未来・ハさん……いいよね。
ソロモンの杖を護衛を完了した未来とクリスが基地を襲ったノイズを撃退し、半壊した基地にて生き残った軍人たちが地面に残された大量の
『──そちらの状況はどうだ?」
「はい。既に事態は収拾。ですが行方不明者の中にウェル博士の名前があります。そして、ソロモンの杖もまた……」
『……そうか。分かった、急ぎこちらに帰投してくれ』
「分かりました」
連絡を終えて未来とクリスの元に戻るあおい。その道端には何度見ても見慣れない、かつて人だった証すら残っていない灰が地面に落ちているのを見て眉を潜める。
ノイズに組み付かれた者に待つのは無惨とも言えるほど無情に何も残らない〝死〟。それが家族であろうと、親友であろうと例外では無い。
未来は半壊した基地と道端に落ちている灰をただジッと見つめる。未来の隣にいるクリスは未来の顔から表情が落ち、初めて会った時のように瞳が少し濁っているように見えていた。
「……そんなに心配しなくても大丈夫だよ、クリス」
「えっ」
心配しているというのが顔に出ていたクリスに未来は少し辛そうにしながら無理矢理笑顔を作る。離れた場所にいたあおいでも、それが無理をした作り笑顔だと分かるほどの微笑みとはいえクリスにもあおいにも心配する以外に手はなかった。
「無理はすんなよ」
「うん。あおいさん、すぐに戻りましょう」
「え、ええ。そうね。早くしないと二人のライブにも間に合わないかもしれないしね」
早々とノイズを殲滅する事が出来たとはいえ今から戻ってもツヴァイウィングとセレナ・カデンツァヴナ・イヴのコラボライブは途中になってしまう可能性は高い。それでも見れないよりマシだが。
隣にいるクリスも行方不明になったウェル博士とソロモンの杖、そしていまだ心の傷が完治していない未来を心配はしているものの、やはり今日のライブは楽しみにしていたため少し興奮気味に未来の言葉に同意するよう首を縦に振っていた。
「……それもあるんですが」
クリスを見て少し心が軽くなった未来はゆっくりと空を睨むように見上げた。
「何か……嫌な予感がするんです」
──────────────────────
日が傾き空を赤く染め上げる頃。
二年前のツヴァイウィングのライブ中にノイズの襲来に遭い、世間に深い傷跡を残したライブから復活したツヴァイウィングと新たに生まれた生まれた歌姫、セレナ・カデンツァヴナ・イヴのコラボライブが今幕を開けようとしていた。
地面が割れるかと思うほどの観客の声と目が痛くなるほどの大量のペンライトがライブ会場を埋め尽くす中、音楽と共に会場の中央の舞台装置が動き出して床が迫り上がってくる。
舞台上のモニターに大きく『QUEENS of MUSIC』と映し出させれ、その後『Serena × Zwei Wing』と変わり、そしてモニターの前には三人の人影があった。
「見せてもらいます。戦場の才、そして抜身の刀と輝く槍の貴女方を!」
映し出されたのは舞台衣装に身を包んだ翼と奏、そして二人と初顔合わせの時には見せなかった優しく、それでいて人々の心を鷲掴みにするような凛々しい顔つきのセレナだった。
三人で歌う最初の曲は『不死鳥のフランメ』。
レイピアのような形をしたマイクを持ち、舞台装置によりモニターも次々と画像が変わり、その中で翼と奏とセレナは観客の注目を全て浴び、そのなかでも堂々と三人の歌姫が舞い踊り、その美声が会場を支配する。
スピーカーによって声が広がっているのを加味しても三人の歌声は観客の声援を掻き分けて夜のライブ会場の中で一際大きく光り輝いていた。
そして一曲目が終わる頃には既に観客のテンションは止まる事を知らなかった。
そんな中でツヴァイウィングの翼と奏が一歩前に出た。
「ありがとう、みんな!私はいつもみんなから沢山の勇気を分けてもらっている!だから今日は、私の歌を聴いてくれる人たちに!少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!」
