オーバーロード ~三人三様の超越者~   作:日ノ川

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前回現れなかった魔将や、サトルさんのこれまでの行動についての話
ちなみに浮遊城や魔神周りの話が少し出てきますが、その辺りは不明な点が多いので想像で書いています


第24話 暗躍する絶対者

 直属の上司より今回の作戦の黒幕という役割を仰せつかって出向いた人間たちの都市、エ・ランテル。

 予定通りアンデッドの大軍とナザリック地下大墳墓の絶対的支配者である御方より預かったデス・ナイトの力によって、今やこの都市には破壊と混沌、死と絶望が入り交じっていた。

 

 だが、アンデッドに追われ、逃げまどう者たちの悲鳴を耳にしても、心は躍らない。

 己は悪魔だが、単純な弱い者いじめが好きなのではなく、自身を強者だと思っている者をいたぶることを好むタイプだからだ。

 そもそも、隕石落下(メテオフォール)によって墓地と都市の中間部を隔てる城壁を破壊した時点で、憤怒の魔将(イビルロード・ラース)にはするべきことが無くなっていた。

 アンデッドたちが最内部の城壁に着いたらそちらの壁も破壊する必要があるが、都市内の人間たちを襲いながら進んでいるため、まだ時間がかかる。

 この世界の人間たちは脆すぎて、己の力では簡単に壊れてしまう。

 人間の死体も有効活用するため、できるだけ綺麗な状態を保つ必要があり、そちらにも混ざることができなかった。

 勇者気取りの弱者が、アンデッドの群をかき分けてここまで来てくれれば、とも思うがこの都市を守る衛兵はもちろん、冒険者ですらそんなことは不可能なのは分かりきっている。

 

 些か残念に思っていたのだが、今回はそれが幸いした。

 そうして暇を持て余していたからこそ、魔将はいち早くそれに気づき、こうして遠目から監視することができたのだから。

 都市の中心部であり、アンデッドたちが目的地としている最内部の上空にて、二人の強者がぶつかり合っていた。

 

「シャルティア様が優勢のようだな」

 

 今回の作戦の発案者にして、現場での総責任者となっている第一から第三階層の守護者シャルティアは、ズーラーノーンという隠れ蓑を手に入れたことで不要になった、法国の特殊部隊を排除しに行っていたはずだが、向こうで何かあったらしく、突然都市を覆う結界のようなものが張られ、全身鎧の騎士らしき者と戦い始めた。

 

 本来は直ぐに救出に向かうべきなのだが、デミウルゴスからは未確認の強者が現れた際には、先ずは情報収集と他に伏兵がいないか確認するために相手を泳がせる方法を採るように命じられていた。

 もっとも、予定では矢面に立って戦うのは自分であり、情報を集めるのはシャルティアの役目だったのだが、戦い始めてしまったのならば仕方ない。とこうして相手の観察を続けていた。

 先に上司にして、作戦の詳細を詰めたデミウルゴスに報告するべきなのだが、あの膜の効果が分からないため、あくまで観察のみに徹していたが、それも限界だ。

 相手の騎士はシャルティアを上回るほどの強さがあるようには見えないが、万が一ということもある。

 自分のような代わりの存在する者と異なり、シャルティアは至高の御方により創造された存在。危険が及ぶ前に助けに向かうべきだ。

 

(ここまで戦って出てこないのならば、伏兵はいないと考えていいだろう)

 

 仮にいたとしても、自分には同格の魔将を召喚する切り札もある。

 この条件ならば負けはしない。

 そう。

 デミウルゴスや己の想定を遙かに超える存在でも現れない限り──

 

「ほう。こんな者まで連れてきていたか」

 

 いざ加勢を。と炎の翼を広げて戦いに参戦しようとした魔将の背後から、静かな声が響く。

 振り返るとそこには安っぽいローブを纏った者が立っていた。

 

 この周囲にもアンデッドは複数存在する。

 それらに気づかせず、ここまで潜入した時点で相手はかなりの手練れと見て間違いない。

 しかし──

 

(なんだ。この感覚は)

 

