東方刻銘録~鬼が出るか蛇が出るか~    作:ライラ

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タイトル通りに射命丸登場回。多分書いてて一番楽しい部類の娘でした。


烏天狗

 “鬼が出たぞ”

 そんな【風の噂】が射命丸文(しゃめいまるあや)の下に舞い込んだのは明け方であった。

 最強の幻想種。その再来については今更新聞のネタにすらならない。数年前の春雪異変―――春が訪れず、冬が居座り続けた異変―――の終結直後から幻想郷各地で伊吹萃香が出没しているのは周知の事実だからである。

 ただ、今回はその鬼が現れた場所や時期がいささか問題だった。

 

「さてはて、まいりましたねえ。ただでさえ色々とピリピリしている折に余計な波風は立てたくありませんし……」

 

 かつて妖怪たちの住まう山を総べていた鬼の帰還の報は真であれ偽であれ、天狗達が築き上げた社会を混乱させる。

 仰げばその生き方は熾烈で、曲がる事を知らぬその在り様は固く強い鋼のよう。

 

 とかく、覇を歩む鬼達と、太平を望む天狗達とでは目指す道が違い過ぎた。

 

 

 (幸か不幸か、この噂はまだ私の耳にしか届いていない。ついでに、玄武の沢に“用事”もありましたし………ここはやっぱ私が動くしかないんでしょうねぇ)

 伊吹萃香とは何度か酒を酌み交わした仲である自分なら、いくらか穏便に話を進められるだろう。

 ただ、それでも嘘を嫌う鬼相手に交渉というのは見せたくもない腹をさらけ出さねばならないということで。楽しく酒を交わすならともかく、利害や思惑の絡んだ話なら色々と身の危険に覚悟が必要だ。

 

 ――――願わくばこの噂がただの噂に終わればいい。

 

 千年前から幻想郷を俯瞰し続けてきた天狗は重い翼を羽ばたかせて飛び立った。

 

 ◇◆◇◆

 

 そして――――

 結論から言えば天狗の射命丸文は鬼の伊吹萃香を見つける事は出来なかった。

 ただ、看過するにはいくらか無理がある要因を見つけてしまった、というべきか。

 

「あやや、これはどういうことでしょう?」

 

 河の流れが玄武岩とぶつかり、渦を巻く。一帯が玄武岩で構成されているが故に玄武の沢と呼ばれている場所に射命丸は居た。

 萃香が見つからなかった事は問題ではない。結局のところ、気まぐれな鬼の性情がたまたま酒盛りの場を妖怪の山の麓に選んだという事なら納得出来るし、全て杞憂だったという事だ。

 そう、ここは【妖怪の山の麓】なのだ。

 ならば何故――――

 

「こんなところに人間が寝転っているのは何故?」

 

 仰向けで寝息をたてながら眠っている男が居た。

 取り立てて服装がおかしいわけではない。

 髪も少々伸び過ぎのきらいはあるが浮浪者というほど不潔な印象は受けない。

 少々強い酒精の香りから、ただ眠っているのではなく泥酔した末に意識が飛んだのだと推測出来る。

 時節は初夏、夜に屋外で酒盛りをしてそのまま眠るという事は別段珍しい事ではない。

 異様に肌が白いことや首に巻かれた包帯から病人という言葉を想起するが――――やはりそこがおかしい。

 ここは妖怪の山の麓、哨戒の白狼天狗達の目からは逃れられるだろうがそれでも妖怪のテリトリーだ。

 そんな場所に人間が居るという事態が既に異常なのだ。

 博麗の巫女や、白黒の魔法使いならいざ知らず、目の前で眠りこけている青年はそのどちらでもない。

 

 気の触れた夢遊病者?自殺志願者?――――そんなものは此処に辿りつく前に他の妖怪に喰われるだろう。

 ならば里の口減らし?――――まさか、去年は豊作だった筈だ。それにやはり此処に辿りつけるとは思えない。

 

 事態を構成する要因は普遍的なのにその組み合わせがあまりにもちぐはぐ過ぎる。

 その違和がどうしても引っ掛かる。

 いくつもの可能性が聡い天狗の脳裏を駆け巡り、そしてそのどれもが根拠が無いと切り捨てられた。

 

「いや、しかしこのお酒の匂い。どこかで嗅いだ事があるような……」

 

 否、どちらかというと無意識的にその可能性を後回しにしていたという方が正解だろう。

 希望的観測から『この件に鬼は関係ない』と、そう願ってしまうのが山の天狗としての気質だった。

 

「……う……ぅん」

 