「あたしらの事をずっと応援して来てくれてありがとう!ツヴァイウィングがこうやって歌い続けていられるのもみんなの応援のおかげだ!今日は目一杯楽しんで行ってくれ!」
二人の言葉に観客の声援は更に大きくなる。それだけ二人の言葉はファンにとって大きな事なのだろう。
そして次にセレナが前に出る。
「私の歌を全部、世界中の人たちにあげます!私は振り返りません。全力疾走です、ついて来れる人はついて来てください!」
セレナの言葉にも観客は反応して声援は大きくなる。彼女の事を知っていた者は勿論、あまり知らなかった者もまだ一曲しか歌っていないセレナの言葉に感動し、中には涙を流す者いた。
「今日のライブに参加出来た事を感謝しています。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト、ツヴァイウィングと共に歌える事を」
「それはあたしたちも同じさ!」
「奏の言う通り、私たちも素晴らしいアーティストと出会えて光栄に思う」
翼が代表としてマイクを持つセレナに近づき右手を出して握手を求める。奏はその後ろで眩しい笑顔を向けている。
セレナも優しい微笑みを見せて翼の出した手を優しく握った。その光景に観客の声が大きくなる。
「私たちが世界に伝えていかないといけませんね。歌には力があるって事を」
「ああ。それは世界を変えていける力だ」
アーティストとして、そしてシンフォギアの装者として歌が世界に与える力を理解している翼はセレナの言葉に強い共感を受ける。まるでその力が何なのかを理解しているようだった。
踵を返して笑みを見せる翼と距離を取るセレナは自分の立ち位置に戻るとそっとマイクを自分の口元に近づけた。
「そして……もう一つ」
台本に無かった台詞と先ほどまで楽しそうに歌っていたセレナから表情が変わり、目つきが鋭くなる。それを訝しんだ奏が何かを感じ翼よりも前に出てセレナに近づこうとしたのと同時に、セレナは右手を振り上げる。そして二年前と同じ悪夢が訪れた。
セレナが右手を上げたのを合図にステージの周りに謎の緑の炎が立ち昇る。そしてそこに現れたのは死へと誘う地獄の使者、ノイズだった。
いきなりの出来事に観客は一瞬固まり、そして目の前で起きた事実に混乱しながら泣き叫び、二年前の再現であるかのように皆我先にと会場の出入り口へと走り出した。
「姉さん……」
「……姉さん?」
胸に手を当て震える唇から小さな、それこそ周りの喧騒でかき消えそうなほどの小さな声でセレナは呟く。それを翼よりも前に出ていたからこそ奏は気づいた。
「ッうろたえるな!」
セレナの一喝が会場に響き渡る。その声が観客の耳に入ると同時に先程までの喧騒が少しずつ止んでいく。ノイズを操っていると豪語した以上、命令を聞かねばいつノイズをけしかけるか分からないため今は従うしかない。それをあまりの恐怖さで逆に冷静になった観客は察した。
シンフォギアを起動していない現状、どんな兵器を持ってしてもノイズには相違差障壁があるため無意味。それをこの場で唯一シンフォギアを持っている翼は理解し、舞台衣装の下に隠し持っていたギアペンダントを握った。
「怖いですね。この状況でも私の隙を窺うなんて。でも早まらないでください。観客の皆様がノイズからの攻撃を防げると思いますか?」
「くっ」
「アンタはっ!」
観客を人質に取り、余裕の笑みを作るセレナ。先程までの共に歌い舞っていた時とは違う笑みに翼と奏は戦闘の意思を示すように構えた。
「それに、ライブの状況は世界中に中継されています。日本政府はシンフォギアについての概要を公開してもその装者については秘匿したままでしたよね?ね、風鳴翼さん、天羽奏さん」
「甘く見ないでもらいたい!そうとでも言えば、私が鞘走る事を躊躇うとでも思ったか!」
今にでも観客の前でシンフォギアを纏おうとする覚悟のある翼を見て、セレナは一瞬辛そうな笑みを見せて逃げるように視線を逸らした。
