それでは、どうぞ!
弦十郎からの呼び出されて急ぎニ課仮設本部の直令所に集まる未来とクリスと翼と奏の四人。そして巨大モニター映し出された何処かの倉庫を弦十郎は了子と共に見つめていた。
(遺棄されたアジトと大量に残されていたノイズ被害者の痕跡。これまでと異なる状況は何を意味している……)
「なぁダンナ。結局あいつらはなんなんだよ?」
「ん、すまん」
自分たちを集めるだけ集めて何も命令せずにただ知っとモニターを見つめている弦十郎に切歌と調の遭遇と突然の収集に楽しい気分を害されてイライラしていた奏が語尾を強めて話しかける。それに申し訳なさそうに弦十郎も振り返った。
「まだ不確定要素はあるが、フィーネと名乗った組織は米国政府に所属していた米国連邦聖遺物研究機関〝F.I.S.〟の一部職員が統率を離れて暴走した集団らしい。ソロモンの杖と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士もF.I.S.の所属の研究者の一人」
「それに加えてまだ噂の段階だけど、F.I.S.は日本政府が情報開示以前よりも前に存在しているみたいなのよん」
「……つまり、米国と通じてたフィーネが由来した研究機関って事か」
了子の言葉に一番最初に反応したのはクリスだった。
今この場にいる中で〝櫻井了子〟として生きていたフィーネではなく、〝フィーネ〟を見ていたのはクリスただ一人だけだった。
故に、フィーネが米国とどのような繋がりがあったかは分からなくとも米国と繋がっていたというのは知っていた。そして聖遺物に関して最も詳しかったのも間違いなくフィーネだ。そこから導き出された答えは今クリスが言った通りだ
「セレナ・カデンツァヴナ・イヴの纏っていた黒いガングニールのシンフォギアは、かつて奏君が纏ってシンフォギアとは寸分違わぬものだった」
「米国と繋がっていたフィーネがガングニールの一部を持ち出して造られたのがあの黒いガングニールのシンフォギア。それが今のところの私たちの見解よ。おそらく、シュルシャガナとイガリマもフィーネが独自のルートで手に入れたのものをF.I.Sに流していたと推測されるわ」
了子の身体を乗っ取っていたフィーネは陰で米国政府と繋がって研究や聖遺物の横流しをしていた。であるならシンフォギアに適する聖遺物を手に入れる事も難しく無いだろう。未確認なだけで他の国とも繋がっている可能性も大いにあった。
探索する範囲が広がった事により聖遺物の発掘、研究を行っていたとしてもフィーネ一人で二課で確認されているシンフォギアに適した聖遺物を六つも探し出すのは至難の技だっただろう。それに加えてネフシュタンの鎧やダインスレイフ、カ・ディンギルも全てフィーネが関わっていたため、さすがに一人では依代が何度か寿命が尽きてしまうだろう。
だがフィーネはセレナたちの纏うギアを除いても三つのシンフォギア とネフシュタンの鎧の覚醒、カ・ディンギルは完成させた。当然この中には米国政府の介入もあっただろう。
結局は返り討ちにあったが聖遺物の情報を独占しようとした米国政府にフィーネは襲われたが。
「……だけど妙だな。米国政府の連中はフィーネの研究を狙っていた。F.I.Sなんて機関があって、シンフォギアまで作っているのなら、その必要は無いはず」
クリスはフィーネと長くいたから、何を狙っていたか当時は分からなくとも米国政府に狙われていたことを知っている。だが弦十郎の話によればF.I.Sはそれよりももっと前から存在した事になる。フィーネの研究が大事なものであったとしても無理して手に入れる価値はあったのだろうか。
「……政府の管理から離れ、暴走している現状から察するに、F.I.Sは聖遺物に関する技術や情報を独自判断で動いているとみて間違い無いと思う。その中にはきっと政府でも把握していない聖遺物かそれに類する何かを有していて、米国政府はそれを狙っているのかもしれない」
「翼の言うことが合ってたとして、セレナたちは自分たちの国まで敵に回して何をしようとしてんだろうな」
「それが分かれば苦労はないのよぉ!情報が足りない上に断片的すぎてあの子たちの目的の全容はさーっぱり!」
翼と奏がうんうんと頭を悩ませて考えるが了子は大袈裟目にお手上げと表現する。
