未来さんが戦うと高確率でやり過ぎてる感あるの気のせいかな?まあうちの未来さんがただで済ませる訳がない。
取り敢えず未来さんの両腕ムシャったネフィリムくんはゆ゛る゛さ゛ん゛!
それでは、どうぞ!
ヘリキャリアの中で謹慎を言い渡された切歌と調、事の成り行きを見守るセレナ、そしてモニターの前でナスターシャは目の前で起きている出来事のデータを取っていた。
ウェルの策略により未来の両腕はネフィリムに食いちぎられ戦闘不能。目を背けたくなる光景だが、そうなるように指示したウェルに強い怒りを覚えた切歌だったが、直後に起こった現象にその怒りすら消し飛んでしまった。
「なん、デスか……あれは」
「切ちゃん……」
距離があるはずだというのに身体の震えが抑え切れない。そんな切歌の手を握る調の手も震えていた。
敵とはいえ僅かでも言葉を交わした未来がシンフォギアを吸収した事でパワーアップし、より凶悪化したネフィリムの前で身動きできない状態。そうなればその後に来るのは凄惨な光景のはずだった。
だが今ヘリキャリアのフロントガラス越しに見える未来の姿は、一言で言えば〝化物〟だった。それも今までの未来が、橋の上で戦った時に見せた怒りで我を失った時の未来があまりにも可愛く見えてしまうほどの。
「生命力の低下で胸の聖遺物が機能不全を起こしましたか……いえ、それだけではあのような事には……」
冷静に今の未来を観察しようとするナスターシャだが、その下では心臓が速く動いてしまうほど恐怖に襲われていた。
「これではネフィリムと生身で戦った方がまだマシじゃないですか……ッ」
ナスターシャの後ろに立つセレナも未来から放たれる殺気に呑まれて何も言えずに顔を青くしている。気の弱い人間なら下手をしたら命に関わるような殺気を未来は構わず放出し続けていた。
あまりの未来の変容にセレナはただただ立ち尽くして恐怖で震えることしかできなかった。それこそ、まだ何も力を持っていなかった昔、かつて姉と対峙していたネフィリムを見た時以上の死を感じ取っていた。
月明かりに照らされて、黒き獣の蹂躙が始まる。
──────────────────
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
『!!!』
禍々しい猛獣のような雄叫びがカ・ディンギル跡地である荒地に響く。
未来の胸の傷を中心に黒い影のようなものが広がり、それが天羽々斬のシンフォギアごと侵食するように未来の全身を黒く染め上げていき、手足や装甲のあった各所に脈動する禍々しい紫色のラインが走った。そして最後に黒い影が未来の顔を飲み込むと目が血のような真っ赤な瞳に変化して怒りと殺意を込めてネフィリムを睨みつけていた。
未来の両腕を捕食して聖遺物を得た事によりパワーアップしたはずのネフィリムまでもが先程まで餌でしかなかった未来相手に数歩後ろに下がる。それほど、今の未来は異常であった。
「ク゛ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
『!?』
地面を踏み砕き、音を置いていくような速度でネフィリムに向けて水平に跳躍し、その勢いのままの強烈な蹴りがネフィリムに頭部に深々と突き刺さる。追撃にその場で縦に回転して回転力の加わったかかと落としが炸裂してネフィリムは地面を大きく陥没させながら倒れ込むように叩きつけられた。
「あれは、本当に小日向、なのか……?」
今の未来の意識は完全にネフィリムに向いており、遠くで戦う様子を見ている翼やクリスは眼中にない。そのはずなのにあと数秒で死んでしまうかのような恐怖が身体にまとわりついていた。
気づけば白銀の剣を握る手が大きく震えており、それに気がついた瞬間身体全体に伝染したかのように全身が震え出す。止めようと意識しても逆効果になり、余計に震えが大きくなった。
甘く見ていた。そんな考えすら生温く感じてしまうほど目の前の未来から放たれる殺気は異常であり、戦いに慣れているはずの翼ですら慄いてしまう。
『!!!』
地面に叩きつけられたネフィリムはよろよろと起き上がり、傍目から見たらただ暴れているかのように岩をも砕く豪腕の両腕を振り回す。だが実際は未来という格上の敵を前に近づけないように出鱈目に腕を振っているだけだった。