「……貴女のそういうところ、羨ましいと思います。貴女のように誰もが誰かを守る為に戦えたのなら世界は、姉さんは救われていたかもしれませんね」
「……セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。アンタはいったい何を?」
やっている事と言っている事のチグハグさに奏は眉を潜める。
脳裏に思い浮かぶのはライブ直前の顔合わせで見せた二人でも見惚れるような優しい笑み。これまでセレナが歌ってきた歌から感じられる人を愛しむような暖かい歌。そしてライブで見せた楽しそうに歌う姿。
そのどれもが二人には本物に感じたと言うのに、今のセレナにはセレナ自身の何かが欠けているような違和感を感じずにはいられなかった。
だが二人の想いとは裏腹に、セレナは優しい笑みを捨て覚悟を決めた戦士のように目つきを鋭くした。
「そうですね。そろそろ頃合いですね」
レイピア型のマイクを手に取り、観客と中継が繋がっている世界に向けるような堂々と舞台の中央に立つ。
「私たちはノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求します!」
「世界を敵に回しての口上!?」
「まるで宣戦布告しゃねぇか!」
ノイズを操る力を持つと豪語した上で世界に向けての要求。それは奏が言った通り、世界に対して宣戦布告をしたようなもの。
自分の逃げる道を自ら消したセレナはレイピア型のマイクを空高くに向けて投げ出し、観客や翼たちの視線を一点に集中させた。
セレナは自身胸に手を置き、その口から歌われるのはノイズからの世界を守るための鎧を身に纏うための聖詠。
──
セレナの全身を黒と橙色の光が包み込む。
そして現れたのは黒と橙色のインナーの上に黒と僅か橙色の機械的な装甲を纏い、背中には黒いマントを羽織るその姿は、かつて奏が纏っていた時のそれとは形状が違い、橙色の分布が少なくほとんどが黒に染まっていた。
「黒い、ガングニール……?」
「嘘だろ!?だって
形状は多少違っていても装甲の随所に奏が纏ったいた時のガングニールと酷似した場所が多々あり、それがガングニールのシンフォギアだと嫌でも理解させられる。
奏が纏っていたガングニールは装者を辞めると弦十郎に告げた時に二課に返却され、その後は厳重に管理されている。二課には弦十郎がほぼ常に滞在しているためバレずに盗み出すことは不可能。そのため目の前にある光景が二人には信じられるものではなかった。
「……シンフォギアは聖遺物の欠片から造られた物。でしたら同じ聖遺物の他の欠片を使えば同じシンフォギアが造られるのは当たり前のことですよ」
驚いている二人にセレナは余裕綽綽の顔で説明する。現に天羽々斬の装者である翼と同じシンフォギアを纏う未来がいるため、その可能性は大いにあったのだがこうやって目の前でそれを披露させられると言葉が出なかった。
セレナは驚く二人を置いて再びマイクを取り、世界中に向けて宣言する。
「私は、私たちは〝フィーネ〟。終わりの名を持つ者だ!」
それが偶然なのか、それとも意図したものなのか今は不明だが奏には大きな衝撃を与えていた。
フィーネ。それはほんの数ヶ月前に奏と未来とクリスが世界をかけて戦い、辛うじて打ち倒したはずの存在であり、そして未来の言葉によって吹っ切れた顔で奏たちの前から消えたはずのかつての敵の名前だった。
「お前!その名前が何を意味するか分かってんのか!」
「そう怒らないでください。誤ってノイズに観客を襲わせてしまうかもしれませんよ?」
「っお前はぁ!」
ただの冗談のようにセレナは怒りで顔を歪める奏に優しい微笑み向ける。この状況でのセレナの微笑みは悪魔の微笑みに見えてしかたなかった。
「……本当の目的が何かは知らんが、奏と同じガングニールのシンフォギアが貴様のような輩に纏える物ではないと覚えろ!
