東方刻銘録~鬼が出るか蛇が出るか~    作:ライラ

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ぬおお、9月中に2度更新してやるとか言っておきながら一月以上空いてしまって申し訳ないです。
これ以上間隔開けるとマズイのでちょっと強引に一話分仕上げました。
時系列は前話ラストと同じくらいです。



今どきの神様と天狗と巫女

 その部屋には静謐な空気が満ちていた。

 長い樹齢を経た木材を使用した建築だから、というだけでは説明できない何か。

 たといその大半が失われようとも幾星霜と蓄積された信仰によって魔を跳ね除けた聖域。

 その内で、幼い少女の苦悶の声が響く。

 

「……っ、はっ……あっ……ぐ」

 

 ぼう、と灯された蝋燭の灯が揺らぐたびに幼い少女の火照った肢体の影も揺れる。

 滲む汗を拭くために用意した手拭いに手を伸ばす余裕すらないほど、少女は衰弱していた。

 ここは妖怪の山の中腹にある守矢神社。その本殿の奥の間である。

 寺であろうが、神社であろうが、その本堂、本殿に在るモノとはすなわち信仰の対象。

 祀られる者、鎮められる者、畏れ敬われる者のみが存在することを許された空間。

 その証明として少女――洩矢諏訪子は神であり、この神社に複数住まう祭神の一柱である。

 しかし、今宵この少女に神域の存在としての超然とした余裕など欠片もありはしなかった。

 

「っづ!……ぅ……」

「おいおい、大丈夫か」

 

 今にも苦痛に折れそうになる。そんな諏訪子の体を支える人影があった。

 幼女と言っても差し支えのない諏訪子とは対照的に成熟した女性としての体躯を備えたその女性――八坂神奈子――もまた、この神社で祀られる一柱。

 神奈子は珍しいものでも見た、とばかりに眉を顰め、口を開く。

 

「ミシャグジを統括するのはお前の役目だろう、何をいまさら生娘でもあるまいにそこまで苦しむ」

「……っはは、(かなこ)に勝てないように土着神(わたし)を蛙の身に押し込んだ口がよく言うよ。……それが(ミシャグジ)に勝てないのは道理だろう?」

 

 渇いた笑みと共に憎まれ口を叩く諏訪子。

 それを言われると辛い、と神奈子も苦笑する。

 

「ふんっ、悪びれる素振りをしても無駄だよ」

「ばれたか。まあそれだけ元気があるなら心配の必要はなかったな」

 

 言葉に険こそあるものの、互いに本気で相手を憎み、疎んでいるというわけではないのは彼女たちの間で成立している特殊な共生関係故だろう。

 表で信仰を集める(かなこ)と、裏で信仰を集める(すわこ)

 何千年と前に起きた諏訪の侵略戦争に端を発する二柱の関係は他者が介在するにはあまりにも複雑で怪奇なのであった。

 

「だが諏訪で何千年と土着神の頂点を務めていたお前が今更その土着神に苦しめられるというのはなんとも……間の抜けた話じゃないか」

 

 ぐしぐし、と手拭いで諏訪子の汗を拭いながら神奈子は呟く。

 ミジャグジ、というのはかつて諏訪で信仰されていた祟り神。この二柱の奇妙な関係が生まれる原因であるともいえる。

 蛇の姿をした祟り神である、と伝えられてこそはいるがその本姿を知っているのは……今となっては諏訪子と神奈子のみ。

 

「いてっ……乙女の珠の肌をそんなに雑に拭くなって。ったく神奈子は雑なんだから……

 ちゃんと奉られて拝跪されてる間は祟り神なんてものは大人しいもんさ、厄を遠ざけて福をもたらすんだから信仰も離れにくいし」

「お前が乙女なら私なんて赤子だろうに……。

 それがここ【数週間】の間にお前でも抑えきれないほど暴れだすのが理解できないんだよ。人里の宗教戦争がまた勃発したなんて話も聞かんしな」

「多分、だけど……ミシャグジさまの縄張りを侵した奴がいるんだよ。よほど神格の高い土着神か何かが流れ着いて信仰を横取りされたと勘違いしてるんじゃないかな」

「ふうむ、そんなのがここいらをうろついてるのは見てないんだがな。居るのはせいぜい厄神か落ちぶれた豊穣神くらいだぞ」

「妖怪の山を神体にしてるくせにほんとそういうとこ鈍いよね。軍神としてどうなのさ」

「私だけでこの山全体をカバーなんぞできるわけないだろう、もともとこの山はイワナガ姫の神体なんだ。間借りしてる身に無茶を言うな」

「そんなんだから新参者にも天狗にも舐められるんじゃない?」

「はっはっは、面白いことを言うな日頃から勤めもせずにふらついてる幼婆は!」

「なにぃ!、なんならミシャグジさまの封印解いてもいいんだよこっちは!」

 

