ボウロロープ侯についてはあまり情報はありませんが、歴戦の指揮官で在り貴族としての教育も受けているはずなので、脳筋ではあってもある程度考えられる知恵はある前提で書いています
王とレエブン侯、そしてバルブロの働きかけによって、六大貴族全員を含む主だった貴族が集められた宮廷会議の場で、突然告げられた言葉に全員が息を呑んだ。
「……殿下。もう一度、仰っていただけますかな?」
やがて、貴族たちを代表して、貴族派閥の盟主にして六大貴族の一人、ボウロロープ侯は震える声で発言した。
そんなボウロロープ侯に対して、バルブロは一度目を閉じると、少しの間考え込むように間を空ける。
永遠にも感じる沈黙の後、目を見開いたバルブロは堂々たる態度を崩さないまま、まっすぐにボウロロープ侯を見て、先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「私は、父、いや。国王陛下にお願いして、王位継承権を放棄した。今後は弟であるザナックをもり立てていくつもりだ」
淀みなく告げられる言葉に、頭の中がカッと熱くなった。
名指しされたザナックは気まずそうではあるものの、驚きや戸惑いはなく、受け入れている様子だ。
それは中央の玉座に腰を下ろした、ランポッサⅢ世も同様だった。
その様子を見て、これがバルブロの思いつきなどではなく、王家内部では既に相談済みの決定事項なのだと理解する。
「な、なにを仰るのですか。殿下は陛下の長子にして王位継承権第一位。そのような立場にいる御方が軽々しくそんな冗談を口にしてはなりませんぞ」
わざとらしく笑い飛ばすが、バルブロはおろか、貴族派閥の貴族たちすら追従せず、室内に自分の笑い声だけがむなしく響いて、すぐに消えていった。
(日和見主義の蝙蝠どもが)
不愉快だが、理由は分かる。貴族派閥はバルブロという次代の王を旗頭にすることで、初めて結束している。
これまでも貴族が王家の意向を無視して、己の利益を追求することは繰り返されてきたが、決定的な派閥争いに発展したのはここ数年だ。
正確には王が年を取り、王位を誰に譲るかという話になったタイミング──本来はもっと早くてもおかしくはないのだが──で、バルブロがボウロロープ侯の娘を娶ったことで、ボウロロープ侯とバルブロに強い結びつきができたことが一因なのだ。
領地を持っていないバルブロは個人的な資産を持っていないため派手な行動を取れず、王に自分の働きをアピールできずにいたところにボウロロープ侯が手を貸した形だ。
当然善意ではなく、バルブロが王位を継いだ後、彼を傀儡とすることで己が手にする利益を考えてのことだったが、それもなかなか上手くはいかず、こちらがいくら後押しをしても王は頑なにバルブロに王位を譲ろうとしなかった。
そのことにバルブロがじれた気持ちを抱き、これまで以上に手柄を欲し、ボウロロープ侯に手足となる兵を貸してくれるように言ってきたのはつい先日のこと。
(そこで何かがあったのか? 奴らとは未だ連絡が付かないと聞いていたが)
「もはや俺にはその資格はない」
弱気な発言と共に首を振るバルブロの体は、その立派な体躯とは裏腹に小さく見えた。
(これは。もしや例の八本指との癒着の件で、責任を取らされることになったか?)
