「人間では無い?・・・発言の意味がわかりません」
「そのままの意味だよ・・・・厳密に言うと今、地球上で栄えているホモ・サピエンスではないと言う意味だがね」
「ホモ・サピエンスではない・・・・あまりその分野に詳しくはないのですがホモ・エレクトスの様な人類のことですか?」
「いや、私は現在地球上で確認されている人類とは違う。君達の原型となった種族『ホモ・オリジン』だ。」
「ホモ・オリジン・・・」
言われてみれば彼女から感じた違和感の正体が直感的に理解できた。日本人が中国人や韓国人を見分ける事ができる感覚に似ている。
私は無言を貫き彼女もまた無言で私を見つめている。2人との間にある緊張の糸がピークに達したその時、彼女は自身の名を名乗った。
「私の名前はセントラルだ。この名乗り以降私の名前を言う事を禁じる。私の名前は君の脳に記憶として残して欲しい。」
「は・・はぁ・・分かりました」
セキュリティの硬さがここまで来ると感心を通り越して呆れてしまう。一瞬冗談かと思ったが彼女の瞳は嘘を言ってる様には見えない。
「・・・・・取り敢えず、私を呼び出した理由をお聞きしても?」
「この組織の事と君が何故、日本支部の司令官に任命されたのかを説明しようと思ってね」
「ん?・・・司令官任命の理由についてはリライター副司令の十条聡子から説明を受けるので説明は不要ですが?」
「それはセキュリティレベルが低いものにしか教えられない『表向き』の理由だ。私が今から話すことは絶対に口外しない様に」
そう言って彼女・・司令官は語り出した。
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昔の哲学者ニーチェが提唱した思想『永劫回帰』という言葉を知ってるか?「時間は無限であり物質は有限である」という前提に基づいた物で端的に言うと【ある事象が発生した時と場所を繰り返し行う】という考えだ。輪廻転生という仏教的な教えと近いが少し違う。
輪廻転生では生まれ変わった時に同じことを繰り返さない。対して永劫回帰は仮に生まれ変わったとしてもテープレコーダーの様に事象が繰り返される。
彼の思想は説の立証が不可能に近い故に否定的な意見が多数派を占めているが組織は違う。その思想の結果は違う物となったが立証することができた。それが、【ループをするが小さな変化が結果を大きく変える】所謂【バタフライエフェクト】と呼ばれる現象と限りなく同じ物だった。
本題に入ろうか。組織はこの永劫回帰という思想から立証することのできた現象を使うことのできる人間がいる事を確認している。彼等を【エフェクター】と命名して組織にスカウトし各支部の司令官職や本部勤務についている。
そう、君の事だ。
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「十条はその事を知らないのですか?」
「あぁ。セキュリティレベルの低い者にはカバーストーリーを教えている。この事は本部勤務の者か、各支部の司令官しか知らない事実だよ。」
「質問ですが、私が司令の言う【エフェクター】だとなぜ判るのですか?私はまだ一度も永劫回帰?というのを経験したことがない者でして。」
司令官が語った事はいまいちピンと来なかった。永劫回帰という思想自体たった今知ったばっかりの私はどんなに考えても今までの半生でソレらしい出来事に遭遇した事はないのだ。
「【エフェクター】か否かを選定するのは私の管轄ではないので答えることができない。しかし、他支部の司令官達に共通している経験談というのがある」
司令官は表情筋を一ミリも動かさずにそこまで言うと一呼吸置いて続けた。
「どこからともなく声が聞こえてきたり、得体の知れないナニカが脳内に入ってきたことの経験は?・・・それが有るのならば君はエフェクターだ。」
「たしか・・・小学生の頃にそんなことがあった様な。それと最近声が聞こえてきたりした事はあります。専門外ではありますが精神疾患の方でも同じような症状の方がいるのではないですか?」
「君は精神疾患の患者と同じなんだよ。彼等はエフェクターになり得る素質を持っていたが開花する際に精神に異常をきたしてしまった・・・言うなれば失格者だ」
「失格者・・ですか」
私の何処にエフェクターたる素質があるのか甚だ疑問に思うがそんな事は一旦棚に上げて話を進めることにした。
「この基地での訓練期間中は基地を拠点として世界中の『対』をサポートする現場業務と『対』のサポートにおけるエフェクトの使い方、エフェクトの習熟訓練を行ってもらう。最初は主にエフェクターとして能力を使いこなせる様に習熟訓練を施す。」
「現場業務とはどの様なことをするのでしょうか?」
「各支部司令が普段指揮しているエージェントの立場になって業務を行うだけだ。どうしてもVR訓練に慣れてしまう人が毎度発生するのでね。その為に現場にエージェントとして送り込まれるわけだ」
「なるほど、分かりました。それでは訓練開始日時と訓練開始場所を教えていただけないでしょうか?」
「日時と場所に関しては後で君の端末に添付する。話は以上だ、退出してくれ」
そう言って彼女は椅子を私がきた時と同じ方向に向けるとこれ以上話す気はないという事を態度で示して室内は沈黙に包まれた。
「では失礼します」
部屋の外に出た私はもう一つの扉に歩みを進めていくとロボットのガーディアンが話しかけてきた。
「お話は終わった様ですね。司令官との初めての接触はいかがでしたか?」
「衝撃でした・・・・司令官についての話はしていいですか?」