 甲斐甲斐しい看護の図が、いつの間にか火花散る第二次諏訪大戦の火蓋が落ちる寸前までいく……というのは実はここ守矢神社では似たような事がよくあることなのだが、これが互いに地形の造成を司る古い神格であるものだから手が付けられない。

 今宵は二柱の力の均衡が著しく崩れていたのは幸か不幸か――口火を切るよりも早く、へにゃりと見た目相応の幼女のように諏訪子が崩れ落ちる。

 立っていることすら辛いのか、と神奈子が差し出した手拭いを奪い取るくらいの余力はあるようだが、それでもやはり神としての覇気というものは顕著に彼女から欠けていた。

 肉を持たぬ不可視の祟り神を押さえつける、という苦行はそれだけの負担を彼女に強いているのだ。

 

「……本当に、ミシャグジの手綱を離したほうが楽なのかもしれんな」

「にゃはは、冗談はよしてよ……厄災しか撒き散らさなくなったらそれはもう神じゃなくて妖怪だ、荒神ですらない。

 それに、これでもあの蛇神とは長い付き合いでね――今更縁を切るというのも忍びない……よ」

「冗談だ、あれもお前の一神格だろう。切り離してしまえばもはや今までのようではいられない」

「うん……まあ、それもアリっちゃアリだけど。早苗が独り立ちするまでは今のままの姿で居たい、からねえ」

「ああ」

 

 熱病に侵される病人のように、ぽつりと愛し子の名を呟く。

 あれはまだまだ神としては未熟だから

 私たちが見守っていなければ、と

 いつも衝突してばかりの二柱だが、この一点においてのみは互いに意見が合致するのだ。

 ――縁を結ぶ。

 八百万の神に等しく課されるこの命をその少女の存在そのものが果たしているとは知らずに。

 

 そういえば、と何かを思い出したように諏訪子は頭を上げる。

 

「ところで、肝心の早苗は何処に行ったのさ?」

「早苗なら天狗どもの験比べに顔を出してるはずだよ。

 奴らから招待が来たときは何事かと思ったが、つまらん示威行為に付き合ってやる義理はないと私が言ったら『代わりに自分が観に行く』だとさ。

 まああれも聡い子だ。神として天狗達との付き合い方を学ぶいい機会だろう」

「へぇ、意外だね。神奈子ってああいう御前試合みたいなの大好きなんじゃなかったっけ? 相撲の中継とかよく観てたでしょ」

「いや、あれは開祖としての使命感というか。好き嫌い以前の問題なんだがな……」

 

 今日に至る相撲の原型が若き日の彼女とさる神との戦いに起因するというのは有名な話だが、諏訪子がこの話を振っても頑なに口にするのを拒むあたりやはりいい思い出だけではないのだろう。

 郷愁に駆られるように己の背負う注連縄をさすっていた神奈子も、見られていたことに気づくと肩をすくめて――

 

「それに、私が愛しているのは益荒男達があげる鬨の声と劇剣の演武なんだ。

 長いこと侍達と命のやり取りしてきた鬼どもの喧嘩や、河童同士の相撲ならともかく、御山に籠った陰湿な坊主共と小競り合いばかりしてた天狗なんぞの試合なんてのはどうしたって陰湿になる。見どころがあるのは垢抜けない白狼達の剣闘くらいだろうさ。あとは部外者が見たって面白いもんじゃあない」

「あー……あんたも色々と大変だねえ」

 

 対外的な交渉に関しては全て神奈子に任せきりにしている諏訪子ではあったが、言葉の節々に棘があるあたり相当鬱憤が溜まっているであろうことくらいは感じ取れる。

 今でこそ策略と権謀を意味する蛇を司ってこそいるが八坂神奈子の本質は軍神。

 彼女が得意とするのは戦場での駆け引きや人心掌握であって、天狗達のように腹の内を見せない外交とでは決定的に馬が合わない、ということか。

 不満を吐き出すように口を開くその態度が如実に全てを物語っていた。

 

