気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜   作:弥生零

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模擬見合い

(……なんだこれは)

 

 まず始めに思ったのは、そんな単純なことだった。

 

 視線を周囲に巡らせる。

 長い机と、机を挟むような形で設置されている三人掛けのソファーが二脚。

 机の上には紅茶が注がれたティーカップと、マフィンやらケーキやらが銀色の……確か、ケーキスタンドとかいう名称のものの上に並べられている。

 

 一見すれば、茶会。

 

 アニメや漫画にて、お金持ちのお嬢様や貴公子の方々が「あらあらうふふ」や「ふっ」なんて言いながら行っている会合。

 俺には縁遠い世界と思っていたが──この肉体が王という立場に君臨する以上、成る程。そういう催しを開く、あるいは催しに招待されること自体はおかしくないのかもしれない。

 

 紅茶は好きだし、ケーキの類も好物だ。ならば俺は骨休めと言わんばかりに寛ぎ、ケーキの味に舌鼓を打ちつつ、紅茶で息を吐くべきだろう。

 俺は王であり、なにより唯我独尊を歩むジルである。目の前に並べられた馳走(ちそう)を平らげないなどあり得ないし、であれば俺は今頃ケーキをもっきゅもきゅしていて然るべしなのだ。

 

(……なんだ、これは)

 

 然るべしなのだが、俺は手を動かせずにいた。

 否、手だけではない。眼球以外の全てを停止させ、その分のエネルギーを用いて俺はジルの頭脳を遺憾なく回転させ続けているのだ。

 

 その理由は、

 

「有言実行とはこのことよ、ソフィア。ほらご覧なさい? お見合いの席を用意してみたわ」

「……」

 

 向かいの席でドヤ顔を浮かべているグレイシーと、その隣で完全に硬直しているソフィア。その硬直具合は蛇に睨まれたカエルを連想させるものであり、端的にいうと『熾天』に相応しくない。

 可愛らしい妹の姿に頰が緩みそうになるが、ソフィア、お前になにがあったのだと問い(ただ)したくて仕方がなかった。

 

「……どういう状況だ、これは」

「口を慎めヘクター。グレイシー様が用意した模擬見合いの席であることなど、自明の理だろう」

「いやだから、なんでそんな状況になったのかを俺は知りてえんだよ。意味わかんねえだろ」

「ふん。お前では理解し得ない、崇高なお考えがあってのことだ」

「お得意の解説がねえじゃねえか。正直テメェも分かってねえだろ」

「……口を慎めよヘクター」

 

 俺を挟む形で座席に座り、なにやら小声で言葉を交わすヘクターとキーラン。

 いつもはキーランが圧勝する……圧勝する? レスバトルも、今回はそうでもない。お得意の謎理論による、なぜか成立する解説はどこにいった。

 

「……なんで私たちがここにいるの、ローラン」

「王様の妹様曰く『公認カップルだから』だそうだぞ、レイラ」

「!!?」

 

 背後でイチャつき始めるバカップル。ここはいつも通りなのでどうでも良い。

 

(……まあ、こいつらが奇行に走るのはいつも通りといえば通りだから目を瞑るとしてだ。そもそもなんだ、この面子は)

 

 おかしい。

 なにがおかしいかというと、組み合わせがおかしい。

 

 妹であり主催者のグレイシーはいて当然だし、そうなるとソフィアが付いてくるのは必然に近い。ヘクターは俺の隣にいるべき存在でありなおかつグレイシーが懐いているのだから出席するだろうし、パティシエたるキーランが俺たちの様子を伺うのは至極当然といえば当然。

 

 だが、ローランドとレイラが謎すぎる。

 

(俺の腹心とも言えるステラとセオドアではなく、ローランドとレイラ……? グレイシーはどういう基準で、この面々を選出した?)

