この章の本命は帝国ではないのでさっさと話を進めます
帝城内の一室。
他国との会談に使用されるこの部屋に入ることはこれまでも数回あったが、皇帝ジルクニフと一対一で向かい合うのは初めてだった。
本音で話がしたいと告げたジルクニフに、ドラウディロンが一対一の会談を申し込んだところ、相手もそれを了承したのだ。
テーブルに並べられた軽食には目もくれず、ドラウディロンは華美な装飾の施されたグラスに手を伸ばす。
「如何ですか? 我が国の葡萄酒は」
「……大変美味だ。流石帝国は魔法文化だけではなく、食文化も花開いているようだな」
「国民を守るだけではなく、生活を潤すのも上に立つ者の重要な仕事ですからね」
竜王国ではどちらもできていない。とでも言いたいのだろうか。
僅かに苛立ちを覚えるが、それを態度に出すほど愚かではない。
もう一口酒を飲んで喉を湿らせてから、口を開いた。
「改めて自己紹介しよう。私こそ竜王国の女王にして
身体を本来の姿に戻し、胸を張って名乗りを上げる。
今は魔法のドレスに身を包んでいるため、本来の姿に成長しても服装はそのままだ。
この姿で会うと決めたからこそ、ドラウディロンは他者を排除して一対一の会談を望んだのだ。
当然、ジルクニフもこの姿を見るのは初めてのはずだが、大して驚いた様子も見せずに小さく鼻を鳴らした。
「ようやくお会いできた。と言ったところですか。私の方はなにも偽ってはいませんので、自己紹介は省かせて貰いますよ」
(よく言う。しかし、私の演技を見破っていたのは想定内だが、姿を誤魔化していることまでは知らないと思っていたが……予想していたのか、それともそう見せかけているのか)
どちらにしてもこの若さで大したものだ。
少なくともドラウディロンが彼の年齢の頃には絶対に出来なかっただろう。
「皇帝陛下は実直な話の方がお好みだったかな」
「どちらでも。今の貴女となら、プライベートな話でも構いませんよ」
相手に好感を与えるような笑顔と態度はとても作りものには見えないが、口調が僅かに変わっている。
これまでは、礼儀を弁えつつも子供に対して接するという態度だったが、今は妙齢の女性に対する接し方に変えてきたわけだ。
「ではそうしようか。私も貴殿のような若く優秀な男性とは親密な関係を築きたい。なんなら場所を寝室に移しても良いぞ?」
ニヤリと笑って言うと、ほんの一瞬だけジルクニフの笑顔にヒビが入った。
自分のように長い間人を見て養われた観察眼がなければ解らないほど、ごく僅かなものだ。
口ではそう言ったが、当然そんなつもりは毛頭ない。
単なる駆け引きの一つであり、ずっとジルクニフにペースを握られているのが癪だっただけだ。
「……冗談はさて置き。本題に入る前に、まずは女王たるこの私の護衛を勧誘するなどという蛮行に出た真意について聞かせて貰おうか?」
だからこそ、あえてこちらから話を元に戻す。
早くジルクニフの真意を確かめなくてはならない。
「蛮行とは人聞きの悪い。彼らはあくまでワーカー、いや、今はエ・ランテルの冒険者組合が認めたアダマンタイト級冒険者でしたか。どちらにしても、正式にどこかに属しているわけではない以上、我が国に迎え入れることに問題はないはずですが?」
(そこまで調べていたか)
漆黒の竜王国での働きに関しては、彼らを英雄扱いする意味で情報統制などは行わなかった。
他国の情報機関がいくら調べようとも、たった三人でビーストマンの軍勢を追い返し、短期間で都市を三つ取り戻したなど簡単に信じるはずがない。
結果としてビーストマンが退いた事実はあっても、その方法には何か裏があると勝手に深読みをして、無駄な調査に時間を取られるはずと考えていた。
加えて、ドラウディロンは帝国に直接出向く知らせをできる限り遅らせて情報収集の時間を与えないことで、モモン本来の力だけではなく、ドラウディロンとの間に交わした契約内容についても、まともに調べることができないうちに、この会談を始める。
そういう予定だった。
その上で漆黒が竜王国の専属になったと思わせる段取りもしていたのだが、どうやら帝国はこの短い期間でモモンに対してかなり詳細に調べ上げているようだ。
実際、国の縛りが薄い冒険者ならば、他国の者であろうと勧誘すること自体は大きな問題ではないのは事実。
もっとも、仮にも友好国であるドラウディロンの護衛に着いている状況下で、いきなり勧誘を行うとは流石に予想がつかなかったが。
