気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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サブタイトルルビ入れれたっけ……流石に無理かな……


大陸最強格と絶月

「ここが自分()の家だ。特に何もないが……飲み物くらいは出そう」

 

 そう言って、飲み物の入った瓶を数種類ほど置き、ついでとばかりに軽食までも並べ始めた少年。彼は「尤も、地上と同じ飲み物があるかどうかは分からないが」とだけ言うと、一口サイズにスライスした豚肉のロースらしきものを食べ始めた。

 

「おー、美味しそう。料理が得意なのかな? いただきまーす」

「料理は退屈を紛らわせるにはちょうど良──」

「うん、美味しい」

「聞いていないか」

「ははは。すみません。彼女は少々、マイペースなところがありまして」

「……彼女"は"?」

 

 どことなく胡乱げに見えなくもない──本当に微細すぎる変化なため、見た目の上では全く読み取れない──視線で、少年は周囲を見回した。

 

「大地の恵みが感じられる。非常に良い野菜です。もしかして、我が祖も……」

「食用目的とした遺伝子改良を施した訳ではなさそうだ。だというのに、これは──」

「マイペースな人しかいないと思うが」

「はははは」

 

 少年の言葉に、シリルは言葉を返さない。もとい、返す気がない。故に気を取り直してといった空気を醸し出し、話を転換する方向に舵を切る。

 

「それでは僕も失礼して……っと、その前にお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「……そう言えば教えていなかったか。自分()の名前はノーマンだ」

「はは。ノーマンさんにも、意外と抜けている部分があるのですね」

自分()にとって、名前には記号以上の意味がないというだけだ。名前がノーマンである必要はなく、他の名前だとしても自分()にとっては何も変わらない。事実として、これまでの生活でこの名前に意味はなかった。だから名前を教えていなかったという点から、自分()を読み取ろうとしても無駄。意味がない」

「それは……」

 

 軽く眉を(ひそ)め、思考を巡らせるシリル。

 

(この地は閉鎖的な村や集落に近い性質を有していますし、ノーマンさんがこの都市の住人達とそりが合わなかっただけという可能性も否めはしませんが……)

 

 ノーマンの言葉から、シリルはこの地の在り方の大枠を掴めないかと考えていた。潜伏しながら観察を続けた結果得られた情報や、ノーマンに接触しようと結論づけるに至った経緯。それらを交えながら、シリルは考察を続ける。

 ……が、それはそれとして。

 

「気分を害されたならすみません。いただきますね」

「どうぞ」

 

 それはそれとして、交流を深めることも大切である。

 ノーマンから必要な情報を得ることも勿論だが──それ以上のことも求めて、シリルは行動を取っていた。

 

「成る程、美味です」

「それは結構。……さて、初手で自分()に接触するというある種の正解を引き当てた実績もある以上、ある程度は協力しようか」

「感謝します。それでは──」

「必要ない。何を知りたいのかは、ほとんど把握した」

 

 そして、ノーマンは語り始める。

 シリル達が何かを言うまでもなく──シリル達が欲する情報を、語ってみせた。

 

(……優れた観察眼と洞察力、頭脳をお持ちですね。それこそ、僕やジルにも匹敵しかねない。誰もが避難していた【災厄】とやらに、単騎で淡々と対処していた点もそうですが……彼はこの地の中でもやや特殊な立ち位置にいるようだ)

 

 1の情報から10の事実を把握できている、とシリルはノーマンを評価した。ここが相手のホームグラウンドであり、情報量という観点で彼が十分すぎるものを有している点を考慮したとしても、相当な知力の持ち主ではあると。

 

(しかしそれにしても、彼の特異性は……やれやれ、中々に難儀なものです)

 

 個人としては思うことはある。

 だが今は、情報収集に専念しよう。

 情報が一定量集まりさえすれば、この身は戦えるのだから。

 

 §

 

「成る程。九つの都市と、それぞれの都市を統治する管理人……ですか」

「そう。貴方達も目にしたであろう天まで届く壁は、都市と都市を隔てる境界線でもある。そして先に言っておくと、貴方達がアレを物理的に飛び越えるのは不可能だ」

「頂上を目視できなかった時点で相当な高さであると見受けられましたが、それほどですか……。ではどうすれば他の都市への移動が叶いますか?」

「管理人からの許可が必要だ。この都市において都市間の移動の例はないが、一応制度としては存在している」

 