 

 しかも、ローランドとレイラは席に着いていないというオマケ付き。この国は差別がなく、更には半裸で闊歩することすら許された理想郷(ディストピア)ではなかったのか。

 何故、こんな至極どうでもいいところで差別が起きているんだ。お兄さん許しませんよ。違うそうじゃない。

 

(……考えろ。こいつらの目的はなんだ? 俺以外は訳知り顔……とまでは言わないが、俺よりは情報を有していそうだ。俺は突然、この場に呼び出されただけなんだからな)

 

 推定最重要ワード──お見合い。

 グレイシーの言葉の通りであれば、なんとこれはグレイシーが用意したお見合いの席らしい。この時点で意味が分からない。

 

 続いて、キーランが発していた「模擬見合い」なる造語。模擬ということは、正式なお見合いではないということが分かる。分かってどうなる。

 

 最後に、ローランドとレイラは公認カップルだからこの場に呼び出されたらしい。そもそも公認カップルってなんだ。この国にそんな制度を設けた記憶はないぞ。

 

 他にも彼らの様子だ。グレイシーはドヤ顔。ソフィアは硬直状態。ヘクターとキーランは困惑。ローランドは訳知り顔……いやこいつは普段と変わらんわ。レイラは顔面赤面状態……これも変わらんかもしれない。

 

(これらの情報を統合して……)

 

 膨大すぎる情報を脳内に叩き込み、俺は今一度この状況はどういう状況なのだろうかと思考を巡らせる。

 ジルという人間が持つ、人類最高峰の頭脳。大陸において『龍帝』以外に並び立つものが存在しないという人類叡智の結晶にも等しい宝玉が開花を示し、そして──

 

(……なるようになれ)

 

 俺は思考を放棄した。

 

「ということで始めるわよお兄様」

「……ああ」

 

 なにがということなのかは分からないが、グレイシーが始めると言った以上始まるのは確定である。俺は首肯し、表面上は普段通りの冷然とした表情を。内心では全神経を集中させてグレイシーの言葉の続きを待った。

 

「えーっと、確かこの辺だったかしら」

 

 グレイシーが懐から一冊の本を取り出し、ページをめくる。グレイシーは目が見えないはずだが──

 

(いや、俺ではなくソフィアと視界を共有しているのか)

 

 とあるページをざっと眺めて頷いた彼女は、本を懐へと戻して。

 

「あとは若い二人に任せるわ。帰るわよヘクター」

「なんのために呼び出されたんだよ!?」

 

 絶叫をあげるヘクター。対するグレイシーは、不思議そうな顔をしていた。

 

「え、でもここに書いてあるもの。お見合いは、二人でやるものなのでしょう? 私たちは邪魔者という存在らしいわ」

「いや、なら最初から姫さんだけで良かったじゃねえか!?」

「口を慎めヘクター。お前はグレイシー様から、邪魔者であると認識された。ならば今すぐ消えろ」

「? キーラン。あなたも邪魔者なのよ? 立ち去りなさい」

「…………」

 

 絶望の表情を浮かべ、しかしそれでも命令を遂行すべくゆっくりと立ち上がるキーラン。ふらふらと崩れ落ちそうになりながらも扉へと向かうキーランの背中を眺めるグレイシーは、不思議そうな顔をしていた。

 

「……えっと、これはローラン。私たちも帰宅すれば良いの?」

「そうなんじゃないか」

「? あなたたちは裁定者だから必要よ」

 

 困惑するレイラとローランドの二人。対するグレイシーは、不思議そうな顔をしていた。

 

「全く分かっていないわねみんなは。お見合いというものを」

「……グレイシー。そなたもかなり、知識が偏っているように見えるが」

「?」

 

 流石に口を挟む俺。対するグレイシーは、不思議そうな顔をしていた。

 

「擬似見合い、と言ったか。これの目的はなんだ」

「ソフィアを見て楽しみたい」

「!?」

 

 跳ね起きたように動き出すソフィアと、愉悦の笑みを浮かべるグレイシー。それらを見た俺は、呆れたような表情を浮かべて。

 