セレナたちの正体が分かっても目的が分からない以上動くに動けず、ソロモンの杖の件もあるためノイズに警戒しながら動きを見せるまで情報収集を続けるしか無い。完全に受け身の形になってしまっているが、残念ながら今はそれが最善の方法だった。
「──時に未来君。一つ聞いて良いかな?」
「はい、何でしょうか?」
クリスも合わせた四人でセレナたちの事を話し合っているのは遠巻きで見ていた未来に弦十郎は声をかけた。
弦十郎は少し考えるそぶりを見せたがすぐさま未来の方に身体を向けて口を開く。
「セレナ・カデンツァヴナ・イヴが本当にフィーネだったとして、キミはいったいどうする?」
「関係ありませんよ」
弦十郎の言葉に、予想外にも未来は考える暇なく淡々と即答した。
あまりの疑う余地の無いような真っ直ぐな未来の言葉に言葉を失った弦十郎だったが、未来はそれを気にせずに話を続ける。
「あの人がフィーネの生まれ変わりでもそうじゃなくても、私の大切なものを壊そうとするなら止める事には変わりません。まぁ、もし本当にフィーネだったら少し強めに分からせるつもりですけど」
「……何をどうやって分からせるつもりなのかは聞かないでおこう」
ニッコリと笑みを見せる未来に自分が何故か分からないが冷や汗を流しているのに気づく弦十郎。ふざけていると思いたいが、フィーネとの最終対決での未来の心情を考えればおふざけで終わるものなのか怪しいものだった。
(どちらにしろ、セレナ・カデンツァヴナ・イヴが気の毒だな)
苦笑いを浮かべながらも敵であり撃破または捕縛する対象であるセレナの命が少し心配になってくる弦十郎であった。
──────────────────
──ヘリキャリア内にて。
セレナたちが乗るヘリキャリアは技術派生で機械的に加工され組み込まれている神獣鏡のシンフォギアの能力の一つで機体を透明化させて移動していた。
「セレナ!出てきてくださいデス!セレナ!」
ヘリキャリア内にある部屋の一つの前で切歌は何度も扉を叩いて中にいるはずのセレナに呼びかけるが、いくら呼んでも返事は返ってこない。切歌の後ろにいる調も心配そうに扉を見つめていた。
学園祭でナスターシャからのアジトが追ってに襲われたと連絡で聞き、未来たちのシンフォギアペンダントを手に入れるチャンスを捨ててまでキャリアに戻って来たと思えばすぐさま移動を開始。だが帰って来てから今までセレナとは一度も顔を合わせておらず、ナスターシャが心配無いと言っても二人が安心できる材料にはならない。
「お願いデス!顔だけでも」
「切ちゃん」
今にでも泣き出しそうな顔になりながらも扉を叩いていた切歌の肩に手を置いて止めさせる。振り返れば調も泣くのを我慢しているのか唇を強く噛んでいた。
「フィーネのせいだとしても、セレナはここを守るために戦って疲れたんだよ。今は……そっとしておこう?」
「調……」
明らかに無理をして笑みを作っている調に切歌は何も言えず、迷いながらも扉を叩いていた腕を下ろす。安心したくて声だけでも聞きたかったが、今は我慢するしか無いと切歌も判断したのだ。
「それじゃ、私たちは行くからね」
「早く顔を見せるデスよ、セレナ」
二人はとぼとぼと扉から離れて待機室のあるキャリア後方に歩いて去って行った。
切歌と調が去って行く足音を聞きながらセレナは部屋の電気を消し、毛布で身体を包んで座っていた。
(──ごめんね。切歌ちゃん、調ちゃん……)
心の中で二人に謝るがセレナはまだ立ち上がる事すら出来なかった。
二人に追手に襲われたと連絡する数分前、キャリアを隠していた港近くの格納庫にセレナたちを追って来た米国の軍隊が襲撃して来た。
キャリア内にいたセレナにナスターシャは迎撃するように言わられたが、生身では武装した兵士に敵うはずもなく、必然的にシンフォギアを纏って迎撃する事になる。だがセレナはシンフォギアでは兵士に大きな怪我をさせてしまうと思ったため躊躇してしまい、出撃出来なかった。それが更なる被害を広げるとも知らずに。
セレナが迎撃を躊躇しているとキャリアに近づく兵士たちの前にソロモンの杖を持ったウェル博士が立ち塞がった。そしてソロモンの杖を使い、現代兵器では撃破不能と呼ばれているノイズを召喚し兵士を襲わせたのだった。
──助けてくれぇ!
