【凍結】1st Saga バタフライエフェクト 作:ジュネープ
立花光雄
1998年9月28日20:36分
フレンチストリート
ヘリから離れること50メートル。彼らの歩みはとても遅かった。原因は先程までまばらだった感染者の数が一気に増え、その対処に追われながらの移動だ。慎重にならざる得ないし弾の消費量も側から見ていて面白いように減っていくのがわかる。
何故感染者の数が増えたのか?それと言うのも、ラクーンストリートのU.B.C.Sが壊滅した事で奴らに群がっていた感染者がバラバラに分散した事が原因だ。それを彼らは知る由もない。仮に知ったとしても報告書か今向かっているラクーンストリートの惨状を見て嫌でも理解する事だろう。
「クソッタレめ!・・なんで仲間が暴徒共と一緒に襲いかかってくるんだよ!」
「おいお前ら!怒らないから正直に言え!・・・ラリってるのか?!」
「ダイゴお前、こんな状況で問いかけても意味ねぇ事ぐらいわかるだろ?!状況を理解しろ!・・・なんでコイツら死なないんだ?!」
彼らは続々と襲いかかってくる感染者の中に紛れ込んでいるU.B.C.S・・・おそらくラクーンストリートの部隊員に向けて発砲したが死なない事に焦っているようだ。彼らが最初に射殺した時は頭に運良く当たり、何とかなったが今の状況では不利になるだろう。
「これは正当防衛だからな!・・・」
そう言ってダイゴが連射した弾が何発か感染者の頭に命中し、崩れ落ちた。
「・・・そうゆう事か!おいジミー!頭を狙え!頭だ!!」
「了解!」
彼らには運命の女神の加護が付いているのか、はたまた悪運が強いだけなのかは分からないがこの場は無事に切り抜けられるようだ。問題は私自身の移動だ。彼らに気づかれる事なく尾行するには感染者集団は厄介な存在となる。
「発砲したら音でバレてしまう。接近戦闘で感染者を排除するにも自分がやられる危険がある・・・どうした物か・・・ん?あれは・・」
隠れている場所から5メートル離れた場所の民間に大型の給水タンクが備え付けられているのを発見した。それは、やりようによっては屋根の上に登れそうな形状をしており、今この場を切り抜けるには最適なルートだと直感的に思った。しかし、そこにたどり着くまでに問題があることに気づいた。ジミーとダイゴはツーマンセルでの戦闘訓練を受けていたのか常に背後に気を遣っている。もしも私が動いたとしたら彼らに存在を露見させてしまう可能性がある。
どうしたものかと考えている私はふと足元に目線を向けると子供の握り拳大の石が4つ転がっていることに気づいた。
(この石をどこか適当な場所に投げれば・・・いけるか?)
ジミーとダイゴは感染者の相手をしつつジワリジワリと前進している。彼らのいる場所は住宅地の路地裏と言うこともあり間隔は狭く、奴らも大軍で遅いかれずに1、2体ずつ襲いかかっている状況だ。それが彼らを生かしている大きな要因だが、この状況は使えるかもしれないと思った。
彼らの視線は前方8割、後方2割の割合で意識を向けているが後方2割分の半分かそれ以上を「横に」向ける事ができたとしたら、私の移動がスムーズに行えるだろうと考えた。その為に裏庭と裏路地を仕切っている木製の柵に石を当てる必要がある。チャンスは石の数分・・・4回だ。緊張の為か自身の呼吸が若干浅くなった気がしたが多分気のせいではないだろう。
「・・・・よし、いくぞ・・・」
自信を鼓舞する為に放った言葉の2秒後に石を投げつけた。
カコ・・・・
コンクリート製の家にぶつかっただけで木製の柵に当たった音がしなかった。それを裏付けるかの様に銃声の発信源に限りなく近いところにいる2人には全く聞こえていない様だ。
残り3つとなった石を大事そうに拾った私は間髪入れずに2投目を投擲した。
放物線上に飛んで行った石は目標物に限りなく近い所・・・裏庭の(恐らく)草地に落ちた。
(どうしたものか・・・後2つしか無い。そんな状況でどうしろと言うんだ?)
