を感じられないくらい青白くなっていた。
片割れの少女のその顔を見た少女は、急いで救出するため瓦礫を降りようとする。が、その後ろから少女たちを育てて来た初老の女性が少女を抱きしめると共に床に倒れこむ。そしてその上から大きな瓦礫が落下してきた。
初老の女性が動かなければ少女は瓦礫に潰されていただろう。それに運良く瓦礫と瓦礫の隙間に倒れる事が出来て身体が潰される事はなかった。しかし、片割れの少女を助けに行く事も出来なかった。
天井から崩れた瓦礫が片割れの少女の周りに落下し、炎がゆっくりと逃げ場をなくして行く。絶唱を歌ったその身体では上手く動く事すら出来ずただ立ち尽くすだけ。
少女は瓦礫の隙間から必死に片割れの少女に向かって手を伸ばす。だがその手はあまりにも小さく、そして遠かった。
片割れの少女は血で濡れた顔のままで優しく少女に微笑みを見せる。そしてその直後、少女の目の前で爆炎が片割れの少女を飲み込むのだった。
「いや……いやあああああぁぁぁ!!!」
──────────────────
「──ッ!!!」
古びた毛布を跳ね飛ばし、一人の女が勢いよく起き上がる。その身体は異常なほど汗で濡れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……夢?」
まだ動揺している女は震える自分の手を見る。片割れの少女伸ばしていた時よりも大きくなったそれを見て安堵のため息と共に強く奥歯を噛み締めた。
(今の私の力があればあの時だって……)
そう思うがすぐに頭を振って否定する。
かつて片割れの少女を助けられなかった少女は既に時を経て大人となっている。そして大切な家族の命を奪った白い巨大な化物を倒す事は出来ずとも対応出来るほど成長している。それほどまでに自分を鍛えていた。
だがどれだけ力を手に入れようとも既に過去の事。もう片割れの少女は戻って来ない。
(なんで、今になってあの時の夢を見たのだろう?)
明後日は女の生涯を賭け、そして全てを捨てる覚悟を以て
それなのに、そんな覚悟が揺るぐほどの辛い過去をこんな前日に夢に見てしまった。その事に女は動揺を隠せなかった。
「──眠れないのですか」
「マム……」
女の部屋に機械の車椅子に乗った片目に眼帯をした初老の女性が入ってくる。時計を見れるば時間は遅いもののまだ日付が変わる前であった。
「明後日には全てが動き出します。そのために少しでも長く眠りなさい」
「はい……」
マムと言われた初老の女性に諭されて女は素直にもう一度古くて硬いベットに潜り込む。少し汗で気持ち悪いが贅沢は言ってられない。
ちらりと近くの机に置かれた写真立ての中の一枚の写真を見る。そこには淡いピンクの髪の少女とオレンジ色の髪の少女が同じ花をイメージさせる髪飾りをして楽しそうに笑って並んでいた。
「……おやすみなさい」
また悪夢を見ないか怯えながら女は楽しかった頃の思い出に逃げるように再び眠るのだった。
そして、新たなる運命の日が幕を開ける。
なんとなくの違和感を感じてくれた人なら私の変化球の正体に気づいたかもしれませんね(前回で察してる人もいますが)。その正体は次回で!
次回! 新たな歌姫
作者はまた茨の道を進もうとしている……