まにわにヒーローアカデミア 作:塩谷あれる
「ふぅ、こんなもんでございやすかね」
奇野を拘束衣で思いっきりふん縛って、布袋を被せた顔以外を地面に埋めたところで、俺は一息つきやした。あ、どうも、猩々でございやすよ。奇野のバカに色々聞きやしたが……少々不味いと言うか、いやこれかなり不味くありやせんか?
「
都市伝説上の存在とばかり思ってやしたがこうして当人にあった連中がいる以上は事実だと考えた方が良さそうでございやすね。ですが、その御大がしでかそうとしてることに関しては流石に聞き及んでやせんでした。なんにしても、今ここに来てる主犯の方々も一発とっちめて情報聞き出す必要がありそうですね。
「こーいうとき、雌羊か、そうでなけりゃ
あの二人の忍法はそれぞれ、雌羊は無血制圧、群蟻は数による面制圧に特化してやすからね。上手くハマれば大抵の相手は制圧できやす。
とかなんとかいったところであの二人は別任務中か
「…………あ、お三方どうしやしょう」
……………まぁ、流石に誰か起こして事情説明してから行きやしょうか。
「ハハハ、絶望したかい?スゴいだろ?対平和の象徴──改人“脳無”」
「ぐ──ッ!!」
猩々が奇野なにがしとの戦闘を終えていた頃、セントラル広場にて行われていた一つの戦闘もまた、終わりを迎えようとしていた。但し、
「“個性”を消せる──素敵だけど何てことはないね。圧倒的な、純粋無垢な
全身に手をへばりつかせた痩躯の男、死柄木が自慢げに語る。相澤を今、間違いなく屈服させている黒色の巨漢、脳無についてを。
(俺の“抹消”は体の一部でも見れば個性は消せる……つまり!素の力がこれってことだ……!クソ、オールマイト並みじゃねぇか……!)
腕骨を砕かれる痛みに耐えながら、懸命に個性を発動する相澤だったが、しかしその忍耐も虚しく、脳無はまたしても一方的な暴力を浴びせる。そこに
ズガガガガァン!!
脳無の体にその肉をえぐり抜かんばかりの大量の手裏剣が浴びせられた。
「……!」
「おい脳無!何やってる!?」
突き刺さった手裏剣達に脳無が身じろいだ隙に、何者かが脳無の顎と思われる部分に強力な突きをかます。まともに喰らった脳無は、まるで宙に浮くかのように頭から後方へと大きく倒れた。突然起こったその一連の動きに、死柄木は思わず脳無に怒鳴る。
「ふぅ……危ない危ない。いや、もう手遅れですかいね?まぁ、
何もいなかった筈の空間から声がする。その声の方向を向くと、そこには、全身のほぼ全てを朱色で固めたような小柄な少年がたっていた。歌舞伎を連想させるような長髪と目元の隈取り、腕に巻かれた鎖、その全てが人目を惹きつける異様な格好だった。
「大丈夫、なわけございやせんね。少々ここでお休みくださいや、相澤センセ」
「ま、庭……」
かの者は真庭猩々。忍ばない忍である。
「おいおいかっけーな学生さん。ズタボロのセンセー助けてドヤ顔か?」
「お宅こそ、さっきまで随分そのデカブツについて語ってらしたじゃあねぇですかい。対平和の象徴…でしたっけ?それがこんなクソガキに出し抜かれてちゃあ世話がねぇ。ドヤにドヤって、恥ずかしくねぇんです?……あぁ、そっかそっか。お顔ん所のお手々はそのためでございやすね。赤くなった顔を隠すわけだ」
「………………やれ、脳無ッ!!」
猩々の茶化しにプッツンきたのか、死柄木は脳無を彼目掛けてけしかける。
「工夫も細工もまるでなしの突貫──出直してこいってんでさノータリン」
気絶した相澤を安全な場所に移し、脳無の攻撃を横に避けることで軽くいなした猩々は、そのまま脳無の腕を掴み、足軽を発動する。
「んぃよいっしょォ!!!」
そしてそのまま背負いあげ、自分の倍はあるやもと言う脳無の巨体を思いっきり投げ飛ばした。
「…………」
「まーるで効いちゃいやせん、か」
ズズゥ、ンという地響きの後、投げ飛ばされた脳無はすぐに起き上がり、頭の砂を払わんとするかのように頭をブンブンと振った後、けろりと立ち上がり、猩々を睨み付けた。
