気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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ルシェvs『レーグル』『熾天』『騎士団』連合

 人の理を否定する闇の波。

 

 エーヴィヒの分体をも超える規模で放つルシェのそれは、極めて悪質なものだった。

 

「あは」

 

 あらゆる人間の怨念が込められている闇は、ソフィアが危惧したように世界そのものを異界へと変貌させる性質を有している。人の理を否定する"闇"は、その視野を広げれば人の住む世界の理の否定を可能とすることを意味しているからだ。

 

 そしてそれを、ルシェは無自覚のまま行なっていた。

 

「人の恋路の邪魔をする人は、馬に蹴られて死ねって言葉があるんだよね」

 

 彼女の目的はジルと結ばれることであり、ジルの目的たる"人智を凌駕した力"をジルにプレゼントすることであり、自分とジルのカップリングを賛美してくれる者たち以外の全てを皆殺しにした理想郷の創造であり、今現在進行形で行なっているのはそれらを達成するための足掛かりである邪魔者の排除だ。

 

「だから、キミたちが死ぬのは当然なんだよね」

 

 そしてその目的は、彼女の眼前で達成されつつある。

 

(騎士たちは無視して良い。私の時代よりは平均的な練度が高くなってるし、体力もあるけど……私に対する有効打はもちろん、私の呪詛に対する耐性もほとんどないに等しい。ジルが支援魔術をかけてるみたいだから、呪詛『羅刹変容』でも即座に傀儡に堕ちるのは避けられるだろうけど……ほんとに、それだけ。現に、大半が念のためにと市民を守るべく場を動けずにいる。だから、ほとんど一般人と変わらない。うん、彼らは最後だね)

 

 恋愛脳に染まってはいるが、しかしルシェは紛れもなく強者である。その辺の思考は冷静にこなし、注意を向けるべき標的を誤ることは決してしない。

 

(避難しないのはなんでなのかなーと思ったけど、まあ、この場にいた方が守りやすいよね。それにどこにいるのか分からなかった人だと、傀儡にされてるかどうかとかの確認も必要になるから手間がかかっちゃうだろうし。普通の敵なら避難が最善手だけど、『魔王の眷属』はそうはいかない。……まあ私が勝利する未来は変わらないから、早いか遅いかの違いだけどね!)

 

 彼女が注意を向けるべき邪魔者は()人の軍勢。大陸有数の強者が五人と、大陸最強格が二人。人数こそ少ないが、しかしそのいずれもが一騎当千という言葉ですら生温い猛者。大国を攻め滅ぼしに行くといっても普通に通用する戦力である。

 

 が、

 

「関係ないんだよね」

 

 微笑みを浮かべ、ルシェは右手を軽くあげる。背後から跳躍してこちらに接近していた騎士団長に向かって闇が放たれ、それを見て舌打ちした騎士団長が天井を蹴って呪詛を回避する。存外に素早いが、それだけだ。恐るるに足りない。

 

「恐ろしいまでに感知能力が高いな。感覚……なのか?」

「『豊穣神の涙』を防いだ時も、特に目視していませんでした。グレイシーのように、第六感が非常に優れている可能性は否定できません」

 

 何やら銀髪の少女と話し合っているが、雑魚が何人固まろうが自分には届かない、とルシェは冷笑を浮かべながら断じた。それが圧倒的な実力というものであり──恋人たるジルに譲渡する価値がある力なのだから。

 

「……困りましたね。まさか、過去の騎士団長とは。てっきり、私は恋のライバル出現! みたいな血みどろの展開を予想していましたが」

「ニールさんは、あの方をご存知ないのですか?」

「ありませんね。流石に数代前であれば知っていますが……それ以前となると、我々のような一介の騎士では把握できないのですよ。顔写真といったものも、閲覧可能なのは代々騎士団長と国王だけと決まっております」

「そこを秘匿するんですか……」

「そこを秘匿するんですよね……」

「無駄口を叩くな」

 

 大陸有数の強者たちは、恐るるに足りない。実力はあるだろう。才能もあるだろう。鍛え上げてきたのだろう。

 

 だが、それよりも遥かに自分が強い。

 

 気配を殺し。体温を気温と同一のものに調整させた黒衣の暗殺者の一撃はしかし、ルシェに届くことなく回避される。軽々と回避されたのを見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるキーランに向けて、ルシェは嘲笑を浮かべ──空間が切断された。

