彼は見どころがありそうだ。
マルハワ学園
そこは地上の楽園・・・・・潤沢な設備、経験豊富な教員が揃った学校だ。
そんな場所がほんの数時間で阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
原因は簡単だ。以前からこの学園が危機的状況に陥る危険性は組織で把握しており、私は「訓練の一環」として
この・・・「陸の孤島」に潜入している。
数時間前まで青春を謳歌していた学生達の学び舎は地獄絵図となり
教師たちが学生に教えるカリキュラムを苦慮していた職員室は感染者だけが動く空間となり
学生達が運動に精を出していた運動場はがらんどうとした不気味な広場に変わった。
そんな中、私とヨハンは「対」・・・・いや、ヒーローが出現する時を今か今かと待機していた。
「新人。少し肩の力を抜いたらどうだ?対が来る前からこんなに緊張しているといざって時に役に立たねぇぞ?」
「はい・・・そうしたいのですが・・・どうやらこの学園の生徒達に情が移ったみたいで・・・」
「はぁ・・・これだから新人は・・・いいか?よく聞け。この組織に身を置いている以上は情なんて下らねぇものなんか捨てちまえ。じゃないとお前が死ぬことになるぞ?」
そういった彼の目線は厳しさとほんの少しの優しさを感じられるものだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻
マルハワ学園本棟廊下
リッキー・トザワ
「なんだよ・・・なんで学園全体にウィルスが蔓延してるんだ!!」
パニック状態になった自分の精神を落ち着かせるように叫んだ俺は、ほんの数日前にこの学園にきた大学生だ。
叔父さん・・・ダグラス教授の単位欲しさに付いていったら新種のウィルスを介したバイオハザードに巻き込まれちまった。
叔父さんはこのパニックの中で「奴ら」の仲間になってしまった。俺は一人でこの学園を・・・陸の孤島から脱出しないといけないんだ。
そんな中出会ってしまったんだ・・・「あの人」に
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
軽率だった・・・それしか言えない。対が発生したとの報告が組織からもたらされ、ヨハンから「一人で対処しろ。本筋は俺が何とかする」
そういわれて対の場所に向かったがドジを踏んで対に私を認識されてしまったのだ。適当な事を言いつくろうにも私の装備は傭兵の様な出で立ちで、とても言い逃れできない物だった。
それに加えて彼・・・リッキー・トザワは私が教員として潜伏していた際に面識を持っているのだ。
「ジン先生!・・・・なんなんですか?その恰好は」
「これは・・趣味が高じて集めたモノなんだ。所でミスタートザワは何故こんなところにいるのですか?」
「学園の状態を考えてくれ!俺はここから脱出する手段を見つける為に動いているんだ。先生の持っている銃はマシンガンだろ?
これを使っていれば何人の生徒を助ける事が出来た事か!!!」
「落ち着きたまえ。この学園の警備は厳重でサブマシンガンだって保管していたんだ。この様な状態になった学園を見るとそれらの武器を使った所で焼け石に水なのだよ。ついでに言えばこの武器はマシンガンでは無いAK74だ」
リッキーの興奮を冷静に対処しつつこれからの事を考えていた。何しろ彼が件の「新たに発生した対」なのだから。
「ここは危険だ。ひとまずマザーグラシアの執務室に向かおう」
「マザーは・・・・死んだよ」
「・・・・なんだって?」
リッキーは悲しげな顔で事の顛末を語った。彼曰く。マザーグラシアは以前ある問題を起こしており、その問題の被害者生徒の恨みによって殺害されたという。現在発生しているバイオハザードもその生徒が首謀者との事だ。
「何てことだ。そんな事が起きていたとは・・・とにかくここから脱出するための手段を確保しよう。見たところリッキー君は銃を持っているようだから別行動で行こうか」
マザーグラシアが変異した生徒会長のビンディ・ベルガーラによって殺害されていることは把握していたが、それを本来知っているのはその場にいたリッキーただ1人である。なので私は「普通の学園教師」が行いそうな行動パターンを考えて発言したのだ。
私は早く本筋の流れに戻すためにリッキーとの別行動を提案した。それによって彼から逃げる事が可能だと踏んでの事だ。