ネフィリムの腕が地面を叩けば地面に穴が空き、近くの岩場に当たれば粉々に粉砕する。それを暴走した未来は回避するが理性が無くなっている今の未来には腕が振り下ろされる場所を予想するという頭すらなく、ただ動き回り隙のできたネフィリムに蹴りを食らわせていた。
そして何度目かのネフィリムの振り下ろしが動き回っていた未来に偶然直撃した。
まるでゴムボールのように何度も地面に叩きつけられながら吹き飛ばされ、そして大きな岩に激突して静止する。
もしこれが翼やクリス、それか正常な状態の未来ならネフィリムの豪腕の一撃をまともに食らったら戦闘不能は必然。下手をすればギアを纏っている状態でも命の危険がある。だが。
「グウウ……カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!」
雄々しい雄叫び共に瓦礫を吹き飛ばし、暴走した未来が現れる。そして肘から下がない両腕を上に挙げた瞬間、未来の身体に纏わりついていた黒い影のようなものが腕に集まり、そして失ったはずの両腕を作り出した。
「ギアのエネルギーを腕の形に固定!?まるでアームドギアを形成してるみてぇじゃねぇか!」
「それだけ今の小日向にはエネルギーが集まっているのだろう……ッ!」
震える二人を置いて未来は再生した右腕を更に高く掲げるとその先に黒い影が集まる。影はどんどん凝縮されていき、そこに現れたのは柄も含めて全て真っ黒で妖しく明滅する紫色のラインが入った禍々しい刀だった。
「あれが……小日向の
未来自体からも感じられた怒りと殺意が具現化したかのような刀。それが自身の使う白銀の
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
武器を手に入れた未来は本能の赴くまま、ネフィリムに向かって目にも止まらない速さで突撃し、黒い刀を振り下ろす。すると正常な状態の未来さえも傷を負わせることが出来なかったネフィリムの左腕をまるで紙でも切ったかのようにすんなりと切り落とした。
「ああ、うわああああああ!!!」
無敵で敵はいないはずのネフィリムが傷を負うどころか腕を切り落とされるというあり得ないはずの光景を目の当たりにしたウェルは気が狂ったかのようにソロモンの杖を使ってノイズを呼び出す。
周辺にばら撒かれたノイズは融合していき、最終的には大型のノイズへと変化した。だが、今の未来に障害物にもならない。
巨大化したノイズが大きな口を開けて未来を丸呑みにする。しかし着後ノイズの全身に無数の
最早多少強化されただけのただのノイズでは未来を止める事は出来ず、かと言ってパワーアップしたネフィリムで止められるのかと問われれば否と答えよう。むしろ今の未来が止まる姿が想像出来なかった。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
暴走前の地面や近くの岩場を蹴って無理矢理軌道を変更させてネフィリムを襲った無差別の斬撃が再びネフィリムに襲いかかる。だが今度は先程のような〝人〟としての動きではなく、雄叫びをあげる姿から正に〝獣〟のようにだった。
威力も速度も比べ物にならないくらい上がっており、目に見えてネフィリムの身体が切り刻まれていく。
少しずつ黒光りする体表に斬り傷が増え、血のような体液を辺りに撒き散らし、硬化していた体表が削り落とされていく。そして、とうとうその時は訪れた。
ネフィリムの残っていた右腕が暴走する未来の一撃により肘の辺りから切り落とされた。
『────────!!!』
両腕を失い悲鳴のような叫びをあげて隙を見せるネフィリムの背中を未来は上空から降下しながら黒い刀で大きく切り裂き、更に辺りに血のような体液を撒き散らせる。そして着地して地点から身体ごと横に回転さた横薙ぎの一閃。それにより今度はネフィリムの両足を切り落とした。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
四肢を失ってた事で身体を支えるものが無くなり、地面に倒れ込むネフィリム。そんなまるで手足をちぎられた虫のように蠢くネフィリムの背中に向かって未来は高く跳躍し、落下の勢いを全て黒い刀に乗せてネフィリムの無防備な後頭部に突き立てた。
『────!!!』
