今回は長いですが結構端折りますよ。そうでもしないとセレナさんの誕生日までにG編が終わらない(今でも終わらない可能性大)ですからね……
それでは、どうぞ!
──二課保有地 訓練場にて。
特異災害対策機動部ニ課が保有する港近くの施設にて、現在仮本部となっている潜水艦の補給とメンテナンスを行なっている。その間暇のある職員たちはある程度の自由行動となり、思い思いに過ごしていた。
二課の司令である弦十郎は本来、F.I.Sや装者である未来の件などにより暇があるのかすら怪しいほど忙しい……はずだった。
「うおりゃああああぁぁぁぁ!!!」
「ふん!」
赤い髪をたなびかせ、橙色のトレーニングウェアを着た奏の腰が入り、サンドバックすら貫きそうな風を切るほどの鋭い正拳突きがいつもの赤い服を着ている弦十郎の胸に向かって放たれる。だがその突きを弦十郎は余裕を持って片手で受け止めた。
「く、おらあ!」
渾身の正拳突きを軽々と受け止められた奏はすぐさま身体をひねり、今度は鞭のような蹴りを弦十郎の顔面に向けて放つ。
弦十郎は当たれば頭蓋骨が陥没してしまいそうなほどの勢いの蹴りを空いていた片手で受け止めた。
「うむ、中々鋭い拳と蹴りだ。だがまだまだ精度も悪ければ予備動作で予想可能な域だ。もっと素早く、最小限の動きで己の最大の一撃を打て!」
「簡単に言ってくれる、な!」
片足を弦十郎に受け止められた状態から、上半身を後ろに仰け反らせながら身体を支えていた足も蹴り上げ、弦十郎の顎に向けてバク転しながら蹴りを放つ。常人が当たれば顎が粉々になりそうな蹴りだがそれも弦十郎は身体を素早く引いて蹴りを回避した。
着地した奏はすぐさま弦十郎に向かって全速力で走り、その途中で跳躍して弦十郎の胸元辺りを狙って飛び蹴りを放つ。
「甘い!」
「ッ!?」
岩ですら砕くのではないかと思えるほどの鋭い飛び蹴りを弦十郎は難なく奏の足を掴んで止め、そのまま身体を回転させてジャイアントスイングの要領で奏を三十メートルほど離れた訓練場の壁に向かって放り投げる。訓練場の壁は特殊な金属で作られているため頑丈であり、弦十郎の膂力で投げられれば壁に赤くて汚い模様が出来るだろう。
「ッまだ!」
奏は壁にぶつかる前に空中で姿勢を変え、ぶつかった壁に両足をついて投げ飛ばされた際の勢いを吸収し、返ってきた衝撃と共に身体のバネを使って再び弦十郎に向かって跳躍した。
「当たれえええぇぇぇ!!!」
拳を突き出した奏はまるで弦十郎に向かって投擲された一本の槍のように一直線に突き進む。
当たれば重症は避けられない。そんな予感すら感じる奏の突撃だが、弦十郎は楽しそうに笑みを浮かべると腰を落として右手を腰の辺りでグッと引き絞った。
「はあっ!」
奏の拳が当たる直前に気合の入った声と共に己の右腕の拳を突き出す。弦十郎の正拳突きと奏の拳がぶつかり合った瞬間、特殊な金属が使われたはずの床は大きくヒビ割れ、凄まじい衝撃が生まれた。
僅かな拮抗。だが勢いは付けることが出来ても踏ん張る事の出来ない奏に弦十郎の拳を止める事は出来なかった。
「うわっ!?」
奏は生まれた衝撃に吹き飛ばされ、床を転がっていく。受け身は取れていたのでダメージは少ないが、それでも少なくない打撲などの打ち身を受けながら壁にぶつかる前に止まる事が出来た。
肩で息をしているが、奏はふらつきながら立ち上がりまだメラメラと戦う意思を燃やしているその赤い瞳を弦十郎に向けた。
だが対する弦十郎は構えを解いてパンッと手を叩いた。
「ふむ。本当はもっとやりたいがこれ以上は明日に支障が出るな。よし、今日はこれで終いにするか!」
それが合図だったかのように奏から闘志が薄れてそのまま床に座り込む。すると今の一瞬で溜まった疲れが一気に押し寄せてくる。
「か〜!まだダンナに一発入れられないか……」
「いや、最後のは中々良かったぞ。俺も大人気なく少し本気を出してしまった」
「あたしの全力に対して少し、ってのが壁を感じるよ……」
シンフォギアを纏っていた頃よりも身体への負担は少なくなり、弦十郎に鍛えられたおかげで奏は現時点でも銃火器無しの大の男百人二百人くらいなら簡単に撃退出来る。それでも今の弦十郎が本気を少ししか出していなかった事に顔が引きつるのは仕方のない事だろう。