「今現在、漆黒は我々と契約を交わしている」
「それは存じていますよ。しかしその契約も、エ・ランテルを占拠した正体不明の集団を何とかするまでの間に限定されているのでは?」
「……」
ここに来るまでの道すがら、ドラウディロンは自分の持つ最後の切り札である始原の魔法の情報と引き替えに、新たな契約を結ぶことに成功した。
その内容は違反した際の罰則強化と、暫定的な所属先を竜王国に限定することだ。
本当はもっとこちらに有利な契約を交わしたかったのだが、交渉相手がモモンではなくソーイであり、交渉の最中も殺気を向けられ続けたことで強気に出ることができず、そうした契約になってしまったのだ。
更にその期間は、今ジルクニフが言ったようにエ・ランテルにいるとおぼしき謎の集団を何とかするまでの間に限定された。
もちろんもう一つの契約である他のぷれいやーを調べる代わりに竜王国を守る契約は残っているが、そちらは相変わらず契約違反に対する罰則が緩いままなので、帝国なら簡単に違約金を支払える。
こちらの沈黙を肯定と受け取ったらしく、さらにジルクニフは続けて言う。
「ならばその後、漆黒を我が国に招いても何の問題もないのではありませんか?」
薄く笑みを浮かべたまま言うジルクニフに、沸き上がる怒りを押し殺す。
(こんなことなら、あの二人を遠ざけるのではなかった)
もし二人があの場にいれば、己の主を自分の下に付けようとするジルクニフに対し、怒りを露わにしたことだろう。
場合によってはあの場で戦闘にも繋がりかねず、最悪でもあの場はめちゃくちゃになった。
支持基盤の中枢を占める騎士たちの前で、皇帝が一介の冒険者にバカにされたとあっては、如何にジルクニフが国内で絶対的な権力を握っているとしても、そんな問題を起こした者たちを正式に国に仕えさせることはできなくなったはずだ。
(取りあえず、モモンにあの場で返答をさせずに済んだことだけは幸いだったな)
ジルクニフの突然の勧誘に驚いたのだろう。
モモンにしては珍しく言葉を失っていた。
その隙を突いて、ドラウディロンが割って入ったことで一時的に話は流れたが、こうしている間にも、他の者たちがモモンの勧誘を進めていることは想像に難くない。
そしてこの契約がモモンにとって、悪いことではないというのがまた問題なのだ。
ドラウディロンはまだ始原の魔法についての情報を話してはいない。
それを話してしまったら、その時点で漆黒が離れるかも知れないと考えたため、契約を結ぶ際この同盟が正式に結成した後で話すことに変えたのだ。
約束が違うと、向けられる殺気に耐えながら、この一線だけはどうにか守り通して勝ち取った時間こそが、竜王国、いやドラウディロンの持つ正真正銘最後の切り札となったのだが、改めて帝国の町並みと、その発展具合──特に魔法技術について──を見て考えを改めた。
ドラウディロンが始原の魔法を使えることは国内外に広く知れ渡っており、帝国でもあの有名な逸脱者フールーダ・パラダインが強い興味を示していると聞いている。
そして、帝国は未だ始原の魔法が使える真なる竜王が現存しているアーグランド評議国とも繋がりがある。
つまり、帝国がその気になれば始原の魔法についての情報すら手に入れることも可能ということだ。
それは残るぷれいやーの捜索でも同様である。
こちらは国家レベルの情報網があれば調査ができる以上、この短期間で漆黒のことを調べあげた帝国ならば竜王国より素早く、そして詳細な情報を集めることができるはずだ。
つまり帝国が漆黒についてここまて詳細に調べあげて勧誘しようと決めた時点で、既に竜王国のアドバンテージなどなくなってしまっているのだ。
(とにかく今は、モモンたちが始原の魔法について知りたがっていることだけは知られてはならない)
帝国でも同じことができる以上、それが知られればジルクニフはそれを使って交渉する。
そう考えた直後、ふいに別の思考が浮かぶ。
モモンとしては始原の魔法のことが分かればいいのだから、モモン自身がそれを話して帝国に自分を売り込む可能性もあるのではないのだろうか。
さっと全身の血の気が引いていく。
もし本当にモモンがそう考えていた場合、ドラウディロンに残された手は一つしか思いつかないからだ。
それはあまりに困難な方法だった。
(あえてこちらから情報を開示することで漆黒の危険性を理解させて、ジルクニフと交渉する。これしかない。だが、私にできるか?)
