気が付いたら前世のアニメの第一部のボスでした〜かませ犬にならないために〜 作:弥生零
人類最強の奥義と俺の『天の術式』の激突の余波で、遠くの山脈が一瞬で蒸発する。地上に余剰エネルギーがなるべく届かないように小規模なブラックホールもどきを展開させたが、どうやらそれでもまだ足りないらしい。
元々この周辺は半径十数キロの範囲が砂漠地帯に変化していたようだが、どうやらさらに広範囲がガラス繊維のような空間になりそうである。地図を描く人間は地獄を見るだろう。
「……」
人類最強の最大最強の一撃。
それは実に単純にして、明快なものだ。
すなわち、人類総力に匹敵する出力のエネルギーを蒼炎として天に集め、隕石のように地上に叩き落とす。この特性故に彼の蒼炎に匹敵する力を出すことは"人間の力"では叶わず、神代以後であれば、地上で最も強力な一撃として放たれる。
それはある意味、人類が結束したに等しい力を単騎で発揮するということである。人類全体が強くなればなるほど強力無比になるその一撃はなるほど、人類最強の切り札に相応しい。
もちろん制限や制約は多く、気安く何度も放てる一撃ではない。補足すると人類の全てに匹敵する一撃というのはあくまでも理論上の最大出力の話で、実のところ対象は人類最強自身と彼が守護対象と認識している人間に限る。
まあ美談風に説明すると、彼と彼の愉快な仲間たちが力を合わせて放つ一撃ということだ。
(設定通りであれば、人類最強にとって自分と並び立つと称される大陸最強格連中は守護対象ではなく同志扱いで対象外だったか。もちろんながら、敵対していて同格以上認識をされている俺も対象外……)
これらの理由から、本当の意味で全てを上乗せした"真の一撃"を放つのは不可能である。
まあ、人類最強らしいといえばらしいのかもしれない。背中に背負うべきものたちを対象とし、それを抱えて敵対者を討つという意志から生まれた奥義という点が。しかも対象が国境を越えて定められているので、彼の器の大きさがよく分かる。
(……守護対象のみが対象。そのはず……はず、なのだが)
どういうことだ?
いくら人類最強が『神の力』も混ぜることで出力を上昇させていたとしても、これほどの威力を叩き出せるのか……?
(……まさか、人類最強が存在を知らないからグレイシーやソフィアの"人間としての力"が上乗せされている? 大陸最強格以外は守護対象のようだったし)
だとしたら……勘弁してほしい。
ただでさえ、人類最強のそれは地上最強の一撃のひとつだった。並び立つものはなく、故にこその人類最強。
そこに更にやべえ連中の力を一部といえど足すとなると、その威力は計り知れない。
(直接的な攻撃は防げるが……)
天の術式『光神の盾』。
これは"いかなる武器でも傷つかない"という光神の特性を、光神以外でも操作可能な位階にまで概念として落とした術式で、『天の術式』の中でも上位に位置する代物だ。
こと防御面において、これを貫くのはほぼ不可能といっても過言ではないとはソフィアの言。神々の力は素通りする『
弱点は、名前の通りあくまでこれは盾なので、迂回する攻撃に弱い点だ。直線上の攻撃であれば弾くが、迂回して本体を直接狙われては盾は意味をなさない。加えて、今回のようにあまりにも広範囲に及ぶ攻撃だと、余波がこの身に届く。
そしてその余波が、今回は多分マズイ。
(原作ではジルが『権能』を使って無傷で耐えた結果、ジルとの決戦にいた連中や視聴者一同が絶望する展開だったんだが……)
今回のこれは『神の力』が混ざっているから、原作と同じ手段では防げん。つまりこのまま盾の下で隠れているしかないのだが……しかし余波の問題が解決しない。
右手に線が走って血が流れてきたし、服も所々切れ始めた。足の骨も軋んでいて、俺の立つ足場が陥没していく。攻撃自体は防いでいるが、衝撃を含む余波を抑え込めている訳ではないのだ。
仮に惑星を貫く一撃を耐える盾を持っていたとしても、惑星を貫く一撃を防ぐために盾を使うのが一般人ならそいつは普通に死ぬしかない。流石にそこまで極端な話にはならないが、しかし状況としては似たようなものだろう。
(……どうする)
天から降り注ぐエネルギーの塊という特性上、飛んで回避は不可能。ならば走って攻撃範囲から逃げればいいかといわれると……アレの攻撃範囲と落下速度は凄まじいの一言なので実質的に不可能。そもそも、敵前逃亡などという無様な真似は"ジル"に許されていない。