「くだらん、な」

「あら、私としては面白い催しだと思うけれど。お兄様も、ソフィアをからかって楽しんでいる節があるし」

「!?」

「……まあ、目的に関してはそれで良かろう。ならば貴様らが退席する必要はあるまい。主目的がそこならば、な」

 

 などと口にしつつ、俺はグレイシーの本当の目的を把握した。

 ソフィアの内心の声が筒抜けである以上、ソフィアが動きだしてしまえば本当の目的を把握すること自体は難しくない。

 

 この擬似見合いの目的、それは俺のためであると。

 

(だがしかし、俺のお見合い経験が皆無だからその練習をするなんて名目であれば、ジルのキャラ像を保つためには退出する必要があるからな)

 

 お見合いの練習自体は、俺にとって益がある。ぶっつけ本番ほど、恐ろしいものはないからだ。

 

 ならば俺は、あえて本当の目的に気付かないフリをしよう。

 

 幸いにして、ソフィアで遊ぶことに関してはジルのキャラ像を壊しはしない。そこで壊れるなら、ステラやヘクターあたりの気さくな態度なんて言語道断である。

 

 自分が実力を認めた相手には寛容。それが、ジルという男であるがゆえに。

 俺が目指すのは理不尽なだけの暴君にあらず。

 絶対者として君臨しつつも、飴だってきちんと与える。部下が接しやすい上司という立場こそ、俺が目指すべきものだ。

 

「形は大事だと思うのだけれど、お兄様が良いならそれで良いのかしら。私たちは邪魔者にならないらしいわ。戻ってきなさい、キーラン」

「はっ」

「!?」

 

 部屋の外に出ていたというのにいつの間にか座席に着いていたキーランと、そんな彼を見て驚愕に目を剥くローランドとレイラ。

 俺としてもどのような理屈で部屋の外からグレイシーの声を聞き届け、そして戻ってきたのかよく分からない。

 

「てかよ、邪魔者ってなんだ? 俺たちはボスの部下や妹だぜ? 邪魔者とは対極に位置してると思うんだが」

「あら知らないのかしらヘクター。お見合いというのは、当人同士以外は邪魔者として退出するのがしきたりだそうよ」

「本を読みながら答えてるじゃねえか。正直、姫さんもよく知らねえだろ」

「口を慎めヘクター。貴様は見合いのなんたるかを、理解もせずにこの場に臨んでいるのか。愚鈍にすぎるぞ」

「テメェも『殺し屋でも分かる。お見合いの手順』とかいう本を読んでるじゃねえか。どっからその本を持ってきた。てかそんな本が売ってるもんなのか。売ってて良いのか」

「『傭兵でも分かる』シリーズもあるわよヘクター」

「傭兵がそんな当然のようにいてたまるか」

「『狂人でも分かる』シリーズなんてものもありますからね……狂人など、そうそういないでしょうに」

「それは必要だろ。アンタも狂人じゃねえか」

「!?」

「……」

 

 お見合いではなくコントじみてきた空間。これはもはや擬似見合いではなく、普段の日常風景とかそういうやつではないだろうか。

 

(……早くお見合いを始めろと言いたいが)

 

 建前がソフィアをからかうという一点にある以上、ここで俺が「お見合いを始めろ」などと口にすれば俺がめちゃくちゃお見合いをしたい奴みたいになってしまう。

 

(ならば)

 

 ソフィアをからかいつつ、さりげなくお見合いを始めるべき。前世の記憶から、お見合いとして使えそうな記憶を検索。そのほとんどがアニメや漫画によるものという悲しい現実に泣きたくなるが、それでも俺はやってみせよう───!

