気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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・教会の方々
 神を嬉々として語り「そんなんいるわけねえじゃんw」と返されたら殺しちゃう。「へえ(興味なさげ)」と返されても殺しちゃう。世界平和を目指してるとはなんだったのかみたいな感じだが、神々が全てにおいて最優先なので彼らの中では矛盾しない。キーランは服を脱ぎながら「これが神の威光に直接触れるということだ……この神秘を、お前もいずれ分かる時が来よう」みたいなこと言ってくれる。どう見えるかだ。

・ローランド
 キーランとの模擬戦で実力が上昇してなかったら(ソルフィアが出陣しちゃってジルのメンタルやその他諸々が)やばかった。

・スフラメル
 三百万人くらいいたけど、ソフィアの『豊穣神の涙』の一撃で五分の一以上が死んだ。

・神の力
「囚われの姫、守られるだけのヒロインだなんて言わせない!」



決戦『神の力』 前編

「yr」

 

 天を泳いでいた黒い両翼が、俺を叩き落とさんと横薙ぎに振るわれる。周囲に漂っていた『神の力』や『闇』の残滓(ざんし)を滅しつつ放たれた一撃。残像を残しながら襲いくるそれを横目に睨み、俺は不遜に鼻を鳴らした。

 

「……愚か」

 

 空中を蹴って、後方に飛ぶ。

 俺という獲物を逃したことで空を切った両翼の行く末を眺めることなく、俺は『何か』に向かって突貫した。

 

(なにやら変異したようだが……奴の起源となっているのは『神の力』。ならば俺が直接触れてこれまでのように取り込んでやれば、それで終了だ)

 

 姿形が変わった──というか変わりすぎた『神の力』だが、それでも『神の力』であることに違いない。つまり俺に取り込めないなどという道理は存在しないのだ。

 俺の目的はあくまでも『神の力』の確保。物語の主人公のように華々(はなばな)しく突如現れた謎の存在を倒して大活躍! なんてムーブをする理由は全くない。

 

 拍子抜けするくらいの展開で、ちょうどいい。

 

(獲った!)

 

 俺の速度に反応できていないであろう『何か』に対して、右手を伸ばす。先ほどまでと同様、『何か』は俺がいた空を見上げている。それはつまり、俺の移動速度に『何か』の動体視力が追いついていないということ。

 

 空洞のくせにどうやって目の役割を果たしているのかは分からないが、顔らしき部分の動作的に視覚は存在していると考えて構わな──

 

「それは伝道師殿のものだ」

 

 刹那、闇の壁が俺と『何か』を隔てるかのように隆起する。闇は俺が触れて力を込めた途端に消失したが、それでも数瞬の時を要してしまった。

 グルン、と『何か』の顔が俺に向けられる。全体的に無機質だというのに、生物じみた動作。不気味の谷現象が如き悪寒を抱いた俺は内心で顔を(しか)め、『何か』の胴体から噴出した黒い泥を回避する。

 

 だが流体故か、回避に失敗して僅かばかり手に触れてしまった。

 

「!」

 

 直後、焼け(ただ)れるような痛みを感じた俺は、即座に天の術式──『美神の御体』を起動する。これは、肉体を美しく保つことを目的として開発された術式だ。起動し続ければ永遠に肉体の若さを保つことができるし、年老いてから起動すれば全盛期の肌を取り戻すことだってできる。

 

 そしてこれを戦闘に利用すると、どれだけ肉体が損傷していようと元の状態に戻すことが可能という代物に早変わり。

 流石に首を落とされたり心臓を貫かれれば死ぬし、神々由来の攻撃には効果が薄いのだが。また、体力が戻るというわけでもない。あくまでも、肉体面での回復力だ。

 

(ちっ、遅いな)

 

 以前自ら片腕を切断して効果を試した時は、一瞬という表現ですら生ぬるい速度で再生したんだがな。今回は手が若干焼き爛れただけなのに、再生に二秒もの時間がかかっている。

 神もどきという表現が相応しそうな『何か』ですらこれだと──本物の神々との戦闘時に、この『天の術式』は気休め程度にしかならないか。

 

(……いやだがこいつの攻撃は、純粋な『神の力』とはまた違うような)

 

 低リスクで仮想目標対策への検証結果を得たと思ったが、しかしそこでふと疑問が生じた。奴の攻撃を直接受けたことでなんとなく察したのだが、俺の知る『神の力』とは何か毛色が違う気がする。