落下の勢いも相まって強力な衝撃に砂塵が舞い上がる。そしてネフィリムの声にならない悲鳴が荒地に木霊する。だがまだ終わらない。
「ク゛ル゛カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
暴走した未来がネフィリムの後頭部に突き立てた黒い刀を抜くと、今度は四肢を失って完全に無防備となったネフィリムの背中に向けて両腕を食いちぎられた恨みを晴らすかのように必要以上に何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も切り刻んでいく。
そして何を思ったのか、何度も切りつけて体表が粘土のように柔らかくなったネフィリムの身体に頭を突っ込むと石のような白い外骨格に覆われた〝何か〟を口に咥えて出てくる。それを引きちぎって何処か遠くに投げ飛ばした。
未来が何かを引きちぎった箇所からネフィリムの体液が血飛沫のように周辺に撒き散らされる。それが岩場や地面に張り付き、そして月明かりに照らされた未来自身の身体にかかったその姿は、例えこうなった経緯を知っていても今の未来を見た誰もが〝化物〟と答えるだろう。
「う、あ……」
怖い。
単純に、だが本能的に感じたその恐怖に翼は何も出来ず身体を震わせるしか出来なかった。
翼は戦士であるが故に鍛えられた相手の殺気を敏感に察知する自分をこの場では呪った。
最早戦意なぞ失われ、瞳に涙を溜めて、心の中では助けをこう。
逃げたいと思うが未来の殺気に当てられて身体は動かせず、気絶したいと思っても速く脈動する心臓がそれを許さない。
「ひ、ひいいいいいい!!??」
戦士でも何でもないウェルは辛うじて未来の殺気に気絶する事なく、しかし恐怖に身を駆られ大声を出しながら逃げるように走って行く。だが大声を出したのがいけなかった。
「グルルル……」
ネフィリムの背中の上でネフィリムの血のような体液を浴びて、真っ黒に染まった未来の身体に赤い液体が禍々しく垂れる。そして今し方声を上げたウェルの方向に顔をゆっくり動かし、そして逃げようとしているウェルの背中に狙いをつけた。
逃げる獲物容赦なく狩る肉食獣、いや、動くものを無差別に殺傷する理性を失った獣のように未来は腰を低くし、今や死体となったネフィリムの背中を踏み抜いて逃げるウェルに向かって高速で跳躍する。
一瞬すれば身体が真っ二つにされるであろうウェル。その光景が目に浮かんだ翼は未来を止めるために声をあげようとするが、声が喉に引っ掛かったかのように言葉にする事が出来なかった。
動くだけでなく、声を出すことすらも恐怖で出来なくなった翼は無力な自分に絶望し、悲痛な顔で暴走する未来に目を向けた。
五秒もかからずウェルと暴走する未来の距離が五メートルを切る。もうウェルは死んだも同然と思ったその時だった。
「カ゛ア゛!?」
ウェルの真後ろまで接近していた未来の脇腹に数本の赤いクリスタルのような矢が直撃し、そのまま近くの岩場まで未来を吹き飛ばした。そして放たれたクリスタルのような矢は翼も見覚えのあるものだった。
「雪、音……?」
「……」
震えて何も出来ない翼の横でクリスは髪で顔を隠しながら堂々と立って右手に持ったボウガンを構えていた。
「……あんたは今すぐ逃げろ」
「なッ」
ポツリと、だが戦う意志を感じるクリスの呟きに翼は驚気を隠さず目を見開いた。
今の未来の戦闘を見て戦おうと思う者はいない。例え弦十郎であっても正面から戦うことを避けて撤退するであろうと思っていた翼からしたらクリスの言葉はまさしく狂人のそれだった。
「ば、馬鹿を言うな!今の小日向を貴方も見たでしょ?私たちでは太刀打ち出来ない!死ぬのがオチだ!」
珍しくも感情的になる翼にクリスは一瞬髪で顔を隠した頭を動かすが、直ぐにも正面に向き直った。
「……今のアンタには未来がバケモンに見えてるかもしんねぇ。きっとオッサンや赤髪のアイツもそうだ。だけどな、あたしにとって、未来はどんな姿になろうとも未来だ。あたしのせいで大切なもんがぶっ壊れたってのに、そんなあたしに優しく手を伸ばしてくれた未来だ」
クリスにとって今の未来が放つ殺気は本来、未来から大切な人を奪った自分に向けられるはずだったもの。自分が受けるはずだった罰。
