気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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最後の晩餐 後

 それは、在りし日の記憶。

 

 姿を消そうとする未来の夫の姿。

 

 そんな結末は認めないとばかりに夫の姿を追った私は、それでも去ろうとする夫に向けて静かに語りかけて。

 

 そして。

 

『仕事を優先するのか?』

『……』

『私も無理矢理付いて行くぞ』

 

 そして、無理矢理にでも付いて行こうとした私に、彼はこう言った。

 

『……それが「騎士団長」の。大陸最強格としての、お前の行動か?』

『……っ』

『ふん。落ちたな「騎士団長」。お前は、エクエス王国が誇る誉れ高き騎士の頂点ではなかったのか?』

 

 言外に「オレが好きになったのは──ような輩ではない」と伝えられ、自分でも自分の感情や理屈がよく分からなくなった私は、どうしようもない苛立ちをぶつけるかのように愛する者へと剣を向けることとなった。勿論、加減はしていたが。

 

『いずれ、オレはこの地に舞い戻る……! お前を、真の意味で射止めるためにな……! 待っていろ、騎士団長! オレは必ず、この地に舞い戻るぞ……! 続きのためにな……!』

 

 私の隙を突いて距離を置いた夫は、血走った目でそう言い残して、私の元から立ち去った。呆然とする私だったが、そんな私の胸に去来するのは寂しさと──何よりも、喜び。

 

 やはり彼は、未来を見ていたのだ。過去ではなく、未来を。「続きのために」と言ってくれたのが、何よりの証拠。私たちの新婚生活は始まろうとしていたばかり──ならば彼の言う続きとは、新婚生活の本格的な始まりに他ならない。このことをノアに伝えたら「いや、殺し合いの続きなんじゃ……」とか「別に結婚してませんよね?」とか「ていうか言ってたじゃないですか。騎士団長はあの男に──」とかなんとか言っていたが、そんな訳がない。

 

 何故ならアレは殺し合いではなく、夫婦喧嘩だったのだから。ならば、私がやるべきことは決まっていた。夫の偉業を。夫の義をこの国に認めさせ──

 

 ◆◆◆

 

「……そんなことを、思っていたのが懐かしく思う」

「どうしたのですか、アナ」

「いやなに、一年くらい前のことを思い返していた」

「……一年、ですか。キーラン殿はアナを待たせすぎでは? 音沙汰もなかったのでしょう?」

「まあそうだな。正直、流石に連絡くらいは欲しいと思っていた。突撃しようとしたのも一度や二度ではない。まあ、そもそも所在が不明だったが……勘で分かる自信はあったぞ」

 

 えへん、と胸を張る騎士団長。そんな騎士団長を、ソフィアは微笑ましげに見つめて。

 

「ですがそれはそれとして。キーラン殿は一度、痛い目に見るべきですね……ちょっと、グレイシーに頼んで本気を出しましょうか」

「む。ソフィアの本気か。気になるな」

「是非ご見学ください」

「分かった」

 

 キーランの処刑が、キーランのいないところで勝手に確定した。

 

「まあ、少しは多めに見てやって欲しい。夫はシャイなんだ」

「パーティーの時も言ってましたよね。キーラン殿がシャイだと」

「よく覚えているな。まあ色々と理由はあるが……最も大きな理由は、告白だな」

「告白、ですか?」

「ああ。ソフィアは『月が丸いですね』というのを知っているか?」

「いえ、初耳です。というか、月は丸いですよね」

「そう思うだろう? だがこれは、西の方の国に伝わる遠回しな口説き文句なんだ。そして実は、エクエス王国にも似たようなものがあって──」

 

 ◆◆◆

 

「おめでとう」

「おめでとうございます」

「実にめでたい日ですね」

 

 覚えのない祝福の言葉。

 

「羨ましい……! 羨ましいですが、ベストカップル……!」

「エクエス王国開国以来至高のカップリングかもしれません」

「流石です、救国の英雄殿!」

 

 城で人とすれ違うたびに送られる意味不明な単語。

 

「騎士団長がついに、ついにですか……!」

「それだと今日結婚するみたいじゃないか。既に結婚は済ませてて、式をあげるって話だろう? あ、おめでとうございますキーラン殿」

 

 耳朶を叩く理解不能な言葉の羅列。

 

「騎士団長が式を挙げるなんて──あ、おめでとうございますキーラン殿」

「ジル王と国王陛下が共同で──あ、おめでとうございますキーラン 殿」

「いやあしかし。騎士団長の結婚式となると、これは国の記念日として──あ、おめでとうございますキーラン殿」

 

 前後の文脈が分からない。

 

(なんだ、これは……なんだ?)

