<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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暁 其の九

 □【修羅王】サンラク

 

 

 『知らない天井だ……』 

 

 

 いや、知ってるわ。

 普通に転職クエストの青い天井じゃねえか。

 今の今まで【気絶】していたのである。

 多分、【出血】していたことが原因かな?

 ダメージが大きすぎたらしい。

 この<Infinite Dendrogram>においては、アバターが気絶しても俺自身が気絶するわけではない。

 暗い空間に閉じこめられているだけ、という情報は得ていた。

 俺はこのゲームで気を失ったことはないので今まで知らなかった。

 アンダーワールドにいるのと変わらないので、正直若干苛ついた。

 下ネタをささやくな脳内ド変態。

 デスボイスで鼓膜破壊してやるからな覚えとけ。

 特典武具がなかったら死んでた説はある。

いやなんなら、普通に負けてたよな。

 だが、それはそれとして。

 

 

『なった、か』

 

 

 ウィンドウを見れば、メインジョブは【修羅王(キング・オブ・バトル)】になっている。

 いや本当にこれはやばい。

 デンドロにおいて、超級職の存在は大きい。

 とりあえず、出るか。

 

 

 ◇

 

 

「お帰り、おかずにする?ソープにする?それともわ・た・しるっぷああ!」

 

 

 異空間からの帰還早々、飛んできたのは下ネタでした。

 とりあえず、飛び膝蹴りで応じることにする。

 ええい、下ネタうるせえ!

 後真ん中のは公序良俗だろ最早。

 いや全部駄目だわ。

 どの選択肢を選んでも最低だよ。

 もはや地獄でしかない。

 

 

 

 □■<修羅の谷底>

 

 

 サンラクと、【メテオストリーム】との戦い。

 それと同時に、【メテオストリーム】が動いた。

 敵を排しようとする……のではない。

 遠くにいる劣化“化身”。

 それらの障害となる羽虫を除くために、範囲攻撃を放つ。

 

 

 

 「《竜征群》」

 

 

 【メテオストリーム】の口から、機械音声が発せられて。

 同時に、尾から、黒き雨がまき散らされる。

 怨念を、闇属性広域殲滅攻撃魔法へと変換する技。

 広域にまき散らされる魔法は防御も回避も不可能である。

 純竜クラスのモンスターも、耐久に秀でたジョブの<マスター>も殺し尽くす殲滅魔法。

 今まで、倒せなかった相手は不死身に限りなく近い安芸紅音のみ。

 

 

 

『悠長すぎるだろ』

 

 

 

 否、ここに、もう一人いる。

 放たれた黒い球、そしてえぐられた樹木を見て、上から降り注ぐ対生物特化の攻撃であると見抜いた。

 黒い球を破壊するのは無理。

 無数の雨のごとく飛来する攻撃をかわすのは無理。

 さらに、サンラクはこちらに向かう際に【メテオストリーム】が再生する様子を確認している。

 発射口を破壊しようとしても、攻撃は防げなかった。

 

 

 であれば、どうするのが正解なのか。

 

 

『雲の上には、雨は来ない』

 

 

 黒い球が射出されてから発動するまでのわずかな間に。

 サンラクは、遥か高く。

 黒球の上に、《配水の陣》を使って駆け上がる。

 そして、雨が当たらない安全圏まで避難したのだ。

 

 

 《竜征群》がやんだ後、生き残った者は二つ。

 一つは、<エンブリオ>で完全回復を行った紅音。

 そして、サンラク。

 相手の大技を躱し、その勢いのまま【メテオストリーム】の胴体に飛び移る。

 

 

 そして、そのまま【メテオストリーム】の上を走り回りながらその装甲を切り刻む。

 両手には、伝説級特典武具の、【双狼牙剣 ロウファン】。

 状態異常攻撃を駆使する特典武具だが、素の攻撃力も決して低くはない。

 さらに、尋常ならざる速度までもが攻撃に乗り、

 

 

 

 「ーー《逆鱗》」

 

 

 自身の肉体を傷つけられることで発動するカウンタースキル。

 怨念を膨大な物理的衝撃波に変換するスキル。

 斬りつけながら、サンラクはこれを避けていく。

 《脱装者》などの数多のスキルによってAGIが優に五桁に至っているサンラク。

 音よりも、神話の怪物よりも速い域にいるサンラクを捕らえることは、【メテオストリーム】と言えどもできない。

 

 

