気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜 作:弥生零
とある国の城の大広間。そこに、大勢の人間が集められていた。
「なあ、なんで俺達は集められてるんだ?」
「知らねえよ。突然の招集だったからな」
「城に入ったの今日が初めてだぜ……」
「俺もさ。ていうか『レーグル』の方々しか入ったことないんじゃ無いか……?」
ざわざわ、と
集められた彼らは近くにいた者同士で、言葉を交わしていた。彼らの胸中は大なり小なり異なるものの、大凡一つの疑問に集約される。
すなわち、自分達は何故集められたのかという疑問。
この国は非常に閉鎖的だ。それは対外的にだけでなく、対内的にも同様に閉鎖的なのである。それは彼らの言葉からもある程度窺い知れるだろう。
彼らは国の象徴ともいえる城の内部に入った事がないし、そもそも国の『王』がどのような人物なのかも知らないのだ。
はっきり言って、異常である。そんな事で、君主制であるこの国の運営が上手くいくはずがない。
王とは民を導く柱であり、また民を支配する象徴であり、力だ。王が姿を見せる事なく民を導けるはずがなく、不信感を抱く民だって出てくるであろう。
だが、それでもこの国は成り立っていた。
その理由は単純明快。王そのものは姿を見せないが、王の"力"自体は国中の誰もが知っているからだ。
そしてその力の一端こそが先ほど一人の兵士が口にした『レーグル』という集団である。常軌を逸した戦闘力を誇る彼らは国の人々から神の血を引く存在ではないかとすら
特に、つい先日の件は記憶に新しい。魔獣の襲撃を察知した王はすぐ様辺境の町に『レーグル』を送り込み、その町を救ったというのだ。
その話を聞いた彼らは、『レーグル』に対して畏怖の念を抱いている。
だが、彼らは結局のところ自分達の『王』を知らない。
だから彼らにとって、今回城に集められたのはまさに常識を
誰も王の存在を知らず。城にすら足を踏み入れたことはない。全くのブラックボックスだったそれら。しかし、その片方は今明かされた。
この場にいる誰もが、まさかと思っていた。あり得ないと思いつつ、しかし期待を抱いていたのだ。
自分達の王の顔を見る事が出来るのではないか、と。
そして、その時は訪れる。
────。
いつのまにか、あれほどまで空間を騒がせていた
(あれ……なんで、俺は口を閉じているんだ?)
とある男はそう自問した。
分からない。分からないが、口を閉じなければならないと思い、実際こうして口を閉じている。
見れば男以外の人々も、誰も彼もが口を閉ざしていた。
そして静寂が空間を満たしたまさにその瞬間───立っていることすら困難な程の凄まじい重圧が、その場にいる全ての人間を襲った。
(な、なんだ……ッ!?)
なんだこれは、と男は感じたことの無い重圧に
これほどまでの重圧は『レーグル』の
気がつけば、男は膝を地面に突いていた。立ち上がる事はおろか、指一本動かすことすらままならない。
それでもと気を振り絞って視線だけで周囲を見渡せば、誰も彼も起立しているものはおらず、中には顔を真っ白にして泡を吹いている者までもがいた。
(何が───)
何が起きたんだ、男がそう思った時だった。
「なるほど」
青年のような声を、男は聞いた。
そして直後、先ほどまで身を襲っていた重圧が霧散する。
「許せ。こうして表に出るのは久方ぶりでな」
重圧が消えた事に安堵の息を吐き、男は顔を上げた。
そして、見た。
「加減というものが必要である事を、忘れていた」
男が見たのは『王』だった。
見た目は想像より遥かに年若い。それこそ、外見年齢は十代後半くらいに見える。しかしそれが、
神々しさすら感じさせる透き通った銀髪に、青空を連想させる
佇むその姿には何者にも侵されない絶対性が。こちらを
この御方以外が王などあり得ない。ただそこに在るだけでそう思わせる程の"
「ほう」
気がつけば
説明など不要。あの御方こそが我らの王であり、世界を統べるに相応しい御方であると、理解していた。
───絶対の忠誠を、この御方に捧げよう。
何をされるまでもなく、忠臣ならぬ信奉者へと、男は生まれ変わっていた。
「……貴様らのその様子では説明は不要であろうが、私の名前はジル。貴様らの王である」
ジル。なんと尊きお名前であろうか。
美しい声音にて紡がれるこの世界で最も尊き名となるであろう名乗りを聞いた男は、気がつけば感動のあまり涙を流していた。
「……」
いや男だけではない。王以外の全ての人間が、歓喜に打ち震え涙を流していた。彼らの
しかし、泣くのはやめなければならない。
嗚咽を漏らしていては王のお言葉に雑音が混ざってしまう。それは決して、許されることではない。
そう結論付けた男は涙を止め、表情を締め直した。
これから自分達は神の
「……いや、目的は果たした。私は貴様らの忠義を知りたかったのだ。何せ、貴様らには顔を見せたことが無かったのでな。不信感を抱かれていても不思議はないと───」
───絶対の忠誠を誓います。
男は内心で強く断言した。
本当は声をあげたかったが、しかし、王の言葉を妨げる騒音などあげてはならない。そう思ったからこそ彼は言葉ではなく、態度で、想いで王への忠義を示す。
「……では、私は戻る。今後はこうして顔を見せる機会も増えよう。加えて、国としての方針も変化していくだろう。それだけを胸にしまっておけ」
そう言ってこちらから背を向け悠然と去っていく様子が鮮明に脳裏に浮かび……男は