それを未来は自分の中に押し込めてクリスの手を取り、優しく頭を撫でてくれた。そんな本当は優しい未来が苦しんでいて自分が逃げるなんて、誰が許してもクリス自身が許す事が出来なかった。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
吹き飛ばされて崩れた瓦礫に埋まっていた未来が怒りを抑え切れていない雄叫びをあげて今し方自分を攻撃した敵を探す。そして目に入ったのはボウガンを構えるクリス。
殺意を向けられるが歯をギリリッと噛み締めて耐えると傷の入った赤い雷のようなヘアピンをした顔を上げたクリスは──泣いていた。
「だから……あたしは未来を助ける。例え、この身が傷ついても……地獄の業火に焼かれようとも!!!」
空いていた左手を胸元のギアペンダントが変形した結晶に置き、目をつぶった。そのクリスの仕草に、翼は強い嫌な予感を感じて手を伸ばした。
「雪音、貴女いったいなにを、熱ッ!?」
クリスの肩に触れようとした手に尋常じゃない熱さを感じて手を引っ込める。周囲を見ればクリスから発生する謎の熱さのせいなのか近くにあった草花が次々と燃え上がっていく。
『聞こえるか翼!』
通信機にいつも冷静な弦十郎が焦りを隠せていない声が響いた。
『イチイバル、クリス君の周囲のフォニックゲインが異常なほど急上昇している!いったい何が起こっているんだ!?』
「わ、私にも分かりませんッ!ですが雪音の身体が触れられないくらい熱くなって」
『雪音の身体が熱く?……ッ翼!今すぐ雪音を止めろ!』
「奏?いったい何を」
『いいから早く!アイツは……』
クリスの現状聞いた奏が直後今にでも通信機から直接出てきそうなほど真剣な声が翼の耳に入る。だが、翼がどういう意味か聞き返そうとした頃にはクリスは覚悟を決めていた。
『アイツは、自分の命を
ギアの結晶が赤々しく燃え始める。その熱さを感じながらクリスは真っ直ぐ暴走する未来を見据えた。
「超えろ!イチイバルうううぅぅぅ!!!」
クリスを中心に周辺の瓦礫を吹き飛ばすほどの衝撃と目を覆いたくなるほどの真っ赤な光が辺りを夜の世界を照らす。美しい銀色の髪も炎に焼かれるように銀と赤の混じる色に変わった。
そしてクリスの纏うイチイバルのシンフォギアが炎のように赤に染め上がり、ドレスアーマーや手足の装甲の合間からも赤い光が眩しく漏れる。持っていたボウガンも炎に包まれ、先端には真っ赤に燃え上がる炎の刃が追加される。
かつて奏が圧倒的な戦闘能力の差のあったフィーネを一時的にも凌駕し、短時間ながらもフィーネを超えた暴走と同レベルの力を使う事ができるシンフォギアの強化形態、
まさに今の未来を止められる事の出来る最終手段だった。だが。
「う、ああああああああ!?」
「雪音!」
突然悲鳴を上げるクリス。それも無理の無い事だ。
暴走状態が理性を失って圧倒的な力を手に入れるのなら、
身に纏う炎は常に使用者の身体を焼き、動くだけで全身の骨が砕かれるような感覚に襲われる、自分に向いている刃が鋭すぎる諸刃の剣。
「があ、くううぅ!……ぬるい!未来の痛みに比べたら!こんな程度おおおぉぉぉ!!!」
口の端から血を流しながらも吠えるクリス。それだけでも全身がバラバラになるような感覚に襲われるというのにそんな顔は一切見せない。
自身の身体を燃やすクリスに暴走する未来は圧倒され一歩後ろに下がる。それに気がついた未来は自分が気圧された事に気付いて怒りが燃え上がった。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「かかって来い!未来うううぅぅぅ!!!」
両者は同時に走り出し、そして構えたアームドギアがぶつかり合う。その時に生じた衝撃波は荒地が二人のいる場所を中心にある程度の遠さまで真っ平らにしてしまうほど、鋭利な衝撃波だった。
未来の斬撃が地面を割り、瓦礫を破壊する強力な一撃をクリスは身体がボロボロになるのを感じながら回避し、距離を取ると反撃に移った。
『BLAZE BILLION MAIDEN』
両手に持っていた二丁のボウガンが燃え上がり一つになる。そして現れたのはクリス自身よりも大きな一門の二十四連ガドリング砲に変形させ、銃口からショットガンを機関銃レベルの速度で撃つように乱射した。
回避する事なぞ不可能なレベルの銃弾の嵐に未来は迷いなく突撃する。