 

「うふふふ」

「っ! どうやって、回避を……!」

「教えるわけないよね! ね!」

 

 そのまま剣士を殺そうとして──大地が揺れる。しかし、その寸前にはルシェの体は宙に浮いていた。故に激震の影響を受けることなく、彼女はローランドへと闇を放つ。

 

「くっ!」

「っ、ニールさん」

「ぐぅ、ご心配なく! 私の刀には、ジル殿による保護を受けていますので、多少は堪えられます!」

 

 それは防がれたが、しかしギリギリも良いところ。綱渡りという言葉が相応しいほどに、彼らは限界に挑戦し続けている。

 

「オラァ!」

「キミは少し厄介かな」

 

 闇で拳を防ぎ、そのまま闇で肉体を包んで羅刹変容を発動させようとしたが──爆発したと思ったら飛び出した。しかし、多少は効いているらしく額に汗が流れている。ならば時間と量の問題であり、誤差の範囲内だ。闇を使い過ぎれば本末転倒なので、大瀑布はあまり使いたくない。渡すときに闇の量が少ないと、ジルから「矮小だな……」と思われる可能性があり、それは避けたい。自然回復可能な範囲で使うためにも、消耗戦で殺してしまおう。

 

「当たらんな……!」

「速度では私が上回っているはずですが!」

「チッ。こうも空間を汚染されては、自然と同化できん」

「空間ごと切断さえできれば……!」

「……!」

「これが、過去の騎士団長ですか!」

「クッソが……!」

 

 回避。回避。回避。防御。防御。防御。

 

 敵の攻撃は自分に届かず、届いたとしても効果がないに等しい以上焦りすらない。一方で、自分の攻撃は敵にとって必殺に等しく、その精神的負荷は計り知れない。

 

「ふふふ」

 

 余裕だ。

 余裕すぎる。

 

 余裕はゆとりを生み。ゆとりは冷静さを取り戻させる。なればこそ、ルシェの思考が単純な殺戮から──力の簒奪へと移行するのは自然な流れであった。

 

「ただ殺しちゃうのは勿体ないよね! ね! ね!」

 

 有効活用しよう、とルシェは笑みを深める。

 

 大陸最強格であれば、それなりの規模の燃料になるだろう。それも二人分となれば確保できる闇の量は計り知れない。そしてそれを受け取れば、ジルが自分に向ける愛は更に深まってくれるに違いな──

 

 

 

 

 

 

 ──神速。

 

 本領を発揮可能な状態であれば、ジルですら目視不可能な速度を有するソフィア。それが、彼女の最たる強みだろう。ならば、と彼女は肉体の限界と道理を無視して無理矢理全開のスペックに近づけた。細胞が沸騰し、筋繊維が一部千切れたが、無視する。

 

 血反吐が口から出たが、構わない。彼女は認識不可能な速度で、ルシェへと接近して槍を振るう。

 

 例え寸前で感知できようが、感知した瞬間には遅い。これでも全開状態には届かないが、しかし大陸最強格の域を超越した一撃だ。人類最強であろうとも、一撃目であれば防ぐことは不可能。それほどの一撃。

 

 だが、

 

「……今のは、凄いね。うん、凄い」

「っ!」

 

 だが、その一撃は逸らされた。即座に剣を手元に召喚し、類稀なる剣才と技量を発揮して、ルシェはソフィアの一撃を逸らしてみせたのだ。

 

「久しぶりに感じたなあ、痛み……」

「ぐっ!」

「えへへー。私に一撃を当てる才能があるんだあ。……ならさ」

 

 無傷ではない。

 

「燃料として、この上なく最適だよね。ね。ね」

 

 だが、致命傷でもない。

 

 そう言外に告げたルシェは、ソフィアを一太刀の元斬り捨てる。

 

「まだ、です!」

「させるか!」

 

 寸前、ソフィアがルシェの剣を弾き、ソフィアと入れ替わるようにして現れた騎士団長がルシェの肉体を斬りつける。

 

「『魔王の眷属』は、基本的に攻撃なんて通用しないよ」

 

 が、無傷だ。あまりにも絶望的な結果に、しかし騎士団長は特に落胆を見せない。事前にジルから聞いていた話であるし、何よりソフィアの表情が暗くないからだ。

 

