気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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色々と情報のご提供やら応援やらなにやら、本当にありがとうございます。まだまだ序盤も序盤であれなんですが、今後とも当作品をよろしくお願いします。


教会勢力 VII 別れ、そして

「ねえお兄様、見たかしら? あれが私の権能。凄いでしょう?」

「……うむ」

 

 そう言って無邪気な笑みを浮かべる幼い少女。

 彼女のハキハキとした声音もあって、それは大変可愛らしい仕草に見える。

 俺の返答に彼女はより一層喜びを示し、俺の背後にいるキーランが「素晴らしいご兄妹愛……なんと美しい光景だ……」と感動に打ち震えていた。

 

 そこだけ見れば成る程、確かに美しい光景なのかもしれない。仲の良い兄妹が休日にじゃれついている微笑ましい光景に見えるのかもしれない。

 

 ───だがそれが、遠くとはいえ眼で目視できる程度先で、天変地異かくやといった災害が生み出されている光景という素敵な特典付きであると知って、微笑ましく思える人間はどれだけいるのだろうか。

 

「あれ、神様が使っていた武器なんだって。お兄様は知ってる?」

「……ああ。よく知っているとも、アレを振るう雷神をな」

 

 嘘は言っていない。

 何故ならアニメで見てたから。

 巨大な(つち)に雷を纏い、振り下ろしていた神を。

 

「そっか。うん、確かにお兄様はよく知ってるわよね。もうちょっと近くで振り下ろした方が迫力あったかしら……」

 

 少女の言葉に俺は内心で思いっきり顔を引きつらせ──しかしジルという男のイメージを崩さない為、表には出さないよう全力で気を配っていた。

 

(自分の把握している神話や伝承の一部を現実世界で再現する権能……? なにそれチートやん……神相手でも一対一なら戦えそうやん……場合によっちゃ勝てそうやん……)

 

 俺の膝の上に座っている少女。名を、グレイシーという。

 なんの因果か神の血を濃く引きすぎた結果、ほぼ神と変わらない力を有してしまった少女であり。俺の身体に()()()神の力が巡っているが故に俺を親族──それこそご先祖様のような──と勘違いしてしまった少女である。

 現在ではキーランの言葉によって、俺を兄と呼んで(なつ)いている。

 

「元々はこんなんじゃなかったの。でも、天の術式と元々あった権能を私なりに改造して……こんな形になったわ」

「……そうか」

 

 そんな彼女は色々あってなんとか自害をやめたソフィアの「現世の状況だと神の肉体で降臨できないので、人間の肉体に神が降臨されている」などの説明を受けてどこか納得したような表情をし、結果的に勘違いは強固なものとなった。

 

 まあ、キーランの迷推理とソフィアのおかげである程度グレイシーの情報は引き出せたので、理屈は分かっている。

 

 俺の肉体に全ての神の力が巡っている以上、彼女の祖先である神様の力もまた当然のように巡っており、眼ではなく第六感で人間の判別をしている彼女のセンサーに引っかかった。

 

 あとはキーランの言葉通りである。

 

 勿論俺は神じゃないし、そもそも仮に神だとしてもその力は後天的に手に入れたものなので彼女の親族というのは全くもって見当違いもいいところなのだが───俺はその見当違いを、現時点で修正する気は全くない。

 

(……この少女は、使える)

 

 この少女。なんと教会勢力特有の神々に対する信仰心というものが全くない。

 故にこの少女に関しては、神々が降臨しようと俺に懐いてさえしまえば味方になってくれる可能性が高いのだ。

 

 ならば俺がやる事は単純明快。少女に俺自身を懐かせる事。

 現時点では神でないと知れば激昂(げっこう)するかもしれないが、あくまできっかけが神云々なだけであって神じゃなくても関係ないよレベルにまで懐かせれば問題ない。

 

 例えるなら、そう。

 きっかけは同じ趣味という理由で仲良くなった男女の高校生。最初は同じ趣味だからという一点のみで関係を築いていたが、しかし時が経つと共に趣味以外でも親交が深まり、結果として趣味が変わっても良好な仲が続いている。そんな関係を俺はこの少女と築けば良いのだ。言葉にすると犯罪者感凄いな。

 