例えモモンが既に契約を結んでいたとしても、それはあくまで口約束程度。
帝国の権力は全てジルクニフに集中しているからこそ、今回のドラウディロンとの会談での結果が出るまでは、正式な契約を結ばせることはない。
逆に、ほぼ契約が固まっていたとしても、ジルクニフがノーと言えばその時点で全て無かったことにできる。
力ある独裁者とはそういうものだ。
しかし、こちらの行動を読み切り、初手から勧誘を行う大胆さや、そもそもドラウディロンが帝都に到着するまでのわずかな間に、漆黒の有用性に目を付けて調べあげる手腕も併せて、やはりジルクニフは傑物だ。
自分のような経験しか取り柄のない凡人に、彼を説得できるのだろうか。
(いや、やるしかない)
思考を巡らせているうちにすっかり長い沈黙ができてしまった。
ジルクニフは待ち飽きたとでも言いたげに、自分の分の葡萄酒に口を付けている。
その様子を見ながら、ドラウディロンはそっと息を吸い、覚悟を決めて気合いを入れ直した後、相手にも聞こえるように小さく鼻を鳴らして笑った。
「……何か?」
葡萄酒を持っていた手が止まり、鋭い視線が向けられるが、ドラウディロンはそれを受け流す。
「皇帝陛下……いやジルクニフ殿。契約期間後、勧誘するもしないもそちらの自由なのは間違いないが、果たして貴公に彼らが飼い慣らせるかな?」
「何?」
グラスをテーブルの上に戻し、ジルクニフは改めてこちらを正面から見据える。
それに対し、ドラウディロンは口元に笑みを浮かべたまま、自分のグラスを手に取り続けた。
「あれは劇物だ。一歩取り扱いを間違えれば、国そのものを滅ぼしかねない。それを御せる自信があるならやってみるが良い」
「ほう。国を滅ぼす劇物と来ましたか」
「ああ。奴らは転移魔法と超強力なアンデッドを召喚して使役する術を持っている。悪意を持って使えば都市はおろか、国すら簡単に滅びるだろう。そして、奴らはその力を使うことに躊躇することもない。そんなものを飼い慣らす自信はあるのかと聞いている」
自国がバカにされたと感じたのか、ジルクニフの薄ら笑いが凍り付き、瞳に怒りと憎悪が混じる。
これも本気で怒りを覚えていると見せかける演技かもしれないが、どちらにしても鮮血帝の名に相応しい殺気が感じられた。
だがそれを向けられてもドラウディロンは動じない。
なぜなら──
(あの殺気に比べればそよ風のようなものだな)
ナーベとソーイの二人から、その気になればいつでも殺せる距離で向けられ続けたあの殺意によって、すっかり恐怖心が麻痺しているのだから。
とても感謝などする気にはなれないが、それでも何が役に立つか分かったものではない。
そんなことを考えながら、ドラウディロンは手にした葡萄酒を一気に飲み干した。
・
(わざわざ向こうから情報を寄越すとは。こいつは何を考えている?)
今ドラウディロンが口にした漆黒の能力は、帝国情報局が調べたものと同じ。
つまり嘘の情報を与えてこちらを攪乱させる狙いがあるわけではない。
漆黒は本人たちの力量もさることながら、その本質は別のところにある。
転移の魔法、
それぞれが個別に持った力を駆使して、占拠された都市に奇襲を仕掛け、内部からアンデッドを暴れさせることで混乱を作り出し、その隙に敵の大将を仕留める。
それを繰り返すことで短期間のうちに三つの都市を取り戻すことに成功した。
これが帝国情報局が調べあげた漆黒の能力だ。
恐るべき力であるのは間違いない。
特にナーベという
だが、今はまだそこまでではない。
転移魔法と透明化の魔法による潜入や、強力なアンデッドの召喚も、逸脱者であるフールーダならば一人で使いこなすことが出来る。
ようは三人の実力を合わせてようやくフールーダ一人分の働きができる、それがジルクニフが漆黒に抱いた感想だ。
とは言え全力を出せば、個人で帝国全軍をも相手にすることも可能なフールーダと同じことを、たった三人で出来るのはまさしく脅威的な力だと言える。
決して他国にみすみす渡して良いものではない。
だからこそ、国力の落ちた竜王国程度では支払えないような高待遇で迎えると勧誘したのだ。
そしてそんな強力な力を持った者たちを、大人しく従えさせる首輪となりうる力を持っているのも、周辺諸国ではフールーダしかいない。
少なくとも今回のような大侵攻ではない通常の侵攻すら、他国の力を借りなくては撤退させることも出来ない脆弱な戦力しか持たない竜王国では漆黒を押さえておくことなどできない。
それはドラウディロンが一番よく知っているはずだ。
「貴国ではそれができるというのか?」
「さぁ? だが、今現在あの三人が我が国に付いていることがその証拠ではないか? 我が国には彼らをつなぎ止めるものがある」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべてドラウディロンが言う。
(竜王国にフールーダ以上の抑止力となる、なにかがあると言いたいのか?)