一瞬そう考えたが、すぐにそれはあり得ないと心の中で首を横に振る。
ああした犯罪組織との癒着は、多かれ少なかれ多くの貴族が行なっていることだ。
バルブロを糾弾してしまえば、そこから芋づる式に他の貴族との癒着も明らかになってしまう。
しかし、今の混乱した王国内でそんなことをすればどうなるか。長年王を務めていたランポッサが分からないはずがない。
ではなぜ。
「侯には迷惑を掛けた。侯の名を使い、戦士団を呼び出した上、功名心で飛び出して余計な犠牲を払ってしまった。その償いは必ずする。すまなかった」
こちらが思考している隙を突いたわけではないだろうが、止める間もなく立ち上がったバルブロは深く頭を下げた。
その姿を見て、ボウロロープ侯は自分の目論見が完全に破綻したことを理解した。
王に就くべき者が、たとえ義父であっても名目上は王家の家臣である人物に対して、完全に自分の非を認めて頭を下げたのだ。
宮廷会議で主だった貴族たちがいる中でそんなことをしては、王の威厳もなにもあったものではない。
そんな者を担いでも、誰も付いてくることはないだろう。
かといって、今更第二候補のザナックに乗り換えようにも、あちらは最初からレエブン侯が後ろ盾に付いている。
同じ貴族派閥の者とはいえ、蝙蝠と揶揄されている男だ。
自分がしゃしゃりでようものなら、即座王派閥に乗り換えることだろう。
そもそもとして、元戦士である自分は頭の良さや狡猾さでは、他の貴族に劣るため、ザナックや、もう一人の候補である六大貴族の一人、ペスペア侯に取り入るのは難しい。
だからこそ、性質の似ているバルブロならば、自分でも傀儡として操ることができるだろうと担ぎだしたのだから。
(こうなっては仕方あるまい)
鼻から大きく息を吸い、そのまま吐き捨てる。
その後、ボウロロープ侯はにやりと唇を持ち上げ、分かりやすい笑みを形作った。
「なにを仰います殿下。我が配下を殿下の下に送ったのは私の指示によるもの。奴らも殿下の、いいえ。我が義理息子のお命を救えたのなら本望。その家族には主である私から十分な保証をお約束いたしますぞ」
豪快に笑うと、バルブロも含め、他の貴族たちも驚いたような反応を示した。
己の目論見がご破算となったことで、ボウロロープ侯が怒り狂うとまではいかずとも、冷たいあしらいをするとでも思っていたのだろう。
だが、腐っても自分は元戦士であり、軍を率いる将でもある。
常勝の将など、現実には存在しない。
大切なことは敗北から何を得るかだ。頭の良さはともかく、そうした切り替えの早さには自信がある。
バルブロを王位に就ければ、最終的にはバルブロと自分の娘との間にできた子、つまりボウロロープ侯の孫を玉座に座らせることもできると思っていたが、その思惑は破綻した。
しかし、今後もバルブロを支援し、自分の地盤を引き継がせて大公とすることで、王家との結びつきを強く持ち続ければ、血の近さ的に次は無理でも曾孫、曾々孫辺りまで行けば再び自分の血が王家を継ぐ可能性は残されている。
そのためには──
「でしたら、今後殿下は我が後継者として面倒を見させてもらいますぞ。陛下、よろしいですかな?」
自分と同じように考える者が出る前に、釘を刺す意味で声にして告げる。
「う、うむ。バルブロの今後についてはこれから考えるつもりでいたが、侯が面倒を見てくれるというのならば心強い。頼んだぞ」
「はは!」
「侯。いや、義父上。不足の息子だが、よろしく頼む」
バルブロの声は感動に震え、ランポッサはその光景に深く頷いている。
他の貴族たちはまだ状況が完全に掴めていないというより、これが本気なのか、それとも後で裏切ることを前提の茶番なのか見極めるまで動かないことを選択したらしく、何も言わない。
先ほどは憎々しく思った日和見主義も、こうしたところではありがたい。
後はバルブロの働き次第だ。
(さて。どうなるか)
・
バルブロを見ながら眉間に皺を寄せるボウロロープ侯を前に、レエブン侯は内心で安堵の息をもらした。
(とりあえず上手くいったようだな)