 

 まあ、それはそれとして。

 

「……スフラメルと言ったか。貴様の先の不敬、万死に値すると知るが良い」

「不敬? 僕が仰ぎ見るのは伝道師殿だけだ。キミに対しては敬意なんて、元からカケラも抱いていないよ」

「言い残すことはそれで良いらしい。……では死ね」

 

 スフラメルの眼前に移動し、手刀を振り下ろす。確実にスフラメルを縦から割る筈だった一撃に、しかし目の前に第三者が入り込んできた。

 

「で、伝道師殿!?」

「貴様……」

「スフラメルは俺様が唯一、駒ではなく部下として認識している。その部下の盾となるくらい、絶対的な上司ならして当然だろうさ」

「そうか。ならばまとめて、地獄に送ってやろう」

「断るよ『神の雛』。それにお前の突破口を、俺様は完全に理解した」

 

 口角を吊り上げるエーヴィヒ。訝しむ俺に対して、彼は言葉を続ける。

 

「神々の力であれば、お前を殺す牙になるらしい。ならば尚更のことアレは、俺様のものだ」

「アレの所有権は私に存在する。貴様風情がアレを手にするなど、この私が許すと思うな」

「許す許さない問題じゃあない。俺様がそうしたいと思った、それだけで理由としては十分だ。……それと」

 

 直後、横から振るわれた巨大な血槍が俺の胴体を吹き飛ばす。肉体にダメージはないが、『何か』との距離は大きく離されてしまった。

 

「お前自身にダメージを与えることは不可能だが、それでも肉体そのものに働く力の動き自体は防げないようだな。お前を移動させること自体は、今の俺様でも不可能じゃないらしい。嫌がらせ程度ならば、お前にも効果はあるんだよ」

 

 苛立ちから舌を打つ俺を横目に、エーヴィヒは(わら)う。嗤って、奴は『何か』の全身を血槍で串刺しにした。『何か』は地面に縫い付けられ、その動きを封じられる。

 

「さて取り込むとしようか。不純物の割合が高くなったようだが、まあそこまで支障はあるまい」

 

 ゴボッ、と音を立ててエーヴィヒの胴体に穴が空いた。深淵のようなそれに内心で目を細めながら、俺はエーヴィヒを阻止すべく『神の力』を放出して、

 

「さあ、これで俺様も絶対へと至ってやるぞ……喝采しろ」

 

 僅かに間に合わず、『何か』がエーヴィヒの肉体に飲み込まれる。

 

 ──次の瞬間、エーヴィヒの存在としての格が上昇した。

 俺から放たれた『神の力』はエーヴィヒの全身から放出される『闇』と『血』と黒い泥が混ざり合った凄絶なオーラに弾き飛ばされ、余波で世界が悲鳴をあげる。

 

「く、くくく……ふは、ふははははは! ははははははは────ッッッ!」

 

 不自然な勢い、一瞬ずつ不気味な形に変化しながら格が上昇していくエーヴィヒの肉体。

 

「感じる、感じるぞ! そうか、これが! これがお前たちが使っていた力か! なるほど、なるほどなあ!!」

 

 勝利を確信したかのような笑みを浮かべながら、彼は世界に己の存在を知らしめるかのように両の手を広げる。

 

「ははははは! 俺様の、俺様の勝……利イ……?」

 

 自らの変質に哄笑していたエーヴィヒだが、しかしそれは突如止まった。完全に停止したエーヴィヒに対してスフラメルが困惑し始め、エーヴィヒに声をかける。

 そんな部下に対して、エーヴィヒは無言。渦巻いていたエネルギーも完全に収まり、嵐の前夜のような静寂が空間を包み込んでいく。

 

 そんな光景を、俺は冷めた目で見ていた。

 

「……ふん。人類最強という例外が存在していた以上、貴様も何らかの策は有していたと考えていたのだがな」

 

 俺の言葉に弾き飛ばされたように、エーヴィヒがこちらに顔を向けてきた。その顔は青白く、病人のように体はふらついている。間違いなくこれは、神の力を取り込んだことによる副作用のようなもの。

 

 本来、『神の力』を取り込めるのは権能を有しているジルだけ。人類最強が何故か『神の力』を扱っていたのでこいつもそうなのかと警戒していたが……どうやら、そこまでの情報は持っていなかったらしい。

 

