気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜 作:弥生零
「シャロンが言ってたこと、あながち間違いじゃないみたいね。あいつに担当させているクラスって、学校の訳アリでも集めたの?」
ゾーイの問いかけにシャロンは押し黙る。
その沈黙を肯定と受け取ったゾーイが、続けざまに言葉を放とうとして。
「……まあそら分かるか。ゾーイも察してる通り、あのクラスは訳アリを集めたクラスや」
放とうとして、その寸前にシャロンが口を開いた。
でしょうね、とゾーイは返して。
「誰だって分かるでしょ。だってあの生徒達、画面越しから見てても自信がなさげだもの。その理由までは知らないけどね」
ジルが担当するクラス。それは、
「やからこそ、ジルの兄ちゃんや。あの
「優等生様も劣等生様も関係ないから、って理屈? 最後のトドメになって潰れちゃう可能性もありそうだけど」
「いやそれはない」
「根拠はあるの?」
「あるで。ジルの兄ちゃんは完璧に近いからな」
「それむしろ潰れそうなんだけど」
「んなことはない。自分達にとっての理想像のような存在から肯定されること以上に、自己肯定感が増すことはないもんや」
「ふーん? あの変態女は自己肯定感が増した結果なのかしら」
「いや、あれは……なんなんやろな?」
「おい」
「まあまあ。……個人的にはゾーイにも、あのクラスに混ざってほしいんやけどなあ。あの子らのええ起爆剤になると思うし」
「嫌よ。ていうか、あんたじゃダメな訳? 都市管理人様からのお言葉を受けても再起できないなんて、贅沢な連中ねー」
「……うちじゃあかんのよ。うちじゃ」
少しばかり声のトーンが変化したシャロン。
まるで迷子の子供が漏らしたかのような声音を聞いて、ゾーイは。
「……ほんっと、くだらない」
心底くだらなさそうに、そう吐き捨てた。
§
このクラスには訳アリが集まっている。
俺が早々にそれを理解できたのは、別にジルが有する人類最高峰の観察眼が故という訳ではない。
というのも──
(流石に他のクラスとの違いが分かりやす過ぎる)
この学園は幼稚園児から大学生までを育成している超大規模教育機関──より正確には、この都市全ての未成年が例外なくこの学園に通う──らしく、参考までに他の学年やクラスを覗いてみたりもしたのだ。
シャロンへの好感度稼ぎが目的とはいえ、仮にも教師を務める以上、その辺はきっちりこなさねばという想いのもとの行動である。
そしてその結果、『誰一人として例外なく、人生設計がしっかりしていませんか……?』みたいな感想を抱くようなエリート集団を目にしたのであった。
(日本の大学生も真っ青だろうよ。就職活動を始めるぞーって時期になって「俺は一体、何がしたいんだ……?」ってなるのが過半数だろうからな)
幼稚園児ですら確固たる将来を定め、勉学に励む教育機関。思わず「人生三周目の人間が集められていたりするのだろうか……」なんて思った俺は悪くないだろう。輪廻転生の概念が月の世界にあるのかは知らないが、まあ、あってもおかしくはないからな。
もしかすると、前世でも大手進学塾なんかはあんな雰囲気だったのかもしれないが……実際に通ったことがない身では想像の域を出ん。ここに来て、サンプルデータとして参照可能な現代知識の欠如が発生するとは。
(その点、このクラスは等身大だ。普通と言っても良い。実家のような安心感を覚えるくらいだ)
実家なんてないが、というブラックジョークを交えつつ、昼食を食べながら生徒達を眺める。
(それにしても、美味いな)
俺が食べている昼食は、店長の手作り弁当だ。身元不明の不審者系バイトもどきでしかない俺のために手作り弁当を手渡してくれるあの店長、流石に女子力が高すぎやしないだろうか。しかも、めちゃくちゃ美味しいのである。これはそう、エミリーやキーラン、そしてゾーイに匹敵する逸材──!
