<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
お久しぶりです。
五章開始です。
プロローグ 遊戯の始まり
□■???
彼女にとって、このゲームを始めたのは些細な理由だ。
刺激を、危険を、スリルを、喪失を。
いつものように、彼女がゲームに求めているものを、この<Infinite Dendrogram>においても求めただけの話だ。
そうして、願いはかなった。
ゲームを始めると同時に、彼女はPKとして動き出した。
<Infinite Dendrogram>では、PK行為に対するペナルティは存在しない。
チュートリアル時点で、双子の管理AIに確認したので間違いない。
これは、彼女にとって二つの意味がある。
一つ目には、いくらPKしてもBANされることはない。
二つ目には、いつどこで誰からPKされたとしても、文句は言えない。
彼女にとっては、どちらも都合がいい。
相手を殺すこと。
また、相手に殺されて失うというリスク。
いずれも、彼女にとってはメリットである。
殺すときは、悪役らしく大いに楽しみ、散るときは悪役らしく盛大に、派手に退場する。
それが、ゲームをプレイするうえでの彼女のスタンスだった。
<エンブリオ>が孵化し、ジョブに就き、仲間や手駒をそろえて。
彼女はPKに明け暮れた。
<Infinite Dendrogram>にはよく騒動が巻き起こる。
多くの者たちが、騒動を引き起こす。
彼女もその一人。
ときに一人で。
ときに、配下モンスターとともに。
ときに、仲間とともに。
あるいは、PK以外のクエストを回したり。
ある時は、<UBM>と戦ったりと、純粋にこの<Infinite Dendrogram>というゲームを楽しんでいた。
<Infinite Dendrogram>を始めたその日から抱いていた、
□■地球・【旅狼】チャットルーム
サンラク:そんなわけで、黄河帝国に行くことになりました
鉛筆騎士王:サンラク君さあ……
ルスト:本当にちゃんと謝るべき
オイカッツォ:?
サンラク:まあ、それはそう
サイガ‐0:大丈夫ですよ
サイガ‐0:埋め合わせはしてもらうので
サンラク:はい
鉛筆騎士王:なるほど
オイカッツォ:個人的には、サンラク達の相手した<UBM>がどうなったか気になるところ
京極:あかねさんがMVPだったね
秋津茜:はい!皆さんのおかげです!ありがとうございます!
サンラク:いいってことよ
京極:サンラク、君はいい加減僕の果たし状を受け取りたまえよ
京極:またそろそろ七夕イベントも始まるよ?幕末
サンラク:いやいや
サンラク:また七面鳥よろしく焼かれるのがオチでしょ
サンラク:鼻で笑ってやるわ
京極:君本当に覚えときなよ……
サイガ‐0:とりあえず黄河には迎えに行きます
サイガ‐0:今度は逃がしません
サンラク:う、うんわかった
鉛筆騎士王:それなら、私達も行こうかな
オイカッツォ:いいね
オイカッツォ:東方のスキルにも興味あるし
秋津茜:え、みなさんもしかして黄河に集まるんですか?
秋津茜:私も行ってみたいです!
オイカッツォ:あ、うん
鉛筆騎士王:まぶしいねえ
京極:僕はいいよ
京極:他の二人も多分嫌とは言わないだろうし
秋津茜:ありがとうございます!
オイカッツォ:今更かもだけど、本当にサンラク天地でいろいろやってるよね
オイカッツォ:超級職にも就いたんでしょ?
鉛筆騎士王:すごいよねえ
鉛筆騎士王:まあ私も就いたんだけど
サンラク:レイも既についてるよね、すごいよ
サイガ‐0:ひゃ。ひゃい!
鉛筆騎士王:あれ?
サンラク:オイカッツォ君、何か言いたいことはある?
オイカッツォ:は?
サンラク:特典武具も超級職も特にないってマジ?
京極:一応、僕は特典はあるから
秋津茜:以前クエスト中に出てきた<UBM>ですよね?
京極:そうそれ
ルスト:私達も、特典はある
ルスト:モルドに預けてるけど
モルド:【酷死無蒼】に組み込んだやつね
オイカッツォ:……
サンラク:カッツォ、君の番だよ?ジョブは何だい?
鉛筆騎士王:教えてくれていいんだよ?君の特典、何級?
ルスト:この煽りである
鉛筆騎士王:君たちもノリノリだったじゃん!
サイガ‐0:あの、ごめんなさい
秋津茜:どうかしたんですか?
秋津茜:あ、ペンシルゴンさん!先日手に入れた特典は神話級でした!
オイカッツォ:…………
サンラク:あーあ、壊れちゃった
モルド:無知って怖い……
◇
グループチャットでひとしきり友人を煽った後、彼女は携帯端末をバッグにしまう。
もうすぐ休憩時間が終わる。
そうなれば、すぐに撮影が再開される。
その前に、
「うーん、もう頃合いかな」
「そろそろ、本格的に動くとしようかね。場所もここでいいだろう」
「ドカンと一発、どでかい花火を咲かせようね」
<Infinite Dendrogram>では、日々騒動が起こっている。
管理AIが、ティアンが、モンスターが……何より自由を手にした<マスター>が、各々の目的と意思をもって騒ぎを巻き起こす。
彼女も、そんなトラブルメーカーの一人だから。
平穏よりも、騒乱を。
安定よりも、冒険を。
永きにわたり生き延びるより、刹那の歓びを。
それこそが、彼女の求めているものだから。
天音永遠ーー“嬲り殺し”【死将軍】アーサー・ペンシルゴンが動き出す。
Open Episode 【世界の始まり、遊戯の終わり】