バルブロが王位継承権を放棄するに当たり、最も障害となるのはボウロロープ侯だ。
他にも後押ししている貴族はいるが、ボウロロープ侯の娘をバルブロが娶っている、つまり義理の親子であり、他の貴族たちより関係が深いためだ。
それは逆に、ボウロロープ侯さえ丸め込めれば、他の貴族も手出しはできないことを示している。
そのため、レエブン侯はザナックやラナーと相談し、王国の主要な貴族をほとんど無理矢理集めたこの場で、正式に王位継承権の放棄を宣言させることにした。
同時に、バルブロ自らボウロロープ侯に謝罪させることで、威厳を低下させて王の資格がないことを知らしめた。
それでも直情的な性格のボウロロープ侯が、感情に任せて何かしでかすのでは。と思ってはいたが思いの外冷静なようで安心した。
もっとも、ボウロロープ侯も歴とした六大貴族の一人。
知略謀略の類が得意とは言わないが、知識として頭には入っている。
今ここでバルブロに怒りをぶつけることの愚かしさを十分理解しているはずだ。
なにより、ザナックが次代の王になろうと、まだ正妻を迎えていない以上、その次をバルブロやその子供が継ぐ目は残っていることは事実。
(それも含め、おそらく今は様子見段階。だが、殿下には必ずやボウロロープ侯の武力を引き継いでもらわなくては)
そもそも力とは大きく分けて三つ、金と知恵と武力。
細かく言えば、領地の広さやコネクション、権力といった間接的なものも存在するが、最終的にはどの力もその三つまで絞り込める。
六大貴族が時に国王の命すら無視できるのは、各々の分野において王すら上回る力を持っているからだ。
ボウロロープ侯の場合、それは武力。
他の貴族たちや王ですら、ごく一部の近衛兵を除き、戦争の際は専属兵ではなく、民衆を集めて兵とする。
それが最も安上がりだからだ。
ボウロロープ侯は例外的に、精鋭兵団という専属の兵を持ってはいるが、それもせいぜい五千程度。
彼の真の力は徴兵に際し、他のどの貴族より多くの兵を集められることだ。
それこそが王を超えるボウロロープ侯の武器である。
バルブロにはなんとしてもその力を受け継ぎ、ザナックに協力してもらわなくてはならない。
武力とは三つの力のうち最も原始的なものだが、それ故に絶大な効力を発揮する。
エ・ランテルを占拠した謎の集団などが良い例だ。
あれだけの力を前にしては、金も頭も何の役にも立ちはしない。
そして現状、王国を守るべく手を取り合った自分たちは知恵に偏りすぎている。
まともな武力はガゼフ率いる戦士団と、レエブン侯配下の元オリハルコン級冒険者チーム。
後先を考えなければ、と仮定した上でラナーと繋がりのある蒼の薔薇。
これら三者は確かに強力な武力ではあるが、所詮個に過ぎない。
特にそうした平民や冒険者を見下している貴族たちに圧力を掛けるには、単純な数の暴力を示すのが手っとり早い。
その意味で、バルブロが正式にボウロロープ侯の後を継ぐことができれば、王派閥は知と武、その両方に於いて名実ともに王国トップの派閥となるため、自然と派閥争いも終わっていくことだろう。
(これで一先ず国内は纏められる。次は周辺国家連合への参加と、エ・ランテルの奪還。その上でザナック殿下の正式な即位か)
やることが山済みだが、おそらくはこれが腐敗し続けた王国を浄化する最初にして最後の機会。
自分たちは今その第一歩を踏み出したのだ。国のため、そしてひいては自分の家族、特に最愛の息子に自分の全てを継がせるためにももう後には引けない。
レエブン侯は拳を握り、人知れず覚悟を決めなおした。
・
「本当なの!?」
「……間違いないっす」
お茶会用の丸テーブルに、姉妹四人が腰掛けていた。
席に着いているのは四人だが、テーブルを囲うようにして並んでいる椅子の数は七脚。
末妹のオーレオールを含めた七姉妹全員分だ。
オーレオールは自分の守護領域から動くことは殆どないため、使用する機会はないのだが、それでも用意しているのは、彼女だけを除け者にはできないと考えたためだ。
それは残る二脚の空席についても同じこと。