「――《逆鱗・暴慢》」

 

 

 だが、神話の怪物は、それでは終わらない。

 姿を捕らえられずとも、攻撃を当てる方法はある。

 《逆鱗》をさらに発展させたスキル。

 《逆鱗》は、【メテオストリーム】の装甲がはがれた箇所から衝撃波を放つというスキル。

 だが、これにはその先がある。

 《逆鱗》による衝撃波によってもとより装甲には亀裂が入る。

 そこをさらに発展させる。

 全身の装甲を砕けさせて、全方位に衝撃波をまき散らす。

 それこそが、《逆鱗・暴慢》である。

 これを防ぐには、尋常ならざる物理攻撃耐性が必要であり、直撃を至近距離で喰らったサンラクにはそれはない。

 サンラクは、

 だがしかし。

 それは。

 

 

『隙ありなんだよなあ!』

 

 

 サンラクのスキル補正も何もない拳。

 それが、装甲を完全に放棄した【メテオストリーム】の内部機構へと刺さり、ダメージを与える。

 サンラクはそこで止まらず、耐久の落ちた【メテオストリーム】に対して攻撃を継続する。

 だが、それは今までのサンラクを考えればあり得ない。

 《ラスト・スタンド》によって五秒間は耐えられるものの、ただそれだけだ。

 だが、《ラスト・スタンド》にはさらにその先がある。

 もとより、【殿兵】というジョブは、倒れないことに特化したジョブ。

 致命のダメージを受けてもなお、倒れないスキル。

 死してなお、目的を果たすために突撃する【死兵】とは違う。

 目的を果たすまで、倒れることができない、死ぬことができない兵たち。

 それが【殿兵】の本質であり、それは殿兵系統超級職の、スキルにも表れている。

 

 

 【修羅王】の最終奥義、《修羅場》。

 

 

 【修羅王】への転職と同時に習得するこの最終奥義は、一体、相手を敵と指定して使用するスキルである。

 効果は、指定した敵との戦闘が終わるまで(・・・・・・・・・・・)、サンラクのHPを一のまま保つ(・・・・・・・・・)、というもの。

 本来ならば、どうということはない。

 HPが一ならば、当然傷痍系状態異常になっており、戦闘ができなくなる。

 そして《修羅場》は解除され、死に至る。

 普通に考えれば、何の役にも立たないスキル。

 先代の【修羅王】も、一度として最終奥義を有効活用したことはなくーー【海竜王】との決戦や死後、サンラクとの戦闘でも用いられることはなかった。

 一般的なオンラインゲームでは、いわゆる死にスキルと言われるものである。

 

 

 

だが、サンラクに限ってはその話は当てはまらない。

 実際、神話級<UBM>の捨て身の一撃を《修羅場》によって防いでいる。

 その種は、彼の装備品との組み合わせ。

 【修業帯 プリュース・モーリ】による、HPを伴わない肉体のみの修復。

 HPが残り一になっても、傷痍系や制限系の状態異常を気にせず行動できる。

 加えて、HPが残り一しかないことで、《呪慌生誕》の効果も受けない。

 あれは、HP(存在)をアンデッドに変質させる呪いであり……HPが残り一で固定される以上、サンラクの肉体はアンデッドになることはない。

 因みに、紅音は攻撃を喰らうたびに《再始動》で全快しているため彼女に対しても《呪慌生誕》はさほど問題ではなかったりする。

 

 

『秋津茜!』

「はい!今は安芸紅音です!」

『そうか!大火力攻撃、何かあるか?あったら頼む!』

「あります!やります!」

 

 

 

 先ほど体勢を崩された時に防がれた切り札をーー黒狐のお面に触れる。

 

 

 

「《黒白分命(ノワレナード)》!」

 

 

 紅音は、彼女の持ちうる最大最強の切り札を切る。

 【黒召妖狐 ノワレナード】の能力特性である分体召喚、その集大成であり、安芸紅音と同等の性能の分身を召喚する。

 これで、彼女の準備は整った。

 

 

 ーーそして。

 

 

『こんだけ斬れば、準備は万端ってなあ』

 

 

 それは、サンラクもまた同じ。

 【双狼牙剣 ロウファン】を構える。

 既にもう、準備は終わっている。

 

 

『おもちゃはそろそろお片付けの時間だぜ?ガラクタ』

 

 

 二匹の狐が叫び、一羽の鳥が笑う。

 

 

 To be continued

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