世界で1番フットボールが熱い世界へ。
かつてブルーロックという場所があった。
そこは世界一のストライカーを生み出す実験場。
そこで戦い、生き抜いた高校生が不運の事故で死に、転生する。
しかしかつての仲間達がいない場所で再びフットボールをする気は起きず。
あれほど大好きだったスポーツは、いつの間にか止めてしまっていた。
だが、己の中のエゴイストは消えず、不完全燃焼な日々を過ごしていたが。
彼は二匹の烏と出会う。
息抜きに描いてた。多分続かないのでここで供養。
おめでとう 才能の原石共よ
―――どけ
お前らは俺の独断と偏見で選ばれた優秀な18歳以下のストライカー300名です
―――俺が世界一だ
俺はここにいる300人の中から世界一のストライカーを創る実験をする
―――俺が勝つ 俺が勝つ 俺が勝つ
これがそのための施設―――……
―――その為に
"
―――テメェが邪魔だ
世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない
―――例え相手の夢を踏み潰してでも勝利する
優勝のかかったそんな局面で迷わず撃ち抜ける
―――他人の才能を喰らえ すべてを自らの糧にして戦え
そんなイカれた
―――世界で一番のストライカーに
始めよう 世界で一番 フットボールの熱い場所を
ちゅんちゅんと、スズメが鳴いているのが聞こえる。カーテンの隙間から、朝の日の光が差し込んでいることに気づいて俺はようやくそれが夢だったと気づく。
額から垂れる汗を拭いながら、夢が夢だったことを思い出し、絶望する。
俺の世界一楽しかった場所は、この世界にはないことに。
俺には前世の記憶がある、と言って信じることができる奴は一体何人いるだろう。ちなみに、俺は信じる。
なぜなら俺には、前世の記憶があるからだ。
俺は高校生だった。どこにでもいる高校三年生の、サッカー部のフォワード。
サッカーが好きで、蹴ることが好きで、点を取ることが好きだった。
大学生になっても、この先のんびりサッカーを続けていくんだろうなぁと思ったある日。
俺の人生観を一変する、招待状が届いた。
「静岡から転校してきました、大神力也です」
「背ぇでっけぇぇぇ!」
「何あの転校生、かっこいいー!」
「背が高くてイケメンとか爆発しねえかなぁ……!」
新しいクラスメイトがざわついている。なんかオレンジ頭の奴がすごいこっちを見て興奮したように「いいなぁいいなぁ」と連呼している。この見世物みたいな感覚は、どうもむず痒い。
ありがたいことに、前世の俺と今世の俺も、名前と身長と顔が一緒で、おまけに転生した場所も同じ現代の日本で馴染むのに時間はかからなかった。
身長は驚愕の190cm。一年で190だから、多分これからもずんずこ伸びるだろう。
けれど、サッカーをやる気にはならなかった。
小学校、中学校でいくつか助っ人としていろんな部活を回ったけど結局どれも大してやる気は起きず、帰宅部だった。唯一、サッカーだけは野良で友人や地元のクラブと遊んでやっていた。
あんな所でサッカーをやっていたら、普通の部活がお遊びに見えてしまうのは、しょうがない。あの青い監獄は、強すぎる刺激だった。劇薬みたいで、今までのサッカー、いやスポーツ観を一変させるには十分すぎた。
あんな場所でサッカーさせられて、今の高校生の部活でサッカーをやるなんて、あくびが出てしまってダメだ。
どうしてか、この世界は同じ日本でもエゴジンパチはどこにもいないし、ブルーロックなんてやばい場所も創られていない。
「ふぁ」
「おう、大神。あくびとは余裕だな。夜更かしでもしたのか?」
担任の、ちょっと男勝りの女の先生がそう言った。
「ええ、まあ」
「そうかそうか!だが、来週には期末テストがあるからな。宮城に来て時差ボケで赤点取りましたーはすまされないから気を付けろ。ほかのみんなも、こいつにいろいろと手を貸してやってくれ」
