目を覚ます。
ここは何処なのだろう。目を閉じる前にいた空間とは明らかに広さが桁違いであるこの場所と何故か手に持つ剣に首を傾げる。
周囲を見渡すと陳列棚に並ぶお菓子や野菜、ゲームなど、ごちゃごちゃの配置であるが恐らくショッピングモールだろうか?
「暗い」
外からの光は無く、光源は点滅する電灯だけの薄暗い空間に不気味さを感じながらとても広いこの空間に人が数人しかいない事の理由を考える。
ぼんやりしながらぶらぶらと歩いていると、突如どこからかナイフを持った女性が現れて私の目の前にその光る刃を突きつける。
私は眼には狂愛が浮かんでおり笑顔で此方へと駆けてくる彼女に見覚えは無い。
恐らくお互いに武器を持っているのなら殺し合いでもするのだろうと私は考えて、持っていたまあまあ大きな剣を振るうと残念ながら数回も打ちあわない間に私の剣はポッキリと折られてしまう。
どうしようか。
「少し待ってくれ」
ふと思い付きポケットを探ると見覚えの無い携帯、パスワードも掛かっていないそれを開くと中には何十件もの着信履歴。
内容が気になり幾つか読んでみる。どうやら私は目の前の彼女からの連絡を無視し続けていたらしい、なるほど。
こんな所で殺し合いをした理由を理解して引き続き私はその携帯の中にインストールされていた最近よく使っているお喋りアプリを開く。
しばらく今生最後になるネットを楽しんだ後、目の前にいる彼女に再開を告げる。
楽しそうに笑う彼女にコチラも微笑ましい気持ちになりながら殺し合いを続け、近くにいる二人の友人の応援のお陰かギリギリ彼女をこの部屋から突き落とすことに成功した。
「大丈夫だったか◯◯◯」
名前は聞き取れないが応援してくれたのだから友人であったのだろう二人、片方は整った顔の男でもう片方はのっぺらぼうである彼等に礼を言った私は突き落とした彼女を確認しようと窓を覗く。
打ち所が悪かったのか体が上下真っ二つに千切れている彼女の死体を確認して仲間二人が勝利のダンスを踊る。
それを横目に眼下の彼女をじっと見つめていると上半身が蠢き、流れている血が止まったかと思えば上半身から下半身が再生する。
どうやら彼女はゾンビか鬼か、そんな類の怪物だったらしい。体格は此方が勝っているのに不利であった理由を理解し気分良く私は彼女がここまで上がってくるのを待ちます。
「止まりなさい」
踊っている二人に声を掛ける。
男の方が刀を二本持っていたので片方をお借りし、数秒後ここまで駆け上がってきた彼女ともう一度殺し合いを再開する。
泣き笑いで此方に飛び掛かってくる彼女から商品棚の間を縫いつつ逃げまわる。
その途中、二人が巻き込まれたようにも思われたがそれを何とかする余裕は私には無く、遂に袋小路に追い込まれた私は覚悟を決めて目の前の彼女に飛び掛かる。
そして得物が今度は刀であったため私の技量では扱いきれず、また使っていた道具が不良品で耐久力もないために包丁二刀流となっていた彼女にあっさりと刀ごと私は両断されるのであった。
また眼を覚ます。
起き上がるとそこは船の上、周囲の様子からおそらくどこかのジャングルに流れている大川だろうか。
持っていた携帯をみると確かに私は死んだらしく、お喋りアプリに登録されていた友人達が全員消滅していた。
長い時間お世話になっていたアプリの成果が消えたことにショックを覚えつつも会話のログからもう一度元友人達に友達申請を送る。
そうして少し周囲の船を観察しているとピロリンと端末が音を鳴らす。
数多いた内の一人が即座に反応を返してくれてお礼替わりにその人から出されたお題で小説を書こうと船の上、小説執筆のために気を入れなおそうと周囲の水で顔を洗おうとして―――そのあまりの匂いに顔をしかめる。
「臭くて顔も洗えやしない」
ゆっくりと潜水していく船の上、近くに座っていた顔の無い祖父母にこの悪臭の原因を聞く。なるほど、この川には獰猛な魚がいてそれから逃れるため常に油をまき続けているのだとか。
少し離れたところにある澄んだ水を恋しく思いながらも船が完全に潜水してしまったため仕方なく右手の携帯を手放して目の前の滝上りの準備を開始する。
両手を広げて準備を終え、船がてっぺんの見えない滝を登っていく。
私が先頭に座っているため流れてくる水を正面から浴び続け、草原の上航海をする。