 シャルティアの元に向かわせないためにも、この場で倒すべきだと分かっているのだが、相手と対峙した途端、魔将は奇妙な感覚に襲われた。

 精神支配系の魔法でも掛けられたように、相手に攻撃どころか敵意を向けることすら烏滸がましく思えてしまう。

 理解のできない感情に戸惑いつつも何とか気力を振り絞り、戦いを挑もうとする魔将を他所に、相手はローブの下から手を出した。

 

「アンデッド、だと?」

 

 ローブから延びたのは生身の肉体ではなく、むき出しの骨格のみで構成されたアンデッドの腕だった。

 晒された五本の指には、全てきらびやかな指輪が填められている。

 アンデッドは指輪の一つを掴み、そのまま外してみせた。

 その瞬間、憤怒の魔将は己の内に湧き出でた奇妙な感情の正体を知り、即座地面に片膝を突き頭を垂れていた。

 

「ア、アインズ様! 大変失礼を致しました」

 

 指輪を外したのは、瞬きほどの僅かな間だったが間違いない。

 あれはナザリックに属する者全てが有する、仲間を見分ける特別な輝き。

 そして、指輪を外した瞬間吹き出た輝きの強さは、間違いなく自分たちナザリック地下大墳墓の絶対的支配者のみが有するもの。

 アンデッドの腕と合わせても、現在唯一残られた御方に間違いない。

 ナザリックで待機しているはずの御方が、何の連絡もなくこの場に現れた理由は分からないが、先ずはこの御方に敵意を向けるという許されざる大罪を犯したことを謝罪する。

 それを受けて御方は無言の間を空けた後、鷹揚に手を振って告げた。

 

「……いや。突然来たのは私の方だ、問題はない。それよりこちらの状況を報告せよ」

 

「はっ! 計画自体は順調に進んでおりましたが、シャルティア様が一人で行動を開始した直後、上にいる者が接触して戦闘になったものと思われます。それが計画的なものなのか、偶発的な遭遇なのかは、定かではございません」

 

 計画内容は事前に伝えているはずなので、それ以外の部分。

 この場合、シャルティアと上で戦っている何者かについてだろうと説明を開始すると、御方はそれを制止した。

 

「それは良い。先ずは計画そのものについて改めて説明せよ」

 

 既に報告が行っているはずの内容をなぜ。と一瞬考えたが、直ぐに思考を止める。

 絶対的支配者にして、至高の存在と称される御方の考えに、自分のようなものが口を挟むべきではない。

 そうは言っても上空で戦いが続いている以上、時間を掛けることなく、なるべく簡潔に作戦の概要を説明した。

 

「なるほど。上で戦っていたのはシャルティアか……」

 

 視線を中空に向けながら、御方は黙り込む。

 これほど深く長く、考え込むということは簡単には介入できない事情があるということだ。

 深く考えず戦闘に参加すればいいと考えていた己の浅慮を恥じるばかりだ。

 やがて、長い時間を掛けた後、御方は口を開いた。

 

「作戦は変更する。そのためにお前にしか頼めない重要な仕事があるのだが、聞いてもらえるか?」

 

 本来、絶対的支配者である御方が確認する必要などない。ただ命じればいい。

 しかし、お前にしかできないという言葉で胸中に浮かんだのは絶対的な喜び。

 憤怒を司る悪魔である己には、相応しくない感情かも知れないが、そう感じたのは紛れもない事実だ。

 

「何なりとお命じ下さい。アインズ様。至高の御方々に直接創造された皆様とは立場こそ違えど、忠誠心では負けるつもりはございません。どのような命であれ成し遂げてみせます」

 

 己の本心をそのまま告げた魔将の言葉に、御方は一つ頷いた。

 

「では、憤怒の魔将よ。すまないがお前には敵の目を欺くために、ここで死んで貰いたい……できるか?」

 

 静かな声で発せられたその命には、僅かに言い澱むような間を感じられた。

 

「何の問題もございません。即座に」

 

 対して魔将は、一瞬の迷いも見せずに了承する。

 実際何の問題もない。

 御方がそれを望むのならば、そうするだけのこと。

 そもそも悪魔とは、別の世界から召喚主によって呼び出された存在。

 ここで死んでも元の場所に戻るだけ。

 死が死でないからこそ、どんな命令でも迷いなく実行に移せる。

 むしろ、そんな自分に対し御方、いや主が僅かでもその死を惜しんでくれたのならば、これに勝る喜びなど存在しない。

 ただ一つ。

 これでもう主のために力を尽くせないことだけは、残念だったが。

 

