まにわにヒーローアカデミア   作:塩谷あれる

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今話は、本作のお気に入り登録者数五百人突破記念番外編です。本編とはそんなに関係の無い話です。加えて、戯言シリーズ、人間シリーズに名前だけ登場するキャラクター、団体の設定に関してやや捏造が入っております。ご注意のほどよろしくお願い致します。


地獄の弔花はトガってる

 これは、真庭忍軍次期頭領、真庭猩々が経験した、最も地獄めいた記憶と、最も血みどろな記憶の物語。

 

────────────

 

 京都府某所──狂犬が所用につき、昼飯は自分で、ということになっていた15の年の春の猩々は、折角だしたまには外食でもしてみよう、と思い至り、近くの大手某ハンバーガーショップを訪れた。その略称が関東西で分かれ派閥が起きる、あのフランチャイズチェーン店である。

 

(激辛メニューや和食も良いですが、ジャンクフードも悪くねぇですね……)

 

 ソースとチーズと野菜の絡み合った、良い意味で雑な味のバーガーに舌鼓を打ちながら、猩々はゆるりとした休日を満喫していた。しかしそこに──

 

「おや、相席よろしいかな?」

 

──一つの声がかかった。成人した男性の声。聞き覚えのある、紳士然としたそれに猩々は、嫌な予感を一つ覚えつつも顔をあげ、そして同時にその顔をしかめた。

 

「………なんでいるんですかい?」

「まぁちょっと所用でね。所で私の話を聞いてたかい?見ての通り店内は満席なんだ。相席、よろしいかな?」

「……どうぞ」

「有り難う。うふふ、相変わらず君は素直で良いね。うちの弟も君くらい普通さと素直さに溢れてくれてりゃ可愛いんだが」

「……弟さんはお元気ですかい?自殺志願(マインドレンデル)──いや、零崎双識さん」

 

 セットのポテトをかじりつつ、テーブル席の向こう側に座った男性の方をもう一度見て、猩々は言った。髪をオールバックに纏め、目には細い銀縁の眼鏡をかけている。上の二つとぴしりとしたスーツ姿から、そこらのサラリーマンを想像させる風貌だが、それを拭い去るかのように、驚くほど高い身長が主張する。彼の知り合い──もとい部下にも真庭蝙蝠という高身長の男がいるが、彼と比べても遜色はないだろう。

 

「うふふ。さぁ、どうだろうね……あの愚弟、何が楽しいのか未だに放浪の旅に出ずっぱりなもんで、未だに足取りがつかめやしない」

「所用ってのァそれで?」

「まぁね。似たようなもんだ。そうだ猩々君、君は知ってるかい?うちの弟の所在」

 

 猩々はドリンクのコーラを飲み、目の前の男──双識は持ってきた大きなハンバーガーを齧りながら、二人は他愛もない世間話に花を咲かす。しかし現在、猩々の保護者である狂犬が府内にすら不在である状況にて、このバーガーショップが京都府における最大戦力の結集地であることは、紛れもない事実だった。

 

「いやぁとんと。俺自身、あんた以外の零崎ってのに会うのは、滅多にありやせんからねぇ。つい最近、うちの群蟻が爆弾魔のオジキと会ったとは聞きやしたが。その人じゃあねぇでしょう?」

「違うねぇ。リルは連絡はつかないけど、所在は掴みやすいんだよ。居る場所がすぐ爆心地になるから。しかしそうか、君たちでも知らないか……いや、良いんだけどね。元々大して期待はしてなかった。また適当に探すとするさ」

 

 話の間にバーガーをペロリと平らげ、二つ目にありついている双識。その見た目に合わず、中々の健啖家らしい。そんな姿を見つつも、自分も頼んだ二つ目のバーガーを平らげる猩々は、そう言えば、と突然話を切り出した。

 

「最近任務で行ったとこに、あんたらの()()()()らしき匂いをした奴を見かけやしたよ」

「ほう、それは興味深いね。この私達の──()()()()のなりかけ?」

 

 猩々の言葉に、双識はすぅ、と目を薄める。

 零崎一賊。それは、殺戮と呪怨が渦巻く『暴力の世界』において、絶対に手を出してはいけない禁忌とさえされる最悪の存在。究極にして絶対の『殺人鬼』の集団である。

 その殺しに理由はなく。その殺しに動機はなく。その殺しに因果はなく。只殺し、唯殺し、只殺し、唯殺す。そんな破綻した、血よりも濃い返り血の脈にて繋がれた一賊(ファミリー)。それこそが零崎一賊であり、目の前の双識はその長兄、『二十番目の地獄』自殺志願(マインドレンデル)なのである。

 