もちろん『天の術式』の特性のおかげで、盾を展開した状態で俺が人類最強の懐に潜り込むことは可能だ。
しかしこの奥義を放っている状態の人類最強は、ある種の無敵状態。天で力を集約させるために、彼はその身から力を持続的に送っているからだ。
彼を覆う薄い蒼炎は、それ即ち人類の総力。
最大の攻撃にして、最大の防御。
それが──人類最強の有する絶対。
(……チッ)
流石は脚本家直々に「仮にこの作品をノベルゲー化するとしたら第一部の時系列だと表ボスが人類最強で、裏ボスがジルですね。選択肢次第で分岐します」とか口にしていた人類最強だ。
事実、人類の全てに匹敵する一撃を放つなんて性能は、神々の領域へと至る前に対峙するのに相応しい性能だから、ジルと並んで第一部の最後を飾るのに相応しい存在ではある。
それ以上のジルはジルで神々の特権であるはずの『権能』や『神の力』を有していて、なおかつあらゆる面で人類最高峰の才能を有しているチートキャラみたいな性能なので、人類最強と本物のジルはいろんな意味で似ているのだ。
(今考えることじゃないな。『神の力』も無限ではない。……いや、天の術式を放つ寸前から何故か少し増したが。それはそれとして──)
打開策を編み出すべく肉体に『神の力』を巡らせ続けながら──ふと、俺は気づく。
(なんというか、相変わらず『神の力』の使い方は雑だな)
本来であればこの肉体は、神の血が混ざっていない純正の人間──『権能』を仕込まれていたりと神々が直接創造した特殊な人間という考察もあるが──で唯一、『神の力』を扱えるもの。
そういった特殊すぎる事情が理由かは分からないが、俺は『神の力』に対する知覚能力のようなものが非常に発達しているらしい。それは『天の術式』講座でソフィアから「流石です、ジル様」とのお墨付きである。
(思えば、初めて見たときから違和感自体はあった。……いや確かに、本来であればジルにしか扱えない『神の力』という原作設定に依存しすぎるのは良くない。人類の頂点という立ち位置から察することができるメタ視点でも「お前が神の力を使えるのはダメだろ」とは思う。……だが、それ以上になんというか──俺とは『神の力』の在り方のようなものが違うとは思っていた)
これまでは動揺や新たな脅威への緊迫感、その他諸々の事情から深くまで探ることはできなかった。現実問題として人類最強は『神の力』を扱えていたし、それによる戦闘力の上昇も見て取れた。だから、違和感はあってもそこまで思考を回す必要性を感じられなかったのだ。
だが、この状況下なら話は変わる。
(……もしや)
このまま停滞したところで、状況が好転するとは思えない。悪い方に転じることもないだろうが、エネルギー同士の激突の余波で大陸が半壊でもしたら笑えない。大国はそれぞれの大陸最強格がどうにかするとして、小国はどうしようもない。精々、隠れ大陸最強格という噂のある冒険者序列第一位の少年が滞在している国が助かるくらいではないだろうか。
(……天下統一を目指す俺からすると、その展開は最悪だな)
人々から送られてくる信仰心の強さは、そのまま俺の強さに還元されるのだ。
人類が滅亡した状態で、神々が降臨なんてされたら俺は死ぬしかないのである。人の数は多ければ多いほど良い。それが俺に対して信仰心を捧げてくれるなら尚更だ。
(だから人類最強──我慢比べは終わりにしよう)
幸いにして、活路は見えた。
根性勝負などという不確定要素が多い戦闘に興じる理由はなく、なればこそ俺は新たに『神の力』を巡らせる。
(人類最強……やはりお前は、神ではない)
あくまでもお前は、人類種の頂点の一角でしかない。
人類種の頂点に君臨する才覚と、神々の領域に至る才覚を併せ持つジルとは、少々事情が異なるのだ。
仮にお前が"人類到達地点"に至っていれば、話は変わっただろう。というより、お前を含む大陸最強格が目指すべきはそちらだ。
(……どの口が言ってるんだか)
内心で自嘲する。
人類最強は、本当の意味の強者だ。俺なんかとは違う。俺なんかが人類最強を推し量るなど、烏滸がましいというもの。それくらい、俺は純粋に人類最強を尊敬している。
が、こういった面で自分を棚に上げずして、
