気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜 作:弥生零
Q.レーグルって強いの?
A.主人公達含む各国から世界を終末に導く連中と思われる程度には強い。
ジルがキーランと
「ジル様。こちらお召し物でございます」
「ジル様。お食事のご用意が」
「ジル様。朝の目覚めの到来を僭越ながら私がお告げに参りました」
「ジル様。何やら国に不法侵入をしようとしていた輩を発見いたしました。如何なさいますか?」
「ジル様」
「ジル様」
「ジル様」
───誰だこいつ。
その間。自分の前に現れてはいい笑顔でジル様ジル様連呼するキーランを見て、ジルは表向きは無表情を、内心では引きつった笑みの表情を浮かべていた。
(おかしい。どう考えても俺の知る原作のキーランではない)
原作のキーランは、言うなれば淡々と仕事をこなす職人。焦らず、慌てず、冷静に仕事をこなす。容姿の良さもあって、彼を好きになる視聴者も多かった。それこそ原作のジルも結構キーランはお気に入りのようであったし。
だからこそ、ジルは声を大にして言いたいのである。誰だこいつと。
正直、行動と言動が完全に別人である。原作のキーランはジルとは依頼人と請負人のような関係を築いていたはずだ。だというのに、このキーランの姿はなんだ。なんだその笑顔は。キャラ崩壊も甚だしい。
あまりにものキャラ崩壊ぶりに、一瞬だけ「実はこいつ憑依系オリ主とかじゃないだろうな」とすら疑ったものである。
だが、結論から言うとそれはない。
というのも、何故かジルはキーランの心が読めるのである。読みたくもないというのが本音だがしかし、便利である事は便利なのだ。少なくとも、突然背中から刺されたりする心配は必要ないのだから。
(……それに、心を読めなかったらこいつがホモであると疑っていたかもしれない)
特に目が覚めたら視界ドアップにキーランがいた時など、キャラを演じるのをやめて悲鳴をあげそうになった。
「……」
今もニッコニコでこちらを見ているキーランをチラ見しながら、ジルは内心でため息をつく。
まさか
これのせいで、残りの『レーグル』と顔を合わせるのが嫌になった。キーランのように変な事になったら、メンタルが耐えられる気がしない。
(……とはいえ、いつまでも放置はしておけないが)
レーグルは貴重な戦力であり、駒だ。
少なくとも一部において、彼らは最強格の存在だったのだ。そんな彼らを放置するなんて勿体ない事、出来るはずがない。
(原作ではジルがレーグルを各国に放ってから暫くして、列強国である五大国以外全ての国から神の力が手に入る。その辺りから本格的にレーグル編が始まるはず)
レーグル編が始まるまでの期間がどれほどなのか、ジルにはイマイチ分からない。この辺の時系列は余り詳細に明かされていないので、どうしようもないと言えるのだが。
(このまま原作が開始されたらかませ犬コースになってしまう)
それを避けるために、ジルが出来る事は何か。
鍛錬は当然こなしている。始めは不安定過ぎた力のコントロールが可能になったし、この身体で出来る事もおおよそ把握した。最初は「どこまで力を出してしまえるのか」という点に不安を抱いていて進捗が良くなかったが、今は問題ない。
だが、足りない。このような鍛錬を続けても待っているのは、ただの原作ジルの延長でしかないからだ。その程度では安心できない。
だから、ジルは本来なら有り得ない方向からの成長を欲した。原作のジルになくて、自分にあるものそれは───
(……海底都市、は無いな。あそこは俺ではどうしようもない極悪難易度都市だ。それこそ原作のジル本人でも攻略は無理だろうし。そもそもあそこは……)
───それは、知識だ。
原作のジルは知らなかったから、対処出来なかった。しかし、自分はこの後起こる事を知っている。原作のジルが知らない情報を有している。
ならばそれを利用しない手はない。
神々が過去から唐突に一方的な後出しジャンケンを仕掛けてくるのなら、こちらは未来からの情報をもって現代で先手の後出しジャンケンの手を決める。
さしあたって、自分が行うべきは。
(教会勢力。奴等と接触するか)
思い立ったが吉日である。
教会勢力と接触するため、ジルは国を発つ準備を始めた。
◆◆◆
教会勢力。
二部において新たに物語の表舞台に上がったその勢力は、はっきり言って
彼らは「レーグルが世界を終末に導く」と考え行動していた主人公達と異なり、世界の終末という予言の真の意味を把握していた。つまるところ教会はジル率いる『レーグル』が世界を終末に導く連中ではないと知っていたし、何故世界が変貌したのかも知っていた。
極端な話、彼らが幼い頃のジルを殺害なりなんなりしていれば世界は変貌せずに何事もなく、ただただ続いたであろう。