 あのエーヴィヒの力の取り込み方は異質だったが、本当にそれだけ。自らの弱点でもある力を取り込む以上、最低限の処置は施そうとした結果なのだろうが──やはり、人類最強が例外なだけなのか。

 どこか冷めた視線になっている俺を見て、自らの失態を気づいたのだろう。エーヴィヒはゆっくりと、その口を開いていた。

 

「……なんだ、『神の雛』……な、にを知っている……」

「言ったであろう、それの所有権は私にあると。──貴様程度が、それに触れるなど笑止千万。ましてや取り込もうものならば、貴様が死するのは当然の理屈よ」

「……お前だけにこの力の所有権がある、だと? ふざけるなよ。お前は神々ではない。なにより、人類最強とやらもこの力を扱っていた。ならばお前と真逆の方向ではあるものの同じ領域に立つ、俺様に不可能な訳がない。莫迦なことをををををををををををををををををををををををををををををををををををををををを」

 

 壊れたレコードのように、震えながら同じ言葉を口にし続けるエーヴィヒ。その明らかな異常性に身を案じたスフラメルがエーヴィヒの元へと走り、そして。

 

「yr」

 

 エーヴィヒの肉体が爆散し、中から無傷の『何か』が飛び出してきた。そのまま『何か』は近くにいたスフラメルを両翼で貫き、その肉体を溶かしていく。

 

「で、伝道師ぉあがぼぐぎィくずぉえぼ」

 

 そして、スフラメルという男は消失した。心臓の鼓動のような音を周囲に響かせながら、『何か』の両翼が脈を打つ。

 ……まさか、スフラメルを取り込んだのか?

 

「yr」

「────ッッッ!」

 

 どこか満足げな雰囲気を漂わせる『何か』。

 その背後にて伏していたエーヴィヒが、頭部以外はほぼ再生し終えた状態で不自然な挙動で起立する。彼は血を纏った拳を振り上げ、しかしそれは上空から降り注いだ黒い羽に防がれた。そのまま全身に纏わりついていく羽を振りほどこうとするエーヴィヒだが──不可能。

 

「────!!」

 

 空間が震えたかと思うとエーヴィヒを中心に闇の柱が顕現し、天を貫く。されどそれを抑え込むかのように、周囲を舞う黒い羽が次々とエーヴィヒに飛びついていった。

 

 徐々に全身を覆っていく黒い羽と、エーヴィヒの全身から溢れ出す埒外の『闇』。(おぞ)ましさすら感じさせる不気味な攻防は、黒い羽に軍配が上がった。

 それでも羽の隙間から溢れ出す『闇』の暴威は黒い羽と『何か』以外の全てを破壊していくが、しかし肝心の『何か』自体は涼風のように受け流していた。

 

「yr」

 

 黒い泥が、エーヴィヒの足元からマグマのような音を立てて溢れ出す。それは僅かに動こうとしていたエーヴィヒの足を完全に固定して、そのままエーヴィヒの肉体が沈んでいく。

 

「yr」

 

 エーヴィヒから感じ取れる力が減衰していくとともに、『何か』から放たれる圧力は上昇していた。

 『何か』を中心に空間が歪み始め、重力がおかしくなったのか亀裂の走った硝子の破片が宙に浮いていく。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、それが貴様の攻撃手段か」

 

 俺の蹴りが炸裂し、『何か』の顔面が大きく歪んだ。それでも吹き飛びはしない『何か』に感心しながら、俺は(かかと)から『神の力』を放出する。推進力で勢いが増した蹴りにとうとう耐えきれなくなったのか、『何か』の体は大きく吹き飛んだ。

 

「この私が、このまま悠長に眺め続けるとでも思ったか? あるいは──そのような知能は存在しないか」

 

 黄金の光がエーヴィヒごと、黒い羽と泥を消し飛ばす。煙が晴れて現れた動かないエーヴィヒを暫く眺めていた俺は、再び『何か』へと視線を移した。

 

 奴の背にある黒い翼は、どうやら力を吸収する効果があるらしい。そしてそれは、突然降ってくる羽も同様。黒い泥に関してはよく分からないが、俺に対しては焼き爛れる効果が、エーヴィヒに対してはまた別の効果が働いていたように見える。

 

(攻撃手段は翼と泥……奴の体を構成していそうな霧もそうかもしれんな。それにしても)

 

 俺が触れてさえしまえば取り込めると思ったが、そう単純な話でもないらしい。蹴りを叩き込むと同時にいつも通り力を取り込もうとしたが、よく分からないものに弾かれた。そのよく分からないものを、まずは取り除く必要がありそうである。