 ふと、うめくような声と共に男が寝返りを打つ。

 その拍子に男の着ていた服の胸元から何かが零れ落ち、からんと軽い音をたてた。

 それを確認し、何であるか理解し。射命丸は自分が浅はかだったと頭を抱える羽目になる。

 

「うわぁ、やっぱこれ鬼の至宝ですよ。

 そうだよなー、モロに伊吹瓢のお酒の匂いとかしてたもんなー、あれ呑んで散々酔っぱらったのになー。なんで気付かなかったのかなー、私」

 

 ありていに言えばそれは鬼の盃だった。

 丁寧に塗られた朱色の漆器に、絶技に依って彫られた稲穂の紋。それなりの呪術的な力を秘めた器。

 酌んだ酒を名酒に変える星熊盃などには遠く及ばないが、その盃から薫る酒の香りは伊吹萃香の持つ伊吹瓢から湧き出る酒のそれに相違なかった。

 それはつまり、昨夜、この場所でこの青年は鬼の酒を呑んでいたということである。

 

 しかし、そうとなると新たに問題が表出することになる。

 

 目の前で眠りこけている男と伊吹萃香(と仮定する)の間には何らかの繋がりがあるということだ。

 それも鬼の宝を手に入れられるという事は――――

(妥当なのは鬼に攫われた被害者、けれどその宝を手に入れるとなると、後は……)

 最強の人攫いと名高い鬼は、攫った人間に【勝負】という形で機会を与える。人間がその勝負に勝てば力や財を与え、人間が負ければその人間を喰らうという勝負。

 それ以外の手法で鬼の宝を手に入れようというのなら、考えたくはないがだまし取るなどがある。

 どちらにしろ目の前の人物(本当に人間かどうかは怪しくなってきた)がただならぬ者であることに変わりはあるまい。

 

 仮定ではあるが、その答えに至った時、射命丸の背筋を愉悦にも似た快感が走った。

 

 

 ――――もうそろそろ、我慢の限界であった。

 

「こんな特ダネ、放っておくには惜しいじゃない」

 

 にやり、と口角を釣り上げる。笑うのをこらえられない。

 好奇心が、天狗としてではなく一【新聞記者】としての使命感が首を擡げたのだ。

 そう、彼女は天狗であると同時に人里に最も近い新聞記者。天狗社会の異端児であり風雲児だ。

 その本能が告げていた――――目の前の存在、ただ見逃すには惜しい逸材であると。

 

「おほん……それに慎重な対処をするためにもまず探りを入れなきゃいけませんしね」

 

 咳払い一つ、誰に向けるでもなく言い訳をして天狗の新聞記者は行動を開始した。

 

 ◆◇◆◇

 

 江月魁斗にとって目覚めとは苦痛である。

 記憶にある限り初めての覚醒が断頭の悪夢からの逃避であったのなら二回目の覚醒は頭痛と向き合う事であった。

 

「う………」

 

 ちかちかと瞼を刺す陽光から既に夜が明けた事を悟る。

 頭が割れるように痛い。最悪の気分だ。

(ああ、そうか確か昨日は萃香と呑み比べとかしたんだっけか)

 勝敗は……思い出すまでも無い。

 胃の中をかきまぜられた様だ、中身を全てぶちまけてしまいたい願望をそっと押しとどめて重い瞼を押し上げる。

 

「おや、お目覚めですか?おはようございます」

「ああ……おはよう」

 

 はて?――――萃香はこんな声をしていただろうか。

 改めて目の前の少女を観察する。

 耳元まである濡羽色の髪に、何か不穏な輝きを湛えた黒紫色の瞳、見る者の意思にするりと入り込んでくるような小慣れた笑み。

 山伏じみた衣装に真紅の高下駄や赤い頭巾。風になびいてゆれるスカートの裾から覗く生足など実に艶めかしい。

 何より意識を惹きつけるのは背に生えた漆黒の翼。

 なんというか、これではまるで……

 

「あー………誰だ?」

 

 ずきずきと痛む頭が冷静な思考を阻害する。

 知り合いかもと考えたらこの発言は不味かったかもしれないが、どうせ記憶喪失の身だ、気にすることはない。

 というか二日酔いの頭ではそこまで思考が回らないのが現実だ。

 少なくとも萃香ではないよな、と再度目の前の少女をまじまじと見つめた。

 

「おお恐い恐い、そんなに恐い顔で睨まないで下さいよ」

 

 人懐っこい笑み―――やけに自然過ぎて逆に不自然にも見える―――を浮かべながら少女は後ずさる素振りをする。

 

「む……そんなに恐い顔してたか」

「ええ、それはもう鬼のような形相で」

「鬼?……萃香はそんな恐い顔してたかな……」

 