 今まで他の都市に移動した住人はいないが、と続けたノーマンに「面倒な」とシリルは内心で舌を打った。

 国家間の移動なら分かる。だが、都市間の移動にすら検閲が必要となると、相当な管理体制が敷かれているのだろう。故に、目を盗んで抜け出す、という方針は取れない。間違いなく、捕捉される。

 

「各都市の管理人は基本的に対等の立場だが、例外もある。そは例外とは第一都市に座し、全ての都市を統括する管理人だ。名前は──」

「マーニ、ですか」

「流石にマーニの存在は知っているか。大方、聞いてもないのに語られたんだろうが」

「……先程から思っていましたが、マーニに対する敬意はないんですね。一応、貴方の上の立場の方でしょう? 貴方が直接仕えているのかどうかは別として、この世界の頂点ではあるはずですが」

「どうかな。正直これに関しては、自分僕自身でも断言し難い。これが【絶月(ナハト)】の第一位や第二位であれば、話は別だったのかもしれないが」

「ここに来る前にも口にされていましたが、その【絶月(ナハト)】というのはなんでしょうか?」

「災厄に対処できる人材の中でも、マーニから認められた実力者達の総称と伝えられている。組織として行動する事はないから、仲間意識や帰属意識は皆無。仮にそんなものを持ち合わせている者がいるとすれば、それは底抜けのお人好しなのだろう」

「"伝えられる"……という事は、実態は異なるのでしょうか? その言い回しから察するに、貴方の肌感覚としては違和感があるのでしょう?」

「推論の域を出ない。それでも言える事があるとすれば、自分()達に伝えられている理由は表向きの理由……というより、あくまで内包された理由の一つに過ぎないだろうという事くらいか」

「自信はないのですね」

「残念な事に、自分()自身が判断材料として不適切すぎる。かといって外れ値と判断するには、それはそれでサンプル数が少ない。だから断言する気になれない。まず間違いないであろう仮説を持ち合わせていたとしても」

「成る程」

 

 挑発は通じませんか、とシリルは内心で肩をすくめた。ジルよりやりやすい部分はあるが、ジルよりやりにくい部分もあるらしい。

 

(それにしても、【絶月(ナハト)】とやらに序列制度があるというのは良い情報です。話を聞くに、【絶月(ナハト)】はこの世界の王であるマーニが実力を認めた組織……。マーニが編成にも関わっている組織の序列決定の基準等が分かれば、マーニの思惑や、マーニが何を重視しているのかといったものを掴めそうですからね。とはいえ、流石に情報が少な過ぎますが)

 

 シリルにとって、マーニは完全に未知の存在である。何せ、ステラやルチアから聞いた情報──つまり、遺跡で遭遇した女性が語った情報くらいしか持ち合わせていないのだ。

 

(ジルは何かしらの心当たりがありそうでしたが、その情報はどこで手に入れたんでしょうか。彼の治める国が鎖国を止めたり、大国とのパイプを構築したりと、ここ最近で色々と大胆に動き始めたのと何かしら関連性が……?)

 

 シリルの頭の中に浮かぶ最悪の可能性。その可能性と直面した場合、今のままではマズイ。

 

(今なお放置されているという点から、問答無用でこちらを排する気はなさそうですが……こんなものは気まぐれに過ぎない。おそらく彼らにとって、肝になるのはジルのみ。僕達の生死に関しては、正直どちらでも構わないと考えているのでしょう。それはステラさんの心臓を貫いた点や、【龍帝】である僕を拉致している点からも推測できる。僕とジルを拉致した辺り、大陸との関係すらどうでも良いと考えているか、あるいはそれこそ──)

 

 故に「間接的な情報を集めてマーニの輪郭を捉えることができれば──と考えているのだが、推論に必要な情報すら足りていないというのが現状である。

「ここの数字を埋められさえすれば答えが分かる」という地点まで辿り着いたとしても、その数字が分からなければ結局のところ答えは分からない。それが、今のシリルの状態。

 

