まにわにヒーローアカデミア 作:塩谷あれる
「トーナメントか…!毎年テレビで見てた舞台に立つんだぁ…!」
拳を握りしめながら、切島はそう感嘆の声を上げた。雄英高校体育祭、最終種目のトーナメント選考のために集められた一年生達の前に、ミッドナイトがくじ引きの箱を持って現れた。
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ!組が決まったらレクリエーション挟んで開始になります。
早速一位のチームから順にくじを引きに来て頂戴な!」
そう言われて直ぐに、轟からくじを引き始め、トーナメント表の枠が埋まっていく。そして、最後に引いた緑谷の枠が埋まったことで、トーナメント表が決定する。
「オッケー滞りなく決まってったわね!?そういう訳でこうなりました!!」
| 緑谷┓ ┏上鳴 ┣┓ ┏┫ 心操┛┃ ┃┗真庭 ┣┓ ┏┫ 轟┓┃┃ ┃┃┏雨垣 ┣┛┃ ┃┗┫ 瀬呂┛ ┃ ┃ ┗切島 ┣優勝┫ 常闇┓ ┃ ┃ ┏発目 ┣┓┃ ┃┏┫ 耳郎┛┃┃ ┃┃┗飯田 ┣┛ ┗┫ 芦戸┓┃ ┃┏麗日 ┣┛ ┗┫ 八百万┛ ┗爆豪 |
|---|
「心操って確か……」
轟との対決がすぐ近くだということに気づき、その前の自分の対戦相手を見る緑谷。
(確か真庭君とチームを組んでいた人だったような……)
「あんただよな?緑谷出久って」
そこに、当の本人である心操が話しかけてくる。そこで緑谷は、心操が真庭と騎馬戦で組んでいた相手であると同時に、USJの一件の後、A組のメンバーに宣戦布告をした男だったことに気づいた。
「よr…おぁっふ!?」
「祭に盤外戦術たァ感心しやせんねぇ、心操さん」
かけられた声に応えようとした緑谷だったが、その後ろから猩々が現れ、その直後よろけた。どうやら猩々は緑谷の肩に手をやろうとしたらしいが、身長が足りなかったために肘で脇腹を小突いたらしい。
「ま、真庭くん」
「……肩入れも大概だと思うがどうだ?真庭」
「仰る通りで。ですからこれ以上は致しやせん」
「……そうかい」
少し真庭と会話を交わした後、心操は真庭と緑谷がいる脇を通り過ぎてゲートの方へ向かっていった。
「え、えっと……」
「失敬。ですが緑谷さん。少々不注意が過ぎるかと」
心操が向かっていった方から緑谷に向き直った猩々は、やや困ったような顔を浮かべて緑谷に軽く頭を下げた。
「ね、ねえ真庭くん。もしかして今心操くんは――」
「俺からお答えできることァありやせんよ。妨害茶々入れ盤外戦術――相手の足引っ張るような真似は祭りにゃご法度……さっきのはあくまで、それを防いだに過ぎやせん」
リタイア者ならともかく、参戦者の情報のリークもまた、立派な妨害行為でさぁ。続けて放たれた猩々の言葉に緑谷は何も言えなくなる。それを見た猩々はくく、とまた困ったように笑って言った。
「まぁ緑谷さんなら、今までの情報を鑑みて、心操さんの個性にあたりをつけるのはできるでしょうよ」
「う、うん……頑張ってみる」
「えぇ、どうぞ頑張って下さい。初戦に力を割きすぎて、余力を無くさないようお気をつけを」
そう言って猩々は、心操とは反対方向、レクリエーション参加者の集まる方へと向かっていく。どうやら参加するつもりのようだ。それも何やら足取りにウキウキ感が垣間見える。
(あれは絶対全力で楽しむつもりだ……)
緑谷は、余力だなんだと言った当の本人が、レクリエーションを楽しみすぎて試合前に余力を使い切らすんじゃなかろうか、と心配になりもしたが、パン、パン、と頬を2度叩いて気持ちを切り替えて、心操の対策へと向かうことにするのだった。
『オーケー沸いたな生徒来賓のリスナーズ!!レクリエーションはとりまここまで!!ちっと休んで本戦開始だ!!参加者、特に第一回戦の二人は準備の方お願いするぜ!!本戦はこのあと14時からスタートだ!お茶の間の皆はチャンネルそのままでよろしくゥー!!』
レクリエーションの終了と共に、マイク先生のアナウンスが響き渡りやした。いやー楽しかった楽しかった。本線前の準備運動にはもってこいでやしたねぇ。
さて、第一回戦、最初は緑谷さんと心操さんの戦い。緑谷さんが、持っている情報から心操さんの『個性』の答えを導き出せているかが鍵となりやす。逆に心操さんは如何に緑谷さんに『洗脳』をヒットさせるかどうか、加え、如何に緑谷さんの個性を『下手に使わせるか』も大事になってきやす。緑谷さんは明らかに個性による強化に体がついていけとりやせん。ですので、より多く無駄撃ちさせてダメージを与え、体力を消耗させる。これが心操さんが緑谷さんに勝つためには必要になってきやすね。似たような体格でも、体作りで心操さんは一枚劣りやすし。
まぁ元も子もない話、『個性』がハマれば一発退場で楽勝勝ちができるわけなんですがねぇ……。いやー、カタギじゃなけりゃスカウトしたい位の良い個性でさぁ。本人の素質も悪いもんじゃなさそうですし、よっぽど
「さて、どうなることやら……」
超パワー型個性VS超搦め手型個性の対決……いよいよ開始でございやす。それでは皆様、お見逃しございませんように。
『
色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!
