時系列は前回の最後から少し時間が飛び、モモンガさんたちがラナーからの依頼を受けた後です
暖かな光が、体を包み込む。
同時に全身をくまなく覆っていた痛みが、溶けるように消えていく。
度重なる暴行によって機能を失った。いや、物理的に消失していたかもしれない四肢に感覚が戻ると、自分が必死に拳を握りしめていることに気がついた。
その強く握りしめた拳の中、爪が手のひらを刺す痛みで、これが現実であると理解する。
同時に、瞼が腫れあがり、目から溢れ出た涙と頭から流れ出た血によって、塞がっていた視界も開け、目の前には絶世と呼ぶにふさわしい美女が天真爛漫な笑みを浮かべているのが見て取れた。
その笑みを見て、バルブロは全てを悟った。
ああ、また死ねなかったのだ。と。
「いやー。今のは危なかったっすねぇ。もうちょっとで死んじゃうところだったっす。次からはもう少し手前で回復させてあげるっすね」
「……もう、殺してくれ」
全てへし折られていた歯や、毟り取られた唇も回復したことで、言葉自体はスムーズに出すことができたが、つい数瞬前まで生死の境を揺蕩って鈍化した思考のせいで、何度目かの回復前に言われたことを忘れていた。
さっと背筋に冷たいものが流れると同時に、女はそれまでの楽しそうな物ではない、口元の裂けた凄惨な笑みを浮かべなおした。
「くれ? この私に命令っすか? 私に命令を下せるのは四十一人……今この世界にいるのは、ただ御一人のみ。それをあなたごときが?」
「違、違います。殺しッ、殺して下さい! お願いします」
必死に声を張り上げて懇願する。
拠点としたカルネ村に突然大量のアンデッドを引き連れた、このメイド服姿の女が現れ、あっという間に護衛の精鋭兵団が全滅させられた時は、とにかく生き延びることだけを考えていた。
実際他の兵士たちは皆殺しにしたというのに、自分だけ生かされたことで、モンスターやアンデッドと異なり、この女には知性があることが分かった。
それなら自分の立場を使えば、交渉もできるはずだと胸をなで下ろしたものだ。
だが、この女はこちらの立場を知っても、なにを交渉材料にしようと、全く興味を示さなかった。
相手の目的はただ一つ。
「いやー、良い顔っすねぇ」
ニマニマと楽しげに女は笑う。
これだ。
女の目的は、怯えきったバルブロの顔が何度も見たいという嗜虐的な欲求のみ。
ただそれだけのために、何度も何度も何度も何度も、死ぬ直前まで暴行を加えられ、その後回復を繰り返すという拷問を受け続けたことで、バルブロの心はすでに折れていた。
今は一刻も早く死にたい。
ただ、それだけが願いだ。
「うん! その良い顔に免じて、ここいらで殺してあげても良いっすよ」
「ほ、本当に?」
「本当っす。私、嘘はつかないっすよ」
「あ、あ、ありがとうございます!」
自分を殺そうとしている相手に感謝を述べる。
一見するとあり得ない光景だが、バルブロは心の底から、本気で女に感謝していた。
「うんうん。喜んでもらえて嬉しいっすよ。レベル的にも一回くらいなら耐えられるはずっす」
「え?」
なにを言っているのかはよく分からなかったが、全身を包み込んでいた歓喜が一瞬で失われていくのを感じた。
代わりに湧き上がるのは、得体の知れない恐怖のみ。
女は今までで一番楽しそうに笑いかけ、こう続けた。
「私は復活魔法も使えるっすからね。レベルが下がって体が弱くなれば、今よりもっと痛みを敏感に感じ取れるようになるっすよ」
「え? あ、ああ! おぇ。おぁ」
魔法のことは詳しくないが、死んでも生き返る回復魔法が存在するとは聞いていた。
死ですら救いにならない。
その事実を突きつけられたバルブロの口から、意味のない悲鳴とも嗚咽ともつかない声が漏れ出る。
「まあ、その分死にやすくなっちゃうっすから、手加減が難しくはなるっすけど、その辺りもばっちり覚えたっすから安心して欲しいっす」
女は自慢げに語りながら胸を張って視線を上に向ける。
「ああ! うわぁあぁーッ!!」
バルブロから目線を外したその瞬間、脱兎のごとく駆けだした。
体が回復した直後の脱走は、これまでも何度か試し、その度に失敗してきた。