(となると硬化……は感触からして無いとしても、無痛系か衝撃無効化か吸収か、いやさその全部か……奇野から聞き出した情報はどうやらマジらしいですね)
「はは、効くわけ無いだろそんなの!脳無はオールマイトを殺すために作られたんだからな!」
「そういうことなら」
腕の鎖を緩め、脳無の右腕へとぶつける。渦を巻くような軌道を持ったその技は、奇野との戦闘でも用いた忍法・渦刀(新)。しかし今回は先端がゴム玉ではなく、良く研がれた短刀だった。刀によってざっくりと傷つけられた脳無の腕は、思い切り血を吹き出したが、しかしその数秒後には傷口も完全に塞がってしまった。
「自己治癒能力まであると……ふざけてやがりやすね。どんな個性だ」
打撃が駄目なら──と刃物を試した猩々だったが、思惑が外れ舌打ちをする。
(今の様子、あのデカブツは切られたことをまるで気にもとめてやしなかった……てことァ、治癒系に加えて無痛系は間違いなく持ってやすか……先程の感触から精査するに、少なくともオールマイトの攻撃に耐えるための個性があと一つは混ざってる筈……パワー増強も含め四つか……こりゃ手強い)
猩々は額にじんわりと汗を浮かべ、緩めた鎖を締め直す。奇野から聞き出した情報に紛れていたものの一つ、それが真実味を帯びてきたからである。
「仕方ない。殺しちまうかもしれやせんが、再生できないように完全にぶち抜く必要がありやすね」
そう言って猩々は両腕をクロスさせ、身を大きく屈めた。猩々の周りを、異様な空気が包む。肌がチリつくような、熱されたような空気が。
「……何かするつもりだな?させるかよ、発動キャンセルしてやる。脳無、溜めてるうちに潰してやれ」
死柄木の命令で脳無が猩々に迫りかかる。しかし猩々は、それを見越していたといわんばかりに脳無の方を見据え、口から何かを吐き出した。
「っ!?」
「な、ぐわっ!?け、煙玉って奴か!?忍者かよ!?」
脳無の体に当たったそれは砕け、白く立ち込める煙を吹き出した。突然のことに脳無と死柄木は揃って混乱するが、さてその混乱が、忍の前では命取り。
「えぇ、忍者でございやすよ。真庭忍法・断罪円!!」
煙で姿の見えなくなった中から、猩々の攻撃が脳無の体へと見事に直撃する。その威力によって、立ち込めた煙が一瞬で晴れた。そして、そこにあったのは、技を発動し終え、少々疲れた様子で立っている猩々と、
「っ……!」
「な、脳無!?」
右肩から胴体にかけて肉がクレーターのようにえぐり抜かれた脳無の姿だった。
「嘘だろ、オイ!あり得ねぇ、脳無だぞ、対オールマイト用に作られてんだ、んなチビの技でやられるわけがねぇ!」
(……悔しいですが、その通りのようでございやすね)
あまりの事態に困惑する死柄木を尻目において、猩々はうっすらと苦心を顔を浮かべる。それもそのはず。細胞レベルで削り取った筈の脳無の肩の肉が、もう既にボコボコと再生し始めているからだ。
(オールマイトや他のヒーロー達ならいざ知らず……このバケモンを、今の俺が殺さず取っ捕まえんのは無理がありやすね……仕方ねぇ。捕縛は諦めて、息の根を止めておきやしょう。他の皆に危害が加わらんとも限りやせん)
「………ヒーロー、なりたかったんですがねぇ……」
命令者である死柄木が動転しているからか、動かない脳無を諦めの混じった目で睨み付け、再び腕をクロスさせる。こんどは体の左側、心臓の方を完全に抉り抜いて確実に息の根を止める。そう考え、
「真庭忍法・断罪え──」
脳無の方へ、左足を踏み出したその瞬間。踏み出した左足が、底無し沼に踏み入れたかのように沈み込んだ。
「っ────!」
(この感覚、しまった、退避を──)
「させませんよ」
背後から、先程も聞いたことのある低い声が響く。そして思い出してほしい。あの黒いもやのスピードは、猩々の初速よりも速かったということを。
ずぱん、そんな音すらぴたりとも上げず、猩々の膝から下の左足が、呆気なく切り落とされた。
「今です、脳無!」
