気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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二巻発売の宣伝を兼ねて投稿です。
あと報告にめちゃくちゃ時差があるのですが、実はラノベニュースオンラインの2023年10月新作部門にて選出されてました。応援してくださった方々、誠にありがとうございます。
ラノベニュースオンライン



月の日常 Ⅳ

「美味だ。店長、もう一品いただこう」

「はいよ」

「ねえマスター。あいつってバイトよね? なんで勤務時間中に優雅にケーキを食べているの? しかもアイスまで付いてるんだけど?」

「いや、違うよゾーイ。見なさい。彼が食べているケーキが飛ぶように売れているだろう? 宣伝効果は抜群だ。彼は広告塔にもなっている」

「…………」

「しかも、あまりにも食事姿が絵になるものだから、彼に貢ぐ為に注文をするお客様も出始めていてね。相変わらず、売上は好調だよ」

「多分、この店はもう終わりよ」

 

 あれから二日。その間俺は、引き続きバイト(もど)きで資金を稼ぎながらの情報収集を行なっていた。とはいえ、やはり喫茶店での情報収集には限界を感じざるを得なかったが。

 

(災厄から手に入る情報も、推論に必要なものは取得済み。災厄の原因だとかまではまだ分からんが、災厄の頻度がそこまで高くないが故に災厄に情報面で依存するのは下策。……別の方向からも、並行して探らないとな)

 

 この都市の制度、常識、価値観、経済状況、その他はある程度把握できたと言っていい。マーニを敵に回したり、見えない地雷をわざわざ踏みにいかない限りは、住人全てを敵に回すなんて展開は避けられることが分かった時点で、やりようはいくらでもある。特に、住人の価値観を把握できたのは大きい。そのおかげで、ゾーイの特異性も見えたしな。

 

(毎朝特定の時間に礼拝を行うし、災厄に対する反応からしてマーニに対する信頼感も構築されている。教会勢力ほどではなさそうだが、しかし住人が敬虔な信徒であることは間違いない。ジルの尊大な口調や天上天下唯我独尊といわんばかりの自己主張は、この店ではキャラとして受け入れられているが……さて)

 

 なお、ゾーイは毎朝の礼拝をしていない。この点だけでも、ゾーイの特異性が伺えるというもの。住人の皆様方が礼拝をしている時間帯、彼女は夢の世界に旅立っている。

 

(この世界の輪郭が明らかになればなるほど、ゾーイがズレているように見える。ここの住人は、なんというか仕事熱心だしな。サボり魔で、神に対する信仰が薄い……それこそ皆無にすら見えるゾーイの在り方は異端だ)

 

 店長もそうだが、なんというか、この世界の住人は有能で仕事ができるのである。職業マッチング能力に秀でている……なんて次元ではない。もはや、喫茶店を運営する為に生まれてきたかのような領域だ。心の底からの天職に就いていれば、仕事に対して懸命に励めるというのは、筋が通っているといえば通っているがな。

 

 ──とはいえ、因果関係は不明である。

 

(ゾーイも、能力的には災厄処理を任せられるに足る。だが、恐ろしいくらいに面倒くさがり。個性によるものといわれればそれまでだが……)

 

 ……まあ、俺にとっては悪くない方向なので、一先ずは良しとしよう。ゾーイが狂信者とまでは言わずとも敬虔な信徒だった場合、敵対関係に移行していた未来しか見えんからな。

 

(ゾーイと似た価値観の持ち主を見つけられれば、楽にことを運べるかもしれんな。やはり、協力者は必要か)

 

 他の住人は「災厄? よく分からんけどどうにかなるよね」で済ませている災厄。それはマーニのこれまでの実績によって積み上げられた信仰であり、住人を思考停止状態にまで陥らせるだけの信頼がある。にも関わらず、災厄に対して思考停止になるのではなく、存在そのものに疑問を抱いているという事実。前々から薄々分かっていたことだが、ゾーイはマーニを盲目的に信仰していない。

 それどころか、不満を抱いている節すらある。「不労所得よこせよ」なんてぼやいていたのがいい例だ。つまり、仮に俺がマーニと敵対したとしても、状況次第では味方になってくれる可能性もあるということ。

