オーバーロード ~三人三様の超越者~   作:日ノ川

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ようやくこの話の本題に入ります
三人それぞれが相手を認識する話です


第49話 悟の目的

「……間違い、ないのだな?」

 

「はい。たとえ百年振りであったとしても、姉妹を見間違うことはあり得ません」

 

「間違いなくあれは、ルプスレギナ・ベータです」

 

 確信が込められた言葉を受け、モモンガは閉口する。

 現在モモンガたちは王都に戻っており、今は宿で待機している状態だった。

 ラナーや蒼の薔薇からの連絡もないため、いよいよ先延ばしに出来なくなった話をすることにしたのだ。

 

「……ルプスレギナ。プレアデスの次女だったか。奴は一人だったのだな?」

 

「はい。ですが、あくまであの場に来ていたのが一人というだけで、他の姉妹やナザリック地下大墳墓もまた共にあり、彼女は仕事を命じられて来ていたようです」

 

「……そうか」

 

 エ・ランテルに現れた謎の勢力こそがナザリック地下大墳墓、つまりはギルド、アインズ・ウール・ゴウンに属する者たちだった。

 

 その可能性を考えなかったわけではない。

 前回の揺り返しから、百年後というタイミング。

 この世界では伝説と唄われているデス・ナイトを含めた大量のアンデッド軍。

 プレイヤー、つまり中身は人間であるはずの者としては不自然なほどの残虐性。

 

 それら全てが、邪悪な魔王軍ギルドというロールプレイをしていたアインズ・ウール・ゴウンと、その配下として生み出されたNPCたちが関わっている証拠になりうる。

 薄々そのことに感づきつつも、モモンガはこれまで気づかない振りをしていたのだ、と今更気付かされた。

 

「おそらくルプスレギナやナザリック地下大墳墓のシモベたちは、おそれ多くもアインズ・ウール・ゴウンを名乗る、モモンガ様の偽物に操られている可能性が高いかと。話に聞いた世界級(ワールド)アイテムならば、不可能ではありません」

 

 嫌悪感を隠そうともせず、ナーベラルが言う。

 確かにその一つ一つがゲームバランスを崩壊させる性能を持ち、種類も多数存在する世界級(ワールド)アイテムならば、そうした芸当ができる可能性はある。

 

 運営に直接お願いが出来るタイプの二十の世界級(ワールド)アイテムが、こちらの世界にきたことで仕様が変わり、ユグトラシル時代には出来なかったような願いまで叶うようになったと考えることもできる。

 だが、モモンガはそう答えることが出来ない。

 

 ルプスレギナが語ったというナザリックに君臨している鈴木悟。いや、今はアインズ・ウール・ゴウンを名乗っているという男こそが本物であり、ここにいるモモンガ、そして別行動中の悟はナーベラルたちと同じく、創造されたNPCに過ぎないことを理解しているからだ。

 

「洗脳されている以上、その場での説得は無意味と考え、またモモンガ様からの撤退命令も出ていたので、交戦はせず転移でその場から離脱しましたが、これから如何なさいますか?」

 

 黙っているモモンガにしびれを切らした訳ではないだろうが、ソリュシャンが冷静に言うと、即座にナーベラルが噛みつく。

 

「そんなの決まっているわ。今すぐ私たちの故郷にして、モモンガ様が君臨すべき居城、ナザリック地下大墳墓を奪還するのよ!」

 

「奪還するのは当然。でも今の私たちの戦力では、たとえ世界級(ワールド)アイテムを用いたところで勝ち目はない。下手に近づけば、私たちまで洗脳されかねないのよ。だから先ずは冷静に考えるべきだと言っているの」

 

 悟が持っているであろう物を加えると、現在モモンガたちは四つの世界級(ワールド)アイテムを保持しているが、それらは二十ではない普通の世界級(ワールド)アイテムだ。

 使い捨てではないというアドバンテージはあるものの、どのアイテムも防衛力に関しては全ギルドでもトップであるナザリック地下大墳墓を攻め落とせるほどではない。

 ナーベラルもそれくらいは分かっているはずだが、自分たちの故郷、そして姉妹が洗脳されている状況を見過ごすことはできず、冷静になれていないようだ。

 

(それも、勘違いなんだがな)

 