──Imyuteus ameno」
『待ってください翼さん!』
観客を守るため、そしてこれまで傷つきながらも戦って来た片翼の努力を無駄にするセレナの行いに、翼はギアペンダントを握り天羽々斬のシンフォギアを纏おうと頭の中に浮かぶ聖詠を歌おうとした。だが耳につけた通信機から聴こえる慎次の声に翼は聖詠を途中で止めた。
『今動けば風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまいます!』
「でも、この状況でそんな事」
『風鳴翼の歌は!戦いの歌ばかりではありません。傷ついた人を癒し、勇気づける歌でもあるんです』
「緒川さんの言う通りだ」
「奏?」
慎次の言葉を聴き、奏は翼を守るように一歩セレナに近づき構える。シンフォギアを纏っていなくとも弦十郎との訓練で多少生身でも戦えるようになった奏からは、かつてガングニールの装者だった時と同等の戦意を身体から放っていた。
「あたしと翼、二人でツヴァイウィングだ。それはこの先も変わらない。こんなくだらない事で変えちゃいけないんだ」
「くだらないとは酷いものですね」
少しムッとした顔で奏の言葉に反応するセレナ。ここに来てようやく少し素の顔が出たように奏は感じたがすぐさま表情を戻した。
「ならノイズを使って何をする気なんだよ」
「そうですね。差しあたっては国土を割譲を求めようかなと」
また作ったような笑みを浮かべるセレナ。何処までが本気で何処までが嘘なのかもう奏も翼も分からなくなっていた。
だがそれでも今の笑みが作ったものだとは見破れていた。だからと言って何か出来るわけでは無いのだが。
ノイズがいるせいで観客が人質に取られ身動きできず、ただ時間だけが経過する。その中で先に動いたのはセレナの方だった。
「戦わない、というより戦えないのですね?それでは仕方ありません」
困ったという風な芝居のかかった仕草をしてセレナは観客の方に向き直りマイクを取った。
「観客の皆様を解放しましょう。ノイズには手出しさせませんので安心して御退場してください」
「「……は?」」
セレナは人質という有利な状況を自ら手放したのだった。
観客たちは全員混乱してその場から動けない。というよりも何の確証も無しにただ「解放する」と言われただけではそれが嘘で、動いたら一斉にノイズが襲ってくるかもしれないという恐怖に一歩を踏み出せないでいた。
それでも一人、また一人と目の前にいるノイズの前を恐怖で身体を震わせながら会場から出て行く。その様子をセレナは黙ってジッと見つめていた。
「……アンタの狙いは何だ!」
いつ何時セレナが気分を変えてノイズを襲わせるか分からなかったためセレナの一挙一動に注視していた翼と奏。だがセレナは自身で言った通り観客全員が会場からいなくなるまでノイズをピクリともうごかそうとしていなかった。むしろどこか安心したような表情を見せていた。
『なにが狙いですか?』
「マム……」
通信機から発せられた初老の女性の声にセレナは一瞬親に怒られる前の子供のような焦った顔を見せる。
『こちらの優位を放棄するなど、筋書きになかったはずです。説明してもらえますか?』
「……このステージの主役は私です。人質は私には似合いませんから」
『血に汚れる事を恐れないで!』
マムと呼ばれた女性の言葉にセレナは眉を寄せ、かつて大切な家族を救う事が出来なかった出来損ないの自身の掌を見る。そして何かを握り潰すように強く握った。
「……別に恐れている訳ではありません。必要ならこの手が血で真っ赤になる事にも耐えてみせます。ですがここで無関係な観客を殺せば私を道具のように扱い、マリア姉さんを見殺しにした自分勝手な大人たちと同じになってしまいます。それだけは、誰がなんと言おうともそれだけは絶対にしません」
初めてセレナの瞳に怒りの炎が宿り、わずかに顔を歪ませる。
