まにわにヒーローアカデミア   作:塩谷あれる

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困難なんか一つ去ったところであと三十は来る

 マスコミ騒動があった日の夜、真庭邸ではそのことが食卓で話題になっていた。

 

「ふーん、あの雄英にマスコミがね。雄英の警備、去年に比べてザルになってるってことかな?」

「いや、そいつはどうでしょうかね?かのオールマイトが赴任するたぁ言え、流石に生徒の身を危険に曝すような真似あの雄英がしでかすとは思えねぇですけど」

「だぁよねぇ……うーん、てことは」

 

 夕飯の焼き鮭を食べながら難しい顔をする狂犬。

 

「「意図的にマスコミをけしかけた輩がいる」」

 

「……ってことになっちまいやすよねぇ」

「だねぇ」

 

 二人揃って溜め息を吐く。猩々はうんざり、と言わんばかりの苦笑を浮かべ、狂犬は落胆と怒りを隠そうともせず顔をしかめていた。

 

「セキュリティ的にも安全で、生のヒーローの技術や経験を猩々ちゃん盗ませる良い機会だと踏んで雄英の受験と入学をOKしたのに、初っ端からこれとかさぁ……勘弁して欲しいって感じだよ……これなら多少距離を見ても士傑に入学させるべきだったかなぁ……」

「まぁ、今年はとびきりのイレギュラーでしょうよ。オールマイトの騒動に関しても、ほとぼりが冷めんのを待つしかねぇでしょうし、長い目で見ていきやしょうや」

「やだよ。猩々ちゃんを含め、今レベルのスキルの持ち主に次巡り会えるかなんてわかんないもん。あとどれくらい待てば良いのかなんて、考えるのも私はもう嫌」

 

 猩々なりの雄英へのフォローにも、狂犬はつん、とすげなく切り捨てる。その顔には、深い後悔と、深い疲労感すら感じさせる哀愁がうっすらと感じられた。

 

 真庭狂犬という女性は、真庭忍軍結成に関わった最初の忍たちの一人である。真庭忍法・狂犬発動。自分の意識と記憶を他者へと刷り込むその忍法ゆえに、彼女は今の今まで生き延びてきた。彼女の曰くで例えるならば、「生き恥を晒し続けて」きた。そんな彼女は、正史においてはある刀鍛冶の刀を追い求めるその最中、とある雪山で死没したとされている。

 しかし真実はそれとは異なる。彼女が最後にとりついた白髪の幼子の深層心理に、彼女の精神は眠っていた。そして彼女の産み落とした少女の肉体へとその忍法を発動し、その後脈々と生を長らえてきた。全ては真庭忍軍を蘇らせるために。自分達の存在の証を、少しでも多く残すために。

 

 そんな彼女の過去を知るがゆえか、猩々はそれ以上、何かを言うことはなかった。

 


 

「すっげー!!USJかよ!?」

 

 マスコミ騒動の翌日。人命救助(レスキュー)訓練の訓練場に到着いたしやした。あ、どうも。好きな季節は秋と冬の境目、真庭猩々でございやす。

 しっかし、確かに似てやすねぇ……まぁ見た目だけなら著作権云々にも大して触れたりはしやせんし、問題はないでしょう。というかかの雄英のヒーロー達が自分から法律破ってくのはロック通り越してヤバイですがね。

 

「フフフ……水難、土砂災害、火事、台風……あらゆる災害を想定し、僕が作った演習場、その名も!!

(ウソの)(災害や)(事故ルーム)!!!」

(((USJだった!?)))

 

 ……え、これ大丈夫ですよね?触れやせんよね?法。ユニバーサルなジャパンのスタジオの方を略した結果じゃないから著作権セーフですよね!?ヒーローがこんなアホみたいな不祥事でお縄は笑えやせんよ!?っとと、もう訓練が始まるようです。真面目に聞かんと。

 

「皆さん始めまして。僕はスペースヒーロー『13号』。今回、皆さんの訓練のお手伝いをさせていただきます。えーそれではまず、訓練を始める前にお小言の方を一つ二つ……三つ……」

(((増える……!)))

