気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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それぞれの思惑 I

「……シャロン様。本当によろしかったのですか?」

「当たり前やろ」

 

 扉の向こうに消えたジルと入れ違うように入室した自らの部下に対して、何事もなかったかのような自然体でシャロンは言う。

 

「ジルの兄ちゃんの実力に間違いはない。つまり、災厄相手に十分役立つっちゅうことや」

 

 それこそ上位災厄が相手やとしてもな──という言葉を胸にしまいつつ。

 

「ですがそれは……っ」

「大丈夫。だいじょーぶや」

 

 何かを伝えようとした部下の言葉を遮り、シャロンは続けた。

 

「うちは管理人やからな。都市の守護に励むんは、なんの不都合もあらへん」

 

 §

 

 部屋を出て、廊下を歩く。緊張は解けたが、しかし決して気は緩めない。ここで何かしらの襲撃が起きる可能性は低いと分かってはいる。だがそれは、決して油断して良い理由にはならないのだ。

 

(流石に心臓に悪かったな。理論上問題ないと頭で分かっていようが、それはそれとして……というやつだ)

 

 事実として心臓が一時的に停止していたので、文字通り「心臓に悪かった」と言えるだろう。……いや、流石に心臓が停止状態に陥るのは「心臓に悪い」で済ませて良いレベルではないのかもしれん。

 それでも教会でグレイシーと対峙した時や遺跡で女と攻防を交わした時の方が危機感は圧倒的に強かったので、あの二人の規格外さがよく分かるというもの。

 

(まあ常人であろうと心肺停止で即死にはならない以上、ジルの肉体でパニックになるなんてのは論外な訳だが)

 

 面倒だったのは、一般的に知られている蘇生方法ではどうしようもなかったことである。心臓を治すのではなく、心臓の役割を別の部分で代替することで対処する──という手段に至らなければ、一時間後くらいには死んでいたかもしれない。気合いと根性で何がなんでも一日くらいは粘る心算であったとはいえ、人類最高峰のスペックを有するジルといえど、人間である以上はどこかで限界が訪れるだろう。

 

(しかし代行権限。あまりにも無法に近い能力だ。いくら神とはいえ、あれだけの力をなんのリスクや条件もなく行使できるものなのか……?)

 

 代行権限は、マーニが本来持つ権限を代行して扱える能力だろう。ならば、マーニ本人も当然ながら同じ──正確にはより上位と思われる──権限を扱えるのは自明の理。

 人間すらも対象にして、世界を思い通りに操る。そんなことが、果たして可能なのだろうか。というより、成立して問題ないのだろうか。

 

(マーニは神だ。だが決して、唯一神や全能神の類ではないはずだ。にも拘らず、全能神のように世界の決定権を有しているなんてことがあるのか? 月を司る神だから、月限定であれば全能神として成立できるとでも言うのか?)

 

 いや、まだ俺は一度しか代行権限を見ていない。あの一幕だけを見れば無法の能力に見えるが、実態は分からん。あの時はたまたまそういう風に見えただけで、本来は非常に大きなデメリットを背負っているのかもしれないからな。

 

 キーランの【加護】とて、キーランの使い方や見せ方が巧いから無法の力に見えるが──アレはアレで、リスクが存在する。成功例だけを見て「無敵の力だな!」と過大評価してはいけないし、逆にリスクだけを見て「クソ雑魚で草」なんて過小評価してもいけないのである。結局は、使い方次第で見え方は変わるのだから。

 

 つまり、断定するには判断材料がなさすぎる。よって、結論づけるのは不可能。下手な結論を出して過小評価をしない範囲で、推論と対抗策の考案を続けておくに留めるべきだ。

 

(俺がシャロン相手にやった対策がマーニ本人に通じるかは五分……いや、もっと悪いな。……仮にマーニと戦闘を行う展開になるならば、月から引きずり下ろす必要があるかもしれんな)

 

 差し当たって俺がやるべきことは、シャロンを通じて他の都市の管理人──あわよくば、マーニ本人と繋がる手段を構築することだろう。シャロンの振る舞いや発言からして、この都市にステラやセオドアがいないことは確定したも同然。元より、二人に念話が届かない時点でそう思ってはいたが、今回の邂逅でそれが確定した。やはり、他の都市に対する捜索に本腰を入れねば。そのためにも、シャロンからの好感度は上げなければな。

 

(急がば回れ、というやつだな。焦って他の都市に突撃しにいく、なんてことをすれば終わるかもしれん。行動そのものは迅速にだが、手段に関しては堅実に動くとしよう)

 

 とはいえ、シャロンが(ジル)に対して全くの無知であった点は気掛かりだが。シャロンがこちらの探りを入れるにしても、まさかああも無知だとは。

 

(やはりマーニは何か──ゲームでいうところのフラグ回収のようなものを待っている。いやというより……俺を試しでもしているのか?)

 

 (ジル)が邪魔なら消せば良い。(ジル)が欲しいなら直接会いに来れば良い。そのどちらもせず、挙げ句の果てには管理人(シャロン)にすら何も伝えずただただ放置。

 

 管理人は、マーニに近い立場なのだろう。少なくとも、代行権限なんてものを与えるくらいには。にも拘らず、自ら(マーニ)の意図を伝えないのには、それ相応の理由があるはずだ。普通に考えれば、情報伝達を行っていた方がマーニの思惑通りに事を動かせるのだから。

 

(もしや互いにニュートラルな状態で行われる交流から、(ジル)の何かを見定めようとでもしているのか……?)