「さて、向かうもそろそろ終わる頃かね」
奏は座り込んだままチラリと隣のフィールドでいまだ戦う二人の仲間の訓練に目を向けた。
飛び交う赤い銃弾と青い閃光。その激しさだけなら弦十郎と奏よりも上だった。
「おぉらあああ!!!」
「くっ」
ボウガンをガドリング形態にしたクリスが走りまわる翼に向けて銃弾を撃ち続ける。そんな銃弾の嵐を目の前にして一度も被弾していないという事実に驚愕を隠せないところだ。
クリスは近づいてくる翼に警戒しながら移動し、近づけないようにミサイルも放ちながら距離を置く。だが天羽々斬の機動力はその距離すらもすぐさま埋めてしまうため攻撃の手を緩ませることが出来ない。
「チッ、動き回んな!」
「それは無理な相談だ!」
白銀の剣が届く距離まで接近した翼だが、クリスもガドリング砲を交差させて盾のようにして斬撃を防ぐ。見た目よりも耐久力のないガドリング砲の装甲は粉々に砕けたが、その破片が翼には丁度目眩しにはなった。
「これで」
「遅い!」
破片に紛れてガドリング砲形態からボウガンに変形させて牽制するが、翼の腕にかかればボウガンの連射なら切り落とす事は難しい事ではなく、すぐさま追い込まれて翼の白銀の剣の切っ先がクリスの喉元の直前に突きつけられた。
「──私の勝ちだな」
「チッ」
自身の勝利を確認し、翼は白銀の剣を下ろすとシンフォギアを解除する。そのあとクリスも同じくシンフォギアを解除した。
「それにしても雪音の射撃能力は脅威だな」
「褒めても何もでねーよ」
翼に負けたのが悔しいのかクリスはぶっきらぼうにそう言い残して近くのベンチにむかって歩き出す。その隣に翼は同じ速度で並んだ。
「んだよ、さっさとあっちに行けよ」
「まあそう言うな。今日は小日向もいないし、たまには親睦を深めようではないか」
一週間前の暴走から目覚めたばかりの未来は安静のために訓練諸々は無しになり、今日は一人でリディアンに行っていた。
クリスや翼も学校へ行くべきなのだが(特に二年間眠っていた防人)、F.I.Sの件の事を考えて二人は休みを取り、訓練を行なっていたのだ。
「……ふん、勝手にしろ」
「ああ。勝手にさせてもらう」
ネフィリムとの戦闘の際、翼を認めたクリスは多少なりとも心を開いていた。それを感じ取った翼は少し微笑みながら少々顔を赤くするクリスの隣に並んで他愛もないは世間話を始めるのだった。
──────────────────
──リディアン音楽院にて
「今日の授業はここまでです。皆さん気をつけて帰って下さいね」
授業の終わりを知らせる鐘がなり、先生の一声で今日の授業は終わる。
大人しくリディアンに来ていた未来も帰路に着く準備を始めている中、いつもの三人が近寄って来た。
「ヒナー。今日何処かに遊びに行く?」
「お久しぶりの登校ですし、たまには三人で」
「雪音先輩、休みみたいだけどなんかあったの?」
未来が戦っている事を知っている創世、詩織、弓美の三人は音沙汰無しで一週間ぶりに登校してきた未来を気遣っていつも通りを貫いていた。
思い思いに喋りだす三人に平和を感じながら微笑み返す未来だったが、すぐに頭を横に振る。
「ごめんね。今日は寄る所があるから」
「そっかー」
「残念ですが仕方ありませんね」
「先輩によろしく言っといてね。それじゃ!」
「うん。また明日」
手を振って三人の誘いを断って見送る。そして帰りの支度が終わった未来はその足である場所へ向かった。
ゆっくりと久しぶりに歩く道と街並みを眺めながら、未来は少し荒れてしまっている商店街を一人歩いていた。
店は何軒か開いているものの道を歩く人は少なく、かつての活気があった時とはかけ離れていた。
(仕方ないよね。この辺りもノイズの被害に遭ったんだもの)
世間ではルナアタックと言われているフィーネが起こした事件。あの時にフィーネが広範囲に召喚したノイズは町にまで被害を出していた。今未来が歩いている商店街も被害は少なかったが例外ではない。
かつての商店街の姿を知っている未来は寂しい思いをしながらただあてもなく歩いていた。すると、建物と建物の間から誰かが走り出てきた。
「あう」