──こ、こっちにくるなぁ!
──逃げろぉ!
──死にたくない、死にたくな──
「ッ!」
毛布を被ったままセレナは自身を強く抱きしめて震えを止めようとするが一向に止まる気配はない。
どれだけ目をつぶろうと、どれだけ耳を塞ごうとセレナの脳裏に兵士たちが灰に変わっていく姿と断末魔が何度も蘇り、そして何度も後悔する。
(私がガングニールで迎撃していたら大きな怪我はしても死ぬ事はなかった。私が躊躇ったせいであの人たちは……)
ノイズに組み付かれた人間はシンフォギアを纏っていない限り例外なくその身を灰へと変える。そこに
もし怪我をさせる事を躊躇わず戦っていればウェルはノイズを使わず、仮に死人が出たとしても原型が残っているならその骨を祖国に埋める事も出来た。だが元アジトに残ったのはもはや誰のものか分からなくなった大量の灰のみ。既に風に流されて殆どが知らない土地に流れて一生祖国の地を踏む事はないだろう。
全て自分の中の甘さによって生まれた悲劇だった事にセレナは決めていた覚悟が揺らいでいた。いや、実際は人を殺める覚悟に欠けていたセレナにとってはその覚悟を壊すには十分すぎた。
自分の手でなくとも今回で沢山の死人が出ている。もう後に戻る事は出来ない。
「……マリア姉さん」
セレナは首から下げていたガングニールのギアペンダントとは違う、少し色が濁って大きなヒビが入った別のギアペンダントを握る。
セレナの姉であるマリア・カデンツァヴナ・イヴはシンフォギアの適合者だった。
六年前、F.I.Sの研究所にて研究途中だったネフィリムの覚醒により当時の研究員やナスターシャ、そして妹であったセレナを守るためにシンフォギアを纏い、たった一人でネフィリムと戦闘。しかし力の差は歴然であり、徐々に押されて行ったマリアはシンフォギアの切り札とも言える絶唱にて覚醒したネフィリムをもう一度休眠状態に戻す事に成功していた。
たが幼いマリアに絶唱のバックファイアはあまりにも強力過ぎて身体の中をズタズタにしていた。そのせいで動くことが出来ず、落ちて来た瓦礫の間に挟まったセレナの目の前で爆煙に飲まれて行ったのだった。
いつも優しく、厳しく、そして自分を愛してくれた姉が自分や研究員を守るために命をかけてネフィリムを停止させた。
なのに自分が今やっている事は何だろうか。姉が守っていたものを破壊し、命を落とした原因であるネフィリムを自分の手で蘇らせて、自分は何を目指しているのだろか?
