オーバーロード ~三人三様の超越者~   作:日ノ川

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同盟結成編ということでまずは竜王国
国が多いので短くできるところは出来るだけ飛ばしていきます

そろそろ話数が増えてきたので章分けしました


第27話 同盟参加の呼びかけ・竜王国

 竜王国の首都にある王城に出向いたモモンガたち一行は、以前と同じ謁見の間に通された。

 以前は大量に衛兵が詰めていたが、今回残っているのは一人だけなのは、モモンガたちへの信頼の証なのだろうか。

 そもそもこんなに早く謁見できるとは思わなかった。

 仮にも一国の王に謁見を求めたのだから、数日、下手をすれば一週間ほど待たされることも覚悟して、以前も利用した宿を取ってきたのだが、無駄になってしまった。

 

(まあ、あっちはあいつらを泊めさせればいいか。あんな高い宿を奢るのはちょっともったいないけど……)

 

 竜王国、帝国、都市国家連合の三ヶ国を担当することになったモモンガたち冒険者チームは、カッツェ平野の手前で二手に分かれた。

 法国がプレイヤー側に与すると分かった以上、今回の周辺国家同盟設立は法国に気づかれないよう秘密裏に行わなくてはならない。

 そのため表向きは単純にエ・ランテルを何とか脱出した冒険者たちが、今後どうするか考えるために一時的に纏まっているように見せかけ、そちらに注意を向けさせることにしたのだ。

 その際の駐留場所として選んだのは、カッツェ平野に存在する王国と帝国が共同出資した小さな街ヴァディス自由都市であり、都市を脱出した冒険者の大部分はそちらに向かって移動を開始している。

 

 モモンガたちはその間に転移を使って竜王国の首都に直接出向き、交渉することになったのだ。

 本当はモモンガたちだけでも良かったのだが、ドラウディロンの説得とは別に、国家の影響を受けづらい独立した組織である各地の冒険者組合の説得も同時に行うことになり、一応エ・ランテルの組合長からアダマンタイト級冒険者に認定されたとはいえ何の実績もなく、竜王国のアダマンタイト級冒険者チームを見殺しにしたワーカーチームと認識されている漆黒よりは説得がしやすいだろうと、残った冒険者の中でこちらでも仕事をしたことのある者と、モモンガたちの顔見知りだった漆黒の剣を同行させた。

 彼らには組合説得の後、宿に集まるように言ってある。

 モモンガたちとドラウディロンの話し合いがどれほど時間が掛かるかは不明だが、仮に数時間待たされるとしても、そのまま自分たちが借りた宿を使わせればいい。

 むしろ今問題なのは。

 

「……」

「……」

 

 この城に来てから、明らかに不機嫌になっているソリュシャンとナーベラルの二人だ。

 どうも彼女たちは以前ドラウディロンが口にした、竜帝の汚物発言を未だに引きずっているらしい。

 

(取りあえず大人しくしておけとは言ってあるけど、大丈夫かな)

 

 少し前までの二人なら、モモンガが命令したことは必ず守る確信があったが、悟と再会した際に命令を無視して合流してきたこともあり、絶対とは言い難くなった。

 それは彼女たちがゲームのNPCではなく、一つの命を持った存在として成長した証とも言える。

 本来は歓迎すべき事態ではあるのだが、エ・ランテルを襲撃したプレイヤーの情報を集めるには、各国の力が必要となるため、同盟設立までは大人しくしていて貰いたい。

 

 そうでなくても、モモンガはこれから面倒な仕事をこなさなくてはならないので、余計なことに気を使いたくはない。

 

 そう。モモンガの仕事は竜王国の同盟参加要請だけではないのだ。

 次の目的地である帝国や都市国家連合の首脳陣と謁見するための、紹介状を貰うことも仕事のうちに含まれている。

 大量の冒険者たちをヴァディス自由都市から他国である帝国に入国させるためには、そうした国家の後ろ盾が必要になるからだ。

 

 それらも含め、悟は竜王国の説得についてはモモンガに一任すると言ってきた。

 ビーストマンの大群を追い払い、女王にも貸しがあるモモンガならば簡単に説得できると考えていたようだが、正直気が重い。

 プレイヤーの脅威を知っているドラウディロンなら、エ・ランテルの話を聞けば危機感は持つだろうが竜王国は現在復興の真っ最中。

 将来的に大きな危険に繋がるといっても、今直ぐに国を挙げての支援は難しいのではないだろうか。

 