「おっと!」
突然現れた人影とぶつかりバランスを崩すが、未来はクリスで慣れているためすぐさま立て直し、クリスにする様にぶつかった人影の手を掴んで自分に引き寄せ、倒れないようにした。
「あ、ありがとうデス!」
「大丈夫?前を見ないと危な──」
自分の胸元で密着するぶつかって来た人影の顔を見て未来は思わず目を丸くした。それは相手も同じで未来の顔を見ると固まっていた。
「「──あ」」
ぶつかって来た人影は現在敵対中のF.I.Sのメンバーの一人の暁切歌であった。
切歌は焦りながら未来から身体を離して距離を取り、急いでギアペンダントを取り出そうとした時だった。切歌の腹部から可愛らしく「くぅ〜〜」と音が辺りに響いた。周りが静かだったのでその音は可哀想なくらい未来の耳に入ってくる。
いきなり敵対する同士が出会って一触即発な空気が流れたが、切歌のお腹の音でその空気も一気に霧散する。
「えっと……何か食べる?」
困った顔で頬を掻きながら言う未来の言葉に、切歌は食欲に負けて再びお腹を鳴らし、迷いながらも顔を真っ赤にしながら小さくうなづいた。
気まずい空気が流れながらも切歌と出会って数分後、未来は目的地であった、親友と昔よく通っていたお好み焼き屋「ふらわー」の前に到着する。
店の明かりはついており、閉店の看板も出ていない。ガラス越しでも人が動く影が見えたので中に人がいるのは確実なのだが中々一歩が踏み出せないでいた。
「どうしたんデスか?」
「あ、なんでもないよ。入ろっか」
少し心拍数の上がった心臓を落ち着かせながら未来はゆっくりと店の戸を開ける。中には他の客はいなかったが、昔から変わらない姿の一人の女性がカウンターに立っていた。
「いらっしゃい。って」
元気よく声を出した女性は未来の顔を見て目を丸くする。その顔を見て未来は気まずさを感じたがなんとか笑みを使って頭を下げた。
「お久しぶりです。おばちゃん」
「貴女帰って来てたのね!懐かしいわぁ。ほら、早く座りなさい」
ニコニコしながらおばちゃんと呼ばれ女性は未来と切歌をテーブルの席に案内する。カウンター席でいいと言った未来だったが女性が「客はいないから」と言ってほぼ強制的にテーブル席に座らされた。
「私は豚玉で。暁さんは?」
「ふえ!?えっとえっと……あう」
未来に言われて急いでメニューを見る切歌だが初めてお好み焼きを食べるためどれがどの様なものか想像出来ずしかめっ面で悩んでいた。多少写真は載っているが腹が減っている切歌からしたらどれも美味しそうに見えるため選ぶのに余計に時間がかかっていた。
「ふふ。なら私の半分あげるから好きなの選ぶ?」
「いいんデスか!?なら……私はイカ焼きお願いするデス!」
「イカ焼きじゃなくてイカ玉ね」
「あいよ!」
久しぶりのお客に女性は元気よく返事してささっとお好み焼きを焼いていく。
店内に漂うお好み焼きのソースの匂いに切歌はさっきまでの緊張を忘れて目をキラキラさせながら女性がひっくり返すお好み焼きを楽しそうに見ていた。
(そういえば、響も初めてここに来た時同じように目を輝かせてたなぁ)
声も姿も違うはずの切歌と今は亡き親友の姿が重なって胸が締め付けられるような痛みが走るが、それを顔に出さずに楽しそうにする切歌に笑顔を向けた。
ものの数分で未来と切歌が頼んだお好み焼きは完成し、二人の前に出される。出来立てなのでまだジュウジュウと焼ける音が聞こえており、ソースの匂いも昼食を食べたはずの未来のお腹でさえも刺激した。そんな中、お腹を空かせていた切歌が耐えられるはずもない。
「あわわ、美味しそうデスよ……いただきますデス!」
涎が隠し切れていない切歌まだ熱いはずのお好み焼きを早速切り分けて口に運ぶ。勿論熱々なのでハフハフと中々飲み込めずにいたが、飲み込んだ瞬間、更に目を輝かせた。
「美味しいデス!こんな美味しいもの、この世にあったんデスね!」
「あっはっは!嬉しい事を言ってくれるねぇ!」
美味しそうに食べる切歌を見て女性も嬉しそうに笑う。そんな平和な光景を見て未来も自然と笑みが出た。
未来もそっと自分が注文したお好み焼きを切り分けて口に運ぶ。少々熱かったが、その味は昔、親友と一緒に食べた頃と変わらず美味しかった。