 僅かに残った未練を断ち切るように、魔将はその命令を実行に移した。

 

 

 ・

 

 

 世界移動を使って自分の拠点ではなく、先ずはエ・ランテル近くに移動する。

 一気に自分の拠点に戻らなかったのは、サトルが使用する魔法の中に、相手に随行して一緒に飛ぶ魔法があることを覚えていたからだ。

 それを使ってあの仮面の女と共に拠点に攻め込まれると、ツアー本体でも勝てるかは分からない。

 八欲王の残したギルド武器を守りながらではなおさらだ。

 だから、こうして一度別の場所に転移して、追跡者がいないか確かめる必要があった。

 始原の魔法と異なり、位階魔法は非常に種類が多いため、戦う場合は様々な状況を想定しなくてはならないのだ。

 

「敵の転移に随行する魔法、か。何て名前だったかな」

 

一方的な決闘(ロプサイデッド・デュエル)、だ。良く気づいたな」

 

 後ろから声が聞こえた瞬間、ツアーは自身の周囲に浮かび上がらせていた武器の一つを手に取り、背後に向かって振るう。

 

(やはり使用していたか!)

 

 手にした武器は、スケルトン系アンデッドであるサトルに、もっとも効果的な殴打攻撃を加えられるハンマー。

 いつもサトルが着用している純銀の鎧であれば防げただろうが、先ほど見たサトルはツアーも見たことのない豪華なローブ姿だった。

 一撃で倒すことはできずとも、ダメージは通るはずだ。

 

「ちょ! 待て! 俺だ」

 

 その声と共に鎧を通じて見えた視界に映ったのは、やはりあの純銀の鎧ではなかったが、先ほどまで着ていた豪華な装飾の着いたローブでも無かった。

 サトルが身に纏っていたのはツアーと再会した際に身に付け、旅の中でもずっと着用していた見慣れた安っぽいローブだった。

 それを見た瞬間、これまでの旅の思い出が蘇り、ハンマーを振るう腕の速度がほんの僅かに緩む。

 その隙を突くようにサトルが距離を取ったことで、当たるはずだった攻撃は空を切り、ツアーの鎧は体勢を崩した。

 

(しまった! 追撃が──)

 

 人体の構造などは無視して稼働できる鎧であっても、体勢を戻すまでには僅かな隙が生まれる。

 サトルほどの男ならば、この隙を逃すはずがない。それとももう一人の仮面の女が来るか。

 体勢を立て直すことを諦め、防御の姿勢を取るツアーだったが、攻撃はいつまで経ってもやってこない。

 それどころかサトルは、やれやれ。と口に出しながら地面に腰を下ろしていた。

 

「お前も座れ。話がしたい」

 

 今更話など。とは思うが、これから戦うにしろ情報収集の大事さはツアーも理解している。

 周囲を警戒しつつ、ツアーは鎧を操り地面に腰を下ろす。

 鎧は単なる操り人形なのだから立っていようと座っていようと関係ないのだが、この旅の最中は人の振りをしなくてはならない場面が多々あったこともあって、すっかり癖になってしまった。

 そうして正面から向かい合うと、サトルは大きなため息を吐いてから口を開く。

 

「先に言っておくが、さっき現れたあのアンデッドは俺じゃない」

 

「いまさら何を言っている。あの声は君そのものだった」

 

 ドラゴンであるツアーには、他種族の見分けは付きづらい。

 人間に関しては、評議国や他国の者たちと接することもあったため、ある程度ならば分かるが、交流の薄い種族となると難しい。

 ましてスケルトン系は殆ど同じに見えてしまう。

 そのため外見ではなく、声やドラゴン特有の超感覚で掴みとれる雰囲気などで相手を判別するのだが、あのアンデッドは間違いなくサトルだった。

 そんなツアーの指摘を、サトルは軽く手を振って流す。

 