「ク゛ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
銃弾の嵐をシンフォギアを纏っていても再現不可能なほど地面や瓦礫を踏み砕きながら縦横無尽に動き回り照準を合わせないようにする事で回避する。
人間の動きをしていない未来がガドリング砲を撃つクリスに接近して黒い刀を振り下ろす。だがクリスは落ち着いてアームドギアをボウガン形態に戻しながらサーカスのピエロのように空高く飛び上がりながら宙返りをする。
地面を砕くほどの一刀を飛び上がる事で回避したクリスは空中でドレスアーマーの腰部の装甲を展開した。
『MEGA DETH EXPIOUD』
無数のミサイルがドレスアーマーから展開された装甲から未来に向けて放たれる。未来はミサイルを見て回避するが着弾したミサイルは小型爆弾でも爆発したかのような大きな爆発を残し、そしてその場に火の海を残していく。
爆発で砂塵が舞う中、クリスは近くの岩場に着地するが着地した瞬間、ボウガンを落として膝から崩れ落ちた。
「がぁ!?うう、かはっ!?」
無事とは言えない量の血を吐血する。その間もクリスは身体に纏う炎に身体をゆっくりと焼いていくような痛みに気絶しそうになる。だがそれすらも焼かれる痛みによって無理矢理覚醒させられ、そして熱さで再び気絶しそうになる。
最早その熱さにクリスが耐えられる時間は当に過ぎており、このまま戦闘を続けてもピークが過ぎている今、あとは痛みに耐えきれずに戦闘能力が下がっていくだけ。それほどまでにクリスは追い込まれていた。
しかし。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
咆哮で砂塵を吹き飛ばし、その中から暴走する未来が姿を見せる。
「はぁ、はぁ……ぐうっ……いいぜ、やるっつーならとことんやってやる……未来が戻ってくるまで……戦ってやる!」
未来が正気に戻ると信じて、クリスは口の中が血の味で不快になりながらも再びボウガンを手に取り構え、そして未来に向かって再び駆け出した。
短時間で幾度となく刀とボウガンをぶつけ合い、そして血を吐きながらも戦うことをやめないクリスに翼はただ呆然と二人の戦闘を見る事しか出来なかった。
(何故雪音は戦える……近くにいるだけで身震いしてしまいそうなほどの殺気を自分に向けられてもなお、何故前に進める……?)
今の未来はネフィリムを蹂躙した時以上の殺意を振りまいており、ネフィリムでもまだ序の口だったというように、今は本気で相手を殺すつもりの戦意が翼には見て取れた。
自分がそんな目を向けられれば気を失うどころかあまりの恐怖で気が狂う自信があった。下手をすれば恐怖から逃げるために自ら命を絶っていたかもしれない。そう予感させるほど、未来は恐ろしかった。
そんな未来を相手に、クリスは決して引かずに吐血するほど身体がボロボロになっても立ち上がり、そして立ち向かう。
その姿はあまりにも今の翼にとっては理解し難いものだった。
『翼、聞こえるか!?』
「叔父様……?」
呆然としていた翼の通信機から焦る弦十郎の声が聞こえて現実に引き戻された。
『……もうお前に出来ることはない。撤退しろ』
「なっ」
未来とクリスが戦っているというのに自分だけ撤退の命令を出した弦十郎に翼は信じられないものを見た気がした。
「な、何故!」
『……震えて動けないお前がいて何になる?二人の戦闘の余波に巻き込まれて死ぬのがオチだ』
「ッ!」
弦十郎の言葉は的を射ていた。
未来が暴走してから恐怖で動けなくなった自分にはここにいる意味がない。弦十郎の言うように介入出来ないほど激しい二人の戦闘の余波で命を落とす可能性の方が高い。
悔しいと思いながらも今だに恐怖で震える自身の身体を憎く思いながらも、やはり何もできない自分に悔しい思いが募っていく。
『翼はよくやった。ここで撤退しても誰も何も言えないさ。後はこっちでなんとかする。だから気にすんな』
通信機から今度は相棒の奏の声が聞こえる。その声は悔しさが混ざっていても翼に言い聞かせるような優しい声だった。
奏の声を聞いて、翼は血が出るほど唇を強く噛んだ。
(よくやった?何を?ただ見ているしか出来なかった私が、いったい何をやったと言うの?)