「……なんで、泣いてるデスか?」
「え?」
切歌なら言葉に未来はそっと自分の頬を触れると指が涙で濡れていた。
最近涙脆くなって来たと思い、自分に呆れながらも切歌に向けて笑みを見せた。
「学園祭の時に話した事、覚えてる?」
「学園祭……アナタのお友達の事デスか?」
「うん。このお店にね、その子とよく来てたの」
中学生の頃、自己紹介の時には必ずとも言っていいほど「好きな物はごはん&ごはん!」と言っていた親友と未来はよくここふらわーに通っていた。
学生に優しい値段と量、そして味という事で未来もこの場所が好きだった。それこそ、先日ふと思い出して食べたくなってしまうほどに。
「向かいの八百屋さんやカラオケ屋もね、あの子と、響とよく行ってたの。あの頃はもっと活気があって、この時間には人が沢山いたんだよ?」
「そうなんデスか」
切歌はチラリと店の扉に目をやる。勿論扉は閉まっているが、ここまでの道のりで未来が言ったような活気はなく、むしろ活気がある姿が想像出来ないくらい散々としているが未来には違う光景が写っているのだろうか、顔は笑みを作っているというのに目は何処か違う所を見ているようで、切歌は漠然と未来が悲しんでいるように見えた。
悲しそうにする未来を見て少し空気が重くなって気まずくなるが、出されたお好み焼きを食べるとその美味しさに切歌はまた明るくなり気まずい空気が霧散する。美味しそうにお好み焼きを食べる切歌を見て未来も釣られて現実に戻ったかのように微笑んだ。
それから数十分で切歌は自身の頼んだ物と未来のお好み焼き半分を平らげて満足げに笑顔になった。
「調やセレナたちにも食べさせてあげたいデスねぇ」
「ならお持ち帰りさせてもらう?」
「出来るんデスか!?」
表情変化の激しい子だなー。と思いながらも未来はうなづき、切歌は遠慮せずに自分の気になるお好み焼きを何種類かお持ち帰りさせてもらうことになった。その金額は普通の学生には重い値段だったが、装者として戦っている未来は二課から支給される給料は学生どころか一般の会社員よりも多く、日常品くらいしか買っていない未来にしたら貯まる一方なため良い出費となった。それでも現在の貯金の一割もつかっていないが。
スキップを踏む勢いでルンルン気分の切歌と共に未来はふらわーを後にする。店から出る際、女性から笑顔で「いつでも来ていい」と言われたら未来も笑みを返した。
「今日はありがとうデス!」
「ううん。私も久しぶりにふらわーのお好み焼き食べたかったから別にいいよ」
「それでも礼を言わないと気がすまないデス!」
まるで敵対していると忘れているかのように、友達のように笑い合う未来と切歌。その姿は互いにとても楽しそうにしており、血を流して争っていたのが嘘のようだった。
切歌にしても、敵とはいえ久しく感じた楽しい時間を心地よく感じていた。だが人気の無い所まで歩いた瞬間、残念ながらその時間と終わりを告げる。
「ッ!」
切歌の横を歩いていた未来は不意に感じた嫌な予感にその場からバックステップで切歌から離れて後方に下がる。その直後無数の小さな丸鋸が今さっきまで未来が立っていた地面に突き刺さった。
「切ちゃん!」
「し、調!?」
少し離れた場所から聞き慣れた声が切歌の耳に入る。その方向を向けばシンフォギアを纏った調と震えながらボロボロになった服を着て、何かを大切そうに抱いているウェルが一緒にいた。
一週間前の未来の暴走から行方不明になっていたウェルの捜索、それが今自由に動ける切歌と調の任務だった。
それというのも、あの日の後からナスターシャの具合が悪くなっていき、応急処置はしたものの本格的な治療は今やウェルしか頼める相手がいないため、気に入らない相手と思いながらも渋々と捜索していた。
そして今日は二手に分かれて捜索中、切歌は未来と遭遇して今に至る。
「なんでそいつと……まさか」
「ち、違うデスよ調!」
敵であるはずの未来と一緒にいる切歌を見て調の顔が険しくなる。そんな調を見て切歌は焦りながらもお好み焼きが入った袋を持って急いで駆け寄り、調の横で未来の前に立つ。だがその顔は先程まで仲良くしていた未来にどうすれば良いか分からないという表情だった。