 まあ具体的に言うと「実は神じゃなかったんだよー」と暴露(ばくろ)しても、その後に「でも家族と思ってるよー大好きだよー」とか言ったら「そっかー私もお兄様のこと好きだよー」レベルに懐かせる事が出来たらなんの問題もないのである。とんでもないクソ野郎だな。

 

(多分原作では最後まで封印されてたから、この子は出てこれなかったんだろうな)

 

 神に近すぎるが故に、彼女は神に対して信仰心を抱かない。彼女が神に対して抱くのは親愛でしかなく、また、神に近いが神そのものではない故に他の人間からは得体の知れない存在に映る。

 

 神の血が薄ければ、彼女は他の熾天と同じようになれたはずで。

 あるいは更に濃ければ、真に神の仔として信仰の対象にすらなっていたかもしれなくて。

 

「ねえねえお兄様。お兄様の力も、見せて?」

 

 ある意味、俺に近い存在なのだ。

 ただ少女にとって不幸だったのは"神"と誤認された結果信仰されている俺と違って、"脅威"と認識された結果遠ざけられたことで。

 

「フッ、良かろう。しかと見るが良い。……いや、目には見えぬのであったな。訂正だ、しかと感じるが良い」

 

 ───■■■■■(アースガルズ)

 

 俺という存在を切り替え、同時に『神の力』を解放する。

 見た目に変化はないが、肌で感じ取れる"格"とでもいうべきものは段違いだろう。

 

 純粋な『神の力』の奔流は、神威と化して周囲に降り注ぐ。

 

「おお……おおおおお……おおおおおおおおおお!! なんと、なんとおおおおおお!!! あれぞ!!! あれぞまさしく、まさしく神のぉぉぉおおお!!! 神のお────」

 

 ……。

 …………。

 俺は何も見なかった。突然叫び出したかと思えば下半身から聖水を垂れ流し、そのまま気を失う男なんていなかったんだ。

 

「綺麗な神力を感じるわ。やっぱり、お兄様のは違うわね。私や熾天だと、なんだか濁っているもの」

 

 満足げに微笑むグレイシーに、そういう見方もあるのかと俺は少し思案する。純粋な神の力を用いているが故に俺の神代の魔術は他の熾天を上回っているというのは、信じても良さそうだな。

 

「神代の魔術も見たいわ。見たいというより、感じたい?」

「良かろう。貴様は私の妹なのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ただ少女にとって不幸だったのは"神"と誤認された結果信仰されている俺と違って、"脅威"と認識された結果遠ざけられたことで───

 

 ならばまあ。

 

 少しくらい、本来のジルではあり得ないかもしれない優しさというものをこの少女に与えてやっても、良いんじゃないだろうか。

 

 ◆◆◆

 

 そうして、月日は流れ。

 

(まさか、二週間も滞在する事になるとは……)

 

 大変だった。

 とても大変だった。

 

 主に───キーランの相手が。

 

『妹様。私の信仰をお受け取り下さ───何をするヘクター。何? 悪影響? 私の存在が悪影響だと!? 貴様、図に……あ、オイ何をする! 貴様! その手を離せ!! ちょっと、ちょっと力が強いからと言って良い気になるな! ず、図に乗るなよヘクタアアアアァァァ!!』

『な、何故だ! 何故妹様は私ではなく、ヘクターに懐いていらっしゃるんだ!!? あ、ああこんな考えは不敬だというのに……し、しかしあんな粗暴な男の側にいては、妹様の情操教育に悪影響が……』

『ヘクター……おかしい……ジル様からの好感度も……私よりヘクターの方が上な気が……いや、そんなはずはない。ヘクターは一度も服を脱いでいないのだからな』

『ジル様。一先ず雑兵達の教育を完了させました。彼等はジル様が死ねと命じれば何も考えず喜んで自害します。試しにこの者に死ねと命じてみて下さい。ほら、私が推薦しただけで嬉しそうな顔をしているでしょう? あ、勿論私でも構いませんよ』

『ジル様。教皇の口を覆う大量の髭は、明らかに信仰心を(かげ)らせているかと。口というのは人間の玄関です。それを覆い隠すなど、(やま)しいことがあると言っているのに等しい。服を脱ぐのは現段階ではお認めになられないかとは存じますが、髭くらいなら許してやっても良いのでは? 宜しければ永久脱毛しておきますが……』

 

 本当にキーランはなんなんだろうか。

 ちなみに最後のは髭を剃ったら教皇のアイデンティティが失われるのではないかと思った俺が普通に断り、教皇が号泣しだした事件が起きていたりする。

 

(……それにしても)

 

 教会に滞在する事で教会の連中から来る狂信ムーブを恐れていたが、キーランが強すぎて正直教会の連中は全然マシな気がする。これは教会の外でも、俺の疲労感は変わらなさそうだ。

 ……いや、そんなキーランを見て「見習わなければ」と暴走する教会の面々のせいで疲れてる面もあるからやはり教会の方が疲れるのでは?