 

 祝福される理由が思いつかない。カップリングという言葉を自分に当てはめてくる意味も分からないし、救国の英雄って誰だ? と疑問符が浮かぶ。騎士団長の結婚を喜びながら自分を祝ってくるのも謎だ。

 

(分からん。まるで、まるで分からんぞ……!?)

 

 全てが、全てが謎すぎる──!!

 

(気が触れているのか……? まともな人間は消失している……? いや待て、もしや……敵対勢力による集団催眠攻撃か──!?)

 

 今すぐにジル様に伝えなければ、そう思ってこの場を去ろうとしたキーランの両肩を左右からヘクターとローランドが掴む。

 

「おい。今更どこに逃げようってんだ? 緊張したからってそりゃねえだろ?」

「手を離せ貴様ら! オレは、オレはジル様に……!」

「ボスなら先に行ってるって言ってんだろ」

「キーランさん。王様と騎士団長の顔に泥を塗るつもりか?」

 

 この二人さえも洗脳済みか、とキーランは歯噛みした。

 

「ヘクター、ローランド。お前たちは夢を見ている」

「まあ夢みてえな光景ではあるわな。まさかテメェがなあ……」

「時間もあまりないし、速く行こう」

「いやいや待て。落ち着け。とりあえず、コーヒーでも飲まないか?」

「時間稼ぎしてんじゃねえよ。漢なら、ビシッと決めやがれ騎士団長がシャイって言ってたのも納得だわ」

「待て。本気で待て。お前たちは理解しているのか、この状況を」

「当たり前だろ。一番理解してるテメェが何言ってんだか。ごまかすならもうちょっとマシな方法を使えっての」

「そうだな。キーランさんは、理解しててこれだからな……」

 

 思わず呆れた表情を浮かべてしまうローランド。彼は、昨夜のことを思い出していた。

 

 ◆◆◆

 

 ヘクターが「キーランは本当にこの状況を理解できてんのかねえ」と心の底からぼやいていたことを、ローランドは知っていた。

 

「……」

 

 ローランドは、周囲に隠していることがある。それは、祖国から旅立つ際に聖女によって付与された『祝福』と呼ばれる不思議な力のこと。祖国においては"神の加護"のように神格化されているそれは、普通の人間では決して持ち得ない特殊な力。

 

 選ばれた者だけが授かることができる。聖女の使徒となったことの証。

 

 ──別に。そんなものを欲しいと思ったことなんてないが。

 

 自分は異端なのだろうと思う。けど、興味がないものは興味がないんだから仕方がない。

 

『さあ、お行きなさい。二人の旅路に幸福あれ』

 

 聖女は微笑んで、自分たちの頭を撫でてくれた。そこに、『祝福』は反応しなかった。だから彼女は、本心から自分たちを送り出してくれたのだろう。

 

 レイラに対するものほどではないにしろ、彼女にも少なからず思うところはある。だからまあ、レイラの為になることが前提にして絶対の条件ではあるものの、少しは聖女の為に働いても構わない。

 

 ──『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』に立ち向かわせるのだから、もっと強力な『◼︎◼︎』をくれないのかと愚痴るのは間違っているのだろうか。

 

『ローランド、レイラ。貴方たちなら、きっと世界を救えるわ』

『任せたぞ、二人とも』

『賞金首を沢山とっちめてきたお前たちなら、世界を救えるさ』

『ローランドもレイラも、少し抜けているところがあるからなあ。お互いがお互いを補完できればいいんだが』

『聖女様の期待を裏切るなよ』

『まあ、生きて帰って来いよ』

 

 そう言って、祖国の人たちは自分たちを見送った。自分にとってはどうでもいい人たちだが、レイラにとってはあの国の人たちは大事だろう。だから、レイラの為に彼らの期待に応えよう。