切歌が戻ってきて強気になった調はそのまま攻撃を続行しようと身をかがめる。だが未来はそれに「待って!」と大きな声で止めた。
「今回はお互い出会わなかった事にしてこのまま分かれてくれないかな」
未来にしたらこの周辺の町は思い出の詰まった大切な場所。そんな場所を無闇に破壊したくもないし、一緒にお好み焼きを食べていた時に見せた切歌の笑顔を見て敵とは思えなくなり戦いもたくなかった。
だがそんな事を知らない調からしたら関係ない話だ。
「戯言を!」
「な、待つデス調!」
『α式・百輪廻』
切歌の静止を聞かずに調はツインテール部の装甲を展開し生身の身体に当たればバラバラに切り刻まれて命は無い無数の小さな丸鋸を容赦なく未来に向けて放つ。
それを見て回避出来ないと察した未来は説得は不可能と思い、歯を噛みしめながらも胸に手を当てた。
──Fellthr amenohabakiri tron──
天羽々斬の聖詠を唱え、紫の光に包まれる。そして紫と白の装甲のシンフォギアを纏い、白紫の刀を手に取つまえ自身に命中する丸鋸だけを正確に切り落としていく。だがその間にも調は未来に近づき、次の攻撃に移っていた。
『γ式 卍火車』
飛来する小型丸鋸に集中している未来の死角からツインテール部の装甲内のアームから巨大な丸鋸を二つ取り出して投擲する。
空気を切り裂く音に気がついて未来はギリギリ身体をかがめて回避する。巨大な丸鋸は未来の髪を数本掠め、近くのコンクリートに切り裂いて止まった。
「やめるデスよ調!このままじゃ町に被害が」
「でもあの化物を倒さないと!」
暴走した未来を間近で見た調はその脅威をよく知っている。
現状F.I.Sの目的の妨げになるのは目の前にいる未来の他にいない。であれば再び暴走して肝心な時に邪魔されないようにするのは必然だった。
その考えに基づいて調は絶え間なく追撃するが、未来はその猛攻を白紫の刀で全て弾き返す。それだけの戦闘能力の差が二人にはあった。だが。
「うっ!?」
調が放った巨大な丸鋸を弾き返した瞬間、優勢だったはずの未来は全身が異様に熱くなっている事に気づく。その熱さを自覚した途端身体の体温か、それともシンフォギアの温度なのかが急上昇していき、息が出来ないくらい苦しくなって思わず膝をついた。
「チャンスッ!」
「調!」
膝をついた未来に好機を見出して追撃しようとした調の前に、いつの間にかシンフォギアを纏った切歌が両手を広げて追撃を止めた。
「どいて、切ちゃん!」
「どかないデス!私たちの目的はあの人を倒す事じゃなくて博士を連れて帰る事デス!目的を間違えちゃダメデス!」
「でも今倒さないと!」
切歌と調の口論が始まっている間にも未来は謎の発熱により身体が焼かれるような痛みに襲われている。コンクリートもその熱さに耐えきれなかったのか少しずつ変色していくほど、温度が上がっていく。それは奏やクリスが使ったシンフォギアの強化形態、
立ち上がろうにも身体はその熱に耐えきれないのか上手く動かすことができず、未来はそのまま倒れ込んでしまった。
少しずつ意識が遠のいていく中、聞き覚えのある歌声が未来の耳に入ってきた。
──Killter Ichaival tron──
空中から落下してくる赤い光。その中から現れたのはニ課仮設本部よりシュルシャガナの反応を感知して急ぎ急行したイチイバルのシンフォギアを纏うクリスだった。
クリスは二人に警戒してボウガンを構えながらも倒れている未来を守る形で二人の前に降り立った。
「クリ、ス……」
「未来!大丈夫か、って熱!?」
未来の肩に触れようと伸ばした手が未来の身体から発せられる謎の熱によって思わず手を遠ざけてしまう。それほど未来の身体は発熱していた。
未来の身に起こった不可思議な現象に戸惑うクリス。その後ろでは突然のクリスの登場に調は舌打ちを漏らていた。
「……増援が来ちゃった。私たちの負担も大きくなっちゃう」
「そうデス!だから早く博士を連れて逃げるデスよ!」
悔しそうな表情を浮かべる調にお好み焼きの袋を片手にウェルを小脇に抱えた切歌が言う。切歌も未来と同じで敵とは思えなくなっており、せめて今日だけでも戦闘は避けたかったため、無理にでも調を帰投させたいと思っていた。