 

 しかし、色々と情報を集めるためとはいえ。

 

(……少し、放置しすぎたか)

 

 黒い翼に、先ほどまではなかった銀河のような紋様が走っている。加えて二翼だった翼は、四翼にまで増えていた。空洞だった目の部分は金色に光り始め、身長も少し高くなり小学生くらいだったそれは今や中学生に近い。

 

 そして何よりも存在感だけなら……熾天にも匹敵する。ただ知能や技術面は熾天に劣るだろうから、総合的に考えると熾天よりも弱いだろう。

 とはいえ先ほどまではある程度ゆとりがあったが──今の『何か』には間違いなく、決死の覚悟が必要だ。

 

「eoh」

「……意味はよく分からんが、使う言葉も増えたか?」

「yr」

「戻ったな」

「mann」

「お前は何を言っているんだ」

 

 あるいはこれは、奴なりの会話なのだろうか。いや、なんか違う気がする。なんとなくだが、独り言のような。

 ──独り言?

 

「othel」

 

 直後、四翼の黒い翼が俺を囲うように流動的な軌道で襲いくる。常人ならざるジルの視力でも、ギリギリ追える程度の速度──回避は間に合わない。

 

「チッ」

 

 力を吸収してくるこれに、触れるという選択肢はない。だがスフラメルのようにエーヴィヒを取り込めていなかった以上、一度に取り込める力には限度があると推測できる。

 

 ならばと俺は『光神の盾』を四方を囲うように展開し、それで防ぐと同時に上空に身を踊らせた。

 

(……っ、吸収されるせいで普段よりも『神の力』を消費させられるな)

 

 力を無駄遣いするわけにはいかないので、『光神の盾』を引っ込める。すると黒い翼は狙いを俺に定めて、再び襲いかかってきた。

 

 エーヴィヒやスフラメルの『闇』の力だけを吸収するのではないかという希望的観測を若干ながら抱いていたが、どうやらアレは『神の力』もお構いなしに吸収してくるらしい。いやスフラメルの肉体自体も消失していたことから下手をすれば、物質も普通に吸収してくるのか。

 

(悪食がすぎるだろ……ていうか)

 

 なんでもかんでも吸収してくるという特性は、原作においてジルをぶっ殺した邪神のなんでもかんでも分解してくる特性に酷似しているような。

 

 ……。

 …………。

 ………………逃げるか?

 

(いやいやいやいや成長という性質がある以上、逃げるのは悪手! 頑張れ俺! ここで逃げたらこいつが変な感じに成長して邪神と同じような感じになって多分俺は死ぬぞ!!)

 

 こいつが邪神に酷似しているなら、ジルとの相性は──ああそうか、だからこいつ一番近くにいたスフラメルを無視して俺に狙いを定めていたのか。となると、あの考察は真実だった可能性が高いということか。

 そして俺を取り込む邪魔をしてきたスフラメルと、そのスフラメルと同じ性質を持っていたエーヴィヒを先に片付けたと。成る程。

 

 となると本能を主体で行動していたのが、ある程度知性も手にし始めていると考えるべき。

 あらゆる面で完成すれば……新たな神として君臨しかねないということ。なんとしてでも、ここで止める必要がある。

 

(奴を覆っている外殻(がいかく)を破壊して、取り込める段階に持っていければ良いが……)

 

 翼の速度が速い。速すぎる。俺では、回避に集中するのが限界。奴に近づくことが難しいし、近づけたとしても外殻への対処をする時間がない。対処をしている間に、翼に捕まれば終わりだろう。

 

 そして翼である以上、『何か』とて飛行自体は可能かもしれない。色々と学習して飛行する前に、決着を付ける必要がある。

 

 だが──回避で手一杯だ。

 

(……ならば吹き飛べ!)