「私は……私の歌じゃ、姉さんみたいに誰かを守る事は……出来ないみたい……」
扉の向こうへ漏れないように小声で涙を流した。
──────────────────ー
時間は進み日は沈みかけ、空が赤く染まりかけた時間。セレナたちの乗せたヘリキャリアは空を飛んでいた。
「「セレナ!」」
どれくらい泣いていたのか自分でも分からないセレナは少しふらつきながら部屋を出て待機室の方へ向かっていると丁度扉が開き、切歌と調がセレナの前に立つ形になり、彼女に気がつくやいなや二人はセレナに飛びついた。
「よかった……セレナの中のフィーネが覚醒したらもう会えなくなってしまうから……」
「何も言えずにお別れなんていやデスよ……ッ!」
「切歌ちゃん、調ちゃん……」
しがみつく二人は涙を流す。セレナは二人の背中を優しくさすろうと手を伸ばすが、直前で手が止まりそのままさすらずに降ろした。
「……もう、大丈夫ですから。安心してください。暁さん、月読さん」
弱い自分を見せてはいけないと言い聞かせて二人に心配かけないよう微笑みの仮面をかぶり、二人を少し強引めに引き離す。傍目から見れば人を魅了するような微笑みに見えるかもしれないが二人は違っていた。
「セレナ、無理はしないで」
「無理なんて──」
「でも顔が疲れてるデスよ。それに私たちの名前を……」
切歌の言葉にハッとなるセレナ。
何かを言おうとしても何を言えばいいか分からず、口をつぐんでしまった。
「──あまり時間もありません。早く次のアジトへ向かいますよ」
「ッ待ってほしいデス!」
無理矢理話を終わらせて二人の顔を見ないように振り返って操縦室の方へ向かおうとするセレナの手を切歌が掴んだ。
「まだ私たちギアを手に入れてないデス!このまま引き下がれないデス!」
「決闘をする約束もした。だから!」
二人の懇願にセレナはチラリと顔だけ振り返って二人を見る。あまりに真剣なその瞳に、セレナは耐えられなかった。
「……また、勝手な事をしたんですね」
「セ、セレナ?」
再び顔を前に戻して切歌たちから顔が見えないようになる。だがその声音から怒っているのは二人にでも分かった。
「私たちがやっている事は遊びじゃありません。相手にあんな化物がいる以上私も貴女たちもいつ殺されるか分からない。それに米国政府から私たちは狙われているのですよ?捕まったら何をされるか分からない。なのに決闘に挑んで負けたら?あの人達が米国政府と繋がっていないという確証はあるのですか?決闘で死ぬ可能性がないと言い切れますか?」
早口で二人を責めるような言葉が次々と出てくる。自分から始めた戦争だというのに何綺麗事を言っているのか自身で分かっていてもセレナは自分で口を止めることが出来なかった。
二人には見えないが怒りで握る拳に力が入り爪が手のひらに深々と食い込んで血が滴り落ちる。だがその怒りは、誰に向けたものなのだろうか。
「まあ、そのくらいにしましょう」
険悪な雰囲気を壊したのは意外にも別の扉から現れたウェルの声だった。
「……いったいいつからそこに?」
「最初からですよ。それほど大きくないキャリアの中で声を出せば誰でも気づきます。それより、別にいいではないですか。まだ致命的な状況ではないのですから」
「起きた後では遅いのですよ!」
「「セレナ!」」
ウェルの軽い言葉にセレナは怒りで顔が歪む。そして感情を制御できなくなったセレナはウェルに掴みかかろうと大股で近づき手を伸ばそうとするが、その手を切歌と調がいち早く強く掴んで止めた。
いつも冷静なセレナからは想像出来ない剣幕と怒りを向けられたウェルだったが、二人が抑えているからかあまり怖気ずく事なく堂々と立ったまま不敵な笑みを浮かべた。
「それにこの子たちが交わした約束、決闘とやらに乗ってみたいのですが」
──────────────────
──二課仮設本部にて
それは突然の事だった。
学園祭は終わり、今日はもう何もなく平和に終わるだろうという夕暮れ時にいきなり警報が鳴り響いた。
「ノイズの発生パターンを検知!」
「古風な真似を……」
「決闘の合図の狼煙のつもりかよッ!」