 

(流石に現状では天秤が釣り合わないから、仮に自分マーニと敵対したとしてゾーイが味方になるとは思えんがな。そこまでお人好しではないだろう)

 

 それにまあ、マーニに対して不満を抱くことがゾーイなりの信仰の形という可能性も否定はできない。不満どころか、マーニにバレないように探りを入れようとしてるので、あまり無さそうな可能性ではあるが。

 

(……そういえば、一定数の資金が集まれば、独り立ちも可能といえば可能か。尤も、途方もない話だし、あまり意味がないがな)

 

 宿泊施設の利用ができるだけの貯蓄が手に入れば、ゾーイの家を拠点にする必要はなくなる。そしてゾーイの家を拠点にしなければ、行動範囲も変わり、自ずと入手可能な情報も変わってくるだろう。問題は、長期の宿泊費用を稼ぐのにかかる時間と、持続可能性の乏しさ。そして──

 

(他の都市に関する情報が無さすぎる。ここで金を稼いだとて、他の都市でやっていけるかすら分からん)

 

 この都市の外で、ここの貨幣を使えるかどうかが不明という問題。経済的流動性の観点から共通の貨幣を用いていると思いたいが、都市間で異なる貨幣を用いることによって得られるメリットもある。先入観で捉えるのは危険という他ない。

 加えて、そもそも都市間の移動も基本的には不可能──例外はあるが、それも許可制とのこと──であることが分かっている。つまり資金を幾ら集めたところで、合法的な捜査はこの都市内部に限られてしまうのだ。そしてそうなってくると、果たして独り立ちをする旨味があるのかというと、正直微妙と言わざるを得なかった。

 

(この都市の調査だけなら、別にゾーイの家を離れる必要はない)

 

 というかそもそも、ゾーイ家を離れられるのだろうか。ゾーイは俺の記憶から情報を得ようとしているのだから、俺が「独立したい」と告げても「ダメに決まってるでしょう。私が何のためにあんたの世話をしたと思ってんの? せめて記憶が戻って吐くこと吐いてからにしなさいよ」と言われる未来が見える。

 

 まあ総合的に考えて、拠点を変える理由は無いに等しいな。年頃の女子の家にいる状況に思うことがない訳ではないが、それは俺が気をつければ済む話だ。そこら辺のラノベ主人公達のように、破廉恥な展開になんぞなりはしないのである。

 

(ゾーイと共にいるデメリットは無いに等しく、むしろメリットは多い。特に大きいのは……この都市の権力者──管理人と接触する機会も、ゾーイといれば合法的に得られるかもしれないこと)

 

 管理人。即ち、マーニより都市の統治を任されている特別な人材。

 

 以前俺は、災厄処理の後に「貴様が始末書とやらを提出する先は、どこだ?」と尋ねた。

 

『私が始末書を提出する先なんて知ってどうすんのよ。私の仕事を減らすように掛け合ってくれたりでもするのかしら?』

 

『……冗談よ。冗談。まあ、これで記憶が戻るかもしれないし、教えてあげるわ。私が始末書提出する先は、この都市の(・・・・・)管理人よ。どう? 脳に刺激を与えるような単語だったりしないかしら? 私の推測だと、あんたは他の都市で災厄処理をしていたと思うんだけど?』

 

『あいつも昔は災厄処理をしてたってのに、今では私に全部放り投げてデスクワークなのよ。ムカつくと思わない?』

 

『これ、災厄処理に対する人員を遊ばせるゆとりがあるってことよ? 災厄に対して手一杯なら、災厄に相対できるあいつがデスクワークなんてできないでしょ? つまり、余力があるのよ? なのに「災厄については分かりませーん」よ? 調査も進んでませーんなのよ? ふざけんじゃないわよ』

 

 ゾーイが始末書を提出する先。それは即ち、災厄処理をゾーイに任せている立場の存在に他ならない。マーニ自身も、災厄については認知しているだろう。そしてこの世界の最高権力者は間違いなくマーニである以上、災厄処理に関してもマーニ自身が斡旋していると考えるのが自然。にも関わらず、ゾーイ自身はマーニと直接対面したことが無いし、なんなら連絡を取ったことすらないという。これらの情報から推察するに──