だが、彼らは何もしなかった。世界そのものが変貌するという異常事態が発生する事を知っているにもかかわらず。
何故か? それは彼らの目的がただ一つだからだ。
───神の降臨。
教会の上層部にとってそれ以外は全てどうでも良く、教会の人々もまた、神の降臨によってその後人類に恒久的な平和が訪れるのであればと何もしない。
ジルが『神の力』の封印を解いた事で時限式に発動する事が確定した世界の変貌。それは、現世が天界へと昇華する予兆なのだ。時間が経てば今ある世界は終末を迎え、神々が降臨可能である天界の環境へと変貌し、そこに神々が降臨し救済が訪れるという筋書き。
レーグルによる被害など、神々の降臨と比較すればどうでもよかったのだ。なにせ、神々が降臨すれば全て解決するのだから。
しかし、そんな教会の上層部にとって予想外だったのは『邪神』の誕生である。
ジルなどという神もどきはどうでも良かったが、曲がりなりにも本物の神である『邪神』は、彼らにとって看過できるものじゃなかったらしい。そんな明らかな異物が存在した場合、果たして世界は本当に正しく天界に変化出来るのか。万が一にでも世界が天界に変化しなければ、神々の降臨は成されない。
それまで独自の技術を用いて異なる次元にいた彼らは不安を解消すべく、不安の元凶たる『邪神』を討つため表舞台に上がる事を選び、第二部にて新勢力として台頭する流れになるのだ。
(まあその技術のせいでインフレが加速するんだが。一部だったら最強格のレーグルクラスの人間がゴロゴロ出てくるんだが)
さて、何故ジルが教会とパイプを結ぼうとするのか。答えは彼らの持つ『技術』と物語での役割に起因する。
彼らは人類が失った技術、神話の時代の叡智を有している事実に加え曲がりなりにも神である『邪神』にすら対抗する勢力なのだ。傘下に加えることが出来ずとも、同盟関係に持ち込めれば上々。
加えて、人類の全てを救うという思想を持ち合わせているわけではないのも好都合。
それは一部において一切表舞台に上がっていないことからも明白だろう。彼らにとって、最終的に神々に導かれて世界に恒久的な平和が訪れるのならその過程はどうでも良いのだ。
それこそ外の世界での立場が犯罪者の人間だろうと聖人の人間だろうと、彼らからすれば大差ないだろう。
(といっても普通に考えて、教会勢力と手を組むなんて不可能だ)
彼らは神々しか信じない。
そんな連中を相手に、交渉なんて普通は不可能だと思うだろう。
だが、どっちにしろやらなければかませ犬で死ぬ可能性が高いのだ。ならばやるしかない。
それに、ジルには見えていた。己の活路が。勝利への道しるべが。
───と。
「……」
ジルが国を出て目的地に向かってから、約五時間。
目的地に辿り着いたジルは立ち止まり、ゆっくりと
そう。何もなかった。
ジルの国の外れにある一面荒野の土地。作物は育たず、人が住む環境でもない為、有していたところでなんのメリットもない。それゆえに、どの国も所有権を主張しない。そんな何もない場所。
「……なあ」
ゆえに、立ち止まったジルの背中に同行者から困惑の声が向けられるのは必然だった。
「歩きだした方向の時点で妙だなとは思ってたが、本当にここが目的地なのか? 何もねえぞ、ここは」
「口を慎めヘクター。信仰無き貴様に、ジル様の崇高なるお考えが分かるはずもないだろう。そもそも、貴様とジル様では見ている世界が異なるのだ。貴様は黙って付き従っていれば良い」
「ああ"? テメエが口を慎めよクソ雑魚が。俺に指図するんじゃねえ」
「……」
───一人で来ればよかった。
そう後悔し天を仰ぐも、そこには澄み渡る青空しかない。どうしてこうなったんだろうかと、ジルは少し前の出来事を振り返る。
元々、ジルは一人で教会勢力と顔を合わせるつもりだった。仮にも王である自分が国を離れるので、一応直属の配下である『レーグル』の面々に一報だけして。
すると、未知の勢力と接触するという言葉に一人の青年が反応を示した。
青年の名はヘクター。ジルが率いる『レーグル』の一角にして、白兵戦であればレーグル最強の戦闘狂。
戦いに行くわけではないと言ったが、それでも気になるらしい。強者を求めて国を抜けた男だしそういうこともあるのだろうかと納得したジルは暴れない事を条件にそれを承諾、ヘクターと共に教会に向かおうとしたのだが。
『お待ち下さい。であれば私も同行させていただきたい』
ジルは悩んだ。
ヘクターなら教会勢力相手に万が一直接的な戦闘になっても生存可能だろうが、キーランは加護の特性的に正直微妙なラインだからである。
とはいえ、彼の忠誠心を見てるとこれを断って万が一恨まれたりしたらとても怖い。深い愛情が深い憎しみに変わることほど怖いものはない。不相応な力を持っただけで、小心者でしかないジルはビビってキーランの言葉を承諾した。それがいけなかった。
