まにわにヒーローアカデミア 作:塩谷あれる
冬の寒さも段々と緩んできて、ほんの少し生きやすくなった今日この頃、受験シーズンともあって数多くの中学生達が一人、また一人と、立派な校門を通って、その場所へと入っていく。校門に刻印されたその場所の名は、雄英高校。市立国公立問わず、現代日本において最難関の公立高校と呼べる学び舎である。その巨大な校舎は受験生達に立ち塞がる壁のように、天高くそびえたっていた。
───っと、あー、駄目ですね、格好つけてモノローグかましてみやしたが、どうにも小っ恥ずかしくていけねぇや。あ、こいつぁどうもこんにちは。真庭猩々でございやす。好きなものは白玉あんみつ、どうぞよろしく。っといやいや、んなことぁどうでも良うござんすね。さっさと校内入りやしょう。
ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』による実技試験説明を終え、生徒が移動してきた受験会場C。何やらやたらと目を惹く見た目をした者がいるらしく、何やら微かにざわめきがたっている。褐色の目立たない(?)忍装束のようなものを纏ってこそいるが、何故か袖から先が切り落とされ、代わりに鉄製の鎖が巻き付けられている。帷子のようなものらしく、良く見れば腕だけでなく全身に巻き付けているようだ。
(……やーっぱ、
お察しの通り猩々だった。他の者が、冬場であることも考えて上下整ったジャージを着用しているのに対し、猩々は、下はともかく上は季節ガン無視の袖無し忍装束、しかも腕周りには鎖。どう考えても頭のおかしい奴である。
(て言うかそもそも、ご先祖さん方は何を思ってこんなデザインにしたんですかねぇ?鎖、鎖って……じゃらじゃら音が鳴っちまうし、
概ねその通りではあるのだが、当時の真庭忍軍の名誉のために言わせて頂くと、彼らはこれで忍べているのである。鎖があろうとなかろうと、いかなる状況でも隠密活動、暗殺活動を可能としてきたのが真庭忍軍の忍なのだから。……まぁ最も、その忍としては些かよろしくない破綻した思考回路ゆえに、忍ぶ気が全くと言っていいほど存在しない連中も、まぁいないことはないのだが。末代の喰鮫とか初代白鷺とか。
(「猩々ちゃんの忍術を邪魔しない作りになってるから、安心して暴れて良いからね!」って…暴れるも何も、って感じですがねぇ…狂犬さんはヒーローってもんをなんだと思ってんだか)
はぁ、とため息をひとつ吐きつつも、軽いストレッチで体を解す猩々(その間、鎖は割と鳴りっぱなしだった)。ある程度体が暖まり、試験会場にいる何人かが、カウントダウン遅いな、とか、まだ始まらないのか、などと思い始めた、丁度その後。
『はい、スタートォ!』
プレゼント・マイクのやたらと響く音が、六つの試験会場に設置されたメガホンを通して届く。一瞬の沈黙。そして何かを察した者が数名現れ始めたのか、少しずつざわめき立つ会場。そこにとどめと言わんばかりに一つ、たん、と軽く大地を叩く音が聞こえる。
「……あれ?今、
案の定猩々だった。それを見た者達が我先にと動き出し、死に物狂いで走り始めた。焦りと驚きの騒音の中、今年も雄英高校入学実技試験が、幕を開けたのである。
『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!』
「ふぉっ、危な!容赦無しですかよ!?」
あ、こいつぁどうもこんにちは!先程もお会いしやしたね!真庭猩々と申しやす。好きな清涼飲料はフ○ンタみたいなフルーツ系って話してる場合じゃねぇ!?
「っっとと、真庭忍法、足軽っ!」
向かってきた仮想ヴィラン二体、えーと、こいつぁどっちも1Pですね。の片方の腕を掴んで忍法・足軽を発動させやす。そんでもって、柔術の要領でクルーっと一本背負い投げ。もう片方の上にぶつける直前で重さを戻して自重で破壊させやした。っとまぁ、こんな感じの戦法で、俺はポイントを稼いでるわけでございやす。意外とはまるもんで、中々に稼げてるのではないかと。
あ、真庭忍法・足軽ってのは、真庭忍軍なら誰もが覚えておきたい必修忍法の一つなんだそうです。自分や他の物の重さを消す、っていうなんとも珍妙不思議な技術でございやす。俺も狂犬さんに仕込まれやして、ある程度は使いこなせるって訳です。
「えーと、今ので1Pが25そこら、2Pは、あー、15くらいですかね」
となると今んところは50P位ですか。いくら重さを消してるとはいっても、そろそろ疲れてきやしたよ、えぇ。
「50もありゃあ目下合格には支障無しってとこですかね。いや、あと10P分くらいは取っときやすか」
そう思って別エリアへと方向転換しようとした、その時でした。
THOOOOOOOM!!!!