「声を変える方法などいくらでもあるだろ。ほら」

 

 ほら。と言いながら、サトルは自分の首元に手を持っていくと、同時に声が変わった。

 そちらの声にも聞き覚えがある。

 口唇蟲というモンスターを使用して声を変える方法で、サトルは旅の途中でも鎧姿とローブ姿の時で声を使い分けていた。

 この方法だけではなく、多様な魔法が存在する位階魔法にも姿や声を変えるものも存在するが、それはあくまで別人になる方法。

 特定の誰かに成りすます能力を持つ種族がいるという話を聞いたこともあるが、それとて相手のことを知らなくては真似ることはできない。

 

「まったく別人になるのならばともかく、サトルの姿や声を知らなければ真似ることはできないだろう」

 

 ツアーの言葉を受けて、サトルは再び息を吐いた。

 

「それは当然だ。奴と俺はかつて仲間だったプレイヤー同士だからな」

 

「仲間とはどういうことだい? やはり君は──」

 

 問い詰めるツアーに向かってサトルは手を伸ばし、それを制すると静かに続ける。

 

「順を追って話そう。お前も薄々気づいていただろうが、俺はここで、いや。この近くで揺り返しが起こること。そして、あの事件が起こることも初めから知っていた」

 

(やはり、か)

「それは何故?」

 

「俺自身が、二百年前同じ場所に現れたからだ」

 

「君が? しかし、だからといって同じ場所に何度も現れるとは限らないんじゃないか?」

 

 そんな法則があるのなら、竜王たちももっと早くぷれいやーの動きを掴んでいる。

 強大な力を持った者たちが、百年ごとにどこに現れるか分からないからこそ、ぷれいやーは脅威なのだ。

 

「お前が教えてくれたんじゃないか。揺り返しは世界級(ワールド)アイテムが起点になって行われると。俺の拠点には他にも世界級(ワールド)アイテムが存在したが、この世界に来たのは俺だけだった。過去に知っている者が転移している記録もない。ようは何らかの理由で俺が先に転移しただけで、次かその次の揺り返しの際に別の者、あるいは拠点そのものが現れると踏んでいたわけだ。その上で奴らなら近くに存在するあの都市に目を付けると思っていた」

 

 淡々と答えるサトルに、ツアーは複雑な気持ちになる。

 人間であれば眉間に皺を寄せて、ため息の一つでも吐いているところだ。

 

「何故話してくれなかったんだい?」

 

「悪いと思っている。だが、俺は旅の最中、竜王に酷い目に遭わされたんでな。お前がどう出るか読めなかったから慎重になっていたんだよ」

 

「竜王に?」

 

「対話しようとしたが問答無用で攻撃された。お前はプレイヤーを悪だと認識したときのみ排除すると言っていたが、この二百年で竜王全体の考えが変わったのかも知れないと思ってな。まずはそれを確かめたかった」

 

 生き残っている数少ない竜王の中には、ぷれいやーを憎んでいる者が多いため、あり得ない話ではない。

 同盟を結んでいる者たちもいるが、それもあくまで緩やかなものであり、ぷれいやーに出会ったときの対応などは、竜王それぞれが独自に決めていると言っていい。

 

「どの竜王に会ったのかは知らないけど、災難だったね。だが、それはあくまでその竜王の考え、私の考えは二百年前から変わっていないよ。ぷれいやーだからといって全てを悪だとは思っていないが、君たちの力は強すぎる。力を持つ者はその力の使い方に注意を払い責任を取る必要がある。それができない者は、かの八欲王のように己の欲望のために世界そのものを汚す。それは許されない」

 

 これこそがツアーの信念で在り、行動理由だ。

 その意味で共に魔神を滅し、その後もどこかの勢力に荷担することもなく、一人で旅を続けていたサトルはそれができている者だと考えていたから、ぷれいやーだと知った後も何もしなかったのだ。

 

「そのお前が対話ではなく、初めから戦ったということは、今回この世界に来た者たちは失格になるわけか」

 

「当然だ。あの都市の惨状を見なよ。奴らは去ったがアンデッドは消えていない。エ・ランテルはもう終わりだ。どんな理由があろうとこんなことをしでかした彼らは、本質的には悪だよ」