 

 気掛かりといえば、シャロンの最後の言葉もそうだ。あの言葉は、完全に無知な人間から出てくるものではない。正解不正解は別として、なんらかの知見を有していないと出てこない類のものだろう。

 ジルに対しては無知である一方で、何かしらの知見──それが大陸を指しているのかどうかは不明だが、月とは異なる世界についての知見──は有している。

 この情報の非対称性。そして、あのシャロンのどこか諭すような空気。

 

(……面倒極まりないな)

 

 いずれにせよ、シャロンからの好感度上げはすべきだろう。シャロンの行動は……はっきり言って、"どんな時でも無条件にマーニにつく"人間のそれではない。アレはなんというか、屁理屈や拡大解釈を行って、煙に巻く人間の雰囲気に近かった。

 

 おそらく、シャロンにとっての最優先事項はマーニではないのだろう。その辺りも探りを入れられるなら入れていきたいところだ。

 

(尤も、シャロンに対して記憶操作の類をしていなければの話だが。シャロン本人が本気でそう思い込んでいる状態にさせることで、こちらを欺こうとしている可能性もない訳ではない)

 

 諜報員として記憶喪失の状態で送り込み、記憶が蘇った瞬間に敵対するという、された側に対しては多くの意味で有効な一手。

 

 まあ、今回のようなケースで用いるには流石に回りくど過ぎるので、可能性としては低く見積もっているが……それでも念のために、そういった場合に備えた対策の用意も一応している。後手に回らざるを得ないのだが、それでも用意しておいて損はないのだ。

 

 とまあ、様々な方面で思考してしまった訳だが。

 

(──ゾーイとシャロン。この二人を味方につける。マーニの意図は知らんが、その意図がなんであれ……【絶月(ナハト)】と管理人の二枚看板の一部を味方につけた俺を、無視し続けられるか?)

 

 その上で、マーニの反応を見るとしよう。

 

(……さて)

 

 ではシャロンからの好感度上げに従事するとするか。災厄の処理もそうだが、ちょうどシャロンの好感度上げに都合の良さそうな情報もあったしな──そんなことを考えながら歩いていると。

 

「先に帰宅していると思っていたが……成る程。明日の天気は槍とみえる」

「ぶっ飛ばすわよ」

 

 入り口で待っていたゾーイが、こちらへと振り向いた。

 

 §

 

 正直ゾーイは、災厄についてきな臭いと感じている。

 

 マーニは完璧な頂点として絶対視されているが、ならば何故、創世の頃より続くとされる未曾有の災害を、根本から解決できないのだろうか。根本から解決できないのはともかくとして、何も解析できていないなんてことがあり得るのだろうか。

 

(災厄についてはまるで不明だが、災厄退治の部隊や【絶月(ナハト)】を動員すれば対処できるから無問題? 私からすれば全く意味分からないわよ。こんなんで納得してる人達もね)

 

 自分が捻くれているだけなのかもしれない。そんなことは分かっている。お世辞にも性格は良くないし、周囲の人間とは異なる価値観の持ち主であるという自覚もある。こんな疑問を抱く時点で、自分は異端なのだ。

 

 同じ【絶月(ナハト)】のシャロンとは多少は気も合うが、それでも根幹に根差す部分に差があり過ぎる。自分が管理人として、マーニに対して忠実に働く姿なんて想像できないのが良い例だ。シャロンにはできることが、自分にはできない。それだけの違いが、両者にはあった。

 

(正直、災厄に探りを入れてることがバレたら、いくらシャロンとはいえ面倒そうなのよね)

 

 だから、ゾーイはジルに感謝している。記憶喪失が故なのかもしれないし、プライドの問題なのかもしれないが、それでもジルはシャロンに対して黙っていてくれたのだ。

 

「ジルくん、大丈夫だったかい?」

「無論。あの程度であれば、恐るるに足りん」

「おおっ、それは凄い!」

「あの管理人さんが管理人さんなのは分かってるけど、ちょっとね……」

「だな。代行権限の使い方とか……」

「──その話、続けると良い」

「ん、分かった。実は、非常に理不尽に使われることが何回もあってね。それで正直、管理人の前だと、じっとしているのが正解って感じに──」

 

 帰ってきた喫茶店。バイトと呼んで良いのか怪しいジルのバイトを眺めながら、ゾーイはそんなことを考えていた。

 

「何かあったのかい、ゾーイ?」

「べっつにー」

「ははっ、そうかそうか」

 

 店長の言葉に適当に返しながら、カウンター席で伸びる。

 

(代行権限を受けてもあの余裕。やっぱり、何かしら違う気がするわね。私に近い……ようで遠い気もする。けどまあ)

 

 ジルと真の意味で協力ができたならば、災厄について分かるかもしれない。そして何より──そんなことを考えていた時だった。

 

「ところでゾーイ」

「何よ」

「管理人とやらが理事長を勤めている学校は、どこだ?」

「は?」

 

 は?




シリアスな回これ見たら余韻が途切れるなーと思って投下しづらかった挿絵を投下していく。

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