ラクーンシティを好奇心で進む狩人様 作:さや
さあ、今日も楽しい遺跡漁り。
ヤーナムの地下にある、神の墓を荒して荒して、荒しまくろう。
「……地下遺跡に空が……?」
今日も今日とて、聖杯儀式により潜り込んだはずの地下。
どう見ても人間にはあり得ない、苗床頭のクリーチャーと化した異常者ルックの狩人が、心底不思議そうな声で上方を振り仰ぎ、茫然と呟いた。
本来ならそこは、見慣れて、見慣れすぎて吐き気を催しそうな天井は高い癖に鬱屈とした地下の筈なのに、どういう訳か本当に空が有った。
「何言ってるんですか。思考が前時代に戻りましたか?」
同行者である一見聖歌隊の様な恰好だが、その実神秘何それ美味しいの?とばかりに筋力で全てをすり潰す系狩人が飽きれた声を上げ、つられた様に空を見た。
「……空があるぅう!?」
そして頭の悪い声を上げた。
何せここ地下遺跡ではない。現在ゾンビパンデミックに震えるラクーンシティである。
開けた空が有って当然なのだ。残念ながら、周囲に光が多すぎて星は良く見えないが。
ついでに地上はヤーナムとどっこいの素敵な地獄の様相を呈して居る。
「なにここ、なんなのここ、怖いんだけど?」
苗床頭の面妖な狩人は、妙にピカピカと明るくヤーナムの立派な建造物よりも更に巨大な建物が立ち並び、珍妙な恰好の人々が駆けまわる様に狼狽する。
因みに冒涜的カリフラワーとなった狩人を見て叫ぶ人間も多い上に、この場では狩人二人の方が珍妙な格好だ。
「おおおっ、落ち着きましょう。ただの獣狩りの夜が巡って来た的なやつですよ。狩ってればなんとかなりますよ。何とか成りますよね!?取り敢えず襲ってくるものは全部狩りましょう!腸ぶちまけておけば何とか成る筈です!」
流石脳味噌と神秘を筋肉に浸食された狩人だ。
トンでもな事態に恐れ戦き、ぐにょぐにょと頭を震わせながらしがみ付いて来る苗床狩人を励まし、狩人らしく取り敢えず狩っておこう。殺しておこう精神を発揮して居る。
実際、ヤーナムで獣の病が蔓延してるのと大差ない事態だ。
ちょっと権力と立ち位置がデカすぎる企業が、生物兵器作ろうとして、下手こいて厄介なウイルスばら撒いただけだ。そして隠蔽に生物兵器放ったり、街を封鎖して市民を見殺しにしようとしているだけだ。
誤用ではなく確信犯で血の医療にじゃぶじゃぶ浸かり、獣の病が蔓延すればしれっと狩人を募った医療教会となかなかいい勝負だろう。
あとちょっと別のアプローチを初めた派閥とかが出てきて、全体的にしっちゃかめっちゃかの名状し難き悪夢の魔窟となったヤーナムと大差ない。
むしろ一つのどでかい企業の権力と利益、人間の欲に寄って招かれた事態というすっきりした根源な分、随分と分かりやすくていい。
叡智とかいう目に見えないもの求め始めるよりずっと理解できる。
そのどでかい企業こと、アンブレラ社にも己の探求心のみに突き進んだ研究者が居るかも知れないが、変な檻を被ってゴキゲンに駆け回る変態性が無ければヤーナムの探求者とは並べない。まずは自分の肉体を捨てて、悪夢を呼び寄せてからだ。
まあどちらにしろ、遺跡から持ち帰ったなんちゃらをごにょごにょするのはアカンという事だろう。最初の目的がどうであれ、人体実験始めたら終わりである。
だがそんな事、聖杯に潜りに来た狩人二人は知る由もない。
獣の病とはまた違った風体でよろよろと、逃げ惑うに人間に襲い掛かる奴らがあふれかえって居ると言うのが見て分る事だ。
しかも、まるで御伽噺よろしく異世界染みた奇妙な街で。
人間性をどっかに置いて来たらしき連中は、獣の病の罹患者たち程凶暴でも頑健でも素早くも無いが、恐ろしい程人の形を残している。
誰かが何も言わなくとも、彼らがほんの少し前までは人間だったと突きつけられる。
