オーバーロード ~三人三様の超越者~   作:日ノ川

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今更ですがこの話の主人公は三人全員ではなく、そのうちの一人だけなのでそれぞれの出番には差があります


第一章 動き出す者たち
第4話 ワーカーチーム漆黒


「だからよ。そういう堅っ苦しいの、あたしらは嫌いなんだよ。良いから女王様にさっさと金を用意しろって言っとけ」

 

 ワーカーチーム漆黒のメンバーである、長い金髪を一纏めにした髪形の女性、ソーイが竜王国の騎士に詰め寄る。

 彼の仕事は竜王国の女王から託された、首都で開催される戦勝と救国の英雄である彼らを讃えるために開かれる祝勝会への招待状を渡すことなのだが、その受け取りを拒否されたのだ。

 

「い、いえ。ですが、皆様は竜王国にとって救国の英雄。報酬だけ渡すなど、そのような扱いをするわけには──」

 

 気圧されながらも説得を試みる騎士の言葉を遮り、別の方向から声が掛かる。

 

「その英雄である、私たちが不要と言っているのだから、その通りにしたらどうなの?」

 

 もう一人の女性、ナーベが同意する。

 こちらは剣を腰に下げてこそ居るが、ローブを纏った魔法詠唱者(マジックキャスター)らしい出で立ちである。

 髪型はソーイと同じく一纏めにしたものだが、癖のないまっすぐな黒髪のため、その印象は全く異なる。

 共通しているのは、二人とも異常とも思えるほど顔立ちの整った美人という点だろうか。

 

「こ、これは陛下の心遣いなのですよ」

 

 そんな絶世の美女二人から殺気を向けられた騎士は、それでも何とか反論する。

 彼女たちの実力は聞いているし、実際に国を救った救国の英雄であることも間違いない。

 それでも騎士は彼女たちの不遜な態度に苛立ちを覚えた。

 まだ幼いながらも、必死に国を守るため健気に努力する女王の感謝の気持ちをなんだと思っているのか。

 

(これだからワーカーは。腕は立っても性格は破綻している者ばかりというのも頷ける)

 

 思わず心の中で愚痴をこぼす。

 そもそも彼らが成功させた作戦も、本来は竜王国唯一のアダマンタイト級冒険者チーム、クリスタル・ティアが主導となって行われるはずだった。

 しかし、クリスタル・ティアは運悪く突入早々に敵の精鋭に見つかってしまい、数の暴力によって志半ばで倒れてしまったという。

 そして、漆黒はそれをいいことに、予め決まっていた作戦をすべて無視して、勝手な行動を取り作戦を成功させたと聞いている。

 本来はなるべく静かに、都市内に潜入し大将格のビーストマンのみを討伐する手はずだった。人間に比べて強者こそ絶対と考える亜人たちは、大将が討たれれば統率を失い撤退を第一にするだろう。と考えられていたからだ。

 

 本来彼らの役目は、クリスタル・ティアがそれを成し遂げるまでの間、騒ぎを起こして都市内のビーストマンを正面に集めることだった。

 しかし、彼らはクリスタル・ティアの失敗を知るや否や、人質を取って退くように命じたビーストマンに対し、一切交渉することなく人質ごとビーストマンを殺して都市に潜入したという。

 その上で大将も逃がさず討ったのだから、むしろ作戦の難易度は上がり、人質が通じないと分かったことで結果としてより多くの人質を解放できた、最も効率的で被害の少ない方法だったのは間違いないが、騎士が不快に思っているのは、彼らがそれを一切気にしている様子がないことだ。

 自分たち騎士であれば、何とか救う手立てがないか模索するだろうし、どうしても無理な場合でも、それは苦悩の上での選択となるだろう。

 しかし彼らはそれを悪びれた様子もなく、効率的だったからそうするのが当然だ。と言わんばかりの態度であり、そればかりかそんな者たちでも救国の英雄として持て成そうとする女王の心遣いすら無視しようとしているのだ。

 こんな無礼な者たちに持て成しなど必要ない。

 彼自身はそう思うのだが、これも命令。

 簡単に引き下がるわけにもいかない。

 

「その辺にしておけ、ソーイ。ナーベ」

 