(【絶月(ナハト)】については単純に災厄を防ぐための兵隊であり、強さ順で序列を設けていると言われればそれまでですが……。一つの都市に対して一人か二人しか【絶月(ナハト)】が配置されていないとなると、序列制度を公表する意図が分かりません。競争意識や優越感、劣等感を煽り、各人の能力を向上させる事が狙いにしては各【絶月(ナハト)】同士の距離が遠すぎますし、何よりノーマンさんにその手の意識がなさ過ぎる。仲間意識や帰属意識もないとの事から、それらを煽るような教育が施されているという訳でもなさそうだ。加えて、彼の忠誠心のなさ──)

 

 思考を巡らせるシリル。

 最悪のケースに備えた最善手を選ぶために、ノーマンとの会話を続けながらも彼は決して思考を止めない。

 

「他の【絶月(ナハト)】とお会いした事はないと見受けられますが、情報としてはどれだけご存じなのでしょうか?」

「情報、という意味ならばこの都市の管理人がぼやいていたもの以外に持ち合わせていないな」

 

 そんな彼の状況を把握しながら、しかしそれに気遣うことなくノーマンは言葉を重ねる。

 

「各都市にはそれぞれの特色がある。都市によって文明や文化、都市模様が異なる以上、この都市で通じた潜伏方法が他の都市でも通じるとは考えない事だ」

「成る程、肝に銘じましょう」

「分かってはいたが、この都市に居座る気はないと」

「ええ」

「延命措置、という点においてこの都市は最適だ。貴方達が動物で試して把握したように……確かに住人は排他的で、同時に結束力が高い。しかし一方で、外に対する興味関心は希薄であり、人口密度も非常に低い。広大な土地と大自然を有しているだけの疎開地だ。これまで通り潜伏していれば、十分に生存は可能。にも拘らず、わざわざリスクを背負ってまでこの都市から出ると? その行動に意味はあるのか?」

「当然ですよ」

 

 ノーマンが視線を巡らせれば、シリルだけでなく、この場にいる全員がその意思を有しているように見えた。

 

「……それは、その行動を求められているからか? 例えば、地上を総べる長から」

「現状、大陸にマーニのような覇者は存在しませんよ。我々は自分の意思で()と合流する。それだけです」

「……地上は特定の人物によって統一されてはいないのか。それは、奇妙といえば奇妙だな」

 

 どこぞの誰かが敷いたレールに従っている訳ではなく──自分達の意思で、シリル達は立っている。それは本来、特別不思議なことではないはずだ。

 だが、ノーマンからすればそうではないらしい。

 それを認識したシリルは、モノクルに指を添えながら、

 

「我々が探している人物は、絶対この都市にはいないでしょうからね。多少のリスクを背負うのだとしても、打って出る必要があります」

「この都市の中を隈なく探せた訳でもないだろうに、そう言い切れると? もしかしたら、この広大な都市のどこかに潜んでいるだけかもしれないとは思わないのか?」

「それはあり得ませんよ。もしも彼がこの都市にいるのだとしたら──僕達は、とっくの昔に合流できている。それこそ、貴方と接触する必要もなくね」

 

 ジルは別の都市にいる。ステラの念話が届かない云々の情報関係なしに、シリルはそう確信していた。

 それこそ、仮にジルがこの都市にいたとすれば、もう合流し終えていると。

 

(果たしてジルは、流れ着いた都市で何をしているやら)

 

 既に一つの都市を掌握していても不思議ではない──とシリルは予測を立てている。魔術大国と水面下で同盟を結ぶことで自ら【龍帝】を釣り上げた時のように、巧妙な偉業を成し遂げているのではないだろうか、と。

 

(で、あれば僕がこんな場所で踏みとどまっている訳にはいきませんね。いずれはジルに敗北を教えるためにも)

 

 ……なお、実際には喫茶店で猫カフェ擬きをやっていたり、学校で授業をしているのが現実なのだが、シリルにそれを知る由はなかった。それどころか、予測する余地もなかった。

 ジルの行動を完全に予測するには、表向きの仮面として振る舞っているジルの人物像と、その中に存在する■■■■■の判断の相互作用から生まれる独自の行動パターンを分析する必要があるが故に。