「いや、この状況で単独行動は危険だってみりゃ分かんだろ?!一緒に行くべきだ」
「・・・・よく考えたらその方が賢明ですね」
失敗に終わったようだ。ならば、本筋から離れないように何か問題が発生したらエフェクターの力を使って軌道修正するしかない。
そう考えた私は彼と陸の孤島でサバイバルを行う事にした。
ーーーーーーーーーーーーー
数分前
アドミン本部
ヤン・メイリン
アドミン本部には様々な施設が存在する。
射撃訓練場、仮想訓練室、居住スペース、講義室・・・・地下数千メートルに建造されているこの施設は出入り口である陸地よりも巨大な施設となっている。
そんな施設の司令部要員しか入る事の出来ない区画。その一室は各地の司令部やエージェントの管理、新たな対の捜索を行おう部署を統括する総司令部が存在しており、各部署に繋がる部屋ごとにセキュリティレベルが存在している。
エージェント管理部は重要セキュリティレベル1
司令部管理部は重要セキュリティレベル2
本部管理部は重要セキュリティレベル3
対捜索部は重要セキュリティレベル4
と、この様な構成となっている。因みに私が在籍している部署は本部管理部・・・つまり、気密性が二番目に高い部署となっている。
この部署では主に本部に滞在している物のフォローアップやセキュリティ管理、人員管理、備品管理、各部署との調整を管理するチームに分けられている。
現在私はある新人司令官のオペレーターを行っているのだ。
【立花光雄】
さえない東洋の中年男性の様な見た目だが、すでに何回かオペレーションを経験しており、今までの新人司令官よりは使える部類に分類されている。総司令部が何故問題点のある人材を基地司令に据えるのか理解に苦しむが、私の知らない何かがあるのだろう。
新人司令官で総司令部に配属された人員は毎日の日報提出が義務付けられており、それらのチェックと評価が私の現在の任務なのだ。
「彼の日報の件名は何々・・・・「潜入任務を行い、生徒に対して講義を実施」・・・・またかぁ」
彼はまじめなのだ。報告書には何時に何があってそれに対して何を行ったか等が詳細に記載されているが、如何せん任務に関連する重要事項では無い。書く事がないのであれば
【本日は異常なし】だの【任務関連の事案はなし】だの記載するだけでいいのに・・・
「どうしたの?メイリンそんな顔して・・・あっもしかして例の新人司令官関連ね」
「仕事中よ。私語は謹んでください。アリス先輩」
「いいじゃない。少しのお喋りぐらい。んーと、なになに~【数学の講義で問題が分からない男子生徒と女生徒、計2名で補習を実施】・・・・ナニコレ?」
「ちょ・・・勝手に見ないでくださいよ!」
「ごめんごめん・・・・あっ、コールされたから私は業務に戻るわね」
そういうと彼女・・・アリス・ベネットは自身の仕事に戻った。
アリス先輩はブロンド美人とでも言えばよいのか。グラマラスな体系の肉食女子と呼ばれる部類のオペレーターだ。過去に自分が気に入った男を片っ端から食い荒らした事があり、総司令部では彼女はとても有名なのだ。
彼の日報を読んで評価を行い、別の業務を行おうとした私にコールがかかった。件の立花光雄からだ。
「ヤンです。立花さんどうしましたか?」
通信機越しにそう言った私の対応は少し異質なものに見えるだろう。しかし、アドミンの正体は政府に対しても秘匿されている組織なので、通信機越しで【はい総司令部】とか、【アドミン】などの言葉をいう事は情報漏洩の危険性を孕んでおり、ご法度とされています。
【現在マルハワ学園内でバイオハザードが発生。対との遭遇が近いものと考え、報告しました。】
「了解しました。それでは、バディのエージェントヨハンと共に持ち込み装備の装着、待機をおねがいします。」
【了解しました。通信終わります。】
「・・・とうとう始まったわ・・・・よし!、気合を入れないと」
これから様々な事態が発生する。作戦成功に向けての行動は現場の人員に任せているとはいえ・・・エージェントが対処できない事を私達オペレーターが適切な指示をだして、時には様々な【支援】を要請する事でオペレーション成功を補助する事が私達の仕事です。
「はぁ・・・なんでこんな事になったんだろう・・・」
ふと学生時代の頃に思いを馳せる。この頃の私は、大学を卒業してすぐにアドミンからスカウトされました。給料や待遇の良さで即決したものの、総司令部の人達は私なんか足元に及ばないぐらいのエリート揃い。