 一部始終を黙って見ていた漆黒、最後の一人にしてリーダーが声を掛けた。

 その名が示すとおり漆黒の全身鎧(フルプレート)を着込んだ男、モモンが二人の肩に手を置き、後ろに下がるように告げながら代わりに前に出た。

 

「仲間が失礼なことを言った。しかし、彼女たちが言ったこともまた事実。私たちはただ仕事をしただけですから、初めに提示した額以上の報酬は無用です」

 

 穏やかな口調で戦士は告げる。

 他の二人に比べると、こちらの戦士は話が通じそうだが、ワーカー相手では油断はできない。

 これも報酬を釣り上げるための策略かもしれないのだ。

 

「ですので歓迎の宴は報酬ではなく、陛下が、そして竜王国の民が皆様を労いたいからこそのものです。何とぞ、お気持ちを汲んで下さい」

 

 あくまで報酬とは別であることを強調しながら、深く頭を下げる。

 

「だからこそです。確かに私たちは作戦を成功させましたが、まだビーストマンの脅威が完全に去った訳ではない以上、国民が一致団結しなくてはならない。そんな時にリスクを負うことはない。女王陛下にはお気持ちだけで十分だとお伝え下さい」

 

 さも当たり前のように告げられる言葉で、騎士は気づかされる。

 確かにその通りだ。

 現在は竜王国の存亡の危機であった大侵攻を退けたことで、解放された都市の者たちも、女王も自分たち城の騎士も浮かれているが、ビーストマンの国は滅んだわけではなく、一時的に撤退しただけだ。

 そんな時に浮かれて祝勝会などおかしな話だ。

 幼い女王はともかく、国を守る騎士である自分たちまでもそんな気持ちではいけない。

 むしろ彼女に代わって、冷静な判断を下さなくてはならないのではないだろうか。

 そこまで考えて、すぐに頭の中で否定する。

 

(いや、あの宰相殿がそのことに気づいていないはずはない。となればそれを差し引いても彼らを連れていくことが、竜王国にとって利があるということだ)

 

 幼い女王に代わって政治を取り仕切る宰相は優秀な男だ。

 祝勝会自体は女王の好意であったとしても、問題があれば宰相が止めているはずだ。

 しかし実際、彼らに招待状を渡し、首都まで連れてくるようにとの命が出ている。

 となれば、やはりここで退くわけにはいかない。

 

「いえ。これは陛下よりの勅命。御三方をお連れするまで私は首都に帰ることができません。何とぞ、お願いいたします!」

 

「しつこい下等生物(ウジ虫)が。だったらここでその命を絶って差し上げましょうか。それなら命令違反にもならないでしょう」

 

 吐き捨てるような言葉と共に、ナーベが腰に差していた剣を抜く。

 

「ッ!」

 

 ぶつけられる殺気に思わず身を竦ませる。

 相手は数万を超えるビーストマンの群れを撤退させた英雄。一介の騎士である自分程度では、相手にもならないだろう。

 

「ナーベ。止めろと言っただろう」

 

 先ほどよりややきつめにモモンが言うと、ナーベはそれまでの不遜な態度が嘘のように掻き消えて、即座に剣を鞘に戻すとモモンに対して頭を下げた。

 

「っ! 申し訳ございません。モモンさ──ん」

 

 間の抜けた敬称を聞いて理解する。

 この三人はやはり対等ではない。少なくとも、このナーベとモモンの間には主従関係が存在する。

 そしてソーイの方は主従関係こそなさそうだが、あれだけ気が強い女性が、モモンが前に出てきて以後ずっと黙っているところを見るに、モモンが言えば従うだろう。

 つまり、モモンさえ説得できれば全員を連れていくことが可能となる。

 

「改めて、私の連れが失礼した」

 

「い、いえ」

 

 狙いをモモンだけに絞り再度説得を試みようとしたが、先んじてモモンが提案を口にした。

 

「……では代わりにといってはなんですが、祝勝会ではなく、女王陛下への謁見を許可いただけないか聞いてみていただけませんか?」

 

「謁見、ですか?」

 