 

 国同士の争いや、生存競争などとは違う。

 ただ強すぎる力をむやみやたらと振り回すあの者たちは、間違いなくこの世界を汚す敵だ。

 

「俺もそう思う」

 

「しかし、さっき君は私を助けに来なかったじゃないか。倒すのならばあれが絶好の好機だったはずだろう?」

 

 仮面の女が一人で戦っているときにサトルが加勢していれば勝利は確実だった。

 そこで仮面の女を倒しておけば、その後サトルが自分に化けていると言った──本当かどうか未だ疑っているが──かつての仲間が来たとしても、そのまま二対一で倒すことができたはずだ。

 そうしなかった以上、サトルは彼らと敵対する気はないのではないか。そんな懐疑的な視線を──鎧を経由して伝わるはずもないが──向けて言うとサトルは僅かに声を落とした。

 

「俺の存在が知られるわけにはいかなかったこともあるが、何より、奴らの戦力はあれで全てじゃないからだ」

 

「なに?」

 

「言っただろう。次に来るのは拠点ごとかもしれないと。最初に現れた仮面の女、あれはシャルティアという名だが、奴はプレイヤーではなくNPCだ」

 

「世界の守りが無いから、もしかしてと思っていたけど、やっぱりそうか」 

 

「そこだ。本来奴は世界の守り、つまり世界級(ワールド)アイテムを持ってはいない。そうした者まで転移してきたのならば、今回の揺り返しによって現れたのは一人や二人ではなく、かつて俺が拠点としていた場所、ナザリック地下大墳墓そのものの可能性が高い」

 

 確かに揺り返しの起点となるのは、サトルが世界級(ワールド)アイテムと呼ぶ、特別な力を持ったアイテムの存在だ。

 揺り返しによって別の世界から現れるのは、それを持っていたぷれいやー自身、あるいはそれが置かれた拠点そのもの。

 その具体的な例も、ツアーは知っている。

 

「それは、八欲王の浮遊城のような?」

 

「ああ」

 

 その言葉を聞き、ツアーは思わず頭を抱えたくなった。

 十三英雄と共に八欲王の残した超級のマジックアイテムを手にするため、ツアーはかつてあの都市に出向いたことがある。

 そこで出会った都市を守っている三十人にも上る都市守護者たちは、全員が桁の違う魔法の武具を装着しており、その強さは十三英雄どころか、討伐対象であった魔神の強さすら超えている者たちばかりだった。

 

 その都市守護者こそが、ぷれいやーに絶対の忠誠を誓い、手足となって働くえぬぴーしーと呼ばれる存在なのだという。

 当時世界中で暴れまわっていた魔神たちも元は六大神に仕えていたえぬぴーしーであり、何らかの理由により暴走したことで魔神に堕ちた存在だったらしい。

 ツアーが拠点に籠り、八欲王のギルド武器を守っている理由がそこにある。

 

 えぬぴーしーが魔神になる条件は分かっていないが、可能性の一つとして拠点を失ったことに理由があるのではないか。と考えられたためだ。

 ギルド武器はそれそのものが強力な力を持つが、同時にその武器が壊されると拠点が崩壊することはサトルから確認も取れている。

 つまり八欲王のギルド武器が破壊されることで、浮遊城が消滅した場合、そこにいる都市守護者たちが魔神となって暴れだすかも知れない。

 一人一人がかつての魔神より強大な都市守護者が暴れ出せば、その被害は魔神との戦いの比ではない。そうさせないために、ツアーはギルド武器から目を離すことができないのだ。

 

 同様に、サトルの言うナザリック地下大墳墓なる拠点にも、先の仮面の女と同等の強さのえぬぴーしーが複数存在しているとすれば、確かに危険この上ない。

 

「だからこそ、あの場は手を出さず静観した。お前の鎧はあくまで道具の一つ。あそこで破壊されたとしても大きな問題はない。いや、破壊されれば奴らの油断が誘えるかもしれないからな」

 

 この鎧も今となっては貴重な物なのだが。

 と言いたい気持ちを押さえ込む。

 世界の危機に比べれば大した損害ではないのは事実だからだ。

 