脳裏に蘇るのは大切な家族であった姉と自分や同い年かそれ以下の子供たちをある目的のために集めて様々な過酷な実験を繰り返しさせられ、そんな自分勝手な大人たちを守るためにその身を犠牲にした姉を見殺しにした大人たちの顔。
自分の幸せを自分勝手な理由で奪う。今自分自身がそれと同じ事をやっていると分かっていても、他人の幸せを簡単に踏みにじるような事は絶対にしたくないと今でも思っていた。
『……調と切歌を向かわせています。作戦目的を履き違えない範囲でおやりなさい』
「はい。ありがとうございます、マム」
マムと呼ばれた女性と通信を終えて再び会場のほうに目を向ける。いつの間に観客は全員退避しており、目の前には先程まで人がひしめき合っていたのが嘘だったかのように閑散とした光景だった。まるで残っているノイズが観客のようだ。
「……帰る場所があるというのは、とても羨ましいものですね」
「セレナ……貴様はいったい?」
様々な矛盾を孕んだセレナの行動に翼は頭が痛くなる思いをしていた。
共に楽しそうに歌っていたセレナが突然ノイズを呼び出したかと思えば観客を人質に取り、今は二課にあるはずのガングニールとは別のガングニールのシンフォギアを纏い、そして世界に宣戦布告。と思えば今度は自分の優位を捨てるかのように人質の解放。自分で大事にしておいてまるで「本当はやりたくなかった」と思わせるような安心した顔。
どれが嘘でどれが本当か考えるだけで痛くなる程の突然の出来事に二人は混乱を隠せないでいた。
「……観客はみんな退避しました。もうこれで被害が出る心配はありません」
そんな二人を置いてセレナは冷静な面持ちで向き直り、レイピア型のマイクを翼の方に向ける。
「これでもまだ私と戦えないのでしたらそれは貴女の保身のため。その程度の覚悟しかないのであればそのペンダントを置いてください」
「っく」
「挑発に乗るな、翼」
「でも、このままじゃ!」
セレナの言葉にギアペンダントを握る翼。だが中継は繋がっておりここで歌えば翼がシンフォギア装者だと世界中にバレてしまう。その事は自分が装者ではないため冷静に判断出来る奏が分かっていた。だからと言って簡単に納得出来る状況でもないが。
セレナの注告を聞いても戦闘の意思を見せる翼と奏にセレナは諦めてため息を吐き、そしてレイピア型のマイクを構えた。
「仕方ありません。いきます!」
シンフォギアの力を使い、一気に二人に近づく。そしてレイピア型のマイクの刃が二人を襲う。
「くうっ!?」
「こんのお!」
相手は一人だがこちらは二人。そんな戦局で翼はセレナと同じレイピア型のマイクを、奏は徒手空拳で応戦する。
当たればただでは済まない容赦ない連撃だが反応出来ないレベルではないため二人は生身のままギリギリでセレナの突きを回避し、反撃のチャンスを狙う。
「ここだ!」
セレナの身体が奏の方に傾いた瞬間を狙って翼が反撃しようと前に出る。だがそれが分かっていたかのようにセレナはすぐさま一歩後ろに下がると身体を黒いマントを広げながら自身も独楽のように回転させる。するとどうだろうか、まるではためいていたマントが硬化したかのような硬さになり翼の持っていたレイピア型のマイクをへし折ったのだった。
「っ翼!」
あわや回転するマントに身体を引き裂かれる寸前で奏が翼の腕を掴んで後方に飛びながら自身の方に引き寄せて回避した。
その際、若干奏の衣装が傷つき、あまり青少年にはよろしくない綺麗な脚が露出したが今は関係ない事だろう。
「くっそ!あたしのガングニールにはそんなのなかったぞ!?」
「そんなの知りません!」
回避した二人を追いかけてセレナが再び襲いかかる。
辛うじて怪我を負うような事態にはなっていないもののセレナがシンフォギアを纏っている以上生身の二人には限界がある。それに加えて硬化するマントによって防御も出来るとなればいよいよ体力の問題となってくる。
「翼!モニターの後ろに!」
(そうか!カメラの目の外に出てしまえば!)