「室内で知った事をすぐに話さずに確認を取る・・・良い心がけです。貴方が司令官室で話された内容を少しでも喋ったら今後行われる機密保持講習のカリキュラムを増やす必要がありましたが憂鬱だった様ですね」
「言わなくて正解でしたね。私としては早い所全てのカリキュラムを終わらしたいと思っているので・・・・こんな所で減点されるわけにはいかないんですよ」
「それは良い心がけです。そろそろ退出したらどうでしょうか?私は高性能な機械ですが日常業務で人とのコミュニケーションを取る行為でリソースを割きたく無いのですよ」
失礼なロボットだと思いつつ軽く会釈をして部屋を退出した。
時計を見ると針は13:45分を指していた。VR空間で激しい運動をおこなったその足で司令室に向かったものだから私の腹の虫がご飯を寄越せと泣き喚いているが、今の時間と移動する時間を考慮したら昼食としては微妙な物だ。
「ご飯を食べないと何も始まらないな」
誰もいない通路で1人呟くと部屋の横に停車していたビークルに乗り込み目的地を基地の食堂に設定して発車した。
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組織総司令官【セントラル】
何時からだろう。同じことの繰り返しだと気づいたのは。いや、答えは幾億も前から出ていたな。「あの方」から力を貸してもらった時からだ。世界は歴史を刻んでいるように見えて同じ時、場所で同じ人物が行動を起こす。時間という概念は一方向の概念であって繰り返されるものではない。
「司令官。彼は食堂に向かったようです。そのまま監視を続けますか?」
「その必要はない。この世界で彼は守秘義務を厳守した・・・前とは違ってね」
「確かにそうですね。『今回は』監視を行いません。」
私が「あの方」との邂逅は今でも鮮明に覚えている。あの日の私は1人の少女でしかなかった・・・
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????年 ??月??日 西方セントラルエリア某所
セレス・カーシル
鬱蒼とした茂みの中で私達は息を殺して隠れていた。前方には私達がペットとして飼っていた動物が人を食べていた。恐怖で体が震えるのを我慢してその場に存在して無いかの様に息を殺していると右手をギュッと握り締める感触が伝わった。
横には14歳になる男の子、ヤルマン・タールが不安そうな顔でこちらを見ている。
私は彼を安心させるために空いている手で頭を撫でるとその手を自身の唇に持って行き人差し指を一本立てた。
私達はコロニーで食糧を調達するために大人達のグループに同行した所謂『見習い』という階級に属している。数年前の「大厄災」で故郷と私達が持っていたテクノロジーの殆どを失った事で数少ない生き残りは他の大陸に散っていった。その中の一つ、輸送客船「アドミン号」に搭乗していた私たちは今いる西方セントラルエリア(現:中央アジア)にある洞窟内をコロニー化した。
「大厄災」の中で持ち込めた設備は数百人が暮らすコロニーの要求に応える物では無く私達は自給自足の生活を強いられて10年の月日が経過した。
「大厄災」当時8歳だった私も今では見習い階級の子を統率する立場になり近々昇進があるだろうと周りの大人から言われていた。そんな矢先に事件が起きた。
食糧採集の経験の浅いヤルマンが独断専行と命令無視をして遭難したのだ。彼が居なくなっている事にいち早く気づいた私は近くの大人を1人同行させて捜索した。その道中に野生化したペットと遭遇。私を守ろうと目の前に立ち塞がった男は私を逃そうと獣の気を引いてくれた。一瞬の隙に乗じて近場の茂みに隠れると其処には私達が探していたヤルマンが震えながら縮こまっていた。見つけた事に対する安堵も束の間、鋭い悲鳴が辺りに響き渡った。その方向に顔をつけると目をカッと見開いた状態で絶命した大人がペットだった獣にゆっくりと咀嚼されていた。
そして現在に至る。
私はヤルマンについて来いというジェスチャーをすると彼はその意味を理解して指示に従った。が、足音を極力出さないようにという指示も出してなかった事によって地面に落ちている枝を盛大に折ってしまい、あたり一帯に音が響き渡った。
「?!・・・・」
「・・・・・・」
自分が出した音に驚いた彼と脳がパニックになって黙り込んだ私。恐る恐る獣の方向に目を向けると獣は食事を中断して私達のいる方向にゆっくりと顔を向けた。その瞳が私と合った瞬間に勇気を出して叫んだ。
「逃げて!!!!!!!」
「っ!!はい!・・・」
背後は振り返らない、音だけで獣が近寄っているのがわかる。必死に走ったが獣の足音は徐々に私に近づいてきて・・・・
「ッキャ!!!」
「お姉さん!!!」
「っく・・・だめ!!来ないで!!」
焦っていた私は木の根に足を取られて転んでしまった。ヤルマンが私に声をかけるが早く逃げろと言う意味を込めて叫んだ。
切羽詰まった私の声に一瞬ビクッと肩を震わすと意味が伝わったのか彼は一目散に逃げていった。
彼が草木をかき分けて逃げていくのをじっと眺めていた私の首筋に生暖かく異臭のする風が吹きかけられた。
本能的にそれが私たちを追っていた獣である事を理解した私は恐る恐る後ろを向いた。
(あぁ・・・私死ぬのかな・・・)
目を向けると一対の鋭い眼光が私を睨んでいる。
元ペット・・・後の世界で「T-REX」と呼ばれる二足歩行の獣はその凶悪な牙を見せつけるように大きく口を開くと私に飛びかかってきた。
咄嗟に目を強くつぶった私は来る死の陰から少しでも遠ざかりたいと思い、その身を縮こませた。が、いつまで経っても痛みは感じない
(なんで痛くないの・・・?)