先生はそう締めくくり、朝のHRを終えた。
違うんです、先生。欠伸をしたのは夜更かしをしたからじゃなくて。
この世界があまりにも退屈で、欠伸が出てしまうだけなんです。
そう心の中で愚痴をこぼした。
転校生を迎える儀式、それは質問攻めである。どこから来たのだとか、部活は何をやっているのだとか、身長どれぐらいあるのだとか、どうして静岡から来たのかとかもろもろ。
宮城でもそれは同じらしい。
俺の今世での両親は転勤族らしく、父親の仕事の都合で宮城に急遽引っ越すことになった。
「力也が学生の内は転勤はなしにしてくれって頼んだんだが、すまん。今回だけ、宮城に付き合ってくれ」
そう言って、せっかく受かった学校を約三か月で転校することになり、俺はこの烏野高校に編入した。
偏差値、中。部活、中の下。女子、結構カワイイ。制服、学ラン。
どこにでもある普通の学校だ。
ここでもどうせ、退屈な学校生活を送るのか。
そう考えると少し虚しくなる。
「なぁなぁ!」
購買で飯を買いに行こうとすると、下から声がした。
視線を下に向けると、そこには小柄なオレンジ頭の奴がいた。
「お前は確か、同じクラスメイトの……」
そうだ。朝のHRからずっとそわそわと俺の方を見ていた奴だ。
「俺、日向翔陽!」
そいつはにっと笑った。裏表のない明るい奴だ。
「俺は大神力也。よろしくな」
適当に右手を差し出すと、日向はがしっと握ってぶんぶんと回した。声がでかくて、元気いっぱいというか。俺は、昔飼っていた雑種の犬を思い出した。
「よろしくな!それでお前、身長いくつある!?」
「身長?確かこの前測ったのは……190cm」
「190!?すげー!月島よりでけえじゃん!」
「月島?誰だ」
「なあ大神、お前部活は!?静岡じゃ何やってたんだ!?」
「……いや、部活はやってない」
「えぇ!?そんなに身長でけえのにか!?」
「身長関係ない。帰宅部だよ」
「なんつーもったいねぇ……!」
「なんだその顔」
「多分何かしら事情があるんだろうけど……!スポーツに使う予定がないなら俺によこせって顔……!」
「正直かよ」
ん?つーことは……。
「お前、何か部活やってんのか?」
「ああ、俺はバレー部だ!」
「バレー?」
そういえば、バレーは前の学校にはなかったな。しかしこの身長でバレーか。
「すげぇな」
「…………」
「なんだよ」
笑ったり悔しそうな顔したり、ころころと表情が変わる奴だな。
「笑わねえの?」
「何が」
「身長が小さいのに、バレーをやってること」
「身長が小さいこととバレーをやることは関係ないだろ?」
確かに、身長が高ければできることは多い。
身体がでかければパワーもある。サッカーでも、ゴール前の競り合いは、身長が高いほうが有利の場面が多い。
「確かにでかけりゃバレーじゃ有利かもしれねえけど、それが弱いっていう理由にはならねえだろ」
「…………」
ブルーロックでもそうだった。身長がでかい奴も多かったけど、小柄な選手も多かった。
そもそも日本を含めアジア人は身長が低い奴が多い。平均身長もそんなに高くないし、俺のように190を超える奴は多くない。だが、小柄だからこそ、力に任せない技術とスピード、
「お前の
「っ!」
俺がそう言うと、日向は驚いたように、どこか嬉しそうに目を見開いた。
「うぉおぉぉぉおぉ!俺、初めて!馬鹿にされなかった!『その身長でバレーやってるの?』って初めて訊かれなかった!!」
「お、おう」
「俺の武器は、飛ぶこと!」
――ゾクリ。
「俺は、飛べる!!」
「――そうか」
なんだこいつの存在感。身長は多分、160cm台。俺の頸元にも届かない小柄な身長なのに、やけに大きく見える。
「なあ、大神!」
あ、次の翔陽のセリフ、なんとなく分かる。
そして俺の返答も。
―――いっしょにバレーやろうぜ!