愚かな選択だと身に染みて分かっていたが、それでも止められない。
死が救いにもならず、それどころか更に辛い痛みを味わう身体になってしまう。
その事実に耐えきれず、身体が勝手に動き出していた。
「また鬼ごっこっすか? 良いっすねー。楽しませてくれるっす。んじゃーとりあえず百数えるっすねー」
後ろから聞こえた暢気な声に、背筋から汗が噴き出したが、足は止まらない。
何度か脱走を試みた際とは逆方向を目指す。
これまではカルネ村の外に出ようと村の出口に向かっていたが、今回はカルネ村の背後に広がるトブの大森林を目指した。
森中には危険なモンスターもいるとは聞いているが、あの女に比べれば、どんなモンスターも魔獣も怖くはない。
逃げきれるとは思っていないが、森の中で隠れれば少しは時間が稼げるはずだ。
本当に百数えているのか、バルブロがカルネ村を抜け、開拓されていない森の中に入っても追いかけてくる気配はなかった。
少し走っただけで、森の様子は一気に様変わりしていく。
昼間だというのに、深い木々の葉によって太陽が覆い隠されて薄暗く、そこかしこに闇溜まりが生まれている。
危険なモンスターや魔獣が跋扈する暗い森。
本来であれば、恐怖を感じるところだが、今のバルブロにとっては女が追跡しづらくなるこの暗さに、安堵さえ覚えてしまう。
王子にしては。と前置きが付くものの、並の大人よりは鍛え上げられた肉体は多少走った程度で息が上がることはないのだが、起伏に富んだ地面と、あの凄惨な笑顔を持つ女に追いつかれてしまうのではないかという恐怖が、平常心と共に体力まで奪っていく。
もう百秒は経っただろうか。
時間の感覚すら失われてしまい、地面に落ちた枝を踏む音すら女に聞かれるのではないかと、恐怖する。
「あ、あそこなら」
暗さのせいだけでなく、精神的な理由によって視野狭窄が起こる中、バルブロは目に付いた巨大な闇溜まりの中に自ら飛び込んだ。
どんな危険があるかも考えずに飛び込んだ先は、幸いと言うべきか、危険なものはなく、朽ちた巨木によって作られた天然の塹壕のようなものであり、身を隠すにはうってつけの場所だった。
そのまま地面にへたりこんで膝を抱えると、外からは完全に身を隠すことが可能で、バルブロは思わず安堵の息を吐いた。
とりあえずここなら、すぐに見つかることはないだろう。
後はこのまま身を隠していれば、いずれ──
「いや。助けなど来るわけがない」
ほんの僅かに冷静になった頭で考える。
自分と一緒に来た義父自慢の精鋭兵団は、たった数体の騎士のような外見をしたアンデッドによって皆殺しにされるか、ゾンビに変えられてしまった。
そもそもバルブロがカルネ村に行くことを知っている者はレエブン侯だけだが、手柄を奪われまいと、こちらから手出し無用と言ってしまった。
もっと長い時が経てばバルブロが戻らないことに異変を感じ、救援部隊を送り込んでくれるかもしれないが、それは何日、いや、何週間と掛かるかもしれない。
とてもではないが、それまでこの暗渠の中で生き残れるはずがない。
楽になってしまいたい。
腰には護身用の短剣が差してある。
この剣で今すぐ喉を裂いて死んでしまいたいが、それも無意味だ。
拷問ですらないあの暴力を受け続けている間、隙があればずっとそうするつもりだったが、死ですら救いにならないと聞かされた以上、その気すらなくなった。
もうなにも出来ない。
そんな中でも恐怖だけは一向に衰えることはなかった。
一分が一時間、いや一日にも感じられる。
無限とも思える時の中、なにも出来ないバルブロはただただ後悔し続ける。
なぜこんなことになってしまったのか。
いや、その理由は分かっている。自分が愚かだっただけだ。
それは間違いない。
いつまで経っても自分に王位を譲らない父王に業を煮やし、強い王としての素質を示すために提示したエ・ランテル奪還作戦も袖にされた。
そのことに怒りを覚え、もはや父には頼らず自分の力を手に入れるため、これまで以上に八本指との繋がりを強固にしてしまった。
それが噂として明るみに出ると、自分を支持していた貴族たちも次々に離れていった。