 そもそもモモンガはドラウディロンと国を守る契約をして、その対価として既に情報も得ている。

 そんな状況であくまで王国の一都市であるエ・ランテルの危機を救うための同盟を結成し、帝国や都市国家連合との顔つなぎも頼むというのは、少々図々しい気がする。

 どう説得したものか分からないというのが、正直な気持ちだ。

 力関係で言えばこちらが圧倒的に上なので、脅して言うことを聞かせることもできるが、真なる竜王と呼ばれる者たちの力の一端を目撃した今、不要にドラウディロンを怒らせるような真似はしたくない。

 二人に大人しくしていて欲しいのはそうした事情もある。

 

(しかし、そうなると他にどんな手があるだろう)

 

 どちらにせよ、先ずはエ・ランテルでの話を聞かせて、その時の反応を見なくては始まらない。

 

 

 そんなことを考えている間に、ドラウディロンの準備が出来たらしく、以前彼女と会談した際にもいた宰相の男が顔を見せた。

 男はモモンガたちに小さく会釈をした後、近衛騎士に合図を送る。

 同時に騎士が声を張り上げた。

 

「ドラウディロン・オーリウクルス女王陛下の御入室です」

 

 いつかと同じように頭を下げて、ドラウディロンを出迎えた。

 二人に関しても流石にこうした礼式を無視するつもりはないようで、大人しく頭を下げている。

 ややあって、室内に小さな足音が聞こえて、不思議に思う。

 足音も歩幅も妙に小さい。

 やがて顔を上げるように声が掛かったとき、モモンガはその違和感の答えに気がついた。

 視線の先にいたのは、一番初めに会ったときと同じ、幼い少女の姿。

 好奇心と天真爛漫さを同居させた明るい瞳。

 しかし、モモンガはこの姿が偽りのものであることを知っている。

 やはりソリュシャンが推理したように、衛兵にはこの姿が本当の姿だと思わせているため、人前ではこの姿を取らなくてはならないのだろう。

 現在冒険者の前では英雄然とした態度で接し、ソリュシャンたちの前ですら絶対者としての態度を崩せないモモンガからすると、同じ苦労をしているのだと思えて何となく親近感が湧いた。

 

「お待たせして申し訳ございません」

 

 相変わらず幼い子供が背伸びをして女王としての責務を全うしているとしか思えない、見事な演技だ。

 そんなドラウディロンに、隣に立った宰相がほんの一瞬だけ嫌そうな顔をしたのが分かった。

 ドラウディロンの本性を知っている彼からすれば、正体が気づかれている相手にも演技を続ける様は滑稽に見えているのかもしれない。

 

「いえ。こちらこそ、突然の訪問にも関わらずお会いして頂けましたこと、感謝申し上げます」

 

 そうした気持ちを隠しながら、モモンガは深く頭を下げる。

 

「何を仰います。皆様は我が国にとって救国の英雄。私が今この椅子に座っていられるのもすべては皆様のおかげなのです。時間ならいくらでも都合致します」

 

「ありがとうございます」

 

「そうそう。私の方からも皆様にお知らせしたいことがあったのです。皆様のご活躍によって取り戻すことができた都市の復興が進み、元通りとはいきませんが、もう国の支援がなくても都市内だけで生活できるようになったのです。他にも──」

 

 どう切り出したものかと考えていたモモンガを尻目にドラウディロンは、ビーストマン襲撃によって受けた都市の復興の様子や、国民がどれほどモモンたちを英雄として崇めているかを滔々と語り始めた。

 一見するとモモンガたちに感謝を伝えているようだが、それだけではなく、だから竜王国を見捨てないでくれ。と言外に伝えているのが良く分かる。

 

(もしかして、エ・ランテルでのことがすでに伝わっているのか?)