―――あ、お断りします
「アップしろよ、大神。部員でも無いやつが怪我されたら迷惑だ」
「……」
すると徐に、大神は足下に転がっていたバレーボールに足をかけた。
「おい!バレーボールに足を…!」
澤村がそう言って止めようとした時だった。
ポーーーン……
大神は器用にボールの下に足の甲を滑り込ませたかと思うと、静かに弾いて空中に打ち上げた。
そして重力に従って落ちてきたボールをポンポンと弾いてリフティングを始めた。
右足、左足、後ろ足、頭。
大神自身はその場から1歩も動かずに綺麗にボールを操った。注意しようとしていた澤村が思わず声をとめてしまうほどに。
「シッ」
そして大神はまるでダイレクトボレーのようにボールを蹴ると、そのボールは山なりに綺麗な弧を描いたかと思った瞬間
ポスっ
体育館に設置されていた、反対側のバスケのゴールに吸い込まれた。
「アップなんかいらない。いつでも戦える」
レシーブはあくまで、スパイク(攻撃)をする為の受け身の行動。味方にパスする為の姿勢。弾き返したボールがたまたま相手のコートに落ちて点を取れることはあれど、基本的には防御だ。
だが、彼にとっては関係ない。
腕で受けてパスするなんて論外。
野球は、バットを使わなきゃボールを打てない。
テニスはラケット以外を持たなきゃコートに立たせて貰えない。
サッカーはボールに手を持つことを許されない。
けれどバレーは。
「つま先から頭のてっぺんまで満遍なく使えるのに、腕しか使わないなんて」
ーーー勿体ない。
パァン、とボールを弾く音が響く。けれど腕でレシーブした音じゃない。どこか硬い、異質な音。
まるで軽いバレーボールを蹴り上げたような音だった。
「「!?」」
足の甲で蹴りあげられたそのボールは、まるで空中でコートに叩きつけるスパイクのように勢いを殺さず、ネットを綺麗に超える放物線を描きながら、日向翔陽の横に突き刺さった。
「なっ…!?」
「なんだ今の……!?」
「レシーブ!?スパイク!?今のはなんだ!?」
(ぶ、分類できねぇ……!スパイクでもレシーブでもねぇ!時速100キロにもなる相手のスパイクを、足で打ち、いや、蹴り返した!)
烏養繋心の頭は混乱の真っ只中にいた。
だが、あのレシーブをあえてカテゴライズして言うならあれは。
「あいつ、ボールをシュートしやがった!」
そう、そうとしか言いようがない。初めてのバレー。初めての試合形式。
バレーを経験しているからこそ分かる。バレーを愛し、練習に身を費やしたからこそ分かる。
あのシュートがどれだけ難しいか。どれだけの神業か。
「……変人速攻の次は、変態レシーバーかよ」
「ツッキー、ツッキーだったら今のボール、ブロックできる?」
「……」
分からない。取れなくはない。だが、あの放物線のシュートは、ぎりぎりブロッカーの最高到達点を超える。
スパイクの打ち下ろすボールではなく、障害物を超えるようなあんなボールは、いくらブロックしようとしても届かなければ意味はない。
仮に届いたとしても、普段ブロックするスパイクのボールとは軌道も、そして回転も違うのだから、相当取りづらいボールになる。
(なんだあいつ……すげぇ!)
CROW・NAIL
山なりシュート。
「あいつは……バレーボール選手じゃない」
「ストライカーだ」
「相手のスパイクを脚で蹴り返すなんて出来んのか!?」
「スガさん、俺にバレーの楽しさ、教えてくださいよ」
このスポーツが、サッカーより面白いってことを教えてくださいよ。
俺は堅実だ。
影山みたいな超正確神トスを上げることなんて出来ないし、青葉城西のセッターのような華やかさもない。
けれど、バレーが好きだって気持ちは本物だ。
だから、俺がこいつにバレーの楽しさを教えることが出来るとするなら、セッターとしてこいつに楽しさを教えるのなら、これしかない。
「オープン!スパイクだ!」