委縮していましそうな空間で気丈にふるまっているがそれがいつまでもつのか・・・・転職したいと思っていてもこんなことを知ってしまっている状態で転職なんてさせてもらえないだろう。それに転職の意思を示そうものなら殺される可能性があるし・・・
「はぁ・・・?対捜索部からの通信?・・・・はい、こちらヤンです。どうしましたか?」
【こちらは対捜索部のミッチェルです。そちらの作戦担当地域で新たな対が発生した事を確認しました。現地の人員に対応してもらいたいです。】
「はい、かしこまりました。こちらで対応を行います。」
【では頼みました。以上です。】
どうやら新しい対が発生した様だ。こちらには2名・・・片方は新人の司令官だが、分散して対のサポートを行う事は可能だろう。
無線の連絡先を立花さんとヨハンさんに設定してコール。
【ヨハンだ。どうした?】
【立花です。】
「こちらはヤンです。あなた方の作戦担当地域で新たな対が発生したようです。つきましてはバディは解散して別々の対をサポートしてください」
【私はエージェントとして初めての任務です。それは荷が重いと判断します。】
【いいや、お前ならいける・・・こちらヨハンだ。報告理解した。立花を新しい対のサポートに回す。資料を送ってくれ】
「・・・・えーっと、承知しました。それでは立花さんの端末に対の情報を送信するので確認後、任務に移ってください」
【了解した。ヨハン以上】
【・・・・・立花以上】
「・・・・・本当に大丈夫なのかな?まぁ、現場の判断なら大丈夫か!うん!大丈夫」
そう自分に言い聞かせ業務を行って数分後のことです。
「?」
ピピピ、ピピピピ、
コール音がなる。この音は・・・・緊急通信!?
「こちらヤンです。何が発生しましたか?!」
【こちら立花・・・あの、少し言いにくいのですが・・・】
「・・・?どうしましたか?遠慮なくいってください」
まじめな彼にしては珍しい戸惑っているような声とヒソヒソ話をしているかの様な音量は何か良からぬことが発生した事を暗に示している。
それを理解した私は覚悟を決めて聞く姿勢をとった。
【新たに発生した対・・・リッキー・トザワに私の存在が露見しました。今後は対と共同で事にあたり、オペレーションの達成に挑みます】
「噓でしょ?!っ!・・・・了解しました。現状を把握しました。引き続きオペレーション継続をおねがいします。」
【了解しました。以上です。】
無線の通信を終わった私は椅子にもたれかかると一言呟いた。
「転職しようかな」
そのつぶやきは周囲の喧騒にかき消されて誰の耳にも入ることが無かった
ーーーーーーーーーーーーーーーー
マルハワ学園
立花光雄
組織との通信を終えた私はリッキーから聞いた脱出用ヘリの場所目指して歩を進めていた。
道中ウィルス感染者が襲い掛かってきたが、AKの敵ではなかった。現在使用しているAK74は使用弾薬は5.56m段だが、弾頭は人に対して多大なダメージを与える事の出来る物を使用している。
ハンドガンや通常のサブマシンガンなんかよりも少ない弾数で敵を射殺する事が可能なため、通常の感染者を楽に屠る事が出来た。
「ジン先生の持っている武器マジで強くない?一体どんな趣味をしているんだよ」
「リッキー君。世の中には常人には理解できない趣向の人が存在するんだ。私はこれを使って日頃の鬱憤を晴らしていたんだよ。」
リッキーが狂人を見るかのような目つきで私を見ているが、自身の正体を看破されるよりましだ。
・・・・しかしなんだ・・・中年心に多少の傷は付くがそれを気にする様では今後やっていくことは出来ないだろう。
「・・・?リッキー君。少し周囲を警戒しに行ってくれないかい?私は少し喉が乾いたんだ。近くの自販機で何かを買ってくるよ」
「こんな時に呑気なもんだな・・・いいよ。警戒しとくから」
「ありがとう。君は何か飲みたい物はあるかい?奢るよ」
「・・・・あんた大物だよ。俺はいいよ。何かの拍子にちびっちまうのは男として恥ずかしいからね」
「はははは、確かにそうだな。では行ってくるよ」
そう言って自販機で適当なものを選んでいるふりをして、端末を確認するとヨハンから連絡が来ていた。彼の視線を気にしながら端末を使って通信を行って彼にコールを送る・・・繋がった。