それを知らない調は異様に戦闘を避けたがる切歌に持ちたくない不信感を持ちながらも、クリスが来たことで状況は不利だと思い大人しくその場を撤退する。撤退する際、切歌が未来を心配そうに見ていたのを調は見逃さなかった。
「な、逃げんのかよ!」
「う、うう……」
「未来!?」
撤退する二人を見てクリスも後を追おうとするが、後ろでまた未来が苦しそうな呻き声を上げる。いまだ未来の体温は上昇中だった。それに加えて胸元を中心に謎の紫の結晶が広がり、首の辺りまで広がり始めていた。
既にシンフォギアを纏っていても火傷してしまいそうなほどの体温になる中、クリスは自分ではどうしようも出来ないとまともな思考で無くなっていく。
未来を守るために強くなろうと決意しても肝心な時には何も出来ない自分に悔しくて涙が出そうになった。その時だった。一台の青いバイクが真っ直ぐにクリスの方に向かって走って来ていた。
──Imyuteus amenohabakiri tron──
未来の聖詠とは異なる天羽々斬の聖詠が響く。
バイク諸共青い光に包まれ、現れたのは青と白の装甲のシンフォギアを纏った翼は未来と調の戦闘で出来た瓦礫をバイクで滑り、未来の真後ろの建物の屋上目掛けて飛んだ。
『騎馬ノ一閃』
シンフォギアの影響により乗機していたバイクの前方部分に巨大な刃を突出させる。その刃は建物の屋上に取り付けられた貯水タンクを大く切り裂いた。
貯水タンクに溜まっていた水は体温を上げ続けている未来に向かって流れ落ちる。流れ落ちた水が未来の身体に接触すると蒸発する音が聞こえたがそのおかげで温度を下げる事に成功したのか、水が全てなくなる頃には周りにも熱さを感じるほどの異様なほどの熱は消え去っていた。
「未来!」
近づけるようになったクリスはいの一番に倒れている未来に近寄り抱き寄せた。
「う、ん……大丈夫、だよ……ちゃんと意識はあるから、ね?」
「ッ大丈夫な訳ねぇだろ!」
苦しそうに息をしながらもクリスに心配かけさせまいと必死に笑みを作る未来だが意識が朦朧としているのだろう。未来の意思とは裏腹にその身体は明らかに無事ではない。
先程まで胸元を中心に首の辺りまで広がっていた紫の結晶がまだ小さいが手足のあちこちにも現れている。特に胸元の結晶はその姿を見て無事だと判断する者はいない。
「くっ、早く救護班を」
「んな悠長に待ってられっかよ!」
バイクを止めてクリスの元へ来た翼は倒れる未来を見て急いで救護班を呼ぼうとしたか、それよりも先にクリスが未来を抱き抱えて立ち上がった。
「シンフォギアを纏っている今ならあたしが直接行った方が早え!あんたはオッサンに治療できる奴を病院に集まるよう言ってくれ!」
「な、待て雪音!」
翼の静止を聞かずにクリスは未来を抱き抱えたまま跳躍して建物の屋上へ着地し、そのまま次々と建物を飛び移りながら二課の息がかかった病院に向かっていく。焦りも混ざってからか少々危なげだったが、移動速度は天羽々斬を纏った翼に勝るとも劣らないレベルだった。
「あの娘はっ!司令、聞こえていましたか?」
『聞こえていた。急いで人を向わせている。そちらは敵を追う事は可能か?』
「……いえ、既に影も形もありません」
『そうか……どのみち一人では危険だ。無理せず本部に帰投しろ』
「分かりました」
通信機を切り、クリスの話を聞いて既に未来の治療の準備が出来ていると分かり取り敢えず安心した翼は弦十郎の指令通り本部へ戻るために再び青いバイクに跨る。その際、未来と調の戦いにより復興が進んでいたはずの街並みにまた新しい争いの傷がつけられた光景を見てハンドルを握る手に力が入った。
思い出すのは十日ほど前、翼が初めて未来を恐ろしいと感じた海橋での戦いの際にセレナが言った言葉だ。
──正義では守れないものを守るために──
その時翼が見たセレナの瞳には嘘は無かった。本気で翼たちでは守れない何かを必死になって守ろうとする気迫すらあった。未来に気圧されて気弱になっていたのもあるだろうが、その気迫に押されてしまったのは事実であった。
だが、今目の前に広がる光景は本当にセレナが目指す目的のために必要なものなのか?