翼よりもセレナに近い位置にいた奏が自身の身体を盾にしてセレナの視界から隠し、翼を大型モニターの後ろへ行くよう誘導する。その理由を理解した翼は一瞬奏に視線を向けると大型モニターの裏に向かって走り出す。
「させません!」
「それはこっちのセリフ、わっ!?」
翼の元に行かせないと立ち塞がる奏だったが、セレナがガングニールのマントを奏の視界を奪うようにはためかせてその視界を真っ黒に染らせて奏の視界を奪う。そしてレイピア型のマイクを走り出していた翼に向かって投擲した。
当たれば怪我は免れないが、翼は投擲されたレイピア型のマイクをジャンプする事で回避する。あとは着地後すぐに大型モニターの後ろに退避してシンフォギアを纏えば形勢逆転。のはずだった。
「────んな!?」
回避完璧だった。だが翼の履いていたのがヒールだったのが災いし、着地した瞬間ヒールのカカトが折れてしまい、大きくバランスを崩してしまう。
「貴女はまだ、ステージを降りる事は許されません!」
「ぐっ!?」
いつの間にかすぐ後ろに迫っていたセレナは態勢を崩した翼の腹部を狙ってステージに戻すように蹴りを放ち、それを受けた翼は宙を舞う。
シンフォギアを纏っているため常人であればそれだけで内臓が破壊されている可能性はあるのだが、翼は寸前で後方に体重を傾ける事でダメージを減らそうとする。だがそのせいでステージの上に落ちるように調整されたセレナの蹴りが予想以上に後方に飛んでしまう結果となってしまった。
その結果、翼が落下するであろう場所はノイズの群れの真上だった。
「っしまった!」
「翼!?」
無防備で、そして生身のままノイズの群れのど真ん中に落ちる。それが意味する事を何度もノイズと戦い、そしてその被害を目の当たりにした翼が分からないはずはない。
(……決別だ。歌女であった私。ツヴァイウィングは任せたわよ、奏)
アーティストの風鳴翼としてここで灰となり死ぬか、シンフォギア装者の風鳴翼としてここで優しい歌を捨てて戦いの歌を歌うか、二つに一つ。
この状況で迷えるはずもなく、そして世界を守る剣として育て上げられた防人である翼が取る道は迷う事なく一つしかない。
「聴け!防人の歌を!」
──
歌と共に翼の身体が青い光に包まれ、その光に触れた真下にいたノイズがその身体を灰に変えた。
そしてその身に纏う鎧はもう一つの天羽々斬の装者である未来とは形状が多少異なり、青と黒のインナーに強さを体現した未来よりも装甲が薄く、その代わり速さを重視した軽装の青と黒と白の混ざった装甲だった。
シンフォギアを纏えばいくら世界に恐怖を与えるノイズであろうともその最も恐ろしい人体を灰化させる能力を失えば、その恐ろしさは半減される。ここからは翼の独壇場だった。
空中に投げ出された状態から着地後、見事な刀捌きで周囲にいたノイズを切り刻む。力任せに振るう未来とは違う、洗礼されたその動きにノイズは次々に灰へと変わっていく。
『蒼ノ一閃』
持っていた青のラインが入った白銀の刀を大剣に変形させ、空中に飛んだ翼が大剣を大きく振りかぶると青い光が集まり、そのまま振り下ろすと青い稲妻のような衝撃波がノイズの群れを切り裂き、当たらずともその衝撃が周囲のノイズを吹き飛ばす。
『逆羅刹』
衝撃波を放ち着地した翼は即その場で逆立ち状態から脚を大きく開脚させ、脚部の装甲に付けられた刃が展開して翼の身長ほどの長さになると逆立ちの状態から回転し、脚部の刃が次々とノイズを襲う。
「やっぱりすげぇや、翼は」
まだ後方には沢山いるもののほんの数秒で周囲にいたノイズのほとんどを殲滅する翼とその技に奏は感心を隠せずにいた。
事故とはいえ同じ聖遺物の欠片から作られたシンフォギアを纏う未来とは全くと言ってもいいほどの違い、美しさを感じられる戦い方で戦うその姿はまさに気高さを失わない戦少女と言ったところだろう。
「なっ!中継が中断されている!?」
翼の戦い方に見惚れてしまっていたセレナが遅まきながらも本来ならシンフォギアを纏う翼が映し出されるはずのモニターが全て消え、代わりに〝NO SIGNAL〟と映し出されていた。