義父であるボウロロープ侯だけは今までと変わらぬ支援を約束してくれたが、それを信じきることが出来ず、これまでの失態を取り返し、誰も彼も見返してやる。と強引にエ・ランテル奪還に向けて動き出した。
こうすれば皆が自分を見直してくれると、王位を継ぐことが出来るのだと本気で信じていた。
だが、今はもうそんなものはどうでも良い。
ただ生きたい。王でなくても王子でなくても良い。ただ生きていたい。
先ほどまでは、あれほど死にたがっていたというのに。
相手が復活魔法が使えるとか、死すら救いにならないなど、実のところただの言い訳だ。
未だ救われたわけでも、希望が見えたわけでもないのに、今度は生にしがみつこうとしている。
決断し、その意志を貫き通す。
王を目指す者なら、当然持っているべきものすらない己に嫌気が差す。
自分は王になれるような人物ではなかった。ただ王の子供に生まれてしまっただけの情けない男。
それでも──
「誰か、助けてくれ」
心の中でだけ言ったはずの言葉はいつの間にか、口から漏れ出ていた。
その呟きに応えるように、突如近くから物音が聞こえて来た。
「ヒッ!」
口元を押さえる。
あの女が来たのだ。
地面を踏みしめ、木の枝がへし折れるような足音が闇だまりの中に響きわたる。
必死に息を殺しても、その足音はまっすぐバルブロに向かってくるのがわかった。
あの女か、それとも随伴していたアンデッドの騎士か。
どちらにせよ、見つかった時点でバルブロの命運は尽きる。
「あ、ああっ!」
声を抑えなくてはならないのに、恐怖で呼吸もままならず、嗚咽が漏れた。必死になって口を塞ぐ。
しかし、その声が聞き取られたらしく、足音はまっすぐこちらに近づいてきた。
「ここか」
あの女やアンデッドの唸り声ではなく、男の声が聞こえ、腕が止まり顔を持ち上げる。
「え?」
同時に頭上の木々が割れ、細かな破片がバルブロの顔に降ってくる。
思わず目を伏せてから、ゆっくりと目を開けると、薄暗い森を背景にこちらをのぞき込んでいる全身鎧を着込んだ騎士の姿があった。
王族であるバルブロでも見たことが無いような見事な造りの鎧に、一瞬目を奪われる。
その騎士はバルブロを一瞥すると、すぐに顔を持ち上げ声を発した。
「〈
誰かに言っているようだが、周囲に他の人影はない。
少なくともバルブロに向けられたものではないのは間違いないが、その内容。
救出という言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜けていき、意識が遠のいていく感覚があった。
だが、これだけは聞かなくてはならない。
「貴、貴公の名は?」
「ん? ああ。私はエ・ランテルのアダマンタイト級冒険者モモン。妹君の依頼により、バルブロ殿下を助けに参りました」
名乗った肩書きは人類の守護者と唄われる英雄、アダマンタイト級冒険者。
名前自体には聞き覚えはないが、それだけで心に安堵が広がり、同時に必死になって保っていた緊張の糸、その最後の一本が途切れ、バルブロは意識を手放した。
自分を救ってくれた恩人にして、英雄の名を心に刻み込みながら──
・
深い森の中。
ナーベラルとソリュシャンは、大木の影に隠れた状態で息を殺していた。
隠れた状態のまま、ソリュシャンが視線を向けた先にいるのはデスナイト。
何かを捜しているらしく、顔をあちこちに向けているが、こちらに気づいている様子はない。
実際デスナイトは探知系のスキルは持っておらず、そもそもナーベラルたちは主より借り受けた探知阻害の指輪も装備しているため、姿を隠していれば見つかることなどあり得ないのだが、そうした油断こそ、主が最も嫌うもの。
特に今回は、敵に見つからず隠密行動を取るよう強く命じられている。
そうしているとやがてデスナイトはこちらに感づく様子もなく、離れていった。
その様子を見ていたソリュシャンが、もう大丈夫だと一つ頷く。
「まったく。本当に愚かな
呪詛の言葉が口から出た。
その対象は、救出目標である王国の第一王子バルブロだ。
その者が持っていた王族の証であるとあるアイテムを
しかも周囲には複数のデスナイトと、配下である
この世界で複数のデスナイトを従えている存在など早々いない。