 

 ──彼らの言葉に『◼︎◼︎』が◼︎◼︎していることに気付いて、レイラのために◼︎しておくか? と考えたのはおかしなことなのだろうか。

 

 世界なんてどうでもいい。世界が明日終わるとしても興味がない。それで自分の人生が終わるのならばそれはそれで構わない。

 

 けど、世界が終わるととレイラの日常が壊れるから対処しよう。レイラが死ぬのは嫌だから傍観は辞めよう。他はどうでもいいが、レイラだけは守りたい。

 

 そういう思考回路で『世界の終末』を食い止めようと思っている。そしてこれが、人としては極めて異端な思考であることも理解している。

 

 自分から人を害そうとは思わない。困っている人がいれば手助けくらいはする。だがしかし、正直に言うとどうでもいい。そんな価値観は良くないと、頭では理解しているのに。どうして──世界なんて滅ぶのなら好きなだけ滅んでしまえばいいんじゃないか、と思ってしまうのだろうか。

 

『被験体の様子はどうだ?』

『良好だ。しかし、これで問題ないのか?』

『問題などあるはずがない。結果さえ残れば、過程はどうでも良いのだから』

『身体に欠損が起きたが?』

『適当に繋げておけ。死にはしないのだから』

『分かった』

『いや、分かったじゃないだろう。被験体の肉体はもう少し丁重に扱った方がいいんじゃないか?』

『丁重に? バカを言うな。これの人格などどうでも良い。重要なのは外観…………ああ成る程、理解した。失礼、これはこちらの説明不足だったな。ここでいう外観とは、これの肉体のことではないのだ。それにこの施設なら──』

 

 ──ノイズが走る。覚えのない記憶が脳裏に浮かんだと思えば、次の瞬間には何事もなかったかのように記憶が消えている。思い出そうとしても思い出せず、残るのは理由の分からない不快感だけ。なんで不快なんだろうと考えて……どうでも良いかといつしか思考を止めていた。

 

 思考を止めて『世界の終末』の原因を探しながら、レイラの趣味でもある犯罪者を狩り続ける日々。世界を滅ぼそうなんて考えるのは悪人だろうから、犯罪者を狩るのは人として間違ってはいないだろう……そんな思考の元、犯罪者を狩って狩って狩り尽くす。そこに己の正義なんてものはなく、ただ、作業のように善行を成す。

 

『ま、待ってくれ! 俺には娘がいて、それで!』

 

 嘘。

 所詮は賞金首であり、生死は関係ないので無言で首を折る。

 

『母のためなんです! だから、だから見逃してください……!』

 

 嘘。

 大量殺人を犯した賞金首。レイラに渡す。

 

『俺の家には、金のない弟が』

 

 嘘。

 とはいえ賞金首ではないので、気絶させた状態で捕縛する。

 

 ──なんていうか、祝福のおかげで判別作業は楽になるな。

 

 よくここまで嘘を吐けるものだと感心する。罪を背負う覚悟もないくせに、何故彼らは悪行を犯すのだろうかと疑問を覚える。そしてそれら全てを見抜ける祝福に感謝(苛立ち)を抱きながら、犯罪者を捕まえては情報を集める日々。

 

 自分でも自分のことがよく分からない。主体的に行動しようとするのがとても億劫だ。よく分からないがめんどくさい。正直、レイラがいなければ家に引きこもっていたい。レイラ以外の他人はどうでもいい。どうでもいいと思う理由は分からない。分かったと思っても次の瞬間には分からなくなって、分かった気がしたという事実すらも時と共に消えていく。

 

 主体的に動けるレイラが輝かしくて。だから、そんな彼女にローランドは惹かれている。実のところ、それ以外にも理由はあるはずなのだが、本人ですらそれを理解できていない以上、誰もそれを把握なんてできやしない。

 

 そんな彼は、世界に対して理由の分からない諦観のようなものを抱いていて──

 

『ジル様に信仰を』

 

 ──その日、彼は新たな希望を見た。

 

 誰よりも主体的に行動し、誰よりも真摯で、誰よりも自由で開放的な集団を見たのだ。

 