 

「ボス。そろそろ帰るんだっけか?」

 

 内心で頭を抱える俺に、超絶有能ヘクターがグレイシーを肩車した状態で俺の側にやってくる。

 やはり俺のヘクターは優秀だ。おそらく俺の内心の苦悩を察し、さりげなく近付いて来てくれたのだろう。

 そんなヘクターの献身的な姿に、俺は感動の涙さえ流しそうになっていた。

 

「ああ。ここにある天の術式の仕組みは理解した。私としては残念な事にいくつかの天の術式は失われていたが……まあ些末な問題だ」

 

 本心はめちゃくちゃ悔しいのだが。本心は常に余裕なんてないんだが。ジルのキャラ像的に悔しがって地団駄(じだんだ)を踏むのは解釈違いなので、そんな素振りは見せないよう気を配ってるだけだが。

 

 教会には魔術大国にある禁術を除く天の術式の全てが保存されていると思っていたのだが、悲しい事にそれは違った。

 流石の教会でも、全てを把握しているという訳ではなかったという事である。まあそれでもかなりの量の術式が眠っていたので、俺としては大変満足なのだが。

 

「失われてた、か。そりゃ……だって、古いんだろ?」

「神々が世界から去って教会が独自の世界に引きこもる際に、ゴタゴタがあって幾らか紛失したらしいという話を聞いた事があるわ。あとはそうね、歴代の教皇が封印した術式なんてのもあるかも。たまーに変な教皇が出てくるのよ教会って。二代目の教皇は『幼女を成長させる術式なんて必要なくない???』とか言ってたし」

「……姫さんの話にたまに出てくる二代目教皇ってのはなんなんだ。変態か?」

「変態よ」

「……変態か」

「HENTAIよ……」

「……そうか、HENTAIか───」

 

 それにしても本当に、本当にヘクターは素晴らしい。

 狂信者達の奇行に流される事なく、俺に対して変わらない態度で接する事の出来る同調圧力無効化能力に加え、俺が新たに第一目標としていたグレイシーからの好感度を上げる仕事もこなしていた。

 

 俺だけでなく、ヘクターに対してもグレイシーは懐いている。二人も懐いている対象がいれば、グレイシーは間違いなく俺達の心強い味方になってくれるだろう。

 

 それを言わずともやってくれるとは……素晴らしい。

 

 まさしく彼こそが忠臣。他の連中には、是非とも彼を見習って欲しいものだ。

 ───と。そんな事を考えているうちに、二人の会話は終わったらしい。肩から降りたグレイシーは俺とヘクターを下から見上げるような姿勢をとり、そして眉を八の字に曲げた。

 

「───ああでも……お兄様、ヘクター。本当に帰ってしまうのね……寂しいわ」

 

 しょぼん、とした様子のグレイシー。

 ……。

 …………。

 

「お前とは常に連絡が取れるよう経路(パス)を繋げておいただろう。それに──案ずるな。お前だけは、私の治める国で住めるよう手配しておく」

「っ! え、ええ!」

「まあ安心しろよ。なにせボスは王だからな。王の妹である姫さんもどうにか一緒に暮らせるようになるだろうぜ」

「楽しみにしておくわよ? あとヘクター。何より、貴方は強くなりなさい。その為の種は与えたわ。後は貴方次第よ」

「ヘッ。お怖いお姫様だ」

 

 俺達の言葉を聞いて、グレイシーは花が咲いたような笑みを浮かべる。

 全く、俺がお前を利用する気満々の屑とも知らずに……全く……本当に全く……。

 