 

(謂わば、仲介人のようなものだろう。ゾーイのような立場の者に直接は命じず、管理人を通してマーニは指示を出している。都市の統治も似たようなものだろうな。奴は管理人を通して、各都市を間接的に統治している訳だ。故に管理人は、マーニとの繋がりや、他の都市の管理人との繋がりもあるに違いない)

 

 月の世界は計九つの都市から成立しているそうだが、全都市の統治をマーニ自身が直接行っている訳ではないことは、ゾーイの言葉から見て分かる。災厄処理という、都市維持には欠かせないであろう業務にすら直接携わっていないことが、その証拠。最終決定権の持ち主や、真の頂点はマーニ自身だろうが、それでもある程度の裁量権等は管理人が有しているのが実情に違いない。

 

 そして、各都市に一人ずつ存在する統治者。流石にこれはマーニ直々に選任されていると踏んでいる。むしろ、マーニが一切絡んでいない方が不可解だ。仮にそうであれば、「マーニさん。本当に月の支配者なんですか?」と思わず尋ねたくなる。

 

(……さて)

 

 遠くに聳え立つ高層ビルを、カウンター席近くの窓の内側から見上げる。都市の全てを見渡すかのように中央に座し、天にまで届く規模を誇る、管理人の拠点を。

 

(あそこに行けば、少なくとも管理人とは対面できる。だが、乗り込むのは無しだ。向こうから、俺に接触させるように行動する必要がある)

 

 俺が月の世界に拉致された時点で、マーニとの因縁は作られた。作られてしまった。目的も無く拉致したなんて可能性はあり得ない。(ジル)を遺跡に誘い出し、拉致して、こうして生かしていることがその証拠。

 仮に全力で逃げようとも、事態が好転することはないだろう。マーニの目的のどこかに、(ジル)が関わっていることは間違いないのだから。

 

 故にどこかのタイミングで、マーニと接触する時期は必ず来る。これは俺が願わずとも、マーニ自身が俺と接触する気があるからいえることだ。尤も、マーニの目的が(ジル)をこの都市へ幽閉することだった場合はまた話が変わってくるが。

 

(災厄と対峙しても、マーニやその使者、管理人は接触して来なかった。少なくとも、あの時点ではな)

 

 それこそホラーゲームよろしく、必要なフラグを回収したら真後ろにマーニさんご本人が立っていました……なんて展開も一応覚悟していたのだが、流石にそれはなかったらしい。

 

(ゾーイと同じ【絶月(ナハト)】の一角でありつつも、この都市の管理人。そいつと接触すれば、得られるものは多い。この期に及んで管理人が俺を補足していないなんてことはあり得ず、それでもこの状況が続いているということは──少なくともマーニにとっても管理人にとっても、俺の行動は不都合ではないということだ)

 

 【絶月(ナハト)】。

 ゾーイの口から突然出てきた謎の単語だが、聞くところによると、一応集団名を意味しているらしい。

 とはいえ帰属意識は特になく、組織一丸となって行動する……なんてこともないとのこと。【レーグル】や【熾天】、【魔王の眷属】とはだいぶ性質が異なる集団のようだ。

 

『私とあいつは【絶月(ナハト)】っていって……まあ、中位以上の災厄の処理を任されている立場なのよね。ほら、私が現場に着く前にいた集団覚えてる? 下位程度ならあの子達で十分なんだけど、中位となるとねえ……』

 

 曰く、常人では問答無用で死に至る災厄に相対できる特別な人材の中でも、群を抜いた実力者を選定している集団。ゾーイの推測では「選定基準? さあ、特に聞いてないわね。通達が降りてきただけだし。推測するにしても、私自身あいつ以外の同類は知らないからなんともいえないけど、状況証拠的に、中位災厄に一人で対処できるかどうかが基準なんじゃない?」とのこと。

 

 この情報から辿り着いた結論で重要なのは、「月の世界において意味ありげな集団に籍を置く人材(ゾーイ)ですら、マーニと会ったことがない」という点である。

 