 

 いささか唐突な褒め殺しを不思議に思っていたが、そう考えると納得がいく。

 そうした災害が次は自国に降り注ぐことを危惧して、モモンガたちを何とか自国に留めておきたいのだろう。

 

(悟の言うことが本当なら、竜王勢力はプレイヤーと未だに敵対関係にあるらしいし、次にこの国が狙われたとしても不思議はないか)

 

 だからといって竜王国に留まり続けるわけにはいかない。

 これから帝国や都市国家連合にも出向かなくてはならないのだ。

 それも含めて、いい加減この話題を打ち切って本題に入りたいのだが、ドラウディロンの正体を知らない衛兵もいるこの場で、こちらから話を切り出すのは難しい。

 

 黙って聞きながら必死に頭を回転させていたモモンガだったが、やがて室内に呆れかえったため息が聞こえてきた。

 前回のようにソリュシャンが動いたのかと思ったが、そうではなかった。

 そのため息は女王の隣に立っていた宰相が発したものだった。

 それを受けてドラウディロンも表情も崩し、こちらに目を向けると、小さく笑みを浮かべてから軽く肩を竦めた。

 その動きは明らかに、少女のそれではない。

 

「分かった分かった。また魔法を放たれてはかなわん」

 

 姿は少女のままだが、発する雰囲気は既に会談の際に見せた大人に戻っている。

 そのまま玉座の肘置きに腕を乗せて頬杖を突いたドラウディロンは、もう片方の腕を衛兵に向けた。

 

「悪いが、お前は一度下がれ。誰も近寄らせるなよ」

 

「は、はっ!」

 

 一瞬動揺したような様子を見せたが、衛兵は黙って指示に従い謁見の間を後にする。

 

(ああ。そういうことか。あの衛兵は初めからドラウディロンの正体を知っていたのか)

 

 その上で、モモンガたちが正体をばらせないことを逆手にとって、先ほどの賞賛を聞かせていたというわけだ。

 冷静な宰相が客の前で分かりやすく嫌な顔をしたり、ため息を吐いたのは、これがソリュシャンとナーベラルの怒りを買うことを理解していたからだったのだ。

 実際こっそり窺うと、ソリュシャンたちは明らかに怒りと不満に満ちた視線をドラウディロンに向けていた。

 

「すまんな。だが分かって欲しい。私が今言ったことは全て事実だ。この国の全ての人間が貴公らに感謝している。今はまだ貴公らが求める新たなぷれいやーに関する情報は得られていないが復興も順調だ。これが終わればより多くの情報も集められる。だからこそ、頼む。もう少し時間の猶予を貰いたい」

 

 そうした二人の視線を受けてもなお、毅然とした態度を崩さず、背筋を正すと改めてモモンガに向かって頭を下げた。

 為政者でありながら、いざというときは頭を下げることもいとわないその姿勢に思わず感心する。

 今回の揺り返しによって現れたプレイヤーがナザリックと関係が無かった以上、これから最低でも百年は二人の前で支配者として演技を続けなくてはならなくなったのだ。

 今後に備えてそうした振る舞いも学ばねばと思っていたが、ドラウディロンは良いモデルケースになるかもしれない。

 

「モモン殿?」

 

 ドラウディロンに頭を下げさせたまま、モモンガが何も言わないのを見て宰相が問いかける。

 

「お顔を上げてください陛下。今日はそのことで伺ったわけではありません。まだ頼んでからそう時間も経過してもおりませんからね」

 

 先ずはドラウディロンの勘違いを解いておく。

 そもそもドラウディロンに頼んでいた新たなプレイヤーに関する情報はもう必要ないかも知れない。

 何しろ既に、その者たちと思しきプレイヤー勢力と接触しているのだから。

 そう考えながらふと思いつく。

 

(いや。これは使えるか?)

 

 新たな転移者を調べて貰うことも報酬の内なのだから、ここからエ・ランテルの話を持っていき、その者たちについての情報を集めるために周辺国家連合に加入して貰えばいい。

 その上でモモンガたちは、いざという時は竜王国を優先すると言えば、契約を守ることもできる。

 モモンガが頭の中で考えをまとめている間に、顔を持ち上げたドラウディロンには安堵の色が浮かんでいた。

 

「何だ。その話じゃなかったのか。てっきり、他国に本拠地(ホーム)を移すとかそういう話かと思って慌てたぞ。そのせいで先の衛兵に本来の姿を見られてしまった」

 

 衛兵が出ていった扉に視線を向けてから、ドラウディロンは続ける。

 

「ではそのアダマンタイトプレートはどうした? 貴公らはワーカーだったはずだが」

 

