<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

105 / 132
硬梨菜先生お誕生日おめでとうございます!



お久しぶりです。
五章開始です。


世界の始まり、遊戯の終わり
プロローグ 遊戯の始まり


 □■???

 

 

 

 彼女にとって、このゲームを始めたのは些細な理由だ。

 刺激を、危険を、スリルを、喪失を。

 いつものように、彼女がゲームに求めているものを、この<Infinite Dendrogram>においても求めただけの話だ。

 そうして、願いはかなった。

 ゲームを始めると同時に、彼女はPKとして動き出した。

 <Infinite Dendrogram>では、PK行為に対するペナルティは存在しない。

 チュートリアル時点で、双子の管理AIに確認したので間違いない。

 これは、彼女にとって二つの意味がある。

 一つ目には、いくらPKしてもBANされることはない。

 二つ目には、いつどこで誰からPKされたとしても、文句は言えない。

 彼女にとっては、どちらも都合がいい。

 相手を殺すこと。

 また、相手に殺されて失うというリスク。

 いずれも、彼女にとってはメリットである。

 殺すときは、悪役らしく大いに楽しみ、散るときは悪役らしく盛大に、派手に退場する。

 それが、ゲームをプレイするうえでの彼女のスタンスだった。

 

 

 <エンブリオ>が孵化し、ジョブに就き、仲間や手駒をそろえて。

 彼女はPKに明け暮れた。

 <Infinite Dendrogram>にはよく騒動が巻き起こる。

 多くの者たちが、騒動を引き起こす。

 彼女もその一人。

 ときに一人で。

 ときに、配下モンスターとともに。

 ときに、仲間とともに。

 あるいは、PK以外のクエストを回したり。

 ある時は、<UBM>と戦ったりと、純粋にこの<Infinite Dendrogram>というゲームを楽しんでいた。

 <Infinite Dendrogram>を始めたその日から抱いていた、違和感(・・・)を抱えたまま。

 

 

 □■地球・【旅狼】チャットルーム

 

 

 サンラク:そんなわけで、黄河帝国に行くことになりました

 

 鉛筆騎士王:サンラク君さあ……

 

 ルスト:本当にちゃんと謝るべき

 

 オイカッツォ:?

 

 サンラク:まあ、それはそう

 

 サイガ‐0:大丈夫ですよ

 

 サイガ‐0:埋め合わせはしてもらうので

 

 サンラク:はい

 

 鉛筆騎士王:なるほど

 

 オイカッツォ:個人的には、サンラク達の相手した<UBM>がどうなったか気になるところ

 

 京極:あかねさんがMVPだったね

 

 秋津茜:はい!皆さんのおかげです!ありがとうございます!

 

 サンラク:いいってことよ

 

 京極:サンラク、君はいい加減僕の果たし状を受け取りたまえよ

 

 京極:またそろそろ七夕イベントも始まるよ?幕末

 

 サンラク:いやいや

 

 サンラク:また七面鳥よろしく焼かれるのがオチでしょ

 

 サンラク:鼻で笑ってやるわ

 

 京極:君本当に覚えときなよ……

 

 サイガ‐0:とりあえず黄河には迎えに行きます

 

 サイガ‐0:今度は逃がしません

 

 サンラク:う、うんわかった

 

 鉛筆騎士王:それなら、私達も行こうかな

 

 オイカッツォ:いいね

 

 オイカッツォ:東方のスキルにも興味あるし

 

 秋津茜:え、みなさんもしかして黄河に集まるんですか?

 

 秋津茜:私も行ってみたいです!

 

 オイカッツォ:あ、うん

 

 鉛筆騎士王:まぶしいねえ

 

 京極:僕はいいよ

 

 京極:他の二人も多分嫌とは言わないだろうし

 

 秋津茜:ありがとうございます!

 

 オイカッツォ:今更かもだけど、本当にサンラク天地でいろいろやってるよね

 

 オイカッツォ:超級職にも就いたんでしょ?

 

 鉛筆騎士王:すごいよねえ

 

 鉛筆騎士王:まあ私も就いたんだけど

 

 サンラク:レイも既についてるよね、すごいよ

 

 サイガ‐0:ひゃ。ひゃい!

 

 鉛筆騎士王:あれ?

 

 サンラク:オイカッツォ君、何か言いたいことはある?

 

 オイカッツォ:は?

 

 サンラク:特典武具も超級職も特にないってマジ?

 

 京極:一応、僕は特典はあるから

 

 秋津茜:以前クエスト中に出てきた<UBM>ですよね?

 

 京極:そうそれ

 

 ルスト:私達も、特典はある

 

 ルスト:モルドに預けてるけど

 

 モルド:【酷死無蒼】に組み込んだやつね

 

 オイカッツォ:……

 

 サンラク:カッツォ、君の番だよ?ジョブは何だい?

 

 鉛筆騎士王:教えてくれていいんだよ?君の特典、何級?

 

 ルスト:この煽りである

 

 鉛筆騎士王:君たちもノリノリだったじゃん!

 

 サイガ‐0:あの、ごめんなさい

 

 秋津茜:どうかしたんですか?

 

 秋津茜:あ、ペンシルゴンさん!先日手に入れた特典は神話級でした!

 

 オイカッツォ:…………

 

 サンラク:あーあ、壊れちゃった

 

 モルド:無知って怖い……

 

 

 

 

 ◇

 

 

 グループチャットでひとしきり友人を煽った後、彼女は携帯端末をバッグにしまう。

 もうすぐ休憩時間が終わる。

 そうなれば、すぐに撮影が再開される。

 その前に、考え(・・)をまとめる。

 

 

「うーん、もう頃合いかな」

 

「そろそろ、本格的に動くとしようかね。場所もここでいいだろう」

 

「ドカンと一発、どでかい花火を咲かせようね」

 

 

 

<Infinite Dendrogram>では、日々騒動が起こっている。

 管理AIが、ティアンが、モンスターが……何より自由を手にした<マスター>が、各々の目的と意思をもって騒ぎを巻き起こす。

 彼女も、そんなトラブルメーカーの一人だから。

 平穏よりも、騒乱を。

 安定よりも、冒険を。

 永きにわたり生き延びるより、刹那の歓びを。

 それこそが、彼女の求めているものだから。

 

 

 天音永遠ーー“嬲り殺し”【死将軍】アーサー・ペンシルゴンが動き出す。

 

 

 

 

 Open Episode 【世界の始まり、遊戯の終わり】


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。