それに、俺自身に自信がないから敗北しましたなど、部下たちに申し訳が立たない。俺自身の目的と──それに少しだけ、人間らしい感情も添えて、俺はお前を倒してみせる。
だから言おう、人類最強。俺が言えたことではないが──お前は、少しばかり神々の真似事をしすぎた。
「天の術式、起動」
瞬間。
あらゆる天災が顕現し、それらが人類最強と彼の放つ奥義に襲いかかる。
仮に前世でこれらが同時に発生すれば、間違いなく地球は終わるとすら思わせるような光景。
(……隕石は、天に浮いている奴の蒼炎に触れて蒸発させられたか)
だが、問題ない。
少なくとも、蒼炎が"揺らぎ"はしただろうからな──
◆◆◆
その世界の変化を、人類最強は肌で感じ取っていた。
(くっ──)
内心で苦悶の声をあげる。
それはジルの放った『天の術式』の威力によるもの──ではなく、その扱い方によるものだ。
(やはり、神々を前に神々の真似事は通じんということか)
人類最強は『神の力』の扱い方がそう多彩ではなく、本当に単純なことしかできない。そしてその単純なことにさえ、繊細すぎる神経を使っていた。
それこそ、毎瞬ごとに針に糸を通す以上の集中力と繊細さが求められているのだ。それと同時に戦闘を悠然とこなしていた人類最強は、紛れもなく人類種の頂点の一角を担うに相応しい存在で──だからこそ、神々の領域で乱されてしまっている。
(このまま、では……)
エネルギーが空中分解する、と人類最強は歯噛みした。
ジルの『天の術式』は的確にこちらの集中力を分散させるようなタイミングで断続的に放たれ、エネルギーに揺らぎを与えるよう的確に人類最強の制御権が弱い『神の力』を狙い澄まし、更には視界を悪くさせるような術まで放ってきている。
(……)
この一撃は、必殺でなければならなかった。
いや本来、確実に必殺となるはずだった。
なにせ、これを上回る出力の一撃を放つことは人類に不可能。
理論上の最大値には届かず、ましてや真の領域──過去未来現在全ての時間軸からエネルギーを抽出する──には至っていない。だが、それでも大陸最大最強の一撃には違いないはずだった。
人類最強は、人類で最も強いから人類最強だ。
その"最強"が全てを込めた一撃に、彼が背負う人類の総力を上乗せしたエネルギーによる広範囲の一掃。これに並び立つ火力を、用意することなど不可能。
(……)
だが現実として、これに拮抗する術を用意されてしまった。
あの光の壁はそこに込められている『神の力』もそうだが、なにより、守護の概念のようなものがあるように感じる。無差別に放てば大陸の八割を灰燼に帰す一撃を守護するほどの概念──間違いなく、神々にのみ許された領域だ。
(……)
この蒼炎が晴れたのち、人類最強の肉体はしばらくの間動けなくなる。その硬直の隙を見逃す神ではなく、間違いなくこの身は打倒されるだろう。
(……自分は、ここで終わりか)
ここで終わるかもしれない──だが、敗北はしていないと人類最強はその瞳を閉じる。
(自分の目的は果たされた。ならば、あとは上司の武運を祈るとしよう)
上司の目的。
それに、自分は賛同する。
賛同しなくとも、彼の望みを叶えるべく行動はしただろう。だが、賛同できるのならその方がいいことに違いはない。
(求められた役目も、最低限は果たした。あとは、上司次第だ)
ある意味、人類種の悲願。
狭義における世界救済の手段のひとつとして、あれは間違いなく成立している。
上司自身の思惑と目的はさておき、その過程において世界が悪くなることはない。そこから先のことは──人類を信じるとしよう。
(最後に神と死合うことができたか。……ならば"人類最強として"悪くない人生だった)
自分が人類最強などと呼ばれるようになってから、どれほどの時が経過しただろうか。
人類最強。
文字通り、人類で最も強い存在。それが自分だとするならば、それは不相応にすぎると思う。
この世界は広く、未知も多い。人類の全てを把握できたわけでもあるまいに、自分ごときが人類最強などという称号を得るのは正しいのだろうか? もっと相応しい英雄があるのではないか? と何度思ったことか。
蠱毒の面々とて、まだまだ成長途中。完成しきった上で競ったならばともかく、皆が皆発展途上の中で本当の意味の人類最強など誰にも分からないのではないか。