「詳しく聞こうじゃないか猩々君。教えてくれたまえよ猩々君。私達の新しい家族かもしれない、その殺人者の話を」

「えぇ、良いですよ。しかしさて、どこから話したものか……」

 


 

 それは、猩々と双識による会食の、その一週間ほど前の話。任務を滞りなく──ともいかず、そこそこに苦戦した末に終えた猩々は、全身にできた傷を庇いながら、その場を離れようとしていた。

 

「あ゛~ったく、勘弁してくれってんですよ」

 

 傷口から滴る血が、地面に溢れ痕にならないよう、しっかりと押さえながら歩く猩々の顔は、痛みから来る苦悶よりも、強い苛立ちの色を映していた。しかし決して、それは任務である『とある収容所から逃げ出した脱獄犯の確保』に手を焼いていたからでも、その脱獄犯に手こずったからでもない。

 

「天吹の馬鹿共が……徒党組んで茶々を入れに来るんじゃあねェってんですよ……」

 

 暴力の世界を統べる『殺し名』の一つ、第六位、『天吹正規庁』からの刺客の対処を行っていたからだ。徒党を組んで『業務』を執行する彼等と、単騎行動が基本の猩々では相性が悪かったらしく、怪我を負ったというわけである。

 

「ま、今日は三下ばっかで『支部長』クラスがいなかったのが幸いでしたがね……ん?」

 

 ぶつくさと恨み言を言いながら路地裏を歩く猩々だったが、何か異様な音が聴こえることに気がついた。

 

(……何かを啜る音?スター○ックス(タピオカ)があるでもあるまいに、こんな路地裏に啜るもんもねぇでしょうが……)

 

 手傷を負っている以上無駄は禁物。それをわかっていながらも、音の正体に興味をそそられたのか、猩々はその方向へ寄っていくと、蹲った人影が見えた。金色の髪の少女……セーラー服を着ていることから学生だろうか。何をしているのか、と猩々は足を前へ一歩踏み出そうとしたが、しかし、すぐにその思考はある感覚をもって真逆の物へと塗り潰された。

 

(ッ……こりゃあ、また酷く血腥い)

 

 そう、少女の周辺から漂う異様なまでの、異質なまでの血の匂いである。既に乾いた物から真新しい物、臓器の血の物に肺を流れたばかりの物まで、様々な噎せ返るような血液の匂いが所狭しと溢れ出ている。真庭の忍として活動して早数年、血の匂いには慣れに慣れたはずの猩々ですら、思わず数歩後退るほどの猛烈な血と肉の匂いだった。

 そしてその数歩は、踞っていた少女に、猩々の存在を気取らせるには十分すぎるほどの雑音で──

 

「ッッッ!!」

 

 横一閃。音に反応した少女のナイフが猩々の頸動脈を正確に掻き斬ろうと迫る。しかし、猩々は腐っても若くとも真庭忍。向けられたナイフを、膝を大きく落として身を屈め、ギリギリのところで避けた。ひう、と風が舞い、猩々の朱髪がはらりと切り落とされる。

 

(迷わず頸を狙いやすか──!!この娘、場馴れてやがりやすね……ッ!!)

 

 猩々は、身を屈めた状態でまっすぐ後ろへ飛び退き、懐から()()()を三本取り出して少女に向けて投げる。推進力に従って吸い込まれるように真っ直ぐ向かっていくくないを見た少女は、本の数瞬、驚いたように目を見開いたが、その全てが『跳弾しても自分には向かってこないだろう場所』へするりと移動し、そのまま猩々に突貫してくる。

 

「……へ、ェ──ッ!!」

 

 その一連の動きを見た猩々は、思わず感嘆の声を漏らす。先程の数瞬、あの少女の驚きは、間違いなくくないを見たことの無い人間が見せる表情の変化だった。しかし少女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。真庭忍軍でも、それを咄嗟に行えるのは恐らく四人といないだろう。少なくとも猩々にはできない芸当だ。

 

(……体つきから察するにプレイヤー側の人間じゃねェ。ってことァほぼ一般人の筈。感性(センス)と薄い実戦経験(キャリア)だけでこれだけ動けんですかよ!えぇい!金の卵め!!)

 

 少女が操る不規則なナイフの軌道を忍刀で反らしつつ、心の中で悪態をつく猩々。

 

(腕の動脈、首、胸元に脚……この娘、血の出が良い場所ばっか狙ってきやすか!良い腕して──ッ!?)