「四つ……」

 

 指を折り伸ばししながら、13号は語り始めやした。

 

「皆さんご存知とは思いますが、僕の“個性”はブラックホール、どんなものでも吸い込み塵にする個性です」

 

 13号が仰ったのは、どんな個性も使い方を誤れば簡単に人を殺しうる力を、どう人命のために、どう人を救うために活かせるかを考える、そういうことをこの授業を通して学んでいって欲しい、とのことでした。成る程、正しく至言です。言わば個性ってのはナイフと同じでございやすからね。上手く使えば木を削ったり果物や野菜を切ったり、何かと便利な代物でございやすが、使い方を誤れば簡単に人を殺め、人生を崩壊させることすら敵う。

 ヒーローと俺達忍が良い例でございやすよ。ヒーローは個性を用いて人を救う。俺達忍は技術や個性を使って人を殺める。……こうやって考えると、俺のやってることは綺麗事でございやすねぇ。人殺しを専門職としてるくせに、勝手にヒーローなんてモンになろうとしてんですから。ま、やりたいこととやらにゃならんことが合致した結果ですんで、特にもなにもありやしやせんがね。さて、訓練、次こそもう始まるでしょうし、ちょっと体整えておきやすかね。

 


 

「以上!ご清聴ありがとうございました!」

「ステキー!」

「ブラボー!ブラーボー!」

「よし、そんじゃあまずは……」

 

 13号への拍手喝采の中、相澤が話を切り出そうとする。相澤がふと、何とも無しにセントラル広場へと目を向けると、

 

ズズ…

 

 黒い、黒いもやが現れた。そのもやは、段々と大きくなっていく。ソフトボール大からマンホールほどに、そして、人一人ほどの大きさに。

 

「……?……ッ!!」

 

 そしてもやの中から現れたのは、骨張ったがりがりに痩せた指、そして、全身に手を纏わりつかせた異形の男。

 

「──一塊になって動くな!!13号は生徒を守れ!!」

「え?」

「……っ、こいつぁ一体、どういうことでございやすかね?」

 

 もやはさらに広がっていく。そして現れる、現れる、現れる。夥しい程の悪意を纏った、無数の敵意が。

 

「んん!?何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「…だったらどれだけよかったでしょうね」

「動くな、あれは……(ヴィラン)だ!」

 

 その言葉に、この場にいる全員がどよめく。本来であればあり得る筈の無い邂逅。雄英高校ヒーロー科A組にとって、始めての対ヴィラン戦が幕を開けた。

 


 

「ヴィラン!?馬鹿だろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!?」

 

 確かにまともな思考してるとは言えやせんね。あ、どうも真庭です。いつもみたいにふざけてるわけにもいかねぇようですし、自己紹介は後程で。

 しかし、これだけの数、一体全体どうやって集めたんでございやしょう?そこらのドロップアウトかき集めたってこんな数にはなりゃしねぇでしょうに。

 

「……ん?」

 

 そん時、俺は思わず目を疑いやした。生まれついての仲である、俺のこの二つの目ん玉がいかれてんじゃねぇかと疑いやした。もやの中から出てきたヴィランの中に、いる筈のねぇ存在がいやがったからです。

 

「ありゃあ……!?」

 

 やたらと軽装じみた迷彩柄の服。不自然に焼けた肌。そして何より、()()程ではねぇにしても、よく目立つ腕に巻き付けた()、禍々しいと言うよりは、()()()()と言うべき気味の悪い悪意──

 

「ッッッッッッっ!?」

 

 まさか、あれは──

 

「……13号先生」

「どうしました?真庭君。さぁ、君も早く!相澤先生が時間を作ってくれている間に、避難しましょう!」

「無理です。相澤先生一人じゃあ、どうあがいても対処不可だ。あの人じゃあ、絶対に鎮圧できねぇ奴が一人いやす。あのままでは、相澤先生は間違いなく死ぬ。そうなったら俺達も皆殺しになっちまいやす」

「……!?それは、どういう」 

 

 まさか、こんなチンピラの集まりみたいな連中の中にあんな怪物が混ざってるなんてのぁ、考えたくもなかったんですが、しかし、いちまう以上は仕方なしや、と言ったところですかね。

 

「……俺に行かせてください。()()()()()()()()()

「なっ……!」

「13号先生は他の皆さんの避難を優先なさってください。まず間違いなく、他を捌きつつあれを対処できんのぁ、失礼ですが俺以外は無理だ」

「……っだとしても!今は君達の安全を優先するべきです!ほら、早くこちらに──」

「おや、それは困りますね」

「「!?」」

 

 俺達の目の前に、と言うよりは、避難経路の前にあの黒いもやが立ち塞がりやした。これ、意識を持つ生命体だったんですかい、てっきり個性で発動されたギミックの類いだとばかり…!

