気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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第2章 魔術大国マギア
王の計略


 魔獣による襲撃から、一日の時が経った。

 レーグルの評判はどうやらたった一日でこの王都にまで届いているらしく、奇跡の存在であると畏敬の念を込めて呼ばれているらしい。

 朝一番に俺の部屋へとやってきたキーランが跪きながらそう言っていたので間違いないだろう。

 アイツは頭はおかしいが、嘘は吐かない。心の声を読むまでもなく、そこは信用している。

 

(……さて)

 

 よくアニメとかで金持ちの家にある細長い形状の机。その上座に俺は一人腰掛け、キーランの用意した朝食を食べる。

 

(いただきます……)

 

 内心で日本人なら使い慣れすぎた言葉を発する。

 ジルが食前の挨拶をしていたかはアニメで食事の描写なんてなかったので知らないが、まあ、多分使わないだろう。ならば俺も当然、使う訳にはいかない。

 

 この肉体は第一部のラスボスのもの。自らが世界全ての王となる事で、神の根絶を目論んでいたジルという男が、食事の前には手を合わせて「いただきます」なんてキャラ崩壊も良いところだ。

 

 まあギャップ萌えは狙えるかもしれないな。狙ってどうする。

 

(こういう細かなところにも気を使って演技に徹しないといけないのが、キャラクターへの憑依のつらいところだ)

 

 気を抜けば間違いなく、前世の俺の素が出てきてしまう。その違和感からジルという存在を怪しまれ、虚像が砕けてしまえば全てが終わりだ。

 だからこそ、神経を使う必要がある。

 

(今日も美味そうだ)

 

 パン、肉料理、サラダ、卵料理、スープ、紅茶、デザート。

 俺の舌を飽きさせないように所々変化したりはするが、大体朝食はこんな具合だ。

 ちょっとだけ贅沢な朝食といったところか。旅行先のホテルで取る特別な朝食の気分を得られるので、割と気に入っていたりする。

 

(あーベーコン美味い。サラダのドレッシングは新作か。スープはコーンスープに近い味な気がするな。パンもサクサクしててスープと合うし……キーランは俺の頭を悩ませるが、何故……何故こうも有能な部分は有能なんだ……お前が食事を作ってる光景を見た時は、マジでビビったぞ。これで狂信者じゃなければ……狂信者じゃなければ……)

 

 非常にシュールな光景だった。

 なにせ「空腹はどうやって(しの)げばいいんだ」とか思いながら冷蔵庫を求めて厨房らしき場所に行けば、キーランが流れるような手先で料理を作っていたのだ。

 

 ジル専属料理人キーラン。得意料理は「ジル様のお望みになるもの全て」とのこと。

 若干悪戯心が湧いたので、試しとばかりに「寿司」と言ってみた。

 

 了承を受けた。

 暫く待った。

 寿司が出てきた。

 美味かった。

 異世界ってなんだっけ。

 

(もう料理だけ作ってりゃ良いんじゃないかな)

 

 そんな感じで朝食を取りつつ。

 

(さて……あの少女について、そろそろ考えないといけないな)

 

 魔王の眷属を焼き殺した後に現れ、氷の魔女の一番弟子を名乗った少女。

 その少女の事を、俺は知っている。

 原作においてジルが率いる第一部最凶組織───『レーグル』の一員たる天才術師。

 名を、ステラという。

 

(まさかあんな所で出会うとはな……)

 

 原作にはいたが現在手元にいない『レーグル』の面々をどうやって手元に置くかは、俺の頭を悩ませる問題の一つだったが……偶然出会うなんて事になるとは思わなかった。

 

(……ではどうやって、こちら側に引き込むかね)

 

 氷の魔女の一番弟子という立場から推測出来るように、彼女は魔術大国出身の人間だ。

 この時点でステラの頭がおかしいのは火を見るより明らかであり、そんな彼女を引き入れるという事は即ちキーランに並ぶ悩みの種を生み出す結果を生み出す事と同義である。

 

 自殺願望者かと。お前は何を考えているのかと。ヘクターを呼べと。キーランと別ベクトルで頭のおかしい人間を増やしてどうするのかと。

 そんな感じの天の声が複数聞こえてきた気がしたが、俺は無視した。

 

(引き込まなくて良いなら、俺だって好き好んで引き込みはしないが)

 

 俺の胃痛の原因になるであろう少女なんて、可能であるならば受取拒否を選択してお帰り願いたい気持ちはあるが……腹立たしい事に非常に有能な存在なので、俺としてはデメリットを多少無視してでも引き入れておきたい。

 

「ジル様、紅茶のお代わりをお持ちしました」

「いただこう」

 

 まず第一に、彼女は稀少な氷属性の魔術の使い手である。

 

 氷属性は特殊な属性であり、おそらくこの世界で使い手は『氷の魔女』とステラのみ。

 脳内を探ってみても氷属性の魔術に該当する情報は無かったし、書斎を漁ってもみたがそこにも無かった。

 

 まあ水みたいなもんやろと思いながら魔力の性質を変えてみたりもしたが、結局発動しなかったというのが現実である。

 