ノイズはなんの前触れもなく現れるものだが、今のF.I.Sにはソロモンの杖がある。自然発生した可能性もあるがその可能性は低く、一番考えられるのはソロモンの杖を使い、自分たちの居場所を知らせているのだろうというのは容易に想像できる。
「位置特定!……ここは」
「どうした?」
「東京番外地、特別指定封鎖区域……!」
朔也の報告されモニターに映し出された座標。それを見て未来たちは思わず目を見開いた。そこは、未来だけではなく、その場にいる全員に因果がある場所だった。
「カ・ディンギル跡地だと!?」
──────────────────
日が沈み、月の光が世界を照らす時間。そんな時間に未来、クリス、翼の三人はかつてリディアン音楽院があった整地されていない荒れた大地を歩いていた。
「決着を求めるのにはおあつらえと舞台というわけか」
未来と翼が通い、旧二課本部があり、そして了子の中にいたフィーネと戦った場所。封鎖区域であるため人はおらずらフィーネを名乗るセレナたちと戦うのには丁度良い場所だ。
「私がセレナを抑える。小日向と雪音はあの二人の装者を頼む」
「言われなくても分かってる。あんたこそ前みたいに負けんじゃねぇぞ?」
「ふっ、今回は万全だ。簡単に敗北なぞ……む?」
半壊したカ・ディンギルに近づいた三人の前の岩の上で人影がある事にいち早く翼は気づく。ジッと目をこらせば予想外の人間がそこに立っていた。
「ウェル博士!?」
そこに立っていたのはセレナやましてや決闘言い渡した切歌や調ではなく、未来たちを騙していたウェルがソロモンの杖を片手に悠々と立ち塞がっていた。
ウェルがソロモンの杖を構えると結晶から緑の光線が放たれて地面に当たると数体のノイズがその場に現れた。
「行くぞ二人とも!」
「おう!」
「分かりました!」
──Imyuteus amenohabakiri tron─
──Killter Ichaival tron──
──Fellthr amenohabakiri tron──
月明かりが照らす大地に青と赤と紫の光が輝く。そして光の中から未来たちはシンフォギアを纏い、それぞれのアームドギアを持って次々と現れるノイズに立ち向かった。
翼の見惚れるような剣技で、クリスは鮮やかで繊細な射撃で、未来の力のある一撃をもって現れるノイズをいとも容易く灰に変えていく。
前回はアンチリンカーにより適合率が下がった事でノイズを倒すのに苦戦はしたが、今回は万全の状態。今の三人にただのノイズがどれだけ現れようと倒せるはずがない。
「二人はどうしたんですか!」
「ああ。あの子たちは謹慎中です。だからこうして私が出張って来ているのですよ。お友達感覚で計画に支障を来されては困りますので」
「ッ何を企てる、F.I.S!」
ウェルが止まらず召喚するノイズを蹴散らしながらの翼の問いにウェルは不敵な笑みを浮かべた。
「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは人類の救済!月の落下にて損なわれる
はるか空の彼方で浮かぶ欠けた月を指差すウェルの言葉に未来たちはノイズが目の前にいる事を忘れて驚愕した。
「月の工程軌道は各国機関が三ヶ月前から計測中!落下になど結果が出たら黙ってなぞ──」
「黙っているに決まってるではないですか!」
カ・ディンギルにて破損した月がどんな軌道をするか不明により日本以外の各国も月の軌道計算は常に続けている。結果の報告がないというのは特に問題のないという事だ。
そう思っていた翼の言葉を、ウェルは真っ向から否定した。
「対処方法の見つからない極大災厄など更なる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由など幾らでもあるのですよ!」
「まさか、この事実を知る連中は自分たちが助ける算段を始めてるわけじゃ」
「だとしたらどうします、貴女たちなら?」
翼は何か言い返そうとするが言い返す言葉が見つからずウェルの言葉に何も言えずたじろぐ。そうしているとウェルの顔が勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。