ウェルが召喚したノイズは倒せた。だがネフィリムとの戦闘では剣の刃が通らず、未来が両腕を食いちぎられた時もただ見ている事しかできず、未来が暴走してからは恐怖で身体が震えて動けず、クリスが命を賭けて未来を救おうと立ち上がったのに今の自分はどうか?
(二年前のライブもそうだ。私が絶唱を使ってその場は切り抜けたけど、その後どうなった?私が眠っている間、奏は一人で戦っていた。フィーネとの戦いも私はただ奏を応援していただけ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴとの戦いも小日向と雪音が来なければ負けていたし、廃病院の時は私は敗北した。そして今度は仲間の殺気に当てられて動けない?私は……いったい何のために装者になったのだ!)
何も役に立てていないどころかむしろ荷物になっている自分に怒りが湧いてくる。
奏と共に空高く飛び上るはずのツヴァイウィングだというのに、何も出来ていない今の自分の羽はいったいなんなのか?
「……あ」
悔しさで涙が溢れそうになった瞬間。ふと翼は思い出した。
それは歌を歌う自分とその隣で同じ歌を歌う相棒の姿。
眩しくて目を背けたくなるほど明るくて力溢れる強い歌。
人付き合いが苦手だった自分を引っ張っていってくれた優しい手を持つ翼にとっての陽だまり。
(そうだ、忘れていた。私は何かを成したい訳ではない。歴史に名を刻みたい訳ではない。英雄になりたい訳ではない。私は──)
気づけば身体の震えは治まっていた。
未来とクリスの戦闘を見れば気圧されるが、先程まで感じていた死の恐怖が自分でも驚くほど無くなっている事に翼は不思議に思いながらも前を向いた。
「ありがとう奏。でも私は戦う」
『な、バカやろう!今翼が行ったところでッ!』
「そうだね。足手まといになるかもね。でも聞いて?ここで逃げたら、もう奏の隣で歌を歌う資格が無くなると思うの」
それは二年前のライブでも思った事。
奏は装者になる時も、歌を歌う時も、戦う時も、自分の身体が傷ついた時も必死に立ち上がり前を進んでいた。
それに対して肝心な時に歌う事も戦う事も出来ず、今度は大切な仲間が戦っているのに自分だけ逃げようとしている。そんな片翼ではツヴァイウィングは高く飛べない。ただの足手まといだ。
そんな事は弦十郎が、本人である奏が許そうとも翼自信が許せなかった。
「これは無謀じゃない。私が奏の横で羽ばたくために必要な、そして恐怖に打ち勝つための〝勇気〟!」
身体から力が溢れてくる。
恐怖は完全に霧散し、代わりに湧き上がってくる心が熱くなるような強い感情。それに答えるように胸のギアの結晶が青く光輝き、翼はギアの結晶を掴みながら強く深く願う。
未来を助ける為の力を。
クリスと共に戦う勇気を。
そして奏と共に空を飛ぶための翼を。
「天羽々斬!私に二人を救う力を分けてくれ!」
──────────────────
激しい殺意の熱波の嵐がカ・ディンギル跡地付近の地形をどんどん変えていく。それほどまでに、今の未来とクリスの戦闘は凄まじいものだった。しかし、それも終わりに近づいていた。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「くう!ッかは!?」
残光すら残すほどの未来の一撃がクリスに襲いかかる。それを炎を纏ったボウガンを盾にして防ぐが既に限界を超えていた身体にはその衝撃を全て受け止める力はなく、無情にも吹き飛ばされてしまう。
何度か地面に打ちつけられながらも大きな怪我を負う事なく、腰を低くした状態で止まる。だが立ち上がろうとしたが足に力が入らなかった。
「くっそ!まだ戦えんだろ!?まだ未来は正気に戻ってねぇんだぞ!ここで諦めたら、未来を助けられないだろうが!」
地面に向けて拳を振り下ろす。拳にかかるはずの痛みが全身に走り、再び吐血しそうになったがギリギリのところで耐えた。
クリスの戦う意思は一切揺らいでいない。むしろ長引けば長引くほど未来を正気に戻そうと闘志を燃やす。しかし身体はクリスの考えとは逆に力がどんどん抜けていく。
