<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
『うーん、結局どうなってるんだろうな?』
あの【符】人間は倒したけど、地面にいる配下が動いているはず。
《配水の陣》で駆け下りながら、視線を落として現状を把握しようとする。
『ふん、どうやら倒せたらしいな』
ペンシルゴンが放ったであろうと予想できるアンデッドの群れは、玲をはじめとした<マスター>によって粉砕されている。
なんというか、レトロゲーの無双ゲーを見ているようだった。
徐々にエネミーが減っているのを、神様視点から眺めていられる。
『レイは、いるな』
街全体を見渡して、超音速で動いているものは限られる。
その一つが、レイだ。
<エンブリオ>のスキルによって速度を上げながら、銃撃によってアンデッドを倒していく。
何体か、かなり大きい純竜クラスと思われるモンスターが混ざっており、それの対処に回っているようだった。
『うん?』
空から見て、防覇での脅威に対処している<マスター>はかなりの人数がいる。
いるのだが、その数が減っている。
加速度的に、人が減っている。
だというのに、減らしているものが誰なのか、俺の動体視力でも感知できない。
『何が、どうなっているんだ?』
答えるものは、いない。
□■防覇・避難所
話は、サンラクが水流影との戦闘を開始する前に遡る。
「うう、一体どうなっているんでしょう」
避難所の中で、一人の女性がつぶやいた。
彼女の手の甲には、虎の紋章があった。
彼女は<マスター>だった。
「ペンシルゴンさんとも連絡が取れませんし、デスぺナにはなってないし、ログインしているみたいなんですけど」
フレンド機能で、知り合いがまだいることを突き止める。
「せっかくですし、探しに行きましょうかね。といっても、見つける方法なんてないんですけど」
彼女は、索敵能力の類は有していない。
キリューのビルドは、ほとんどペンシルゴンの指示によるものだ。
すべては、彼女が戦力として活用するためだったが、キリューは知らない。
彼女は、自身の詳細を理解していない。
無理解こそが、キリューの本質であるがゆえに。
「おい、何なんだ!」
「はい?」
「鎧連れてふらふらと、それはあんたの<エンブリオ>だろ!」
「通行と避難誘導の邪魔なんだよ!」
「あ、はあ、すみません」
実際、知らなかったのだがキリューと彼女の傍にいる「鎧」は通行の邪魔になっていた。
とくに「鎧」をなぜかキリューだけが認識できないこともあって、「鎧」が露骨に避難誘導の道をふさいでしまっていた。
それこそ、焦る<マスター>やティアンにしてみれば、悪意を持っているようにも感じられてしまう。
まさか、「自分の<エンブリオ>を認識できないパーソナル」などとは普通考えないのだから。
「うん?」
「どうかしたのかよ?」
「いやこの鎧、ちょっと色が変わったような」
「気のせいだろ」
<マスター>の片方が、
「すみません、ちょっと友達を探していまして。進路を妨害する意図はなかったのですが」
「ん、ああそうだったのか。
その瞬間、爆炎が上がった。
テロリスト側の攻撃か、あるいは防衛しようとする者達の反撃によるものか。
それを判断するすべはキリュー達には存在しなかったし。
重要ではない。
こつん、と瓦礫の一つがキリューの頭部に命中した。
しかして、
プツン、と切れた音がした。
精神的なものではない。
物理的なものだ。
鎧にまとわりついていた鎖がちぎれるのを周囲にいた<マスター>は見た。
ー
【Form Shift-ーTiger Drive】
同時に、鎧はその形を変えていく。
何の変哲もない西洋鎧から、身の丈三メテルを超える大鎧に。
縞のような文様と、肉を引き裂くことに特化したような爪のついた手甲。
まるで、虎のような鎧だった。
「あ、あれ?」
「さっきの女どこに行った?」
しかして、彼女の姿を二人の<マスター>の前から消えていた。
「え?」
一人の<マスター>の首が、宙を待った。
「お、おいなんで」
そしてもう一人の<マスター>も胴体を吹き飛ばされてデスペナルティになる。
「ど、どこからだ!」
「上にいた<マスター>の攻撃か!」
<マスター>たちはざわつき始める。
テロリストたちによる攻撃なのではないかとその場にいた<マスター>たちが判断する。
間違ってはいない。
彼女は、ペンシルゴンによって用意された、最大戦力である。
幾千幾万の死者の軍勢と爆弾を操る【死将軍】アーサー・ペンシルゴンより。
黄河で幾度も準<超級>を破ってきた【功夫仙】水流影よりも。
キリューは、強いと彼女達に判断されている。
それは、かつて一度だけ、彼女が力を振るった結果が。
「え、あ」
「ぐぶっ」
その場にいた<マスター>たちは次々とデスペナルティになっていった。
どこかからわからない爪撃によって首を刎ねられ、胴体を分断され、頭部を潰される。
しかし、デスペナされた者達は、誰一人として理解していない。
どこの誰が、攻撃をしてきたのかを。
それも当然。
彼女こそは、都市一つ滅ぼした正体不明の指名手配犯。
都市にいた幾千幾万の住人を皆殺しにして、家屋を全てなぎ倒し、その場にいた誰にも正体を暴かれなかったもの。
彼女は、キリュー。
「
キリューが、我慢の限界を超えて、激発した状態。
周囲の脅威となる生物を皆殺しにしようと判断した姿。
アーサー・ペンシルゴンが、
・【地獄王】
短期間での大量虐殺を条件とした超級職。
近接戦を条件にちまちま殺さないといけなかった【殺人王】とは、また別のむずかしさがある。
ティアンでは、【覇王】か魔法系超級職くらいしか就ける人がいなかった模様。
・【■■■■ ■■■■■■■】
到達形態:Ⅵ
キリューの<エンブリオ>。
ペンシルゴンも、キリュー自身も、その詳細は誰も知らない。