「ええ。やはり私たちのような、依頼達成のためならどんな手段も使うワーカーが国の英雄として讃えられるのは、問題があります。ですが謁見ならば、そこまで問題にはならないかと──」

 

 問題がある。という部分を強調するモモンの言葉を聞いて、何を言いたいのかようやく理解した。

 モモンにとってはあの人質を殺した作戦は不本意なものだったのだ。

 そしてそんな作戦を実行した者を国が英雄として扱えば、先ほどモモンが告げた竜王国の団結に問題が生じるという話に繋がる。

 モモンはずっとそれを自分に、そして祝勝会の開催を決めた女王に気づかせようとしていたのだ。

 あるいは二人の女性たちの言動も、初めから自分にそれを気づかせようとしてのものだったのかも知れない。

 それを自分は、相手がワーカーだからと、初めから目的は金に違いないと決めてかかり内心で蔑んでしまっていた。

 彼らが竜王国存亡の危機を救ってくれた救国の英雄だと知りながら、その立場だけを見ていたのだ。

 己の見る目の無さを恥じながら、遅まきながら彼らの意図に気づいたことを報せるべく、騎士は改めて礼を取った。

 

「承知いたしました。モモン様、直ぐに確認を取ります。皆様、私の今までの無礼をお許し下さい」

 

 三人に対し、心から謝罪を口にして頭を下げる。

 

「なんのことですか? 私たちも、そして貴方もお互いに自分の仕事をしただけのこと。謝罪など必要ありませんよ」

 

 それに対し、モモンは最後まで恩を着せることもなく、なにも気づいていない振りをして淡々と返事をした。

 

(何と言う……)

 

 もはや彼らがワーカーであることなど関係がない。

 自分の前にいるのは、実力だけではなく、その人格までも素晴らしい本物の英雄に違いない。

 

 

 ・

 

 

 この都市での最高級宿。

 客は如何にも金を持っていそうな商人や貴族といった者たちばかりだが、そんな者たちを押し退け、最も高級な部屋を借りた三人組が、扉の前でボーイが鍵を開けるのを待っている。

 

「では、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

 

 最高級の宿に相応しい立ち居振る舞いのボーイが差し出した鍵を、一番前に立っていたソーイが奪い取るように受け取った。

 

「ありがとよ。あー疲れた、さっさと休もうぜ」

 

 粗暴な態度と同じく乱暴な話し方をしながら部屋の中に入り、モモンとナーベもそれに続く。

 ボーイが改めて挨拶を口にして扉を閉めるのと同時に、最後尾に居たナーベが音もなく扉の前まで戻りボーイが離れていくのを確認する。

 彼女が一つ頷き、安全を確認したのと同時に、それまで鍵を指に引っかけて弄んでいたソーイがその動きを止め、すっと背筋を伸ばして移動した。

 その姿は先ほどまでの礼儀作法など習ったこともない粗野で粗暴なワーカーではなく、歩き姿に美しさすら感じさせる優雅なものだった。

 ナーベもまた同じように背筋を正した後、二人は並んでモモンの前に立つと、目線すら合わせることなく全く同時に膝を突き礼を取る。

 

「──頭を上げよ」

 

 素の声でも、モモンの英雄然とした者でもない、支配者らしさに念頭を置いて作り上げた、この威厳を込めた話し方にもいい加減慣れた。

 いや、慣れてしまった。と言うべきなのだろう。

 何しろ既に鈴木悟として生きた時間より、こうしてモモンガとして生きた時間の方が遙かに長くなったのだから。

 

「はっ。偉大にして至高なる御身を前に、このような姿であることをお許し下さい」

 

「加えて、人間どもを欺くためとはいえ、モモンガ様に対しあのような無礼な態度で接してしまい、まことに申し訳ございません」

 

 ナーベとソーイ、いや。ナザリック地下大墳墓が誇る戦闘メイドプレアデスのナーベラル・ガンマとソリュシャン・イプシロンが、それぞれ謝罪の言葉を口にする。

 これもいつものことになりつつあるが、こちらに関しては未だに慣れない。

 モモンガの支配者の演技とは異なり、ワーカーとしての二人の演技はまだ開始して数ヶ月と経っていないのだから仕方がないかも知れないが、モモンガとしてはいい加減何度も同じことを言わせるのは勘弁してほしいところだ。