 

「始めまして13号並びに金の卵の皆々様。我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に潜入させていただいたのは………

 

平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃる筈ですが……何か変更あったのでしょうか?……まぁ、それとは関係なく、私の役目はこれ」

 

 そういった途端、黒いもやはその面積を拡げ、俺達に覆い被さ──

 

ドカァン!

 

「その前に俺達にやられることは、考えてなかったか!?」

 

 ろうとして、切島さんと爆豪さんが前に出てもやを押し退けやした。しかしそいつは悪手すぎる!早く二人を後ろに戻さにゃ──!

 

「ッ!ダメだ退きなさい二人とも!そこにいては──」

「危ない、危ない。そう、そうでしたね。生徒と言えど優秀な金の卵……えぇ……

 

 

 

散 ら し て

 

 

嬲   り

 

 

殺 し ま し ょ う 」

 

 黒いもやは瞬く間に拡がり、やはり俺達を包みやした。せめて、一人でも多くもやの範囲外に避難させられりゃ──ッ!

 

「あぁ。貴方は何やらあちらの御仁に面識がおありのようでしたので……()()()()()()をご用意いたしますよ」

 

 いつの間にやら俺の速度に追い付いていた黒いもやは、俺が抱えていた耳郎さん達諸とも巻き込み──

 

「ぐっ!」

 

 目の前に見えたのは岩山でございやした。上手く足軽を使って衝撃を消しやしたが……お三方、無事でございやすかね。

 

「う、うぉお……びっっくりしたぁああ……!!」

「こ、ここは……USJの敷地内…でしょうか」

「ま、真庭ぁ!?あぁいうことするんなら、せめてもうちょっと、準備とか……!」

 

 皆さんお元気なご様子で……さて、問題は……

 

「う、うわ、なんだこれ!?」

「これは…どういう!?」

 

 お三方が驚くのも無理はありやせん。俺達を襲ってくる筈のヴィラン達が、纏めて泡吹いてダウンしてるわけでございやすから。……顔色から鑑みても、えぇ、あの輩がいるのは間違いないでしょうよ。さっきの俺の感覚が、勘違いだったらどれだけよかったか。

 

「お三方、今すぐ逃げて13号先生の元に行ってください。今から戦う相手は、ちぃっとばかし危険すぎる。死にたくなけりゃ今すぐトンズラこくべきだ」

「な、何言ってんだよ真庭!?敵なんてどこにも──」

「えぇ、その通りです。そして、あなた方は三つの間違いを犯している」

 

 あぁ、くそ。この毒々しい空気。間に合わなかった、って奴です。

 

「一つは私がヴィランなどというプレイヤー擬きではないと言うこと。一つは──私は決して戦わないと言うこと」

「くそ、畜生、なんてこった……ッ!」

 

 あぁ、くそったれ。最悪ですよ、本当に──!

 かの暴力が全てを支配する世界に、ありとあらゆる毒と病を操り遣う怪物達が存在いたしやした。その凶悪さゆえに彼らは、この世で最も栄誉なき最悪の六名の一つへとその名を刻まれやした。目の前の男も、その一人。

 

「そしてもう一つは……貴方達はもう既に、逃げたところで無駄だと言うことです」

 

 毒薬疾病なんのその、非戦闘集団呪い名(マジナイナ)が第三位、感染血統『奇野(キノ)』師団。《病毒遣い》が、俺達の目の前に現れやした。




今回なんか恐ろしくガタガタになった気がする……ということで、今回から戯言シリーズ、人間シリーズとのクロスオーバーも追加します。適当で申し訳ありません。そんな作品でも「悪くない」と言って頂ける方は、これからもどうぞよろしくお願い致します。
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