 

 天の術式、迅雷滅爪。

 あらゆるものを粉砕する雷の爪が雷速で射出され、『何か』に飛んでいく。

 

「wynn」

 

 それを、『何か』は軽々と四つの翼を束ねて全身を覆うことで防ぎきる……というより、吸収した。

 

 とはいえ。

 

(……チッ)

 

 本気で厄介極まりない。分解してくる邪神よりはマシと考えれば、ある意味邪神戦前の訓練だが。

 

「yr」

 

 再び襲いかかってくる黒い翼。

 俺一人では限界があるか、と歯噛みしながら、それを回避しようとして──

 

「よっ」

 

 軽い声と共に、轟音が響いた。

 それは大地を振動させて、大地の上に立っていた『何か』が転倒する。それに伴って翼の軌道が逸れて、翼は大地に叩きつけられた。

 

「はあっ!」

 

 焔の矢が驟雨のごとく降り注ぐ。

 それは的確に『何か』の肉体を貫き、翼以外の部分が大地に縫い付けられた。

 

「peorth……」

 

 うめき声をあげる『何か』。黒い泥が湧き出て、焔の矢が呑み込まれていく。

 それを眺めながら。

 

「ご無事ですか、ジル様!」

「大丈夫か……じゃなくて大丈夫ですか、オウサマ」

 

 それを眺めながら、俺は声のした方へと下降する。そこにはこちらを案じる表情を浮かべた──内心では『何か』に対する殺気の篭った怨嗟の叫びがすごい──ソフィアと、相変わらずなにを考えているのかよく分からないローランドの姿が。

 

「……大義である。して貴様ら、状況は理解できるか。それとローランド、特例だ。此度は慣れぬ敬語を使う必要はない。情報の伝達を最優先としろ」

「なんとなく、ですが……。ジル様……あれは、変質した『神の力』でしょうか」

「状況そのものはなんとなく。アレに関してはよく分からんが、やばいことだけは分かるぞ。俺じゃ、直接は勝てないな。攻撃を当てることも無理だろう。ていうか、アレは倒せるものなのか」

「……分かりません。おそらくですが、アレに生死という概念は存在しません。殺せる殺せない以前に、そもそも生きているのかが怪しい。生命体というよりは、事象……そこに知能や本能が芽生えただけのような……」

 

 二人の言葉を聞きつつ、俺はゆっくりと起き上がり始めた『何か』を睨む。睨んで、二人に向かって言葉を言い放った。

 

「アレを倒す手立て自体は思いついている。だが、それに届かせることが困難極まりない。本来の私であれば可能だが──」

「ええ存じています、ジル様。我々教会が不甲斐ないばかりに、御身に不自由を強いる環境になってしまい……」

「良い、ソフィア。今考えるべきは、アレへの対処法よ」

 

 俺とソフィアの会話に訝しむような視線を送ってきたローランドだったが、しかしすぐにその視線を『何か』へと移した。

 

「あの両翼の速度は、はっきりいって捉え難い。だがソフィア──熾天最速の貴様なら、問題あるまい」

「──はっ。御身のご期待に、答えてみせます」

「ローランド。貴様は先ほどのように、適時震脚にて大地を揺るがせ。だが、無理は必要ない。危険を感じたら去れ」

「……まるで俺の性格を知っているような采配だな。正直、底知れない。でもまあ、やるよオウサマ」

 

 よし、と頷いて俺は『何か』を見据える。ソフィアとローランドのサポートがあれば、アレに触れることができるだろう。

 勝つにしろ負けるにしろ勝負は──一瞬だ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……」

「どしたの、キーランくん」

 

 不意に、顔を上げるキーラン。

 そんな彼を見て、何かあったのかとステラが横から声をかけた。

 

「……だ」

「うん?」

「神を騙る不届き者だ」

「……え? ジル少年の偽物かなにかがいるの? えっと、どこに……?」

「視界ではない。肌で感じ取るのだ」

「え、ええっと……」

「お前は、服を脱ぐ信仰を行なったことはあるか?」

「ないよ!? あるわけないじゃん!?」

「……なるほどな」

「あ、怒りはしないんだね」

「話を戻すぞ。服を脱いでいれば、オレの言いたいことは自ずと理解できるのだ」

 

 こいつはなにを言っているのだろうかと、ステラは本気で思った。

 

「オレは理解している。ジル様の偽物が湧いたと」

「え、ええっと……」

「服を脱いで、確かめなければならない」

「な、なにを!? なにを服を脱いで確かめるの!? それで何がわかるの!?」

「オレは行かなければならない。この場は任せたぞ」

「え、ああうん。まあそもそもこれ、キーランくんの仕事じゃないからね」

「ああ。より優先度が高い場所に、オレは行く」

「え、あっ、うん。いってらっしゃい?」

 

 影のように消えたキーランを見送りながら、ステラは思う。

 ボクにはキーランのことがまるで理解できない、と。

 




主人公のピンチに真っ先に気づく…やはりヒロイン戦争は…


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