立地的にも間違いなく、例のエ・ランテルを強襲した謎の勢力の一員に違いない。
デスナイトだけならばともかく、その者たちの中には、完全武装の整っていない主すら超えるような力を持った者もいると聞いている。
だからこそ、その対策として偉大な主自らが人間たちの間を取り持ち、周辺国家連合を作ろうとしているのだから。
「とにかく早く捜しましょう。森の中にいるのは間違いないのだから、夜になると私たちは不利になるわ」
ソリュシャンの声にも焦りが混ざる。
主は現在、この森の中で別行動を取っている。
これは単純に、二手に分かれた方が対象を見つけやすくなるからだ。
本当なら、主の身を守ることこそ自分たちの役目なのだから、主を一人で行動させるようなことは許されないのだが、現在必要なのは目標の探知と、いざというとき、即座にその場から離脱すること。
この二つであり、主は魔法でそれを一人でどちらも可能だが、ナーベラルたちは二人でなければその両方を同時にこなすことはできないため、主に却下されてしまった。
だからこそ、一刻も早く目標を見つけ、主と合流しなくてはならないのだが、再度
おそらく逃げる途中で落としてしまったのだろう。
その苛立ちがソリュシャンを焦らせ、警戒網の中に高速で突入してきたものに気づくのが一瞬遅れてしまった。
「みーつけた」
遠くから、声と共に鋭い視線が向けられた。
「ナーベ。木の向こう!」
「ッ! 〈
「っと! ちょーっと待ったっす!」
慌てたような声は場違いなほど明るい。
初めて聞いたはずなのに、どこか懐かしい気持ちにさせるその声に、ソリュシャンとナーベラルは同時に顔を見合わせた。
・
「いやー、本当に良かったっすよ。まさかこんなところで二人と再会できるだなんて」
「それはこちらの台詞よ、ルプー」
「ええ。本当にね。ルプスレギナ」
「まったくもー、ナーちゃんもソーちゃんも。これでも私はお姉ちゃんっすよ? そこはこう、愛情を込めてルプーお姉ちゃん! って言って抱きついてきてもいいんすよ?」
カラカラと楽しげに笑う人狼の名は、ルプスレギナ・ベータ。
戦闘メイドチーム、プレアデス──あるいは末妹を含めたプレイアデス──の一員として、共に至高の御方によって創造された存在だ。
姉妹間の順番としては、長女でありプレアデスの副リーダーでもあるユリ・アルファに続く次女であり、その次にソリュシャンとナーベラルが共に三女という立ち位置になっている。
つまり彼女の言うように、自分たちにとってルプスレギナは姉に当たるのだが、まだ実感が湧かないことも事実だ。
何しろ彼女たちと別れて既に百年の時が経過している。
その上、この地に転移してくる前、つまりはナザリック地下大墳墓で主を含めた、至高の四十一人の御歴々方に仕えていた頃の記憶は、夢の中にいるように霞がかかっている。
姉として慕う本能のようなものが働きつつも、同時に百年の間で育った情緒、いや理性のようなものが働いて喜びにセーブをかけていた。
ナザリック地下大墳墓の発見と合流は、この百年。正確にはここ数年の念願でもあった。
そもそも、自分たちがワーカーになることを決めたのは、ナザリック地下大墳墓を発見し、そこにある強力な武具やアイテム、そしてチームを組むことで攻守の揃った戦力へと変わるプレアデスの力によって、主の身をより完璧に守ることにあるのだから。
それこそが第一であり、なによりも優先しなくてはならない目標だ。
だからこそ、ソリュシャンはルプスレギナとの再会を純粋に喜びきれない。もっと言うのなら、まずは彼女が安全な存在であるかを確かめてからでないと、主に報告すらできない状況にあった。
もちろん、これはあくまで万が一への備えだ。
彼女もまた、ナザリック地下大墳墓に残ってくれた、唯一の存在である主のことを第一に考えて行動するに決まっているのだから。
「それでルプー。貴女はいったいいつこの世界にやってきたの? 他の皆セバス様やユリ姉さん、エントマやシズ、オーレオールは一緒なの? 他の階層守護者の皆様も──」
「ちょ、ちょっと、近い近いっす」
直情的なナーベラルの追求に彼女にしては珍しく──というほど彼女の性格を理解しているわけではないが──慌てて身を下げながら、ルプスレギナは視線を逸らす。