 昨夜、共に酒を酌み交わした鬼の顔を脳裏に描く。

 やはり印象的なのはどこか寂しげな表情や、楽しげに笑う顔で、どこにも見る者に恐怖を抱かせるような要因は無かったように思う。

 

「やっぱり萃香さんのお知り合いでしたか!」

「お、おう?………ところでさ」

「なんでしょう?」

 

 どういう訳か瞳を輝かせる少女に若干気押されながらも酔っぱらいは素朴な疑問を投げかけた。

 綺麗に着つけられたシャツを押し上げるふくらみを指さして一言。

 

「にとり、お前そんなに胸あったっけ?」 

 

 萃香ではないなら目の前の少女はにとりだ、と。酔っぱらい特有の破綻した論理から繰り出されるセクハラ。

 

「せいやっ!」

 

 対する少女の反応は電光石火の如し。容赦のない眼潰しが魁斗を襲う。

 

「ぐああああっ!」

 

 一気に意識を覚醒まで引きずり出す激痛に苦悶して魁斗はのた打ち回る。

 酔い覚ましというにはあまりにも的確かつ容赦のない一撃だった。

 

「うぇっぷ……何、朝っぱらから騒いでるんだよぅ……やめろよぅ……」

 

 工房の面前でそれだけ騒げば中の住人が聞きつけぬ道理も無し。

 生気の抜けたような青ざめた顔でひょっこり顔を出すのは本物の河城にとりだった。

 

「あやや、にとりさんも二日酔いですか。珍しいですね」

「……うぅ……あの世に居る姉さんの顔が見えたからてっきり死んだと思ったんだけど、私は生きてるんだな? もしくは射命丸も閻魔さまに地獄に送られた?」

「まさかまさか、清く正しい新聞記者の私がそんな事あるわけないじゃないですかー」

「う、やめ、頭に響くから耳元で話さないで」

 

 二日酔いの酷さなら先の魁斗の比ではないらしいにとりは一層顔を青くして地に膝を付く。

 

「めいゆう、ちょっと川までおぶっておくれ。ちょっともう私限界かも」

「オレも結構限界なんだけどな」

 

 いくらか回復した魁斗は渋々ながらも河童を背負うために近寄り―――

 

「よっこいせ………む?」

「……どしたの?」

「にとり、お前って意外に胸あ――――」

 

 背に当たる柔らかい感触への率直な感想を漏らし――――

 

「そりゃ!」

 

 ――――本日二度めのセクハラへの報復を受けた。

 

「ぐえっ!。その姿勢から肝臓突くの止めろよな!……あ、やば」

 

 結局二人仲良く川べりでげぇげぇやっているのを冷めた目で射命丸は眺めていた。

 

 なんというか、これだけで既に大雑把な事情は把握できるな、と思う。

 天狗ほどではないが河童も総じて呑兵衛な妖怪だ。それに加え長命な彼女達は自分の限界をよく知っている。

 そんな妖怪が立てなくなるほど呑まざるを得なくなる状況などそうそう多くない。

(やっぱ、昨日ここで萃香さんが酒盛りをしていたのは間違いなさそうですね)

 酒に強い彼女達を上回る酒豪、そして彼女達が酒盛りを切り上げることが出来ない格上の存在。

 そんなものはもう鬼しかこの幻想卿には存在しない。

 

○●○●

 

「ほほう、つまり今現在記憶喪失のあなたは大怪我をしていたところを萃香さんに拾われて、にとりさんの工房で世話になっている、と」

「概ねそんなところだな。オレも自分がどこの誰で何者かまでは知らんから訊かんでくれよ」

 

 にとりの工房の一室へ場所を移し、簡潔な自己紹介を終えた後。

 なにやら手帖に熱心に筆を走らせる自称清く正しい新聞記者から次々と繰り出される質問に魁斗は淡々と答えていた。

 どうせ一日ちょっとの記憶しかないのだから返答には困らないが、なぜこうなったのかは正直よく分からない。

 シンブン、というものの概念は大雑把に理解しているが、かといって魁斗自身、己の境遇が大衆に発信してウケの良いものだとは思えないからだ。

 

「ところでコウヅキ・カイトとはどう字を書くんです?」

「ああ、それはだな」

 

 魁斗は懐から一枚の半紙を取りだして広げて見せた。

 

「なるほど、【江】に映った【月】に、天龍座の一等星の【魁斗】ですか。

 実に風流ですけどあまり人間らしくない名前ですね」

「そうか?」

「おっと、失礼。気を悪くしましたか?」

「いや、そんなことはないが」

 