『貴様には信仰心が無い』
『……は?』
顔を合わせた直後のキーランとヘクターの会話がこれである。
突如そのような事を口走ったキーランに対して、当然ヘクターは困惑。こいつ何を言っているんだ? という視線をジルに向けた。
『……』
だが、当然ながらジルもキーランの言っている事は全く理解出来ない。
正直なところ信仰心ってなんだよ、以外の言葉が無いのである。とはいえそれを言ったところでどうなるのか。キーランがどう行動するのか、全く読めない。よって、ジルの選んだ選択は沈黙である。逃げたとも言う。
『見ろ。ジル様も貴様の信仰心の無さを嘆いておられる』
『いや、俺にはボスもお前の言葉が意味わかんねえから沈黙してるようにしか見えねえんだが?』
ヘクターの言葉はまさしく的を射ていた。
思わずジルが一度頷いてしまうほどに、ヘクターは正しく真実を射抜いていたのだ。
だが、信仰心が頂点に達しているキーランは聞く耳を持たない。
『見ろ。ジル様も私の言葉に頷いていらっしゃる』
『いや、どう考えても俺の言葉に頷いてただろ』
『口を慎めヘクター。貴様はジル様のなんだ? 言ってみろ。貴様ごときがジル様の思考を推し量り、代弁するなどおこがましいと思わんか?』
『いや、それそっくりそのままテメエに突き刺さるんじゃねえか?』
『口を慎めヘクター。私はジル様に信仰を捧げ、またジル様も私の信仰をお受けになられている。貴様とは違い私はジル様の代弁者としての権利を授かっているのだ』
『そんなことはない、と言いたげな顔をしているが?』
『口を慎めヘクター。貴様ごときがジル様の思考を推し量ろうなど、不敬にも程がある』
『テメエのそれは構文か何かか?』
そんな会話が道中に何度も起きたのだ。
基本的に、ヘクターは戦闘狂な面以外まともな感性を持つ人間だった。それこそ、同僚相手であってもいきなり仕掛けたりしない程度には。
しかし、どんな人間でも流石に許容量というものが存在する。
ジルをしてキーランの言動は度が過ぎていると思ったのだ。ヘクターの内心は言うまでもない。
「大体な、信仰ってなんだよテメエ。テメエは無神論者だったろうが」
「何を言う。神はここにいらっしゃる。ジル様こそが神だ。神を知った以上、その神に信仰を捧げるのは当然の理」
「……イカれてやがる」
「イカれているのは貴様だヘクター。今すぐにでも矯正してやりたいところだ」
「ハッ! 吠えたな! いいぜ、ボスもお前には辟易してるだろうしよ! 帰ったら殺してやる!」
「ふん。信仰なき貴様の刃が、私に届くことはない」
二人の仲は最悪だった。
このまま放置していれば、殺し合いに発展しそうなほどに。
───ゆえにジルは己の『固有能力』を発動し、その身に取り込んだ『神の力』を解放することで、二人の注意を強制的にこちらに向けさせた。
「……っ!」
「おお! 神!」
ヘクターがこちらを注視し、キーランが変態と化す一歩手前に来ている。
後者を全力で無視して、ジルは続いての工程に移った。
(教会勢力は、神話の技術を用いて自らの拠点を別次元に移している)
それは、失われた神代の技。失われたがゆえに、干渉する事が出来ない。それ故に本来であれば、現代人の方から教会勢力に接触するなど不可能なのだ。
(けど、この肉体は例外だ)
ジルの持つ固有能力。それは、神によって与えられた神ならば誰であろうと有している力──だが、それでも神の権能であることに違いはない。
ジルが取り込んだ『神の力』の一部は文字通り神の力の一部──だが、それでも神の力には変わりはない。
(固有能力だけじゃ神威が足りない。神の力の一端だけじゃ神格が足りない。これら二つを同時に発動することで、本来目視することすら不可能な境界線を無理やり現実に実体化させる)
神話の技術。
確かにそれは、現代のそれとは一線を画すものなのだろう。だがそれに、同じく神話の時代の力である『神の力』そのものが干渉できない道理はない。本来なら適切な手順を踏む必要があるそれを、神は強引にこじ開ける。
(さあ、こい!)
突如、空間に現れた歪な線。それこそが現実と別次元を隔てる空間の境界であり、教会勢力の拠点への入り口なのだ。
キーランとヘクターにも見えるのだろう。二人の纏う空気の変化が、ジルにもはっきりと伝わった。
(実体化さえさせてしまえばこちらのものだ)
ジルが境界線へと足を踏み出すと、ジルの体が境界線へと沈んでいく。
(さあ、では対面と行こうか教会勢力)
いやあまさか一週間過ぎてしまうとは思いませんでしたねえ。その間何やってたんだ言われると踊ってみた投稿してました。どういうことなのかは自分にもよく分かりません。