<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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更新遅れて申し訳ないです。


蠍と鳥とキメラとアンデッド

「黄河の<超級>、【尸解仙(マスターキョンシー)】の迅羽だね」

『あア、そいつは知ってるのカ?』

『<超級>……』

 

 

 いつの間にか復帰していたアンダーマテリアルに指摘されて、理解する。

 

 

 <超級>。

 それは、この<Infinite Dendrogram>において特別な意味を持つ。

 数十万を超えるプレイヤー人口の中でも百人に満たないトッププレイヤーたち。

 レベルカンストよりも、超級職よりも、特典武具獲得よりも上の力。

 上級進化、必殺スキル取得、第六形態到達、そういった要素のさらに先。

 第七形態まで、己の<エンブリオ>を進化させたもの。

 基本的に、<エンブリオ>のコンセプトはオンリーワンだ。

 各々の経験や固有のパーソナルを核として生み出される。

 それゆえか、進化条件は不明でタイミングもまちまち。

 プレイ時間が同等でも、レベルが同レベルでも、<エンブリオ>の到達形態が異なっているというのは珍しくない。

 実際、俺と同時期に始めたフィガロやシュウは既に<超級>に至っている。

 最も、あいつらの場合はプレイ時間の差もあるだろう。

 フィガロはまだしも、シュウの方はいつフレンド一覧で見てもログインしていたような気がする。

 俺がいえたことではないが、リアルは大事にしていただきたいものだ。

 まあ、俺も大学が休みの時はほとんどログインしているんだけど。

 デンドロのサービスが開始した夏季休暇はもちろんのこと、

 ゲームの中で眠れてしまうから、ちゃんと準備すれば長時間ログインが可能なのもやばいところだよな。

 

 

 ただまあ一番の問題は完全に<超級エンブリオ>に進化する条件はわかっていない。

 これが、難しい。

 超級職は、クリアすべき条件が設定されている。

 一部の、「どう見てもこれNPC専用のジョブだよな」というの以外は、基本的に誰でもつける可能性があるはずだ。

 噂じゃ、そのNPC専用超級職すらも<エンブリオ>次第ではどうにかなるらしいが……それはさておく。

 さらに、もう一つのオンリーワン要素、<UBM>の特典武具も同様だ。

 あれのMVPの基準は、戦闘主体のクランによって、ある程度解明されている。

 大幅にHPを削ったものが、貢献度が高い。

 ただし、削ったHPも回復されてしまうと貢献度はリセットされる。

 また、貢献度には戦闘時間も影響するため、稀に支援職がとることも十分にあり得る。

 などなど、様々な情報が手に入っている。

 ランダムエンカウントなどの要素もあり理不尽には違いないが……それでもある程度の攻略法は見えている。

 

 

 だが、<超級エンブリオ>だけは違う。

 条件が不明の、最も理不尽とさえ言われる状態だ。

 そもそも、<超級エンブリオ>が超級職以上に強いと一般的に言われていることも原因の一つだ。

 確か、シュウはまだ超級職にはついていない<超級>だが、多くの超級職を抜いて討伐ランカー2位にまでなっているはずなのでなんとなく納得できる。

 因みに、1位は設定上百年以上生きている【大賢者】らしいので、まあ仕方がないといえる。

 

 

 

「それにしても、<超級>がこんなところに何の用だい?蟲姦好き?」

『……?まア、元々向こうで用事があってナ。ついでに、ここまで狩りに来たってわけダ』

『あー、確かにこいつら経験値はうまいな』

 

 

 一体倒しただけだが、かなりの経験値が入っている。

 相手の戦闘力が純竜級であることを考慮に入れても、それでもなお多い。

 鉱石を取り込むという性質があったから、それが原因か?

 レジェンダリアでも、金属系のスライムや異常なほど経験値が豊富だった。

 鉱石由来のモンスターはデンドロにおいてはいい経験値になるのかもしれない。

 あ、おい!逃げるな経験値!

 勝てないからって逃げるからいやなんだよデンドロは!

 

 

 

『いヤ、そっちじゃねえヨ。……来たカ』

『え?』

「おや?」

 

 

『さっさと倒さねえと輝麗達が来ちまうからナ、流石にもう<超級>同士で争うわけにもいかねえシ』

 

 

 

 岩肌を盛り上げて、ソレは出てきた。

 それは、一体の蠍だった。

 黒と金を基調としており、体格も他の【ロックライク・スコーピオン】の数倍ほどのサイズだ。

 さらに奇妙なことに、赤色の発光体が六つ浮かんでおり、それらが円周上に奴の尾の周りを飛び回っている。

 モンスターネームの表示によれば、そいつの名前は【赤星回蠍 リボルブランタン】。

 ーー<UBM>で間違いない。

 

 

 

 

『見たとこ、古代伝説級って感じだナ』

『……そんなのわかる?』

 

 

 <UBM>はステータスが極端に高く、《看破》では性能を把握できないものも多い。

 こいつもその例に漏れず、詳細まではわからない。

 

 

『これでも、<超級>だからナ。正直、経験に裏打ちされた勘ってやつダ』

 

『なるほどね。まあ、俺も同意見だけどな』

 

 

 だてに何度も俺とて<UBM>と戦っているわけではない。

 【ロウファン】よりはいくらか強く、されど天地で戦ったあの機械竜ほどではないことは感覚として理解できる。

 ティックから聞いた話では、伝説級<UBM>と超級職が同等クラスの強さらしい。

 古代伝説級はそれより格上だが……超級職三人なら十分に倒せる相手。

 となれば、一番の問題は。

 

 

『じゃあやるカ。――邪魔はしてくれるなヨ?』

『こっちのセリフだよ!』

 

 

 迅羽が、両腕を伸ばして攻撃を開始する。

 

 

『ハッ、流石に固えナ』

 

 

 黄金の乱舞を浴びてーー黒金の蠍はいまだ無傷だった。

 どうやら、耐久力は段違いらしい。

 

 

「ーー《チャージ》」

 

 

 チャージという言葉には、アクションゲームにおいては概ね二つの意味合いがある。

 一つは、突進。

 だが、突進などしていないし、ちょこまかカサコソと動くその歩き方には突進のとの字もない。

 だからおそらくは違う。

 正解は、おそらく突進ではなくもう一つの、意味。

 つまり、英語を全く知らない五歳児でもわかるほうの意味。

 

 

 

『やっばい、よけ』

 

 

 

 

「――《ファイア》」

 

 

【リボルブランタン】のスキル宣言と同時に、毒が放たれる。

 

 

 

To be continued

 





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小説家になろうにて、新作を投稿してます。
職業ものの異世界ファンタジーです。
良ければ、見ていってほしいです!

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