今ルプスレギナが語っているのは、その席に座るべき行方知れずの三女たちについてだ。
「ナーベラルとソリュシャン。二人とも無事だったのね?」
念を押すように聞くと、話を聞き入っていたシズとエントマも身を乗り出した。
その視線に、ルプスレギナは一瞬押されたように身じろぎつつ、頬を掻く。
「無事、とは言いがたいっすね。ああ、いや怪我とかそういうことじゃないっす。ただ、あの二人はおそらく精神支配系の魔法か
いつもの軽口から口調が変わり、同時に目つきも鋭くなる。
突然人格が変わったと思われても仕方ない変貌ぶりだが、姉妹たちの間ではもう慣れたものだ。
どちらかと言えば、軽口の方が演技というより取り繕われたもので、こちらの凄惨さすら覚えるサディスティックな面が彼女の本性に近い。
その姿で語り始めた内容に、全員が息を呑んだ。
あの二人が百年前から既にこの世界に転移しており、その上、主ではなく別の者をモモンガと呼び忠義を誓っているという話だ。
「……他の至高の御方が一緒で、嘘を吐くように命じられた、とか?」
「そうよぉ。ヘロヘロ様と弐式炎雷様の御二人が一緒だったなら、そういう嘘をついてもおかしくないわぁ」
シズとエントマが交互に言う。
その二人はソリュシャンとナーベラルの創造主の名だ。
最後までナザリックに残って下さった、慈悲深い主への不敬にも繋がりかねないので、はっきりと口にしたことはないが、シモベたちは皆自らの創造主を最上位に定めている。
ユリとて、今この場に自分の創造主が戻ってきたのなら、その命を第一に考え、場合によっては主や姉妹たちに反旗を翻すことすらあり得る。
それと比べれば、嘘を吐いて皆を欺く程度はなんでもない。
何故そんなことをするのかは予想もつかないが、もとより至高の御方々の考えは自分如きでははかり知ることはできないのだから。
一縷の望みを賭けてルプスレギナを見るが、彼女は首を横に振った。
「んー。その可能性もあると言えばあるっすけど……ただ、ナーちゃんはそういう隠し事が苦手なタイプっぽいんすよね。ソーちゃんの方もそれに気づいて誤魔化そうとしている感じだったっす」
ユリたちの意識が鮮明になったのは、こちらの世界にやってきてから。
それ以前のことは基本的に夢の中にいるような、靄がかった記憶しかないため、ナーベラルとソリュシャンの性格まではっきりと認識している訳ではないが、直接対面したルプスレギナが言うのだから、そうなのだろう。
「……?」
「えぇーっとぉ。じゃあ、どういうことぉ?」
「つまりっすね──」
二人揃って首を傾げている妹たちへの説明は、ルプスレギナに任せて、ユリは思案する。
シズたちが言うように別の至高の御方に命じられて嘘をつくような場合でもなければ、たとえ幾百年時が経とうと、自分たちが至高の存在を偽物扱いするという暴言を吐くことなどあり得ない。
実際、法国という国で傾城傾国なる、どんな相手であっても精神支配を可能とする
ナーベラルはプレアデスの中でもっともレベルが高いが、それでもナザリックのトップ戦力と比べるとかなり劣る。
この世界の者たちでも、精神支配できない訳ではない。
頭の回転は速いルプスレギナのことだ、そのあたりまで考えた上で、そうした結論を出したのだろうが、それはそれで疑問がある。
(偽物……つまり、ナーベラルたちはもう一人のアインズ様が存在していると思っている)
別の者を主と認識するのではなく、主がもう一人いると認識している点が引っかかるのだ。
ユリの脳裏に去来するのは、こちらの世界に来る直前の記憶。
この世界にやって来た時、他の者や姉妹たちが本来の持ち場である第十階層に続く扉の前に待機していたのに対し、自分とセバスは何故かナザリックの地表部分に立っていた。
記憶はおぼろげだが、その時、自分たち以外にも誰かが傍にいた気がしてならない。
(あのとき、本当にボクとセバス様の他に誰かがいたとするなら、もしかしてそれがナーベラルたちの言う──)
「……姉。ユリ姉!」
「え?」
「どうしたんすか。ぼーっとして」
「ああ、いえ。何でもないわ」
「……ふーん」