「は……?」
いよいよ現れやがったわけです。アレが。
八階建てビルと同程度の背丈をもった鉄の塊、それが雄英側が受験生達に用意したお邪魔虫、0Pヴィランだった。片手で他の建物を粉砕し、小さな、と言っても街一つという敷地を真上から見た上での小さな、というだけで、実際は家一つ分程のおおきさの更地を作り、前へ前へと進軍していく。その自分達の想像を遥かに超越した圧倒的脅威に、受験生達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「うわ、っととぉ!容赦ねぇとは思っていやしたが、これは流石に想定外過ぎって瓦礫危なァい!」
それは、じゃらじゃらと全身の鎖を鳴らしながら、瓦礫を避ける猩々も例外ではなかった。
(あれに真っ向から挑むとか、流石に俺ぁそこまで馬鹿じゃあねぇってんです!ポイント稼いで、より確実に合格しとかにゃ、狂犬さんになんて言われるかわかったもんじゃねぇ!)
猩々は忍法・足軽をフル活用して一目散に逃げる。しかし、その耳に、ほんの微かに届いてしまった。その目の端に、一瞬だけ映ってしまった。
「助けて……」
「──っ!」
気づけば足は、その声へと向かっていた。
「っっ大丈夫ですか!?」
足軽を使って瓦礫を退かし、巻き添えになっていた受験生を助け出す。
「ありがとう…!」
「お礼は後でってことにしてくださいや。俺ぁ、片付けにゃならん用事がございやす」
そう言って猩々は、受験生を安全な場所に動かしたあと、一目散に0Pヴィランの方へと走り出す。
(いやー、俺も焼きが回りやしたねぇ。リターン考えりゃ、ここまでする必要なんざねぇってのに)
それでも彼の体は動いていた。動いたのなら仕方ない。当然の如くそう断じ、猩々は足軽を使い思いっきり宙へ跳ぶ。冬も後半差し掛かりの空、風は少し寒かった。0Pヴィランの巨体すらも軽々飛び越え、そこで猩々は落下体勢を取り、その上で大見得を切る。
「さぁてさてさてぇ!?今日は見事な受験日和、折角の晴れ舞台でぇございやす!一丁一つ、大技お見せいたしやしょうかぁ!」
宙に跳び、重さが消えても空に留まれるわけではない。ゆっくりと自由落下しながら、猩々は両腕をクロスさせるように構えを取った。これこそは、正しく必殺の一撃。近距離においては絶大な威力を誇る、かつての真庭忍軍、その実質的な指揮官が用いた技。
「真庭忍法──」
0Pヴィランと猩々の距離が5m付近まで差し掛かる。4m、3m、2m、そこで猩々は、鳥が羽を拡げるように、ゆるり、と腕を解き放った。
「断、罪、円!!」
その瞬間、強く太陽の光が差し込む。受験生達は目を眩ませ、思わず顔を伏せてしまう。顔をあげたその直後、たん、という軽い音がした。音の方を見てみればそこには
「っふう、流石に鋼鉄ですね。全身痛いったらねぇや」
何とも無げに、けろっと着地を済ませた猩々と──
「ん……?う、うわ、おい、あれっ」
「な、へ、えぇ!?」
「嘘…!?」
──何とも簡素に、一太刀に斬り伏せられたとも、拳打で打ち砕かれたとも、弾丸か何かで撃ち抜かれたとも分からないような、もうとにかく音もなく破壊された0Pヴィランの亡骸だけがあった。周囲の受験生達が呆然とする中、
『終~~~~~~了~~~~~~~!!!!』
全てを終わらせる号令が鳴り、今年の雄英高校実技試験は、幕を閉じたのであった。
なんか最後なろう系みたいになった……