 椅子に座り直し、気の抜けたような息を吐きながら、モモンガたちの胸元に掛けられたアダマンタイト製のプレートに視線を向ける。

 ワーカーであったはずのモモンガたちが冒険者、それも一気にアダマンタイト級になったことも、ドラウディロンが勘違いした理由の一つだったようだ。

 

「私たちがここに来たのは、その件です。陛下、王国帝国法国、三国の国境線に位置している城塞都市エ・ランテルをご存じですか?」

 

「無論知っている。カッツェ平野を隔てているから直接ではないが、法国側のルートを使って我が国との交易も行っている。王国守護の要になっている都市だろう?」

 

 淡々とした語り口から見るに、やはり未だエ・ランテルの情報は伝わっていないようだ。

 

「はい。三重の壁に守られた強固な都市ですが、そのエ・ランテルが壊滅いたしました。恐らくはプレイヤーの手によって」

 

「……はぁ!?」

 

 一拍間を置いてから、ドラウディロンは玉座から立ち上がり声を張り上げた。

 その隣では宰相がその声の大きさを咎めるように顔をしかめていた。

 

 

 ・

 

 

 突然現れた漆黒がもたらした情報は、まさに一大事と言えるものだった。

 性格はともかく、統治能力という点では稀代の名君と呼ぶに相応しい帝国の皇帝ジルクニフと、彼が率いる一人一人が専属兵士で構成される帝国騎士団ですら、まともに攻略する事が出来ないために、絡め手を使用するしかないと宰相から聞いていた王国の要であるエ・ランテルが、一夜にして壊滅した。

 それも内部から行政区を押さえるなどの奇襲作戦ではなく、単純な暴力によってだ。

 モモンたちを初めとしたわずかな冒険者を残して、住民は殆ど壊滅した。

 それを実行に移したのはぷれいやーであり、さらにはそれと敵対する別勢力までも現れたというのだ。

 改めて、とんでもない話だ。

 それこそ冗談でも何でもなく、世界そのものの危機と言えるほどの大事件を突然聞かされ、その内容を整理するために思考を働かせすぎたせいで痛みを感じる頭を押さえながら、ドラウディロンは質問する。

 

「……法国がぷれいやー側に与しているのは間違いないのか?」

 

「確信はありませんが、我々の前に姿を見せた陽光聖典隊長を名乗った男によれば間違いないと」

 

「陽光聖典か……」

 

 法国の特殊部隊六色聖典の一つにして、モモンたちが来る以前のビーストマン侵攻の際、常に力を貸してくれていた部隊の名を聞いて、一つ思い当たる節があった。

 今回のビーストマンの大侵攻によって三つの都市が占拠される事態に陥ったのは、例年であれば毎回陽光聖典を貸し出してくれていた法国が今回に限って沈黙を守っていたからだ。

 そのせいでなす術なく都市が占拠される結果となった。

 それも法国の内部がぷれいやー勢力によって支配されていたせいだとすれば、説明が付く。

 

「あり得るな。確かに最近の法国の動きは妙だ」

 

「それにプレイヤーだけではなく、それを追って現れたもう一つの勢力も気にかかります。単独であれほどの魔法を行使する存在など聞いたこともない」

 

 やれやれと言いたげに肩を竦めるモモンに、ドラウディロンも一度法国の件を置いて、そちらに思考を向けなおす。

 

「転移魔法のみを阻害する都市を覆うほどの広範囲結界か」

 

「……陛下には心当たりがあるのではありませんか?」

 

 こちらを探るようなモモンの言葉に、ドラウディロンは言葉を詰まらせた。

 確かにその謎の勢力が使用した魔法には心当たりがある。

 モモンもそのことを半ば確信しているようだ。

 渡した情報の中に、真なる竜王が使用する始原の魔法に関するものは無かったはずだが、モモンもぷれいやーの子孫である以上、情報を持っていても不思議はない。

 

(仕方ない。隠して後で気づかれても面倒だからな)

 

 未だこちらに殺意を込めた視線を向け続けている二人を前にしては、誤魔化すのも容易ではない。

 モモンに言えば多少は押さえられるだろうが、それも多用していては怒りを買い続けるだけだ。

 

「私の曾祖父を初めとした真なる竜王と呼ばれる、ごく一部の竜王のみが使える始原の魔法の一つに同じものがある」

 

「やはりそうでしたか」

 

