<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□■少し前
ルストが必殺スキルを習得したのは、彼女の<エンブリオ>が第四形態に進化した時だった。
月に一度だけ発動できるものであり、ヘパイストスの既存スキルの上位互換だ。
回数に制限がある代わり、より強力に、より自由にロボットを作ることが可能である。
第四形態での必殺スキル習得は早い方だが、これについてモルドはひとつの仮説を持っていた。
「<エンブリオ>は、<マスター>のパーソナルに応じて進化、変化する。今までにないスキルが生えたり、あるいは既存のスキルに新たな効果が追加されたりする。僕のオルトロスは前者だね」
「そうだね」
「でも、ルストは一貫して変わってない。やりたいことも、それを叶えるために必要な力も、ずっと変わらない。だから、必殺スキルと、下位互換になる初期スキルしかヘパイストスにはない」
作り、乗り、遊ぶ。
ルストの在り方と行動原理は、たったそれだけ。
<Infinite Dendrogram>を始める前から、彼女がゲームをする理由はただ一つ。
だから、彼女の<エンブリオ>も、たった一つの機能しか持たなかった。
必殺スキルを早く習得したのも、こうなる可能性がないのだと思っていたから。
ルストは、必殺スキルを行使して、オーダーメイドのロボットを作り、あるいは元々あったものを改修した。
それらはいずれも純竜級以上の性能を持っていた。
機体強化のスキルや、オルトロスの必殺スキルによるブーストも加えれば、伝説級<UBM>に届きうる。
しかし、モルドはそれのみでは満足しなかった。
彼の考えうる、最強のロボット。
それを作り出すには、ルストの必殺スキルでさえ足りないと感じていた。
そして、ある仮説を思いついた。
月に一度しか使えない必殺スキル。
それは、
複数回同じ機体に使用できるのではないかと、モルドは考えた。
同じ機体に複数回必殺スキルを使用しても、スペックはそれ以上上げられないのだ。
であれば、分割すればいい。
合計して六度の必殺スキルの使用によって生み出されたスーパーロボットとでも言うべき最終兵器。
一度で純竜級を上回る機体を生み出す必殺スキルを六度使用した機体。
そのスペックは、古代伝説級相当である。
「OOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
虎が吼える。
迷彩は不十分となっても、未だ竜王相当のステータスは健在。
STRは二万を超えており、超音速機動も可能。
回避も、防御も既存のマジンギアなどであれば不可能だ。
だが、【酷使無蒼】は、そんな常識を超えていく。
音より速く、虎よりは
しかして、攻撃がまるで当たっていない。
一つは、時折展開される《アダプテーションバリア》によるもの。
海属性防御魔法を展開する、それ自体は珍しい技術ではない。
珍しきは、防御の配分を変更出来ること。
今は物理防御ーーその中でも対斬撃に特化しており、それこそ攻撃力が十万以上なければ、斬撃による突破は困難である。
そして、もう一つは操縦者がルストだから。
追いつくことはともかく、追いすがる相手をさばくことなら、自分より速い相手でもさほど難しくはない。
ましてや、相手の動きは力任せで怒り任せの単調なものでしかないのだから。
そして、強力なのは防御だけではない。
『《コバルト・レーザー》、《ボルテージ・フィスト》』
『GA!』
サブアームから放たれる青い光条が、雷をまとった拳によるカウンターが、正確にキリューに命中する。
『AAAAAAAAAAAAAAAA』
「これは……」
赤い爪が、キリューの意に応えて飛来する。
それこそは、キリューが持つ伝説級特典武具、【延爪紅怒 レッドへリング】。
効果は、「自分の攻撃スキル、STRを乗せた爪を飛ばす」こと。
だが。
それすらも、ルストには通じない。
(爪の速度は、本人の速度に依存している。加えて、本人から十メートルくらいしか展開できない。これなら、レーザーと《アダプテーション・バリア》で対応できる)
超音速の三次元起動で迫りくる爪を、全てレーザーで焼き尽くす。
本人の攻撃は、バリアで防ぐ。
『OOOOOOOOOO!』
キリューは変わらない。
ただ前に進み、爪を振るうだけ。
それしか知らない。
抱えきれない怒りを、感情を、まき散らすことでしか彼女は生きられない。
ゆえに、もう一押し。
『《ブレイズ・ミサイル》』
胸部のミサイルサイロが開き、ミサイルが一斉に射出される。
そのすべてが、キリューに直撃。
装甲が砕け散る音がして。
両者の戦闘が、決着した。
『《
ーーかに思われた。
■???