まあ、だからと言って狩人共が何か思う事もないが。
優し過ぎた古狩人ならいざ知らず。残念ながらここに居るのはうごうごする肉塊をポケットにないないしちゃったり、殺した娼婦の靴を何となくで剥いで自分の物にしちゃう、ナチュラルボーンサイコパスと囁かれてる狩人共だ。
それぞれの時空によって、些細な差異はあるかも知れないが、皆獣狩りの夜を数度巡る頃には立派なサイコで頭おかしい自分本位なヤーナム野郎に成っている。或いは地底人。或いは上位者。
なので余りにも肌の露出が高く破廉恥で、正気を疑う恰好の人間だったらしきものがふらふらとにじり寄ってくれば当然とばかりに迎撃する。
市街の半獣市民の殺意の1/10というのも盛りすぎ感漂う、弱々しい害意でも向けられたからにはぶっ殺すしかない。
あと単純に巡る悪夢の中で、すっかり『わからされて』しまったのだ。
集団は怖い、と。それはもう身に染みている。散々ヒィンヒィン言わされた。
どんな雑魚でも四方八方取り囲んで袋叩きにされれば死ぬ。数の暴力は恐ろしい。
それと犬。
ともかく、囲まれる事を恐れた狩人共は向かってくるモノも、目に着いたモノもぶっ殺しにかかった。
とあるやんごとなき理由により、聖歌隊装束で固めた狩人は、それらしく仕込み杖を振り回して居るが、なにやら勝手が違う。
獣はどんなに頑健で屈強でも、刻んで弾丸ぶち込んで、内臓なり脳味噌なりを引きずり出せば仕留められる。
むしろ血が出るなら獣でも、幽霊でも、上位者でも殺せる。殴り続ければそのうち死ぬ。
だが目の前に集る奴らはそうはいかない。どんなに刻んでも『生きている』のだ。もちろん足や体の大部分を損なえば、物理的に動く事は無いようだが生きている。
寄生虫を握ってドュルンドリュンとのたうちつつ、触手を振り回したりナメクジをぶちまけたり、神秘汁を吐き散らしている変態的な狩人の方も勝手が違う事に戸惑って居た。
序に逃げ惑う段階で、偶然狩人を見てしまった市民はあまりの悍ましさに腰を抜かしゾンビに集られてしまったが、運が無かったのだろう。仕方がない。
医療教会の最盛期ならまだしも、よそからやって来た狩人共に市民を救うという概念はない。むしろ奴らが手を出したら悪化する可能性の方が高い。
全く意図しない形でラクーンシティの民を巻き込みつつも、一区画分の静寂を手に入れた狩人二人は息を吐く。
カリフラワーが呼吸をしているのか、疑問の余地があるが。
「分かりました。こいつらアレですね。頭吹っ飛ばさなければいけない奴ですね。むしろ頭だけ吹っ飛ばせば終わりですよ。……どうかしましたか?」
シュッと一つ仕込み杖を振り、妙に粘つくどす黒い血を振り払いながらそう結論づける。気づいてしまえば、実に呆気ない相手で、狩人の腕力で殴ればそれで終わる。
水銀弾をぶち込むのも勿体ない程の脆さだった。
そんな事を反芻する横で、苗床頭がしおしおと項垂れてる。人間らしい顔面はどこかに行ってしまって居るので、表情は伺えないが、取り敢えず悲しそうだ。
心の瞳ならぬ、脳に得た瞳で見れば分るかも知れない。
「……自分、役立たず説が出て来た」
掴み掛かって来るよろめく死体に、逆に掴み掛かり至近距離から毒性の有る嘔吐物……もとい、神秘汁をブッカケるというどっちがクリーチャーか分からない行動を取った。
とったのだが……、吐き散らす汁の毒に侵される事も、まき散らすナメクジに異常を来す様子もない。
残念ながら、Tウイルスにより肉体が死に活性化した脳だけで本能のままに動く死体には崇高なる神秘は届かなった様だ。既に体が死んでいては毒の意味も成さない。
寄生虫を握って神秘で殴る系狩人は、頭ぱっぱらぱーの死体には優位を取れなかった様だ。悲しい。