「──ぐァッ、ッづぁッ!」

 

 少女のナイフにばかり気をとられていた猩々は、突如として脇腹を襲った膝蹴りに対応できず膝を落とす。そして少女もその隙を見逃さず、猩々の頭に目掛けてナイフを振り下ろした。咄嗟に手で防御するも、ナイフは見た目以上に鋭く、防御した方の前腕から夥しい量の血液が溢れ出る。

 

「ぐ──う……ッんならァッ!!」

 

 痛みに蹲りそうになるも、すんでのところで耐え抜き、忍刀を振る猩々。先の天吹との戦いの傷も相まって、もはやその全身は忍装束よりも赤く染まっていた。攻撃をかわして数歩分後ろへ下がった少女は、じぃっと猩々の体を舐めるように見、そしてその口を三日月のように引き裂かせて笑った。

 

「素敵です」

「……はぁ?」

 

 開かれた口から出た言葉に、思わず肩の力が抜け落ちそうになる猩々だったが、体が僅かに動いたことで傷に障り、瞠目しながらも意識を持ち直す。そんな猩々の感情などどこ吹く風と言わんばかりに、少女は顔色を嬉々させて話しかけてくる。

 

「血まみれ!ボロボロ!!カァイイねぇ!素敵、素敵です!カァイイ!!ね!私トガです!君は!?名前教えてよ!」

「……知ってどうすんですかい、そんなこと」

「え?どうもしないのです。でも、素敵な男の子のこと、たくさん知りたいと思うのは普通でしょ?」

「さぁ、どうでしょう?生憎普通が通用しねぇ家庭で育ったもんでわかりやせんね」

「んん、じゃあ仕方ないね…仕方ないのです」

 

 そういうと少女──トガはナイフを再び構え、その笑みを更に猟奇的な、狂気的な物へと変える。それに対応するように、猩々もまた忍刀とくないを構え、臨戦態勢を整えた。

 

「名前知らない人、もっと血まみれだともっと素敵だと思うのです。だからもっと切るね」

「どうぞお好きに。ただし、こっちも()()でいきやすよ」

 

 猩々とトガが同時に駆け出した後の数十秒、ただそれだけの間で四度火花が散った。

 まず一つ目、猩々が投げた四本のくない。先程同様に避けて見せたトガの後ろを通りすぎ、コンクリートの壁へ弾け、小粒の火花を散らす。

 二度目、トガが左手に持っていたナイフ。トガのナイフは、猩々の首元を正確に捉え、頸動脈を掻き斬ろうと迫る。しかしそれを猩々が右手の忍刀で防御。ぶつかり合った刃は細かな火花を散らし、力で勝る猩々の忍刀がトガのナイフを弾き飛ばした。

 三度目。トガの右手のナイフ。首を外したトガは即座に目標を変更。今度は心臓を狙ってナイフを突き刺しにかかる。しかしそれを猩々も読み、トガの左のナイフを弾いた忍刀をそのまま心臓の前に動かし、防御行動をとった。切っ先と刃の腹がぶつかり合い、またも火花が散った。

 

 そして四度目。それは猩々の空いた左手から放たれた、四本の刃、忍法・爪合わせによる爪刃が、トガの右手のナイフを弾いて発されたものだった。

 

「ッ!?」

「(まだまだッ!)真庭拳法──」

 

 ナイフを弾かれ素手になったトガに、猩々の拳がヒットする──否、しようとしたその瞬間、

 

「こっちだ!こっちから男の子の呻き声が!」

「「!!」」

 

 何人かの足音と声が聞こえてきた。足運びのリズムから、ヒーローとして活動している人間だと猩々は判断する。どうやら、先程の猩々の呻き声を聞きつけてやってきたらしい。にしてはやや到着が遅いような気がしなくもないが。

 

(……ちィ、こういう時は面倒ですね)

「………」

 

 舌打ちを一つしながらも、散らしたくないを集めながら撤退の準備を始める猩々。トガはどうしたのかと、ふと先程まで彼女がいた場所を見るが、既にトガはおらず、いつのまにか小ビルの上に避難していた。

 

「名前知らない人、こっち、こっちです」

「なッ……あんたッ!」

「今回は残念ですけど、また会おうね!今度はもっともっと素敵になっててください!!」

 

 そう言い残してトガは、小ビルの上から出した顔を引っ込め、そのまま消えた。

 

「……なんだったんだ、アイツ」

「急げ!」

「酷い臭いだ……!気を付けろ!」

「!……急ぎやすか」

 

 ヒーローが駆けつけてきた音を聞き、猩々はすぐにくないを全て片付けてトガとは逆方向のビルへと飛び移り、痛む体をなんとか持たせながら止血をしつつ撤退した。

 

(……しかし、あの動き……『暴力(あっち)の世界』に行ってちゃんと訓練を積めばかなり大成しそうな感じはしやすね……狂気じみた言動や、あの殺人衝動にも似た感覚……他の戦場で何度か感じたことがある類いのそれでした)