「やはり、普通の攻撃は効かんか」

「そうですね。ですが、分かりましたよルシェ」

「……何が?」

 

 ソフィアが神の力を放出するのを見て、騎士団長は笑みをこぼして構える。そんな二人に対して、警戒心を強めながら目を細めてルシェは応じた。

 

「貴女は周囲に目視不可能なくらいに薄く呪詛を数階層に分けて展開することで、我々の動きを事前に把握している。第一階層に触れれば警戒し、第二階層に触れれば防御に入り……といった具合ですね」

「……それが分かったからどうなのかな? かな? かな?」

「──ええ。こうします」

 

 ルシェが展開する闇の障壁。それを相殺するかのように、ソフィアは神の力を周囲に散布していく。目に見える呪詛を殺すことは不可能だが、探知機代わりに使っている呪詛の壁程度であれば話は別だ。これにより、ルシェの感知能力は大幅に下がる。

 

「これは……」

「これで、先ほどまでのような理不尽的な感知は不可能でしょう」

「……」

「成る程な。とはいえ、ルシェは元より大陸最強格だ。多少はマシになっただろうが、それでも当てる難易度は高いだろうな」

「そこは私たちの腕の見せ所ですよアナ。私とアナが中心になって攻め立てれば、隙は作れるでしょう」

「そうだな。私は──騎士団長なのだから」

 

 瞬間、騎士団長から溢れ出る剣気。剣気が触れた床に斬撃が刻まれ、同様にしてルシェの片腕に線が走った。

 

「ここで討たせてもらうぞ、ルシェ。お前がその悍ましい力を出し惜しんでいる間にな」

「……ふふ、ふふふふ」

 

 顔を俯けていたルシェの口から、笑い声が漏れる。

 

「そうだね。私が楽をするために展開していたものは、無力化されたね……けど、それがどうかしたのかな?」

 

 剣を構えて、ルシェは嗤う。

 嗤いながら、言った。

 

「ねえ──私が何年、生きてきたと思っているの?」

 

 ルシェが騎士団長に向かって疾走し、それを迎え撃つべく腰を深めた騎士団長。二つの剣が交錯し、そして、騎士団長が苦悶の表情を浮かべた。

 

「っ、これは……」

「分かるよね。ね。ね。キミくらいに剣の才能があるなら」

 

 斬り結ぶ二人。されどその軍配は──

 

「何百年にも渡って剣術を受け継いできたっていうけどさ」

 

 ルシェが剣を振るう。騎士団長はそれをスウェーで回避し、すぐ様ガードの空いたルシェの胴体を狙ったが、しかしそれを返す刃で防がれる。

 

「普通に考えて──その剣術を何百年も振ってきた私の方が強いよね! ね!」

 

 ルシェが剣に闇を纏わせて振るえば、騎士団長は概念切断を使ってそれに応じた。呪いは断ち切れる。だから、傀儡に堕ちることはない。

 

 だが、劣勢だ。

 

「アナ!」

 

 そう判断したソフィアが、騎士団長の援護をするべくその身を神速へと至らせようとして──

 

「自重はやめるって言ってたけど、それはこっちにも言えることなんだよね!」

 

 ──瞬間。闇の柱が顕現し、天井を破壊する。大地が揺れ、空間が震撼し、世界が悲鳴をあげる。

 

 そして。

 

「伝道師さんの真似事だし、今の私からすれば髪の毛一本を抜くくらいの感覚で使えるけど」

 

 その髪の毛一本でさえ、ジルに渡すためには重宝したかった。だが、有象無象程度、圧倒的な力の差で叩き潰せなければ意味がない。それはそれで矮小だと思われるかもしれない。

 

 ならば、ジルに分かりやすく力を示そう。大国を地図から消滅させてしまえば、それはとても分かりやすい。

 

「キミたちには防げるかな──『絶』」

 

 そして、絶望が降り注ぐ。

 

 会場──否、都市を粉砕するは光を許さぬ暗黒世界。都市の全てを覆い潰すようにして、ルシェはエーヴィヒ最強の一撃を放った。

 

 




人類最強でも防ぐのは不可能だろう(直撃するけどそこから先どうなるかはご想像にお任せ)(人類到達地点は考慮しない)
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