「山への侵入者があって以来あいつらがゴタゴタしてるのは知ってたが、おおかた今回の験比べも原因究明か、責任追及への布石だろう

 内側に手引きをした者がいると疑心暗鬼になっているのか、体の良い贄を求めているのかは知らんがそんなことに神聖な儀式を扱われるんじゃ神としては憤らない道理はない」

「神事なんてのはいつの時代だってそんなもんでしょーに。神も妖怪も人間も、基本原理は自分のため、ってね」

「本音はともかく建前はそうはいかんよ、というわけで悪いが早苗には神事という名の社会科見学に出てもらっているよ」

「こういう時くらいは私が出ていきたいんだけど……出歩くのは例のダム完成まで待たなきゃいけなさそう、だね」

 

 体を起こしているのも気怠いのか、横になった諏訪子はぽつりとそう呟く。

 

「まいったな、気付かれてたか」

 

 多少大仰に肩をすくめる神奈子に病床の神は弱々しく微笑んだ。

 

「そりゃあ、治水で最大の効果を発揮したいなら田に水を張る前に完成させなきゃならないのにこんな時期に突然再着工なんてすればそれくらい勘ぐるよ。

 おおかた……ミシャグジさまに起因しない信仰を集めて私の力を強めればこの症状もなんとかなると踏んだんでしょ?」

 

 ようは均衡の問題だ。複数の神格を持つせいでその均衡が崩れて弱るというのなら、強引に天秤の傾きを是正すればいい。

 それが可能なのが神という存在で、そんなだからこそ外の世界で多くの神は信仰を失うにつれて弱体化し、消滅したり妖怪に堕ちたりしたのだから。

 最古の土着神ともなればその程度はお見通しらしい。

 

「勘違いするなよ、これは早苗のためだからね」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「……人里で人気の水羊羹が蔵で冷やしてあるんだが、要らないみたいだね」

「待って! ごめんなさい、私が調子に乗ってた! 後生だからそれだけは止めて!」

 

 ――この二柱の力関係がなんだかんだで上手く釣り合っているのもきっと偶然ではないのかもしれない。

 

 

 

 ○○○○

 

 

 膂力を比べ、知を比べ、妖力を比べ、走力を比べ、法術を比べ、在り方を比べる。

 実力主義、と言えば聞こえはいいが所詮は閉鎖された天狗の世。天狗という枠組みの中で細分化された種族の差も、長い歴史の中で蓄積された妖力も覆すことはそう容易なことではない。故に、彼らにとって験比べという競技が形骸化するのは必然とも言えよう。

 誰が圧倒的な強者で、誰がそれに付き従うべきか【競う】のではなく【再確認】する。それを以て管理体制を維持する。験力を競うはずの験比べは天狗達にとっていつしかそのような儀礼と化していた。

 立身出世の機会だ、と息巻く若い者たちを除けば聡い者たちは皆一様にこの茶番劇に『それ以外の価値』を見出すか、適当に折り合いを付けるのが常であり、今宵この月の下で繰り広げられる闘舞も例外ではなかった。

 

 妖怪の山の中腹に設営された観覧席。天狗の法術によって遠隔地の光景を天幕に映し出してこそいたが、それを熱心に眺めているものがどれほどいただろうか。

 ここは異なる派閥同士の牽制の場であり、利害を共有する者同士の密談の場であり。

 つまるところ、お得意の腹芸を披露するのに天狗が一同に会するのがこの集い。

 そんな中、一人の烏天狗の少女が隅の方で所在なさげに縮こまっているのは……ひどく目立った。

 

「うぅぅ……早く帰りたいわ……」

 

 少女――姫海棠はたて――が陰鬱な溜息を吐き出すのも無理はない。

 元々それほど策謀だの打算だのというのは性に合わない。出来ないという訳ではないが、それよりは家に籠って本を読むとか新聞の記事を書くことの方にこそ満足を覚える彼女にとって、腹に一物どころではない天狗達の会合など胃に無用な負担をかけるばかりで一利ももたらさないのだ。

 どこの派閥の誰に肩入れをした記事を書くか、それだけで天狗社会における位置づけや関係性にも影響してくるというのだから性質が悪い。

 

「こんなことなら文みたいにドタキャンしとけばよかった。あぁ、でも後でどやされると面倒くさいしなあ」

 

 かといって生来気が小さい彼女に上からの通達を断る度胸が備わっている筈もなく。

 何十年ぶりだかに天狗の正装である山伏の衣装を桐箪笥の奥から引っ張り出してくる羽目になったのだった。

 (う、若干カビ臭い……)

 結果、湿気た匂いに眉を顰めることになるわけだが、それが背後から近づく闖入者の存在に気付く妨げとなった。

 

「こんばんわ、お隣よろしいですか?」

「えっひゃぁぁう!?」 

 