 と、そこで両者の間に齟齬がある事に気付いたにとりが補足をしようと口を開いた。

 今の今まで姿を消していたのは工房の奥で茶を沸かしていたかららしい。

 

「そりゃあ盟友は自分の名前すら忘れちゃってたから名付け親は萃香さまだもの。

 というか人間なのは半分だけだから妥当な名前だと思うけどなあ、私は」

「ありゃ、私てっきり人間だと思ってましたよ。なるほどなー、萃香さんが名付けたのなら納得………え、まじ?」

 

 天狗が漏らした素っ頓狂な声に、湯呑から立ち上るほんのりとしたきゅうりの香りに怪訝そうな顔をしていた魁斗が顔を上げた。

 

「大まじ」

「本当何者ですかあなた!?。鬼直々に【鬼】の名を賜るなんて普通じゃ考えられませんよ!」

 

 精神体としての要素が強い妖怪達の間で固有名とはすなわち自己を規定する楔であり、命名とは存在の方向性を決定する儀式だ。故に、名を持つことで妖怪は確固たる存在となる。

 文字通り【命】に【名】を付ける行為は人間であろうと妖怪であろう神聖な行為である事に変わりはない。

 ――――強く気高きもの

 ――――覇を極めしもの

 ――――虚偽を嫌うもの

 古の世より積み上げてきた【鬼】という概念。畏怖を萃めてきたその言霊の力は鬼である伊吹萃香自身が最も実感している筈だ。

 その名を見ず知らずの半人半妖に与えたのだ。これを勘繰るな、というのは一パパラッチとしても不可能だった。

 危うく椅子から転げ落ちそうになる射命丸とは対照的に、魁斗は忙しい奴だなあ、とそんな彼女を眺めながら眺めながら茶をすすっていた。

 

「ああ、魁斗の【魁】って鬼の字が入ってるものな。……おい、これ本当にお茶か?きゅうりの味しかしないぞ」

「まあ鬼は気紛れだし、なんか盟友は萃香さまに気に入られてるみたいだしいいんじゃないの。………そう、にとり特製きゅうり茶だ、美味いだろ?」

「ふむ? これは美味いのか」

 

 ◆◇◆◇◆

 

 のほほんとした会話を繰り広げる二人を尻目に射命丸はその優れた脳を全力で回転させていた。

 予感はもはや避けがたいほどに確信に迫っている。

 聞くに、彼がもっていた鬼の盃も昨夜呑み比べをした時に萃香から譲り受けたらしい。

 山の四天王の一角にそこまで目を付けられるだけの“何か”を備えているのは明白だ。それも、恐らく当事者自身意識していないような何か。

 天狗の己の【既知】を超えた【未知】をもたらす様な何か。未だ特ダネとは成りえないが、いずれきっと特ダネになるであろう何か。

 それが今、自分だけが知っている。他の新聞記者達の目の届かないこの領域で、唾を付けるなら今がまさにその時だ。

 

 それに、不審な点と言えば彼が大怪我をして発見された【時期と場所】である。

(まさか、とは思いますがね)

 一週間前、妖怪の山の山腹で、何者かが争った形跡がある、と哨戒の白狼天狗の報があった。

 それだけならなんという事はない、いつも通りしかるべき【対処】をすればそこで終わりだ。

 

 しかし、偶然それを発見した白狼天狗の気が違えた。

 突如発狂―――牙を剥き、今朝まで共に肩を並べていた同僚に襲いかかったのだ。

 

 それほどまでに禍々しく濃い瘴気が渦巻いていたのだ、と射命丸は後に同じ哨戒役の白狼天狗づてに知った。

 判断するにそこで繰り広げられたのは木端妖怪どころか、下手をすれば天魔……いや、鬼にすら比肩する者同士の争いだったのだろう。

 ただちに妖怪の山一帯には箝口令が敷かれ、現場への立ち入りも制限された。

 事を天狗達が内密に処理する為の処置だ、河童にすらこの事態は知らされていない。

 そして、下っ端とは言え天狗さえ狂わせるほどの強い妖気を持った妖怪が侵入したのなら痕跡が残る筈だ、と鞍馬の大天狗率いる捜索隊すらもが結成され、夜通しの山狩が行われた。

 結果は言わずもがな、今現在も天狗社会に張りつめた空気から察せよ、だ。

 

 それと同時期にその戦場跡の下流で発見された半死半生の半人半妖。

 江月魁斗から感じる妖力は微弱なものだ。まさか件の争いを起こした張本人とは思えないが、それでも何らかの関係性があるかもしれない。

(どちらにしろ彼は私の目の届く所に置いておく必要がありそうですね)