(セレナ・カデンツァヴナ・イヴ……もしこの光景が貴様らにとって必要であるものならば……私はその意思を真っ向から否定する)
翼は胸元にあるギアペンダントを握りしめ、二課に帰投するために青いバイクを走らせるのだった。
──────────────────
──ヘリキャリアにて。
一週間かけて探し出したウェル博士を抱えた切歌と調は上手く二課の追跡を振り切り、無事ヘリキャリアへとたどり着いていた。
ウェルは白い外骨格に覆われた何かを大切に持ったままヘリキャリアの中に入るとやっと安全な場所についた事にホッとしたのか大きなため息を吐いた。
「助かりましたよ。なんせ必死になって戻ってみればヘリが無くなって」
「無駄話は後にして早くマムを診て」
「……わかりましたよ。それに
調が食い気味にウェルの言葉を遮る。突然言葉を遮られて少し顔をしかめるウェルだったが不気味な程素直に聞き入れた。しかも何処か不気味な笑みまで浮かべて。
扉の向こうに消えていくウェルを見送った切歌と調は取り敢えずの任務は終了した事に力が抜けた。
まだナスターシャの具合は悪いのだが、応急処置しか出来ない自分たちよりもウェルが診た方が断然良いと分かっているので釈然としない思いをしながらも託すしかなかった。
「これで取り敢えず大丈夫だね」
「デスね。マム、早く元気になってほしいデス」
「そうだね切ちゃん……ん?」
未来との戦闘の高揚も消えて落ち着きを取り戻し始めた調が何気に切歌の方を向くと切歌が今日キャリアから出た時には持っていなかった袋を持っている事に気づく。
「切ちゃん、何か買ったの?」
「そうでした!忘れてたデス!」
調に言われて先ほど未来に買ってもらったお好み焼きを思い出す。
切歌は笑顔で袋からまだ暖かいお好み焼きを出すとソースの香ばしい匂いがヘリキャリア内に立ち込め始めた。
「ふらわーって所のお好み焼きデス!とっっっても美味しいデスよ!」
いまだに口の中に残る店で食べたお好み焼きの味を思い出して涎が出そうになるのを我慢した。
切歌たちが世界に宣戦布告した時から逃走の日々を送っており、緊張感が続く中ナスターシャ、セレナ、調、切歌の四人で食事をする事ができていなかった。故に、切歌は美味しいお好み焼きを昔みたいにみんなで食べようという純粋な気持ちしかなかった。
「……切ちゃん、今日お財布持って行かなかったよね。どうやって買ったの?