「……けど相手は仲間なんだろう? 君が出てきて説得してくれれば話し合いで解決ができたんじゃないか?」

 

「残念ながら、俺と奴は喧嘩別れをしたも同然でな。何よりお前が言っていたように奴らの本質は悪だ。逆に聞くが、奴らが説得に応じ、これから何もしないと言ったとして、お前はそれを受け入れられるのか?」

 

 無理だ。と心の中で即答する。

 エ・ランテルの破壊だけならば、まだ目を瞑ることができる。

 王国は騒ぎ出すだろうが、それこそサトルがシャルティアと呼んだ女が言っていたように、ズーラーノーンの仕業に見せかけても良い。世界の危機と比べれば大したことではない。

 問題はそこではない。

 これだけの力を持った者がもっと大勢存在する勢力に付ける首輪など存在しないことが問題なのだ。

 ツアーがギルド武器から目を離せない以上、いつかまた監視の目をくぐり抜けてこの都市と同じようなことを、もっと大規模で行いかねない。

 だからと言って、それだけの勢力が相手となると自分だけでは手に余る。

 他の竜王や慈母たちに協力を求めるにしても、彼らとは最終目標が違うため、それも難しい。

 

「だが。一つだけ奴らを押さえる手がある」

 

「それは一体──」

 

「簡単なことだ。奴らの拠点ナザリック地下大墳墓を俺たちが制圧すればいい。もっと言うのなら、中にいるただ一人のプレイヤー、先ほどお前のところに現れた奴を討てばいい。そうすれば、残るプレイヤーは俺一人。奴らはこちらの命令に従うようになる」

 

「ぷれいやーは一人だけなのかい?」

 

 八欲王は八人で六大神は六人。と拠点ごと現れた場合のぷれいやーの数は固定されていない。

 特に八欲王はそれだけの数で、竜王の殆どを狩り尽くすほどの強さを持っていたのだ。

 そんな者たちが複数いた場合、自分たちだけでは勝ち目はない。

 ツアーの質問に、サトルは強く頷いた。

 

「それは間違いない。ただ一人残ったプレイヤーはチームのリーダーだった男だ。NPCたちは皆俺ではなく、そちらにつくだろう」

 

 えぬぴーしーだけに接触して離反させるのも難しいということだ。

 

「それを私たち二人でやるっていうのか?」

 

「いや。流石に手が足りない。拠点にはNPCだけではなく数多のモンスターも存在する。直接攻めるのは俺たちがするにしても、奴らの目を引き付けておく必要もある」

 

「ではどうする? また仲間集めでもするかい?」

 

 十三英雄の仲間たちを集めたように。

 と口外に続けると、サトルはあっさり頷いた。

 

「そうしよう」

 

「だが、仲間と言ってもどこから──」

 

 あのときの仲間が集まったのは、魔神によって各地の小国や都市が破壊されたことで、種族の垣根を越えて一致団結したからだ。

 今とは状況が違う。と言おうとして、はたと気づく。

 エ・ランテルは三国の要所。

 ここが破壊されたということは。

 

「そうだ。近場にある国にこのことを知らせて危機感を煽り、周辺国家同盟を結ばせる」

 

「周辺国家というと、エ・ランテルに隣接する三国か」

 

「それだけでは足りない。お前ならば評議国も動かせるだろう。そして、竜王国も参加させる手はずは整えている」

 

「竜王国? 確かにあの国は七彩の竜王が造り上げた国だから、ぷれいやーの脅威は知っているはずだけど、今はビーストマンの国から侵略を受けてそれどころではないと聞いているよ」

 

 ツアーの言葉に、サトルは得意げに鼻を鳴らす。

 

「情報が古いな。ビーストマンは既に漆黒なるワーカーチームの活躍で撤退した。そしてその漆黒が今エ・ランテルに来ているんだよ」

 

「エ・ランテルに?」

 

「そうだ。俺が話を付けておいた。プレイヤーの脅威を伝え、エ・ランテルで戦力になる冒険者を纏めて外に連れ出してくれとな。竜王国に多大な貸しがある彼らなら、女王を動かせるだろう」

 

「いつの間にそんなことを」

 

「何のために俺が一人で出歩いていたと思っている」

 