 新聞に載せるネタを運んで来てくれるなら上々、もし件の事件の真相を暴く鍵となるのならばそれもまたよし。

 そこまでの思考と、今後この要注意人物にどう接するか、そんな計画を刹那の間に終わらせた射命丸は、再び本意を笑顔の仮面の下にしまいこんだ。

 

 ◆◇◆◇◆

 

「あー、そういえば元々なんで射命丸はうちに来たんだっけ?盟友に会いに来たわけでもないだろうし。またカメラの調子でも悪くなった?」

 

 大分酔いも引いて顔色のよくなってきたにとりはふと疑問を零す。

 

「いえいえ、そろそろ夏も暑くなってきますしここは一つ水着美少女のあられもない写真でも載せて新聞の購読数を稼ごうかと思いまして」

 

 待ってましたとばかり下卑た笑みを浮かべる新聞記者に何か嫌な思い出でもあるのか、さぁと血の気のが引くのはやはりにとりだ。

 

「ひゅいっ!勘弁してくれ!」

「もともとスク水みたいな服着といて何を言ってるんですか。ほれほれ、その雨合羽みたいな作業着は脱いじゃいましょうよ。だいじょぶだいじょぶ、痛くしませんから、さぁ!」

 

 わきわきと妙に軽妙な動きをする手付きが実に小慣れているというか、そこはかとなくいやらしかった。

 

「み、見てないで盟友も何か言えよう!」

「そうだな……完成したらオレも一部貰えるか?」

「げげっ、周りに敵しか居ない!?」

「というわけで、勘弁なさい!」

 

 ばたばたと狭い室内を駆けまわる天狗と河童をのんびりと眺めながら魁斗は茶をすする。

 ―――目が覚めてから気が付いたことだが、自分は朝に弱いらしい。

 怪我の治りかけで単に血が足りないだけかもしれないが、どうも血の巡りが悪いのだ。

 反面、酔いはすっかり醒めているので新陳代謝の類も良好なようなので釣り合いはとれているのが幸いといったところか。

(ううむ、慣れれば案外このお茶もいけるな……)

 冷血な体に温かい茶を流し込んだことでやっと調子が戻ってきた。

 そうなると、自然と今まで見えなかったものも見えるようになるわけで―――

 先ほどまで射命丸の座っていた椅子の下に折りたたんだ紙の束が落ちている事に気付く。

 ――――文々。新聞:号外

 成程、これが彼女の書いている新聞か、と魁斗は合点してそれを興味本位で手に取ってみた。

 ………

 ……………

 ………………

「【河童ダム再建か?守矢の祭神土蜘蛛に依頼】……ふむ、何の事だかさっぱりだ」

 何気なく読みあげてから気付く。一面の見出しから判断するに、なにやらそこそこ大きな時事ネタを取り扱っているようなのだが、そもそもそれらの固有名詞の持つ意味やその背景に馴染みが無さ過ぎて記憶喪失の魁斗はとっかかりが掴めない。

 ただ、同じ部屋にいた他二名は当然ながらワケが違ったらしい。さきほどまで騒がしかったのが急に鎮まりかえる。

 一人は、まあこの記事の筆者なのだから内容を知らぬ筈がない。「あちゃー、気付かれちゃいましたか」などと白々しく言っている辺り元々の目的はこの新聞をにとりに渡す事に在ったのだろう。

 

 もう一方も、見出しに【河童】とあるからには無関係ではないだろう。

 注意深くにとりの様子を伺ってみると、わなわなと肩を震えていた。そして―――

 

「ぬわんだってぇーーー!!!」

 

 普段は温厚な河童からは考えられない怒声が魁斗の耳を劈いた。

 




【元ネタ解説】

に「……うぅ……あの世に居る姉さんの顔が見えたからてっきり死んだと思ったんだけど~」

 姉さん、というのは二次創作界隈ではそこそこ有名な半人半妖のにとりの姉、河城みとりのこと。
 元ネタをご存じないという方は大手動画サイトなどで検索をかければハイレベルな釣り動画に行き当たるかと思います。てっきり自分も公式だと思ってましたw
 一応、知名度の問題や、非公式キャラであることも含めて“にとりの姉”が直接物語に関わってくることはないですが、今後もにとりの言動の節々に魁斗以外の半人半妖について言及することはあるかもしれません。

【補足】河童ダムについて
一応ゲーム本編とは別の媒体の話なので補足をば
河童ダムを巡る物語は公式漫画、東方茨華扇からの引用です。
建設途中に河童達がいろいろやらかして企画自体が凍結されたダム建設のその後、という形でここ数話はスポットを当てていこうと思います。

次話は22日の午前0時あたりに投稿予定。
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