頼れるのは己のみ!ヒーローでなくとも、そんな場面ばっかりだ!!わかるよな!?
心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!
ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは
だがまぁもちろん命に関わるようなのはクソだぜ!!アウト!
ヒーローは
そんじゃ早速始めよか!!
レディイイイイイイイイイイイ…ッ
START!!』
『……捕まえるために拳を振るうのだ!!』
「……「まいった」、か」
ポーズやタップじゃなかったのは面倒だな。だが、俺の個性は決まれば必殺……問題はない。
「わかるかい緑谷出久。これは、心の強さを問われる戦いだ」
俺はなりふりかまってなんか居られない。最初から『持ってる』お前らよりも、ずっと。だから――
「
信念もなく、楽しむだけ――そんな『猿』同然の奴なんて、ヒーローになる資格もない。そうは思わないか?」
――悪いな真庭。お前を利用させてもらうぜ。
「なんてこと言うんだ!!」
思わず声が、体が動いていた。あんなにもボロボロになって、僕達を、皆を守るために一度は脚まで失った真庭君に、ヒーローになる資格がないなんて、そんなことあるわけがない!
そう考えた僕は忘れていた。真庭君に諌められて、クラスの、心操君の個性を受けた皆から聞いて考えた、心操君の『個性』の特徴を。
頭に登った血が、僕の口に言葉を発させた瞬間、動かそうとしていた体は、まるで凍りついたように動かなくなった。
『オイオイどうした!大事な初戦だ盛り上げてくれよ!?緑谷開始早々――完全停止ィ!?』
「ありゃあ…これ上手くノせられたやしたねぇ……」
これは心操さんお見事ですわ…俺がダシにされたのは驚きやしたが。まあ、緑谷さんに『刺さり』そうな案件が、心操さん視点じゃあ元より少ないわけですし、俺になるのも已む無しですか。
まぁやるならせめて謝るなよとも言いたいですが。どうせなら悪びれるな。利用されんのが悪い位の覚悟でいきゃ宜しいのに。あの人良い人ですねぇ。ちゃんとヒーロー向いてやすよ。
「……ねぇ真庭、緑谷さ」
「えぇ、
「やっぱか……でも心操、何をキーにしたんだろ?」
「さぁ、何でしょうね?」
下手すると心操さんの個性がバレるんで黙秘黙秘。学生なんだからフェアプレー大事です。
いやしかし、やはり心操さんの個性は恐ろしい。ここからじゃあ、『心操さんが何かをした』ということは分かっても、『心操さんの個性のキーが応答である』ということまではわかりやせんからねぇ。勿論気づく方は気づくでしょうが、この距離じゃあ判断材料が少なすぎる。よって、次戦うかもしれねぇ俺達にも、その個性の詳しい『タネ』は割れない。タチが悪いったらありゃしやねぇ。
「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
『ああ―――!!緑谷!ジュージュン!!』
緑谷さんが、心操さんの指令に従い、フィールドの外に出ようとしやす。さぁ、どうもできない緑谷さんは一体どうしやす?
「お前
───振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
心操が向けた『指令』を受けた緑谷が、まるで人形師に操られるマリオネットのように従順に、真後ろを向いて動き出す。
(ダメだ!!体が勝手に……!頭にモヤがかかったみたいだ……!畜生……!止まれ、止まれって!!)
緑谷は、必死に自分の体に、言い聞かせるように感情を揺さぶるが、悲しいかな。体は一切言うことを聞く事はない。
(皆託してくれたのに!!こんな……こんな所で!!)
一歩ずつ、緑谷の足が、場外線に近づいていく。思うも悲しく、抵抗も虚しく、あと一歩前に出るだけで、緑谷の体が白線を超え、敗北が決まる。その、寸前のときだった。
ザザ……
ザザ……
ザザ……
(―――!?)
