<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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感想などよろしくお願いします。
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長城都市、防覇。
北から南へ細長い都市であり、都市群である。
防覇の特徴は、長い壁を築き、その東側に人が生活するための街が築かれたことである。
その成り立ちを説明するためには、600年前までさかのぼる必要がある。
かつて三強時代と呼ばれていた、実質的にただ二人によって世界が回っていた時代があった。
一人は西の王、【覇王】ロクフェル・アドラスター。
この世界に愛されたハイエンドであり、ティアンの中でも最強格とされる存在。
もう一人は、東の龍、【龍帝】黄龍人外。
最強に伍する規格外であり、文字通り人の道から外れた存在。
二人とも、後に世界を揺るがす<超級>と同等以上の存在であり、名実ともに世界を二分していたもの。
厳密には、第三の強者としてシュレディンガー・キャットという男もいたが……そもそも彼がその時代に現れたのは【覇王】と【龍帝】が原因なので、結局は当時の世界はその二人を中心に回っていたのである。
そもそも、純粋戦闘力でシュレディンガーは他の二人に二段ほど劣っていたので、なおのこと。
そんな西側と東側がしのぎを削っていたそのころ。
防覇は、黄河帝国最西端の都市であった。
いや、少し実態は異なる。
黄河によって、最西端に造られた都市である。
その中には、大工系統超級職や、設計師系統超級職などもいた。
更には、黄龍人外も技術協力を惜しまなかった。
そうして壁と、侵入者を打ち砕く砲台と、その近くにある町が築かれた。
その壁は、【覇王】の攻撃を防ぐため――
そもそも、どれほど強度があろうと、超級職が介入しようと関係ない。
陸にある時点で、超級職の最終奥義クラスの攻撃をほぼノーリスクで連打できるロクフェル・アドラスターを阻める壁など存在しない。
ゆえに、この長城も【覇王】の前には壊されてしまう。
逆に言えば……黄河の技術のほぼすべてが詰まった壁は【
つまり、長城が壊れた時、間違いなく【覇王】は
【覇王】が長城都市を攻めた時、【覇王】には多様な術を使いこなす【龍帝】の詳細な位置はわからない。
だが、攻めれば【龍帝】には【覇王】のおおまかな位置がわかってしまう。
実力が互角である以上、その差は非常に大きなハンデとなる。
つまりこの街一つを囮にした、【覇王】に打ち勝つための策である。
つまるところ、最初から捨て石となるために造られた都市である。
ゆえに、建設当初、都市機能はほとんどなかった。
どちらかと言えば職人たちの宿という側面が強い。
しかして、結果的にはそんなことにはならなかった。
【覇王】と【龍帝】との決着はつかず、そうなる前に【覇王】が【天神】、【地神】、【海神】の三人によって封印された。
つまり、防覇は本来の用途を果たせなかった。
だがしかし、その一方でなお防覇は黄河の最西端に残り続けた。
理由は二つある。
一つは、壊せないから。
もう一つは、壊してはいけないから。
壊せないというのは文字通りの意味。
【覇王】以外には壊せないだろうというコンセプトで造られた都市である。
ゆえに、そこらの戦闘系超級職の最終奥義でも一発程度なら耐えられる強度の壁が築かれているのである。
そんなもの、壊せるはずがない。
少なくとも六百年間の間壊れてもいないし劣化もほとんどない。
下手に壊すよりも都市として運用した方が効率がいい。
そう考えた、当時の皇帝によって交易都市としての開発がもくろまれ、壁の東側にあった最低限の町が拡張され、今の長城都市が造られた。
壊してはいけないというのも、単純である。
この都市はカルディナとの交易の要所でもあり、ここが破壊されてしまうと最大の商業国家との取引が滞ってしまう可能性が高い。
また、先述の通り強度が高い最大レベルの要塞でもあるゆえに、カルディナが攻めてきたとしても守りの要とすることができるから。
「ということなんだよねえ」
「そんな背景があったんですね」
「ははは、まあ基本的には攻略ウィキに上がっている情報だけどね」
「今日はこうしてお話しできてうれしいです」
「うんうん、私もこうして君と話せるのは楽しいよ」
(ストレス溜めこまれて決行前に
サンラクや目の前にいる彼女等、どうにも情報収集をまともにしないものが知り合いに多い。
それもあって、彼女は常にアンテナを張らなくてはならない。
これは彼らをサポートするためというわけでは断じてなく、単純に彼ら彼女らがあてにならないので自分がしっかりしなくてはダメだという判断である。
彼女の名前は、キリューという。
見た目は、ごく普通の女性である。
黒いパンツスーツを着て、眼鏡をかけた、黒髪をボブカットにした女性の<マスター>である。
爪に、紅いネイルーー
「そういえば、この都市において、計画を実行しようとする理由は何なんですか?」
「うーん、まあ結果色々あるけど、人が集まりやすい場所だってのが大きいかな」
「ああ、交易の要所ですもんね」
加えて、この都市には血なまぐさいことも多かった。
幸いにも人間同士の戦争には至っていないが、モンスターの襲撃は幾度となく受けている。
それも含めて、ペンシルゴンにとっては都合の良い環境でもあった。
「まあ、祭りは派手であればあるほどいいものだからね」
「なるほどですね」
彼女は、ペンシルゴンの計画をほとんど理解していない。
だが、彼女の場合は別にいい。
そもそも、彼女は手駒がすべてを把握している必要はないと思っている。
ペンシルゴンがゲームにおいて用いる関係はビジネスライクをベースとしたものが大半である。
それこそ目の前のキリューは、その一例である。
ペンシルゴンは彼女に対して、
最も、彼女には爆発している自覚はないのだろうが。
ふと、彼女は気配に気づいて振り返る。
そこには、狐耳を生やした剣士、京極がいた。
「おやおや、本当に間に合うなんてね」
「亜音速で動けばそんなもんだよ」
「あー、うちの配下は鈍足高耐久が多いんだよねえ。速度に特化させると【スピリット】になって結局乗れなくなるし」
「ああ確かに、アンデッドって素早いのはあんまりいないよね」
こつこつ、という音がしたので、ペンシルゴンと京極は話を中断して音の発生源に――ペンシルゴンと会話していた女性に目をやる。
「あのお、私は何をすればいいんですか?ペンシルゴンさん」
「ああうん、キリューさんは何もしなくていいよ。
「わかりました」
ふと、キリューは、京極に見つめられていることに気付いた。
「……?」
「あの、どうかされましたか?」
「いや、気のせいかもしれないんだけどさ、その鎧、色が変わってるような気がしてさ」
「鎧?何のことですか?」
「君の<エンブリオ>じゃないの?その鎧は」
「すみません、本当に何の話をされているんですか?」
「…………」
京極の《真偽判定》には反応がない。
《看破》に反応がないことから考えても、<エンブリオ>であることは間違いないというのに。
まだ決行する前から、彼女はこの計画に対して不安を感じていた。
しかし。
「まあ、僕がその分暴れればいいか」
そう考える精神だから、彼女はペンシルゴンに与したのだった。
To be continued