もう既に傷が完治し、命令を待つだけだった脳無が、黒いもや、黒霧の命令で動き出す。足を失い、バランス感覚も失った猩々に、その拳が、腕が、迫ってくる。
「や、ば──」
瞬の内に放たれた十数発の暴力、それによって猩々は、血飛沫を散らしながら宙へと浮いた。
「申し訳ありません死柄木弔、少々遅れまして」
「く、黒霧……!いや、良くやった、ナイスプレーだ。……で、13号はやったのか?」
「それが……申し訳ありません。行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒が複数名おりまして。一名、逃げられてしまいました」
黒霧の活躍によって猩々を撃破したためか、その当人の発言に死柄木は急激にテンションを下げさせられた。そして首の周りを、そのやや延びた爪でガリガリと掻き始める。
「ハァ………………お前、黒霧お前さぁ……………ワープゲートじゃなかったら粉々にしてるからな、俺」
「面目次第もありません」
「まぁ良いよ。流石にプロにわんさか来られたら敵わないし、今回はゲームオーバーってことにしとこう。……面倒なバグも、お前のお陰で駆除できたし、次の機会に備えよう………………あ」
首を掻くのをやめ、黒霧が作り出したもやのワープゲートを通ろうとした時、死柄木はふと、水難ゾーンの方に、人影が三つあるのを見た。みたところ、雄英の生徒だろう。そして死柄木は、手に隠された口許を笑みの形に歪めた。
「あぁ、ちょっと待ってくれ。折角だし帰る前に、平和の象徴の矜持を潰そうってことで、あと二、三人殺してこう」
そう言って死柄木は、水難ゾーンにいた三人の内の一人、黒髪の少女の頭へと手をかけ──
バチィン!
──ようとしたその時、死柄木の腕に、ビー玉サイズの鉛の塊が命中した。
「ってェ………………なッ!?」
鉛塊によって弾かれた腕を抑えながら、鉛塊の放たれた方を見た死柄木は、驚愕の声を漏らさずにはいられなかった。
「あり得ねぇ……なんでお前、生きてられる!?」
そこにいたのは、懐に隠してあったらしい忍刀を、失った左足の変わりに突き刺し義足として扱うことで立ち上がった猩々だった。
「なんなんだよお前……足をもがれただけじゃない、脳無の攻撃をあれだけ喰らったんだ。間違いなく死んだ筈なんだ!それなのに、なんでお前は生きてるどころか、意識を保てる!?」
あー、うるせぇですね、頭に響くから叫ぶんじゃねぇってんですわ。いやしかし良かった。まさか水難ゾーンから緑谷さんたちが見てらっしゃるとは思いやせんでしたが、なんとか攻撃はされずに済んだ御様子。あの手のヴィランも俺へと意識を向けたようですし、これならあのお三方も逃げられるでしょう。
「あり得ねぇ、あり得ねぇ……!なんで平然としてられる!!ふざけんなよクソチート耐久が!!」
馬鹿ですねぇ、平然としてるわけねぇじゃねぇですか……刀の鍔の方を無理やり脚にブッ刺して固定したせいで今も痛みが止まらねぇし、それ依然にそこのデカブツのせいで身体中骨折だらけなんでさ。ったく………ヒーロー候補生って労災降りるんですかねぇ……
「へへ……体の頑丈さと物覚えの良さだけァ、俺が唯一誇れるとこでございやして」
何とか笑みを作ってみやしたが、あー、いけやせんね。ぎこちなくなっちまいやしたよ。
「……っ!クソが、なんでてめぇらヒーローってのはどこまでも……!さっさと死ねよ!なんで死なねぇ!何でてめぇは、まだ立ってんだよ!」
なんで?さぁ、お宅らには一生わかんねぇことだと思いやすがね。何がどうしたって、人を傷つけることしかせず、しようともしねぇお宅らには。この、俺が今、やるしかねぇって感じて、勝手に体が動いちまうような、この気持ちって奴は。
「っっっクソ、がぁああ!!殺せ!今度こそ確実に息の根を止めろ脳無!」
だから、使わせていただくといたしやしょう。俺の、本当の
「真庭忍法──退化論」
軽率に主人公の足を吹き飛ばすスタイル。大丈夫、他の作者さん達もきっとやってる人はやってる((