 しかし、そうでもしなければ二人──特に粗暴なワーカーの演技をしてモモンにも気安く接しているソリュシャン──は罪悪感で押し潰されそうになるらしいので仕方がない。

 

(とは言え、百年も一緒にいるのに、この二人はいつまで経っても変わらないなぁ。これもメイドとして作られた設定なんだろうか)

 

「よい。これもまた必要な演技だ。この世界にはかつての私たちを知る者も未だ生存する。その目を欺くためにはかなり大胆な改変が必須。辛いかも知れないが今後もこの調子で頼むぞ」

 

 内心を隠しながら、鷹揚に手を振って告げる。

 

「はっ!」

 

 二人は百年前から一切変わることのない息の合った返事をする。

 

「さて。ここまでは順調に進んでいる。後は竜王国の女王と直接対面し、情報を聞き出すだけだな」

 

「しかしモモンガ様。如何に竜の血を受け継いでいるとはいえ、あの程度の亜人どもの侵攻を防げないような国に、モモンガ様が欲する重要な情報が残っているとは思えないのですが……」

 

 ナーベラルの意見にも一理ある。

 自分たちのようにユグドラシルから転移してきた者たちの情報を持っていたのなら、その情報を駆使してプレイヤーを探し出し、交渉して味方に付ければビーストマン程度たやすく撃退できるはずだ。

 そう言いたいのだろう。

 彼女たちが至高の四十一人と呼ぶ、かつての仲間たち。

 彼らと彼らに創られたNPC以外は、下等生物として見下しているナーベラルらしい物言いだ。

 だが、かつて社会人であったモモンガとしては、そう単純な問題ではないように感じる。

 

「それは早計よ、ナーベラル」

 

 そのことを告げようとした瞬間、先だってソリュシャンが口を開いた。

 

「どういうこと?」

 

「女王がプレイヤーの情報を持っていたとしても、自身がプレイヤーでない限りそれを有用に活用することは出来ない。あるいは本人には理解できずとも、私たちやモモンガ様が聞けば理解できるような情報があるかも知れないわ。何より一国の女王に認められたワーカーと言う肩書きがあれば、今後他国の王や貴族階級からも一目置かれることになる。そうなればより多くの情報が集めやすくなるでしょう?」

 

 モモンガが時間を掛けて考えついた内容を、さも当然のように説明するソリュシャンに驚かされる。

 メイドとして創られた彼女たちにそうした知識はないと思っていたのだが、ワーカーとしての演技や交渉術の見事さを見るに、実はソリュシャンには、元からそうした設定が定められていたのかも知れない。

 もっとも仮にそうだったとしても、既にそれを知る術は存在しないのだが。

 

「その通りだ。ソリュシャン、よくぞその考えに行き着いた」

 

 鷹揚に手を振りながらソリュシャンを褒める。

 これもまた百年の間にすっかり板に付いた支配者の演技の一つだ。

 モモンガの称賛を受けたソリュシャンは、一瞬嬉しそうに笑みを浮かべ、その後直ぐに頭を下げて告げた。

 

「もったいなきお言葉にございます」

 

 それに対し、ナーベラルはこちらは傍目からでも分かるほど落ち込んでしまったようで、ソリュシャン以上に深く頭を下げた。

 

「申し訳ございませんモモンガ様。そこまで考えが至らず、余計なことを聞いて御身の時間を無駄にしてしまいました」

 

「良い。以前も言ったが、我々は一つのチームとして行動することになる。情報の共有のみならず、何かあった際や気になったことがある場合はどんな些細なことでも報告、連絡、相談を徹底せよ。そうすることでお前たちの成長にも繋がろう」

 

 これもワーカーになることを決めてから何度も言っていることだが、こちらに関しては二人とも未だに完璧とは言えず、こうして毎回告げている。

 とは言えメイドとして創られた彼女たちには、ワーカーとしての演技などより、主を差し置いて自分の意見を押し通す方が難しいのだろう。

 

「はっ!」

 

 モモンガの宣言に二人も改めて了承する。

 

「しかし、先のナーベラルの言葉ではないが、問題は女王がどれほどの情報を持っているかだな」

 