怒りがまだ収まっていない。
かつてと同じだ。
厳しい家に生まれた。
正しくあれと教わった。
だから、そうあろうとした。
学校でも、家でも、正しく、優しくあろうとして。
ため込んだ感情が決壊した。
気が付けば、血まみれの爪と、血まみれの人がいた。
けれど、私は悪くない。
なぜなら、正しくあれと定義したから。
だから、私は変わらない。
ここでも、あちらでも、私は変わらず、曲がらず、正しさを振りかざす。
私は、何も間違ったことはしていない。
私が正しくないと示すもの、攻撃するものがあれば全て、総て、すべて。
消えてしまえばいい。
□■【酷死無蒼】内部
「これは、一体どういうことなの?」
コクピットの中で、ルストは言葉を漏らす。
光の塵が、ゆっくりとキリューの周りに集まっていた。
それだけならば、デスペナルティになっただけかと思ったが、様子がおかしい。
光の塵が、
光の塵がキリューを覆い、膨らんでいく。
「第二形態かな、まるでボスキャラだね」
「問題ない。多少性能が上がろうと、《アダプテーション・バリア》が」
【酷死無蒼】の左腕が
咄嗟、ルストはミサイルをばらまきながらブースターで空中へと逃れる。
火器の一つ一つが、純竜程度なら殺しうるほどの火力。
だがそれすらも。
「O」
すべて、消滅する。
爆発はしない。
炎すら上がらない。
ルストは、感覚で理解する。
先ほどの攻撃。
それと同じ原理で、消失したのだと。
虎がいた。
先ほどまでの、虎型の二足歩行の鎧ではない。
より大きく、より生物然として、四足歩行の巨大で強大な虎が、彼らの前にいた。
ランランと輝く、爪と牙をむき出しにして。
これこそが、キリューの最後の切り札。
アーサー・ペンシルゴンが命名した名は、
神話級相当の怪物である。
《終末の獣》。
他の必殺スキルと同様、<エンブリオ>の特性を最大限発揮したものである。
暴走と消失を特性とする、タイガポエットには、三つの段階がある。
一つ目は、初期形態。
鎖に拘束され、解放を待ち望み、リソースを貯めこむ形態。
二つ目は、鎧装形態。
怒りによって蓄積された怨念によって解放されたタイガポエットを身にまとい、隠蔽能力とステータスをもって攻撃する。
そして三つめは、最終形態。
タイガポエットの破損を条件として発動する必殺スキル、《終末の獣》。
第二形態より遥かに強力な性能を持ったガーディアン体に、キリューが融合する。
神話級相当の性能を持つが、肝心なのはステータスではない。
ステータスに任せて斬るだけだった先程までと違い、今の彼女の爪は、
それこそ、バリアや装甲など意味がない。
防御不可の攻撃が、AGI四万オーバーの獣から放たれる。
それゆえ、いくつかの欠点を有する。
第一に、この体はもうキリューの意識とは無関係に動く。
キリューの望みのような、怒りの対象を抹殺する力ではない。
無差別に、手当たり次第に周囲にあるものは敵味方生物非生物関係なくすべて焼失させる。
そして、この融合は
唯一の方法は、キリューがデスペナルティになることのみ。
融合スキルに備わっていて当然の、最低限の
まさに、虎になった人間。
李徴が人から、人の意識を持った虎になり、やがて心まで虎へと変ずる物語をモチーフとした<エンブリオ>。
人でありながら、人ならざる心へと変質したもののなれの果て。
それに対して。
「モルド」
「わかってるよ、ルスト。《紅苦死無双》」
『InformationーーStart up』
ルストとモルドが、最後の切り札を発動して。
◇
「退場した覚えも、譲るつもりもないよ。《
青い星が、狙いを定め。
◇
「《
黄色の機神が、瞳を閉じた。
To be continued.
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ここまでがっつりオリ<マスター>を書いたの初めてだったなあ。