「ウ゛カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「しまっ!?」
クリスが気がついた頃には未来は刀の届く範囲まで接近されていた。
無慈悲に振り下ろされる黒い刀を見たクリスは回避しようとするが身体が言うことを聞かず、身動き出来なかった。
確実にクリスを真っ二つにする軌道。後数秒すればそれは現実となってしまうだろう。
黒い残光を残して振り下ろされる黒い刀と身動き出来ないクリス。だがその間に青い閃光が走り、振り下ろされた黒い刀が風に流されるように軌道を変えてクリスの横の地面を切り裂いた。
「ク゛ア゛!?」
「なっ」
未来は警戒して跳躍しながら後方に下がり、クリスは自分を助けた存在を見て目を見開いた。
「──生きているわね、雪音」
クリスの目の前には青いラインが入った白銀の剣を手に持ち、風に流されてたなびく青い髪。そして黒が消えて青と白色になった天羽々斬のシンフォギアを纏う翼が立っていた。
「アンタ、なんで逃げなかった!」
「……ここで逃げたら私はきっと二度と立ち上がれなくなる。そして隣にいたいと思う人と共に空を飛べなくなる。それがとてつもなく嫌なのだ。貴女もそうでしょ?」
笑みを見せて倒れるクリスに手を伸ばす。多少クリスから発せられる熱が治まったとしても決して人が容易に触れられる熱量ではない。だが翼は気にしていないかのようだった。
クリスは迷いながら恐る恐る手を伸ばし差し出された翼の手を握る。すると天羽々斬のシンフォギアが
「なっ!?」
「ッこれくらいで諦めるならここに立っていない!」
顔に玉のような汗を流し痛みを我慢してふらつくクリスを立ち上がらせる。
「さあ、共に小日向を救い出そう!」
「ッ分かってるよ!」
クリスも全身に痛みが入るがその目にまだ戦う意志は消えていない。
全力で戦うのは未来を救う為ならなんでも利用するつもりでいた。
だが今隣で白銀の剣を構える翼が先ほどまで未来の殺気に当てられて震えていた翼と本当に同一人物なのか疑うほど頼もしくなっていた。これなら未来を救えるかもしれない。そう思えるほど。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
自身を奮い立たせるような、それでいて周囲には恐怖を与えるような獣の咆哮が荒地に響き渡る。だが翼は今度はその咆哮を真正面から受けても震える事はなかった。
未来が刀を振り上げて再び突撃する。それを見て二人は即時後方に跳躍して回避。しかし未来は二人を黒い刀を滅茶苦茶に振り回しながら追跡する。その際の衝撃は凄まじいもので、小さな竜巻でも起こったかのように瓦礫やら地面を粉砕していた。
「アンタ!一瞬でいい、隙を作ってくれ!」
「任された!」
クリスの突然の言葉に翼は驚く事なく素直に聞き入れて、クリスが更に後方に下がる中その場に残り、未来に向けて白銀の剣を構えたまま動かなくなった。
「ク゛ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
追いついた未来が動かない翼に向かって殺意のこもった一刀を振り下ろす。
正気の未来の時すら防御してもその上から翼の身体を切り裂くような強力な一撃だった。それが理性を失って暴走している今、更に一撃の威力が上がっている。防ぐのは不可能だ。防ぐのは。
「ふっ!」
クリスを助けた時のように、まるで振り下ろされた斬撃が何かに操られているかのように軌道を変えて翼の隣の地面を切り裂いた。
「グルル……カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
怒りと殺意に任せて何度も翼を斬り殺そうと黒い刀を振るう。だがその全てが翼を避けるように軌道を変え、周囲の瓦礫と地面を切り裂いていく。
翼のやっている事は単純。未来の斬撃を全て受け流しているだけだ。
と言っても僅かでもタイミングがズレれば白銀の剣は破壊され、そのまま自身の身も切り裂かれるだろうギリギリのもの。それを翼は攻撃の手を一切捨てて受け流す事だけに集中する事で完璧に受け流していた。それは未来に腕力は負けていても剣術としては翼の方が何段も上のため出来た事であった。