候補は二つ。
一つは漆黒のことを知る前に考えた彼女の曾祖父である
だがその場合、モモンたちに頼る意味がないため、この可能性は限りなく低い。
もう一つは。
「原始の魔法、だったか」
「ほう。まあ、私が使えること自体は知られているからな。ちなみに原始の魔法ではなく、始原の魔法だ」
(……やはりか)
既に失われた古の魔法。
フールーダが情報を知りたがり、ドラウディロンを自分の正妃に迎えてはどうかと提案してきたことを思い出す。
嫌いな女第二位を守り通している女と夫婦になるなど御免だと断ったものだ。
「その魔法で漆黒を縛っている……いや違うな。もっと単純に、モモンはその情報を知りたがっているのか?」
ジルクニフの言葉に、ドラウディロンは笑みを深める。
「そういうことだ。さて、どうする?」
相手の意図を読もうとじっと顔を見つめるが、相変わらず何を考えているのかは分からない。先程からどんな言葉や牽制をかけても、まるで心が死んでいるかのごとく全く変化が見えないのだ。
生まれたときからずっと次代の皇帝候補として、嘘や欺瞞にまみれた世界を生きてきたジルクニフにとって他者の演技を見抜くのは得意分野だが、それは相手も同じ。
ドラゴンが人間より遙かに長命種であることを考えると、今の大人の外見年齢が本来の年齢と同じということもないだろう。
才能はともかく、経験値で言えば自分より遙かに上の相手。
そう考えて最大限の警戒をすべきだ。
(この婆の心を読もうとしても無駄だ。同盟解散後のことを考えると、ここで失敗は出来ない)
ドラウディロンの感情を読むことは諦め、ジルクニフはこれまで手にした情報を基に思考を巡らせる。
同盟の設立とその後のエ・ランテル解放まではそう難しいことではない。
エ・ランテルは多かれ少なかれそれぞれの国にとっても重要な場所であり、そこが国ではない正体不明の力を持った集団に占拠されたという状況はとても看過できるものではないためよほどの馬鹿でない限り、同盟設立に反対する者はいないだろう。
だからこそ、設立された同盟の力でエ・ランテルを解放した後のことについても考えなくてはならないのだ。
漆黒の力はそのときに重要となる。
最悪のシナリオは漆黒が王国に付いてしまうことだ。
王国にそんな力があるとは思えないが、エ・ランテルは現在王国の領土。
解放に際し、漆黒が大きな働きを見せれば、報償として、その土地を与えて辺境伯などの貴族として取り立てる。
そうなれば最悪だ。
封建国家の王国が、たかが一介の冒険者を上級貴族に取り立てるなどという大胆な手段に出られるとは思えないが、エ・ランテルは王の直轄領であり、あちらにはラナーがいる。
王宮中から、貴族を自在に操るあの女が動けば、どうなるか分からない。
(この婆もそれを心配しているのか? あの女の異常性に気づけているとは思えないが──)
そうした考えこそ油断に繋がる。
かと言って一度時間を置くのもまた得策ではない。
漆黒の武勇が知られていない今こそが奴らの力を独占する唯一の機会なのは間違いないのだから。
「なるほど。ではこうしてはいかがですか?」
口調を戻し、友好的な笑みを浮かべる。
最善ではないが、最悪は避けられる。
ジルクニフにしては珍しい考えだが、漆黒の戦力はそれだけの価値がある。
無言で続きを促され、ジルクニフは左右の腕で、自分とドラウディロンをそれぞれ指し示しながら告げた。
「漆黒を我々帝国と竜王国で共同管理する。というのは」
「共同管理?」
「ええ。彼らの力はそれだけの価値がある。竜王国に危機が迫ったときはそちらに。帝国に危機が迫ったときはこちらに。転移魔法の使い手ならば、いつでも自由に行き来できる。もとより冒険者は国に縛られないもの。そうした契約を結ぶことも問題はない」
もちろん、そのままでは二国だけではなく王国や法国などとも契約を結びかねないため、そうしたこと出来ないような縛りを両国から課して、実質的に竜王国と帝国専属の冒険者にしてしおうという密約だ。
彼女にとっては想定外の提案だったのだろう。
ドラウディロンは口を閉じ、じっと考え込む。
それでも余裕ぶった演技だけは変わらないのだから大したものだ。
「両国同時に何らかの危機が陥った場合は?」