 たとえ情報を持っていても、表に出していない以上、それは国の機密と見るべきだ。

 そうした機密情報を教えてもらうにあたり、今回の成果で十分なのか、モモンガには分からない。

 一応救国の英雄と称えられているらしいので、大丈夫だとは思うのだが。

 

「もし、女王が情報を出し渋り、隠し事をするのならば私にお任せを。どんな手段を用いてでも、必ず情報を吐かせてみせます」

 

 ソリュシャンの、元から光のない濁った瞳が更に深く落ちていくのが分かり、モモンガは思わず言葉を詰まらせる。

 彼女が拷問を得意としており、また個人的な趣向としても好んでいるのは知っているが、これはそれとは関係がない。

 なにより、先ほど女王に認められたワーカーという立場の重要性を自ら説いておきながら、それを否定するようなことを口にしていることに、ソリュシャンは気づいているのだろうか。

 

(いや、自分たちの姉妹と百年も離れていたんだ。冷静でいられないのも仕方ないか)

 

 百年前、三人でこの地に飛ばされた後、モモンガは積極的な行動を起こさずにいた。

 しばらく生活して、この世界の平均レベルの低さに気づいた後でもそれは同様だった。

 弱い者が多いと言っても突出した個人が居る可能性はあり、復活手段が無いかも知れない状況で、目立つ行動は避けたかったのだが、今にして思えば、そうやって言い訳をしていただけなのかもしれない。

 モモンガの全てと言っても過言では無い、ナザリックや仲間たちもいない現実を受け入れられず、何もかもがどうでもよくなっていたのだ。

 

 百年という時間を経て、モモンガもようやくその事実を認めて、受け入れることができた。

 

 そうなると今度は、そんなモモンガに文句ひとつ言わず、メイドとしてずっと尽くしてくれていたナーベラルとソリュシャンに、申し訳なさを覚えるようになった。

 せめてその忠義に報いてやりたいと考えたのだが、彼女たちはモモンガが何か欲しいものが無いか尋ねても、モモンガに仕えられるだけで十分だと言って譲らなかった。

 

 しかしある時、モモンガは偶然にも彼女たちの望み、ナザリック地下大墳墓、そしてそこにいるであろう姉妹たちに会いたいと願っていることを知った。

 たとえ設定の上でのものだとしても、彼女たちには姉妹がいる。今までそのことに気づけなかったのは、モモンガが現実世界に於いて身を案じる家族も居なかったからだろうか。

 とにかく、望みを知ったのならばあとは簡単だ。

 

 モモンガは危険を承知で行動を起こし、実力さえあれば、金と情報を集めやすいワーカーとして活動することを決めた。

 ナザリックやプレアデスを始めとしたNPCだけではなく、他のプレイヤーやギルドに関する情報も片っ端から集め、その中で気になったのは御伽話として残っている英雄譚に登場する英雄だ。

 幾人かだが、この世界の者たちには明らかに不釣り合いな強さを持った、プレイヤーとしか思えないような者たちも存在していた。

 特に八欲王と呼ばれる、強大な力を以てドラゴンたちとの戦いに勝利し、世界を支配したと言われる存在には強く興味を引かれた。

 最終的には仲間たちで殺し合いになって滅んだらしいが、今でも南方の砂漠には首都だった浮遊都市が残っているらしい。

 これはつまり、ギルド拠点ごとこの世界に転移して来た者たちがいた証拠に他ならない。

 そして当時その八欲王と壮絶な戦いを繰り広げた竜王と呼ばれるドラゴンの王たち、その血を継ぐとされる竜王国の女王ならばプレイヤーの情報を持っていても不思議はない。

 

 そう考えて、竜王国の女王に接触するため、ビーストマンの侵攻を止めるための戦いに参加を決めたのだ。

 先ほどの騎士に祝勝会の誘いを受けた時は驚き、内心大いに動揺したが、何とか祝勝会ではなく謁見のみで済むように説得できたことで、女王と会って情報を聞き出す機会も得ることができた。

 

「慌てるな。先ずは会ってみてからだ。我々は救国の英雄、情報を渡さなければこれ以上手を貸さないと言えば隠し事はしないだろう」

 