 まだその辺りを掴み切れていないシリルでは、予測にズレが生じてしまうのは仕方のないことだった。

 

「……成る程」

 

 シリルの発言を聞いたノーマンは目を瞑る。

 そして。

 

 §

 

(成る程、これが地上の民)

 

 根本的に違うな、とノーマンは断じた。

 姿形は似ている──というより変わらないし、会話も意思疎通もできる。ここの都市は別だが、大体の都市には紛れ混むことができ、そう簡単に見分けもつかないだろう。

 

 だが、違う。

 

 はっきり言って、別の生物といっても良い。根っこにあるものが、まるで違うからだ。

 

(……役割に殉じるのではなく、あくまでも自分の意思で行動を決める。成る程、新鮮ではある)

 

 正直いって、今のところは予測の範疇を出ていない。

 しかし、この世界の住民と地上の民とでは色々と性質が異なる以上、この先に対して可能性自体は見出せるのだろう。この先のどこかで、予測を超えてくれるのかもしれないのだろう。

 

 だが、

 

(それまでが退屈極まりない。他者の意思が自分の意思に変わっただけで、予測ができない訳じゃない。所詮は、パターンが増えるだけ。結末が目に見えるという現象を覆す程ではない。この場で指揮を取っている彼は合理的で、賢しい。しかしそれ故に、自分()の予測から外れる事がない。どうなるのかが、簡単に読めてしまう)

 

 だが、それまでの過程が面白くないとノーマンは思う。可能性は見出せるが、その可能性の目が開くまでが退屈であり、仲間の男にしても実際に見て観察すれば予測の範疇を出ないのだとすれば、時間の無駄でしかない。

 

(何より、貧弱すぎる)

 

 それこそ楽しむ以前の問題だろう。

 彼らでは、この都市から出ることすら叶わない。

 管理人の許可を、彼らが得られることはないからだ。

 そしてその場合、選ぶ手段は強行突破となるのだが──それは管理人から許可を得る以上に、困難であると言わざるを得ない。

 

(そしてそれを、彼自身も分かっている。理解している。ならば彼が選ぶ手は僕を勧誘する事だが)

 

「ノーマンさん。僕達と組みませんか?」

「……はあ」

 

 ノーマンの予想通り、シリルは戦力不足を補おうとノーマンに声をかけた。

 そう。予想通り──あまりにも、予想通り過ぎた。

 

「飽きたな。これでも、少しは期待というものをしてみたんだが」

 

 故に、

 

「貴方達の仲間とやらには多少の興味をそそられたが、貴方達に対する興味は微塵も湧かなかった」

 

 故にノーマンは、シリルの提案を棄却する。

 

()とやらと合流するのに、貴方達は自分()の協力を必要とするが……自分()に貴方達からの協力は必要ない。それは分かるか?」

「……」

「安心しろ。別に、自分()から貴方達を害するつもりはない。そんなもので、退屈が紛らわされる事はないからだ。これから先は、貴方達の好きにすると良い。暇つぶしを提供してくれた礼に、潜伏していた場所までは送って──」

「──もう一度言います。僕達と組みませんか?」

 

 ノーマンの言葉を遮るようにして、シリルが再び問いかける。

 そしてその瞬間に、部屋の温度が低下した。

 

「つまらない、と言ったはずだが」

 

 ノーマンの纏う異質な空気が、周囲から熱を奪っていく。

 ステラ達の背中に緊張感が走り──しかし、シリルは平静のままだった。

 

(……成る程。恐ろしいですね。少なくとも、僕では勝ち目がない)

 

 ノーマンという少年がこちらを排そうと動けば、それだけで全てが終わる。

 それほどの重圧が、ノーマンからは放たれていた。

 さしものシリルといえど、その内心には戦慄が走っている。

 だが、

 

(ジル。初めて貴方に感謝しますよ)

 

 だがそれは、決して初めての経験ではない。

 以前の経験を糧にして、シリルは柔和な笑みを絶やさなかった。

 

「断る、とは言われていませんから」

「言葉遊びも退屈極まりないな。貴方が理解しているという事を、こちらは理解している。それが全てだ」

 

 ゆっくりと席を立つノーマン。

 そのまま彼は、自身を見上げてくるシリルを見下ろして。

 