【こちらヨハンだ。】
「立花です。先ほど連絡しましたよね?どうしましたか?」
【あぁ、たった今、当初からマークしていた対がマルハワ学園に到着した。奴らの動きを見る限りだと立花とかち合う可能性がある】
「なるほど。承知しました。それではつつがなく合流できるように体制を整えながら目的地に向かいます。以上」
どうやら対・・・・クリス・レッドフィールドがこのマルハワ学園に到着したようだ。あのラクーン事件を生き残った生きた英雄が。
「彼が来るのか・・・あの地獄の生還者が」
前に行った。仮想訓練で行ったシチュエーションがラクーン事件であり、その事件でラクーン市警のロイや当時U.B.C.Sの分隊長のアンドリュー。
彼らは仮想世界で出会った人だが、生きているかの様で・・・とても噓の物だとは思いたくない。似たような経験を【リアル】で何度も経験した
彼に対しては特別な感情・・・・仲間意識のような親しみを感じていた。
「ジン先生。早くしてください」
「あぁ、すいません。それでは行きましょうか」
なんにせよ。今はその様な感情を捨てて任務に没頭する必要がある。リッキーと順調に目的地に向かっていると遠くから銃声が聞こえてきた。
どうやら、クリス達は近いらしい。
「!?あの銃声は。助けに行かないと!!」
「いや、リッキー君。この状況で助けにいけば私達は確実に感染者の仲間入りですよ。先に目的地に向かって自分の身の安全を優先してください。」
「?!・・・・ああ、確かにそうだな。行こうぜ」
彼は若者特有の無鉄砲さがあるが状況を理解する能力が秀でているようだ。少し前に渡されたプロフィールではその様な事は記載されていないが
多分、この地獄に身を置く事で急速に成長したのだろう。
暫く感染者達を相手に戦っていると徐々に数が増えている事に気付いた。どうやら、周囲の生存者がいなくなった事で、徐々に私たちのいる場所に集まってきているらしい。
一発ずつ確実に感染者の頭を打ちぬいているがマガジンの残り弾数が少なくなってきている。
カチ
「?!・・・リッキー君。弾が切れたのでカバーおねがいします。」
「任せろ!!・・・・あれ?ヤベ!!俺も弾切れだ!!」
「何という事だ・・・」
すかさずサブウェポンとして装備していたMP-443を感染者に向けて発泡しようとしたが・・・・
カチ・・・・カチ・・・
「こんな時に故障だと?!」
つい乱暴な言葉が出てしまったがそれほど今の状況はひっ迫しており、この任務の失敗を覚悟した。
パパパパパパ!!1
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
パンッ!パンッ!パンッ!
三つの銃声が聞こえると同時に周囲の感染者達は倒れていった。
「生存者2名確保」
「危なかったですね。もう安全ですよ」
「周辺の感染者はいないわ」
「あっ・・・・あんたたちは」
周囲の感染者を射殺して流れるようにクリアリングを行った謎の集団にリッキーが問いかけると
体格の良い男が答えた。
「BSAA北米支部のクリス・レッドフィールドだ」
「BS・・・・AA!」
「助けていただきありがとうございます。私はマルハワ学園の教師のジン・タムラです」
「おっ俺はリッキー・・・リッキー・トザワだ」
「教師にしてはなかなか物騒な格好をしていますね・・・何者なんですか?」
私とリッキーが自己紹介を行うと、狙撃銃を持っている若い男性が訝しげに聞いてきた。
当たり前だ。全寮制の学校で傭兵の様な格好をしている男性がいる事は今、バイオハザードが発生している事と同レベルで異常な事なのだから。
「これは私の趣味が高じて揃えていたコレクションなんですよ。マザーグラシアからの許可は取っています」
もっとも、マザーグラシアは既に死亡しているので確認するすべはないので、いいように使わせてもらった。
「・・・・あなたの事はいまいち信用できないですが・・・この緊急事態です今は追及しませんよ」
どうやらBSAAのメンバー全員が私の事を疑っているようだ。
夜明けは近い
遅くなり申し訳ありません。
不定期ですが、何とかこの物語でやりたい事まで持っていくことができそうです。
・・・・大変でした。
アリス・ベネット
【挿絵表示】
使用絵
https://picrew.me/share?cd=aIixuQD64S #Picrew #NB_MAKER_10