気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜 作:弥生零
「……」
「どうかされましたか、マーニ様」
「いや、後輩くんが教師を始めたようでね」
「はっ。……は? 教師、ですか? しかしそれは……」
「まあ、少しは様子を見ようかなと思うよ。この世界を知ってもらうという意味では悪くない。……けど、教師となると少し近すぎるからね。どういった形に着地するか次第と言えるかな。最悪の場合、第四都市は──」
§
シャロンへの好感度稼ぎの手段として、最も手っ取り早いのはシャロンの仕事を手伝うことだろう。それに、彼女の仕事振りを見られればパーソナルデータも取得できる。そうすれば今後の活動において、動きやすくなることは明らか。
そう結論づけた俺は、「都市を統治する立場に座しながら、運営を続ける学校とやらに興味が湧いた。私が見定めてやろう」とか色々口にして──シャロンが理事長を勤めている学校で教師として働くことになった。
(事務作業を代行すると考えていた俺にとって、教師をやることになったのは少々予想外なものであったが)
確かにその可能性も想定してはいたが、一応は不審人物でもある俺に学生を任せるとは思えん……と考えていた面が少なからずあったが故に。
(おそらくこうなった現実には、未だ俺が掴みきれていないシャロンの価値観が関係してくるのだろうが)
何せ「なんなら学生でもやるか?」とまで言われたからな。初手からこちらの心臓を停止させてきたバイオレンスな少女とは思えん提案であった。
……まあ単純に、事務作業を任せることで秘匿情報を見られるリスクを嫌った可能性もあるので深読みし過ぎるのも良くはない。この辺で思考は打ち切るとしようか。
何より、それ以上の問題が目の前にあるのだからな。
(高校生相当の授業ってどういう温度感なんだろうな)
圧倒的情報不足である、と俺は内心で頭を抱える。
俺が記憶喪失であると知るシャロンによる仕事内容説明会はあったが、しかし知識を得たところで経験が皆無となると"ズレ"が生じるものだ。本質への理解も乏しく、上っ面だけを取り繕ったそれっぽい授業になりかねん。
一応「記憶喪失だから」で誤魔化せるとは思う。思うが。
『ジルの兄ちゃんの喫茶店での活躍は聞いてるし、喫茶店にはなんとなく覚えがあったんやろ? 学校生活も、記憶に刺激を与えられたらええんやけど』
記憶喪失を理由にして、低品質な授業をお届けした事実を誤魔化すようでは、ジルに相応しい仕事を果たしたとは断じて言えないだろう。故に俺は、俺なりの最適解を叩き出す必要があるのだ。
(前世と似た文明だから前世を参考にしたいが……小中高は通ってないせいでどういう温度感なのかが分からん。大学と同じような雰囲気でいけるか……? いやしかし、大学と高校は違うとかなんとか初回のガイダンスで言われたぞ。実はめちゃくちゃ違ったりしないか?)
ならば魔術大国の学園での経験を参考に──いや、ないな。学園が物理的に消滅したのに「素晴らしいご指導でした」「もっと更地にしましょう」「是非とも【氷の魔女】様とのご共演を」なんて感謝された経験なんぞ、なんの役にも立たないだろう。よしんば参考にできるのだとしても、学校を破壊してシャロンからの好感度が上がる未来が見えん。それどころか、また心臓を停止させられる未来が見える。
(……ならば学園モノのアニメやラノベを参考にするか)
などと考えもしたが、
『シャロン。ゾーイの学年で最強のクラスはどこだ? まずはゾーイの学力を、その水準にまで上げてやろう』
『何言うてるねん……』
『記憶喪失だからって創作の世界を現実に持ち込まないでくれる?』
『この学校で最も成績の悪い生徒は誰だ? 私が評価してやろう。その生徒は己の有能性を秘匿している可能性が──』
『いや、そんな訪ねられ方で答える教師はおらんやろ。最も成績が悪いも何も、みんな頑張ってるんやで』
なんてことになったらどうしようかと思うと、参考にしようにもできない俺がいた。
(……いや待て。別に自由にやってしまって良いのではないか? というか、前世の学校生活がどうかとか、どうでも良くないか?)