 言い合いを続ける二人を見ながら、モモンガは自嘲する。

 ナザリックにいるNPCたちは操られているのではなく、本物の主の命に従っているだけなのだから。

 ついにこの時が来てしまった。

 この百年間、モモンガが自分のことをNPCと認識して以後、いつか来ることは覚悟していたが、こんなにも突然やってくるとは。

 

「……二人とも」

 

「はっ!」

 

 一言声を掛けただけで、即座に言い合いを止め、深く頭を下げてモモンガの言葉を待つ様は見慣れた光景だが、これで最後だ。

 この百年、二人を騙し続けていたのだと知れば、いったいどんな反応を示すのか。

 仕方ない。と納得してくれることはあり得ない。

 

 言葉による罵倒、でも生ぬるい。

 殺されても不思議はない。

 だとしてもこれ以上は──

 

「この百年。捜し続けたお前たちの姉妹、そして故郷であるナザリック地下大墳墓が見つかり、興奮する気持ちは分かる。だが、先ずは落ち着いて私の話を聞いてほしい」

 

 全てを話すと決めた後でも、持って回った話し方になってしまうのは、百年間演技を続けてきたことによる弊害か、それともこの期に及んでなお踏ん切りがつかず、少しでも時間を稼ごうとしているのか。

 どちらにしても、黙って話を聞く姿勢をとっている二人を前にしては、もう話を長引かせることはできない。

 

「お前たちが言うアインズ・ウール・ゴウンを名乗る者。奴、いや彼こそが──」

 

 偽物であるはずの存在を彼と呼んだことに疑問を感じたのか、頭を下げたままの二人の肩がピクリと動く。

 口を挟まれる前に言い切ってしまおうと、再度口を開いた瞬間。

 突然、部屋の扉が乱暴に開かれた。

 

「おお。やはりここにいたか」

 

 そこに立っていたのは、蒼の薔薇一行。

 先頭にはイビルアイと名乗っていた仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が、先日会った時の子供とも老人ともつかない声とは違う、幼い少女の声で暢気に言う。

 

「ちょっと。イビルアイ、ノックもせず」

 

 その後ろには他のメンバーも続き、リーダーのラキュースはイビルアイに苦言を呈しているが、彼女は気にも留めずモモンガを見つつ、鼻を鳴らす。

 

「急ぎと言うのだから仕方ないだろう。モモンとか言ったな。お前に話がある」

 

「……悟の件か? 悪いが今は忙しい。その件なら後で」

 

「いや、それに関してはもう聞いた。」

 

「聞いた?」

 

 いったいどういう意味か問うより早く、蒼の薔薇たちの後ろから純銀の騎士が現れた。

 

「悟。なぜお前が」

 

「なぜって、お前が連絡してくれたんだろう?」

 

 思わず舌打ちをする。

 確かにモモンガは、ラナーから依頼を受けた直後、悟に連絡を取っていた。

 

 ただし、詳しい説明をしている時間は無かったため、王女であるラナーから仕事を頼まれた件と、悟のことを知っているイビルアイと知り合ったことだけを説明した。

 すると悟から、王国での計画はまだ進んでいないため、王族に貸しを作れるのならありがたい、と言われたため、改めて王子救出に出向いたのだ。

 

「キーノ。悪いが少し外してくれ」

 

 後ろから前に出てきた悟は、そのままイビルアイの肩に手を置いて優しく言う。

 

「わ、分かった。しかし悟様。その名前は、あの」

 

「ん? ああ、悪い。今はイビルアイだったか。今後は気を付けよう」

 

「いやいや! 二人きりの時であれば、その……」

 

 モモンガたちと接していたときの傲慢さはどこへやら。消え入りそうな声で、体をくねらせる。

 そんなイビルアイを蒼の薔薇のメンバーは気持ち悪がっているようだが、そんなことはお構いなしにイビルアイに連れられて、蒼の薔薇はその場を後にした。

 ラキュースだけはそれとは別に何か言いたげな顔をしていたが、それでもなにも言わず、結局一つ頭を下げて皆に続いて歩き出す。

 

 こうして場には、モモンガたち四人が残されたが、悟は更にソリュシャン、ナーベラルを見て言葉を重ねた。

 

「悪いがお前たちも外してくれ。モモンガと二人で話がある」

 

「ッ、恐れながら! サトル様。今はそれどころでは」

 

 ナーベラルの声には、不満を超えて怒りや憎悪の感情が込められていた。

 モモンガと同格と説明した悟に対して、そんな反応を取るとは驚きだが、仕方ない。

 それほど重大な話を遮られたのだ。

 しかし、悟は慌てた風でもなく、一つ頷き、とんでもないことを口にした。

 