「送ろう。席を立つと良い」

「三度目ですが、僕達と組みませんか?」

「……それしか手段がないのは理解しているが、流石にしつこいな。自分()が決して協力しない未来を、貴方も見えているはずだというのに」

「……ははっ。未来が見える、ですか」

 

 失笑を浮かべるシリル。

 その反応は少々予想外だったのか、ノーマンの目の色が少し変わった。その様子を観察しながら、シリルは言葉を重ねた。

 

「本当の意味で未来が見えると謳われる聖女曰く──未来は複数存在するらしいですよ。ノーマンさん」

「その全てが見えている。それだけだ」

「いいえ、違いますね。貴方のそれは、どこまでいっても予測に過ぎない。現在持ち合わせている情報からでしか、未来を測る事はできない。本当の意味で、全てが分かっている訳ではないでしょう」

 

 その証拠に、僕達の存在を把握できたのは、僕達を認識してからでしょう? とシリルは首を傾けた。

 

「何かしらが招かれる事は分かっていた」

「ですがそれが僕達であるという事までは特定できていなかった。違いますか?」

「屁理屈だな」

「事実でしょう? 少なくとも、知識や情報という側面において、僕達の存在はノーマンさんにとって未知であったと」

 

 そこでシリルは紅茶のカップを手に取る。手に取って、言った。

 

「そもそも貴方。予測できるから退屈だのなんだの言っていますが、その割には行動範囲が狭すぎるんですよ」

「狭くもなるだろう。広げる必要がないからな」

「知識的な意味での未知があるのですから、行動範囲を広げれば良いのにそれをしない。──貴方は単純に、疲れているだけです。世界に対して失望している、と言っても良いでしょう。『どうせすぐに予測できるようになるから面白くない』こんなところでしょうか」

「……」

「外に広く目を向けてみれば、予想外の出来事と直面しますよ」

「そんなものは代入する数値が変わったことによる一時的な誤差に過ぎない」

「全てを見たわけでもないのに、結論を出すなんて笑わせますね」

 

 そう言って、シリルは立ち上がった。

 立ち上がって、ノーマンと視線を交錯させる。

 

「僕が見せてあげますよ。未知の世界を」

「──」

 

 揺るがぬ自信と共に放たれたその言葉に、目を細めるノーマン。

 

「出まかせではないらしい。が、やはり興味は持てない。貴方にとっての未知と、自分()の未知とでは尺度が違う」

「ははっ。意外と未知はありますよ。そうですね、僕が見せたい未知とは異なりますが……」

 

 少しばかり渋った様子で、シリルはセオドアに視線を向けた。突然矢面に立たされ、首を傾げるセオドア。

 

「例えばセオドアさん。彼はとんでもない未知を秘めています」

「……?」

「……?」

 

 セオドアとノーマンが、ほぼ同時に「理解できない」といった面持ちを浮かべる。

 

(……はて。【龍帝】殿がお気に召すような未知を、私は開示しただろうか)

(セオドアさんには本気で心当たりがない一方で、シリルさんは本気で「彼にはとんでもない未知がある」と確信している。シリルさんは決して愚かではない。自分()ほどではなくとも、優れた目を持っている。見誤るなんて事はないだろう。…………まさか、本当に──?)

 

 熟考。

 初めて、ノーマンは熟考という選択肢を取った。

 

(神狼か? だが、ノーマンとやらに興味を持たれるとは──)

(まさか、いやしかし。……それに、彼は自分()の圧力を前にしても、平静を装う(・・・・・)だけの胆力は有していた)

(ええ本当に。セオドアさんが半裸に対する並々ならぬ熱意を有しているなど誰も予測できな──)

 

 三者三様といった模様の熟考状況が続く。

 現実的な時間にしてみれば五秒くらいのものだが、しかしそれは、優れた頭脳を持つ者にとっては十分すぎる。

 

「…………良いだろう」

 

 そして。

 

「少しだけ、使われてやる。だが──」

「ええ、使ってあげますよ。そして──貴方に未知を刻んでやる」

 

 そして、大陸最強格と【絶月(ナハト)】の一時的な共同戦線が、結ばれた。




二巻の表紙にもなってるシリルくんサイドでした
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