緑谷の目の前に、煙のように黒い闇と、いくつかの人の影が現れた。その数は、数えれば八つ。中には、どこかで見た覚えのあるものさえある。
(―――あ)
オールマイト。それは奇しくも、緑谷が知る、怪我によって衰えたトゥルーフォームのオールマイトではなく、かつて、そして今も尚緑谷が憧れる、ゴールドエイジ、全盛期の頃のオールマイトの姿だった。
八つの人影、八対の瞳。そしてその一つから放たれた言葉を、緑谷の耳が幻聴した瞬間――
(なんっっっっっっっっだ―――これ!!!)
緑谷の体に、未だかつて受けたことのない衝撃が走る。
(――動い)
そしてその衝撃は、緑谷の体を、彼の意に沿って僅かながらに動かした。駆け巡る『
『―――これはァ……ッ!!緑谷留まったァアーッ!?』
「何で…体の自由は聞かない筈だ、何したんだ!」
体を動かす権利は、
「──チッ」
仕方ない。仕切り直しだ。どうにかして口を開かせるしかない。
「なんとか言えよ」
俺の言葉に対して緑谷は答えることなく、赤く腫れた指を抑えながら身構えた。やっぱりネタは割れたか。──いや、真庭の『肩入れ』があったんだ。自分である程度推察は立ててた筈。それがアイツの中で確信に変わっただけだろう。
それでも、それでもどうにか。
「〜〜〜ッ!指動かしただけでそんな威力か、羨ましいよ!」
緑谷は答えない。
「俺はこんな個性のせいでスタートから遅れちまったよ」
緑谷は答えない。
「恵まれた人間には、わかんないだろ…!?」
緑谷は答えない。
「誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」
緑谷は、答えない。
そしてとうとう、俺は接近されて肩を掴まれた。
「……ッなんか言えよ!!」
緑谷は、やはり答えなかった。掴んだ肩に力を込め、少しずつ前進してくる。クソ、コイツ……!
「押し出す気か?フザけたことを……!」
咄嗟に腕を振り払って横に避ける。力じゃ負けてても、コイツだって怪我人だ。無理にでも押し出せば…!
「お前が出ろよ!」
俺の服を掴もうとする緑谷の顔面を手で押し返し、白線の方へ押し出す。コイツの左腕は、指を怪我してる以上無理に動かせない。力は半減してるはずだ。このまま押し切ってやる…!
そう思った直後──怪我をしているはずの、緑谷の左腕が伸びて、俺の腕を掴んだ。
「んぁあ……っあああああ!!」
響く雄叫び。それが耳に届いたその瞬間、気づけば俺は投げ飛ばされ、両足は白線を跨いでいた。
「心操くん場外!!緑谷くん、二回戦進出!!」
クソ、まだ、まだ俺は…俺は……!
いやー、心操さん負けちまいやしたねぇ……良いトコまで行ってたと思ったんですが。緑谷さんから洗脳されてる気配が消えた直後、そっからは速攻でした。
あっと、どうも皆さん。真庭猩々でございやす。今俺は、次の試合まで空き時間もありやすもんで、トイレがてら飲み物の補給をと思い至り、校内をちょいとぶらついている所です。しかし、それにしても……
「『アレ』は一体何だったんですかねぇ……」
その緑谷さんによる洗脳解除。これが思わず口に出ちまうくらいには不可解。てっきり緑谷さんの個性は単純な強化型だとばかり思ってやしたが、どうやらちょいと違うようです。
「黒い靄、八つの人の影、んでもって『屈するな』と来やしたか……」
んー……ちょいと興味が湧いてきやしたねぇ。俺みたいに個性を偽装してるタイプであることはほぼ確定だとして、人の個性の効果を、術中でも弾き飛ばせるような個性ってのぁ聞いたことがねぇ。あの
「調べてみやすかねぇ、緑谷さん周りについて」
そもそもの話、なーんでオールマイトがあそこにいたのかも気になりやすからねぇ。また窓口のバカに頼むのも癪ですし、海牛あたりにでも頼んでみることにしやしょうか。あの子なら問題行為はせんでしょうから。
と、そんなことを考えつつ自販機の前に辿り着いたその時でした。
「あ」
「……真庭か」
心操さんに会っちまいやした。う〜わ、これ、かな〜り気まずいのでは……?
トーナメント決めがくじ引きなら参加者によって戦相手が変化しないのはおかしいな、と思ったので、ちょいちょいいじりました。話の流れ上あまり変えられない組み合わせは変えてませんが、ご了承ください。