だが、それでも自分は人類最強を冠することになった。それは事実であり、ならば不相応と思えど、易々と敗北する訳にはいかない。膝を屈しそうな時が来ても、心が折れそうな時が来ても、本物の人類最強ならばと描いた理想に相応しく在るため、立ち上がらなければならない。
人類が到達すべき領域として、遠い未来で人類が乗り越えるべき壁として、自分は君臨し続けなければならない。そのためには人類ができることは全て可能にならなければならないし、人類が滅亡しかねない規模の災厄が訪れたとしても、それを踏破して人類を存続させなければならない。
人類が滅亡する規模の災厄が訪れたなら、
これまで、数多くの"人類最強と呼ばれるべき先人"はいたはずだ。過去の偉人、英雄──そういった偉大な者たちが紡いできたものが、人類の歴史であり、今を生きる人々だ。
ならば人類最強と呼ばれる自分が、先人たちの顔に泥を塗る訳にはいかない。「あなた方が繋いできたバトンはここで落としてしまいました」などと、そんな無責任なことを言っていいはずがない。自分は、人類最強なのだから。
不可能などあってはならない。それは人類最強ではない。その程度が人類最強であっていいはずがない。
お前はなんでもできるから人類最強なのだろうと、遠い記憶の中の誰かに言われた。
それは正しく、しかし間違いだ。
人類最強だからこそ、自分は全てができるようになった。
──全てができるようにならなければならなかったから、全てをできるようにしたのだ。何故なら、そうでなければ人類最強ではないと思ったから。そしてそう思ったのならば、血反吐を吐いてでも実行するのが人間という生き物だ。
故に自分は、本物ではないのだろう。
本当の意味での人類最強とは、生まれながらに全てができるに違いない。自分は所詮、人類最強という称号を手にしたからこそ、それに相応しくあらなければならないという形で、ここまで様々なものを積み上げてきただけに過ぎないのだから。天才と秀才が違うように、本物の人類最強と自分は違う。
(──嗚呼、だから)
偽りの人類最強は、神を前に敗れる。
神。
本当の意味で、人類を超越した存在。
英雄は確かにある種において人類を超越しているが……しかし本当の意味で、規格からして超越しているのが神々だ。人類の至る領域では、神々を前には無力だとでもいうのか。
(……)
……いや、違う。自分が、本当の意味で人類最強ではないから、神を前に敗北するのだろう。人類最強という名を冠するに相応しい人間であれば、神殺しを成せたはずなのだから。
これは、罰だ。
人類最強に相応しくないのに、人類最強という名前を冠したから、そう在るために生きてきた自分に対する、神罰なのだ。
(……)
だからこれは、仕方がないこと。
(自分では……神には、勝てない)
当然だ。当然のことだ。本物の人類最強ならばと、立ち上がり続けてきた。けど、自分は人類最強じゃない。だから、人々を笑顔にすることはできない。あの時の幼子のように、自分は周囲を怖がらせてしまうだけ。本物の人類最強ならば、救った上で笑顔にできるだろうに。自分は救うだけで、笑顔を作れない。作れたことが、ない。
戦闘鬼兵は、愉しそうに殺し合いをする。だけど、自分に向かう戦闘鬼兵は必死の形相だった。それは多分、自分に対する怒りなのだろう。「お前のような偽物がそこに立つな」と、彼らはそう言いたいな違いない。
まったくもってその通りだと思う自分が、彼らに言い返す言葉はなく、されど人類最強の座をそう簡単に渡すなど人類最強として相応しくないから、自分はそれを返り討ちにするしかない。本物には届かないが、しかし彼らを返り討ちにするくらいにはなった力量で。
(ああ──)
結局、最後まで、自分は人類最強になれなかった。やはり、自分なんぞが人類最強の座に立つべきではなかった。もっと、もっと相応しい人はいた。いたはずだ。だから、これで良い。偽りの人類最強が敗北するのは、当然のことなのだから。
(──これで、終わる)
……。
…………。
………………だが。
だが、今現在、人類最強は他でもない自分ではないのか。
(……)
確かに、自分は本当の意味で人類最強ではない。本当の意味で人類最強なら、神を倒せるはずなのだから。
だがその神を倒せるはずの人類最強を自分は冠していて──ならば、自分は神殺しを可能としなければならないのではないのか。
本物の人類最強は、諦めるのか? 仕方がないと、偽物だから仕方がないと、本物の人類最強は諦めるのか?