「悪いが話は外から聞かせてもらっていた。モモンガは言い辛いようだから、私が話そう。ナザリック地下大墳墓にいるアインズ・ウール・ゴウンを名乗る者は、ここにいるモモンガが自分の分身として作ったシモベ。つまりはお前たちとは、同格の立場なのだよ」

 

 

 ・

 

 

「どういうつもりだ!」

 

 ソリュシャンとナーベラルを退室させて、二人だけになった瞬間、モモンガは悟に詰め寄った。

 

「落ち着け。二人はまだ近くにいるかもしれん。アイテムを使え。さっきも使ってなかっただろう? イビルアイたちには聞かれていなかっただろうが、後で確認しておいた方がいいな」

 

 子供を諭すような言い方だが、確かに正論だ。

 突然、爆弾発言を放り込んだ悟を問いつめようとした二人には、詳しい話は後ですると言って退室させたのだが、明らかに納得した様子はなかった。

 まさか兎の耳(ラビッツ・イヤー)を使って盗み聞きするとは思えないが、言われた通り遮音用のマジックアイテムを使用する。

 ユクドラシルにも同じようなアイテムがあったが、これはこちらの世界で入手したものだ。

 

「それで、どういうつもりだ?」

 

「どういう、とは。別に嘘は言っていないはずだがな」

 

「ふざけるな! お前は全て知っていたんだろう? エ・ランテルに現れた連中が、ナザリックの勢力であることも、そこに本物の鈴木悟がいることもだ」

 

 今になって考えてみると、エ・ランテルでの悟の様子はおかしかった。

 モモンガたちが、偶然そこに訪れたタイミングで、ナザリックの勢力のみならず、悟と竜王まで現れた。

 様々な偶然が重なった結果だと言っていたが、全てを知っていた悟によって操作されていたと考える方が自然だ。

 

 わざとモモンガが英雄になるようにけしかけた上で、周辺諸国連合を結成させてナザリックとぶつけようとしているのは明らかだ。

 問題はその理由。

 考えつくのは一つしかない。

 

「お前は、本物の鈴木悟を殺して、ナザリックを乗っ取るつもりなのか?」

 

 百年間あの二人がモモンガを偽物だと疑ったことは一度としてない。

 観察眼に優れたソリュシャンも気づかなかった以上、本物の鈴木悟を排除できれば、そのまま自分が本物として振る舞うことは不可能ではない。

 

 悟はそれを狙ってモモンガにはなにも知らせず、戦いに巻き込んだのではないか。

 もっと頭の良い者ならほかにもいろいろな可能性を思いつくのかもしれないが、モモンガの頭ではこれが限界だ。

 そして相手もモモンガと同じ鈴木悟のコピーだ。経験はともかく、頭に関しては自分と出来は変わらないはず。同じ答えにたどり着いても不思議はない。

 そう考えての詰問に、悟は一瞬虚を突かれたように動きを止めた。

 

(やはりか)

 

 図星を突かれて動揺したに違いない。

 怒りがこみ上がる。

 自分のことは良い。だが、ナーベラルたちまで巻き込み、場合によっては姉妹たちと殺し合いに発展したかもしれない──彼女たち忠誠心を見るに、モモンガが殺せと命じていればたとえ姉であるルプスレギナ相手でも本気で殺しに掛かっただろう──状況に追い込んだ悟のことをとても許す気にはならない。

 

「……く。くっくっくっ」

 

 動きを止めていた悟の肩が震え始め、同時に喉の奥を鳴らすような邪悪な含み笑いが漏れ聞こえる。

 思わず臨戦体勢を取りかけたところで、悟は顔を持ち上げて笑い飛ばした。

 

「はっはは。俺が本物の鈴木悟を殺して、ナザリックを乗っ取る? バカなことを言うな。俺に自殺しろとでも言っているのか?」

 

「自殺?」

 

 ただ笑い飛ばしただけなら、図星を突かれ誤魔化していると見ることもできるが、最後の言葉が引っかかった。

 

「そうだ。どうやらお前は一つ大きな勘違いをしているらしいな」

 

「勘違いだと?」

 

「お前は、ナザリック地下大墳墓にいるオーバーロードこそが本物──まあ、あれを本物と言っていいのかは知らないが、ユクドラシルで鈴木悟が動かしていたアバターで、俺とお前はNPCとして制作された偽物だと考えているようだが、それは違う」