 

「ふん。確かに、ソフィアは常人とは異なるだろうな」

「!?」

「だがそれも、育った環境と今現在身を置く環境の相違によって生まれた不調和のようなものにすぎん。教会において、貴様は常人といえよう。あくまでも、常識の相違にすぎない」

「つまり私は、ジル様からすれば常識人ということですね!」

「寝言は寝て言うが良い」

「!?」

「だがそうだな、私とある程度価値観を揃えたいというならば……ソフィア。貴様は、この世界においてある程度普遍的な趣味を作るべきであろう」

「趣味、ですか?」

 

 頬杖をつきながら、言葉を重ねる俺。

 

「なに、貴様は教会という箱庭で過ごしていたからな。あの場において、趣味などないに等しかろう。幸いにしてこの世界には、数多の娯楽に満ちている。私からすればくだらんと一蹴するようなものも含めてな。だがそういったものから、この世界の常識を学ぶというのも、悪くはなかろう」

「……この世界の常識、ですか。私とこの世界の常識が大きく異なるということは、つまり私がおかしいと思うものこそがこの世界では常識……つまり、魔術大国で学べば……」

「あれは例外の極致に位置する。無視しろ」

「あ、はい」

 

 趣味の話題。

 お見合いといえば定番中の定番だろう。うまい具合に軌道をお見合いへと転換させた己の手腕に、拍手喝采を送りたくて仕方がない。

 

「やるわねお兄様。まるでお見合いの神だわ」

「お見合いの神か。なんか、一応ご利益はありそうだな」

「森羅万象。ありとあらゆるものを司るジル様だ。あらゆる概念、事象は全てジル様に始まりジル様に帰結する。つまり、ジル様は見合いの神でもあらせられるということ。俺たちは、背景に徹するべきだろう」

「それあれじゃねえか。邪魔者だから退出する方がいいってことじゃねえか」

「本物の見合いならばそうしよう。だがあの卑しい娘と、ジル様を二人にするなどあり得ん」

 

 俺は外野を無視した。

 

「参考までに、ジル様のご趣味はなんなのでしょうか」

「……」

 

 俺の趣味、趣味か。

 ジルというキャラクター像を壊さずに、なおかつ趣味と呼べそうなもの……改めて考えてみると、結構難易度が高いな。

 俺個人の趣味ではなく、ジルの趣味を考える必要がある。されど、俺の趣味としても機能しそうなもの……か。

 

「…………国の運営」

「えっ」

 

 なにかを間違えた、気がした。

 

「国の運営が趣味は、お見合いとしてはどうなんだろうね」

「俺には、よく分からん。相手によるとしか言えないからな」

「無難な答えだね」

「まあ多分、惹かれる人は少ないんじゃないか」

 

 裁定者の二人から、微妙な反応を頂く。ごもっともすぎて、なんとも言えない。

 

「やはり一線を画すわね、お兄様は。世界そのものを統べる神であるお兄様にとって、国の運営なんて児戯に等しい。これ以上ない、趣味だわ」

「まさにグレイシー様のおっしゃる通りかと。それを見抜けないとはあの娘、やはり教育が必要か」

「なあ、これは俺の感覚がおかしいのか? 国の運営が趣味って、それ前ボスが言ってた『社畜』とかいうやつじゃねえのか?」

 

 グレイシーとキーランから心からの賛辞を頂き、ヘクターが困惑を覚える。キーランだけならともかく、まともなグレイシーまで首肯するとなると己の価値観を疑ってしまうのだろう。

 

(……けどまあ神々のスケールで言えば、割とアリなのかもしれない。いや、ないだろ。いやでも……)

 

 かくいう俺も、よく分からない。

 

「……成る程。では私の趣味は、ジル様のサポートです。この身は全て、御身の為に」

 

 微笑んだソフィアが、そう言って頭を下げる。ソフィアの心を読める俺には、それが心からの言葉であると理解させられて──

 

「これは決まったね」

「ああ。第一戦は、ソフィアさんの勝利だ」

「裁定者さんたち、お見合いって勝ち負け勝負なの?」

「恋愛は、勝負だよ」

「そうなの? 新しい知見を得られたわ」

 

 ──無表情を崩すことなく、俺は紅茶のカップを口元へと持っていく。

 

 決して、決してソフィアの言葉に口元が緩みそうになったなどという事実は存在しない。それを隠すために、紅茶を飲んでいるわけではない。

 