あり得ない仮定だ。本物が、偽物であることを理由に諦めるのかどうかなど、前提からして破綻している。
だが、それでも、それでも分かる。
本物の人類最強ならば、偽物であることを理由に諦めたりなどしないと。まだ、誰も笑顔にできていないのならば、笑顔を作れる人類最強になるべく努力をするはずだと。人類最強は完全無欠な存在だが、それでも仮に、仮に不完全な部分があるならば、それを超克するために行動しているはずだと。
(この程度のことを、今になって気づくとは……やはり、自分は人類最強に相応しくない。──だが、それでも分かる)
自分はまだ、人類最強に相応しくない。それは当たり前の話だ。だが──だからこそ、諦めていい理由にはならないはずだ。
(本物の人類最強なら、ここで倒れる訳がない。ならば自分が、ここで倒れていい訳がない!)
何故なら自分は人類最強。
その称号は偽りなれど、それでも自分は人類最強なのだから。
◆◆◆
蒼炎が消し飛ぶと同時、硬直する人類最強の体。
本当の意味で絶対の全てを放ったからこそ、奴は蒼炎が晴れた先で動くことはできない。蒼炎が在る状況では身動きをとれるが、それが霧散してしまえば
原作では周囲に大陸最強格がいたから硬直している間を守ってくれるだろうという理由で一撃を放っていたが……今回は、俺の体内への攻撃に危機を感じて放ったのだろう。
まあ奴の事情はどうでも良い。敵の隙を見逃す俺ではなく。一瞬で人類最強の前に移動した俺は、人類最強の顔面を鷲掴みにした。
(……人類最強、お前は強かった。だが、俺とてここで負ける訳にはいかない)
天の術式を起動する。
奴の体内に小規模な流星群を起こし、体内を完全に蹂躙してくれる。
(終わりだ──)
人類最強、お前は本物だ。
俺のような偽物とは違う。
俺は本来ジルではなくて、それでもジルになってしまったからそう演じようとしているだけの──……?
(……なに?)
空気が変わった。
尋常ではない圧力を、動かないはずの人類最強から感じる。おかしい。もはやこいつに戦闘力はないに等しいはず。しばらくしたら動けるようになる意味不明な肉体をしているが、それにしても──
「……!」
凄まじい力とともに、俺の肉体が後方に吹き飛ばされる。舌を打ちながら地面に着地し、俺は視線を前に向けた。
「貴様──」
──そして、気づく。
人類最強の右目が、蒼い炎を帯びていることに。
(なっ──)
俺の背筋が凍りつき、目が大きく見開かれる。
ゆらり、と幽鬼のように動き始める人類最強の肉体。
それを見て、俺の背中を嫌な汗が伝うのを感じた。
(まさか、あれは……)
動けるはずがない。
道理に合わない。
そういうものと定められているはず。
そんな常識を嘲笑うかのように、人類最強から放たれる圧力が増し始めた。
(アニメでクロエが覚醒したときと、同じ……)
それを、俺は知っている。
アニメでも一切明かされていないブラックボックス。
神々と戦闘可能な領域に至る、人類種における究極。
その名を、
(──人類到達地点)
俺が求めていた、もうひとつの力。
人と神の両方を併せ持つ俺だからこそ、その双方を知っていたからこそ、それを目標にして試行錯誤していた。
そして人としての極限こそが、人類到達地点。
(待て、落ち着け。まだ、まだ初期段階)
だが、それに関してほとんど分からずじまいで。だから半ば諦めていて。
(マズイ。圧力がもはや完全に『何か』の領域に──)
しかしそれを、
「──!!」
人類最強が、右腕を振り上げる。
それに対して俺は、最大限の警戒心を抱いて。
そして──