 それを、素直に美しいと思った。レイラ以外で初めて、ローランドは惹かれるものを見ることができたのだ。

 

 彼らほど真摯で開放的な存在を、これまでローランドは見たことがない。心の底から信仰を捧げる集団。打算は無く、裏も無い。あるのは、ジルという男への曇りなき信仰心だけ。されどその信仰心によって他者を貶めることもない、本物の信者たちがそこにいたのだ。

 

 ──俺も、服を脱げばああなれるのだろうか。

 

 始めは『世界の終末』への手掛かりを欲しいと思っただけだった。けれど、この国は心地がいい。国の人たちはいい人ばかりで、そんな国を治めている王も──彼を見ていると原因不明の心の荒れは起きるが──口では冷酷そうに振る舞いながらも善人だ。

 

 それに。彼に付いて行く過程で、ローランドは人を、そして世界を知ることができた。

 

『そうか。ならば服を脱げ。話はそれからだ』

 

『ぐへへへ。師匠とオウサマの魔術をダブルで喰らうことで、極致に……ぐへへへ』

 

『よぉ。テメェも無手で戦うんだろ? ちょっと外で遊ぼうぜ』

 

『半裸に惹かれているか、だと? キーランと一緒にしないでくれたまえ。あと、キミは半裸にならないでくれ。この国に滞在するのであれば半裸になるのはやめてくれ』

 

『ジルは私が育てた』

 

『先日はご共闘して頂いたことに感謝を。そして先日より、ジル様に仕えることとなりました、ソフィアと申します。以後お見知り置きを、先輩方。……──えっ。ジル様に仕えている訳ではない? えっ。ですが、グレイシーがお二人を先輩として仰いで師事するようにと………………ぐ、グレイシー! 図りましたね!? 何を笑っているのですか!』

 

『貴様らに仕事を与える。力を有した穀潰しを置くほど、私も酔狂ではない。……何? 認めるのか、だと? ふん。兵士たちの練度は上がっている。ならば約束を守るのは当然のことだろう。……何、給与と休暇が多いだと? ……貴様はこれまで、どれほどの悪条件で労働を果たしてきたのだ。これが普通だ。肝に銘じよ』

 

『貴方たちを裁定者に任命するわ。……なんの裁定者かって? ふふっ。それはね、お兄様の模擬見合いの裁定者よ。二人は恋人なのでしょう? なら、恋愛マスターと呼んでも過言ではないはずよね?』

 

『あの日の英雄たちよ。お前たちの信念は、この身に届いていた。そのことを、直接伝えたかった。次に会う戦場は、互いに背を預ける戦場であることを祈ろう。……とはいえお前たちからすれば、この身の首を所望かもしれないがな』

 

『ナイスカップルだ。そして、刀を使うのは興味深い。うむ、気に入ったぞご両人。とはいえ、すまないが私はお前の方を見ることは叶わん。が、お前の恋人は見てやろう。これでも、その手の技術にはそれなりであると自負している。もちろん、私の全てを真似たりする必要はないさ。ただ、私の言葉を受けて自分なりに使えると思った技術や訓練方法を取り入れることができる機会を与えられれば嬉しく思う』

 

 ──意外と、今の世界は嫌いじゃない。

 

 今の世界は、どうでもいいとは思わない。理由は不明だが、別にそれでいいと思う。本能のようなものが王を殺せと命じていたとしても、この眼で見て感じた何かが「そんなことはしたくない」と告げているのだから、可能な範囲で王を支えてみせよう。

 

 ──だから、不安の種は俺が取り除こう。

 

 この身に宿りしは嘘を見抜く『祝福』。キーランが状況を理解しているのかどうかを知るのにはうってつけだと、ローランドはキーランに問いかけた。

 

「キーランさん。状況は理解しているか?」

「無論だ(ジル様の作戦だろう?)」

 

 祝福に反応ナシ! ヨシ!