『はぁ、はぁ……シンフォギア装者だと世界中に知らされて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、風鳴翼のマネージャーとして許せるはずがありません!』
「さっすが緒川さん!良い仕事してる!」
間一髪のところで翼がシンフォギアを纏う直前にカメラを切る事に成功していた慎次。それにより翼がシンフォギア装者だと世界中にバレるという心配は無くなり、人質もセレナが自ら解放した今、翼が戦うのを止める者はいない。
周囲のノイズを倒し終わり、なんの心配も無くなった翼は悠々と再びステージの上に戻りセレナに向かって刀を構える。
「──いざ、押して参る!」
「くっ!」
刀を構えた状態から翼はセレナに襲いかかる。それをセレナは少し危なげながらも回避し、回避できないものはマントによって防ぎ、隙を見て反撃する。
刀が当たる時は布のように柔いマントが攻撃の瞬間は硬化させて翼を襲う。変幻自在ともいえるマントの多様性に翼はなかなか攻められずにいた。その強さはまさに聖遺物から作られたシンフォギアだった。
「このガングニールは、本物!?」
「そうです!これが私のガングニール!私の夢を邪魔をする人を薙ぎ払う無双の一振り!」
「だからとはいえ、私が引き下がる通りなどありはしない!」
翼の刀とセレナのマントが何度もぶつかり合い火花が散る。
少しずつだがセレナの動きに翼も対応でき始め徐々にセレナを押し始める。それでもなんとかして食らいつこうとセレナも動きの激しさが増すがその分動きが荒くなってしまう。
二年間眠り続けていたとはいえ、その隙を見逃すほど、翼は衰えていない。
「私を前に冷静さを欠くとは!」
セレナが硬化させたマントを大きく振り下ろす事によって生じた隙を見逃さず、一度後ろに向かって飛ぶ事で回避して着地後体勢を崩しているセレナに向かって刀を構えたまま一気に駆け出す。
「話はベットで聞かせてもらう!」
「しまっ!?」
ガングニールのシンフォギアを纏っているとはいえ翼の持つ刀は天羽々斬のシンフォギアで作られた特別な刀。それをまともに受ければいくらセレナでも耐えられるものではない。耐えたとしても二撃目を反応出来るか怪しいものだ。
まともに行けば直撃コース。それを確信した翼だったがそれは不発に終わる。
「避けろ、翼!」
「ッ!?」
後ろにいた奏の声に翼はセレナから視線を離し、別の方向を見る。その視線の先にあったのは翼を狙って飛来する無数の回転する丸鋸だった。
間一髪それに気づいた翼は身体に急ブレーキをかけてその場から受け身を取りながら離れる。しかし止まった先で死角からブーメランのように回転しながら襲い来るのは三つの緑の鎌だった。
「ぐぁっ!?」
先の無数の丸鋸を回避したせいで体勢を崩した翼は飛来した鎌を避ける事が出来ず直撃してしまう。幸いにもシンフォギアに守られて大ダメージを受ける事はなかったがそれでも痛手を受けてしまい、大きく後ろに吹き飛ばされて倒れてしまう。
「危機一髪……」
「まさに間一髪だったデスよ!」
セレナと倒れる翼の間に黒とピンクのインナーとツインテール部分も含めて装着された装甲にブーツに内蔵された小型の車輪で地面を滑走する黒髪の少女と、黒と緑のインナーと装甲に魔法使いの帽子のようなヘッドギアを被り、大きくて鋭利な緑の刃がついた大鎌を担ぐ金髪の少女が現れた。
「装者が三人!?」
「あたしらの他にもいるなんて聞いてねぇぞ!?」
いきなり現れた新たなるシンフォギア装者の出現。翼と奏はその存在を知るはずもなく、完全に不意をつかれた状態であった。
「ありがとう月読さん、暁さん。でも、あれくらいなら私一人でもなんとか出来てましたよ」
月読と暁と呼ばれた二人の装者の間にセレナがゆっくりと近づき、まだ立ち上がる事のできていない翼を追い詰める。奏も助けに行こうとするが、一人ならなんとか出来ても三対二の状況では、シンフォギアを纏えない自分は足手まといと誰よりも自覚している。そのため助力する事が出来なかった。
「降参するのであれば今すぐシンフォギアを解除してギアをこちらに渡してください。心配しなくても命は取りませんしギアを失った貴女を敵視する必要はありません」