 鈴を転がすような若い女の声。

 完全に意識の埒外からの接触に素っ頓狂な声を上げるはたて。

 

「あ、あの? 何か問題があったんでしょうか?」

「え、ああ、ええと。な、なんでもない、です……っていうか、なんでここに巫女が?そもそも何で私に?」

 

 周囲の天狗からの露骨に怪訝そうな視線により一層身を縮こまらせながら天狗の少女は疑問符を浮かべた。

 そう、巫女という単語は妖魔の集うこの場にはいささか似つかわしくない。特に、幻想郷における一般名詞としての巫女の意味を斟酌するのなら途端にそれは不穏な語意を帯びる。

 しかしその場に現れたのは好戦的として知られる紅白の巫女ではなく、天狗達と協定関係にある守矢神社の現人神。風祝の巫女――東風谷早苗。

 

「いやあ、実は八坂様の代理としてお招き頂いたのは良いのですが、ちょっと特設の観覧席の居心地があまりよくなくてですね……」

 

 そも八坂神奈子に献上するための妖怪の酒は自分には強すぎた、と苦笑しながら早苗は語る。

 暗に大天狗や天魔に大和の軍神の代わりに訪れたのが四半世紀生きてない半神だったからいびられた、とも取れる文脈だが彼女の口調からはそういう陰は感じられない。

 まあ、背後に八坂と洩矢の二柱が控えていることを承知した上でこの少女を意味もなく心証を害する天狗も居まい、と蛇と蛙の髪留めが早苗の若草色の髪を飾っているのを見てはたても思い至る。

 おおかた、上層部の天狗達も人間の少女と面向かうなんて何百年以来だろうから手に余したのだろう。

 

「それで席を外したら見知った顔があったから話しかけた……と。」

「ですです」

「自分で言うのもなんだけど、一回突撃取材しただけの関係は果たして顔見知りなのかしら……」

「新聞に載る機会なんてそうそうないですし、私まだあの号持ってますよ?」

「うぇっ。あ、ええと。それはどうも」 

 

 完全に想定外の返しにしどろもどろになるはたて。なんとまあ、大半の人妖が本気で嫌がる天狗の突撃取材もどうやら守矢の巫女にとっては貴重な体験ということらしい。

 ――豪胆と形容すればいいのか、奇特と形容すればよいのかは分かれるところではあるだろうが……彼女は外の世界、大結界の外で生まれ育った人間と聞く、だからその精神性も多少特殊なのだろう、と納得するしかない。

 よいしょ、とはたての隣の空いていた席に腰かけて早苗は続ける。

 

「それに、今日は正装みたいですけどはたてさんの恰好ってすごく親近感あるんですよ女子高生みたいで。携帯電話も持ってる人は幻想郷では珍しいですし」

「と、とーぜんよ。今どきの天狗たるもの身嗜みくらい最先端じゃなきゃ」

 

 言って、直後に自信が数十年物の湿気とカビの臭いのするもはや身嗜み云々とは次元の違う身なりだということを思い出して羞恥の波に襲われることになるわけであるが……

 もぞもぞと身をよじるようにはたては早苗との距離を離す。

 

「と、ところで神社の神様の代わりに来たってことは、さ――」

「はい?」

 

 ちらり、と視線を天狗達の法術で天幕に映し出された像――今まさに山腹で行われている験比べに向ける。

 その中では今まさに一人の大天狗と総勢八からなる白狼天狗の剣舞が映し出されている。

 これは言うなれば前座、多くの天狗達はこれの勝敗が大天狗の圧勝と信じて疑っておらず。故に、誰もがそれを注視してはいない。

 きっと、この後あの場で何かを披露する天狗達の何十倍も辛酸を嘗めて、努力しているのは彼女たちだというのに―――

 実力こそを是とするのが天狗の社会と理解していてもそれはいくらなんでもやるせない。

 だからだろうか、こんなことが口を突いて出てしまったのは

 

「神様としてどっちかをその、加護したり寿いだりってするのかしら?」

 

 何を望んで、そんなことを聞いてしまったのか。はたて自身にも分からない、むしろ困惑してすらいる。

 どちらが勝っても姫海棠はたての立場には何一つ影響など及ぼさない。

 白狼天狗達を取りまとめている犬走椛と特別深い親交があるでもなく、大天狗鞍馬とはそもそも言葉を交わしたことすら指折り数えられる程度しかありはしないのに。

 嗚呼、だからきっとこれはただの無意味な感傷。

 

「加護、と言われましても、私は半神前なのであまりそういったことは出来ないんですよ。神奈……八坂様にもあまりあなたがたの派閥に肩入れはするなと念を押されてますし」

「ごめん、変な質問したわ。今の忘れ――」

「それに、今更私が加護を【重ね掛けして】も意味はあまりないと思います」

「や、そりゃ鞍馬さまは剣神だとか魔王尊だとか色々すごい異名持ってるからそりゃ加護の一つ二つあるでしょうけど?」

 

 一対八の状況でも圧倒しているのは一、すなわち大天狗の側だ。現に開幕早々に若い白狼二人を沈めている。

 そんな状況で更に白狼達の不利を願うような発言をしたように取られたのだろうか?

