<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
これからまた更新していこうと思ってます。
【甲剥機甲 カースドプリズン】を起動。
五メートル程度の機械巨人が、超超音速で動き出そうとする。
だが、それをそのまま見過ごせる水流影ではない。
「《氷龍覇》」
再びの、奥義発動。
氷結によって、巨像が固められていく。
そして、そこに乗っている俺自身も凍結した。
凍結してしまえば、もう動かない。
そう、水流影は判断したのか。
動きが止まり、さらに魔法を展開して内部のサンラクにとどめを刺そうとして。
「ぐばあっ!」
<エンブリオ>の効果で、俺とさほど変わらない速度を維持していたはずだが、気が抜けたせいで対応できなかったのだろう。
自身の周囲に張り巡らしていたバリアと【功夫仙】としての耐久力で致命傷には至らなかったが、吹き飛ばされてウラシマの壁に激突する。
即座に、追撃を加え、殴り続ける。
物理耐久に特化したバリアは、超超音速機動のエネルギーを上乗せした攻撃によって破壊された。
「っ!」
が、奴もそのままではない。
アイテムボックスを砕きつつも、水を吹き出しながら高圧水流を連射する。
【凍結】状態において、脆くなっていた【カースドプリズン】は水流に耐えきれずに破断する。
だが、その中から一羽の鳥が、飛来する。
青い足場を踏みしめて、水流影の方に進撃する。
両手に握った武器を振るい、一気呵成に攻めたてる。
双剣で、籠手で、槍で、徐々に相手を削っていく。
水流影は、拳と【符】を使って応戦する。
だが、既に《回遊》の効果で速度が上昇している以上、サンラクが有利だ。
刃が、水流影の肉を裂き、拳が彼の内臓にダメージを蓄積していく。
五桁のENDであっても、サンラクの攻撃をすべて防げるわけではない。
「一体、どうやって、【凍結】を解いた?」
『さあてね、魔法の威力が低かったんじゃないの?』
少し、水流影が回顧しようとした隙を見計らって、
凍結を解除するすべがあったわけじゃない。
サンラクも、【プリズンブレイカー】も水流影の魔法によって【凍結】したままだ。
だが、サンラクには制限系状態異常による動作不能を無効化する《
これを、水流影は知らなかった。
そもそも、サンラクの<エンブリオ>についてはほとんど詳細がわかっていない。
比較的目立つ《
無理もない。
防具を犠牲に、AGIを引き上げる《風の如き脱装者》。
速度を載せて攻撃した際の、反動を消す《風除けの闘走者》。
戦闘時間に比例して速度を増す《回遊する蛇神》。
何よりも脆い足場を築く、《配水の陣》。
制限系状態異常による拘束から解放する《暴徒の血潮》。
手数を文字通り増やす《豊穣なる伝い手》。
そして必殺スキルである《風神乱舞》。
第六形態<エンブリオ>の中でも、ケツァルコアトルのスキル数はトップクラスに多く、また機動力を特性にしている以上規則性も見えにくい。
彼の手の内を全て知っているのは、解析に秀でた<エンブリオ>を持つとある<マスター>と、彼と取引して情報を仕入れたもう一人だけである。
だから、彼と今日この日まで関わってこなかった水流影には知る由すらなかった。
【功夫仙】の最終奥義、《雨滴穿孔》
功夫とは中国武術で重要視される「練習・鍛錬・訓練の蓄積」、また、それに掛けた「時間や労力」の意であるとされている。
その効果は、「レベルを消費する代わりに、ステータスを引き上げる」というもの。
今迄使ってきた、積み重ねてきた時間を全て消費するスキル。
その消費は、一秒につき一レベル。
雨だれが石を穿つように、積み重ねた時間が実を結ぶスキル。
AGIが一万を超えている彼にとっては、一秒は無限に近い。
最終奥義ゆえに、そのステータス上昇は膨大であり、サンラクをはるかに上回っている。
ならば、彼もまた切り札を切るしかない。
『《
彼の体が、風になる。
半透明の風と、青いオーラ。
両者は、ぶつかり合い、決着した。
「く、そ」
『相性悪かったな』
倒れているのは、【功夫仙】水流影。
立ったまま見下ろしているのは、サンラクだった。
両者が打ち合ったのは、一秒にも満たない時間。
だが、その間打ち合ったのは幾千に達する。
だが、水流影の攻撃は、ほとんどダメージを与えられていない。
サンラクの必殺スキルは、己を風と化すというもの。
そして、スキルを使っている間は風になっているゆえに
なので、肉弾戦においては、一方的にこちらが有利である。
また、水流影がよく使う水弾や氷結も、それぞれ必殺スキルと《暴徒の血潮》でほとんど無敵化される。
あるいは、もう少し時間を稼いでいれば、大魔法を放てたかもしれない。
だが、それは【符】を展開する暇すらない肉弾戦においては、不可能なことでもあった。
魔法職でありながら、近接特化のサンラクに接近戦を挑んだ時点で負けていた、ともいえるかもしれない。
近接戦闘と魔術戦の両方をこなせるジョブであるがゆえに、仕方がなかったともいえるが。
最も、物理方面のステータスも向上していたので、ただの物理的な殴り合いならばサンラクもまた水流影を突破できなかっただろう。
だが、彼には呪怨系状態異常を付与する【双狼牙剣 ロウファン】がある。
呪怨系状態異常や闇属性攻撃魔法は、海属性防御魔法では防げない。
ましてや、それが特典武具であればなおさらだ。
「まだ、だ!」
水流影は、スキルを発動して生きながらえようとする。
回復魔法でHPを回復して、水流操作の魔法で体を動かせばまだ戦える。
隙を作り、大魔法を叩き込む。
物理攻撃を無効化する必殺スキルは、もう使えない。
《看破》してみれば、サンラクは、HPもSPもほとんど残っていない。
一方、水流影のHPはまだ半分以上残っている。
サンラクが自身の右腕に装備したのは、手甲。
『Awaken』
音声と同時に、手甲が発光し、紅く赤い杭が出現する。
手甲とは、かけ離れた姿になったそれは、パイルバンカー。
先日サンラクが取得した特典武具、【冥鏡死錐 リボルブランタン】である。
【リボルブランタン】の特性はチャージ&ファイア。
そして特典武具のスキルもまた、同じこと。
『《
それは彼が受けてきたダメージを、スキルで無効化した分も含めて
チャージ量に応じて、耐性を無視する効果もある。
今迄の打撃が、魔法が、全てのダメージ分の毒が注ぎ込まれる。
「あーー」
溶けて、崩れて、光の塵になって消滅した。
『とはいえ、楽な相手じゃなかったな』
ドロドロに溶け落ちた【冥鏡死錐】を見て、呟く。
《紅赤突撃》を使った際、与えたダメージに比例して【冥鏡死錐】そのものにも反動が及ぶ。
最低限のセーフティとしてサンラク自身に被害が出ることはないが、おそらく数日は使用できないだろう。
必殺スキルや【救命のブローチ】などの使用が前提となるうえに、一度使えばどろどろに溶け落ちて、修復するのには一週間以上かかってしまうようだ。
『さて、行くか』
すでに、ウラシマは消滅し、サンラクも外に出ている。
空高くから、《配水の陣》を展開しつつ、ゆっくりと防覇を目指して降りていった。