そうして水に溺れることしばらく、気づくと周りを進む船の数が減っておりその理由を隣に座っている黒人の船頭に尋ねる。
「なぜ船が減っているのですか?」
「そりゃ川賊に襲われたからだよ」
そうして彼の指さす先には幾隻のヨットが帆を広げています。
なんでもあの中の内どれかに一定以上近づいてしまうと私達の船は襲われてしまい川に突き落とされてしまうというのだとか。
そう聞いて船頭以外気絶して倒れている船の中、ある一隻が近づいてくるのに気づいて船を操縦する彼に話しかけます。
「一隻近づいてくるが大丈夫なのか」
「あれは大丈夫だ、女子供しか載ってないから衝突してもこっちが勝つ」
そしてその言葉通り前に近づいてくる船の中には男性はおらず襲い掛かろうとしてきますが船が接触した衝撃でその船は撃沈してしまいます。
それを確認して前を向きなおすとまた船が一隻近づいてきます。
「また近づいてくるがあれは大丈夫なのか」
「あれも大丈夫だ。砂を積みすぎて人が埋もれちまっているんだ」
それを聞き船を見ます。
またもや言葉通り、船の上にはヒトガタをした砂の塊しかなく操縦者の居ない船はコントロールも利かずに滝から落ちてビル群の中にある病院へと消えて行ってしまいます。
ほっと一息をつきまたも前を向くと今度は周囲の中で一番大きな三階建てくらいの船が此方へと向かって舵を切ってきます。
今まで大丈夫だったから今回も大丈夫と私は思いますがそれでも一応確認しておこう思いました。
鯖を飲みながら望遠鏡で船を覗くとその中には大量のスーツを着てサングラスを掛けた大男達が立っていて、驚いた私は船頭に注意を呼びかけます。
「今度のは大丈夫なのか」
「どれだどれだ」
伝えるのが遅れてしまい船はもう目の前まで迫っています。
少し前の私の行動を反省していると遂に船に縄が掛けられて、その船に水中から引き釣りだされてしまいます。
ナイフと鉄砲を構える大量の大人たちに私が震えていると船頭がボスらしき男にHEYと話しかけて何かを私の知らない言葉で話し始め声が響いて周囲の船が散っていきます。
「――――?」
「――――!」
どうやら黒人の船頭と相手の顔が良く見えないボスは何らかの関係を持っていたようです。
揶揄うように笑いかける船頭と苦渋を飲むかのような相手との会話を眺めていると決着したのかロープが外れ船頭が私に親指を立てたOKサインを示します。
それを見た私は携帯から先ほど私を殺した知らない女性の生配信を視聴するため動画サイトのページを開きます。
どうやら裁縫をしていたらしく視聴者があまりいません。気づかれるのが怖くなり、そして悲しくなった私は携帯を投げ捨て滝に頭から飛び込み意識を失いました。
体を揺すられる感覚で眼を覚まします。
どうやら船が駅に停まった様で私はソファの上で寝ていました。
揺すった人をみると恐らく私の家族の誰かが肩を掴んでいて私はいつ目的地に着くかと尋ねます。
「あとどれくらい?」
「もう着いた」
その言葉に二重窓の外を見るといつの間に降りたのか祖父母が船を持って列車の外から笑顔で手を振っています。
聞こえてくるのは汽笛の音、どうやらもうすぐ列車は次の駅へと出発してしまうみたいです。
急いで一つ目の窓を開けて廊下へと飛び出します。
車掌さんの帽子を被りホームまでの道を人に尋ねるとその人は二つ目の扉を指さして教えてくれます。
二つ目の扉までは少し距離が遠く幾つかある扉はもうすでに閉まり始めていて間に合いそうもないです。
川の揺れを利用して足を勧めますがもう人がぎりぎり通れるくらいの所まで扉は閉じ、そして外の人が何人か扉の間に放りこまれたことで一旦扉の閉鎖が止まります。
外をみるとどうやら気の毒に思った人が人を投げてくれたみたいです。
「ありがとうございました」
お礼を言ってなんとか駅のホームまで這いあがり体についた血を流していると後ろからドアを叩く音がします。
振り返るとそこには私のリュックサックを持って閉まった扉を叩く家族の姿が、どうやら私の忘れ物を届けに来てくれたようです。
手に持った銃を撃ちまくり、リュックサックを回収して私は―――眼を覚ましました。
数分も時間を浪費させたことを謝罪します、私もこれを書くのに数時間かけたので許してください