疑問に思い恐る恐る目を開けると獣は大きく開いた口を私から数センチ離れた位置でピタリと静止していた。
何かがおかしい。そう感じた私は違和感の正体に気づくのに時間は掛からなかった。
世界が止まってるのだ。
空に目を向ければ鳥が中で静止したまま微動だにせず、木々の上から私たちを見ていた小動物たちも身じろぎ一つしない。そんな異常な光景で唯一動いているのが私だということに得体の知れない恐怖を感じた。
「全く・・・君らの生命力は素晴らしいな。」
私の横から落ち着いた男性の声が聞こえて反射的にそこに顔を向けた。
綺麗な焦茶色の髪を中央から半分に分けた男性がここに最初から居たかの様に佇んでいた。近くに人がいたら獣もそちらに目を向けるはずなのにそんな事は今に至るまで無かった。その獣は知能がとても高く腰を抜かして貧弱そうな私は後にして先に体格の良い男性を襲い掛かるであろう事を私は知っている。
「君達を少しだけ観察してみたが中々に面白い。人類の生命力は地球で一番なのは間違いが無い。私が言うのだから絶対だ。」
襲われる瞬間の体勢のまま唖然として男性を見上げていると彼は意味の分からない事を言った。
男性は中年に差し掛かった青年のような見た目をしているのにもかかわらず目はどの様な感情も写さず、話す雰囲気は私が今まで会ったどの様な人よりも「年配」なんだと何故か思ってしまう様な青い瞳だ。
「しかし、高度なテクノロジーをもった文明が滅んでもある程度の人は生き残る事が出来る。つまりはこの世界のローテクな人々を裏から操る事ができるわけだ」
「あの・・もしかしてあなたは・・・」
今まで考えていた事よりも強烈に興味の湧く事がある。それは彼の身に付けている服装だ。
「私たちと同じアトランティス人ですか?」
彼の見た目は私の故郷が滅んで時間が経つ毎に見る事が無かった服装を着ているのだ。
「何故そう感じたんだ?俺はアトランティス人では無い。何と言えばいいのか、そうだな・・・『観測者』かな?」
彼の服装は私たちのコロニーでよくあるオシャレのカケラもない機能的な服ではなく、私たちの国が滅びる以前に身に付けていた機能性の無い服だった。
私の視線が彼自身が身に付けている服装に注がれている事に気づいたのか指先で自身の身に付けている服の端を摘んで言った。
「君達の流行に則ってこの服を選んだが満足していただけたかな?。もっとも、その流行は国が滅ぶ以前のものだけどね」
「何が目的なの?」
「いきなりだね君・・・ほぉ、状況を理解してこの質問をしているのか。」
何かを解決したかの様に1人で頷く彼は私に向けて右手を差し出した。
「君に決めた。この手を取った瞬間から悠久の時を地球の為に働く事になる。途中で辞めることは出来ない。人の死を何千何万と見届ける事になる・・・さぁどうする?」
何の話なのか理解出来ないが彼から放たれる雰囲気は有無を言わさないもので私は恐る恐るその手を握った。
その瞬間私の脳に大量の知識が入り込みひどい頭痛が襲いかかってきた。
私の国が壊滅した理由、地球に生きる者が知る由もない知識の数々・・・それらをたった1秒で自身の記憶領域に刻み込まれた私は意識を手放した。
お久しぶりです。就活が困難でいっその事、終活を始めようか迷っているジュネープです笑笑。
今後の1st Sagaとしては今まで登場したオリジナルキャラ全員分の過去回を短編作品として投稿していこうと考えています。短編作品にする事で色々な作風で書くことができるしキャラを深掘りできて今後に活かせると思います。
それ以外の報告ですと、主人公が基地に来る前に他の支部と行った作戦に出てきたブラックラグーンの話ですが、再放送しているアニメの主人公の情報が纏められた紙で「1995年」と書かれていたのでヤベェやっちまったと思っています笑。その話の話を何かに置き換えようと今考えてるのですが案が思い浮かばない・・