 

 ここまで説明されれば、モモンガでも悟が言いたいことは分かる。

 

「まさか」

 

 しかし、話を理解するのとそれを受け入れられるのは別の話だ。

 

「そのまさかだ。俺がお前の言う本物の鈴木悟であり、お前とナザリック地下大墳墓にいるアインズを名乗る者こそが、コピーとして作られた偽物なんだよ」

 

「バカな。そんなはずがない! その鎧は間違いなく本物の鈴木悟が、たっちさんから借りてNPCに着せたもののはずだ」

 

 二種類の勇者を思いついた鈴木悟が、戯れで作った二体のNPC。

 一体は現在もモモンガが魔法で作り出している、漆黒の鎧を身に纏ったダークヒーロー。

 そしてもう一体が、ユグドラシルでPKされ続けていたところを助けてくれた、言わば鈴木悟自身のヒーローであるたっち・みーの鎧を纏わせた純銀の騎士。

 

 たっち・みーの鎧はワールドチャンピオンの証であり、同じ物は二つと存在しない。

 だから、その鎧を着ているのは、自分と同じく鈴木悟に作られたNPCしかあり得ないのだ。

 

「ひょっとしてお前、転移前のことは覚えていないのか? サービス終了直前、玉座の間で記念撮影をするために、鎧を交換しただろう?」

 

 当たり前のように言われ、絶句する。

 確かにモモンガには、サービス終了直前の記憶はない。

 気がついたら、草原の上にナーベラルたちと一緒に立っていたのだ。

 それ以前の記憶は、靄がかったように朧気だ。

 それもまた自分が作られた偽物であり、記憶も作られた物だからなのだろう。と勝手に納得していたが、サービス終了直前にそんなことがあったとは。

 

「……」

 

「まだ信じられないか? ではなにか証拠を見せようか」

 

 信じられないのではなく、なにも考えられなくなっていただけなのだが、勘違いした悟は少しの間、首を捻っていたが直に思いついたとばかりに手を叩いた。

 

「確かNPCは超位魔法は覚えられない設定だったな。ならば星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)でも使ってやろうか? お前は知らないだろうが、この魔法はこちらに来てからは効果が変わってな。経験値を消費する代わりに何でも願いが叶う魔法となっている。なかなか便利だぞ」

 

 滔々と語る様はどこか楽しそうだ。

 なおも黙ったままでいると悟は楽しげな雰囲気を纏ったまま、それとも。と前置きをしてから、指を弾くような真似をする。

 同時に鎧が外れて、地面に落ちていく。戦士化の魔法を解いたのだ。

 モモンガも見慣れた骸骨の体となった悟は、自分の胸元に手を入れて、鳩尾部分に浮かんでいた真紅の宝玉を抜き取った。

 

「こちらの方が分かりやすいか? この世界級(ワールド)アイテムは他と違い、俺の名前を冠している。そして俺が持つことで最大限の力を発揮する。おっと、そんなことは説明するまでもなかったな」

 

 悟が差し出してきたのは、ユグドラシル時代にモモンガが入手し、切り札として常に装備していたアイテムだ。

 当然同じ物は二つとないが、外見を似せたものは作ることは簡単であり、モモンガも自分の腹の中に同じ形の物が入っている。

 悟の持っている物もそうだと思っていたのだが、もしこれが本物であったのなら──

 

「……〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉」

 

 一縷の望みをかけて使用した魔法によって、頭に流れ込んでくる詳細な情報は、間違いなくこれが本物の世界級(ワールド)アイテムであることを示していた。

 

「この切り札をわざわざコピーNPCに装備させるはずがない。これで信じて貰えたか?」

 

 腹の中に宝玉を戻す悟を呆然と見つめながら、モモンガは呟く。

 

「お前が、本物の鈴木悟」

 

「もっとも、アンデッドの体になって二百年も過ごしたんだ。もう人間だった頃の鈴木悟とは、精神的にもかけ離れた存在になっているだろうから、どれが本物かなど関係ないかもしれないがな」

 

「……俺たちから見れば、そうかもしれないが」

 

「他のNPCたちから見れば違う、か。確かに奴らにとっては、ギルドメンバーであったか否かが全て。それによって対応が変わるのは、先ほどの様子を見れば一目瞭然だな」

 

