<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
今後も、頑張っていきたいと思います。
作品をよりよくしていくため、ご意見等いただけると嬉しいです。
■管理AI四号作業領域
そこは、暗闇に青白く発光するウィンドウがある場所だった。
そこには、誰もいなかった。
ただし、何もいないわけではない。
そこでは確かに作業をしているモノがいた。
ソレは、一見すると眼鏡をかけた成人男性のようだった。
しかし皮膚はところどころ竜に似た鱗や、獣のような革に変化し、頭部には悪魔じみた角が生えている。
人に似たモンスターといった風情だったが、顔にかけている眼鏡によって、ギリギリ人間よりの印象になっていた。
ソレーー管理AI四号ジャバウォックは、とある<UBM>を映したウィンドウをじっと見つめている。
「……よもや、このような偶然が起きるとは」
それが見つめているウィンドウには、【霊骨狼狼 ロウファン】と銘を与えられたモンスターがいた。
ジャバウォックは、<UBM>を管理する管理AIである。
当然、ティアンによって【ロウファン】が幽閉されていることは知っていた。
しかし、「それもまた良し」とジャバウォックは放置していた。
もとより、数多の<UBM>がティアン最強格の怪物によって黄河の宝物庫に封印されている。
たかが<UBM>の一体や二体程度、封印されていたところで誤差の範疇。
そもそも、ジャバウォック自身が大量の<UBM>を投下せず封印しているのだから、なおさらだ。
むしろ、探知能力に秀でた<マスター>が見つけて討伐し、<超級>に至る足掛かりとなってくれるのではないかとさえ思っていた。
しかし、実際にはそうはならず、こうして初心者狩場といえる場所に出没している。
「……偶然とは、面白いものだな」
「他人事みたいに言わないでよー」
彼の背後に現れたのは、ジャバウォックの同僚である、管理AI十三号のチェシャ。
ジャバウォックに比べると、ずいぶんと可愛らしい見た目をしている。
仮にもし、彼のぬいぐるみが発売されれば、大ヒット間違いなしだろう。
……もっとも、そんなことなど、運営側である彼らは全く考えていないのだが。
「まったく。君と帽子屋は雑すぎるんだよー。今までの<UBM>、特に<イレギュラー>でどれだけ僕やドーマウスが苦労したと思ってるのー。もし今後、何かの間違いで<イレギュラー>が誕生したら、困るのは<マスター>の皆さんなんだからねー?」
「熟知している。で、本題は何だ、十三号」
「うーん。本題はクイーンからの伝言でねー。『あんな無意味なグソクムシを認定するくせに、私の改造モンスターを認定しないのはどういうつもりだ』って言ってたんだけどー」
「……その件は忘れてくれ」
己の黒歴史を追求され、ジャバウォックは珍しく冷や汗を流した。
「それよりさー。この<UBM>まずくないー。こんなに都市の近くにいたら、どれだけの被害が出るか」
「それならば、それでいいだろう」
「え?」
「試練を乗り越えてこそ、百の<超級>が揃う。ならばこれもまた、良き試練になるはずだ」
「…………」
チェシャは、反論ができない。
ジャバウォックは確かにおのれの仕事を果たしている以上、チェシャが割って入る隙はない。
また、トム・キャットとして動くことも、舞台がレジェンダリアである以上はできるはずがない。
加えて、「最悪【妖精女王】が何とかするだろう」という心算もチェシャにはあった。
「私は、そろそろ仕事に戻る」
「……じゃあ、僕も戻るよー」
そうして、この世界の
結末がどうなるかは、彼らにさえももわからない。
□【闘牛士】サンラク
『……なにこれ』
眼前に突如現れた【霊骨狼狼 ロウファン】というモンスターを前にして、サンラクはそれしか言えなかった。
サンラクの知る限り、今まで見た中で最も強いモンスターは、【メイル・ハイドラゴン】だった。
だが、それさえも目の前のモンスターは比較にならない。
根本的に、何かが、規格やジャンルが違う存在だと確信できる。
「UOOOOOOOOOOOOO!」
【メイル・ハイドラゴン】が【ロウファン】に向かって突進した。
もちろん【メイル・ハイドラゴン】もまた、【ロウファン】の強さを感覚的に察知していた。
わかっているからこそ、突撃を敢行した。
上位純竜の中では比較的AGIが低いため、逃げることは不可能だと判断した結果である。
当たれば、伝説級モンスターでさえただでは済まない突貫に対し、【ロウファン】は。
「WOOOOOOOOOOOOON!」
咆哮を以て、それに応えた。
それは、【ロウファン】の固有スキルの一つ、《狼王咆哮》。
【ロウファン】の叫び声を聞いたものを、【恐怖】の状態異常にするスキル。
アンデッドであることと、【霊骨狼狼 ロウファン】だったものが生前有していたスキルに由来する。
サンラクは、【恐怖】にかかり、満足に動けなくなった。
そして【メイル・ハイドラゴン】は。
「UOOOOOOOOO!」
かからなかった。
上位純竜の莫大なステータスゆえか。
あるいは【ロウファン】のスキルが、単体集中型ではなかったからか。