 ……さて、国に帰ったら彼女が安全快適に暮らせるよう環境を整えなければ。

 家具は勿論、あらゆる面において最高級のものを用意しよう。現世はおそらくグレイシーにとっては住みにくい空間なので、彼女に与える部屋は神の力で空間が満されるよう新たに術式を組む必要があるか。

 

 そしてまあ国家予算から……まあ、今月分は七割くらいグレイシーに使っても構わないだろう。

 

『ヘクタアアアァァァ!! お、お前!! お前!! い、妹様を肩車だと!? そ、そのような……そのようなアアアアァァァ!!!! こ、こここ殺す!!!! 殺してやる!!!! 私は、私はお手に触れる栄誉を承ったことすらないというのに!!!! 何様のつもりだ貴様は!!! 図に乗るなよヘクタアアアアァァァ!!』

 

 俺はキーランを視界から完全に外した。

 

(ヘクター。お前には期待している……)

 

 ……それにしても、種を与えたとはなんだ? これがアニメなら強化フラグか? と捉えるが……いや、もしかして本当にヘクターが強化される、のか?

 ヘクターがインフレ後にも付いてこれるようになる。ヘクターと隣り合わせで戦う。その未来を俺は考えて……悪い気はしなかった。

 

「ジル様の、お国……」

 

 少し離れた場所から、ソフィアが小さな声でそのようなことを呟いたのが耳に入ってくる。

 俺は世に蔓延(はびこ)る難聴系主人公ではないので分かるが、ソフィアは俺の治める国に来たいのだろう。

 

 が、流石に後に敵対するであろう人間を本拠地に迎え入れる趣味は俺にはない。確かに一時は対グレイシー同盟を結んだが、それはそれ、これはこれだ。

 ソフィアの事は多少気に入っているが、絶対に手元に置いておきたいほどでは無いのだし。

 

「……では行くぞ、ヘクター。キーラン」

 

 背後で跪いている教会の面々を最後に睥睨(へいげい)だけして、俺はレーグルの二人を連れて元の世界へと戻って行った。

 

 ◆◆◆

 

「……む」

「……体が、重いな」

「……」

 

 分かってはいたが、元の世界の環境はジルの肉体のパフォーマンス能力を低下させる。

 元々はこれが当たり前だったはずだが、今ではこの環境が不愉快で仕方がない。人間というのは贅沢な生き物だ。

 

(……ふむ)

 

 最大出力が低下したのに加えて、この環境に慣れなければならないという意味ではそこそこ弱体化しているだろう。

 

 まあ、それでもスペック上現時点でこの世界の最強は俺である。

 慢心は良くないが、不安になりすぎるとそれはそれで視野を狭くするので避けた方が良いだろう。

 

 さて、国に戻るか。

 

『突然すまない。聞こえるかな、ジル殿』

 

 そう思った俺の頭に、セオドアからの『念話』が届く。

 

『聞こえている。なんだ、セオドア。何かあったか』

『ああ、大有りだ。正直、私の手に余る事態が発生した』

 

 なんだと、と尋ねるより先に、セオドアは言葉を続けた。

 

『結論から言うと謎の魔獣が国を襲おうとしている。神狼を出せばどうにかなるが、それだとどっちにしろ結果として国は滅ぶだろうし、お互いに本意ではないだろう? どうにかしてくれないかな、ジル殿』

 




・ジル
 主人公。
 常識人。シスコンの片鱗が現れる。

・キーラン
 ジルを除けば教会の最高権力者。教皇をパシらせる事ができる。熾天を顎で使う事が出来る。

・ヘクター
 二週間の間に何かがあった男。王道ファンタジーの主人公みたいなことしてる……。

・グレイシー
 熾天ではなく令嬢的立ち位置になった。現在作中の登場人物の中では最強。彼女とヘクターとジルをメインに添えた令嬢もの的なストーリー(章)構想が最近生まれたらしい。やるかは知らないけどやるなら五章以降なら挟めるかな。

・ソフィア
 ジル様の国に行きたい…でも自分からなんて恐れ多い……。
 これが後に「せや!ジル様の口から言わせるように行動しよう!」になるかは諸説ある。一体どこの天才高校生……あっ、天才は消されたんでしたね……。なおジルはソフィアの心を全部見れる…クソゲー確定。


今週中に一章は完結しますー多分。らしくなってきたな。今週が何曜日までかはオレが決める事にするよ。

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