 

 建造物郡の上を飛び移る猩々の脳裏には、ある二人の人物が浮かび上がっていた。片やゆらゆらと揺れ動く闇突の狂戦士。片や地獄めいた戦闘力を誇る変態殺人鬼。どちらも、かつて猩々が戦い、そしてその当時は手痛い大敗を喫した相手だった。

 

(………()()がどう化けるか、少々興味が沸いてきやした。今度双識さんか子荻お姉ちゃんにでも連絡を入れてみるといたしやしょうか)

 

 そんなことを考えながら、猩々は夜のビル郡の上を走り、真庭邸へと急ぐのであった。

 


 

「……と、まぁ、そんな感じですかね」

 

 三つ目のバーガーを平らげ終えながら、猩々はそう言葉を切って双識を見た。ぐい、と紙のカップに入ったコーヒーを飲み干した双識は、ふむ、と言って猩々に向き直る。

 

「まぁ、色々聞きたいことはあるけど、まず最初に聞かせてくれるかい?」

「……何でしょう?」

「子荻ちゃんのことお姉ちゃんって呼んでるの?」

「よりによって最初がそれかよ」

 

 思わずコーラの入った紙カップを握り潰しそうになりながらも、猩々は何とか持ちこたえる。いっけねー、コイツ零崎の変態(こういう奴)だって忘れてた。

 

「いや結構大事なファクターだぜ?あの妹キャラな子荻ちゃんに姉属性とか、こう、そそる物があると言うか……なぁ?」

「あの人を妹キャラで認識してんのはアンタだけでしょう……で、本題はどうです?」

「うん?うん、そうだな……」

 

 双識はナゲット齧って口許についたソースを紙ナプキンで拭いながら言う。

 

「私の私見だと、そのトガって子は零崎としての才能は微妙かな。近いものではあるのかもしれない。でも明確に違う」

「ふむ、てェと?」

「動機さ。その娘が人を殺す理由。それは、話から察するに『カワイイ』とか『素敵』とか、そう言うものなんだろう?」

「えぇ。それじゃあ、零崎としては不足ですかい?……あぁ、いや、そう言うことじゃねぇのか」

「うふふ、なんだ、分かってるじゃあないか。うん。そう言うことだよ」

 

 にやり、と双識は笑い、猩々は一呼吸置いてから、同時に口を開いた。

 

「「零崎の殺しに理由は要らない」」

 

「……でしたね」

「あぁ。だからそのトガ某ちゃんは零崎としちゃあ相応しくない。確かに、その殺人衝動は間違いなく殺人鬼のそれなんだろう。だが零崎のそれではない。一線を飛び越しちゃいないのさ。そしてそれはきっと、飛び越されることはない一線でもある」

 

 双識は紙ナプキンで自分の指の油を拭き取り、すく、と立ち上がった。

 

「面白い話を聞かせてもらったよ。ありがとう」

「いえいえ、付き合ってもらっちまってすいやせんね、双識さん」

「そんなことはないさ。たまには駄弁りも良いもんだ」

 

 そう言って双識は店を出ていった。テーブルを見ると、猩々の食べた分の代金の上に、いつの間に書いたのか一枚のメモ書きが置いてある。

 

『話の代金だ。青春したまえ少年』

(……相変わらずよく分からない人だ)

 

 そんな陳腐な感想を心の中に圧し殺しつつも、猩々は既に冷めて萎びたポテトの山を齧る。ほどよい塩気と腹に貯まる満足感が、猩々に生を実感させた。

 

(殺されなくて良かった……)

 

 はぁ、と大きくため息をつき、双識が出ていった店の出入り口の方を見る。対面するだけで胃も縮みそうな殺意の塊。よくもまあバーガー三つも胃に入ったものだ。

 

(さて、俺もそろそろ帰りやすか)

 

 ごみを纏め、トレイを片付けて店を出る。ふと携帯を見てみると、狂犬からメールで『いまからかえるよ』と着信が入っていた。『了解です』と返信し、猩々は歩き出す。

 鬼に拐われないように、殺されないように。全てを零にされないように。ただ今日を生き延びた幸運を噛み締めながら、一人静かに帰路へとつくのだった。




この話を書いてて、トガちゃんって澄百合の制服に合いそうだなと思った。
というわけでございまして、今番外編では、我等がスーパーシスコン、零崎双識さんと、カァイイ大好き血みどろJK、トガヒミコちゃんに登場いただきました。本編とはそんなに関係のない話です(迫真)
それはそうと、お気に入り登録者数四百人、五百人突破、ありがとうございます!これからもいけるところまでひた走っていきますので、今後とも、よろしくお願い致します!戯言、だけどね。それではっ!
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