「そのときは臨機応変に対応するしかありませんが、必要ならば我が国の騎士団を貴国に派遣しても構いませんよ。王国などとは違い、帝国の騎士は専属兵だ。必要とあれば即動かせる。もちろんそれ以外の部分でも協力は惜しみませんよ」
以前は断った兵の派遣に加え、復興に関しても手伝う用意があると言外に告げる。
いくら漆黒のメンバーが強力であっても、それだけで国を立て直すことはできない。
破壊された都市の復興には多量の資源──戦いのせいで収穫できなかった食料なども含まれる──が必要となる。
その手助けができる余力があるのは、周辺国家では帝国と法国のみ。
法国内にも混乱が生じている今、竜王国のみを優遇して支援してくれる国となれば帝国しかないはずだ。
「……つまり、今回の周辺国家同盟とは別に、竜王国と帝国の二国間に漆黒のメンバーを組み込んだより強固な協定を結ぶということか」
「そう言うことです。カッツェ平野を挟んでいるとはいえ我々は隣国同士、協力し合って行きましょう」
ジルクニフの言葉で、余裕ぶっていたドラウディロンの笑みが僅かに歪む。
「なるほど。漆黒の者たちは帝国と竜王国の架け橋になりうる実利というわけか」
実利という部分に力を込めているのは、以前帝国に救援を求めてきた際に、ジルクニフが歪曲しながら告げた助けて欲しければ情に訴えるのではなく実利を持ってこいと言ったことに起因しているのだろう。
一度は素気なく断られた協定関係を、状況が変わったからと言って、手のひらを返して帝国側から持ちかけられるのは面白くないのは間違いない。
「ご不満ですか?」
言いながらも、断ることはないと確信している。
これが竜王国にとっても十分利益のある落としどころであると気づけないほど愚かな女ではないからだ。
案の定、ドラウディロンは一つ鼻を鳴らすと黙ったまま立ち上がる。
それを見て、ジルクニフもまた立ち上がり、テーブルに沿って歩き出したドラウディロンに合わせて自分も歩を進めた。
二人は歩く速度を合わせ、テーブルの中央で改めて向かい合う。
「では改めて。我がバハルス帝国の周辺国家同盟への参加と」
「我が竜王国との協定樹立に」
これもまた二人は同時に手を差しだし、迷いなく握り合った。
「周辺国家の同盟関係が終了するまで、漆黒は帝国か竜王国。どちらかの監視下に置いておきましょう。常に動向を把握していなければ、どこかの国がちょっかいをかけてくるかもしれない」
「それは構わないが、大丈夫か? 先ほども言ったが、あれは迂闊に手を出せば噛みついてくる狂犬だ。飼い慣らすのは簡単ではない。特にモモン以外の二人がな」
妙に実感の籠もった言いぶりに何となく状況が理解できた。
ほとんど会話はしていないが、少なくともモモンは礼儀を弁えている人物だった。
そこだけがドラウディロンの語っていた漆黒の危険性と合致していなかったのだが、危険なのはモモンではなく、残る二人だというのなら話は通る。
同時に三人の関係がモモンを中心とした主従関係と告げることで、三人の内の誰かを個別に勧誘するなどの、絡め手を使用しても無駄だと言っているのだ。
やはりドラウディロンは優秀な為政者だ。
「注意しますよ」
「その気持ち悪い話し方も元に戻して構わんぞ。我々は対等な同盟相手なのだからな」
「目上の者。特に高齢者には敬意を払うのが私の主義ですので」
「……ほぉう。この坊やは女の扱い方を知らないようだな。やはり寝室で女の扱い方について一から叩き込んでやろうか?」
ジルクニフは余裕の演技を崩すことなく、普段浮かべている微笑よりもっと分かりやすい笑顔を浮かべて、本心からの言葉を告げた。
「陛下。それだけはまっぴら御免です」
今回は敢えて帝国の同盟参加だけに焦点を当てるため、ドラウディロンとの会談だけで話を進めたので、モモンとジルクニフが直接絡むのはもう少し先になります
ちなみにドラウディロンとジルクニフは王様としての能力ではかなり差がありますが、元の経験値と今回ナーベたちに殺気を向けられ続けてほぼ心が死んでいたせいで余計に感情が読み取れなかったことで互角に交渉できた感じです
次はサトルさんたちか、それともしばらく出番のなかったナザリックの面々の話か、思いついた方から書きます