「……はっ。承知いたしました」

 

 冷静なソリュシャンですら、我を忘れ渇望する。

 その事実を目の当たりにして、モモンガは改めて決意を固める。

 

(絶対にナザリックを見つけてやる。それが俺の贖罪だ)

 

 彼女たちから視線を逸らすように、モモンガは宙を仰ぐ。

 

(同じNPCとして作られながら至高の御方を騙り、お前たちを騙している、この俺の──)

 

 いつの頃か、モモンガは自分の体がユグドラシルをプレイする際に使っていたアバターとは違うものであることに気がついた。

 姿形こそ同じだが、使える魔法が少なくなり装備も異なっていた。

 この異変については直ぐに推測が付いた。

 最終日を皆で楽しむ為の計画の一環としてモモンガが考案した、いざという時の為に残してあった拠点ポイントを使用して制作したニ体のレベル百NPCの片割れと同じものだったからだ。

 

 つまり鈴木悟の意識が宿ったこの体は、元々自分が使っていたアバターのモモンガではなく、そのコピーとして創ったNPCの方だったのだ。

 

 そうなると分からないのは、今モモンガが認識している自分の人格だ。

 モモンガは初め、鈴木悟の魂がアバターの中に入り込んでしまったのだと考えていたが、それならばNPCではなく、プレイヤーとして実際に動かしていたモモンガに入り込むはずだ。

 しかし、実際にはコピーとして創り出したNPCの身体に入り込んでいる。その理由が分からなかったのだ。

 同じように本来は単なるNPCに過ぎなかったナーベラルとソリュシャンも勝手に動き、会話もできるようになっていたことで、何らかの理由によりプレイヤーのアバターには魂が入り込めず、近くにあったNPCの身体が選ばれたのかとも思って深く考えていなかったのだが、この数ヶ月、ワーカーとして活動して、これまで以上に二人と親交を深めていく中で、彼女たちの性格がギルドメンバーによって設定された物と同じであると確信した。

 その瞬間、モモンガは長年引っかかっていた疑問の答えに辿り着いた気がした。

 

 すなわち、鈴木悟の精神がコピーNPCの体に入ったのではなく、彼がギルドメンバーたちに見捨てられた慰めに、自分の分身として作り上げたNPCが、設定に従って己を鈴木悟だと思い込んでいるだけなのではないか。というものだ。

 あくまで可能性だ。

 どちらにしても、その可能性に思い至った時点で二人に話しておくべきだった。

 それが筋というものだ。

 

 だが、それをするにはあまりにも時間が経ちすぎていた。

 彼女たちと異なりユグドラシルがゲームであり、プレイヤーは人間である事実を知っている自分が行動の主導権を握った方が早く見つかる。話すのは見つかった後でもいい。

 頭の中でそんな言い訳をして、モモンガは口を閉ざしたまま、ナザリック捜索を始めた。

 

 だがそれも長くは続かないだろう。

 なぜなら。この世界にナザリックが転移していた場合、そこには本物の鈴木悟が作り出したアバターである死の支配者(オーバーロード)も共にいるはずだからだ。

 今までは自分がいる以上、そこに魂は入っていないと考えていたが、もし自分が偽物なら、そこに居る者には本物の鈴木悟の魂が入り込んでいるに違いない。少なくとも彼女たちが自分の支配者と考えている至高の御方とは、自分などではなく、そちらこそが相応しいだろう。

 

 この先、情報を収集してナザリック地下大墳墓を見つけることができたのなら、その時初めて彼女たちは百年間自分たちが至高の御方だと思いながら仕えていた存在が、偽物であったことを知る。

 しかしモモンガは既に覚悟を決めた。

 その時自分がどうなったとしても、百年間騙し続けていたことは紛れもない事実である以上、自業自得に他ならないのだから──




ナザリックのモモンガさん同様、漆黒のモモンガさんも自分がNPCである事実に気づいています
ちなみに百年一緒に居たのに三人の関係性が変わっていないのは、モモンガさんが正体をばらすのを躊躇っていたことと、支配者とシモベが一対二という状況になっていたせいで、話し合ったり協力して何かをする機会がほとんどなかったせいです
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