<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
「ぐほおっ」
ダメージが限界に達したせいで、《卵尾徒子》が強制的に解除され、ミサイルが消える。
ミサイルが先ほどまで会ったところには、軽薄そうな男が現れる。
ガードナーとの融合スキルのように、ダメージが一定を超えると融合は解除される。
というより、【ゾンビ】がもう限界だった。
「これで終わり?」
「もうねえよ、切り札の必殺スキルももう使い切っちまった」
彼の必殺スキルである《
先ほどAGAUに奇襲された時のダメージを消すために使用した。
クールタイムが二十四時間なので、もうこの戦闘では使用できない。
あるいは、サポート用に貸し出されたアンデッドがこの状況を打開してくれる可能性も、ない。
なぜならば、エッグマンはもはや戦闘ができる状態ではないから。
まだHPは残っているが、もはや傷痍系状態異常によって、もう時間の問題だ。
『AGAU、なんとか操っていたアンデッドは倒したよ』
「ありがとう」
「……っ!」
エッグマンを操作していたのは、【ハイ・マリオネットレイス】という上位純竜級のアンデッド。
ペンシルゴンが有する配下の中でも特に強力な五体である、『五虎将』と呼ばれるうちの一体。
【死将軍】になる前に、パーティ枠五体を使って作り上げられたアンデッドであり、必殺スキルを除けば彼女にとって五本の指に入る切り札。
数多の素材をつぎ込み、超遠距離から【傀儡】の状態異常をかけて制圧するというシンプルな性能をしている。
加えて、《物理攻撃無効》でありAGIも超音速に迫る。
『五虎将』は一体一体が伝説級<UBM>に迫るか、あるいはそれ以上の戦闘力を有しており、そう簡単には負けるはずがない。
一介の<上級>が倒せる相手ではないはずだったが……。
『アンデッドの方がこいつよりよほど楽だよ。《聖別の銀光》があるからね』
「……っ!」
ソウケツの固有スキルである、《四神掌握》のストック。
王都にいた近衛騎士団団長のラングレイ・グランドリアから、《グランドクロス》、《聖騎士の加護》、《聖別の銀光》などの優秀な固有スキルをラーニングしていた。
場合によっては【天騎士】のスキルも使うつもりだったが、その必要もなかった。
余談だが、【大賢者】のスキルもラーニングしている。
が、そちらはコストが足りず、使用することができずにいる。
ラーニングしたスキルのコストはソウダカッツォがまかなう必要があるという、ソウケツの制限である。
「終わりだな……」
今度こそ、望みはついえた。
組んでいた相方も討ち取られ、彼自身ももはや長くはない。
HPはみるみる削れており、もうすぐに死ぬ。
【出血】のせいで、もう体も動かない。
「どこまでも、自由は遠いぜ」
「…………」
絞り出すように出てきた言葉は、嘆きだった。
最後まで、どうして自分はこうなのかと内心で自嘲する。
自由を求めてここまでやったのに、手に入れるどころか、手に入れ方もわからないままで。
現実でも、ゲームでも彼の願いはかなわない。
「自由って、私にはあまりわからないんだけどさ」
彼女のいた国は、自由の国。
だが、それは表向きであり、むしろ規制は厳しい。
権威主義であり、自身の意にそぐわないものは絶対に許さないというのが彼女のいる国の在り方だった。
例を挙げるならば、国を代表していたゲーム会社が<Infinite Dendrogram>を狙ってハッキングをしようとしたあげく、返り討ちに遭って倒産している。
「けど、何をもって自由とするかはその人が決めることだと思うけど?」
「――え?」
「誰だって、不自由な部分はあるよ。遊んで暮らしているなんて言われるようなプロゲーマーだって、実際は契約とかスポンサーの意向とか色々あるので」
「何の話だ?」
「ただ、私はゲームをできて楽しいって話かな。あと」
AGAUはにこりと笑って。
「それが私の自由ってことだよ」
「そうか……」
考えるまでもないことだった。
自由というのは、己がどうあるかを定めるもの。
ーー王になるのも奴隷になるのも、英雄になるのも魔王になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。
かつて、チュートリアルでエッグマンが言われた言葉であり、多くの<マスター>が与えられた言葉。
<マスター>は、自分の意志で自分がどうあるのかを選んで、決める。
デンドロを始めるのも、プレイするのも、今回のテロも。
すべては人に与えられた者であって、自分の意志ではないし、選択もしていない。
何を自由とするのかという定義が、彼の中にない。
宝が何か知らない状況で、宝探しをするようなものだ。
「そうだなあ、自分で見つけなきゃ、手に入らねえよなあ」
何を求めるか、何をもって自由とするか。
その答えを、自分の頭で、意志で決めなければならないらしい。
こんな当たり前のことになぜもっと早く気づけなかったのかと考え、自嘲した。
とっさに、AGAUは飛び退いた。
そして、蘇生可能時間すら終わって、エッグマンの体が消滅して。
ーーAGAUの右手首から先が消失した。
それこそは、【砲弾王】の最終奥義、《
自身を殺した相手に対して、削ったHPの分だけ、エッグマンに近い場所から固定ダメージを与える。
顔を近づけさせて頭部を消し飛ばすつもりだったらしい。
さすがは準<超級>。
最後まで油断ならないやつだと、彼女はため息をついた。
直後、彼女の【ブローチ】が砕けた。
「っ!」
まるで気づかなかった。
いつ、どこから攻撃を受けたのか。
『AGAU!……っ!』
そして、【ソウケツ】が半壊した。
まるで
中にいて、なおかつ体格が小さいソウダカッツォは無事だったが、既に戦力としては役に立たない。
『警告:脚部大破、腹部中破。カメラアイ下部二つ破損。戦闘能力七十パーセントダウン。戦闘行動に支障が出ています』
『わかってるよ!』
ソウケツからのアナウンスに、食い気味で返す。
【高位操縦士】をメインジョブに置き、<エンブリオ>の存在が前提のビルドであるソウダカッツォはもはや何もできない。
戦闘要員として、ここで退場せざるを得ないのは自明だった。
だが、まだできることはある。
「《ブーステッド・ストレングス》!《ブーステッド・エンデュランス》!」
【高位付与術師】のバフスキルを、AGAUにかける。
奥義での強化が残っていた彼女に、さらにソウダカッツォがつぎ込んだMPのほぼすべてを注ぎ込んだバフをかける。
「ありがとう!」
AGAUはシリウスの脚部噴射で飛び立った。
炎を噴き出しながら、襲撃者を追う。
姿も見えないのに、なぜ追えるのか。
痕跡が、あまりにも
「これは……」
<マスター>も、ティアンも、関係なく、ソレが通った場所の命は、蹂躙され尽くしていた。
爪が首を刎ね、内臓をばらまき、家屋を破壊した跡がある。
そしてそれが音より速く量産されている。
「逃がさないよ!」
流星もまた、音より速く追いすがる。