(……いや違う。今俺が考えるべきは、決してあの店長についてではない)
脳内でサムズアップしてきた店長のイメージ映像を振り払いつつ、俺は思考を巡らせる。
この学園のスタンダードは、幼稚園児の段階で将来設計が組み上げられていること。そのスタンダードに満たしていなければ、学園においては異端児扱いされてしまうのだろう。
だがそれだけではないだろうな、と俺は授業中のやり取りを思い返しながらと考える。
『え、と球技が好きです。将来は、プロになります』
先のやり取りの中で、球技のプロになることは既定路線かのような受け答えが存在していた。これはつまり、将来設計自体はできている生徒も学園では異端児枠に収まることを意味している。
(将来設計ができていない、もしくは将来設計自体はできているが、それに対して納得ができていない……そんな二種類の人間が異端児枠ということか)
球技少年も、そんなプロになるという将来に向けて真っ直ぐと進めていない。彼からはなんというか──やりたくもないことを強制させられている人間近いようなものを感じた。例えるならば、親から強制的に将来の職業を決められる子供だろうか。ジルの観察眼による推測だが、彼の運動神経は非常に高かったので、才能という意味では間違いなく、親から「将来はプロ野球選手だな!」なんて言われてもおかしくはない資質の持ち主だった。そうなると球技が好きという言葉も、どこまで信じて良いものやら。
(……この世界、まさかと思うが──)
これまでの月の世界──より正確には、月の世界の住人達の姿を思い浮かべる。
そしてある仮説に至り、俺は内心で顔を顰めた。
この仮説が真と決まった訳ではないが、仮に真だった場合は、少々歪に過ぎるな。まあこの辺は後々考えるとして。
(この学園……あるいは月の世界で訳アリに該当するのは、大きく分けて二種類の人間。しかしこの二つには、ある共通点が存在する)
故におそらく、このクラスで問題視すべきは「高校生にもなって将来を決められていないなんて終わっているね」などという部分ではなく、
(自信のなさ、だな)
彼らは将来を完全に決められていない、もしくは自分の目標として設定している将来に対して納得できてない。そしてそれ故に、将来への明確な道筋をイメージできないのだ。
まあ当然といえば当然だろう。将来を何も決めていない状態で勉学等に励めば、将来を見据えられている連中と差が生まれるのは自明の理由。見据えているのだとしても「本当はこんなことやりたくねえんだけど」なんて思考が頭にあれば似たようなもの。
例えるならば、このクラスの生徒達はゴール地点の分からないマラソンに挑んでいるのと同義なのだ。ゴール地点が分からない以上、絶対に最短ルートを通れない。また、ゴール地点がどこにあるのかを考える段階から始めるようでは最適なスタートダッシュなど切りようがなく、心と体だって一致しない。周囲との差は広がり続けて──必然、結果を見て劣等感を抱いてしまう。
(おそらく、シャロンが改善してほしいのはこの部分だ)
なんでも良いから今すぐ将来を決めろ、なんてつもりでこのクラスを作った訳ではないはずだ。
仮にそうなのだとすれば、球技少年を含む何人かはこのクラスで一緒の集団としてまとめるべきではない。
ならば納得する将来を設計しろというつもりでこのクラスを作ったのだろうか? それも多分違う。
その根拠となるのは、「災厄処理を嫌々やっている」と言って憚らないゾーイの存在である。納得した将来設計がないとダメという話なら、真っ先にゾーイをどうにかすべきだろう。おそらく究極的には、将来に納得しているかどうか自体は、
(良し)
やるべきことは決まった。
そう思考をまとめた俺が昼食を食べ終えると同時、昼休みの終了を告げるチャイムの音が鳴り響く。
「では、午後の授業を始めるとしよう」
午前中にも思っていたが、異世界でもチャイムの音は前世の大学と変わらないらしい──なんてことをぼんやりと考えながら、俺は黒板の前に立つ。
「貴様達の成績は見させてもらったぞ。常に平均点が学年最底辺を記録しているようだな」
俺がそう言うと、生徒の過半数以上が顔を下げた。俺の言葉に対する反応から、彼らが今までどういう扱いを受けてきたのかを推測し、そこも含めて俺の行動指針をアップデートしていく。
(劣等感……だけじゃないなこれは。出る杭は打たれるという状況に対する恐れ……同調圧力の類を強く意識──)
だがまあ、取り急ぎ俺がやるべきことは、特に変わらない。
「だが午前中の貴様達の顔を見るに、授業の内容を理解はできたらしい。──真に無能であれば、理解すらできんであろう内容をな」
はっとした様子で、生徒達が顔を上げた。
それに特に反応を示すことなく、俺は言葉を続ける。
「尤も、私の教師としての資質が最高峰であるが故でもあるがな? 貴様達も理解していよう。いや、貴様達だからこそとでも言うべきか。私の授業が如何に優れているか、良く分かるだろう?」
俺がすべきは、ただ一つ。