とにもかくにも、【メイル・ハイドラゴン】は、その勢いを落とさないまま突っ込み。
「UOOOOOOOOO!」
【ロウファン】を吹き飛ばし、その骨を砕いた。
体当たりによって狼の頭部の骨は粉々に砕け散り、吹き飛ばされながら地面を転がったことで肋骨や背骨にもひびが入っている。
また、踏ん張ったことで、手足の骨が胴体からもげていた。
単なる狼系モンスターであれば、三度は死んでいるだろう。
対する【メイル・ハイドラゴン】は無傷だ。
耐久特化の上位純竜であり、STRとENDは五桁に迫る。
加えて、ダメージ減算系にスキルまで有している。
カウンターとして、【ロウファン】も【メイル・ハイドラゴン】に噛みついたのだが、結果として傷一つつけられていない。
サンラクは、これはさすがに【メイル・ハイドラゴン】が勝っただろうと考えた。
首から先が砕け散り、他の部位も壊れている。
首のあたりからは、禍々しい瘴気が漏れ出ている。
先ほどまで、口内にもあったので当然ではあるだろうが。
これで勝敗は決したとサンラクは考えた。
【メイル・ハイドラゴン】もそれは同じ。
ゆえに、二人はこれからどうするかを考えていた。
--そして、それは【ロウファン】も同じだった。
「WOOOOOON」
【ロウファン】は、声を上げていた。
自身の
『……はあ?』
「UO?UO、OOO」
サンラクは、いつの間にか
【メイル・ハイドラゴン】は地に倒れ伏していた。
サンラクはレベルと、《看破》のスキルレベルが低いので知る由もないが、見る者が見れば気づいただろう。
【メイル・ハイドラゴン】が、いつの間にか【呪縛】と【吸命】の状態異常にかかっていることに。
「UO、UOO、UO」
そこからは一方的だった。
【ロウファン】は【メイル・ハイドラゴン】をひっくり返し、喉を食いちぎった。
一度では噛み切れなくても、何度も、体勢を整えたうえで噛みつけば、少しづつ傷がつき、最終的には動脈をちぎることができる。
本来なら、そんな悠長なことはできないはずだが、相手は完全に動けなくなっている。
寝首を掻くのは、たやすいことだ。
そうして、【メイル・ハイドラゴン】のHPが削れて、光の塵へと変わり。
変わった瞬間、サンラクが動いた。
動かずとも、《回遊する蛇神》はいまだ発動している。
《回遊》抜きでは、一瞬で追いつかれるのが確定であるため、戦うしかない。
サンラクは、覚悟を決めて、【ロウファン】に挑んだ。
◇
「WOOOON」
『くっそ……』
それから五分後、足を潰されたサンラクは【出血】によるスリップダメージで死ぬのを待つばかりとなっていた。
【恐怖】によるランダムな動きの強制停止。
加えて、わずかに作った傷さえもすぐに修復してしまう。
現時点のサンラクには、勝ち目がない。
『おい、クソわんこ、聞きやがれ』
現時点では。
『俺は強くなって、絶対にお前に勝つ』
だが、未来にもそれがいえるとは、断言できない。
それはサンラクとて同じこと。
エンドコンテンツといっても過言ではない<UBM>。
レベルを上げても、<エンブリオ>が進化しても、勝てる保証などどこにもない。
また、他のモンスターやティアン、<マスター>に倒されないという保証もどこにもない。
それでも。
『次、俺に会う時が、お前にとっての命日だ』
サンラクは宣言する。
--お前を必ず倒して見せる、と。
【ロウファン】は、サンラクを無言で見ていた。
そしてサンラクのHPが尽きて、光の塵に変わり始めた刹那。
「WO、WO、WO」
首を縦に振りながら、どこか満足げな声を上げた。
その声を聴いた直後、サンラクはデスペナルティになった。
□陽務楽郎
「あれ?」
いつの間にか、リアルに戻ってきていた。
HPがゼロになって、リスポーンしたのかと思ったが、違うらしい。
強制ログアウト?なんで?
「うーん、ハードのほうになんか問題があったかな?」
「あ、楽郎君。ログアウトしたんですね」
「あー、レイ。なんかちょっとハードに問題があるみたい、で」
俺はハードの側面にある、文字が見えてしまった。
【ペナルティ期間中です。あと二十三時間五十九分二秒】
……えーと。
【ペナルティ期間中です。あと二十三時間五十八分三十八秒】
…………いやいやいやいくらなんでも、何かの見間違いに決まって。
【ペナルティ期間中です。あと二十三時間五十八分五秒】
…………。
「玲、ちょっと出かけてくる」
「え?あ、はい、行ってらっしゃい」
「く」
「え?」
「く」
「あ、えーと気をつけてくださいね?」
そうして、玲に見送られて部屋を出て、マンションを出て。
「クソゲーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
俺は、歩道を全力疾走しながら叫んだ。
どうしようもなく、叫んだ。
おそらく周りの人間はぎょっとしたかもしれんが、知らん!
デスペナルティが二十四時間ログイン制限とか、クソゲーじゃねえかああああああああああああ!
To be continued
ちょっとストックがやばいので、次回は閑話、というか外伝入れます。