(生まれ持った魔力の性質が関係する訳ではないなら、何かしら理論があるのだろうが……)

 

 まあ、その辺は本人達に直接尋ねれば大丈夫だろう。

 そんな感じで氷属性という稀少な術を扱えるという点でも彼女は優秀だし、まだ十代という事もあって成長性は大きいと考えている。

 何かしらきっかけでも与えてやれば、覚醒とかしてインフレに追い付く可能性だってあるんじゃないだろうか。

 

(……まあ、氷属性の魔術なんざ俺にとっては副産物に過ぎんが)

 

 俺がステラを欲する真の理由。

 それは、ステラの発現する『加護』の能力を是が非でも手元に置いておきたいからである。

 

 なんと彼女、数多の異能力系ファンタジー作品において最強格に位置する『時間操作能力』を発現するのだ。

 そんな稀少かつ強力な存在を、みすみす見逃すなんてあり得り得ない。

 

「ジル様、ケーキでございます」

「いただこう」

 

 まあ時間操作能力、といっても世界の時を止めたりする程チートじみている訳ではない。

 彼女に出来るのは、自身の時間の操作。

 体内時間を操作して倍速で移動するだとか、腕が取れたから自身の肉体の時間を逆行させて腕を元に戻すだとか、そういった能力である。なお逆行させられるのは三日まで。

 

 逆に成長なんて真似を出来るのかは知らないが、逆行と同じで三日しか変化しないのなら大してスペックも変わらないだろうし、大人の姿になって無双とかは不可能だろう。

 

(まあ自身の時間の操作しか出来ないのなら、正直いらないんだが……)

 

 彼女の最も優れている点は、魔術と組み合わせて『加護』を扱える天才という点だ。

 本来なら自身にしか適用されない『加護』の能力を、あろう事か魔術と組み合わせる事で他人にも効果を及ぼせるよう改造しやがったのである。

 

 漫画とかでよくある「私は氷属性だから時間を凍結させました。これが時間停止だ」を『加護』を用いる事で可能にしたのがステラという少女だ。

 俺がそんな彼女に求めるのは唯一つ。神々と戦争を行う際に支援役に徹してもらう事だ。神々相手に『加護』がどこまで通用するのかは知らないが、一瞬の差が明暗を分けるというのはよくある話。

 

 神々の時間を一瞬でも停止させる事が出来るなら、それだけもで大きな切り札となる。

 

(まあ、仮に通用しないならその時はその時だ。手札は多ければ多い方がいいというだけの話だし。やれる事は全部やって挑むのが俺の主義だからな……)

 

 RPGをやる時は、魔王に挑む前にレベルを上げまくるのが俺のスタイル。特に生死を分ける場面である以上、出来る事は全てやっておくべきだろう。

 

(問題は、どうやって彼女を引き入れるかだ)

 

 手元に置くと決めたのは良いが、ステラは人間なので市場に行っても買えるものじゃない。

 今の彼女は『氷の魔女』の弟子にして魔術大国に属する身。である以上、スカウトは慎重に進めなければ。

 

 スカウトに大事なのは、向こうの心理状況や価値観などの根底に存在するものを理解し、対象が食いつく適切な餌を提示すること。

 それを行うには相当な情報収集能力が必要だ。何故なら、そんな情報は普通に生活を送っていても得られる情報じゃないからだ。

 

 国に専用の工作員を送り込んで監視。彼女の周囲から彼女のパーソナルデータを掻き集める。その他諸々を行って得た情報を精査して初めて、策を考える段階に移る事が出来る。

 

 が、俺にそんな回りくどい真似は必要ない。

 

(……こちらには、原作知識があるからな)

 

 内心で冷笑を浮かべる。

 

 原作知識。

 

 俺がこの世界において非常に大きいアドバンテージを得る事が出来る絶対的な代物。

 この知識の素晴らしい点は、原作に出てきた人物であればある程度パーソナルデータも叩き込まれている点だ。当然、ステラという少女のパーソナルデータもアニメで描写された範囲できちんと把握している。

 

(さて)

 

 先日の教会勢力に対して「こちらを神に連なる存在であると誤認させる事で交渉を有利に進める」という案も、この原作知識があったから生まれたもの。

 

 これと同様の事を、ステラという個人に対しても行う。

 まあ、教会勢力ほどアッサリと決めることは難しいと思うが。連中には「神々に絶対服従」という非常に分かりやすい指標があったから、アッサリと決まっただけだ。

 

 ステラという少女の根底に根ざす価値観や感情は、結構複雑だと思う。

 

 アニメにおいて、ステラは自分から故郷たる魔術大国に攻め込んで『神の力』を持ち帰ろうとしていた描写がある。

 更には『氷の魔女』相手にも苛烈な姿勢を見せ、狂気的な笑みを浮かべながら殺意の高い術式を放っていた。

 

 そこだけ見れば魔術大国。しいては『氷の魔女』が嫌いなように見える。しかし、

 

『───やっぱり、師匠は……凄いなあ』

 

 これはステラの原作における最期の独白だ。

 