 ドラウディロン自身も使用することが出来るが、流石にそれは言うことは出来ない。

 そもそも魂を消費して発動するこの魔法。ドラウディロンが使用する際は、他の竜王と異なり己の魂だけでは到底足りず、数万から数十万。最高位の魔法ともなれば百万程度の命を使用しなくては発動も出来ない。

 ゆえにこれは宰相にすら正確には伝えていない。

 まさに最終手段だ。

 

「だが、竜王自体の姿は見ていないのだろう?」

 

 竜王はその名の通り竜である以上、いずれも巨体を誇っている。

 遠目からでもすぐに分かるはずだ。

 

「ええ。暗闇の中、上空で戦っておりましたので、はっきりと姿は見えませんでしたが、どちらも人と同じ程度の大きさしかないようでした」

 

 人間と同じ大きさの竜王など聞いたこともないが、いくつか可能性はある。

 竜王は世界歪曲障壁を張っただけで、戦い自体は別の者が行った場合。

 ドラウディロンのような竜王と人間の血を引く者が他にも居た場合。

 そして、竜王本人がゴーレムや空の鎧などを操って戦う場合だ。

 そうした無機物に力を込めて戦わせる始原の魔法があると聞いた覚えがあった。

 どの方法であったとしても、生き残っている真なる竜王ならば、誰であれ実現可能である以上、その情報だけで正体を調べるのは難しい。

 これ以上始原の魔法について話を広げたくもなかったので、話題を変えることにした。

 

「……それで、貴公らはこれからどうするつもりだ?」

 

 話を変える目的もあるが、竜王国にとってはこちらの方がより重要となる。

 とはいえ、大体予想は付いている。わざわざそんな情報を持ってくる時点で、モモンたちがエ・ランテルを襲った勢力と敵対しようとしているのは間違いない。

 それがぷれいやーの子孫としての義務なのか、それとも単純に英雄としての矜持なのかは分からないが。

 

 そしていかにモモンたちが強い力を持っていようと、少数で出来ることは限られている。

 それだけの勢力を相手にするには、武力面だけでどうにかできる問題ではなく、国家レベルでの支援が必須となる。

 つまりモモンの目的は複数国家を纏めあげて、エ・ランテルを奪還することに違いない。

 二百年前の魔神との戦いでもそうだったが、強大な敵を相手にするときは複数の国家が垣根を越えて協力し合うことは良くあることだ。

 

「我々はこれから法国を除いた周辺諸国を巡り、エ・ランテルの奪還とプレイヤー勢力討伐を目的とした連合結成のために行動するつもりです」

 

 予想通りの返答にドラウディロンは、探るように口を開く。

 

「しかしモモン殿。貴公と我々の間には契約がある。我が国がぷれいやーに関する情報を明け渡す代わりに、この国を守る契約だ。例え転移の魔法が使えても、今回のように転移阻害の結界が張られて戻れないこともあるだろう。それでは契約違反ではないか?」

 

 これは本気で言っているのではない。

 初めにこう言った上で、最終的にモモンが他国に出向く許可を出すことで、竜王国に貸しを作らせる駆け引きの一つだ。

 しかし、案の定というべきか、ドラウディロンの台詞を聞いて、モモンの後ろに立つ二人の目が鋭くなる。

 以前の殺気を思い出して、背筋が冷たくなるが、自国のためにもここは引けない。

 

「……確かにその通りです。ですが陛下」

 

「分かっている。ぷれいやー勢力を放置していては、いずれ竜王国にも被害が及ぶと言いたいのだろう?」

 

「はっ。その通りです。ですので是非とも女王陛下、そして竜王国にも同盟に参加していただきたいと考えております」

 

 ドラウディロンの言葉を受けたモモンがきっぱりと告げた言葉に、思わず言葉が詰まった。

 

「同盟? そ、そうか。同盟か、なるほど」

 

 エ・ランテルは三国だけではなく、竜王国にとっても重要な都市であるのは間違いないが、竜王国との間には、カッツェ平野という危険地帯が広がっているため、すぐさま自国の危機になることはない。

 法国が既に取り込まれているのはともかく、当面は王国と帝国が中心となって動くはずなので、竜王国にはあまり関係がないというのが本音であり、そのことはモモンも分かっているはずだが。

 

(モモンが離れるために一時的な契約の解消、あるいは中断の許可を出すだけならば、モモンに恩を売る意味でも悪くないと思っていたが、何の根回しもなしにいきなり同盟参加を要求してくるとはな……)