その後3投目、4投目と石を投げたが全てが不発に終わり私は途方に暮れた。
「・・・?!ジミー、横からくるぞ!」
(横から?・・・)
考えに集中していた私の耳にそんな声が聞こえて来て咄嗟に声の元を見ると、柵を破って複数の感染者がジミーに襲いかかって来るのが見えた。これを絶好のチャンスと考えた私は急いで立ち上がり給水タンクに向けて走り出した。
バレるかもしれない緊張感で失敗してしまうかもしれないと感じていたがそれは憂鬱に終わった。無事に給水タンクにたどり着いた私は急いでタンクを上り、屋根の上に登る事ができた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ!良かった・・・次の訓練では・・・絶対にサイレンサー付きの銃を使うぞっ!・・・」
息が絶え絶えになりながらそう独り言を呟いた私はジミーとダイゴが見える位置に移動する為に屋根と屋根を鈍重な動作で飛び移った。
「この薬中共め・・・ダイゴ、さっさと行くぞ!」
「りょーかい、行くよジミー」
私が移動している間に感染者の集団を殲滅した様だ。彼らは射殺した仲間のベストから弾薬を抜き取りラクーンストリート方面に向けて歩み出した。
ーーーーーーーーーー
タンゴ小隊第二分隊員ダイゴ・フローレンス
20:47 フレンチストリート
「この薬中共め・・・ダイゴ、さっさと行くぞ!」
暴徒共と一緒になって襲いかかってきたU.B.C.Sの仲間だった死体から弾薬を抜き取るついでに悪態を吐いたジミーが俺にそう言った。あいつと同じ様に使えそうなものを抜き取っていた俺も死体漁りを辞めて返答した。
「りょーかい、行くよジミー」
戦闘をあいつ・・・ジミーが歩きその後ろを俺が歩く。「あの頃」と何も変わっていないフォーメーションだ。
「なぁダイゴ、このフォーメーション、懐かしいと思わないか?」
「奇遇だな、俺も今そう思っていたんだよ。」
「あの頃に戻りたいとは思わないがな」
「フッ、臆病風に吹かれたのかダイゴ?」
「そんなんじゃねぇよ、あの頃の俺は色々荒んでいたからな・・・」
「・・・確かに。どんなに辛いことでも時が経てば眩しくなると聞いた事があるが、あの時の思い出は確かに酷かったな。ガキの子守をしながら戦場でドンパチしたもんだから仲間からなんて呼ばれてたかわかるか?」
「おいジミー、あの時何度お前を救った?片手では数え切れないくらいだぞ?・・・・ジミーの言う呼び名は俺だって嫌いだったさ」
「確か名前は・・」
「クソみたいな名前は・・・」
「「ララバイウォーリアー」」
ーーーーーーーーーー
1991年7月10日
人民民主党政府傭兵部隊ジミー・キャンベラ
アフガニスタン カブール
「よぉ、ララバイウォーリアー。お前の子供はどこに行った?」
「おい、時間を考えろよ・・・きっとお昼のおねんねの時間だろうよ。ククク」
日差しが頭頂部に照りつける中目的地に向けて歩いていると、日陰で休憩している2人の傭兵仲間が挑発する様に俺の悪口を言った。俺は黙って中指を立てるとそそくさと彼らの元を後にした。到着したのは「オレ達」が雇われている人民民主党政府の作戦司令部だ。ドアの前に立っている見張の兵士からボディチェックを受けた後ドアをノックして入室した。
中では複数人の幹部連中が忙しく動いており、彼らをかき分けながら目的の人物の前にたどり着いた。
彼の名はイブラヒム・エルユヌシ。階級は准将で白髪の初老だ。
彼は作戦テーブルで複数の参謀官らしき人と話していたが俺がテーブルの対面側に立つと自然と視線を俺の目に合わせた。
「お呼びですか?司令官」
「おお、来たかお前達はここに来て1週間と日が浅い。しかし私の直属の部下のウマル君が君とその連子の実力を高く評価していてね。今度の作戦に参加してもらいたい。」