「足掻け、学生ども。今は理解できている事とて、永続するものではない。帰宅した途端に大半が忘却の彼方となるのが関の山よ。故に、欠かす事なく復習をしておけ。如何に私の授業が完璧であろうと、貴様達の能力は私とは異なる。何故理解できたのか、といった部分を輪郭としてでも記憶しろ。そうすれば、多少は見れたものになろう。真の学生としての
教師としての役割を、これまで彼らが見たどの教師よりも完璧にこなすことだ。
(同調圧力を意識しているからこそ、同調圧力の指針となっているものの中でも最高峰のものには弱い……。スクールカースト制度を意識しているキョロ充が、真の陽キャ様には平伏するしかないのと似たような理屈だ)
彼らにとって完璧な教師であればあるほど、その言葉を聞き入れやすくなる。というより、聞き入れざるを得なくなる。
故にこそ、
「愚鈍にも程がある。何故それが分からんのだ。良いか、それは──……やればできるではないか。全てを教えるつもりはない。そこから先は、自力でこなせ」
ジルのキャラ像の範囲内で、俺は生徒達と一人一人と向き合ってやろう。
「貴様は己の将来に不満があるらしいな。放課後に時間を空けておけ。面談というやつだ。この私の貴重な時間を割いてやるのだ。断るなどという選択肢があると思うなよ」
ジルは基本的に勤勉な人間は好んでいるのだから、そういった学生は罵倒しつつも見捨てないようにして心掛けてやる。
「貴様のそのザマでは、私の沽券にも関わると知れ。貴様自身はどうでも良くとも、私が有象無象に侮られるとなれば話は別よ。貴様には特別メニューというものを組んで──」
こうして能力を伸ばしつつ、自己肯定感を育んでやれば良い。
そうすれば、シャロンからの好感度も上がって──
§
「素晴らしい。まさか教師という立場で、そこに収まるとはね。しかも……そうか。そうなるのか」
とある都市で、誰かはそう笑った。
§
それは、生徒達にとってもはや劇薬に等しかった。
あらゆる教師から存在価値を否定され、保護者からも「それはおかしい」と叱責される日々。唯一見捨てないでくれた理事長はこの世界では異端者と呼ばれる人で、そんな人から庇われたところで「やっぱりおかしいのかな」と思ってしまう。
決して理事長のことは嫌いじゃないし、感謝もしている。なのにそんな風に思ってしまう自分に対する自己嫌悪は加速し、無気力に苛まれた。
──
全てに見放され、そんなことを思っていた彼らにとって、その教師は劇薬に過ぎた。
にも拘らず、彼は見捨てなかった。
その事実を受け、彼らの中であらゆるものが弾けていく。
他のクラスの生徒と合同の授業をする時も、彼の様子は変わらない。他のクラスを過剰に持ち上げることも、過剰に下げることもない。他のクラスであろうと、評価するに値すれば評価する。そこに依怙贔屓はなく、故にこそ彼らはその教師に対する信頼感を高めた。
今まで見てきたどの教師よりも『完璧な教師だ』と。
その評価は、他のクラスの生徒達どころか、教師すらも変わらなかった。
『めちゃくちゃ怖いけど……良い先生だな』
『素晴らしい授業内容……僕達も見習わなければ……』
その事実が、彼らの彼に対する認識を■格化させていく。
学校に通うのが億劫に思うという、役割を果たせない落第者であった彼らは、学校に対して輝きを見出した。
勉強に身が入らないという、時代が時代なら■■に値する■■■達が、学校に対して輝きを見出せた。
そして、そして。そして──ある女子生徒が言った。
『ジル様に踏まれた……ではなく。皆々様。あのような素晴らしいジルさ……先生に、敬意を表するべきではありませんか?』
§
「起立! 敬礼!!」
まるで軍隊のように、一矢乱れぬ統率された動き。
「ジル様! おはようございます!!」
「「「ジル様! おはようございます!!」」」
教室──どころか学園中を轟かせる、覇気を纏った挨拶。
一人の女子生徒の号令に続くよう、少年少女は腹の底から声を張り上げる。
「それでは我々クラス一同、ジル様を称える歌を、斉唱します!!」
「「「斉唱します!!」」」
「口を閉じ、そして座れ。莫迦者ども。朝礼を乗っ取る許可を与えた覚えはない」
その様子に、ジルは思う──「流石に度がいきすぎていないか」と。
二巻は大体こんな感じってのがよく分かる画像をGCノベルズさんから頂きました。
僕がこういう作品を書いてる理由が「少年漫画みたいなライトノベル。新文芸があっても良い」「野郎が活躍するラノベ新文芸が欲しい」「少年漫画によくいる少数精鋭厨二集団活躍させたい」だったので最高です。
【挿絵表示】
悪役転生系はハーレムを築くものなんてお約束知りませんって作品してるなほんと……。いや信者ハーレムしてるか……?
売れて欲しい(直球)
7章の学校部分はwebはテンポ重視で色々カットして書籍になったら膨らませるぞーの気持ちなので打ち切りになりませんように。自動面談だか三者面談だかそういうやつとかね。やりたいね。打ち切りになったら番外編投稿かな。