 

「そうか。ならいいんだ。明日は頑張って欲しい」

 

 キーランが状況を理解しているという言葉に、嘘がないと分かったローランドは安堵した。これで、ヘクターが心配しているような事態は起きないだろう。周囲が平和なら問題ないと判断して、ローランドは部屋に戻って行った。

 

 以上が、昨夜に起きたことの全容。地獄への道を舗装した上でベルトコンベアーが搭載されてしまったような悲劇である。

 

 ◆◆◆

 

「いやほんと、キーランさん。見苦しい」

「み、見苦しいだと……?」

「そんなんで、王様の部下に相応しいと思うか?」

「ジル様の、部下に……」

「(奥さんの前で)シャイなのも悪くない。けど、王様の前ではきちんとするのがキーランさんだろう? 公私は分けるべきじゃないか?」

「……ああ。そうだな」

 

 そうこうしている間に、彼らは目的の部屋の前に辿り着く。ローランドの言葉を受けてから、覚悟が決まった様子のキーランは、黙ってその部屋へと入って行った。中にはキーランの着付けをしてくれる専門の者──ジルが雇った超一流の者たち──がいるので、ヘクターとローランドは部屋の前で待機である。

 

「やれやれ。ようやく決心したみてえだなキーランの野郎」

「まったくだ」

「そういや、ローランドはレイラと結婚とかしねえの?」

「……まだ、だな。まだやることがある」

「? そうか」

「そういうヘクターさんは?」

「女がいたら戦闘にのめり込めねえからなあ。それに、国に仕えるなら余計なしがらみなんてのはないに限る。恋に落ちた傭兵ほど、国と女の両挟みにあって早死にするってな」

「まあ、それは」

「テメェらはまあ、二人揃って仕えるんなら問題ないんじゃねえの? ステラはあの性格的に婚期を逃すだろうな。セオドアは……アレはもう嫁さんを自作するんじゃねえの?」

「……」

 

 無茶苦茶言っているなこの人、とローランドは戦慄した。戦慄して──

 

「けどまあボスの目的を考えるに……まあ、最期まで仕えるんなら、そういうのは俺には無理だと思うぜ」

「────」

 

 カラカラと笑いながら言うヘクターの言葉に、思わずローランドは硬直してしまう。最期まで仕えるというのは、一見すると寿命で死ぬまでジルに仕え続けるという意味に聞こえるだろう。

 

 だが、違う。

 

 ローランドには分かった。分かってしまった。

 

(王様の目的ってのは、ヘクターさんが命を賭しても叶わない可能性が──)

「──おおっと、湿っぽいのは無しにしようぜ? 今日はめでてえ日なんだからよ」

「……ああ」

 

 自分はどうしたいのだろう、とローランドは表情に影を落とした。レイラ以外の命はどうでもいいはずなのに──この感情は、なんなのだろうか。

 

(『世界の終末』と王様の目的……その二つを同時にどうにかするなんて、俺の力じゃ……)

 

 それにそもそも『世界の終末』をどうにかしなければ、みんな死ぬ。死ぬのだ。目的も何もなく、死んでしまう。

 

(……ああけど──)

 

 ──自分の知らないところでこの人たちが死んじゃうのは、嫌だなあ。

 

 

 ◆◆◆

 

「では行くとし──……通夜か?」

「なんでもねえよ。ほら行くぞ、ローランド」

「……ああ」

「そうか(しかし、そうだな。オレはジル様の忠実なる臣下にして信徒。ならば、オレが最も目立つ場面でやるべきことは決まっている。そう。ジル様の信徒なれば──)」

 

 

 

「しかしジル殿。予算のほとんどを貴殿が出しては儂の立つ瀬が……」

「気にするな。此度の式は、私にとっても重要な意味を持つの──何か嫌な予感がしたのは気のせいか?」

 

 

 

「いやしかし、ウェディングドレス……羨ましいですね。なんかこう、羨ましい……」

「ソフィアも上官殿と結婚すれば叶うだろう?」

「じ、ジル様と……」

「私よりも緊張していてどうする」

 

 ◆◆◆

 

 結婚式。結婚式である。

 

 あの人と、自分の、夢の結婚式──!!

 

「じゃあ派手にしないとね! ね!」

 

 盛大にみんなをびっくりさせよう。

 

 私だけの魔王様を見て、みんなひれ伏せば良いのだ!

 

「本物の魔王様ってのを、世界に知らしめよう!」

 

 世界よ知れ。

 

 これより、魔王の凱旋である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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