 この心の声。即ち、本音から推測出来る彼女の『氷の魔女』に対する想いは、正直負の感情とは思えない。

 嫌いだから殺しに行くのは常人でも理解出来る感情だが、好きなのに殺しに行くというのは常人では理解しがたい感情だろう。

 

 だがしかし、正の感情と負の感情が両立するケースも存在するには存在する。

 

 そう、嫉妬という感情である。

 

 憧れたからこそ目指した。

 しかしその背は遠く、故に嫉妬した。

 

(相手を自身より上だと認識する正の感情があるからこそ、それに対する劣等感などの負の感情も生まれる……)

 

 そして嫉妬したからこそ挑み、越えようとした。

 典型的といえば典型的だが、ファンタジー作品なんて王道をいってナンボだろうというメタ視点的なものも加味すれば、この筋書きは正しいように思える。

 

(だが……)

 

 しかし、当然ながら疑問もある。

 というより、湧いたというべきか。

 

 先の邂逅の時の彼女の様子を見るに、どうにも嫉妬に狂うような人間には思えない。何故なら桁違いの魔力量という才能を持つ(ジル)に嫉妬するどころか、(むしろ)好意的な反応を示していたからだ。

 

(時間が経過すると共に、単純な羨望が嫉妬に変異した可能性もあるが……)

 腑に落ちない。

 実際に目で見たからこそ、察するものというものはある。

 特にジルの肉体が凄まじいスペックを有している以上、この肉体が直接的に抱いた"違和感"という感覚は無視するべきではない。

 

(……まさか)

 

 嫉妬したから敵対したのではなく、もしや───自分の理想の『氷の魔女』ではない的な解釈違いに近い何かが氷の魔女に対して起こったのか?

 

「ジル様。ケーキのお代わりなどは如何でしょうか」

「いただこう」

 

 解釈違い故の敵対……成る程、あり得る話だ。

 

 だがまあとりあえずは、アニメの描写だけで判断出来るステラという少女の人物像に対するアプローチを考えてみよう。

 勿論、後で解釈違い故の決別パターンでのアプローチ方法も考える事を前提とした上で。

 

 憧憬。羨望。嫉妬。野心。

 

 氷の魔女に対して抱いているそういった複雑な感情と、魔術大国の術師特有の価値観。

 これらが複雑に絡み合った結果、彼女は国を抜けてレーグルに属するに至ると仮定して───。

 

(───嫉妬───つまり──────であるからして────────ここは───)

 

 脳内でステラを手に入れる為に必要な算段を整えていく。

 必要な言葉。感情。表情。物資。利益。人員。タイミング、その他諸々を計算尽くして、余力を残しつつステラ勧誘に乗り出すにはどういった行動を取るべきか。

 

 原作通りになるなら放っておけばレーグルにやってくると考えるのは甘い。既に俺とステラが接触してしまっている以上、原作通りに事が運ぶとは言い切れない。

 そもそも、原作だってジルがステラを勧誘した形だろうし。レーグルなんて原作開始前にどうやって他国の人間が把握するんだよ。

 

(となるとやはり、確実に接触出来るこの機会を逃す理由はない)

 

 向こうは俺に対して、一緒に『氷の魔女』に師事しようと持ちかけてきた。

 そして、返事を伝える待ち合わせの場所と時間に関しても約束も結んである。確実に接触出来るこの機会を、見逃す訳にはいかない。

 

(……そもそも、自然と入れる機会が舞い込んできたのに入らないなんてのはあり得ないからな。魔術大国に関しては)

 

 何せあそこにあるのは、ステラという少女だけではないのだから。

 

(魔術大国に眠る禁術───天の術式。なんとしてでも、手に入れてやろう)

 

 確実に在りかを把握している神代の魔術。

 それらを手に入れないなんて選択肢は、俺の中に存在しない。

 

(ステラと、天の術式を手に入れる。その為にステラという少女をこの目で直に見る事で事前情報(原作知識)との乖離具合を完全に測り……そして、掌握する)

 

 今の俺は、相当に酷薄な笑みを浮かべていることだろう。

 だが、知ったことじゃない。俺は自分の運命を変える為、あらゆるものを使う。それくらいしないと、神々になんて対抗出来ないだろうから。

 

(良し!)

 

 一石二鳥を体現化したような状況に満足感を覚えながら、紅茶を口に含んだ。

 

(……ああ、そういえばそろそろ紅茶の茶葉が切れるんだったか。ヘクター辺りに買いに行かせ───)

「ジル様。紅茶の茶葉を仕入れてまいりました」

「……」

 

 ───いや、何時の間に買ってきたんだよ。

 

 いい笑顔で俺お気に入りの茶葉の入った瓶を持ち上げて「褒めて褒めて」みたいな顔をしているキーランを見て、俺は内心で心底驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───そしてあわよくば、魔術大国に眠る『神の力』もここで手中に収めてやろう。

 




・ジル
 食事の時間はキーランが静かなので普通にお気に入り。一生料理してろって思ってる。

・キーラン
 信仰

ステラ攻略編(ほんまか)はーじまーるよー
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