 ――だとしたら私、イヤな女みたいじゃない。と内心凹むはたてであったが――

 

「いえ、私が言っているのはそちらじゃなくてあのワンちゃ……こほん、白狼天狗の方ですよ。椛さん、でしたっけ?

 凄いですよね、私も何度か道案内して頂きましたけどその時は何も感じなかったのに。神様に何かを授けられるってことはやっぱそれだけ努力をしてきたんでしょうね」

「はい?」

 

 神に仕える巫女は滔々と語る。

 何かを成すために神に力を授けられるなんてのは間違いで、何かを成せるからこそ神はそこに宿る。だからこそ努力も行程も軽視した神頼みなんてものが古来から叶えられた試しはないのだ、と。

 しかし、まるで説教じみた語りをする早苗の言葉などはたての耳には入ってなくて――

 

「まさか、山から出ない白狼天狗に一体どんな神様が施しするっていうのよ……」

 

 厄神も、秋の神も、確かに妖怪の山に住み着いてはいるがどちらも特定の対象に加護を与えるような存在ではないし、そんな力はない。

 それこそこの山でそれだけの力を持っている存在と言えば八坂神奈子か、洩矢諏訪子程度のものではあるが、どうも早苗の口ぶりからすればそういう様子でもない。

 イワナガ姫、という線も……あるにはあるがあの神が司るのは永遠でこそあれ、栄華とは対極にある。故に流転する世に対して力を行使することはまかり間違ってもあり得ない。

 ならば……どんな存在が白狼に力を授けるというのだ?

 

「む、言われてみればそうですね。

 神様と一口で言っても、高位の妖怪の中には神格を持ってる方もいらっしゃるようですし、そちらの関係者なのでは?」

「いやいやいや、それはない。

 それこそ天魔さまあたりならそれくらいは出来そうだけど、そんなことがあれば山中大騒ぎよ」

 

 だからきっと、白狼天狗に接触した【何か】は外部から訪れた神格。

 こんな時、事件だ特ダネだ、と目を輝かせる知己は不在で。この話を知っているのは多分はたてと早苗だけ。

 ――先んじて件の白狼、犬走椛の取材に成功すればきっと独占スクープになる。そんな予感がある。

 野心や昇進欲こそ希薄ではあるものの、ライバルへの対抗心だけは失わずに燃やし続けた念写記者にとって、これは僥倖であった。

 幸い、他の新聞記者たちも下っ端天狗など気にも留めていないだろう。

 何はともあれ射命丸を出し抜けるという事実にはたては活気に満ち満ちて――

 

「ありがとう、ほんといい話が聞けたわ!」

「はあ、それはどうも?」

 

 話の流れが読めずに疑問符を浮かべる早苗の横で独りほくそ笑んでいた。

 

(狼に関する神様、というと大口真神(おおぐちまかみ)あたりかしら? ちょっとインパクトには欠けるけど……まあいいや。

 うふふ見てなさいよ文、今度こそ私があんたより先に特ダネを掴んでやるんだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




相変わらず中身スッカスカで面目ないです。
諸々の伏線張ろうとして自滅してるとも言えますね……諏訪子とミシャグジさま周りの設定が手を出しづらいのなんの(汗
じ、次回こそは椛にスポットライト当てまくってやるんです、ええ。

ちなみに作中でちょいちょい話に上がってる大天狗、前話のラストあたりで出てきた【彼】ですが名前でお察しの方もいらっしゃると思いますが元ネタはあります。
あの牛若丸に剣術やら諸々を教えた天狗、というのが一番知名度的にはありますでしょうか。
東方原作書籍にも【鞍馬】の名を冠した新聞が出てくるのでやっぱあの世界、鞍馬天狗は幻想郷に流れ着いているんでしょうね。


11月中には次話をお披露目出来るよう善処します。……ポケモンリメイクに執筆時間を吸われなければいいけれど(ぼそり
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