 二人には、悟のことをアインズ・ウール・ゴウン四十二人目のメンバーとして紹介し、その立場もギルドメンバーと同格なのだと話していた。

 にも関わらず、先ほど二人は悟に対し憎悪の感情を向けた。

 

 表面上は敬っていても、それはモモンガが言ったからであり、内心では悟のことを初めから、ギルドメンバーと同格だとはみなしていなかったのだ。

 そうした設定に縛られた融通の利かなさは、こちらの世界にやってきて、一つの生命体として転生した今でも変わらず残っているNPCらしさと言える。

 

「そうだ。俺とナザリックにいるもう一人は、お前のコピーでしかない。お前が一言命じれば、二人は間違いなく俺を殺そうとするだろうな」

 

 そう。この後、悟が改めて正体を明かせば、その時点で二人は悟に忠誠を誓うだろう。

 そして、騙していたモモンガに対しては先ほど悟に向けたものとは比べ物にならないほどの敵意、あるいは殺意を向けてくるに決まっている。

 

 覚悟していたこととはいえ、やはり百年連れ添った仲間たちから殺意を向けられるのは辛いものがある。

 それら全てが、悟の選択によって決まる。

 モモンガが人間であったのなら、今頃背中から大量の汗を噴きだしていたに違いない。

 互いが無言となる。

 呼吸すら不要なアンデッド二人が作り出す、完全なる静寂が場を支配した。

 やがて。

 

「あははは!」

 

 緊迫した空間に、悟の笑い声が響きわたった。先ほどの含み笑いとは違う、明るいものだ。

 

「っ!」

 

 突然の変化に驚いていると、すっと手がこちらに伸びる。

 魔法か何かを使われるのかと身構えたが、悟はそのままモモンガの肩に手を乗せた。

 

「そんなことをするわけがないだろう。さっきお前を止めたのは何のためだと思っている」

 

「……どういう意味だ?」

 

 モモンガの問いかけに、アインズは笑いを引っ込め、視線を遠くに向けると、ゆっくりと語りだす。

 

「俺はこちらの世界で二百年過ごした。対してユグドラシルで過ごしたのはたかが十二年。俺にとって、あれはもう過去のことだ」

 

「過去、だと?」

 

「そうだ。お前が百年の間、どう過ごしていたか知らないが、俺はこの二百年様々な場所に行って世界中を見てきた。七焼けの草原。透明湖。三十年に一度発生する巨大竜巻の中心で見上げる、手が届きそうなほど大きく見える満天の星々。この世界はかつて俺が生きていた現実世界はもちろん、広大なユグドラシル世界ですら見たことのない、素晴らしいものがたくさんある」

 

「だったら何故、お前はここにやってきた?」

 

「簡単な話だ。ナザリック地下大墳墓を放置していれば、奴らはいずれ、世界征服に乗り出すだろうと踏んだからだ」

 

「世界征服?」

 

 突拍子もない言葉に驚くモモンガに、悟は一つ頷いた。

 

「忘れたのか? ウルベルトさんたちとそんな話をしただろう? 俺はこちらの世界でナザリック以外のギルドが作ったNPCと接してきた。NPCというのは制作者の意図が反映されているが、同時にギルドの方針をなにより大事にする性質があるんだよ。となれば当然奴らは世界征服に乗り出すに決まっている」

 

 そう言われると確かに、ソリュシャンとナーベラルも自分たち以外のあらゆる存在を下等と断じ、モモンガこそが全ての頂点に立つべき存在だと信じて疑わない。

 もし、モモンガが一言世界征服を命じれば、できるできないは関係なく、嬉々として動き出すのは想像に難くない。

 

「その前にお前が止めると? 確かにお前が正体を明かし、一言告げれば済むかもしれないが」

 

「だから、俺は正体を明かす気はないと言っているだろう」

 

 呆れたようにため息のまねごとをした悟は、そのままモモンガの肩に乗せていた手を一度持ち上げ、再度叩きつけて続けた。

 

「その役目はお前の仕事だ」

 

「俺の?」

 

 何を言いたいのかわからず、首を傾げるモモンガに対して、悟は大きく両手を広げ、力強く宣言した。

 

「そうだ。お前が本物の鈴木悟となり、ナザリックを奪い取れ」




なんだから悟さんがモモンガさんを悪の道に唆すようなことをしていますが、彼は彼なりに色々と考えてやっています
この章は次の話で最後になります
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