何か考えるような間を置き、それをやや遠巻きで観察しているソリュシャンに視線を向けた彼女の目は、それまでのおどけたものではない、野生の獣がごとき鋭さと冷たさがあった。
「答える前に、こっちも一つ聞きたいんすけどね。ここに来たのは二人だけっすか?」
「それはどういう──」
ルプスレギナの真意を探ろうとした瞬間、突如ナーベラルが、耳に手を当てた。
主から
「はい」
通信を接続する。
姉妹との再会より、主を優先させるのは当然のことではあるが、その様子を見たルプスレギナの視線が強くなったのを感じた。
「はっ。了解いたしました」
明らかに立場が上の相手に対し、忠義の念を感じさせる話し方まで聞かれてしまっては、もう隠しようがない。
(仕方ないか)
ルプスレギナが一人でこの世界に転移したにしろ、他のメンバーやナザリック地下大墳墓と共にあるにしろ、彼女も唯一の残った至高の存在である主を捜しているのは間違いないはずだ。
まずは主の無事を伝えて安堵させ、その上で主と会わせるために必要なことだと言って、全ての情報を開示させる方向へ話を持っていこう。
「それで──あの御方はなんと?」
「ええ。目標を保護したので即時撤退命令よ。けれどルプーのことを話す前に切れてしまったから、改めて報告をしないと」
「……二人は至高の御方と一緒にいたの? どなた? もしかして獣王メコン川様?」
今度はルプスレギナの方から質問される。
言葉使いも変わったが、こちらの方が素の性格なのだろう。
(獣王メコン川様は確か、ルプスレギナを創造された御方だったはず。でも妙ね)
至高の御方がいると聞いて、自分の創造主を連想してしまう気持ちは分かる。
仮にソリュシャンが彼女の立場で、主の他に至高の存在がいると知れば第一に確認するのは自らの創造主だ。
しかし、それはソリュシャンの傍に主がいるからこそ。
他の至高の存在が隠れていく中、唯一最後まで残った慈悲深い主。
ルプスレギナの立場で考えれば、まずは主の存在が思いつくのが当然ではないだろうか。
これではまるで──
「落ち着きなさいルプー、残念ながら違うわ。この百年、私たちがずっと忠義を尽くしてきたのは、最後まで残られた至高の四十一人のまとめ役であらせられる──」
「ナーベラルッ」
こちらの制止も間に合わず、ナーベラルは続けた。
「偉大なる御方、モモンガ様よ」
百年の忠義を誇るように、自慢げに語るナーベラルの言葉でルプスレギナの動きがピタリと止まる。
「──は?」
信じられないとばかりに大きな瞳を更に見開いた彼女は、瞳以上に大きく口を開き、呆れた声を出した後、すっと瞳を細めた。
「……何の冗談っすか?」
「冗談とは、どういう意味?」
彼女の態度に驚きつつも、主と自分たちの過ごした時を侮辱されたとでも考えたのか、ナーベラルの声も冷たさを持った。
だがこれは、そんな単純な問題ではない。
ルプスレギナにとって、自分たちの主、つまりモモンガが傍にいることがあり得ないことなのだ。
問題なのは彼女が何故そう断定したかだ。
「さっき百年御仕えしたって言ってたっすね。それがあり得ないって言ってるんすよ」
「だから、なにを根拠に──」
「だって、モモンガ様。いいえ、今は御名を変えられた、最後までナザリック地下大墳墓に残って下さり、今もなお私たちを導いて下さっている至高の御方、アインズ・ウール・ゴウン様は、つい半年ほど前私たちと共にこの地に転移されたのだから」
ナーベラルを遮って告げたルプスレギナの言葉に、今度はナーベラルとソリュシャンが揃って驚きの声を上げる。
「は?」
揃って呆れた声を出した自分たちの顔は、きっと先ほどのルプスレギナとそっくりになっていることは想像難くなかった。
ちなみにルプスレギナがバルブロを一度殺して復活させると言っていたのはブラフです
ルプスレギナが復活魔法を使えるかは不明ですし、そもそも復活には対価が必要らしいので、意味があるならともかく、彼女の趣味のためにナザリックの資産を使うような真似は流石にしません
ああ言えば、逃げ出したとしても自殺しないだろうと考えてのことです
次はこの続きではなく、バルブロの話になります