それでも触手を振り回し、叩きつければ腐れた肉は粉みじんに砕ける。狂おしくもかっこいい正気を疑うポーズと共に放たれる衝撃波を受ければ、歩く屍も逃げ惑う人間も皆等しく体を弾けさせる。
どちらかと言えば生者に対しての殺傷能力が高いが気にしてはいけない。
たださえゾンビパンデミックで削られた正気度に追い打ちを掛けてるかも知れないが、そんな所まで責任を持てない。苗床頭だって、狩の最中誰も怯まなかった。むしろこの頭部の方がフレンドリーに接してくれる、なんて事もある。漁村とか。
なので決して役立たずではない。
「君は性癖が冒涜的だけど優しいよな。お姉さん惚れそうだよ……」
「外見が冒涜的な人が何言ってるんですか。私に惚れる位なら女の子に惚れて濃密に絡んでください」
よしよしと慰められ、元気をなくして居たカリフラワーの鮮度が戻る。
「灯りもないし、どんな奴が居るかも分からないから慎重にいくか。……空砲撃って、君だけ帰ってもいいけど」
そうは言いつつも、暗にこんな意味の分からない場所で一人にしないで欲しい……と、青白く燐光でも放ちそうなヌルつく頭部が物語って居る。
読み取れる様になったら人間的に何かが駄目かも知れないが……。
「帰りませんよ。面白そうですし」
目に映る全てが物珍しいものばかり。
やはり時空により差は有るが好奇心の塊的狩人様だから仕方がない。伊達に良く分からない物を拾い集めたり、へその緒食ったりしていない。
せっかくの未知なので、狩人様らは荒らし回る事にしたのだった。最早そういう習性なので仕方がない。
「それにしてもコレ、何なんでしょうね」
こてりと、首を傾げ頬に張り付き既に黒ずんで乾いた血液を指先でぽりぽりと削る。狩装束は血を浴びる前提だと言っても、こんなに早く乾き凝固する血では困る。
異常者ルックで不審度が天元突破の苗床頭はまだしも、全体的に白い聖歌隊装束は目も当てられない。
「んー……変な血ですね」
無理矢理引っ掻くように落とした血が付着した指先を口へ運び、ぺろりと舐めとり逆側に首を傾げる。
散々大腿部に輸血液をぶっさしまくり、返り血をじゃばじゃば浴びまくった上に冒涜的頭部なくせに、経口で血を舐めている同行者に、苗床頭が心底引いた顔をする。
もう、何度目に成るか分からないが、当然人面はない。
ズガン!
「う゛っ!?」
その自分の外観を棚に上げたカリフラワーが、何かを言う前に鈍い発砲音に合わせて濁った声を上げて前のめりに倒れる。
「どうしたんですか急に」
めちょぉっと、どう考えても人の倒れた音とは思えない音声ですっ転ぶ同行者へ疑問を投げかけるが、その答えを聞く前に第三者の怒声が届く。
「手を上げなさい!」
恐らくどう見てもクリーチャーでしかない苗床頭に発砲したらしき女性が、ショットガンを構えつつ、凄まじい目つきでにじり寄って来る。
薄っぺらな手術着に白衣のみという、狩人以外が見たらなんともクレイジーにクールな格好だ。
今は凄まじい形相だが、中々の美人だ。
美人な女性だったので、大人しく要求通りに手を上げる。仕込み杖は離せと言われて居ないので、ちゃっかり握ったままだ。
いまの所唐突に襲い掛かって来る事は無いが、元気なヤーナム野郎共に囲まれて来た為に油断はしない。
「あなたは何者なの……? このバケモノは一体なに?」
残り数歩の位置で止まり、油断なくショットガンを構えた美女は警戒を緩める事なく厳しい声で問い詰めるする。
さて困った。
何者か、などヤーナムにて血の医療を施された際にすっかり忘れてしまった。狩人しか言いようがないのだ。
足元のバケモノに見える何かも狩人だ。
そしてその当人は現在、下の装備がすかすかの女性に近くに立たれ気まずく、恥をかかせない為に身動き取れずに居た堪れない気分になって居る。彼女は良心的なのだ。外見以外は。