 ツアーがアズスと会っている間、一人で出歩いていたときのことだろう。都市内を観光すると言っていたが、そんなことをしていたとは。

 しかし、これではっきりした。

 この入念な手回しといい、ここまでのサトルの不可解な行動は全て各国を巻き込む、この計画のために行われたものだったのだ。

 

 先ずは、ツアーを仲間に引き入れてエ・ランテルに誘導し、相手の邪魔をせずに静観してわざとエ・ランテルを破壊させることで、その危険性をツアーに見せつけて、同時に周辺国家の敵を作り出した。

 その上で各国に繋がりを持つツアーや漆黒なるワーカー使って、周辺国家全てを巻き込み巨大な同盟を作り上げる。

 そうすれば敵の目は必ずそちらに集中する。

 ツアーとサトルはその隙を突いて、ぷれいやーを討つ。

 これこそがサトルの思い描く計画だ。

 

「流石はサトル。全ては君の計算通りというわけだ」

 

 こちらを騙して思うままに操っていたサトルに、皮肉混じりに言う。

 

「ふふっ。何の話だ?」

 

 あまりにも分かりやすい演技だが、誤魔化したいというのならばそれでいい。

 綺麗ごとだけで世界が守れないことは、ツアー自身よく知っているのだから。 

 

「いや、いいよ……計画は分かった。でも、その計画に乗る前に、肝心なことを聞こう」

 

 だからこそ、今ここで確認しておかなくてはならないことが残っている。

 一度言葉を切ってから、ツアーはサトルを真っ直ぐに見据えて意思を確認する。

 

「君は仲間であるぷれいやーを討てるのか?」

 

 ツアーの問いかけに、サトルは熟考するような間を空けてから、ゆっくりと、しかし力強く頷いた。

 

「……お前も言っていただろう。力には責任が付きまとう。その意見には俺も賛成だ。自らの過ちの責任は取らなくてはならない」

 

 そう言ってサトルは視線をエ・ランテルに向ける。

 暗闇を照らす炎と煙、そして、人々の悲鳴。

 今さら助けに戻ることはできないが、その責任はサトルの仲間であったぷれいやーに取らせると言いたいのだろう。

 

「それに、あんな連中が居たのでは、旅も続けられないからな」

 

 真面目な口調を解き、冗談めかして言うが、案外これこそがサトルの本心なのかも知れない。

 サトルとそのぷれいやーの付き合いがどれほどかは知らないが、少なくともサトルが、かつてこの世界を救い、その後二百年間過ごしていたことは事実。

 一人で旅をすることを好むサトルが、かつての仲間よりこの世界のことを気に入ったとしても不思議はない。

 

「……分かったよ。しかしここまでずっと隠し事をされていたんだ。まだ君を全面的に信じることはできないからね」

 

 ツアーもサトルに合わせるように軽口を叩くが、これは本心でもある。

 

「分かっている」

 

 痛いところを突かれたとばかりに苦笑するサトルを、じっと見据えながら考える。

 相手に責任を取らせるためと言ってはいるが、計画が上手く進めば喧嘩別れしたというぷれいやーを討ち、ナザリックなる拠点をサトルが手中に収めることになる。

 そうしてサトルが何をするつもりなのか。ここまで来ても、サトルの本当の目的が見えない。

 それをじっくりと見極める必要がある。

 

「それで。これからどうするんだい?」

 

「先ほど話した漆黒に会いに行く。お前はどうする? 鎧もずいぶん傷ついているが、一度戻るか?」

 

 確かに鎧にはいくつも傷が残っており、込められた力も目減りしているが、今サトルから目を離すわけにはいかない。

 

「いや。私も付いていくよ。竜王国を救ったという英雄に会ってみたい」

 

「英雄、か」

 

 漆黒なるワーカーもまた、この世界の為に立ち上がった英雄だというのなら、サトルのことを抜きにしても会ってみたい。

 かつての仲間たちと同じように、この世界を守護する仲間になってくれるかも知れないのだから。




本当はサトルさん側視点の話も入れたかったのですが長くなったので切ります
次はこれまでぼかしていたサトルさんの心情についての話になると思います
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