「対する私たちの答えが、〝ネフィリム〟!」
「なっ!?」
突如ノイズを撃破していたクリスの足元を大きく揺らし、地割れが起こったと思うと地面からいきなり巨大な何が姿を現してクリスごと元いた岩場を吹き飛ばした。
「クリス!」
「こっちは大丈夫だ!心配すんな!」
いきなりの奇襲にクリスが心配になった未来だったが、クリスが吹き飛ばされた方向には翼がおり、丁度よく吹き飛ばされたクリスを上手くキャッチしていた。そのおかげで余計なダメージを負う事なく、二本の足で立っていられる。
「この化物、もしやあの廃病院の?」
「にしてもデカすぎんだろ!何食ったらこんな短期間で成長するんだよ!」
未来たちの前に立つのは数日前に廃病院で三人を襲った頭部の後ろが異様に伸び、碗部や脚部が異様な形状をして身体のあちこちから脈動する黄色い光を放つエイリアンのような容姿の化物ネフィリムだった。だがその時とは違い、単純に大きくなっていた。それに伴いそのいい知らぬ禍々しさのようなものも大きくなっていた。
「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する。ネフィリムはそのための力!ルナアタックの英雄たちよ!その力で何を守る!」
「耳を貸すな!今はこいつを片付けるぞ!」
「はい!」
「分かってらああぁぁぁ!!!」
ウェルを無視して三人で一斉に巨大化しているネフィリムに突撃する。三人を見たネフィリムは腕を振り回して岩を削りながら襲いかかってくるが、いかんせん、動きが少々鈍すぎた。
襲い来るネフィリムの一撃と地面をえぐった際の土や石の塊を華麗に避けながらクリスがボウガンで牽制し、未来が囮になって隙のできたネフィリムに翼が強力な一撃をお見舞いする。たが翼の一撃はネフィリムの体表にわずかに食い込んだが断ち切るには至らなかった。
「硬ッ!?」
「翼さん!」
思いがけない硬さのネフィリムに手に痛みが走り顔をしかめてしまう。そして動きが止まった翼を逃すはずもなく、ネフィリムの巨大な腕が横にふるわれた。
翼は未来の声でギリギリ防御が間に合うが、いくらシンフォギアを纏おうとも相手は化物。見た目通りの体躯から繰り出された強力な一撃は翼な防御を崩し、近くの岩場まで吹き飛ばされた。
「く、こんの野郎!」
『MEGA DETH PARTY』
翼の方に駆け寄りながらクリスがミサイルの弾幕で動きを止めさせる。その隙にクリスが翼を回収して距離を取った。
そしてその場に残ったのは未来とネフィリムのみ。
「はあぁ!」
刀を構えたまま腰のブースターを噴かして突撃してネフィリムに斬りかかる。ネフィリムも未来を危険だと判断したのか巨体を動かして回避しようとするがあまり意味はなかった。
未来は正面からぶつかるのではなく、地面や近くの岩場を蹴って無理矢理軌道を変更させてネフィリムの死角から斬りかかって少しずつダメージを負わせていく。だが未来の一撃をもってしてもネフィリムをなかなか断ち切る事が出来ない。しかし、ダメージを負っているということは倒せるということだ。
何度もブースター噴かせてネフィリムに斬りかかり、そしてとうとうネフィリムが膝をついた。
「これで!」
既にネフィリムの体表には未来の付けた無数傷跡があり、動きが更に鈍くなってきたネフィリムを見て勝機を見出した未来は真正面から全力の突撃をかけた。
狙うは頭部。ネフィリムが生き物なのか定かではないが、頭を切られて無事でいられるものはいない。となれば判断は正しかった。相手が生き物であれば。
ネフィリムの首を切り落とそうとブースターを噴かし、両手で握った白紫の刀による全力の横薙ぎの一閃。当たれば確実にネフィリムの口から上が飛ぶ光景が容易に想像出来てしまうような完璧な軌道。
それをいきなり俊敏に動いたネフィリムが大きく口を上げ、そして口の中を通過しようとした未来の腕ごと……口を閉じた。
「──え?」
突然ネフィリムの顔が目の前に来て一瞬呆然とした未来だったが、その直後鋭い痛みが走ったと同時にネフィリムが勢いよく顔を上げる。しかし、腕を噛まれていたはずの自分が一緒に吹き飛ばされない事に不思議に思った。