 

 復興や今後のことを考えると他国の協力は必須。

 特に隣国の法国がぷれいやー勢力に付いているのならば、もう一つの隣国である帝国との関係は良好を保っておきたいのは事実だ。

 これは国の今後を左右しかねない重要案件だ。時間をかけて考えたいところだが、ドラウディロンの経験上、為政者にはこうした案件だからこそ、その場での決断力が必要となる。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、モモンが続けて言う。

 

「いずれこの国にも危険が及ぶ可能性がある以上、私がそれを未然に防ぐために動くことは、ある意味この竜王国を守ることに繋がるのではないでしょうか」

 

「……」

 

 確かに。と言いそうになる言葉を飲み込む。

 それを認めてしまったら、そのままなし崩し的に全てモモンの言うとおりになってしまう。

 前回も思ったが、国に比肩しうる武力を持った個人との対話というのは本当に骨が折れる。

 これで武力が拮抗していればまだしも、おそらく現在の傷ついた竜王国では、全武力を以てしてもモモンたちには勝てないだろう。

 すなわちモモンが一方的な要求をしてきても拒むことは難しいということだ。

 ゴクリと唾を飲んで、モモンの言葉を待つ。

 そんなドラウディロンの覚悟を知ってか知らずか、モモンはごく軽い口調のまま続けた。

 

「ですので、ここは竜王国と契約している私を派遣すること。それそのものを竜王国の他国に対する支援という形にしてはいかがでしょうか?」

 

「貴公を? なるほど。その手があったか」

 

 モモンと契約を結んだまま他国に派遣して、その間の報酬をこちらで持つ形にすれば、たった三人の人間を派遣するだけでも、国家に比肩しうる武力による支援だと言い張ることができる。

 もちろん、モモンにそれだけの武力があり、それを他国が認めることが絶対条件だが、他国の者たちも漆黒の力を直接見れば文句は言わないだろう。

 だが、それゆえに一つ問題がある。

 

「しかし、うーむ」

 

「何か問題がございましたか?」

 

 彼らは次に帝国を目指すと言っていたが、このまま帝国に送り出した場合、ジルクニフならば必ず竜王国との契約を打ち切り、自国と契約するように勧誘するに違いない。

 ワーカーと依頼主という関係については、一応書面で契約を交わしており、それに違反したとき際の罰則も決まっているが、それはあくまで金銭での罰則。

 相当な高額だが帝国ならば簡単に支払える額だ。

 これも本来は金銭ではなく、もっと支払いの難しい何かにしようとしていたが、こちらが脅されている状況だったため無理な交渉ができなかったせいだが。

 

(ここで新たに別の契約を結んで、竜王国を裏切らないようにしておく必要があるな)

 

 チラリと宰相に目を向ける。

 何か案はあるか。そうした意図の問いかけに、宰相は力強く頷いた。

 いつも飄々としていて、女王であるドラウディロンに対する態度もぞんざいだが、能力に関しては疑いなく有能な男だ。

 先ほどは今後の交渉はドラウディロン自身でしろと冷たくあしらわれたが、いざというときは実に頼りになる。

 すぐさま視線で任せると合図を出すと宰相は一歩前に出た。

 

「モモン殿。陛下はこう懸念されているのです。いくらモモン殿が強大な力を持っていようと、モモン殿はあくまで竜王国とは直接的な関係がない以上、同盟への支援がそれだけでは礼を失していると」

 

「なるほど。同盟に参加するからには、自国も身を切る覚悟が必要ということですか」

 

「その通りです。ですので、せめて竜王国と隣国として付き合いのある帝国への同盟参加の呼びかけをモモン殿だけにお任せするのではなく、陛下御自らが直接出向くことで、同盟参加への呼びかけ自体を支援に変えたいと考えておいでなのです」

 

「え?」

 

 思わず声が出る。

 ドラウディロンは仮にも国の頂点に君臨する女王であり、予定も詰まっている。

 同盟参加を呼びかける手紙を書く程度ならばともかく、自身が直接出向く余裕などあるはずがない。

 それは宰相自身が一番よく分かっているはずだ。

 

「ですが、女王陛下もお忙しいでしょう。帝国の首都までの往復ともなれば数週間近く掛かりますが」

 