明らかに納得していないようだが、ルプスレギナはそれ以上なにも言わず、話を進めた。
「で。この話って誰に報告するべきなんすかね」
「え? ちょっ、ちょっと待って。ルプー、この話まだ報告してないのかい?」
あっけらかんと告げられた言葉に驚愕して、思わず素の口調になってしまった。
そんなユリの様子に、ルプスレギナはなぜか楽しそうにケラケラ笑いながら頷いて言う。
「そりゃそうっすよ。私はプレアデスの一員なんすから。報告は直属の上司、いつもならセバス様にまず上げるところっすけど、今は謹慎中。ここは副リーダーのユリ姉に言うべきじゃないっすか」
「だからってこんな大事なこと。今回の仕事はデミウルゴス様から命じられたのだから、報告はそちらに」
元々デミウルゴスから命じられた警邏任務だったのだから、その報告も当然デミウルゴスの管轄になるはず。とそこまで口にして、ルプスレギナがどうしてユリの代わりに警邏に出向いたのかを思い出した。
「ルプー。君ねぇ」
謹慎中のセバスの部下であるプレアデス、特にナザリック外の者にも情けをかけかねないユリに、疑念を覚えたデミウルゴスによる踏み絵。
その行為自体をルプスレギナが不服に思い、自ら仕事を買って出たというのが今回の流れだった。
彼女は未だにそれを引きずり、デミウルゴスへの当てつけに報告をしないなどという暴挙に出たのではないか。
そう考えたユリの呆れ声を聞いて、ルプスレギナは大げさに手を振って否定する。
「いやー別に当てつけってわけじゃないっすよ? ただ、バカ正直にデミウルゴス様に言うのもどうかと──」
彼女が更に言い訳を重ねようとしたその瞬間。
コンコン。と部屋の扉がノックされ、全員の視線がそちらに向かった。
「ちょっといいかしら。ここに、ルプスレギナは居る?」
底冷えするような冷たい声の主は、ナザリック地下大墳墓守護者統括、アルベド。
主が不在の際、ナザリックを直接運営する立場である彼女の登場に、今度こそユリは背筋の悪寒に任せて身を震わせた。
・
「以上です。ご報告が遅れましたことは──」
謝罪しようとするルプスレギナを制し、アルベドは笑顔を向ける。
「いいわ。セバス不在の際の命令系統が完全に決定していなかったことも事実。その件は守護者統括として不問にします」
「……ありがとうございます」
返答までに僅かな間があったのは、アインズに報告しないうちから、アルベドが勝手に沙汰を下すことに疑問を感じたためだろう。
実際、組織内に監査機関などがあればともかく、そうした組織が存在しないナザリックにおいては、いかなる罪であろうと裁きを下すのは基本的にアインズだ。
それを無視したアルベドの真意を見抜こうとしている。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
(やっとやっとやっとやっとやっと、見つかった)
心を隠すため常に浮かべている微笑も、その域を越えて口角が上がり続け、腰に生えた翼が動きそうになるのを意志の力で必死に押さえ込む。
(やはりセバスが遭遇した方こそが本物。ナーベラルたちのことは報告にはなかったけれど、別行動を取っている? それとも単純にセバスに見つかりたくなかっただけ?)
あり得る話だ。
本物の主が現在サトルと名乗っている以上、今はまだ正体を隠すつもりなのだから、セバスの時はあえて二人の姿は晒さなかったと考えるべきか。
(そうなると、なぜ今回は二人を伴っていたのかしら)
「ルプスレギナ。もう一度確認するけれど、ナーベラルとソリュシャンと遭遇したのは偶然なのね? 貴女を待ち伏せしていたわけではなく」
「はい。先ほどユリ姉さんにも話しましたが、ナーベラルは演技ができる性格ではありません。少なくとも二人があそこにいたのは偶然だと思われます」
チラとユリに目を向けると彼女も無言で頷いた。
(となると、これはモモンガ様にとっても予想外? それともナーベラルに演技ができないと分かっていたから、あえて何も知らせずに送り出してルプスレギナと再会させたということ?)