(災厄処理は、マーニの信仰心を集めるのに必要な手段のはず。そんな重要な業務を任される人材の中でも、特別な立ち位置にいるゾーイですら、マーニと直接対面する権利も過去もなく、管理人を通して行なっているとはな。流石にゾーイくらいには、仲介人を通さず一度くらい連絡をしても良さそうなものだが)

 

 それほどまでに、マーニは多忙なのか。あるいは──マーニ自身は、災厄ならびに月の住民に対して無関心なのか。

 

(……管理人とマーニの関係性。及び両者の間で交わされている情報の量と質を把握し、その実態に応じて適切な選択肢を選ぶ必要があるな。マーニの監視範囲も把握できるし、他都市への移動も可能になるかもしれん。そしてそうすれば──ステラ達とも合流が可能になるはず)

 

 直接合流できずとも、念話が可能な範囲に届きさえすれば、悟られないようにステラに情報を伝えることができる。そしてステラからシリルやセオドアにまで情報が届けば、最適解を選んでくれるだろう。奴等が共に行動を取れているかは不明──俺が災厄として顕れていたらしいことを考えると、むしろ低そう──だが、選択肢の一つとして頭の中に叩き込んでおかねば。

 

(【加護】を通してなんとなく状態が分かるステラとセオドアが災厄と化しているないし化して出てくる可能性は低そうだが、俺がまったく状況を把握できんシリル達に関しては何も分からんからな……)

 

 そう。これは先日判明したことなのだが、どうやら俺が【加護】を与えた連中の安否については、なんとなく把握できる特性があるらしい。そしてそこから分かる状況として──なんか、意外と楽しんでそうな雰囲気が時折伝わってくるのである。彼らはキャンプでもしているのだろうか。

 

「ジル様……! どうか、私に御身からのお恵みを……!」

「ふん。啼くな、小娘。何も労せず私からの恩寵を受けようなど、身の程を知れ」

「はうっ!」

「ねえマスター。流石に危ない店になってきてないかしら?」

「いやいや、そんなことはないよ。見なさい、ゾーイ。あの幸せそうな顔を」

「マスター。お願いだから正気に戻って」

 

 全く、俺には月の世界を楽しむような余裕なんぞないというのに。なんというか……羨ましいね。

 

(いや、生死が関わっているのにキャンプを楽しむなんてことがあるか? あっていいのか? 奴等は意外と、安全を確保できている? あるいは、イマイチ状況を理解できていない……?)

 

 そして、仮に奴らがキャンプをしているのだとすれば、各都市ごとに文明が大きく異なる可能性があるな。この都市で、キャンプが出来そうな場所はなさそうだし。

 

(やはり、管理人との接触は必須だ。うまく会話を進められれば、他の都市の情報も引き出せるからな。それに、ゾーイと同じ【絶月(ナハト)】を直接この目で見れるのも僥倖(ぎょうこう)。【絶月(ナハト)】に対する結論を出すには、ゾーイだけじゃサンプルとして少なすぎる)

 

 そして合法的に接触するには、もう少しゾーイの災厄処理を手伝い、向こうが俺に接触しようと思わせるのが手っ取り早いか? ……いや。

 

「なんや兄ちゃん。うまそうなもん食ってるやん。一口くれたりせえへん?」

「笑止。私に集り、無銭飲食を図る許可など、貴様に与えた覚えはない。ご注文はあちらというやつだ」

「なんやケチやな。いうてそれも兄ちゃんが買った訳やないやん」

「然様。だがこれは、私と店長の間にある信頼関係により成立するもの。それとも貴様は──権力を盾に、無辜の民から搾取する道を選ぶのか」

「──なんや自分、気付いてるんかいな。ほんま、おもろいなあ」

 

 どうやら、その必要はないらしい。

 

「マスター。私にも、なんかちょうだいや」

 

 管理人。

 俺が待ち望んでいた存在が、隣の席に座っていた。




二巻はなんと、2024年4月30日に発売です。(告知が遅い)
ギリギリな理由はギリギリになるまでキリがいい部分+αまで書けなかったからです。
特典情報はこちら。
特典情報

表紙はこちら。手前はシリルくん。

【挿絵表示】

そしてセオドアのキャラデザ。

【挿絵表示】


野郎の活躍するラノベ・新文芸がアツい時代を起こしたい。
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