 当然モモンもそのことは承知している。

 しかし、宰相は慌てることなく続けた。

 

「まさに。陛下が心配されていたのはそこです。ですが、そうした際に問題が起こらないように国内を纏めることこそ、宰相である私の勤め。もちろん道中の護衛はモモン殿にお任せいたします。陛下の護衛でしたら竜王国の正式な使者として扱われます。帝国に入る際の入国審査や皇帝陛下との謁見もスムーズに進めることができるでしょう」

 

 実際女王自ら動くというのは大きな意味を持つ。

 先ほど懸念したジルクニフによるモモンの勧誘も、女王の護衛という立場を作れば難しくなる。

 しかし、大ざっぱな政務に関しては宰相でもどうにかできるだろうが、女王でなくては決められない仕事も存在する。

 その点をどうするつもりなのか。

 

「それに──」

 

 ドラウディロンの心配をよそに、宰相はチラリと視線をナーベに向ける。

 

「モモン殿が竜王国の宿屋に預けたマジックアイテムがあれば、連絡を付けることができるでしょうし、いざという時は転移魔法で陛下にお戻りいただくこともできるのではありませんか?」

 

(こ、こいつ。移動しながら仕事もさせる気だ!)

 

 空の馬車だけ移動させて、後からドラウディロンを竜王国に入国させる方法もあるにはあるが、それでは不法入国になってしまうため、現実的ではないといったところだろう。

 

「なるほど。確かにそれでしたら問題はありませんね」

 

「つきましては護衛をしていただくモモン殿だけではなく、他の冒険者の方々も、旅費に関しては竜王国の負担とさせていただきます」

 

 含みを持たせた言い方は、以前交わした契約とは関係ない女王の護衛任務に対する報酬を、先に帝国を目指して進んでいる冒険者を竜王国で面倒を見ることで相殺しようと言外に持ちかけているのだ。

 

「いえ。そこまで面倒を見ていただくわけには──」

 

 モモンも宰相の言いたいことを理解しているからか言葉を濁した。

 そんなモモンの代わりというように、ずっと黙っていたソーイが口を出す。

 

「おいおい。それは関係ないだろ? そもそも女王陛下が直接来たいってのはそっちの都合で、冒険者を世話して一緒に連れていけばそいつ等を連れてきたことも支援の一つになるわけだ。それをこっちの報酬と相殺じゃ割にあわねぇ。なにより転移はうちのナーベがいなきゃ出来ないんだ。当然それは別口で報酬を貰う」

 

「……それはいかほどですか?」

 

 探るような宰相の問いかけに、ソーイはドラウディロンに目を向けニヤリと不敵な笑みを見せる。

 

「そうだな……私たちにしか出来ない仕事をするんだ。そっちも女王陛下にしか出来ない報酬を貰いたいな。例えば──例の始原の魔法について、もっと詳しく教えてくれる、とか?」

 

「それは竜王国の王族のみが所有する情報ですので、私では決められません。陛下、いかがなさいますか?」

 

(こいつは。本当にいい性格をしている)

 

 結局、執務室で話したように、交渉までドラウディロンに丸投げしようとする宰相に、怒りを通り越して感心してしまう。

 始原の魔法も秘匿事項には違いないが、それ以上に謎の勢力による危機や、各国との関係、なによりモモンをつなぎ止める意味で、ドラウディロンが切れる最後の札だ。

 ここでそれを持ち出していいのか悩んでしまうが、それも一瞬だった。

 ドラウディロンはジルクニフのような名君ではないが、周辺国家の誰より為政者としての経験を重ねた自負がある。

 その経験測がここでの交渉が失敗に終われば、モモンたちと竜王国との関係が途切れることを告げていた。

 

「分かった。始原の魔法については、道中ゆっくりと話そうじゃないか」

 

 この答えによって、ドラウディロンの帝国行きが決定した。

 これからの数週間はドラウディロンの女王生活で類を見ないほど忙しくなることだろうことは、経験していなくても察することができた。




竜王国に関しては前回の交渉でモモンとドラウディロンの間で格付けが済んでいるので一話で終わらせました
次はこのまま帝国か、それとも悟さん視点に変えて王国にするか少し考えます

ちなみに今週末から週明けにかけて忙しくなるので、来週は更新できないと思います
完成次第投稿するつもりですが、場合によっては二週間後になりそうです
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