勝ちを悟ったセレナが上から目線で倒れる翼に言う。
実際いくら翼でも今の状況を覆すほどの力もない上に、新たに現れた二人がどれほどの実力でどんな能力のあるシンフォギアか知らない。数的不利と人質だった観客を退避させた事を考えれば降参すれば言葉通り命は取らないかもしれない。
現状から見れば生き残るにはセレナの命令に従うのが得策ではある。が、事はそう簡単に運ぶものではない。
「貴様みたいなのはそうやって……」
「……ん?」
「見下ろしてばかりだからこそ……勝機を見逃す!」
「ッ上!?」
翼の言葉に反応して急いで自分の上空を見上げるセレナ。そしていつの間にセレナ達の上まで来ていたヘリからセレナに向かって降下して来るのは、基地から帰投途中に会場にノイズが現れる瞬間をモニターで見て慌てて直接会場に向かっていた紫と白のインナーと装甲を身に纏った未来と赤と白のインナーと装甲を身に纏ったクリスだった。
「土砂降りの!十億連発!」
『BILLION MAIDEN』
空中で二つのボウガンをガトリング砲に変えてセレナたち敵シンフォギア装者三人とその周囲にいたノイズに弾幕の雨を落とす。
セレナはマントで弾幕の雨を防ぎ、二人の装者はその場から退避する事で回避した。だが、まだもう一人いる。
「はぁあ!」
「くう!?」
『空ノ崩落』
動きを止めたセレナに向かって未来は白紫の刀を巨大化させ、刀の峰と纏っているシンフォギアの手足の装甲が僅かに開き、そこから紫色のブースターが点火され加速した一撃が容赦なく振り下ろされる。
未来の一撃は完全聖遺物であったネフシュタンの鎧を破壊寸前まで追い込んだ一撃。当たればいくら防御性能が高いガングニールのマントでも無事では済まされない。
「セレナは!」
「やらせないデス!」
『γ式 卍火車』
『切・呪リeッTぉ』
未来の大剣をツインテールから伸ばされたアームから投擲された巨大な丸鋸と先ほど翼を襲った三つの緑の刃が襲いかかる。未来の強力の一撃に巨大な丸鋸と三つの緑の刃はわずかに火花を散らせるだけだったが勢いを衰えさせる事には成功した。そのため、セレナは余裕を持ってその場から退避する。
そして未来の持つ巨大な白紫の刃がステージを大きく陥没させて砂煙が中を舞う。
砂煙から姿を現す未来とその横に着地するクリス。未来の反対側には起き上がった翼が並び刀を構えた。
「遅かったではないか、小日向、雪音」
「これでも急いで来た方だ!文句言うな!」
「ふふ、クリスも落ち着いて?今は目の前の敵に集中しよ?」
そう言いながら未来の視線の先では同じく体勢を整えて敵意を見せて構えるセレナと二人の装者。そう簡単に話が聞ける状況ではないだろう。
白紫の刀と赤い弓と青の剣。そしてもう一振りの撃槍と鋸と鎌がその場で対立するのであった。
セレナさん、図らずともマリアさん以上に無理をしている感が凄いなぁ。「うろたえるな!」とか命令口調でセレナさんが言っていると余計にその感じが強いですわ……やっぱり悪役似合いませんね!させますけど!
今の翼さんのシンフォギアは無印仕様です。原作G編よりも現状ギアの性能や技全般は弱体しています。風輪火斬とか撃たせたかってのですが無印仕様の状態で使えるものか悩んだ結果撃たせずにただの斬撃に……もうちょっと先でG編仕様に変わるのでお楽しみに(そう考えたらこの時点で正気の未来さんと同レベルの強さって異常じゃね?というツッコミは無しって事で)。
それと逆羅刹ってなんか……エロいよねry(エクスドライブ逆羅刹)
今更ですがタグ通り基本は原作に沿っているのでキャラ関係を見ればいないキャラが何処に入るか分かりやすいと思います。そのキャラがどうやってに現れてどういう風に暴れるのかお楽しみに!
……ビッキー早く出してぇ。富士山並みに遠すぎるけど。
ギャラルホルンで原作未来さんと会ったらどんな反応するだろうか。この時点だと原作ビッキー見たら絶対またぶっ壊れるだろうな……原作未来さん殺して成り代わろうとする陰り393、それを止めようとするうちのクリスちゃんと原作未来さんを守ろうとする原作クリスちゃん。そして二人の未来さんの間で揺れ動くビッキー……ふむ。
次回! 新たな敵はシンフォギア装者