本当なら一撃で殺せるはずの目の前の敵を殺せずにいる事に我慢が出来ず、乱雑になっていく未来の斬撃。その中で生まれた余計な力が入って背中まで大きく振り上げた瞬間を狙って翼が動いた。
「ここ!」
「ガァ!?」
岩を簡単に切り裂くほどの勢いがのる前の一瞬を狙って防御一辺倒だった翼は今回初めて反撃として自身の剣を振るってぶつける。それでも白銀の剣は折れる事はなくとも肉眼で見えるほど大きな刃こぼれを起こしたが、互いにとはいえ未来を大きくのけ反らせる事に成功した。
「今だ、雪音!」
翼と未来がぶつかり合っている中で少し離れた場所の瓦礫の上でクリスは膝立ちになり、ボウガンをスナイパーライフルのような形態に変形させて未来に向かってスコープを覗いていた。
「目を覚ましてくれ、未来うううぅぅぅ!!!」
「!?」
『RED HOT CANNON』
隙を見せた未来の胸元に狙いを定めて引き金を引く。直後銃口に炎が集まって轟々と燃え上がる塊となり、その中心から炎を纏った銃弾が発射された。
銃弾は一直線に未来に向かい、狙い通りに未来の胸にヒットする。威力を調整している為貫通する事はなく、まるで巨大な砲弾でも受けたかのようにその身を引きずられながら未来は後方の大きな瓦礫にぶつかり、広範囲に砂煙が立ち上った。
未来と刀をぶつかり合ったためバランスを崩していた翼も直ぐに立ち直って白銀の剣を構える。その横に
「油断するな」
「分かってる」
ガラガラと瓦礫が崩れる音を聞き、汗が流れ落ちても拭う事なく砂煙から油断なく目を離さない二人だった。
しばらくして砂煙が晴れてくると一つの人影がよろよろと歩いてくるのが見え、二人はアームドギアを構え直した。
そして現れたのは、ネフィリムに食いちぎられたはずの両手が元どおりになっており、負傷した右手を押さえて足を引きずりながら、しかしシンフォギアが元の白と紫のものに戻った姿の未来だった。
「……ありがとう、翼、さん……クリ……」
「未来!ッかは!?」
「小日向、雪音!」
意識を失い、シンフォギアが解除されてゆっくりと倒れる未来に駆け寄ろうとしたクリスだったが、未来が正気に戻ったのを確認して安心したため誤魔化していた
「くっ、叔父様!すぐに救護班を!」
『分かった!すぐに向かわせる!』
すぐに救護の要請を入れた翼は倒れる未来とクリスを守るように白銀の剣を構えて警戒しながら周囲を見渡す。
そもそも今回はセレナ達F.I.Sが決闘と称して三人を呼んだのだ。ネフィリムの件が事故であれそうでないとはいえ、最悪今がチャンスとこの後にセレナと切歌、調が出てくる可能性はあった。
しかしいくら待っても三人は現れることも無く、何かアクションを見せる事も無く無事に救護班が到着して二人を病院へ緊急搬送されたのだった。
んーG編でやる戦闘じゃないですね!後に続く暴走393のハードルが上がるぅ(゚∀゚)!しかも原作響の暴走と同レベルくらいの強さ設定のつもりなんですよ……嘘やろ……?
クリスちゃんの
アームドギアの方も便利性、機動性無視して脳筋と言えるほど火力重視ですね。無印エクスドライブとかで使っていた戦闘機みたいなやつの武装を通常形態の姿で使ってるとイメージしていただければ近いかな?
ここで原作G編翼さんに追いつくうちの翼さん。まぁまだ技術的には劣っていますがね。その代わり奏さん生きてるのでこの時点でのメンタルはうちの翼さんの方が若干上くらいですね。でも登場の仕方がどう考えても最終回付近のそれなんだよな……
原作響「私の!」
グレ響「未来に!」
うちの響「酷い事!」
トリプルビッキーズ「「「するな!!!」」」
作者「なんで顔合わせた事ないのにそんな息ぴったりなんですかねぇ!?」※トリプルガングニールにより無事死亡。
393「こんな役ばっかりですね」
作者「そういう物語だから仕方ない……だからクリスちゃんお命だけは!」※
ネフィリムくん「俺は作者に命令されただけ「お黙り」ーー」※作者権限によりネフィリムくんの会話能力損失。
次回! 力の代償
もしかしてG編のギャグチャンスは学園祭で終わりだった……?