どちらの可能性もあるが重要なのは、主がセバスが向かった聖王国の主要都市に続いて、ルプスレギナが捕らえた王国の第一王子を救出したことだ。
これは主が周辺諸国の戦力を維持したまま、連合を作る手助けをしていることを示している。
三国の要所であるエ・ランテルを一日で占拠したのは、ナザリックの位置から目を逸らさせるだけでなく、こちらの危険性を知らしめることで、わざと周辺国家を巻き込んだ大連合を作らせることにある。
世界征服という大目標がある以上、弱小種族である人間国家がメインの周辺諸国に時間をかけている余裕はないため、ひとまとまりにした上で軍事力を根こそぎ奪い、残った人間たちを管理しやすくしようと考えたのだ。
そのための工作もいくつか行ったが、それを踏まえても連合結成がスムーズに進みすぎているとは思っていたが、主が裏で動いていたのなら、それも納得だ。
(単純に連合を作るだけでなく、戦力の保持を目的としているのなら、モモンガ様は人間たちを率いてナザリックを取り戻すつもりなのかしら。人間如きがいくら集まっても役に立たなそうだけれど……どちらにしても今優先すべきことは)
「セバスが謹慎となっている理由は聞いている?」
「……いえ、詳しい話はなにも」
「そう」
アルベドとしては特に内容を隠してはいなかったのだが、これはセバスの立場を悪くするためのデミウルゴスの策かもしれない。
すべての情報を隠すのではなく、断片的にそれもセバスの立場が悪くなるような情報だけ流し、セバス配下のプレアデスにも圧力を掛けるつもりだったのだろうか。
あるいはこれも余計なことを知られたくないアインズの仕業か。
「デミウルゴスの計画した聖王国での作戦に際し、セバスが敵前逃亡したのが原因よ」
「いったいなにがあったのですか? セバス様が、アインズ様の命を無視して逃げ出すなど──」
あり得ない。と続けようとしたユリはそれ以上言えず口ごもる。
事実を知っているアルベドにとっては、セバスの行動が罪などではないと理解しているが、あの
これも使える。とアルベドはゆっくりと語り出す。
「聖王国で純銀の鎧を纏った騎士と交戦となったからよ」
「純銀の──騎士?」
他の者たちは不思議そうに首をひねっているが、ユリだけは驚いたように声を詰まらせ、瞳を見開いた。
やはり彼女も知っている。
そもそもアルベドがこの部屋にきたのは、セバスから純銀の騎士についてはユリも知っているはずだ。と聞いた為なのだ。
「そう。はっきり言うと、至高の御方の一人であり、セバスの創造主であらせられるたっち・みー様が使用していた鎧を着た騎士と遭遇した。セバスは動きを見てたっち・みー様本人ではないと分かったそうだけれど、少なくとも至高の御方に関係する相手だと思い、戦うべきではないと考えて撤退を優先したそうよ」
「それはつまり、アインズ様以外の至高の御方であると? ではやはりナーベラルたちも!」
声に喜色が混ざる。
妹たちが裏切り者でない可能性が出てきたのだから当然だ。
「それを確かめる必要があるということよ。それを貴女たちにやってもらいたいの。アインズ様には私の方から報告しておくけれど、他の者たちには知らせず、極秘にお願いね」
「極秘、ですか?」
訝しむユリにアルベドは微笑を浮かべたまま笑いかける。
「自分を創造された方がいる可能性を知れば暴走するものが出るかもしれないでしょう?」
「なるほど。承知いたしました。それで、私たちは何をすれば?」
「先ずは──」
思いの外あっさりと納得したユリに作戦を伝える。
場合によっては本物の主と最初に再会することになるのだから、本当はアルベド自らが行いたいところだが、仕方ない。
今は証拠の確保と、主の考えを確認するのが最優先だ。
(モモンガ様、モモンガ様、モモンガ様、モモンガ様!)
微笑の仮面を被り直すことには成功したが、ようやく訪れた本物の主との再会と、あの偽物を蹴落とす時が来た事実に心が浮き足立ち、それを少しでも落ち着けるために、主の名を呼び続けた。
書き溜めが尽きたので、次の投稿まで間が空きます
また一章分書き溜めたのち、纏めて推敲してから投稿しますのでよろしくお願いします