俺は我に返った。
俺にとって学校生活というのが不透明すぎるあまりに、思考が変な方向に脱線していたのではないか、と。
(そもそもとして、教師をやるにあたって前提に置くと決めていたのはジルのキャラを崩壊させないことだ。ジルが普通の教師をするか? しないだろう。仮に普通に教師をやるとしたら、それはキャラ崩壊に過ぎる。ならば普通の学校生活について考慮する必要があるか? ないだろう)
俺は思い違いをしていた。
ジルという人類最高峰の頭脳を用いていながら、なんと無様な真似をしていたのか。
(ならば簡単な話だ。俺がやるべきは──)
ジルとして相応しい授業を、皆々様にご提供することである。
結果。
「……分かりやすい。分かりやすいけど、なんでかしら。めちゃくちゃムカつくわ」
「異な事を言う。今日一日で、貴様の学力は一気に飛躍しただろう。その点について、何か不服があるのか?」
「そこじゃない。そこじゃないのよ。何をどうしたらそんな尊大な態度で授業をできるのかが、私には分からないのよ……」
「ふん。私は教師であって教師ではない。シャロンめが精を出しているが故に、私なりの慈悲を与えてやるに過ぎん。そこを履き違えるなよ」
「私はそもそも生徒じゃないっての! ……で、どうなのシャロン。私も学校に通ったことはないからよく分からないけど、流石にこんな教師がいないことは分かるわよ。そうでしょシャロン。こいつ、教師向いてないわよ。連れ帰って良いかしら?」
ジトっ、と半目になってシャロンを睨むゾーイ。歯に物を着せぬ言葉といい、彼女は本気で俺を連れ帰ろうとしていた。
そして、そんなゾーイの視線を受け、しかしシャロンは……。
「いや、ええんちゃうか?」
「……は?」
しかしシャロンは、俺の教師もどきを肯定した。
「悪くない。悪くないで、ジルの兄ちゃん。その人を人とも思わぬ態度の授業。喫茶店の時の誰が相手であっても平等に見下してる姿勢。全てが教師として最高や」
「正気?」
「今まさに、ジルの兄ちゃんみたいな教師を欲しいと思ってたんよ」
「この学校は世紀末か何かなの?」
「ジルの兄ちゃんは、この学校の──いや、この都市の救世主になるかもしれん」
「私、この都市を今から殲滅しようかしら」
自分からジルのキャラを崩壊させないような教師として振る舞っておいてなんだが、一言一句ゾーイに同意だった。
(実は魑魅魍魎が跋扈する、とんでもない学校だったりするのか?)
もしや能力系学園ファンタジーのような世界が広がっているのではあるまいな──と俺は内心の警戒心を上げる。
生徒会長や風紀委員長が【
身動きが取れなくなるようでは論外だが、軽率すぎる行動はなるべく回避せねば。地雷の上でタップダンスをする趣味はない。
(気を引き締めるとしよう……)
かくして、生徒に対して一ミリたりとも油断も隙も見せない心構えは、ここに完遂されたのである。
§
「理事長から話は聞いているな? 小童ども。聞き及んでいない、などという愚者は挙手をしろ。……流石にいないようだな?」
その日、モーント学園は震撼した。
「どうした、挨拶もできぬのか。貴様達は」
──とんでもない教師がやってきた。
その噂が学校中を回るのに、そう時間は必要なかった。
物理的な重圧すら感じさせる威厳を携え、教壇に立つ銀髪の青年。教師というか、もはや理事長より理事長としての貫禄を有しているのでは? と誰もが思ったが、それを口にできた者は0である。
──この方は本当に、教師としての役割を担っているのか!?
顔は非常に整っている。それはもう整っている。だが、その顔面偏差値で得られるであろう好感度を、全て重圧が帳消しにしていた。
「……ふん。まあ良い」
ギロリ、と生徒達を睥睨する絶対者。
「ではこれより、授業を執り行うとしよう。……ああ。私の授業に意見がある場合は、疾く申し立てると良い。事後報告など、あまりにも無駄が多い故に」
このラノだったかな。載りてえなあ俺もなあ。いつから始まるのかすら知らないけど載りてえなあ。(調べてきます)