「ふえ?そ、それは……」
調なら喜ぶだろうと期待した切歌だったが、その予想とは裏腹に調は訝しげな目を切歌に向ける。なんと答えれば良いか分からずしどろもどろする切歌に調の顔はどんどん険しくなっていく。
「もしかして……さっきのあの人?」
「…………はいデス……」
結局正直白状する切歌。だが心の何処かで多少は怒られても一緒に食べてくれるという期待があった。小さい頃から仲良くしている、片割れとも言っても過言では無いと思っている調がこれくらいの事では怒るはずがない。そう信じていた。
だが調は何も言わずに踵を返し、切歌を置いて部屋から出て行こうと歩き出した。
「し、調?」
「……敵からの施しはいらない」
「な、待ってくださいデス調!待って!」
冷たさを感じる言葉を置いて出ていこうとする調を止めようと切歌は今にでも泣き出しそうな悲痛な声を上げるが、調はそれを無視して部屋から出て行ってしまう。調がいったい何が原因で怒っているか検討もつかず、伸ばされた手が虚しく空を切った。
自分の悪戯や失敗で怒られる事は何回かあった。調に迷惑をかける時もあった。だがここまで拒絶された事は初めてで何が起こっているか理解する事も出来なかった。
呆然と調が去っていた扉を眺めていると扉は再び開く。調が戻って来たのかと一瞬喜ぶ切歌だったがそこにいたのは久しぶりに姿を見る、前よりも少し痩せたように見えるセレナだった。
セレナは扉の前で呆然とした切歌と目が合うと少し気怠げに口を開く。
「何かありましたか、暁さん」
「あ、や、なんでもないデス!それよりもセレナ!美味しいお好み焼きがあるのデスが……」
一目見ればセレナが疲れているのは分かるのだが、切歌は調に突き放されたような感覚にショックを受けつつも隠し、セレナだけでも昔みたいに一緒に楽しく食事をしたいと願いを込めて、少々ぎこちない笑みを浮かべて袋の中のお好み焼きを見せる。
セレナは一瞬袋の中のお好み焼きを見るがすぐにため息を吐いて興味が無くなったかのように向き直った。
「……ごめんなさい。今日は食欲が無いので遠慮します。月読さんと食べてください」
「あ……」
足元を少しふらつかせながらセレナも寂しそうにしている切歌を放っておいて部屋から出て行く。そして部屋の中には切歌だけが残った。
切歌はトボトボとキャリア内に取り付けられ腰掛けに一人座り、袋の中のお好み焼きを割り箸で一口サイズに切って口に運ぶ。作ってもらってから時間が経っているため多少冷えてしまっているがその味はふらわーで食べた時と遜色なく、お世辞抜きで温め直さなくても美味しいと言えるはずの味だった。
「……おかしいデスね、美味しく無いデス……」
ほんの数分前に食べたお好み焼きと同じはずなのに、その時に食べたお好み焼きの方が何倍も美味しく感じた。
冷えているからだろうか?それとも時間が経ってしまったからなのだろうか?そう悩んでいた切歌だったが、それは考える程のものではない事にすぐ気づいた。
(──ああ。誰かと食べてたから、美味しかったんデスね)
敵や目的とか余計なことを考えずに、無理して場を和ませる必要もないただの楽しい食事。そんなもの、最後にしたのはいつだったか。
どれだけ貧しい暮らしをして出てきた食事でも調やセレナと食べた時は切歌にとってどんなものでも御馳走だった。ただ誰かと楽しく食事をする。それが切歌にとっての幸せな一時の一つのはずだったのだ。
「みんなで食べないと……美味しくないデスよ……」
もう一口お好み焼きを口に運ぶ。ソースの味がするはずのそのお好み焼きの味は、何故か少ししょっぱい味がした。
今の奏さんはOTONAでも大人でもなく、OTO人くらいかな?何故こんな魔改造を?これも伏線の一つなのですよ……XVまで遠いなぁ。
原作ではビッキーが切ちゃんと調ちゃんの絶唱を吸収してS2CA撃ちますが今の未来さんが撃ったら天羽々斬との同化が加速するため平和?的に終了。でもその代わりに切ちゃん大ダメージ……ちゃうねん調ちゃん、切ちゃんは純粋に良え娘やから許したって……
作者「切ちゃんも好きなキャラなのに何故こんな悲しい思いをさせてしまうのか……おのれシェム・ハめゆ゛る゛さ゛ん゛!」
シェム・ハ「何故そこで我!?」
調「でもこの展開は貴方が作ったから貴方も同罪(シュルシャガナシャキーン)」
作者「ハッ(゚∀゚)!」
???「おい、私の出番はどうした!?」
作者「アンタの出番はまだまだ先だから黙っとれ万年一途BBA……ごめんなさい謝りますからNIRVANA GEDONのグミ撃ちやめて!」
次回! それでも握り続ける刀
未来さんの決意表明!