目でネフィリムを追えばネフィリムは〝何か〟を咀嚼しており、口の端から赤い液体のようなものがたらりと流れて地面に落ちた。
「未来!」
クリスの声に我に帰ると直後自分の腕の肘辺りに気を失いそうなほどの激痛が走り、膝をついてしまう。そして地面に手をつこうとした時、未来は気づいた。
自分の両手の肘辺りから下がない事に。
「いったああああああああ!!!パクついた!シンフォギアをぉ!?これでええぇぇ!!!」
「う、あぁ……」
ウェルが顔を大きく歪めて喜びに満ちた声を上げる。
未来は自分の腕がネフィリムに噛みちぎられた事を理解した瞬間、気絶したくても出来ないほどの強列な痛みと喪失感に襲われ、身動きできなくなってしまった。
「完全聖遺物するネフィリムはいわば自立稼働する増殖炉!他のエネルギー体を暴食し、取り込む事で更なる出力を可能とするぅ!さあ始まるぞ!聞こえるか!?覚醒の鼓動、この力がフロンティアを浮上させるのだ!」
ネフィリムの身体が心臓が鼓動するように大きく震え、そして脈動していた黄色い光が赤くなり、そして身体の形状も更に人型から化物のような形に変化してより禍々しさが増した。離れていたクリスでも、ネフィリムが純粋にパワーアップを遂げてしまった事に気付いてしまうほど。
「さあネフィリムゥ!まだ餌は目の前にあるぞ!全て食らい尽くせ!」
「させるかあああぁぁぁ!!!」
ウェルの言葉に反応するかのようにネフィリムはのっそりと身体を動かして先ほどよりも大きくなった口を開いて未来を捕食しようと近寄る。その背中にクリスはネフィリムを止めようとボウガンを全力で撃ちながらイチイバルのシンフォギアの限界の速さで走る。だが、パワーアップしたせいで体表が更に硬化したのかクリスの攻撃に何の反応も示さず、ゆっくりと未来に向かって身体を傾けていく。
「クリ、ス……ッ」
痛む身体に鞭打って走り寄ってくるクリスに向かって腕を動かす未来。だがそこにはあるはずの手がなく、真っ赤な血がボトボトと地面に流れ出し続けている肘から先が無い自分の腕。
「あ、ああ……」
目の前でネフィリムの口が近づいているのにも関わらず、未来は絶望した顔で無くなった自分の手を見た。
今はいない大切な太陽が「陽だまりのようなあったかい手」と言ってくれた手が無くなった。
いつも気持ちよさそうにしてくれるクリスの頭を撫でていた手が無くなった。
翼や奏と何度もぶつかり、そして助けられる人を助けようと誓った手が無くなった。
いつも自分を勇気付けてくれていた太陽が握ってくれた手が無くなった。
誰かの手を握る事も、誰かの頭を撫でる事も、誰かを守るために刀を振るう事も出来なくなってしまった。
自分の心を支えていたものがすっぽりと消え、その出来た穴に絶望が流れ込んで未来を染め上げようとその身に纏わり付いていく。そして、眠りについたはずの怒りと殺意と怨嗟が再び未来を支配した。
「ああ、あああ……うわああああアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
身の毛のよだつような禍々しい雄叫びを上げ、封印された殺意の獣が再び神剣を黒く塗り潰した。
前話で切ちゃんが切ちゃんじゃないように見えたそこの貴方!貴方たちは既に私の術中にハマっているのだよ……まだだいぶん先だけど。
途中にあった兵士たちの断末魔的なのは英語で言っています。最初英語で書いたらなんかくっそ伝わりにくい感じがしたので(汗)
セレナさんも好きなキャラのはずなのに情緒不安定で支離滅裂な事を言い始めるくらい追い込まれていく……救いは無いのか!(あるけどその前に地獄がある)
破壊神ヒビキ「私ノ出番ハ!」※ネフィリムに対して殺意マシマシ
作者「当分無い!!!((((エ○ァ初号機に握り潰されるカ○ル君感)」
原作マリア「別の世界とはいえ私の妹に何してくれているのかしら?」
作者「趣味だ」※その後彼の姿を見た者はいない
次回! 白騎士は命を燃やし、
次回予告がほぼネタバレというね