(しかしソフィアの勝利、か)

 

 なるほど、これは勝敗を決する戦いなのか。正直言ってよく分からないが、ジルという男に敗北の二文字はあり得ない。ならば俺がやるべきことは、当然ながら決まっている。

 

(趣味の話題を膨らませることで、会話を弾ませるのは有効な一手のはず)

 

 この勝負、決して負けられない。

 勝敗の基準はよく分からないが、推測するに一般的に見て正解と思わせるような会話を行えば良いのだろう。ならば、場を盛り上げるような返しを行うことこそが俺の勝利の道しるべに他ならない。

 

「然様か。して、きっかけはなんだ」

「き、きっかけですか?」

「ああ。貴様がそれを趣味とするに至った経緯とでもいうべきか。単刀直入に言うと、貴様はそれのどこを気に入ったのだ?」

「!?」

 

 サッカーが趣味ですと口にされたのなら、その理由を尋ねることで会話は弾むだろう。俺の返しは完璧というほかないはずだ。

 

(くく……)

 

 さあ、どう返すソフィア。

 お前と(ジル)の、頭脳戦と洒落込もうじゃないか。

 

「王様、攻めたね」

「ああ。猛攻というほかないな。自分に絶対的な自信がないと、できない返しだぞあれは。相手が自分に対して一定の好感度があると確信しているからこそ、打てる鬼札。それをこのタイミングで切るとは」

「私にも分かるわ。お兄様の返しは、間違いなく優勝の返しよ。ゴールイン待った無しよ」

「それがジル様のご意思であれば」

「なあ、これなんかおかしくなってきてねえか? なあ、お見合いってこういうもんなのか? なんかボスも勘違いし始めてね? 正しくお見合いしてんの、熾天の嬢ちゃんだけじゃね?」

 

 ◆◆◆

 

「──お前では自分には届かない。諦めろ」

「ち、くしょう……」

 

 血塗れになって意識を飛ばした男を暫く眺めていた『人類最強』は、やがて目を伏せるとその場を後にした。

 そんな彼の隣を、仮面の女が水晶玉に乗りながら追随する。

 

「相変わらず強いですね『人類最強』氏」

「世辞はいい。次はお前が相手か。あまり気は進まないが、挑むならば応えよう」

「あまり気は進まない、ですか。相変わらず呑気ですねー。マヌスの人間とは思えませんよ」

「……」

「まあ、そうしたいのは山々ですけどねー。『神を名乗る男』なんてのを抹殺する大きな任務が控えてますから。任務をこなせないなんて、無能の極みでしょ」

「……随分と、余裕そうだな」

「当たり前じゃないですかー。マヌスにとって、現時点での最強は『人類最強』氏、あなただ」

「……」

「『神を名乗る男』さんは、実物を見ていないのでなんとも。個人的にはどちらかというと、『龍帝』さん率いるドラコ帝国を潰したいんですよね。人類最高峰の頭脳を有した大陸最強格なんて、獲物じゃないですか」

「……」

「まあですが、それ以上に。────」

 

 仮面の女が呟くと同時に水晶玉が輝き始め、人類最強の体がブレる。

 

 ──直後。先ほどまで人類最強が立っていた場所とその周辺が、腐敗する。

 

 血に濡れた男の肉体が腐り始め、遂には跡形もなく消失していく。その異様な光景を見て、人類最強は少しだけ目を細めた。

 

「……」

「忘れないで下さいねえ。我々は全員、あなたを狙っているということを」

「……」

「鎧も纏わずに歩くのも結構ですが、その座に着くということの意味を、この期に及んでもあなたはイマイチ理解していないようですねー」

 

 仮面の下で、女は口元に弧を描く。描いて、言った。

 

「いつまでも最強の座に立っていられると思うなよ、クソが」

 

 轟音が響く。

 仮面の女と人類最強がぶつかり、マヌスの一角が跡形もなく消滅した。

 

 それは他国では異常な。されど大陸最強国家、マヌスではありふれた光景である。


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