そういうと司令官は横目でウマルと呼ばれた人物に目を向けた。彼が俺に向ける目はザマァみろと言わんばかりに侮蔑の感情が入り混じった目をしており俺は嵌められたと理解した。
それと言うのも1週間前、ここに参加したばかりの俺とクソガキがその時、新人担当を任されていたウマルに「少々」失礼なことを言ってしまって彼の逆鱗に触れてしまった事が原因だ。
その3日後に参加させられた戦闘。クソガキは初めての実戦と人殺しを経験するというのにあの野郎は1番ホットな場所に俺とクソガキ2人だけを投入しやがった。敵に俺らを殺させる魂胆だろうが、オーストラリア陸軍で積んだ経験とクソガキのニューピーラックで何とか切り抜ける事が出来た。
そんな矢先に司令部でコイツの瞳・・・嫌な予感しかしない。
「えぇ私の見立てでは彼ら2人で戦車一輌分の働きをしてくれる見立てです。この作戦には最適でしょう」
「・・・・私達にはすぎた評価です・・・・所で作戦の内容を教えてくれませんか?」
ウマルの嫌味を躱して司令官に聞くと彼の口からは驚きの内容が飛び出てきた
ーーーーーーー
カブールとジャララバードの中間にある補給基地がイスラム党の攻撃を受けると連絡があった。幸い攻撃までに時間があるので、我々としても大規模な戦力を派遣して防衛戦を行いたいと思っていたが、そうは行かなかった。ムジャーヒディーンの各派閥が2年前にジャララバードで大敗を喫したにも関わらずまた総攻撃を行うという情報が司令部にもたらされた。
そうなると戦力をジャララバードに集結させたいが、その場合補給基地を見捨てる事になる。
仮に補給基地の総攻撃がブラフだとしたら我が軍は重要拠点を一つ敵の手に渡す可能性がある。
そんな時にウマル君から君達の話を聞いてこれ程の適任者はいないじゃないかと喜んだよ。君達には今日の20時から1週間、補給基地で防衛任務に当たって貰いたい。
ーーーーーーー
「何か必要なものがあったらここの武器庫から好きなだけ持っていくといい。何か質問はあるかな?」
「・・・・増員を、せめて10人程度お願いしたいのですが。」
「司令、ジャララバードが陥落したら我が軍のみならず一般市民まで混乱してしまいます。そんな時に無駄な兵員を割くわけにはいきません!」
「確かに・・・2年前の戦いで我々の団結力は確固たるものとなった。そこを落とされるのは軍としても本意では無い。現地にいる9名の駐屯兵と一緒に任務についてくれ」
「・・・分かりました。特に質問はありません。では失礼します」
俺はそう言うと司令部を黙って退出して手頃な壁に痛烈な蹴りを加えてやった。
ーーーーーーーーーーー
タンゴ小隊第二分隊員ジミー・キャンベラ
20:50 フレンチストリート
「あの時のウマルの野郎の顔と言ったら・・・元の原型が分からなくなるまで殴りつけてやりたかったぜ」
「俺には分からないが、部屋に帰ってきたときのお前の顔は・・・正直言って恐ろしかったよ」
そういうとダイゴはブルリと肩を震わせた。
「そう言えばあの時お前はどうしてたんだ?」
「あの時?・・・いつの時のことだよ?」
「ほら、あの時だよ・・・装備一杯のトラックで補給基地で向かった時だ」
俺がそう言うとダイゴは合点がいったと言わんばかりに話始めた。
「そうだな・・・あの時はお前の顔が怖くて黙っていたから・・・・・・・」
投稿完了。多分次の投稿は9割回想録でやっていくと思います。
最後ら辺の回想は史実のアフガニスタン紛争を舞台にしてます。ジミーとダイゴの雇い主である人民民主党政府に傭兵部隊が居たかは分かりませんが、時系列的に書きやすいのといい感じの混沌ぶりがWikipediaに書かれていたので無理やり作りました。
見づらいなと感じたら感想欄にアドバイスお願いします